説明

エアバッグ及びエアバッグ装置

【課題】乗員の下肢部に対向してエアバッグを展開するニーエアバッグ装置について、乗員の体格に応じた好ましい特性を容易に実現する。
【解決手段】エアバッグ本体部30は、第1の気室45と第2の気室46を備える。第2の気室46の上端部に、連通部61を設ける。連通部61は、連通口62と、フラップ部63とを備える。エアバッグ1は、連通部61を第2の気室46の車体3側に折り返し、連通口62が閉じた状態で展開する。大柄な乗員の場合は、膝頭A1が第2の気室46に当接し、第2の気室46と車体3とでフラップ部63を挟み、連通口62が閉じて反力が大きい状態を保持する。小柄な乗員の場合は、膝頭B1が第1の気室45に当接し、フラップ部63が移動し連通口62が開いて反力を小さくする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、自動車の座席に着席した乗員の膝に対向して膨張展開するエアバッグ及びこのエアバッグを備えたエアバッグ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車の座席に着席した乗員の膝などに対向してエアバッグを展開する膝保護用エアバッグ装置であるいわゆるニーエアバッグ装置が知られている。このニーエアバッグ装置は、例えば、インストルメントパネルの、助手席前方のグローブボックスの下方、あるいは、運転席前方のステアリングホイールの下方などに配置され、ケース体の内側に、袋状のエアバッグを小さく折り畳んで収納している。そして、制御装置が車両の前方衝突などの衝撃を検出した際に、エアバッグにインフレータからガスを供給し、エアバッグをケース体から突出させ、さらにこのエアバッグをインストルメントパネルと乗員の膝部との間に膨張展開させて、乗員の下肢部を拘束して保護するようになっている。
【0003】
このようなエアバッグ装置において、エアバッグの内側を2枚の仕切壁により上下3個のチャンバに区画し、乗員の膝を中央チャンバに対向させた構成が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4146962号公報 (第5頁、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来のようなエアバッグ装置において、乗員の体格に応じてエアバッグの展開特性を変化させようとすると、出力可変式のインフレータや、このインフレータを制御するためのセンサなどが必要になり、製造コストが上昇する問題を有している。
【0006】
本発明は、このような点に鑑みなされたもので、被保護物に対応して展開特性を容易に調整可能なエアバッグ及びエアバッグ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載のエアバッグは、ガスが導入され所定面に沿ってこの所定面と被保護物との間に膨張展開するエアバッグであって、袋状をなしガスが導入されて前記所定面に沿って膨張展開する第1の気室と、この第1の気室と連通する袋状をなしガスが導入されて前記第1の気室と異なる位置で前記所定面に沿って膨張展開する第2の気室と、この第2の気室をこの第2の気室の外部に連通可能な連通口を備え、前記第2の気室が前記所定面に沿って膨張展開した時点で、前記第2の気室の前記所定面側に折り重ねられ前記連通口が閉じた状態となる連通部とを具備したものである。
【0008】
請求項2記載のエアバッグは、請求項1記載のエアバッグにおいて、連通部は、連通口を介して第2の気室に連通する第3の気室を備えたものである。
【0009】
請求項3記載のエアバッグは、請求項2記載のエアバッグにおいて、第2の気室が所定面に沿って膨張展開した時点で、第3の気室が第2の気室の所定面側に重ねられた状態となるものである。
【0010】
請求項4記載のエアバッグは、請求項1記載のエアバッグにおいて、連通部は、連通口より延設されたフラップ部を備え、第2の気室が所定面に沿って膨張展開した時点で、前記フラップ部が第2の気室の所定面側に重ねられた状態となるものである。
