エアバッグの収納用ケース
【課題】エアバッグの膨張展開時には十分な剛性を発揮すると共に、インストルメントパネルと物体との衝突における衝撃吸収が可能なエアバッグの収納用ケースを提供する。
【構成】インストルメントパネル1の内部に配置されて、インストルメントパネル1からの膨張展開時において突出するエアバッグ3を収納する収納用ケース6の下部ケース8において、折り畳んだ状態のエアバッグ3の周囲を囲む周壁部8bを備え、周壁部8bに、その高さ方向に沿う上方から下方への衝撃力の作用時に、高さ寸法を縮小可能に変形する変形部としての連結壁83を配設しており、連結壁83が変形することにより、連結壁83を中にして上部側周壁81と下部側周壁82とを相対的にずれ移動させることによって衝撃力を吸収するように構成した。
【構成】インストルメントパネル1の内部に配置されて、インストルメントパネル1からの膨張展開時において突出するエアバッグ3を収納する収納用ケース6の下部ケース8において、折り畳んだ状態のエアバッグ3の周囲を囲む周壁部8bを備え、周壁部8bに、その高さ方向に沿う上方から下方への衝撃力の作用時に、高さ寸法を縮小可能に変形する変形部としての連結壁83を配設しており、連結壁83が変形することにより、連結壁83を中にして上部側周壁81と下部側周壁82とを相対的にずれ移動させることによって衝撃力を吸収するように構成した。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、短時間に膨張して乗員等を保護するエアバッグ装置のエアバッグの収納用ケースに関する。
【背景技術】
【0002】
エアバッグ装置、例えば、助手席用エアバッグ装置は、自動車の衝突などの衝撃を感知してインフレータから噴出される膨張ガスによりエアバッグを膨張展開させることで、助手席乗員を保護するように構成されている。
【0003】
かかることから、助手席用エアバッグ装置は、折り畳み状態のエアバッグを例えば箱状の収納用ケースに収納して、収納用ケースをインストルメントパネルの内部に配置するように構成されており、自動車の衝突時などにおいて、収納用ケース内のエアバッグを膨張ガスにより膨張展開させ、インストルメントパネルに形成したリッド部を開成させることによって、エアバッグを車室内へ膨張展開させるようになっている。
【0004】
エアバッグ装置は、インストルメントパネルにおける助手席の前方に配置されている。インストルメントパネルのエアバッグ装置搭載箇所に物体が衝突するとき、その物体に対して作動前のエアバッグ装置が衝撃を吸収緩和し物体が受ける反力を少なくすることが望まれる。そのための方法として、エアバッグ収納用ケースに変形や破断により潰れる構造を与えることが知られている。
【0005】
そこで、かかる点に鑑み、エアバッグを収納するための従来の収納用ケースとして、例えば、次に記載するような2つの技術が知られている。
【0006】
そのうち、一つの技術は、コンテナ(収納用ケース)に前方から衝撃が加えられたときにコンテナの座屈変形を開始させるための応力集中部を設け、かかる応力集中部をコンテナの側面部に凹条部および凸条部を設けることによって構成しており、かかる応力集中部の存在によりコンテナの全体的な圧潰変形を進行させて、インストルメントパネルに加えられた衝撃を吸収するようにしている(特許文献1参照)。
【0007】
他の一つの技術は、収納用ケースの周壁部に、衝撃力が加わった場合に、高さ寸法を縮小可能に塑性変形する塑性変形部を配設して、当該塑性変形部を周壁部の外周面側を凹ませた肉盗み部や周壁部のコーナ部に内外周を貫通する貫通孔によって構成したものである(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平6−127324号公報
【特許文献2】特開2001−270412号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来における前者の技術は、コンテナの側面部に凹条部および凸条部を形成することにより構成する応力集中部を有しており、また、後者の技術は、収納用ケースの周壁部に肉盗み部や貫通孔を形成することにより構成する塑性変形部を有するものであることから、その分コンテナや収納用ケースの剛性を低くしていることになる。この結果、エアバッグを膨張展開させる際には、コンテナや収納用ケースのエアバッグ膨出用開口部が、略長方形の開口から各辺の中間部分が外方に湾曲して樽状に変形する、所謂「口開き現象」や「フィッシュマウス現象」を発生しやすくなる。開口部の変形を抑えつつ物体衝突における衝撃を吸収する構造の実現は容易でない。
【0010】
そこで、この発明は、上記従来の技術における課題に鑑み、エアバッグの膨張展開時には十分な剛性を発揮すると共に、インストルメントパネルと物体との衝突における衝撃吸収が可能なエアバッグの収納用ケースを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明に係るエアバッグの収納用ケースは、インストルメントパネルの内部に配置されて、インストルメントパネルからの膨張展開時において突出するエアバッグを収納するためのエアバッグの収納用ケースであって、折り畳んだ状態のエアバッグの周囲を囲む周壁部を備え、周壁部に、その高さ方向に沿う上方から下方への衝撃力の作用時に、高さ寸法を縮小可能に変形する変形部を配設しており、変形部が変形することにより、当該変形部を中にして周壁部の上部側周壁と下部側周壁とを相対的にずれ移動させることによって衝撃力を吸収するように構成したことを特徴とするものである。
【0012】
かかる構成により、この発明は、自動車の低速走行などの際に物体が当たった際に、インストルメントパネルにその周壁部の高さ方向に沿う上方から下方への衝撃力を受けた場合には、変形部が変形することによって上部側周壁と下部側周壁とを相対的に上下に移動して重なるように移動する現象(以下、「せん断変形」と称することあり)を起こし、結果的に当該衝撃力を吸収する変形性能を発揮することができる。ここで、変形としては、塑性変形や破断降伏等の不可逆的な延びや曲がり、破断などの挙動と、塑性変形する部分に近接する部分で弾性変形などを伴うものであり、これらの同時的または段階的に複合されたモードとして把握できる変形を含むものである。また、衝突事故などに遭遇した場合においてエアバッグが膨張展開する際にエアバッグの収納用ケースの内面に加わる荷重に対しては、上部側周壁と下部側周壁とを相対的にずれ移動させるせん断変形を起こすことがなく、エアバッグの収納用ケースの開口部における所謂「口開き現象」や「フィッシュマウス現象」と呼ばれている変形を抑えることができ、エアバッグの膨張展開作動をより円滑に行わせることができる。
