説明

エアナイフ塗布装置

【課題】長時間塗布してもエアナイフヘッド先端、及びその上流側へ設けた平板状部材への塗布液ミストの付着を防止し、均一な塗布面を得ることのできるエアナイフ塗布装置を提供する。
【解決手段】バッフル板と平板状部材間の距離a、平板状部材とエアナイフヘッド間の距離b、バッフル板とバックアップロール間の距離c、及びバックアップロールに接する前のウェブとミスト除去ボックス間の距離d、が下記式1、2を同時に満たす関係にあるエアナイフ塗布装置。
式1)(a+b)>c≧d ただし、a>bである
式2)(a+b)/(a+b+d)<0.7

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗布液を支持体(以下「ウェブ」と称す)に塗布する塗布装置に関し、特に、連続的に走行するウェブに塗布液を塗布した後、エアナイフによる計量を行う塗布装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
連続的に走行するウェブに塗布を行う塗布装置には、様々な形式のものがあるが、比較的低粘度の塗布液を少ない塗布量で塗布するのに好適な塗布としてエアナイフ塗布装置がある。
【0003】
エアナイフ塗布装置は、連続的に走行するウェブの表面に塗布液を供給し、エアナイフヘッド先端から空気等の気体を吹き出し、ブレードのような気体流により、ウェブ上の余剰の塗布液を除去し、もって所定の塗布量に設定するもので、接触型の塗布方式と比較してエアナイフによる剪断力が小さいため、ウェブの表面の凹凸に沿って比較的均一な塗布層を有するものに適しているとされている。
【0004】
エアナイフヘッドから吹き出された気体によって掻き取られた塗布液は、液状あるいはミスト状になり、液状の塗布液は自重による自然落下で落下した後に回収され、ミスト状の塗布液はエアナイフヘッド周辺を浮遊し、場合によってはエアナイフヘッド先端に付着するため、塗布ムラあるいは筋等の塗布欠陥が発生する。
【0005】
このような欠陥を防止するため、その防止策として、ミスト除去ボックスを設けることが知られている。例えば、特開平7−35478号公報(特許文献1)では、走行するウェブの上流側及び下流側に吸気ダクトをエアナイフと並行して設けた装置が開示されている。
【0006】
しかし、塗布速度の増大によるミスト処理量の増加に伴い、エアナイフヘッド先端にミストが付着しやすくなり、ミスト除去能力の増加が必要となるが、ブロアーを大きくし過ぎると回収液まで吸引し、回収液の歩留まりの低下やブロアー装置の故障を招く恐れがあった。その防止策として、平板状部材を設けることが知られている。例えば、特開2002−248407号公報(特許文献2)では、エアナイフヘッドの上流側に、塗布幅のほぼ全域に平板状部材を近接対向させて浮遊ミストがエアナイフヘッド先端に付着することを抑止する装置が開示されている。
【0007】
図4は、従来のエアナイフ塗布装置のエアナイフヘッド周辺の概略側面図である。ミスト除去ボックス4は、バックアップロール2の入側からエアナイフヘッド1の下方部分まで覆うカバー12とミスト除去ボックス天板8を取り付け、そのカバー12の側面にブロアー側へ吸引されるミスト除去口4aと床面に余剰液回収口4bが設けられている。ミスト除去ボックス4は、ミスト除去口4aより吸引されるため、外部よりマイナス気圧になっている。そしてミスト除去ボックス4のミスト除去ボックス天板8上部に平板状部材3が取り付けられている。
【0008】
図5は従来のエアナイフ塗布装置における長時間塗布後のミストの付着と空気の流れを示す概略図である。上記のように浮遊ミストがエアナイフヘッド1先端に付着することを抑止するために平板状部材3を取り付けているが、長時間連続塗布するにつれて、図中に示すように、エアナイフヘッド1と平板状部材3の間から流入する(図中矢印の方向へ流れる)空気により、平板状部材3の先端部において空気の回り込みが生じ、平板状部材3へミストが付着することでミスト付着溜まり13が形成され、これが原因で塗布ムラや筋等の塗布欠陥が発生する場合があり改善が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平7−35478号公報