【0011】
請求項5記載のエアバッグ装置は、請求項1ないし4いずれか一記載のエアバッグと、このエアバッグにガスを供給するインフレータとを具備し、車両に備えられ、前記エアバッグを着席した乗員の膝頭を含む下肢部に対向し所定面を構成するパネルに沿って膨張展開させるエアバッグ装置であって、前記エアバッグは、前記乗員側に対向する乗員対向面部及び前記パネル側に対向するパネル対向面部とを備えて第1の気室及び第2の気室を構成するエアバッグ本体部を具備し、このエアバッグ本体部は、前記インフレータからガスが供給される基部を備え、前記第1の気室及び第2の気室に対しこの基部の反対側に位置する先端側に連通口が設けられたものである。
【発明の効果】
【0012】
請求項1記載のエアバッグによれば、エアバッグにガスが供給されると、第1の気室及び第2の気室が所定面に沿って膨張展開する。エアバッグは、連通部を備え、第2の気室をこの第2の気室の外部に連通可能な連通口が設けられているが、第2の気室が所定面に沿って膨張展開した時点では、連通部は第2の気室の所定面側に折り重ねられ連通口が閉じた状態となっている。この状態から、被保護物が第2の気室に当接すると、この第2の気室と所定面との間に連通部が挟まれて、連通口が閉じた状態が保持され、比較的大きな反力で被保護物を保護できる。一方、被保護物が第1の気室に当接すると、連通部は第2の気室と所定面との間に拘束されないため、連通部が折り重ねられた状態が解除されて連通口が開く。すると、第2の気室及びこの第2の気室に連通する第1の気室のガスが連通口から流出し、比較的小さな反力で被保護物を保護できる。このようにして、被保護物に対応して展開特性を容易に調整できる。
【0013】
請求項2記載のエアバッグによれば、請求項1記載の効果に加え、連通部が折り重ねられた状態が解除され連通口が開いた状態で、連通口から流出したガスが第3の気室に導入されてこの第3の気室を膨張展開させる。エアバッグの反力が小さくなりすぎることがなく、適切な反力で被保護物を保護できる。
【0014】
請求項3記載のエアバッグによれば、請求項2記載の効果に加え、被保護物が第2の気室に当接すると、この第2の気室と所定面との間に連通部の第3の気室がつぶれた状態で広い面積で挟まれて、連通口が閉じた状態が確実に保持され、比較的大きな反力で被保護物を保護できる。
【0015】
請求項4記載のエアバッグによれば、請求項1記載の効果に加え、被保護物が第2の気室に当接すると、この第2の気室と所定面との間に連通部のフラップ部が広い面積で挟まれて、連通口が閉じた状態が確実に保持され、比較的大きな反力で被保護物を保護できる。フラップ部は簡略な構造で構成でき、製造コストを低減できるとともに、小形化、軽量化を容易に実現できる。
【0016】
請求項5記載のエアバッグ装置によれば、請求項1ないし4いずれか一記載のエアバッグを備えたため、このエアバッグの基部にガスが供給されると、エアバッグ本体部が着席した乗員の下肢部に対向して膨張展開し、移動してくる乗員を拘束するとともに、所定面側の部材への当接を抑制し、乗員を保護する。乗員の体格に応じて膝部が第1の気室あるいは第2の気室に当接するように設定することにより、乗員の体格に応じた適切な反力で乗員を保護できる。出力を変化可能なインフレータを用いる必要がなく、構造を簡略化して製造コストを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明のエアバッグ及びエアバッグ装置の一実施の形態を示す動作の説明図であり、(a)は乗員が大柄な場合、(b)は乗員が小柄な場合である。
【図2】同上エアバッグ装置を示すエアバッグの展開前の状態の説明図である。
【図3】同上エアバッグを示す平面上に広げた状態の平面図である。
【図4】同上エアバッグを示す図3のI−I断面を模式的に示す説明図である。
【図5】本発明のエアバッグの他の実施の形態を示す平面上に広げた状態の平面図である。
【図6】同上エアバッグを示す図5のII−II断面を模式的に示す説明図である。
【図7】本発明のエアバッグのさらに他の実施の形態を示す平面上に広げた状態の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明のエアバッグ及びエアバッグ装置の一実施の形態を図面を参照して説明する。
【0019】
図1ないし図5において、1はエアバッグで、このエアバッグ1を備えたエアバッグ装置2は、被取付部材である車両としての自動車の車体3の室内部としての車室4に面した所定面を構成するパネル5に配置されている。そして、このエアバッグ装置2は、ニーエアバッグ装置すなわち膝保護用エアバッグ装置とも呼ばれるもので、前面衝突などの衝撃を受けた際に、図1に示すように、被保護物としての乗員の足元すなわち膝頭A1,B1を含む下肢部A,Bに対向して展開し、乗員の膝頭A1,B1を含む下肢部A2,B2を拘束して乗員を保護するようになっている。なお、以下、前後方向などの方向は、車体3の直進方向を基準とし、すなわち、図1に示すように、車両の前方(矢印F方向)がエアバッグ1の基端側となり、車両の後方がエアバッグ1の先端側すなわち乗員側となり、また、車両を基準として上方U及び下方を説明する。さらに、車両の左右方向である幅方向が、エアバッグ1の両側方向すなわち左右方向である幅方向(図3に示す矢印W方向)ともなっている。なお、図1及び図2において、A,Bは乗員を模したダミーの下肢部であり、Aは比較的体格が大きいすなわち大柄な乗員のダミーの下肢部、Bは比較的体格が小さい小柄な乗員のダミーの下肢部である。
【0020】
そして、この車体3は、車室4内に乗員が着座可能な両側一対の座席を備えているとともに、これら座席の前方には、フロントガラス11とインストルメントパネル12とが配置されている。さらに、このインストルメントパネル12の下方の下部あるいは中段部には、インストルメントパネル12を構成するダッシュパネルなどとも呼ばれるパネル5が配置され、このパネル5に、各座席に対向して、エアバッグ装置2が取り付けられている。そして、一方の座席は助手席であり、インストルメントパネル12とパネル5との間には、グローブボックスなどが配置されている。また、図示しない他方の座席は、運転席であり、インストルメントパネル12とパネル5との間には、ステアリングホイールが配置されている。なお、上記のエアバッグ装置2の他に、この車室4には、インストルメントパネル12に助手席乗員用のエアバッグ装置13が備えられ、さらに、ステアリングホイール、座席の側部、ルーフサイドレールなどに、図示しないエアバッグ装置が備えられている。
【0021】
そして、エアバッグ装置2は、容器部であるケース体21と、このケース体21に取り付けられるインフレータ22、エアバッグ1、及びカバー体25などを備えている。そして、ケース体21は、ハウジングなどとも呼ばれるもので、後面を開口部21aとした略箱状をなすケース本体部21bを備え、このケース本体部21bの内側が、エアバッグ収納部となっている。また、この開口部21aは、両側方向を長手方向とする矩形状で、かつ、若干下方に向かって傾斜されている。また、ケース本体部21bには、カバー体を係止する取付片部が設けられているとともに、ブラケットが取り付けられ、このブラケットが、車体3の取付部材に固定されている。
【0022】
また、インフレータ22は、略円柱状をなすインフレータ本体部22aを備え、このインフレータ本体部22aの一端部近傍にガス噴射部が設けられているとともに、他端部に接続部が設けられている。そして、このインフレータ22は、接続部に接続される図示しないハーネスを介して制御装置に接続され、このハーネスを介して制御装置から供給される起動信号に基づき、ガス噴射部からガスを噴射する。さらに、このインフレータ22は、一体あるいは別体のリテーナに設けられた取付ボルト22bをケース本体部21bに挿入し、図示しないナットを螺合することにより、インフレータ22がケース体21に取り付けられている。
【0023】
さらに、カバー体25は、リッドなどとも呼ばれるもので、ケース体21の開口部21aを覆い、脆弱な破断部であるテアラインが略H字状などに形成されているとともに、角筒状などに突設した部分をケース本体部21bに嵌合し取付片部に係止して取り付けられる。
【0024】
また、エアバッグ1は、複数枚の基布を縫い合わせて袋状に形成され、所定の形状に折り畳まれてケース体21のエアバッグ収納部に収納されている。そして、本実施の形態では、エアバッグ1は、図1及び図4に示すように、袋状の外殻を構成するエアバッグ本体部30が、2枚の基布すなわち乗員対向面部としての第1のパネル部31とパネル対向面部としての第2のパネル部32により形成されているとともに、このエアバッグ本体部30の内側に、隔壁部としての第1の隔壁35及び第2の隔壁36が配置され、さらに、防炎布などとも呼ばれる複数枚の補強布37,38,39が配置されている。
【0025】
そして、エアバッグ本体部30の第1のパネル部31と第2のパネル部32とは、互いに略同形状で、展開時に下側となる基端部30a側から上側となる先端部30b側に向けて幅寸法が大きくなる、基端部30a側及び先端部30b側の一部を除き外周部に沿った位置を外周縫合線41で縫い合わせて扁平な袋の外殻を構成している。
【0026】
また、第1の隔壁35及び第2の隔壁36は、バッフルとも呼ばれるもので、互いに同形状の帯状の基布で構成され、エアバッグ本体部30の内側に基端部30aから先端部30bに向かい第1の隔壁35から第2の隔壁36の順で互いに平行に配置されている。そして、これら第1の隔壁35及び第2の隔壁36により、エアバッグ本体部30の内側が複数の気室(チャンバ)に区画され、本実施の形態では、基端部30a側に位置する基部側気室44と、この基部側気室44の先端部30b側に位置する第1の気室45と、この第1の気室45の先端部30b側に位置する第2の気室46の3個の気室に区画されている。そして、第1の隔壁35及び第2の隔壁36は、エアバッグ本体部30の幅方向の全長を区画する長さ寸法を有し、長手方向に沿った両側縁をそれぞれ隔壁縫合線47,47,48,48で第1のパネル部31と第2のパネル部32とにそれぞれ略気密に縫い合わせて接合されているとともに、長手方向の両端部は外周縫合線41で略気密に縫い合わせて接合されている。
【0027】
さらに、これら第1の隔壁35及び第2の隔壁36には、それぞれ所定の間隔で、ガスが流通可能な通気孔である流通部49が例えば所定の直径寸法の円孔状に形成されている。すなわち、これら隔壁35,36により区画形成された3個の気室44,45,46については、互いに隣接する気室が各隔壁35,36で両側方向すなわち幅方向の全幅にわたって区画され、流通部49のみで所定の通気抵抗をもって連通するように構成されている。
【0028】
また、基部側気室44には、第1のパネル部31の内側面に重ねて1枚の補強布37が配置され複数の縫合線51で縫合されているとともに、第2のパネル部32の内側面に重ねて2枚の補強布38,39が配置され複数の縫合線52で縫合されている。そして、この基部側気室44には、第1のパネル部31、第2のパネル部32、及び補強布37,38,39を貫通して、2対の円孔状の取付孔54,55が複数形成されている。また、基端部30aから離間した側の取付孔54は、第2のパネル部32側のみに形成され、基端部30a側の取付孔55は、第1のパネル部31と第2のパネル部32とを貫通して形成されている。そして、基端部30aから離間した側の取付孔54に、基端部30a側の取付孔55を重ねるようにして折り線56で各基布を折り返すことにより、この折り線56と第1の隔壁35との間に基部側気室44が袋状に形成されている。そして、この基部側気室44には、インフレータ22が配置されガスが導入されて展開の起点となるガス導入部である基部58が設定されている。すなわち、基部58がガスの上流側であり、この基部58に供給されたガスは、基部側気室44から展開方向(図3及び図4に示す矢印C方向)に沿って順次下流側である第1の気室45、第2の気室46に供給されるようになっている。
【0029】
さらに、エアバッグ本体部30の先端部30bに位置し、エアバッグ1には、連通部61が形成されている。そして、この連通部61は、連通口62とフラップ部63とを備えている。そして、連通口62は、エアバッグ本体部30の展開時の上端部である先端部30bすなわち第2の気室46の先端部を外側に連通させるいわば排気口である開口で、エアバッグ本体部30すなわち第1のパネル部31及び第2のパネル部32と一体に、先端部30bの中央部からさらに下流側すなわち展開方向に延設された短い筒状に形成されている。また、フラップ部63は、折返し基布あるいは規制部などとも呼び得るもので、柔軟なシートで形成され、例えばエアバッグ本体部30を構成する各基布と同じあるいは同様の素材の1枚の基布により形成されている。そして、このフラップ部63は、幅方向に沿った寸法及び展開方向に沿った寸法は、それぞれ第2の気室46の平面形状より若干小さく設定されている。さらに、このフラップ部63は、幅方向すなわち長手方向に沿った1辺の両端部から展開方向の反対方向に延設された一対の取付片部65を備え、これら取付片部65が、外周縫合線41によりエアバッグ本体部30の第2の気室46に連結されているとともに、これら取付片部65の間の部分が、フラップ縫合線66により連通口62の筒状の部分で第1のパネル部31のみに縫合して連結されている。すなわち、エアバッグ1を平面上に広げた状態で、フラップ部63は、連通口62よりさらに展開方向に延設されるようになっている。
【0030】
次に、このエアバッグ装置2の組み立て工程を説明する。
【0031】
まず、エアバッグ1及びインフレータ22などを組み合わせ、組立体を構成する。この工程は、まず、インフレータ22を基端部30aの開口からエアバッグ本体部30の内側の基部側気室44の基部58に挿入し、インフレータ22の取付ボルト22bを一方の取付孔54から引き出す。そして、エアバッグ本体部30を基端部30a近傍の折り線56で折り返し、取付ボルト22bを他方の取付孔55に貫通させる。
【0032】
次いで、エアバッグ1を小さく折り畳み、必要に応じてラッピングを被せ折り畳み形状を保持し組立体を構成する。この折り畳みの際、連通部61は、図3に示すように筒状の連通口62の部分に設定された折返し線68により、第2のパネル部32側に折り返され、フラップ部63が第2のパネル部32の外面に沿って重ねられた状態とした後に、ロール状、蛇腹状、あるいはこれらを組み合わせた方法などで小さく折り畳む。
【0033】
次いで、この組立体を、開口部21aを介してケース体21に挿入し、ケース体21の底部に設けた取付孔に取付ボルト22bを貫通させ、ケース体21の外側からこの取付ボルト22bにナットを螺合して、組立体すなわちエアバッグ1及びインフレータ22などをケース体21に固定する。次いで、ケース体21にカバー体25を取り付け、開口部21aすなわちエアバッグ1を覆うことにより、エアバッグ装置2が構成される。
【0034】
そして、ケース体21のブラケットを、ボルト及びナットなどの取付具を用いて車体3の取付部材に固定し、カバー体25の表面部がパネル5と面一になるようにエアバッグ装置2を車体3に取り付けるとともに、インフレータ22に接続したハーネスを制御手段に電気的に連結することにより、エアバッグ装置2が車体3に設置される。
【0035】
次に、このエアバッグ装置2の展開動作を説明する。
【0036】
制御装置が自動車の正面衝突などの衝撃を検出すると、この制御装置はハーネスを通じて起動信号である電力を供給し、インフレータ22を作動させる。そして、インフレータ22からエアバッグ1内にガスが供給されると、エアバッグ1は、ケース体21の内側で膨張し、まず、ラッピングを破断し、次いで、カバー体25をテアラインで破断して、ケース体21から車室4に膨出し、さらに、パネル5に沿って展開方向である後側上方に膨張展開する。より詳細には、まず、インフレータ22から供給されるガスは、エアバッグ1のエアバッグ本体部30の基部側気室44の基部58に供給される。すると、まず、エアバッグ1は、基部58を含む基部側気室44が膨張展開を開始する。そして、基部側気室44がある程度膨張すると、第1の隔壁35の流通部49を介して、第1の気室45にガスが供給され、この第1の気室45にある程度膨張展開すると、第2の隔壁36の流通部49を介して第2の気室46にガスが供給され、第2の気室46が膨張展開する。
【0037】
そして、このように基部側気室44、第1の気室45、及び第2の気室46が膨張展開した展開初期の状態では、図1(a)に示すように、連通部61は、第2のパネル部32側に折り返され、この折返しにより、連通口62は仮に閉塞され、連通口62からのガスの流出は抑制された状態となっている。さらに、この展開初期の状態では、図1(a)に示すように、第2の気室46は、大柄な乗員の膝頭A1に対向する位置に設定され、図1(b)に示すように、第1の気室45は、小柄な乗員の膝頭B1に対向する位置に設定されている。
【0038】
このようにして、乗員の下肢部Aに沿って膨張展開したエアバッグ本体部30により、乗員の前側下方への滑り込みを防止して保護できる。
【0039】
さらに、図1(a)に示すように、座席に大柄な乗員が着席している場合には、乗員の下肢部A2はエアバッグ本体部30の先端部30b近傍まで当接し、乗員の膝頭A1は、第2の気室46に当接してこの第2の気室46をパネル5側に押し付ける。すると、この第2の気室46の部分の第2のパネル部32とパネル5との間にフラップ部63が挟まれた状態となり、連通部61の連通口62が折り返されて閉塞された状態に保持される。すると、エアバッグ本体部30の内側のガスは連通部61からエアバッグ1の外部に流出せず、エアバッグ1の内圧すなわちエアバッグ1の反力は比較的大きくなり、大柄な乗員を底付きすることのない適切な状態で保護できる。
【0040】
一方、図1(b)に示すように、座席に小柄な乗員が着席している場合には、乗員の下肢部B2はエアバッグ本体部30の先端部30b近傍まで当接せず、乗員の膝頭B1は、第1の気室45に当接する。すると、第2の気室46はパネル5に押し付けられず、このパネル5から若干離間するように揺動することも可能になり、フラップ部63は移動可能になる。すると、インフレータ22から供給されるガスの圧力及び押圧された第1の気室45から流動してくるガスの圧力により、連通部61の筒状の連通口62はフラップ部63を伴って展開方向に延びるように復帰変形し、連通口62が開口して、この連通口62からエアバッグ本体部30の内側のガスがエアバッグ1の外部に流出可能になる。そこで、エアバッグ1の内圧すなわちエアバッグ1の反力は比較的小さくなり、小柄な乗員を適切な状態で保護できる。
【0041】
このように、本実施の形態によれば、インストルメントパネル12の下方に配置され、パネル5の立面に沿ってエアバッグ1を展開し、着席した乗員の膝頭A1,B1を含む下肢部A2,B2を保護するいわゆるニーエアバッグ装置であるエアバッグ装置2について、自動車の衝突時にエアバッグ1のエアバッグ本体部30を着席した乗員の下肢部A2,B2に対向して膨張展開し、移動してくる乗員を拘束するとともに、パネル5など車体3側の部材との当接を抑制し、乗員を保護できる。
【0042】
そして、エアバッグ本体部30は、内側を区画して、異なる体格の乗員の膝頭A1,B1に対向する位置に膨張展開する複数の気室45,46を形成するとともに、上端側には連通口62を設けた連通部61を設け、この連通部61を折り返して閉塞している。そこで、大柄な乗員の場合には、乗員の膝頭A1は第2の気室46に当接し、この第2の気室46とパネル5との間に連通部61のフラップ部63を挟んで連通口62を閉じた状態に保持し、比較的大きな反力で乗員を適切に保護できる一方、小柄な乗員の場合には、乗員の膝頭B1は第1の気室45に当接し、連通部61を折り重ねられた状態が解除されて連通口62を開き、ガスを連通口62から流出させ、比較的小さな反力で乗員を適切に保護できる。このように、被保護物である乗員の膝頭A1,B1が当たる位置により、すなわち、乗員の体格に対応して、折り返した連通部61の挙動すなわち連通口62の開閉を制御し、展開特性を容易に調整でき、適切な保護特性すなわち反力を容易に実現できるという好ましい特性のエアバッグ装置2を提供できる。
【0043】
そして、連通部61は、短い筒状の連通口62と、この連通口62の部分に連結された1枚の基布であるフラップ部63で構成されるため、構造が簡略で、製造コストを低減できるとともに、小形化、軽量化を容易に実現できる。また、出力を変化可能なインフレータなどの装置を用いる必要がなく、構造を簡略化して製造コストを低減できる。
【0044】
また、連通部61は、フラップ部63がエアバッグ本体部30の第2の気室46とパネル5との間に広い面積で挟まれるため、乗員が第2の気室46に当接した際に、連通口62を確実に閉じた状態に保持でき、比較的大きな反力で乗員を保護できる。
【0045】
なお、フラップ部63は、図3に示す平面略四角状に限られず、連通部61を折り返した状態で、大柄な乗員の膝頭A1が当たる位置でかつ小柄な乗員の膝頭B1が当たらない位置に位置するものであれば、適宜の形状を採ることができる。
【0046】
また、連通部61は、必ずしもフラップ部63を設けず、上記の連通口62よりも展開方向に長く延設された筒状の連通口とし、この筒状の連通口を第2の気室46とパネル5との間に配置することもできる。
【0047】
さらに、連通部61は、エアバッグ本体部30の内部をエアバッグ1の外側に連通する構成の他、連通口を介して他の袋状の気室に連通する構成とし、いわば連通部をチャンバとすることもできる。
【0048】
例えば、図5及び図6に示す連通部71のように、エアバッグ本体部30の先端部30bから第1のパネル部31と第2のパネル部32とを所定の幅寸法で展開方向に延設するとともに、両側の外周縫合線41を一旦接近させた後に第1のパネル部31と第2のパネル部32との外周部に沿って延設することにより、エアバッグ本体部30の先端部30bの中央部に位置する連通口72と、この連通口72を介して第2の気室45に連通する第3の気室73を形成することができる。
【0049】
そして、この連通部71の第3の気室73は、平面状に潰した状態で、第2のパネル部32側に折り重ねることにより、フラップ部63と同様に、乗員の体格に応じて連通口72を開閉する機能を実現する。すなわち、大柄な乗員の場合は、膝頭A1が第2の気室46に当接し、この第2の気室46とパネル5との間に連通部71の第3の気室73がつぶれた状態で広い面積で挟まれて、連通口72が閉じた状態が確実に保持され、比較的大きな反力で乗員を保護できるとともに、小柄な乗員の場合は、膝頭B1が第1の気室45に当接し、第3の気室73が移動して連通口72が開口し、この連通口72からエアバッグ本体部30の内側のガスが第3の気室73に流出し、乗員が当接するエアバッグ本体部30の内圧すなわちエアバッグ1の反力は比較的小さくなり、小柄な乗員を適切な状態で保護できる。
【0050】
また、連通部71を袋状とすることにより、連通部71が折り重ねられた状態が解除され連通口72が開いた状態で、この連通口72から流出したガスが第3の気室73に導入されてこの第3の気室73を膨張展開させる。そこで、エアバッグ1の内部にガスを保持し、エアバッグ1の反力が小さくなりすぎることがなく、適切な反力で乗員を保護できるとともに、エアバッグ1が展開する面積をさらに広くすることができる。
【0051】
また、上記の各実施の形態において、連通口62,72は、複数個設定することもできる。例えば、図5に示す連通部71について、図7に示すように、3個の連通口72を設けることもできる。
【0052】
また、連通部61,71を構成する基布の表面の摩擦係数を調整することにより、連通口62,72の開閉の特性を調整できる。例えば、連通部61,71を折り返した状態で、車体3のパネル5側に接する面について、あるいは、第2の気室46の連通部61,71に接する面について、摩擦係数が大きいシリコーンラバーなどを塗布して摩擦係数を大きくすることにより、大柄な乗員が第2の気室46を押圧した際に、より確実に連通部61,71を挟持して保持し、連通口62,72が閉じた状態を維持できる。
【0053】
また、エアバッグ本体部30の形状、構成は適宜でき、例えば、第1の気室45及び第2の気室46のみを設け、あるいは、第1の気室45及び第2の気室46の他に複数の気室を設けることもできる。
【0054】
また、このエアバッグ1及びエアバッグ装置2は、インストルメントパネル12のパネル5に設ける構成の他、車両のシートの側部に設けられ、乗員の側方にエアバッグを膨張展開するいわゆるサイドエアバッグと呼ばれるエアバッグ装置に適用することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明は、車両に備えられるエアバッグ装置の他、車両以外の移動体に備えて乗員を保護するエアバッグ装置に適用することもできる。
【符号の説明】
【0056】
1 エアバッグ
2 エアバッグ装置
3 車両としての車体
5 所定面を構成するパネル
22 インフレータ
30 エアバッグ本体部
31 乗員対向面部としての第1のパネル部
32 パネル対向面部としての第2のパネル部
45 第1の気室
46 第2の気室
58 基部
61,71 連通部
62,72 連通口
63 フラップ部
73 第3の気室
A1,B1 膝頭
A2,B2 下肢部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスが導入され所定面に沿ってこの所定面と被保護物との間に膨張展開するエアバッグであって、
袋状をなしガスが導入されて前記所定面に沿って膨張展開する第1の気室と、
この第1の気室と連通する袋状をなしガスが導入されて前記第1の気室と異なる位置で前記所定面に沿って膨張展開する第2の気室と、
この第2の気室をこの第2の気室の外部に連通可能な連通口を備え、前記第2の気室が前記所定面に沿って膨張展開した時点で、前記第2の気室の前記所定面側に折り重ねられ前記連通口が閉じた状態となる連通部とを具備した
ことを特徴とするエアバッグ。
【請求項2】
連通部は、連通口を介して第2の気室に連通する第3の気室を備えた
ことを特徴とする請求項1記載のエアバッグ。
【請求項3】
第2の気室が所定面に沿って膨張展開した時点で、第3の気室が第2の気室の所定面側に重ねられた状態となる
ことを特徴とする請求項2記載のエアバッグ。
【請求項4】
連通部は、連通口より延設されたフラップ部を備え、
第2の気室が所定面に沿って膨張展開した時点で、前記フラップ部が第2の気室の所定面側に重ねられた状態となる
ことを特徴とする請求項1記載のエアバッグ。
【請求項5】
請求項1ないし4いずれか一記載のエアバッグと、このエアバッグにガスを供給するインフレータとを具備し、
車両に備えられ、前記エアバッグを着席した乗員の膝頭を含む下肢部に対向し所定面を構成するパネルに沿って膨張展開させるエアバッグ装置であって、
前記エアバッグは、前記乗員側に対向する乗員対向面部及び前記パネル側に対向するパネル対向面部とを備えて第1の気室及び第2の気室を構成するエアバッグ本体部を具備し、このエアバッグ本体部は、前記インフレータからガスが供給される基部を備え、前記第1の気室及び第2の気室に対しこの基部の反対側に位置する先端側に連通口が設けられた
ことを特徴とするエアバッグ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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