【0013】
また、この発明に係る実施の形態における変形部を構成する連結壁が、周壁部における上部側周壁の下端と下部側周壁の上端とを連結した際に、連結壁と上部側周壁及び下部側周壁部とがクランク状を呈するように構成している。
【0014】
かかる構成を有することにより、この発明は、周壁部の高さ方向に略沿う上方から下方への衝撃力の作用を受けた場合には、変形部が変形して上部側周壁と下部側周壁とを相対的にずれ移動させるせん断変形を起こすことによって、当該衝撃力を吸収するだけの変形性能を発揮することができ、また、エアバッグ装置が起動した場合には、横方向に掛かる荷重に対して収容用ケースに十分な剛性があるので、「口開き現象」などと呼ばれる変形を発生させず、エアバッグの膨張展開作動をより円滑かつ確実に行わせることができる。
【0015】
また、この発明に係る実施の形態における変形部を構成する連結壁は、複数の段部を有することによって階段状に形成することにより構成している。
【0016】
かかる構成を有することにより、この発明は、周壁部の高さ方向に略沿う上方から下方への衝撃緩和の作用が複数の段で行われることになるから、各ずれ移動が少しずつでもそれらの総和としてずれ移動量を大きく得ることができる。しかも、階段状としたため、衝撃の入力位置と周壁部の先端の部分の位置が衝撃が加わる方向に対して交差方向にずれるので、衝撃の直伝播が少なくなり、潰れ変形が向上する。
【0017】
また、この発明に係る実施の形態における変形部を構成する連結壁は、薄肉部を形成して構成している。
【0018】
かかる構成を有することから、この発明は、上記発明が奏する効果に加えて、薄肉部を有する連結壁によって、上部側周壁と下部側周壁とを相対的にずれ移動させるせん断変形をさらに容易に起こすことができる。
【0019】
また、この発明に係る実施の形態における連結壁に形成した薄肉部は、連結壁の全周又は間欠的に形成されて構成している。
【0020】
かかる構成を有することから、この発明は、上記発明が奏する効果に加えて、連結壁の全周又は間欠的に形成した薄肉部によって、上部側周壁と下部側周壁とを相対的にずれ移動させるせん断変形をさらに容易に起こすことができる。
【0021】
さらにまた、この発明に係る実施の形態における変形部が、周壁部における上部側周壁の下端と下部側周壁の上端とを、断面略コ字状に形成された突起状の連結壁により連結することにより構成し、且つ、連結壁を構成する上下横桁部にそれぞれ薄肉状部を形成して構成している。
【0022】
かかる構成を有することから、この発明は、変形部が上部側周壁の下端と下部側周壁の上端とを連結するコ字状に形成された突起状の連結壁で連結されていると共に、連結壁を構成する上下横桁部をそれぞれ薄肉状に形成していることから、変形部に対して上部側周壁と下部側周壁とを相対的に移動させる圧潰変形を起こしやすくなっていて、物体の当たることによるインストルメントパネルへの衝撃力を的確に吸収するだけの変形性能を発揮することができ、また、エアバッグが膨張展開する際にエアバッグの収納用ケースの内面に加わる荷重に対しては、せん断変形を起こすことがなく、エアバッグの収納用ケースの開口部における「口開き現象」や「フィッシュマウス現象」と呼ばれている変形を抑えることができ、エアバッグの膨張展開作動をより円滑に行わせることができる。
【発明の効果】
【0023】
この発明は、インストルメントパネルにインパクトテスト用のヘッドフォームなどの物体が当たり、インストルメントパネルにエアバッグ収容用ケースが、その高さ方向に衝撃を受けた場合には、変形部の変形によって、上部側周壁と下側周壁とが高さ寸法を少なくするように移動変形して衝撃を吸収し物体が受ける反力を緩和することができる。エアバッグが展開するときには高さ方向に交差する方向に膨張するエアバッグの当接によっても変形が抑えられ、「口開き現象」や「フィッシュマウス現象」などと呼ばれる変形を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】この発明の実施例1に係る助手席用エアバッグ装置を設置したインストルメントパネルを描画した斜視図である。
【図2】図1におけるA−A断面図である。
【図3】図1に示す助手席用エアバッグ装置を構成するエアバッグモジュールと収納用ケースとを分解して描画した斜視図である、
【図4】図1に描画したインストルメントパネルに物体が当たった際におけるA−A断面図である。
【図5】この発明の実施例2に係るエアバッグの収納用ケースを斜め上方から見て描画した斜視図である。
【図6】図5に示す収納用ケースをインストルメントパネルに装着した状態におけるB−B断面図である。
【図7】この発明の実施例3に係るエアバッグの収納用ケースの隅角部付近を斜め上方内面側方向から描画した斜視図である。
【図8】図7のC−C断面図である。
【図9】この発明の実施例4に係るエアバッグの収納用ケースの隅角部付近を斜め下方外面側方向から描画した斜視図である。
【図10】図9のD−D断面図である。
【図11】この発明の実施例5に係るエアバッグの収納用ケースの要部をインストルメントパネルに装着した状態において描画した縦断面図である。
【図12】図11に描画した収納用ケースをインストルメントパネルに物体が当たった状態において描画した縦断面図である。
【図13】この発明の実施例6に係るエアバッグの収納用ケースの要部をインストルメントパネルに装着した状態において描画した縦断面図である。
【図14】図13に描画した収納用ケースをインストルメントパネルに物体が当たった状態において描画した縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
この発明に係るエアバッグの収納用ケースは、エアバッグの膨張展開時には十分な剛性を発揮すると共に、インストルメントパネルに物体が当たったときには物体への衝撃を緩和するのに十分な変形性能を有するように構成している。
【0026】
次に、この発明のエアバッグの収納ケースに係る実施例について、図を用いて説明する。
【0027】