【特許文献2】特開2002−248407号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記問題点を解消し、エアブロアの能力を必要以上に増加せずとも、長時間塗布してもエアナイフヘッド先端、及びその上流側へ設けた平板状部材先端への塗布液ミストの付着を防止し、均一な塗布面を得ることのできるエアナイフ塗布装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の上記課題は以下の発明により解決された。
連続的に走行するウェブに、塗布液供給装置により塗布液を供給し、所定の塗布幅で塗布した後、エアナイフヘッドから吹き出す気体流で余剰の塗布液を掻き落として塗布量を決定するエアナイフ塗布装置において、該塗布装置はエアナイフヘッドと該エアナイフヘッドに対向するバックアップロールを有し、更に該エアナイフヘッドよりも上流側に、該エアナイフヘッドに近接対向し塗布幅の全域に対向する平板状部材、該平板状部材に近接対向し塗布幅の全域に対向するバッフル板、およびエアナイフヘッドで塗布液を掻き落とした際に生じるミストを回収するミスト除去ボックスが少なくともこの順に設けられた塗布装置であって、バッフル板と平板状部材間の距離a、平板状部材とエアナイフヘッド間の距離b、バッフル板とバックアップロール間の距離c、及びバックアップロールに接する前のウェブとミスト除去ボックス間の距離d、が下記式1、2を同時に満たす関係にあるエアナイフ塗布装置。
式1)(a+b)>c≧d ただし、a>bである
式2)(a+b)/(a+b+d)<0.7
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、エアブロアの能力を必要以上に増加せずとも、長時間塗布してもエアナイフヘッド先端、及びその上流側へ設けた平板状部材先端への塗布液ミストの付着を防止し、均一な塗布面を得ることのできるエアナイフ塗布装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明のエアナイフ塗布装置の一実施態様を示す概略側面図である。
【図2】本発明のエアナイフ塗布装置における長時間塗布後のミストの付着と空気の流れを示す概略図である。
【図3】本発明のエアナイフ塗布装置における長時間塗布後のミストの付着と空気の流れを示す概略図である。
【図4】従来のエアナイフ塗布装置のエアナイフヘッド周辺の概略側面図である。
【図5】従来のエアナイフ塗布装置における長時間塗布後のミストの付着と空気の流れを示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下図面を参照しながら本発明にかかるエアナイフ塗布装置の実施の形態について説明する。図1は、本発明のエアナイフ塗布装置の一実施態様を示す概略側面図である。バックアップロール2に接して図中矢印方向に連続的に走行するウェブ6には、ウェブ6に同伴する気体を気体遮断装置7で遮断した後、塗布液供給装置5からウェブ6に図示しない塗布液が供給され、エアナイフヘッド1で塗布液の計量が行われ塗布層が形成される。本発明のエアナイフ塗布装置はエアナイフヘッド1のウェブ走行方向上流側には、エアナイフヘッド1の先端にミストの付着を抑制するため、エアナイフヘッド1に近接対向し塗布幅の全域に対向する平板状部材3を設置し、平板状部材3の上流側には、外部より流入する空気を整流させるため該平版状部材3に近接対向し塗布幅の全域に対向するバッフル板9を設置し、さらにその上流側にエアナイフヘッド1で塗布液を掻き落とした際に生じるミストを回収するミスト除去ボックス4が配置されている。ミスト除去ボックス4は、ミスト除去口4aより空気とミストを吸引するため、ミスト除去ボックス4内部は外部よりマイナス気圧になる。ミスト除去口4aからの吸引量は、塗布速度、塗布量、塗布幅等に応じて適宜決定される。
【0015】
本発明のエアナイフ塗布装置はエアナイフヘッド1の上流側に設けられた塗布液供給装置5により塗布された塗布液をエアナイフヘッド1から吹き出される空気で掻き落とし、塗布量を調整する。エアナイフヘッド1の風量は、掻き落とし量、塗布速度、ウェブ6からエアナイフヘッドの先端部までの距離等の諸条件により決定される。掻き落とされた塗布液の内、液体は、ミスト除去ボックス4の床面に落下し余剰液回収口4bより回収される。一方ミスト状気体は、エアナイフヘッド1周辺を浮遊し、ミスト除去口4aから吸引され除去される。
