説明

エアバッグ用基布及びエアバッグ

【課題】あらゆる方向からの引張に対して十分な強度を備えたエアバッグ用基布を提供でき、これにより乗員保護の面においてより信頼性の高いエアバッグを提供する。
【解決手段】合成繊維織物の少なくとも片面が樹脂で被覆されたエアバッグ用基布において、該織物のカバーファクターが1800〜1950であり、かつ該基布の引張強度の最小値が120N/cm以上であることを特徴とするエアバッグ用基布。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両衝突時の衝撃から乗員を保護するエアバッグ用基布及びエアバッグに関するものであり、さらに詳しくは、あらゆる方向からの引張に対して十分な強度を備えたエアバッグ用基布及びエアバッグに関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車事故発生の際に衝撃から乗員を保護するエアバッグ装置の実用化が急速に進んでいる。さらに近年においては、運転席用、助手席用エアバッグのみならず、サイドバッグやカーテンバッグなどの搭載車も今後急激な増加が見込まれている。それに伴い、ここにきてバッグの軽量化や収納性の面における改善への取り組みがより活発におこなわれるようになってきた。
【0003】
このような課題に対して特許文献1には、フィラメント糸の繊度が100〜250dであり、かつ付加型シリコーンゴムコーティング剤を溶剤で希釈することなく、5〜35g/mの塗工量で塗布することにより、エアバッグモジュールのコンパクト化及び軽量化に有効なエアバッグ用基布が開示されている。この提案により得られるエアバッグ用基布はバッグの軽量化や収納性の面についてはかなり改善されているものの、バックの軽量化による引張強度の低下という新たな問題については議論がなされていない。
【0004】
引張強度については一般的に基布のタテ及びヨコ方向について検討されるが、特許文献2では基布のバイアス方向の引張強度についての検討がされている。ここで検討されているように引張強度は基布のタテ及びヨコ方向に比べ、バイアス方向では大幅な低下がみられるが、本発明者らが鋭意検討した結果、必ずしも基布のバイアス方向の引張強度が基布の引張強度の最小値となるわけではなく、基布のバイアス方向の引張強度に注目する方法ではあらゆる方向からの引張に対して十分な強度を備えたエアバッグ用基布を作製することは難しいことが分かった。
【0005】
【特許文献1】特開2001−138849号公報
【特許文献2】特開2004−190158号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、これら課題を鑑みてなされたものであり、あらゆる方向からの引張に対して十分な強度を備えたエアバッグ用基布及びエアバッグを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、合成繊維織物の少なくとも片面が樹脂で被覆されたエアバッグ用基布において、該織物のカバーファクターが1800〜1950であり、かつ該基布の引張強度の最小値が120N/cm以上であるエアバッグ用基布に関する。
【0008】
また前記エアバッグ用基布の45°の引張強度と引張強度の最小値との差が20N/cm以内であることが好ましい。
【0009】
また前記合成繊維織物が平織物であることが好ましい。
【0010】
そして前記エアバッグ用基布を用いたエアバッグが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、あらゆる方向からの引張に対して十分な強度を備えたエアバッグ用基布を提供でき、これにより乗員保護の面においてより信頼性の高いエアバッグを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明は、合成繊維織物の少なくとも片面が樹脂で被覆されたエアバッグ用基布において、該織物のカバーファクターが1800〜1950であり、かつ該基布の引張強度の最小値を120N/cm以上にすることにより上述課題を達成出来ることを究明したものである。
【0013】
ここで基布の引張強度の最小値とは、図1に示すように本発明におけるエアバッグ用基布のタテ方向の角度を0°とし、45°方向までを9°間隔で計6方向に分割して各引張強度を測定したときに引張強度が最小となるものとした。図2は基布の各角度と引張強度の関係を示したものであり、ここでは36°における引張強度が最小値となっている。
【0014】
このように引張強度の最小値が予想される45°方向の測定値ではなく、45°方向からずれた角度のものになる理由については、まず角度0°(または90゜)では基布の目ズレはおこらないために基布の引張強度のみが単純に測定値に反映されるが、それ以外の角度であれば、測定値に基布の目ズレが反映されるものと考えられる。つまりその基布の目ズレが角度45°の場合よりもそれ以外の角度(ここでは角度36°)で大きくなるためであると推測される。
【0015】
本発明においてはこの引張強度の最小値が120N/cm以上となることが必要であり、好ましくは130N/cm以上であり、さらに好ましくは140N/cm以上である。引張強度の最小値が120N/cm未満である場合、張力によって目ズレなど織り組織の変形が発生し易く、バックにした場合、展開時の圧力や衝撃によってバックが破断するなどの危険性が高くなる。
【0016】
さらには、45°の引張強度と引張強度の最小値との関係が、その差が20N/cm以内であることが好ましい。差が20N/cmより大きくなると強度変化が極端に不安定となるおそれがある。
【0017】
また基布のタテ(0°)及びヨコ(90°)方向の引張強度については、500N/cm以上となることが様々なバッグの形状や強力なインフレータの使用下においてもバッグが破断することなく適用できる点で好ましい。
【0018】
なお本発明の引張強度については、JIS L1096(8.12.1A法)に基づき、織物幅は3cm、引張つかみ間隔10cm、引張速度100mm/minで引っ張った時の織物の破断強力を測定したものである。
【0019】
また本発明における合成繊維織物としては、ナイロン66、ナイロン6、ナイロン12、ナイロン46などのポリアミド繊維やポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル繊維から構成される合成繊維織物が、経済性や強度の点から好適に用いられる。
【0020】
織物を構成する糸の総繊度は160〜700dtexであることが好ましい。160dtex未満であるとエアバッグの強度の面で問題があり、700dtexより大きいとエアバッグの収納性の面で問題がある。
【0021】
織物を構成する糸の単糸繊度は3〜8dtexであることが好ましい。3dtex未満であると織物の引裂強度の面で問題があり、8dtexより大きいと織物の柔軟性の面で問題がある。
【0022】
また、織物の構造としては、平織、綾織、朱子織およびこれらの変化織、多軸織などの織物が使用されるが、これらの中でも、特に、機械的特性に優れることから平織物が好ましい。
【0023】
また、織物のカバーファクターはエアバッグ用基布もしくはエアバッグにされた状態において1800〜1950であることがバッグの軽量化や収納性の面で必要である。カバーファクターが1800より小さいとバッグ収納性面では好ましいが、引張強度が低下してしまい問題が生じる。また、カバーファクターが1950より大きいと引張強度の面では好ましいが、織物に柔軟性が無くなってしまい、バッグ収納性面で問題が生じる。ここで、カバーファクターとは基布のタテ糸総繊度をD1(dtex)、タテ糸密度をN1(本/2.54cm)とし、ヨコ糸総繊度をD2(dtex)、ヨコ糸密度をN2(本/2.54cm)とすると(D1×0.9)1/2×N1+(D×0.9)1/2×Nで表される。
【0024】
本発明のエアバッグ用基布は、このような合成繊維織物の少なくとも片面が樹脂で被覆されていることが必要である。すくなくとも片面を樹脂で被覆することによりエアバッグ用基布の通気度を下げ、空気遮断性を持たせることが出来、また基布の引張強度の最小値を高くすることができる。本発明に用いられる樹脂については特に限定はされないが、中でも耐熱性、耐寒性および難燃性に優れるという点でシリコーン樹脂が好ましい。
【0025】
本発明において樹脂を被覆する方法としてはコーティング方式を採用するが、なかでも布帛を柔軟性のあるベッド上を通して塗布用ナイフを上から一定圧で押さえつけた状態でコーティングをおこなう所謂、ナイフオーバーベッド方式を採用する。この方法によれば、コート時、布帛に対してナイフより圧力がかかっているため、織物の目合い部への樹脂の浸透、積層が高まり、これによって基布の引張強度の最小値を高くすることができる。またこの方法であれば樹脂を効率的に織物に塗布することが出来、塗布量も比較的少量で済むため、バッグの収納性や柔軟性等への悪影響も防ぐことができる。
【0026】
このようにして作製される本発明のエアバッグ用基布は、目付が220g/m以下、厚さが0.30mm以下であるものが、さらには目付が210g/m以下、厚さが0.28mm以下であるものが、バッグの軽量化や収納性の面から好ましく用いられる。
【0027】
また、本発明のエアバッグ用基布は、運転席用、助手席用、後部席用、側突用、ニーエアバッグなど各種エアバッグに使用することができる。
【実施例】
【0028】
次に本発明について実施例を挙げて説明するが、本発明は必ずしもその実施例に限定されるものではない。
評価方法を以下に示す。
【0029】
(1)引張強度
基布のタテ方向、ヨコ方向及び基布のタテ方向を0°とし、0°〜45°方向までを9°間隔で計6方向に分割した各引張強度をJIS L1096(8.12.1A法)に基づき、織物幅は3cm、引張つかみ間隔10cm、引張速度100mm/minで引っ張った時の織物の破断強力を測定した。
【0030】
[実施例1]
総繊度 315d、フィラメント数 72本、単糸繊度 5.8d、無撚りのナイロン6,6繊維の丸糸を用い、経糸と緯糸の織密度がともに53本/inchとなるように調整し、平組織の織物を得た。次いでこの織物を経糸と緯糸の織密度がともに53本/inchを保持するようにして定法により精練、熱セットをおこなった。次に柔軟性のあるベッド上に織物を通し、上からナイフで一定圧で押さえつけながら、樹脂塗布量が27g/mになるようにして樹脂コーティングを行い、その後、熱セットをおこなってエアバッグ用基布を得た。
このようにして得られたエアバッグ用基布の特性を表1に示す。
【0031】
[実施例2]
総繊度 420d、フィラメント数 72本、単糸繊度 5.8d、無撚りのナイロン6,6繊維の丸糸を用い、経糸と緯糸の織密度がともに46本/inchとなるように調整し、平組織の織物を得た。次いでこの織物を経糸と緯糸の織密度がともに46本/inchを保持するようにして定法により精練、熱セットをおこなった。次に柔軟性のあるベッド上に織物を通し、上からナイフで一定圧で押さえつけながら、樹脂塗布量が27g/mになるようにして樹脂コーティングを行い、その後、熱セットをおこなってエアバッグ用基布を得た。
このようにして得られたエアバッグ用基布の特性を表1に示す。
【0032】
[比較例1]
実施例1にて精練、熱セットまでおこなった織物を用いて、ローラ上に織物を通し、任意の隙間幅でセットされたナイフにより、樹脂塗布量が27g/mになるようにして樹脂コーティングを行い、その後、熱セットをおこなってエアバッグ用基布を得た。
このようにして得られたエアバッグ用基布の特性を表1に示す。
【0033】
[比較例2]
実施例2にて精練、熱セットまでおこなった織物を用いて、ローラ上に織物を通し、任意の隙間幅でセットされたナイフにより、樹脂塗布量が27g/mになるようにして樹脂コーティングを行い、その後、熱セットをおこなってエアバッグ用基布を得た。
このようにして得られたエアバッグ用基布の特性を表1に示す。
【0034】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】エアバッグ用基布を6方向に分割した時の説明図である。
【図2】各角度と引張強度の関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成繊維織物の少なくとも片面が樹脂で被覆されたエアバッグ用基布において、該織物のカバーファクターが1800〜1950であり、かつ該基布の引張強度の最小値が120N/cm以上であることを特徴とするエアバッグ用基布。
【請求項2】
該基布の45°の引張強度と引張強度の最小値との差が、20N/cm以内であることを特徴とする請求項1記載のエアバッグ用基布。
【請求項3】
合成繊維織物が平織物であることを特徴とする請求項1または2記載のエアバッグ用基布。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のエアバッグ用基布を用いたエアバッグ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−273110(P2006−273110A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−95122(P2005−95122)
【出願日】平成17年3月29日(2005.3.29)
【出願人】(000107907)セーレン株式会社 (462)
【Fターム(参考)】