先ず、図1から図4を用いて、この発明に係るエアバッグの収納用ケースとしての実施例1の構成について説明する。
【0028】
自動車の計器類などを設置するインストルメントパネル1は、図1に示すように、不図示の助手席乗員に対向する位置に、「日」の字状のテアライン1aを形成しており、テアライン1aに囲まれた部位をエアバッグ用扉部1bに構成している。そして、インストルメントパネル1におけるエアバッグ用扉部1bに相対する内部において、図2に示すように、エアバッグモジュール2が設置されている。
【0029】
エアバッグモジュール2は、図3に示すように、折り畳まれた状態のエアバッグ3とエアバッグ3を膨張展開させる膨張ガスを封入されたインフレータ4とを帯状体5などにより包装された状態で構成しており、収納用ケース6に収納された状態で、インストルメントパネル1の内部に設置されている。
【0030】
収納用ケース6は、図2及び図3に記載されているように、樹脂により成形された角箱状の上部ケース7と、上部ケース7の下方に取付けられた樹脂あるいは鉄又はアルミニウムなどの金属よりなる下部ケース8を有して構成しており、リテーナー11を介して車体10に装着されている。したがって、上部ケース7は、熱可塑性エラストマー等を用いて型成形することにより形成され、また、下部ケース8は、やはり型による樹脂成形あるいはアルミ板や鉄板などの金属板をプレスによる深絞りなどすることにより形成されている。
【0031】
上部ケース7は、上部が扉体7cに閉成された開口部7bを有して構成している。下部ケース8は、全体形状が角箱状を呈しており、エアバッグ3が折り畳まれた状態において構成するエアバッグモジュール2の周囲を取り囲む周壁部8a及び底壁部8bを有して構成しており、上部は開口部8cとなっている。
【0032】
底壁部8bに設けた貫通孔8b−1には、インフレータ4が嵌合設置されている。また、周壁部8aは、図3に示すように、車体に対して前方側に面する前側周壁8a−1、後方側に面する後側周壁8a−2、左方側に面する左側周壁8a−3及び右方側に面する右側周壁8a−4を略四角形に一体に形成することにより構成している。
【0033】
前側周壁8a−1及び後側周壁8a−2における開口部8cに臨む端部には、外方に逆L字状を呈するフック片8dが複数個形成されている。フック片8dは、図2に示すように、インストルメントパネル1の内面に振動溶着などにより取着された上部ケース7の係合孔7aに係合することによって、上部ケース7に対して下部ケース8を懸架している。
【0034】
また、図2及び図3に示すように、周壁部8aにおける上部側周壁81の下端と下部側周壁82の上端とは、全周において連結壁83を介在させることによって連結構成されている。そして、連結壁83は、下部ケース8の高さ方向において、上部側周壁81と下部側周壁82とを上下方向で筋違いとなるように連結しており、下部側周壁82に対して上部側周壁81を外方に張り出させている。
【0035】
上記のように構成する実施例1においては、物体Hがインストルメントパネル1に当たって周壁部8bの高さ方向に略沿う上方から下方への衝撃力の作用を受けた場合には、下部側周壁82が車体10に取着されているのに対して上部側周壁81が上部ケース7を介してインストルメントパネル1側に装着されていることから、上部側周壁81に下方にずれる力が作用し、下部側周壁82は、周壁部8bの底部を車体10、具体的には、図示しないステアリングメンバーなどに固定されているので、上部側周壁81が下方に移動するに対して下部側周壁82はほぼ移動せず、連結壁83が、図2に示すインストルメントパネル1の上面に対してほぼ平行な状態から、図4に示すように、上部側周壁81の下端との接続点が下がった傾斜状に変形する。
【0036】
したがって、連結壁83は、上部側周壁81と下部側周壁82とを相対的にずれ移動させる変形部を構成することになって、物体Hの当たったことによる衝撃力を吸収するだけの変形性能を発揮することができる。
【0037】
また、エアバッグ3が膨張展開する際に加わる荷重は、下部ケース8における上部側周壁81と下部側周壁82とに例えば図2に示される側方(インストルメントパネル表面と平行な方向)に加わり、連結壁83にもエアバッグの膨張による押圧(面圧)が加わる。上部側周壁81に下方への移動を発生させる力は作用せず、したがって、下部ケース8の上部側周壁81と連結壁83と、及び下部側周壁82と連結壁83とは、それぞれL字形をなし、この2つのL字形の組み合わせでクランク状になるから、面圧に対して強度を発揮できる。結果として、「口開き現象」或いは「フィッシュマウス現象」などと呼ばれる変形を抑制することができる。
【0038】
次に、図5ないし図12を用いて、この発明に係る他の実施例について説明する。
【0039】
先ず、図5及び図6に示すこの発明に係る実施例2においては、上部ケース7を使用せずに、下部ケース8をビスなどを使用して直接インストルメントパネル1に装着するタイプを示しており、下部ケース8の周壁部8aは、後側周壁8a−2、左側周壁8a−3及び右側周壁8a−4において、上部側周壁81と下部側周壁82とが変形部を構成する連結壁83によって上下方向で筋違いとなるように連結しており、下部側周壁82に対して上部側周壁81を外方に張り出させている。前側周壁8b−1は、連結壁83を介在させずに、上下方向にストレート状の壁形状を呈している。
【0040】
かかる実施例2は、車両後方においてずれ変形が生じ、物体Hの衝突が専ら後側周壁8a−2付近に発生すると想定される場合に好ましい態様である。エアバッグ装置の配置は、インストルメントパネルの助手席により近い部位である後部側傾斜面にかかるような位置が選択される場合(リアマウント)と、フロントウィンドシールドにより近いインストルメントパネルの位置が選択される場合(トップマウント)とがあり、物体Hの衝突が専ら後側周壁8a−2付近に発生すると想定される場合とは、典型的には後者のトップマウントの場合である。物体Hが後側周壁8a−2付近に衝突すると、図6の一点鎖線で示すように前側周壁8a−1側ではずれ変形せず、後側周壁8a−2がずれ変形し、左右側周壁8a−3、8a−4が後側周壁8a−2側で大きくずれ変形する、いわばチルト変形する。
【0041】