【0016】
本発明のエアナイフ塗布装置ではエアナイフヘッド1よりも上流側に設けられた平板状部材3によって浮遊ミストがエアナイフヘッド1の先端に付着することを抑制するが、連続塗布するにつれて浮遊するミストは増加し、平板状部材3の先端部付近に付着し、塗布筋などの塗布欠陥が発生する。そのため、平板状部材3の先端部付近の空気を整流させる必要があり、平板状部材3に近接対向し塗布幅の全域に対向するバッフル板9を平板状部材3の上流側に設けた。
【0017】
図2は本発明のエアナイフ塗布装置における長時間塗布後のミストの付着と空気の流れを示す概略図である。図2に示すバッフル板9と平板状部材3間の距離a、平板状部材3とエアナイフヘッド1間の距離b、バッフル板9とバックアップロール2間の距離c、バックアップロール2に接する前のウェブ6とミスト除去ボックス4間の距離dはミスト量、エアナイフ1の吹き出し量、ミスト除去ボックス4の吸引量により決定される。本発明のエアナイフ塗布装置では上記a、b、c、dを以下式1、2を同時に満たすように取り付ける。
式1)(a+b)>c≧d ただし、a>bである
式2)(a+b)/(a+b+d)<0.7
なお、上記距離a、b、c、dはそれぞれの部材間の最接近部での距離を表す。
【0018】
バッフル板9は、平板状部材3の上流側の近接対向する位置に配置することによって、バッフル板9と平板状部材3との間に距離aを有する隙間が形成される。図3に示すように、ミスト除去ボックス4内をミスト除去口4aから吸引することでマイナス気圧にすることで、上記した距離a、b、dを有する隙間に外部から空気が流入し、エアナイフヘッド1の先端部にミストが付着することを防止すると考えられる。その際、バッフル板9とバックアップロール2間の距離cを、バッフル板9と平板状部材3間の距離aと平板状部材3とエアナイフヘッド1間の距離bの合計より小さくすることで流入する空気の風速が増し、ミスト除去ボックス4の充分内側まで整流を形成することによって、平板状部材3付近での空気の滞留が減少し、浮遊ミストがエアナイフヘッド1先端および平板状部材3先端に付着することを改善することができる。また、外部から空気が流入する全ての隙間の距離(a+b+d)に対して、下流側のバッフル板9と平板状部材3間の距離aと平板状部材3とエアナイフヘッド1間の距離bの合計(a+b)の割合が大きいと、ミスト除去ボックス4内に流入する空気の風速が弱く充分内側まで整流を形成できない。上記割合を0.7よりも小さくすることで浮遊ミストがエアナイフヘッド1先端および平板状部材3先端に付着することを改善することができる。さらに、ミスト除去ボックス天板8先端とウェブ6間の距離e(ミスト除去ボックス天板8先端と先端からの延長線上にあるウェブ6までの距離)は、バッフル板9とバックアップロール2間の距離cより広くすることが好ましく、これにより、液状の塗布液の自重による自然落下が原因となるミスト除去ボックス天板8上での液溜まりや液はねを防ぐことができる。
【0019】
バッフル板9と平板状部材3間の距離aは、10〜40mmが好ましく、より好ましくは15〜25mmである。平板状部材3とエアナイフヘッド1間の距離bは、10mm以下が好ましく、より好ましくは、3〜8mmである。バッフル板9とバックアップロール2の間の距離cは、10〜25mmが好ましく、より好ましくは10〜20mmである。さらに、バックアップロール2に接する前のウェブ6とミスト除去ボックス4間の距離dは、50mm以下が好ましく、より好ましくは10〜20mmである。
【0020】
以下、本発明の効果を明確にするために実施例を挙げる。ただし、本発明は以下に述べる実施例により限定されるものではない。
【実施例】
【0021】
本実験において用いたエアナイフ塗布装置は、図1に示すエアナイフ塗布装置であり、厚み5mmでステンレス製の平板状部材3をエアナイフヘッド1からの距離bが5mmとなるよう取り付けた。バッフル板9の設置位置はバッフル板9と平板状部材3間の距離aが20mm、バッフル板9とバックアップロール2間の距離cが15mm、バックアップロール2に接する前のウェブ6とミスト除去ボックス4間の距離dが15mm、ミスト除去ボックス天板とウェブ間の距離eは20mmとし、バッフル板9は厚み5mm、材質はテフロン(登録商標)製のものを用いた。比較のエアナイフ塗布装置として、前記実施例とb・c・dは同じでaを40mmとしたもの(比較1)、前記実施例とa・b・cは同じでdを30mmとしたもの(比較2)、前記実施例とa・b・dは同じでcが25mmとしたもの(比較3)、平板状部材3のみを取り付けバッフル板を取り付けていないもの(比較4)を用いた。
