説明

エアバッグ用基布およびその製造方法

【課題】
本発明は、リップストップ組織特有の高い機械的特性を維持しつつ、低通気度を有するエアバッグ用基布およびその製造方法を提供せんとするものである。
【解決手段】
本発明のエアバッグ基布は、1.0〜10.0cmの間隔でリップストップ組織を有する合成繊維織物であって、該織物を構成する地糸のみからなる織物の引裂強力に対して、タテ方向およびヨコ方向共に5%以上大きい引裂強力を有し、かつ、該織物の通気度が、試験差圧ΔP=19.6kPaで測定した時、1.20L/cm/min以下であることを特徴とするものである。
また、本発明のエアバッグ用基布の製造方法は、織物生地の状態において2〜15%の沸水収縮率を有する合成繊維を用いて、1.0〜10.0cmの間隔でリップストップ組織を有する形で製織された合成繊維織物を、60〜140℃の温度範囲内で水浴中で収縮処理を行うことを特徴とするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自動車用安全装置の一つであるエアバッグにおいて、リップストップ組織特有の高い機械的特性を維持しつつ、低通気度を有するエアバッグ用基布およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車安全部品の一つとしてエアバッグは乗員の安全意識の向上に伴い、急速に装着率が向上している。エアバッグは自動車の衝突事故の際、衝撃をセンサーが感知し、インフレーターから高温、高圧のガスを発生させ、このガスによってエアバッグを急激に展開させ、乗員保護に役立つものである。
【0003】
従来、ノンコートエアバッグ用基布には、総繊度が300〜1000dtexのポリアミド繊維糸を用いた高密度平織物が用いられていた。一部の平織物には、耐熱性、難燃性、空気遮断性などの向上のため、クロロプレン、シリコーンなどの合成ゴムなどのエラストマー樹脂を塗布、積層し用いられていた。
【0004】
しかしながら、ノンコートエアバッグ用基布として平織物を用いた場合、基布表面からの通気性に加え、低い引裂強度のため、エアバッグ展開時に縫製部目ズレによる空気漏れが発生し、インフレーターから発生する空気を有効に利用できない等の問題点があった。また、コーティング基布を使用した場合、ノンコートエアバッグ用基布の欠点である基布表面からの通気性はほぼゼロとなるものの、低い引裂強度のための目ズレに関しては依然として発生するため、縫製部にシール剤を塗布するなどの対策が取られてきた。これらの対策により、基布重量の増加、柔軟性の低下、製造コストの増加、リサイクル不可のため、エアバッグ用基布に使用するには不具合な点が多かった。
【0005】
そこで、特許文献1ではノンコートエアバッグ用基布において、水浴中にて収縮処理を行うことによる、通気性を改善する製造方法が開示されているが、平組織の織物であり、縫製部の目ズレを示す指標である引裂強度を改善するには至っておらず、依然として縫製部からの通気については満足のいくノンコートエアバッグ用基布ではなかった。
【0006】
また、特許文献2では織物に合成樹脂をコーティングすることで、基布表面からの通気性を改善し、リップストップ組織とすることで裁断・縫製時のほつれを改善することによる、縫製部からの低通気性を改善するエアバッグ用基布が開示されているが、合成樹脂を塗布しているため、基布重量の増加、柔軟性の低下、製造コストの増加、リサイクル不可等の問題点も多かった。
さらに、特許文献3ではノンコートエアバッグ用基布において、バッグ収納性を改善する技術が開示されており、好ましくはリップストップ組織に製織することにより、織り組織の自由度が増すために基布の柔軟性が向上するとの技術開示がある。確かにリップストップ組織とすることで、織り組織の自由度が増し、柔軟性は向上するが、同時に通気度が高くなり、エアバッグ展開時に乗員を拘束する性能において劣る結果となり、また該文献には、リップストップ組織に製織することにより、通気度が高くなることに対して、通気度を低くする技術手段の開示はない。
【特許文献1】特許第2556624号明細書
【特許文献2】特開平11−293541号公報
【特許文献3】特開平2000−211459号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、かかる従来のエアバッグの欠点に鑑み、リップストップ組織特有の高い機械的特性を維持しつつ、低通気度を有するエアバッグ用基布およびその製造方法を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、かかる課題を解決するために、次のような手段を採用する。すなわち、本発明のエアバッグ基布は、1.0〜10.0cmの間隔でリップストップ組織を有する合成繊維織物であって、該織物を構成する地糸のみからなる織物の引裂強力に対して、タテ方向およびヨコ方向共に5%以上大きい引裂強力を有し、かつ、該織物の通気度が、試験差圧ΔP=19.6kPaで測定した時、1.20L/cm/min以下であることを特徴とするものである。
また、本発明のエアバッグ用基布の製造方法は、織物生地の状態において2〜15%の沸水収縮率を有する合成繊維を用いて、1.0〜10.0cmの間隔でリップストップ組織を有する形で製織された合成繊維織物を、60〜140℃の温度範囲内で水浴中で収縮処理を行うことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、リップストップ組織特有の高い機械的特性を維持しつつ、低通気度を有するエアバッグ用基布を提供することができるため、エアバッグによる乗員保護システムの普及を促進させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明は、前記課題、つまりリップストップ組織特有の高い機械的特性を維持しつつ、低通気度を有するエアバッグ用基布について、鋭意検討し、1.0〜10.0cmの間隔でリップストップ組織を有する合成繊維織物を沸水収縮させてみたところ、かかる課題を一挙に解決することができることを究明したものである。
【0011】
すなわち、本発明は、リップストップ組織を有するエアバッグ用基布を、さらに、沸水収縮させて、該リップストップ組織部分をしっかり固定するところに特徴を有するものである。
【0012】
したがって、かかるエアバッグ用基布に使用される合成繊維としては、織物生地の状態において2〜15%の沸水収縮率を惹起するものであることが重要である。沸水収縮が15%より大きいと織物の形態安定性が劣り、耐環境性すなわち耐熱性、耐湿熱性などの面で好ましくない。反面、沸水収縮率が2%未満では、製織した生機を60〜140℃で水浴処理を行っても、十分な収縮が発現せず、通気度が高くなる恐れがある。また合成繊維の製造過程中の延伸工程にて糸切れ、単糸切れによる毛羽の原因となり、合成繊維の強伸度特性を損ない、繊維製造時の操業性面および織物製織時の工程通過性の悪化、単糸切れによる織物品位の低下を招く恐れがある。
【0013】
かかる合成繊維としては、かかる収縮率を有するものであればよく、たとえばポリオレフィン、ポリアミド、ポリエステル、ポリアクリロニトリルあるいはそれらからなる共重合体などの素材からなる合成繊維を使用することができる。それらの中でも、エアバッグ搭載車が地球上で通常使用されるあらゆる環境、例えば、砂漠地帯のような高温地帯や薬品を積載し使用するような環境に耐えられるように、耐熱性あるいは耐アミン性に優れたポリエステルあるいはそれらの共重合体などからなるポリエステル系合成繊維が実用上好ましく使用される。
【0014】
かかる合成繊維には、原糸の製造工程や加工工程での生産性あるいは特性改善のために通常使用されている各種添加剤を含んでもよい。例えば、熱安定剤、酸化防止剤、光安定剤、平滑剤、帯電防止剤、可塑剤、増粘剤、顔料および難燃剤などを含有せしめることができる。
【0015】
本発明のエアバッグ用基布を構成する織糸の総繊度は、200〜600dtexの範囲内のものが、引裂強力や通気度の上から好ましく使用される。かかる織糸とは、地糸および下記リップストップ糸を意味するものである。
【0016】
本発明のエアバッグ用基布は、織物生地の状態において2〜15%の沸水収縮させて、該リップストップ組織部分をしっかり固定するものであるが、かかるリップストップ組織としては、1.0〜10.0cmの間隔で有するものが、該織物生地の引裂強力や通気度、さらにエアバッグ展開時の縫製部目ズレを減少させる上から重要である。
【0017】
かかるリップストップ組織とは、平織組織を構成するタテ糸及び/またはヨコ糸のうち、特定ピッチで、製織時に2本以上の糸(リップストップ糸)を並べて、格子模様、ストライプ模様に製織された織物とするか、あるいは製織前に地糸の繊度に比べて太いあるいは細い繊度の糸(リップストップ糸)を準備した後、製織した格子模様、ストライプ模様を有する織物であり、衣料用途分野では該模様を構成するリップストップ糸は、地糸と同一の糸を複数本並べて用いられるが、エアバッグ用基布として用いる場合には、地糸の総繊度と異なる総繊度のリップストップ糸を用いることが好ましく、さらに好ましくはリップストップ糸の総繊度が地糸の総繊度に対して1.2〜1.5倍程度大きいものを用いるのがよい。地糸を複数本並べてリップストップ糸とした場合、地糸との繊度差は2倍以上となり、織物組織の自由度が増加するため、通気度が高くなる場合がある。逆にリップストップ糸が地糸の総繊度よりも小さいものを用いた場合、組織の自由度は減少する方向となり、通気度は低くなるが、引裂強力の低下が発生する場合がある。
【0018】
かかるリップストップ糸を導入する間隔を1.0cmより狭くすると、引裂強力は地糸を用いて平組織に製織した織物比べ増大するが、リップストップ糸と地糸とが隣り合っている部分が増加するため、通気度が高くなり。またリップストップ糸を導入する間隔を10.0cmより広くすると、引裂強力を向上させる効果が低くなる場合がある。
【0019】
なお、かかるリップストップ糸を、該織物のタテ糸方向にのみに、好ましくは間欠的に使用することによって、ストライプ模様の織物とすることができるが、かかる織物とすることでも、引裂強力を向上させることができる。かかる特定組織の織物は、ドビー開口を用いず、またヨコ糸を入れる装置が1つで良いため、設備投資額が少額となり、さらには製織速度が平組織を製織する場合と、同じ速度で製織することが可能となり、コスト面において有利となる。
【0020】
本発明のエアバッグ用基布は、沸水収縮後の特性として、該織物を構成する地糸のみからなる織物の引裂強力に対して、タテ方向およびヨコ方向共に5%以上大きい引裂強力を有すること、ならびに、該織物の通気度が、試験差圧ΔP=19.6kPaで測定した時、1.20L/cm/min以下であることの、これら2つの要件を満たすことが、エアバッグとしての機能の上から重要である。かかる特性は、前記特定構成要件、組織からなるエアバッグ用基布を沸水収縮させることにより製造される。
すなわち、本発明のエアバッグ用基布の製造方法は、織物生地の状態において2〜15%の沸水収縮率を有する合成繊維を用いて、1.0〜10.0cmの間隔でリップストップ組織を有する形で製織された合成繊維織物を、60〜140℃の温度範囲内で水浴中で収縮処理を行うものである。
【0021】
本発明のエアバッグ用基布は、60〜140℃の温度範囲内で水浴中での収縮処理を行うことにより、通気度が試験差圧ΔP=19.6kPaで測定時1.2L/cm/min以下というエアバッグ用基布として使用するために、十分な低通気性を実現することが可能である。該温度範囲内での水浴処理を実施すると、合成繊維および基布の収縮が発現し、収縮による圧縮により織物の細孔閉鎖が発生する。これにより、試験差圧ΔP=19.6kPaで測定時1.20L/cm/min以下の低通気性を有するエアバッグ用基布を得ることができる。
【0022】
かかる水浴中での処理には、80〜100℃の温度範囲が特に好ましい。その理由は、この温度範囲は、1.00L/cm/min以下という低通気性を実現するため必要な収縮は80℃以上で行うことにより、得ることができるからである。100〜140℃以上で処理を行うことでも、1.00L/cm/min以下という低通気性を実現することができる。しかしながら、100℃より上の温度で作業する場合、HTジッガー等の機械を持ちなければならず、一般的に織布の精練で用いられているオープンソーパー型連続精練機液流型染色機、浴中懸垂型連続処理機、ウインス染色機およびソフサー精練機などを使用することができず、コスト面において不利となる。60℃より低い温度で水浴処理を行うと、十分な収縮が得られず1.20L/cm/minより高い通気度となる。140℃より高い温度での水浴処理はHTジッガーでは処理できない場合があり、現実的な条件ではない。
【0023】
ここに記載したエアバッグ用基布は、非常に簡単かつコスト的に有利に、リップストップ組織特有の高い機械的特性を維持しつつ、低い通気性を有した織物を得ることができるという利点がある。
【実施例】
【0024】
次に実施例により、本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例中における各評価は、下記の方法に従って行った。
【0025】
[沸水収縮率]
JIS L1013(8.18.1)(1999年)に基づき求めた。
【0026】
[密度]
JIS L1096(8.6.1)(1999年)に基づき求めた。
【0027】
[目付]
タテ1m、ヨコ1mの布帛の重量を測定し、目付を求めた。
【0028】
[引張強力]
JIS L1096(8.12.1A法)(1999年)に基づき、織布幅は5cm引張つかみ間隔20cm、引張速度100mm/minで引っ張ったときの破断強力を測定した。測定結果はN/cm換算した。
【0029】
[伸度]
JIS L1096(8.12.1A法)(1999年)に基づき求めた。
【0030】
[引裂強力]
JIS L1096(8.15.2A−2法)(1999年)に基づき、引張速度200mm/minで引っ張ったときの引裂強力を求めた。
【0031】
[通気度]
流体(空気)を19.6kPaの圧力に調整して流し、単位面積(cm)および単位時間(min)に通過した空気流量(L)を通気度(L/cm/min)とした。
【0032】
(実施例1)
繊度350dtex、フィラメント数72本、沸水収縮率8.5%のナイロン6・6繊維を地糸、繊度470dtex、フィラメント数72本、沸水収縮率8.5%のナイロン6・6繊維をリップストップ糸として用い、ウォータージェットルームにてタテ糸およびヨコ糸の織り密度は57本/2.54cmで1.5cmの格子模様のリップストップ組織の生機を得た。
【0033】
次いで、オープンソーパー型連続精練機液流型染色機にて界面活性剤を含んだ90℃の熱水で精練・リラックス処理し、130℃で乾燥させ、180℃でヒートセットし、タテ糸ならびにヨコ糸密度が59本/2.54cmの織物を得た。
【0034】
表1に原糸特性、原糸操業性および得られた織物特性、品位をまとめた。
【0035】
表1の結果から明らかなように、原糸の沸水収縮率が8.5%であり、織物を1.5cm間隔のリップストップ組織とすることで引裂強力が地糸を用いて平組織に製織した基布の引裂強力に対してタテ方向およびヨコ方向共に5%以上大きく、通気度が0.82L/cm/minとなり、リップストップ組織特有の高い機械的特性を維持しつつ、低通気度を有していた。
【0036】
得られた、エアバッグ用基布を展開したところ、自動車事故発生時に乗員を保護するために、十分な内圧を保持しており、またバッグが破れる等の不具合についても発生しなかった。
【0037】
(実施例2)
実施例1に記載の生機を、HTジッガーにて界面活性剤を含んだ120℃の熱水で精練・リラックス処理し、130℃で乾燥させ、180℃でヒートセットし、タテ糸ならびにヨコ糸密度が59本/2.54cmの織物を得た。
【0038】
実施例1と同様の評価を行い、結果を表1に示した。
【0039】
表1から明らかなように、原糸の沸水収縮率が8.5%であり、織物を1.5cm間隔のリップストップ組織とすることで引裂強力が地糸を用いて平組織に製織した基布の引裂強力に対してタテ方向およびヨコ方向共に5%以上大きく、通気度が0.79L/cm/minとなり、リップストップ組織特有の高い機械的特性を維持しつつ、低通気度を有していた。
【0040】
得られた、エアバッグ用基布を展開したところ、自動車事故発生時に乗員を保護するために、十分な内圧を保持しており、またバッグが破れる等の不具合についても発生しなかった。
【0041】
(実施例3)
繊度350dtex、フィラメント数72本、沸水収縮率8.5%のナイロン6・6繊維を地糸、繊度235dtex、フィラメント数36本、沸水収縮率8.5%のナイロン6・6繊維を2本並べてタテ糸リップストップ糸として用い、ウォータージェットルームにてヨコ方向のリップストップ部の打ち込みが同口2本入れで、タテ糸およびヨコ糸の織り密度は57本/2.54cmで1.5cmの格子模様のリップストップ組織の生機を得た。
【0042】
次いで、実施例と同様の処理を行い、タテ糸ならびにヨコ糸密度が59本/2.54cmの織物を得た。
【0043】
実施例1と同様の評価を行い、結果を表1に示した。
【0044】
表1から明らかなように、原糸の沸水収縮率が8.5%であり、織物を1.5cm間隔のリップストップ組織とすることで引裂強力が地糸を用いて平組織に製織した基布の引裂強力に対してタテ方向およびヨコ方向共に5%以上大きく、通気度が0.73L/cm/minとなり、リップストップ組織特有の高い機械的特性を維持しつつ、低通気度を有していた。
【0045】
得られた、エアバッグ用基布を展開したところ、自動車事故発生時に乗員を保護するために、十分な内圧を保持しており、またバッグが破れる等の不具合についても発生しなかった。
【0046】
(実施例4)
繊度350dtex、フィラメント数72本、沸水収縮率8.5%のナイロン6・6繊維を地糸、繊度470dtex、フィラメント数72本、沸水収縮率8.5%のナイロン6・6繊維をリップストップ糸として用い、ウォータージェットルームにてタテ糸およびヨコ糸の織り密度は57本/2.54cmでタテ方向にのみリップストップ糸を用いて1.5cmのストライプ模様のリップストップ組織の生機を得た。
【0047】
次いで、実施例2と同様の処理を行い、タテ糸ならびにヨコ糸密度が59本/2.54cmの織物を得た。
【0048】
実施例1と同様の評価を行い、結果を表1に示した。
【0049】
表1から明らかなように、原糸の沸水収縮率が8.5%であり、織物を1.5cm間隔のリップストップ組織とすることで引裂強力が地糸を用いて平組織に製織した基布の引裂強力に対してタテ方向およびヨコ方向共に5%以上大きく、通気度が0.80L/cm/minとなり、リップストップ組織特有の高い機械的特性を維持しつつ、低通気度を有していた。
【0050】
得られた、エアバッグ用基布を展開したところ、自動車事故発生時に乗員を保護するために、十分な内圧を保持しており、またバッグが破れる等の不具合についても発生しなかった。
【0051】
(実施例5)
繊度350dtex、フィラメント数72本、沸水収縮率8.5%のナイロン6・6繊維を地糸、リップストップ糸としては2本用い、ウォータージェットルームにてタテ糸およびヨコ糸の織り密度は57本/2.54cmでタテ方向にのみリップストップ糸を用いて、ウォータージェットルームにて、ヨコ方向のリップストップ部の打ち込みが同口2本入れで、タテ糸およびヨコ糸の織り密度は57本/2.54cmで1.5cmの格子模様のリップストップ組織の生機を得た。
【0052】
次いで、実施例と同様の処理を行い、タテ糸ならびにヨコ糸密度が59本/2.54cmの織物を得た。
【0053】
実施例1と同様の評価を行い、結果を表1に示した。
【0054】
表1から明らかなように、原糸の沸水収縮率が8.5%であり、織物を1.5cm間隔のリップストップ組織とすることで引裂強力が地糸を用いて平組織に製織した基布の引裂強力に対してタテ方向およびヨコ方向共に5%以上大きく、通気度が0.94L/cm/minとなり、リップストップ組織特有の高い機械的特性を維持しつつ、低通気度を有していた。
【0055】
得られた、エアバッグ用基布を展開したところ、自動車事故発生時に乗員を保護するために、十分な内圧を保持しており、またバッグが破れる等の不具合についても発生しなかった。
【0056】
(比較例1)
繊度350dtex、フィラメント数72本、沸水収縮率1.5%のナイロン6・6繊維を地糸、繊度470dtex、フィラメント数72本、沸水収縮率1.5%のナイロン6・6繊維をリップストップ糸として用い、実施例1と同様の製織および処理を行い、タテ糸ならびにヨコ糸密度が59本/2.54cmのエアバッグ用基布を得た。
【0057】
実施例1と同様の評価を行い、結果を表1に示した。
【0058】
表1から明らかなように、得られた織物の通気度は1.20L/cm/min以上であり、原糸製造時の操業性についても糸切れが多発し、毛羽による織物品位も悪く、エアバッグ用基布として使用するには、機械的特性としては問題ないが、通気性が高く、また品位についても悪いため、エアバッグ用基布として使用した場合、乗員を保護するために必要な内圧を保持できない懸念のある材料となった。
【0059】
(比較例2)
繊度350dtex、フィラメント数72本、沸水収縮率16.5%のナイロン6・6繊維を地糸、繊度470dtex、フィラメント数72本、沸水収縮率16.5%のナイロン6・6繊維をリップストップ糸として用い、実施例1と同様の製織および処理を行い、タテ糸ならびにヨコ糸密度が59本/2.54cmのエアバッグ用基布を得た。
【0060】
実施例1と同様の評価を行い、結果を表1に示した。
【0061】
表1から明らかなように、得られた織物の通気度は1.20L/cm/min以上であり、生機については巾浮動が発生し、生機を加工した後も、同様の巾浮動のため品位も悪く、エアバッグ用基布として使用するには、機械的特性としては問題ないが、通気性が高く、またバッグ縫製後も形状が安定せず品位が悪いため、エアバッグ用基布として使用した場合、乗員を保護するために必要な内圧を保持できない懸念のある材料となった。
【0062】
(比較例3)
実施例1の生機について、オープンソーパー型連続精練機液流型染色機にて界面活性剤を含んだ40℃の熱水で精練・リラックス処理し、130℃で乾燥させ、180℃でヒートセットし、タテ糸ならびにヨコ糸密度が59本/2.54cmの織物を得た。
【0063】
実施例1と同様の評価を行い、結果を表1に示した。
【0064】
表1から明らかなように、得られた織物の通気度は1.20L/cm/min以上であり、エアバッグ用基布として使用するには、機械的特性としては問題ないが、通気性が高いため、エアバッグ用基布として使用した場合、乗員を保護するために必要な内圧を保持できない懸念のある材料となった。
【0065】
(比較例4)
実施例1と同様の原糸を用い、15.0cmの格子模様のリップストップ組織の生機を得た。次いで、実施例1と同様の処理を行い、タテ糸ならびにヨコ糸密度が59本/2.54cmの織物を得た。
【0066】
実施例1と同様の評価を行い、結果を表1に示した。
【0067】
表1から明らかなように、得られた織物は10.0cm間隔のリップストップ組織としたため、引裂強力が地糸を用いて平組織に製織した基布の引裂強力に対してタテ方向およびヨコ方向共に5%以上向上せず、エアバッグ用基布として使用するには、基布表面の通気性としては問題ないが、引裂強力が低いため、エアバッグ用基布として使用した場合、自動車事故発生時にバッグ破れるまたは、縫製部からの通気度が高く、乗員を保護するために必要な内圧を保持できない懸念のある材料となった。
【0068】
(比較例5)
繊度350dtex、フィラメント数72本、沸水収縮率8.5%のナイロン6・6繊維を用い、ウォータージェットルームにて実施例1と同様の密度の平組織の生機を得た。次いで、実施例1と同様の処理を行い、タテ糸ならびにヨコ糸密度が59本/2.54cmの織物を得た。
【0069】
実施例1と同様の評価を行い、結果を表1に示した。
【0070】
表1から明らかなように、得られた織物はリップストップ組織としていないため、エアバッグ用基布として使用するには、基布表面の通気性としては問題ないが、引裂強力が低いため、エアバッグ用基布として使用した場合、自動車事故発生時にバッグ破れるまたは、縫製部からの通気度が高く、乗員を保護するために必要な内圧を保持できない懸念のある材料となった。
【0071】
【表1】

【0072】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明は、リップストップ組織特有の高い機械的特性を維持しつつ、低通気度を有しており、エアバッグによる乗員保護システムを普及促進させることができ有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1.0〜10.0cmの間隔でリップストップ組織を有する合成繊維織物であって、該織物を構成する地糸のみからなる織物の引裂強力に対して、タテ方向およびヨコ方向共に5%以上大きい引裂強力を有し、かつ、該織物の通気度が、試験差圧ΔP=19.6kPaで測定した時、1.20L/cm/min以下であることを特徴とするエアバッグ用基布。
【請求項2】
該織物の通気度が、試験差圧ΔP=19.6kPaで測定した時、1.00L/cm/min以下であることを特徴とする請求項1記載のエアバッグ用基布。
【請求項3】
該織物を構成するの織糸の総繊度が、200〜600dtexの範囲内であることを特徴とする請求項1または2記載のエアバッグ用基布。
【請求項4】
該織物を構成する地糸の総繊度が、リップストップ組織を構成するリップストップ糸の総繊度と同一ではないことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のエアバッグ用基布。
【請求項5】
該織物のタテ糸として、該リップストップ糸を使用することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のエアバッグ用基布。
【請求項6】
該リップストップ糸が、該織物のタテ糸として間欠的に使用されていることを特徴とする請求項5に記載のエアバッグ用基布。
【請求項7】
該織物が、ノンコートであることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のエアバッグ用基布。
【請求項8】
織物生地の状態において2〜15%の沸水収縮率を有する合成繊維を用いて、1.0〜10.0cmの間隔でリップストップ組織を有する形で製織された合成繊維織物を、60〜140℃の温度範囲内で水浴中で収縮処理を行うことを特徴とするエアバッグ用基布の製造方法。
【請求項9】
該収縮処理が、80〜100℃の温度範囲内で水浴中で行うことを特徴とする請求項8に記載のエアバッグ用基布の製造方法。

【公開番号】特開2007−23410(P2007−23410A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−206590(P2005−206590)
【出願日】平成17年7月15日(2005.7.15)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】