説明

エアバイパスバルブ

【課題】コンプレッサ作動音を消音できるエアバイパスバルブを提供する。
【解決手段】ターボ車両は吸気コンプレッサ3の吸気下流側の吸気通路4が異常圧力に達するのを防ぐ手段として、常閉型のエアバイパスバルブ1を搭載している。このエアバイパスバルブ1は、吸気コンプレッサ3の吸気下流側の吸気通路4に連通する下流側連通管5を備えている。下流側連通管5の長さ寸法をL1、下流側連通管5の内径寸法をL2、L1+(L2×0.8)を補正連通管長とした場合、補正連通管長を2.1cm〜3.9cmに設ける。「吸気通路4内の昇圧を回避するためにエアバイパスが一時的に開いている時」を除く他の全ての運転領域において、エアバイパスバルブ1の下流側連通管5がコンプレッサ作動音を消音する。これにより、消音専用レゾネータを廃止したり、消音専用レゾネータの数を減らすことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸気コンプレッサをバイパスするバイパス路の開閉を行なうエアバイパスバルブに関する。
【背景技術】
【0002】
ターボチャージャは、排気ガスの排気エネルギーによって排気タービンを回転駆動し、排気タービンの回転によって吸気コンプレッサを駆動するものであり、吸気コンプレッサによって加圧された吸気をエンジンに供給するものである。
吸気コンプレッサの作動に伴い、吸気コンプレッサの吸気下流側の吸気通路内には、図3の実線Aに示すように、吸気コンプレッサの作動の影響によるコンプレッサ作動音(ピーク音)が発生する。
このコンプレッサ作動音は、車両メーカや車種が異なっても、ほぼ2kHz〜3kHzの範囲においてピーク音として発生することが知られている。
【0003】
吸気通路内で生じたコンプレッサ作動音は、吸気通路を成す吸気ダクト等を介して外部に伝わる。このため、コンプレッサ作動音の消音が求められる。
コンプレッサ作動音の消音技術として、吸気コンプレッサの吸気下流側に接続される吸気ダクト、あるいは吸気コンプレッサのハウジング(吸気通路の一部として機能する部分)の壁部に、消音専用レゾネータ(多孔レゾネータやサイドブランチ等)を設けるものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
しかし、消音対象となる周波数は、2kHz〜3kHzの範囲であるため、消音専用レゾネータに必要とされる容積が大きく、消音専用レゾネータの外形が大型化する。
その結果、消音専用レゾネータが設けられる吸気ダクトや吸気コンプレッサのハウジングが大型化し、車両に対する搭載性が悪化する。
また、消音専用レゾネータを吸気ダクトや吸気コンプレッサのハウジングに設けることにより、エンジンルーム内が狭くなる。このため、エンジンルーム内に搭載される他の機能部品の搭載性が悪化するとともに、エンジンルーム内の整備性が悪化する等の不具合が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】欧州特許出願公開第1548701号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的はコンプレッサ作動音を消音することのできるエアバイパスバルブの提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
エアバイパスバルブは、吸気コンプレッサの吸気下流側の吸気通路に連通する下流側連通管を備える。
そして、
下流側連通管の長さ寸法をL1、
下流側連通管の内径寸法をL2、
L1+(L2×0.8)を補正連通管長とした場合、
補正連通管長を2.1cm〜3.9cmに設けるものである。
【0008】
これにより、エアバイパスバルブが閉じられた下流側連通管は、共鳴周波数が2kHz〜3kHzのレゾネータ(共鳴管)として機能する。
このため、エアバイパスバルブが閉じられた下流側連通管は、吸気コンプレッサの吸気下流側の吸気通路内に生じる2kHz〜3kHzのコンプレッサ作動音を共鳴により消音させることができる。
【0009】
エアバイパスバルブは、元々ターボ車両に搭載される機能部品であるため、車両搭載性が悪化しない。即ち、本発明を適用することにより、車両搭載性の悪化を招くことなくコンプレッサ作動音を消音させることができる。
【0010】
また、エアバイパスバルブの下流側連通管を用いてコンプレッサ作動音を消音させるため、消音専用レゾネータを廃止したり、消音専用レゾネータの数を減らすことができる。これにより、エンジンルーム内が消音専用レゾネータによって狭くなる不具合を緩和することが可能になる。
あるいは、「消音専用レゾネータ」+「本発明のエアバイパスバルブ」の組み合わせにより、コンプレッサ作動音をさらに小さくすることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】エアバイパスバルブが設けられる吸気通路の概略図である。