【0022】
ウェブは厚み100μmのPETフィルムを用い、1質量%のポリビニルアルコールからなる塗布液(青色染料を添加して着色)を塗布し、エアナイフで吹き落とした後の塗布量が20ml/mになるようにエアナイフヘッド3から吹き出される空気流の風圧を調整した。塗布速度は、100、150m/分と変化させた。
【0023】
効果の確認は、塗布を開始してから2時間および12時間経過した後の筋の発生状況を目視にて調べた。
【0024】
【表1】

【0025】
上記結果より、本発明にかかるエアナイフ塗布装置では、長時間塗布後においても、塗布速度100、150m/分とも筋が発生しなかった。しかし、バッフル板のない従来型のエアナイフ塗布装置(比較4)では、塗布速度100m/分でも長時間塗布後では筋を発生させ、本発明の距離a〜dの関係を満たさないエアナイフ塗布装置(比較1〜3)では、浮遊するミスト量の多くなる塗布速度150m/分において長時間塗布時に筋を発生させた。比較1は流入する空気量は多いが開口部が大きいために風速が弱く、比較2では上流側より同伴する空気量が多くミスト除去ボックス4の内側まで空気の整流を形成できず、比較3では装置内部での風速が不充分であったため、浮遊ミストの増加を招いたためと推測される。
【0026】
また、図示した平板状部材3、及びバッフル板9の厚み、材質、形状等はあくまでも例示であり、これらの条件に限られたものではなく、適宜設計変更可能である。また、本発明におけるウェブとは、紙、プラスチックフィルム、レジンコーティッド紙、合成紙等が含まれる。
【符号の説明】
【0027】
1 エアナイフヘッド
2 バックアップロール
3 平板状部材
4 ミスト除去ボックス
4a ミスト除去口
4b 余剰液回収口
5 塗布液供給装置
6 ウェブ
7 空気遮断装置
8 ミスト除去ボックス天板
9 バッフル板
10 コーティングロール
11 ガイドロール
12 カバー
13 ミスト付着溜まり
a バッフル板と平板状部材間の距離
b 平板状部材とエアナイフヘッド間の距離
c バッフル板とバックアップロール間の距離
d バックアップロールに接する前のウェブとミスト除去ボックス間の距離
e ミスト除去ボックス天板とウェブ間の距離

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続的に走行するウェブに、塗布液供給装置により塗布液を供給し、所定の塗布幅で塗布した後、エアナイフヘッドから吹き出す気体流で余剰の塗布液を掻き落として塗布量を決定するエアナイフ塗布装置において、該塗布装置はエアナイフヘッドと該エアナイフヘッドに対向するバックアップロールを有し、更に該エアナイフヘッドよりも上流側に、該エアナイフヘッドに近接対向し塗布幅の全域に対向する平板状部材、該平板状部材に近接対向し塗布幅の全域に対向するバッフル板、およびエアナイフヘッドで塗布液を掻き落とした際に生じるミストを回収するミスト除去ボックスが少なくともこの順に設けられた塗布装置であって、バッフル板と平板状部材間の距離a、平板状部材とエアナイフヘッド間の距離b、バッフル板とバックアップロール間の距離c、及びバックアップロールに接する前のウェブとミスト除去ボックス間の距離d、が下記式1、2を同時に満たす関係にあるエアナイフ塗布装置。
式1)(a+b)>c≧d ただし、a>bである
式2)(a+b)/(a+b+d)<0.7

【図1】
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【図4】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−170885(P2012−170885A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−35346(P2011−35346)
【出願日】平成23年2月22日(2011.2.22)
【出願人】(000005980)三菱製紙株式会社 (1,550)
【Fターム(参考)】