また、図7及び図8に示すこの発明の実施例3は、やはり、上部ケース7を使用せずに、下部ケース8をビスなどを使用して直接インストルメントパネル1に装着するタイプを示しており、変形部を構成する連結壁83の全周に当たって、薄肉部84を形成して構成している。薄肉部84の存在により、連結壁83が、インストルメントパネル1への物体Hなどの当たったとき、上部側周壁81と下部側周壁82とを相対的にずれ移動させるせん断変形をさらに容易に起こすことができることになる。
【0042】
また、図9及び図10に示すこの発明の実施例4は、同様に、上部ケース7を使用せずに、下部ケース8をビスなどを使用して直接インストルメントパネル1に装着するタイプを示しており、変形部を構成する連結壁83における隅角部を部分的に凹条に形成することにより、連結壁83により薄手の薄肉部84を形成して構成したものである。したがって、薄肉部84は、例え連結壁83に間欠的に存するものであるとしても、連結壁83がインストルメントパネル1への物体Hなどの当たるに際して、上部側周壁81と下部側周壁82とが相対的にずれ移動するせん断変形をさらに容易に起こさせることがきる。
【0043】
また、図11に示すこの発明の実施例5は、同様に、上部ケース7を使用せずに、下部ケース8をビスなどを使用して直接インストルメントパネル1に装着するタイプを示しており、変形部を構成する連結壁83は、複数例えば二段階の段部83−1、83−2を有することによって階段状に形成することにより構成しており、各段部83−1、83−2には、やはり、薄肉部84が形成されている。
【0044】
かかる構成を有することにより、実施例5においては、連結壁83が、段部83−1、83−2を有する階段状に形成されていることから、図12に示すように、ずれ変形が複数の個所で発生し、それぞれの段部83−1、83−2で少しずつずれ変形を生じ全体として相当のずれ変形量(変形ストローク)が得られる。
【0045】
さらに、図13に示すこの発明の実施例6は、やはり、上部ケース7を使用せずに、下部ケース8をビスなどを使用して直接インストルメントパネル1に装着するタイプを示しており、変形部を構成する連結壁83が、周壁部8bにおける上部側周壁81の下端と下部側周壁82の上端とを連結すべく、断面略コ字状に形成された突起状を呈して構成されている。したがって、連結壁83は、上下一対の横桁部83a、83bとを立壁部83cにより連結することにより構成されている。しかも、上下両横桁部83a、83bには、それぞれ薄肉状部84が形成されている。そして、実施例5による下部ケース8は、立壁部83cにおける上部立壁部83c−1と下部立壁部83c−2とを分割するように、上部側周壁81と底壁部8bを有する下部側周壁82とを射出成型などにより別々に成形し、その後、上部縦壁部83c−1および83c−2の先端部同士を振動溶着などにより接合することにより、構成されることになる。
【0046】
このように構成する実施例6においては、上部側周壁81の下端と下部側周壁82の上端とを、断面コ字状に形成された突起状の連結壁83により連結していると共に、連結壁83を構成する上下横桁部83a、83bにそれぞれ薄肉部84を形成することにより薄肉状になっていることから、図14に示すように、変形部を構成する連結壁83に対して上部側周壁81と下部側周壁82とが相対的に移動して圧潰変形を起こしやすくなっていて、物体Hなどの当たることによるインストルメントパネル1への衝撃力を的確に吸収するだけの変形性能を発揮することができ、また、エアバッグ3が膨張展開する際に下部ケース8の内面に加わる荷重に対しては、下部ケース8における上部側周壁81と下部側周壁82とを連結する連結壁83は、変形することがなく、変形部を構成している連結壁83に対して上部側周壁81と下部側周壁82とを相対的に移動させるせん断変形を起こすことがなく、エアバッグ3の収納用ケース6の開口部8cにおける所謂「口開き現象」などを抑えることができ、エアバッグ3の膨張展開作動をより円滑に行わせることができる。
【0047】
上記いずれの実施例における変形部における変形は、塑性変形や破断降伏等の不可逆的な延びや曲がり、破断などの挙動と、塑性変形する部分に近接する部分で弾性変形などを伴うものであり、これらの同時的または段階的に複合されたモードとして把握できる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
この発明は、エアバッグの膨張展開時には十分な剛性を発揮すると共に、インストルメントパネルに物体が当たったときには物体への衝撃を緩和するのに十分な変形性能を有することから、特に、短時間に膨張して乗員等を保護するエアバッグ装置のエアバッグの収納用ケースに等に好適であるといえる。
【符号の説明】
【0049】
1 インストルメントパネル
3 エアバッグ
4 インフレータ
6 収納用ケース
7 上部ケース
8 下部ケース
8a 開口部
8b 周壁部
81 上部側周壁
82 下部側周壁
83 連結壁(変形部)
83a、83b 横桁部
84 薄肉部
H 物体
【技術分野】
【0001】
この発明は、短時間に膨張して乗員等を保護するエアバッグ装置のエアバッグの収納用ケースに関する。
【背景技術】
【0002】
エアバッグ装置、例えば、助手席用エアバッグ装置は、自動車の衝突などの衝撃を感知してインフレータから噴出される膨張ガスによりエアバッグを膨張展開させることで、助手席乗員を保護するように構成されている。
【0003】
かかることから、助手席用エアバッグ装置は、折り畳み状態のエアバッグを例えば箱状の収納用ケースに収納して、収納用ケースをインストルメントパネルの内部に配置するように構成されており、自動車の衝突時などにおいて、収納用ケース内のエアバッグを膨張ガスにより膨張展開させ、インストルメントパネルに形成したリッド部を開成させることによって、エアバッグを車室内へ膨張展開させるようになっている。
【0004】
エアバッグ装置は、インストルメントパネルにおける助手席の前方に配置されている。インストルメントパネルのエアバッグ装置搭載箇所に物体が衝突するとき、その物体に対して作動前のエアバッグ装置が衝撃を吸収緩和し物体が受ける反力を少なくすることが望まれる。そのための方法として、エアバッグ収納用ケースに変形や破断により潰れる構造を与えることが知られている。
【0005】
そこで、かかる点に鑑み、エアバッグを収納するための従来の収納用ケースとして、例えば、次に記載するような2つの技術が知られている。
【0006】
そのうち、一つの技術は、コンテナ(収納用ケース)に前方から衝撃が加えられたときにコンテナの座屈変形を開始させるための応力集中部を設け、かかる応力集中部をコンテナの側面部に凹条部および凸条部を設けることによって構成しており、かかる応力集中部の存在によりコンテナの全体的な圧潰変形を進行させて、インストルメントパネルに加えられた衝撃を吸収するようにしている(特許文献1参照)。
【0007】
他の一つの技術は、収納用ケースの周壁部に、衝撃力が加わった場合に、高さ寸法を縮小可能に塑性変形する塑性変形部を配設して、当該塑性変形部を周壁部の外周面側を凹ませた肉盗み部や周壁部のコーナ部に内外周を貫通する貫通孔によって構成したものである(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平6−127324号公報
【特許文献2】特開2001−270412号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来における前者の技術は、コンテナの側面部に凹条部および凸条部を形成することにより構成する応力集中部を有しており、また、後者の技術は、収納用ケースの周壁部に肉盗み部や貫通孔を形成することにより構成する塑性変形部を有するものであることから、その分コンテナや収納用ケースの剛性を低くしていることになる。この結果、エアバッグを膨張展開させる際には、コンテナや収納用ケースのエアバッグ膨出用開口部が、略長方形の開口から各辺の中間部分が外方に湾曲して樽状に変形する、所謂「口開き現象」や「フィッシュマウス現象」を発生しやすくなる。開口部の変形を抑えつつ物体衝突における衝撃を吸収する構造の実現は容易でない。
【0010】
そこで、この発明は、上記従来の技術における課題に鑑み、エアバッグの膨張展開時には十分な剛性を発揮すると共に、インストルメントパネルと物体との衝突における衝撃吸収が可能なエアバッグの収納用ケースを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明に係るエアバッグの収納用ケースは、インストルメントパネルの内部に配置されて、インストルメントパネルからの膨張展開時において突出するエアバッグを収納するためのエアバッグの収納用ケースであって、折り畳んだ状態のエアバッグの周囲を囲む周壁部を備え、周壁部に、その高さ方向に沿う上方から下方への衝撃力の作用時に、高さ寸法を縮小可能に変形する変形部を配設しており、変形部が変形することにより、当該変形部を中にして周壁部の上部側周壁と下部側周壁とを相対的にずれ移動させることによって衝撃力を吸収するように構成したことを特徴とするものである。
【0012】
かかる構成により、この発明は、自動車の低速走行などの際に物体が当たった際に、インストルメントパネルにその周壁部の高さ方向に沿う上方から下方への衝撃力を受けた場合には、変形部が変形することによって上部側周壁と下部側周壁とを相対的に上下に移動して重なるように移動する現象(以下、「せん断変形」と称することあり)を起こし、結果的に当該衝撃力を吸収する変形性能を発揮することができる。ここで、変形としては、塑性変形や破断降伏等の不可逆的な延びや曲がり、破断などの挙動と、塑性変形する部分に近接する部分で弾性変形などを伴うものであり、これらの同時的または段階的に複合されたモードとして把握できる変形を含むものである。また、衝突事故などに遭遇した場合においてエアバッグが膨張展開する際にエアバッグの収納用ケースの内面に加わる荷重に対しては、上部側周壁と下部側周壁とを相対的にずれ移動させるせん断変形を起こすことがなく、エアバッグの収納用ケースの開口部における所謂「口開き現象」や「フィッシュマウス現象」と呼ばれている変形を抑えることができ、エアバッグの膨張展開作動をより円滑に行わせることができる。
【0013】
また、この発明に係る実施の形態における変形部を構成する連結壁が、周壁部における上部側周壁の下端と下部側周壁の上端とを連結した際に、連結壁と上部側周壁及び下部側周壁部とがクランク状を呈するように構成している。
【0014】
かかる構成を有することにより、この発明は、周壁部の高さ方向に略沿う上方から下方への衝撃力の作用を受けた場合には、変形部が変形して上部側周壁と下部側周壁とを相対的にずれ移動させるせん断変形を起こすことによって、当該衝撃力を吸収するだけの変形性能を発揮することができ、また、エアバッグ装置が起動した場合には、横方向に掛かる荷重に対して収容用ケースに十分な剛性があるので、「口開き現象」などと呼ばれる変形を発生させず、エアバッグの膨張展開作動をより円滑かつ確実に行わせることができる。
【0015】
また、この発明に係る実施の形態における変形部を構成する連結壁は、複数の段部を有することによって階段状に形成することにより構成している。
【0016】
かかる構成を有することにより、この発明は、周壁部の高さ方向に略沿う上方から下方への衝撃緩和の作用が複数の段で行われることになるから、各ずれ移動が少しずつでもそれらの総和としてずれ移動量を大きく得ることができる。しかも、階段状としたため、衝撃の入力位置と周壁部の先端の部分の位置が衝撃が加わる方向に対して交差方向にずれるので、衝撃の直伝播が少なくなり、潰れ変形が向上する。
【0017】
また、この発明に係る実施の形態における変形部を構成する連結壁は、薄肉部を形成して構成している。
【0018】
かかる構成を有することから、この発明は、上記発明が奏する効果に加えて、薄肉部を有する連結壁によって、上部側周壁と下部側周壁とを相対的にずれ移動させるせん断変形をさらに容易に起こすことができる。
【0019】
また、この発明に係る実施の形態における連結壁に形成した薄肉部は、連結壁の全周又は間欠的に形成されて構成している。
【0020】
かかる構成を有することから、この発明は、上記発明が奏する効果に加えて、連結壁の全周又は間欠的に形成した薄肉部によって、上部側周壁と下部側周壁とを相対的にずれ移動させるせん断変形をさらに容易に起こすことができる。
【0021】
さらにまた、この発明に係る実施の形態における変形部が、周壁部における上部側周壁の下端と下部側周壁の上端とを、断面略コ字状に形成された突起状の連結壁により連結することにより構成し、且つ、連結壁を構成する上下横桁部にそれぞれ薄肉状部を形成して構成している。
【0022】
かかる構成を有することから、この発明は、変形部が上部側周壁の下端と下部側周壁の上端とを連結するコ字状に形成された突起状の連結壁で連結されていると共に、連結壁を構成する上下横桁部をそれぞれ薄肉状に形成していることから、変形部に対して上部側周壁と下部側周壁とを相対的に移動させる圧潰変形を起こしやすくなっていて、物体の当たることによるインストルメントパネルへの衝撃力を的確に吸収するだけの変形性能を発揮することができ、また、エアバッグが膨張展開する際にエアバッグの収納用ケースの内面に加わる荷重に対しては、せん断変形を起こすことがなく、エアバッグの収納用ケースの開口部における「口開き現象」や「フィッシュマウス現象」と呼ばれている変形を抑えることができ、エアバッグの膨張展開作動をより円滑に行わせることができる。
【発明の効果】
【0023】
この発明は、インストルメントパネルにインパクトテスト用のヘッドフォームなどの物体が当たり、インストルメントパネルにエアバッグ収容用ケースが、その高さ方向に衝撃を受けた場合には、変形部の変形によって、上部側周壁と下側周壁とが高さ寸法を少なくするように移動変形して衝撃を吸収し物体が受ける反力を緩和することができる。エアバッグが展開するときには高さ方向に交差する方向に膨張するエアバッグの当接によっても変形が抑えられ、「口開き現象」や「フィッシュマウス現象」などと呼ばれる変形を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】この発明の実施例1に係る助手席用エアバッグ装置を設置したインストルメントパネルを描画した斜視図である。
【図2】図1におけるA−A断面図である。
【図3】図1に示す助手席用エアバッグ装置を構成するエアバッグモジュールと収納用ケースとを分解して描画した斜視図である、
【図4】図1に描画したインストルメントパネルに物体が当たった際におけるA−A断面図である。
【図5】この発明の実施例2に係るエアバッグの収納用ケースを斜め上方から見て描画した斜視図である。
【図6】図5に示す収納用ケースをインストルメントパネルに装着した状態におけるB−B断面図である。
【図7】この発明の実施例3に係るエアバッグの収納用ケースの隅角部付近を斜め上方内面側方向から描画した斜視図である。
【図8】図7のC−C断面図である。
【図9】この発明の実施例4に係るエアバッグの収納用ケースの隅角部付近を斜め下方外面側方向から描画した斜視図である。
【図10】図9のD−D断面図である。
【図11】この発明の実施例5に係るエアバッグの収納用ケースの要部をインストルメントパネルに装着した状態において描画した縦断面図である。
【図12】図11に描画した収納用ケースをインストルメントパネルに物体が当たった状態において描画した縦断面図である。
【図13】この発明の実施例6に係るエアバッグの収納用ケースの要部をインストルメントパネルに装着した状態において描画した縦断面図である。
【図14】図13に描画した収納用ケースをインストルメントパネルに物体が当たった状態において描画した縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
この発明に係るエアバッグの収納用ケースは、エアバッグの膨張展開時には十分な剛性を発揮すると共に、インストルメントパネルに物体が当たったときには物体への衝撃を緩和するのに十分な変形性能を有するように構成している。
【0026】
次に、この発明のエアバッグの収納ケースに係る実施例について、図を用いて説明する。
【0027】
先ず、図1から図4を用いて、この発明に係るエアバッグの収納用ケースとしての実施例1の構成について説明する。
【0028】
自動車の計器類などを設置するインストルメントパネル1は、図1に示すように、不図示の助手席乗員に対向する位置に、「日」の字状のテアライン1aを形成しており、テアライン1aに囲まれた部位をエアバッグ用扉部1bに構成している。そして、インストルメントパネル1におけるエアバッグ用扉部1bに相対する内部において、図2に示すように、エアバッグモジュール2が設置されている。
【0029】
エアバッグモジュール2は、図3に示すように、折り畳まれた状態のエアバッグ3とエアバッグ3を膨張展開させる膨張ガスを封入されたインフレータ4とを帯状体5などにより包装された状態で構成しており、収納用ケース6に収納された状態で、インストルメントパネル1の内部に設置されている。
【0030】
収納用ケース6は、図2及び図3に記載されているように、樹脂により成形された角箱状の上部ケース7と、上部ケース7の下方に取付けられた樹脂あるいは鉄又はアルミニウムなどの金属よりなる下部ケース8を有して構成しており、リテーナー11を介して車体10に装着されている。したがって、上部ケース7は、熱可塑性エラストマー等を用いて型成形することにより形成され、また、下部ケース8は、やはり型による樹脂成形あるいはアルミ板や鉄板などの金属板をプレスによる深絞りなどすることにより形成されている。
【0031】
上部ケース7は、上部が扉体7cに閉成された開口部7bを有して構成している。下部ケース8は、全体形状が角箱状を呈しており、エアバッグ3が折り畳まれた状態において構成するエアバッグモジュール2の周囲を取り囲む周壁部8a及び底壁部8bを有して構成しており、上部は開口部8cとなっている。
【0032】
底壁部8bに設けた貫通孔8b−1には、インフレータ4が嵌合設置されている。また、周壁部8aは、図3に示すように、車体に対して前方側に面する前側周壁8a−1、後方側に面する後側周壁8a−2、左方側に面する左側周壁8a−3及び右方側に面する右側周壁8a−4を略四角形に一体に形成することにより構成している。
【0033】
前側周壁8a−1及び後側周壁8a−2における開口部8cに臨む端部には、外方に逆L字状を呈するフック片8dが複数個形成されている。フック片8dは、図2に示すように、インストルメントパネル1の内面に振動溶着などにより取着された上部ケース7の係合孔7aに係合することによって、上部ケース7に対して下部ケース8を懸架している。
【0034】
また、図2及び図3に示すように、周壁部8aにおける上部側周壁81の下端と下部側周壁82の上端とは、全周において連結壁83を介在させることによって連結構成されている。そして、連結壁83は、下部ケース8の高さ方向において、上部側周壁81と下部側周壁82とを上下方向で筋違いとなるように連結しており、下部側周壁82に対して上部側周壁81を外方に張り出させている。
【0035】
上記のように構成する実施例1においては、物体Hがインストルメントパネル1に当たって周壁部8bの高さ方向に略沿う上方から下方への衝撃力の作用を受けた場合には、下部側周壁82が車体10に取着されているのに対して上部側周壁81が上部ケース7を介してインストルメントパネル1側に装着されていることから、上部側周壁81に下方にずれる力が作用し、下部側周壁82は、周壁部8bの底部を車体10、具体的には、図示しないステアリングメンバーなどに固定されているので、上部側周壁81が下方に移動するに対して下部側周壁82はほぼ移動せず、連結壁83が、図2に示すインストルメントパネル1の上面に対してほぼ平行な状態から、図4に示すように、上部側周壁81の下端との接続点が下がった傾斜状に変形する。
【0036】
したがって、連結壁83は、上部側周壁81と下部側周壁82とを相対的にずれ移動させる変形部を構成することになって、物体Hの当たったことによる衝撃力を吸収するだけの変形性能を発揮することができる。
【0037】
また、エアバッグ3が膨張展開する際に加わる荷重は、下部ケース8における上部側周壁81と下部側周壁82とに例えば図2に示される側方(インストルメントパネル表面と平行な方向)に加わり、連結壁83にもエアバッグの膨張による押圧(面圧)が加わる。上部側周壁81に下方への移動を発生させる力は作用せず、したがって、下部ケース8の上部側周壁81と連結壁83と、及び下部側周壁82と連結壁83とは、それぞれL字形をなし、この2つのL字形の組み合わせでクランク状になるから、面圧に対して強度を発揮できる。結果として、「口開き現象」或いは「フィッシュマウス現象」などと呼ばれる変形を抑制することができる。
【0038】
次に、図5ないし図12を用いて、この発明に係る他の実施例について説明する。
【0039】
先ず、図5及び図6に示すこの発明に係る実施例2においては、上部ケース7を使用せずに、下部ケース8をビスなどを使用して直接インストルメントパネル1に装着するタイプを示しており、下部ケース8の周壁部8aは、後側周壁8a−2、左側周壁8a−3及び右側周壁8a−4において、上部側周壁81と下部側周壁82とが変形部を構成する連結壁83によって上下方向で筋違いとなるように連結しており、下部側周壁82に対して上部側周壁81を外方に張り出させている。前側周壁8b−1は、連結壁83を介在させずに、上下方向にストレート状の壁形状を呈している。
【0040】
かかる実施例2は、車両後方においてずれ変形が生じ、物体Hの衝突が専ら後側周壁8a−2付近に発生すると想定される場合に好ましい態様である。エアバッグ装置の配置は、インストルメントパネルの助手席により近い部位である後部側傾斜面にかかるような位置が選択される場合(リアマウント)と、フロントウィンドシールドにより近いインストルメントパネルの位置が選択される場合(トップマウント)とがあり、物体Hの衝突が専ら後側周壁8a−2付近に発生すると想定される場合とは、典型的には後者のトップマウントの場合である。物体Hが後側周壁8a−2付近に衝突すると、図6の一点鎖線で示すように前側周壁8a−1側ではずれ変形せず、後側周壁8a−2がずれ変形し、左右側周壁8a−3、8a−4が後側周壁8a−2側で大きくずれ変形する、いわばチルト変形する。
【0041】
また、図7及び図8に示すこの発明の実施例3は、やはり、上部ケース7を使用せずに、下部ケース8をビスなどを使用して直接インストルメントパネル1に装着するタイプを示しており、変形部を構成する連結壁83の全周に当たって、薄肉部84を形成して構成している。薄肉部84の存在により、連結壁83が、インストルメントパネル1への物体Hなどの当たったとき、上部側周壁81と下部側周壁82とを相対的にずれ移動させるせん断変形をさらに容易に起こすことができることになる。
【0042】
また、図9及び図10に示すこの発明の実施例4は、同様に、上部ケース7を使用せずに、下部ケース8をビスなどを使用して直接インストルメントパネル1に装着するタイプを示しており、変形部を構成する連結壁83における隅角部を部分的に凹条に形成することにより、連結壁83により薄手の薄肉部84を形成して構成したものである。したがって、薄肉部84は、例え連結壁83に間欠的に存するものであるとしても、連結壁83がインストルメントパネル1への物体Hなどの当たるに際して、上部側周壁81と下部側周壁82とが相対的にずれ移動するせん断変形をさらに容易に起こさせることがきる。
【0043】
また、図11に示すこの発明の実施例5は、同様に、上部ケース7を使用せずに、下部ケース8をビスなどを使用して直接インストルメントパネル1に装着するタイプを示しており、変形部を構成する連結壁83は、複数例えば二段階の段部83−1、83−2を有することによって階段状に形成することにより構成しており、各段部83−1、83−2には、やはり、薄肉部84が形成されている。
【0044】
かかる構成を有することにより、実施例5においては、連結壁83が、段部83−1、83−2を有する階段状に形成されていることから、図12に示すように、ずれ変形が複数の個所で発生し、それぞれの段部83−1、83−2で少しずつずれ変形を生じ全体として相当のずれ変形量(変形ストローク)が得られる。
【0045】
さらに、図13に示すこの発明の実施例6は、やはり、上部ケース7を使用せずに、下部ケース8をビスなどを使用して直接インストルメントパネル1に装着するタイプを示しており、変形部を構成する連結壁83が、周壁部8bにおける上部側周壁81の下端と下部側周壁82の上端とを連結すべく、断面略コ字状に形成された突起状を呈して構成されている。したがって、連結壁83は、上下一対の横桁部83a、83bとを立壁部83cにより連結することにより構成されている。しかも、上下両横桁部83a、83bには、それぞれ薄肉状部84が形成されている。そして、実施例5による下部ケース8は、立壁部83cにおける上部立壁部83c−1と下部立壁部83c−2とを分割するように、上部側周壁81と底壁部8bを有する下部側周壁82とを射出成型などにより別々に成形し、その後、上部縦壁部83c−1および83c−2の先端部同士を振動溶着などにより接合することにより、構成されることになる。
【0046】
このように構成する実施例6においては、上部側周壁81の下端と下部側周壁82の上端とを、断面コ字状に形成された突起状の連結壁83により連結していると共に、連結壁83を構成する上下横桁部83a、83bにそれぞれ薄肉部84を形成することにより薄肉状になっていることから、図14に示すように、変形部を構成する連結壁83に対して上部側周壁81と下部側周壁82とが相対的に移動して圧潰変形を起こしやすくなっていて、物体Hなどの当たることによるインストルメントパネル1への衝撃力を的確に吸収するだけの変形性能を発揮することができ、また、エアバッグ3が膨張展開する際に下部ケース8の内面に加わる荷重に対しては、下部ケース8における上部側周壁81と下部側周壁82とを連結する連結壁83は、変形することがなく、変形部を構成している連結壁83に対して上部側周壁81と下部側周壁82とを相対的に移動させるせん断変形を起こすことがなく、エアバッグ3の収納用ケース6の開口部8cにおける所謂「口開き現象」などを抑えることができ、エアバッグ3の膨張展開作動をより円滑に行わせることができる。
【0047】
上記いずれの実施例における変形部における変形は、塑性変形や破断降伏等の不可逆的な延びや曲がり、破断などの挙動と、塑性変形する部分に近接する部分で弾性変形などを伴うものであり、これらの同時的または段階的に複合されたモードとして把握できる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
この発明は、エアバッグの膨張展開時には十分な剛性を発揮すると共に、インストルメントパネルに物体が当たったときには物体への衝撃を緩和するのに十分な変形性能を有することから、特に、短時間に膨張して乗員等を保護するエアバッグ装置のエアバッグの収納用ケースに等に好適であるといえる。
【符号の説明】
【0049】
1 インストルメントパネル
3 エアバッグ
4 インフレータ
6 収納用ケース
7 上部ケース
8 下部ケース
8a 開口部
8b 周壁部
81 上部側周壁
82 下部側周壁
83 連結壁(変形部)
83a、83b 横桁部
84 薄肉部
H 物体
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インストルメントパネルの内部に配置されて、該インストルメントパネルからの膨張展開時において突出するエアバッグを収納するためのエアバッグの収納用ケースであって、折り畳んだ状態の前記エアバッグの周囲を囲む周壁部を備え、該周壁部に、その高さ方向に沿う上方から下方への衝撃力の作用時に、高さ寸法を縮小可能に変形する変形部を配設しており、前記変形部が変形することにより、当該変形部を中にして前記上部側周壁と前記下部側周壁とを相対的にずれ移動させることによって衝撃力を吸収するように構成したことを特徴とするエアバッグの収納用ケース。
【請求項2】
前記変形部を構成する前記連結壁が、前記周壁部における前記上部側周壁の下端と前記下部側周壁の上端とを連結した際に、前記連結壁と前記上部側周壁及び前記下部側周壁部とがクランク状を呈するように構成したことを特徴とする請求項1に記載のエアバッグの収納用ケース。
【請求項3】
前記変形部を構成する前記連結壁は、複数の段部を有することによって階段状に形成したことを特徴とする請求項2に記載のエアバッグの収納用ケース。
【請求項4】
前記変形部を構成する前記連結壁に、薄肉部を形成したことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか位置に記載のエアバッグの収納用ケース。
【請求項5】
前記薄肉部は、前記連結壁の全周又は間欠的に形成されていることを特徴とする請求項4に記載のエアバッグの収納用ケース。
【請求項6】
前記変形部が、前記周壁部における前記上部側周壁の下端と前記下部側周壁の上端とを、断面略コ字状に形成された突起状の連結壁により連結することにより構成されており、前記連結壁を構成する上下両横桁部にそれぞれ薄肉状部を形成したことを特徴とする請求項1に記載のエアバッグの収納用ケース。
【請求項1】
インストルメントパネルの内部に配置されて、該インストルメントパネルからの膨張展開時において突出するエアバッグを収納するためのエアバッグの収納用ケースであって、折り畳んだ状態の前記エアバッグの周囲を囲む周壁部を備え、該周壁部に、その高さ方向に沿う上方から下方への衝撃力の作用時に、高さ寸法を縮小可能に変形する変形部を配設しており、前記変形部が変形することにより、当該変形部を中にして前記上部側周壁と前記下部側周壁とを相対的にずれ移動させることによって衝撃力を吸収するように構成したことを特徴とするエアバッグの収納用ケース。
【請求項2】
前記変形部を構成する前記連結壁が、前記周壁部における前記上部側周壁の下端と前記下部側周壁の上端とを連結した際に、前記連結壁と前記上部側周壁及び前記下部側周壁部とがクランク状を呈するように構成したことを特徴とする請求項1に記載のエアバッグの収納用ケース。
【請求項3】
前記変形部を構成する前記連結壁は、複数の段部を有することによって階段状に形成したことを特徴とする請求項2に記載のエアバッグの収納用ケース。
【請求項4】
前記変形部を構成する前記連結壁に、薄肉部を形成したことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか位置に記載のエアバッグの収納用ケース。
【請求項5】
前記薄肉部は、前記連結壁の全周又は間欠的に形成されていることを特徴とする請求項4に記載のエアバッグの収納用ケース。
【請求項6】
前記変形部が、前記周壁部における前記上部側周壁の下端と前記下部側周壁の上端とを、断面略コ字状に形成された突起状の連結壁により連結することにより構成されており、前記連結壁を構成する上下両横桁部にそれぞれ薄肉状部を形成したことを特徴とする請求項1に記載のエアバッグの収納用ケース。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2013−71676(P2013−71676A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−213306(P2011−213306)
【出願日】平成23年9月28日(2011.9.28)
【出願人】(000229955)日本プラスト株式会社 (740)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年9月28日(2011.9.28)
【出願人】(000229955)日本プラスト株式会社 (740)
【Fターム(参考)】
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