【図2】補正連通管長と共鳴周波数との関係を示すグラフである。
【図3】吸気通路に生じる音の周波数特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図面を参照して[発明を実施するための形態]を説明する。
エアバイパスバルブ1は、ターボチャージャ2の吸気コンプレッサ3のバイパスを行なうバイパス路の開閉を行なうものであり、吸気コンプレッサ3の吸気下流側の吸気通路4に連通する下流側連通管5を備える。
そして、発明の実施形態におけるエアバイパスバルブ1は、
下流側連通管5の長さ寸法をL1、
下流側連通管5の内径寸法をL2、
L1+(L2×0.8)を補正連通管長とした場合、
補正連通管長を2.1cm〜3.9cmに設けるものである。
即ち、2.1cm≦補正連通管長≦3.9cmの関係に設けるものでる。
【実施例】
【0013】
以下において本発明が適用された具体的な一例(実施例)を、図面を参照して説明する。実施例は具体的な一例を開示するものであって、本発明が実施例に限定されないことは言うまでもない。
なお、以下の実施例において上記[発明を実施するための形態]と同一符号は、同一機能物を示すものである。
【0014】
ターボチャージャ2は、車両走行用のエンジン(燃料の燃焼により回転動力を発生する内燃機関:ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン等を問わない、レシプロエンジン、ロータリーエンジン等を問わない)に搭載される。
また、エンジンは、吸気をエンジン気筒内に導く吸気通路4と、気筒内で発生した排気ガスを大気中に排出する排気通路とを備える。
【0015】
ターボチャージャ2は、排気ガスの排気エネルギーによって排気タービン6を回転駆動し、排気タービン6の回転によって吸気コンプレッサ3を駆動するものであり、吸気コンプレッサ3によって加圧された吸気をエンジンに供給するものである。
吸気通路4の途中には、吸気上流側から吸気下流側へ向かって、エンジンに吸い込まれる吸気中に含まれる塵や埃を除去するエアクリーナ7、ターボチャージャ2の吸気コンプレッサ3、この吸気コンプレッサ3によって圧縮されて高圧になり温度上昇した吸気を強制冷却するインタークーラ、気筒内に吸引される吸気量の調整を行なうスロットルバルブなどが設けられている。
即ち、吸気コンプレッサ3は、スロットルバルブより吸気上流側の吸気通路4に設けられるものである。
なお、インタークーラは、スロットルバルブの吸気下流側に設けられるものであっても良いし、あるいはインタークーラを搭載しないものであっても良い。また、吸気量の調整をスロットルバルブ以外が行なう場合であっても良い。
【0016】
ここで、ターボ車両(ターボチャージャ2を搭載する車両)では、吸気コンプレッサ3の作動により吸気の過給が行なわれている運転途中で、アクセルペダルが離される等の理由によりスロットルバルブが急激に閉じられると、吸気コンプレッサ3の作動継続によって吸気コンプレッサ3の吸気下流側の吸気通路4内の圧力が急激に上昇する。
【0017】
このため、ターボ車両は、吸気コンプレッサ3の吸気下流側の吸気通路4内が異常圧力に達するのを防ぐ手段として、エアバイパスバルブ1を搭載している。
このエアバイパスバルブ1は、吸気コンプレッサ3のバイパス(迂回)を行なうバイパス路の開閉を行なう開閉弁である。
【0018】
エアバイパスバルブ1は、基本構成が周知な常閉バルブであり、
・バイパス路の開閉を行なう弁体8と、
・この弁体8を閉じる方向へ付勢するリターンスプリングと、
・電気的な指示により弁体8を開く方向へ駆動する電動アクチュエータと、
・吸気コンプレッサ3の吸気上流側の吸気通路4に連通する上流側連通管9(弁体8より吸気上流側のバイパス路)と、
・吸気コンプレッサ3の吸気下流側の吸気通路4に連通する下流側連通管5(弁体8より吸気下流側のバイパス路)と、
を備える。
【0019】
電動アクチュエータは、ECU(エンジン・コントロール・ユニットの略)により作動制御されるものであり、通電により生じる磁力により作動する電磁アクチュエータであっても良いし、電気的な指示により作動する負圧アクチュエータであっても良いし、電動モータを利用した回転アクチュエータであっても良い。
【0020】
また、ECUによるエアバイパスバルブ1の作動制御は周知なものであり、上述したように、吸気コンプレッサ3の吸気下流側の吸気通路4内の圧力が異常圧力に達するのを防ぐために、ECUがエアバイパスバルブ1を開弁制御するものである。
具体的な一例を示すと、ECUは、吸気コンプレッサ3の吸気下流側の圧力センサによって検出される過給圧が予め設定した圧力値に達した際にエアバイパスバルブ1を開弁させるものである。あるいは、ECUは、圧力センサを用いなくても、予め設定した運転条件が成立した際(例えば、吸気コンプレッサ3が作動し、且つスロットルバルブが急激に閉じられる運転状態)にエアバイパスバルブ1を開弁させるものである。
【0021】
ここで、ターボ車両では、車両メーカや車種が異なっても、吸気コンプレッサ3の吸気下流側の吸気通路4内に、2kHz〜3kHzの範囲をピークとするコンプレッサ作動音が発生することが知られている(図3の実線A参照)。
そこで、この実施例では、エアバイパスバルブ1の下流側連通管5を、コンプレッサ作動音の消音を行なうレゾネータとして機能するように設けている。
【0022】
下流側連通管5を具体的に説明する。
下流側連通管5は、
(i)吸気コンプレッサ3の吸気下流側に接続される吸気ダクト(吸気コンプレッサ3とは独立したダクト部材)と一体に設けられるものであっても良いし、
(ii)吸気コンプレッサ3のハウジング(吸気通路4の一部として機能する部分)と一体に設けられるものであっても良いし、
(iii)「吸気ダクト」および「吸気コンプレッサ3のハウジング」とは独立した部材(例えば、エアバイパスバルブ1のハウジング等)によって設けられるものであっても良い。
【0023】
下流側連通管5は、その内壁が略円筒形状を呈するものである。
そして、
下流側連通管5の長さ寸法をL1、
下流側連通管5の内径寸法をL2、
L1+(L2×0.8)で求められるものを補正連通管長とする。
【0024】
一端を閉じた下流側連通管5の補正連通管長を変化させた場合における下流側連通管5の共鳴周波数の変化を図2の実線Bに示す。
この図2に示すように、補正連通管長が2.1cm〜3.9cmの範囲では、下流側連通管5において2kHz〜3kHzの共鳴を得ることができ、共鳴周波数の近傍の音響エネルギーを下流側連通管5の共鳴により喪失させることができる。
そこで、この実施例では、2kHz〜3kHzの範囲で発生するコンプレッサ作動音を下流側連通管5で消音するべく、補正連通管長を2.1cm〜3.9cmに設けている。即ち、この実施例では、「2.1cm≦補正連通管長≦3.9cm」の関係に設けられるものである。
【0025】
(実施例1の効果)
この実施例のエアバイパスバルブ1の下流側連通管5は、補正連通管長が2.1cm〜3.9cmに設けられるため、エアバイパスバルブ1が閉じた状態において下流側連通管5が、共鳴周波数が2kHz〜3kHzのレゾネータ(共鳴管)として機能する。
即ち、「吸気通路4内の昇圧を回避するためにエアバイパスが一時的に開いている時」を除く他の全ての運転領域において、下流側連通管5がコンプレッサ作動音を消音する。
【0026】
具体例を図3を参照して説明する。図3の実線Aに示すように、本実施例を用いない場合で、吸気通路4内に約2kHzをピークとするコンプレッサ作動音が発生する場合は、補正連通管長を3.9cmに設け、下流側連通管5の共鳴周波数を2kHzに設定する。
これにより、2kHz前後の音波エネルギーを下流側連通管5の共鳴により喪失させることができ、図3の破線Cに示すように、吸気通路4内に生じるコンプレッサ作動音を消音することができる。
【0027】
エアバイパスバルブ1は、元々ターボ車両に搭載される機能部品であるため、車両搭載性が悪化しない。即ち、本発明を適用することにより、車両搭載性の悪化を招くことなくコンプレッサ作動音を消音させることができる。
【0028】
また、エアバイパスバルブ1を用いてコンプレッサ作動音を消音させるため、消音専用レゾネータを廃止したり、消音専用レゾネータの数を減らすことができる。これにより、エンジンルーム内が消音専用レゾネータによって狭くなる不具合を緩和することが可能になる。
あるいは、消音専用レゾネータと、この実施例のエアバイパスバルブ1とを組み合わせることにより、コンプレッサ作動音をさらに小さくすることが可能になる。
【符号の説明】
【0029】
1 エアバイパスバルブ
2 ターボチャージャ
3 吸気コンプレッサ
4 吸気通路
5 下流側連通管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ターボチャージャ(2)の吸気コンプレッサ(3)のバイパスを行なうバイパス路の開閉を行なうエアバイパスバルブ(1)において、
このエアバイパスバルブ(1)は、前記吸気コンプレッサ(3)の吸気下流側の吸気通路(4)に連通する下流側連通管(5)を備え、
この下流側連通管(5)の長さ寸法をL1、
前記下流側連通管(5)の内径寸法をL2、
L1+(L2×0.8)を補正連通管長とした場合、
前記補正連通管長は、2.1cm〜3.9cmに設けられることを特徴とするエアバイパスバルブ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate