説明

エアバッグ用基布

【課題】優れた耐熱性、特に寸法変化が小さく経日耐圧性を有しながらも低コストで、且つ環境負荷の小さなエアバッグ用基布を提供する。
【解決手段】エアバック基布を構成している少なくとも一部に、熱収縮応力曲線から求めた最高応力時の温度が195〜220℃であり、かつ銅化合物を銅金属量として10〜350ppm含有するポリカプラミド繊維を用いる。この時、ポリカプラミド繊維の繊維内部構造を示すパラメータである定長拘束法におけるDSC融解ピーク温度やtanδピーク温度が特定の範囲を示し、銅化合物に加えて他の熱酸化劣化防止剤等の耐熱剤を含有することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性および機械的特性に優れたエアバッグ用基布に関するものであり、さらに詳しくはポリカプラミド繊維を用いることで耐熱性、熱寸法安定性、環境特性および低コスト性に優れたエアバッグ用基布に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車事故等の衝撃から乗員を守るために、車両へのエアバッグの装着が急速に進んでいる。衝突等の際、ガス等により膨張し乗員の体を守るエアバッグとして、運転席および助手席用エアバッグに加えてサイドエアバッグやニーエアバッグ等の装備が実用化されつつある。
【0003】
また、自動車内部は夏場および日中等に非常に高温、冬場および夜間には低温となるため、自動車内で長期間保管されるエアバッグ用基布に求められる耐熱性としては、耐熱劣化性、耐酸化性が要求されるばかりか、高温、低温雰囲気下に繰り返し曝される通常の使用環境において、寸法変化に起因する目ズレや物性が変化せず、エアバッグ用基布の経日耐圧性が変化しないことが非常に重要である。
【0004】
従来より、特許文献1及び2等に示す様にポリアミド繊維やポリエステル繊維を用いたエアバッグが提案されている。ポリアミドとしてはポリカプラミド、ナイロン6‐6、ナイロン4‐6、ナイロン10等が例示されているが、非特許文献1の243頁に記載の様に、特に耐熱性の観点から殆どのエアバッグ基布用の繊維としてはナイロン6‐6が用いられているのが現状である。さらに、特許文献1及び2等の実施例を見ても殆どがナイロン6‐6に関する技術であり、ポリカプラミドに関する技術が開示されていないことからもエアバッグ開発はナイロン6‐6主体で進められている。
【0005】
ポリカプラミドがエアバッグ基布用途に広く使用されない要因として、非特許文献1記載の様にナイロン6‐6繊維と比較して耐熱性に劣るという問題があり、この耐熱性を向上させる方法が特許文献3および特許文献4に記載されている。
【0006】
特許文献3にはポリカプラミドを芯成分、耐熱性に優れたポリアミドであるナイロン4‐6を鞘成分とした複合繊維とすることで耐熱性と低コスト性を両立させた繊維を用いたエアバッグ基布を得る方法が記載されている。該技術を用いた場合には通常のナイロン4‐6繊維を用いた場合と比較すると安価に製造が可能であり、ポリカプラミドを単独で使用した場合と比較すると耐熱性は向上する。しかしながら、繊維の芯鞘複合化による設備費の増大、芯鞘の複合異常等による生産性の悪化、ポリカプラミド繊維と比較して価格が上昇する等の問題がある。
【0007】
特許文献4には紡糸時に銅化合物を含有せしめることでエアバッグ用のポリカプラミド繊維の耐熱性を向上させる技術が記載されている。しかしながら、銅化合物による耐熱性の向上だけでは実用に供するには不充分である。
【0008】
特許文献5〜7等の実施例にはポリカプラミド繊維を用いたエアバッグ用基布に関する技術が開示されているが、ポリカプラミド繊維の耐熱性向上に関する記載がされていないばかりか、その特徴的な製造方法も記載されていない。通常知られたポリカプラミド繊維では耐熱性に優れたエアバッグ用基布を得ることは困難である。
【0009】
また、本発明者らの知見によると通常のポリカプラミド繊維はナイロン6‐6繊維と比較して耐熱収縮特性に劣るという問題を有しており、耐熱性つまり経日で基布の収縮弛緩等が発生し、基布寸法変化や目ズレが発生するという問題を有している。
【0010】
上記のようにナイロン6‐6繊維と比較して安価に製造できるポリカプラミド繊維を用いたエアバッグ用基布に関する検討が進められているものの、コストおよび耐熱性の両者をバランス良く満足するものが得られていないのが現状である。
【特許文献1】特開平10−195727号公報
【特許文献2】特開2003−301349号公報
【特許文献3】特開平8−158160号公報
【特許文献4】特開10−60750号公報
【特許文献5】特開平6−299465号公報
【特許文献6】特開平9−324337号公報
【特許文献7】特表2003−521589号公報
【非特許文献1】産業用繊維材料ハンドブック(初版) 繊維学会編 日刊工業新聞社
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は衝突等の衝撃から人体を守るエアバッグ用基布に関する技術であって、前記従来技術の有する問題を解決し、低コストでありながら環境負荷が小さいだけで無く、耐熱性、特に熱による寸法変化の少ないエアバッグ用基布を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、かかる従来技術の背景に鑑み鋭意検討を進めた結果、次の特性を有するナイロン繊維を用いたエアバッグ用基布が環境負荷が小さく、低コストでありながら優れた耐熱性を有することを見出し本発明に到達した。
【0013】
即ち本発明のエアバッグ用基布は、エアバック基布を構成している少なくとも一部が、熱収縮応力曲線から求めた最高応力時の温度が195〜220℃であり、かつ銅化合物を銅金属量として10〜500ppm含有するポリカプラミド繊維であることを特徴とするエアバック用基布である。
【0014】
また、本発明のエアバッグ用基布は下記(a)〜(e)が好ましい形態であって、運転席および助手席用エアバッグは勿論のこと、サイドエアバッグ、ニーエアバッグ、インフレータブルカーテンエアバッグ、エアベルト等の各種エアバッグ用途に好適に使用することができる。
(a)ポリカプラミド繊維の定長拘束法におけるDSC(示差走査熱量測定)融解ピーク温度が222〜270℃であり、かつ動的粘弾性の温度依存性試験において、tanδが最大値を示す際の温度(Tmax)が90〜120℃であること。
(b)ポリカプラミド繊維の強度が6〜11cN/dtex、伸度が15〜35%、沸水収縮率が5〜15%、総繊度100〜840dtex、単糸繊度1〜15dtexであること。
(c)ポリカプラミド繊維が銅化合物に加えて、他の耐熱剤を含有すること。
(d)銅化合物とともに加える耐熱剤が芳香族メルカプト化合物であって、芳香族メルカプト化合物を300〜3000ppm含有すること。
(e)ポリカプラミド繊維の単糸断面が異型断面であること。単糸断面は扁平形状であることがさらに好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、耐熱強度保持率に優れたポリカプラミド繊維を用いることで耐熱性、特に、経日耐圧性に優れたエアバッグ用基布を製糸性良く得ることができる。また、低コストでありながら環境負荷の小さいエアバッグ用基布を得ることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
平成17年1月施行予定の「使用済自動車の再資源化等に関する法律」を受け、自動車用安全装置であるエアバッグもリサイクルできることが望まれている。本発明のエアバッグ用基布はリサイクルを容易にするためにポリカプラミド繊維を用いることが必要である。ナイロン6‐6繊維に代表されるジカルボン酸とジアミドの重縮合より得られるポリアミドと比較して、アミノカルボン酸またはそのラクタムの重縮合で得られるポリカプラミド繊維は解重合による再利用が容易でありエアバッグ用基布のリサイクル性に優れる。アミノカルボン酸またはそのラクタムの重縮合で得られるポリアミド繊維としては、ポリカプラミド繊維のほかにもナイロン10等があるが価格の面からポリカプラミド繊維が必須である。
【0017】
易リサイクルの観点から、本発明のエアバッグ用基布を構成する経糸、横糸、縫糸等、すべての構成成分が同一素材であることが好ましいが、その限りではなく、少なくとも一部にポリカプラミド繊維を用いれば良い。
【0018】
また、本発明のエアバッグ用基布に用いるポリカプラミド繊維には発明の効果を阻害しない範囲、好ましくは10重量%以下であれば共重合化合物や異種ポリマ等を含有しても良い。
【0019】
本発明のエアバッグ用基布に用いるポリカプラミド繊維に関しては、熱収縮応力曲線から求めた最高応力時の温度(TΔSmax)が195〜220℃であることが必要であり、好ましいTΔSmaxの範囲として197℃〜220℃が例示できる。またその時の熱収縮応力は殆どの場合0.2〜0.5cN/dtexである。TΔSmaxは繊維が収縮する力が最も大きくなる温度、すなわち分子鎖の運動性の大きさを示している。TΔSmaxが195℃未満の時にはエアバッグ用基布が車内や倉庫等に保管されている際にポリカプラミド繊維中の分子鎖が運動しやすい。すなわち、高温雰囲気および低温雰囲気に繰り返し曝されているうちにポリカプラミド繊維の分子運動に伴う収縮等によってエアバッグ用基布設計時の特性と変わってしまう可能性があるばかりか、繰り返される収縮と弛緩によってエアバッグ用基布の目ズレ等が発生し、基布の耐圧性が悪化、即ち基布通気度が増大してしまう問題点を有している。TΔSmaxは高いほど好ましいが、TΔSmaxが220℃を超えるポリカプラミド繊維を製造することは現状困難である。
【0020】
また、本発明のエアバッグ用基布の一部を構成するポリカプラミド繊維の耐熱強力劣化を防ぐために銅化合物を銅金属量として10〜500ppm含有することが必須である。銅金属量10ppm未満の場合には銅化合物による耐熱性向上効果が低く、銅金属量が500ppmを超える場合には、銅化合物が異物となり製糸性が悪化する危険性を有している。含有する銅金属量としては20〜300ppmが好ましく、30〜250ppmがより好ましい。
【0021】
銅化合物として、沃化銅、塩化銅、臭化銅等を例示することができるがこれに限られるものではなく、従来知られた無機及び有機銅塩や銅金属単体を用いることができる。
【0022】
本発明のエアバッグ用基布の一部を構成するポリカプラミド繊維は銅化合物に加えて他の耐熱剤を含有することが好ましい。
【0023】
耐熱剤としてはアミン化合物、メルカプト化合物、リン系化合物、ヒンダードフェノール化合物、ハロゲン化合物、ハロゲン化アルカリ金属、ハロゲン化アルカリ土類金属等があげられるが、これに限られるものではなく、また、これらを2種類以上組み合わせたものでも良い。銅化合物に加えて他の耐熱剤を含有せしめることでエアバッグ用基布に用いるポリカプラミド繊維の熱酸化劣化特性を劇的に向上させることが可能となる。その時の耐熱剤添加量としては300〜3000ppmが熱酸化劣化防止性および製糸性の観点から好ましい。
【0024】
アミン系化合物としてはN, N' −ジフェニル−p−フェニレンジアミン、ジアリル−p−フェニレンジアミン、ジ−β−ナフチル−p−フェニレンジアミン等を例示することができ、メルカプト化合物としては2−メルカプトベンゾイミダゾール、2−メルカプトチアゾールが例示でき、リン系化合物としてはステアリルフォスフェート、亜リン酸またはその塩等の有機・無機リン酸等を例示できるがこれらに限られるものではない。
【0025】
しかしながら、銅化合物とともに加える耐熱剤としてはメルカプト化合物が好ましく、特に2−メルカプトベンゾイミダゾールを組合せることが最も好ましい。
【0026】
銅化合物と前記耐熱剤は別々に添加しても良いし、錯体を形成させて添加しても良い。
【0027】
本発明のエアバッグ用基布に用いるポリカプラミド繊維の硫酸相対粘度は3〜4.5であることが好ましい。硫酸相対粘度が4.5を超える高重合度のポリカプラミド繊維を生産性良く安価に得ることは現在の技術では難しい。また、硫酸相対粘度が3未満の場合には所望の強度の繊維が得難いばかりか、長時間の保管時に物性の低下が大きくなる可能性を有している。
【0028】
本発明のエアバッグ用基布に用いるポリカプラミド繊維は、定長拘束法でのDSC融解曲線の融解ピーク温度が222〜270℃であることが好ましく、さらに好ましい範囲は225℃〜240℃である。また、その時の結晶融解熱量は30〜100J/gであることが好ましい。定長拘束法におけるDSC曲線における融解ピーク温度は分子の結晶配向度に対応し、結晶融解熱量は結晶量に対応している。融解ピーク温度が222℃未満ではポリカプラミド繊維分子鎖の結晶配向が低い、すなわち結晶内分子の自由度が高いために高温時に結晶内の分子鎖が動きやすく、結晶が崩壊する等のおそれがあるため、本発明の如き耐熱性に優れたエアバッグ用基布を得ることが難しい。また、融解ピーク温度が270℃を超える場合には繊維の製造工程で高い応力を繊維に加える必要が生じるため、繊維の破断を生じやすくなり、ポリアミド繊維の安定した生産が困難になる。
【0029】
また、結晶融解熱量が30J/g未満の場合には繊維中での結晶量が少ないため、耐熱性に優れたポリカプラミド繊維を得ることが困難となり、結晶融解熱量が100J/gを超える繊維を安定して得ることは現状の技術では困難である。
【0030】
本発明のエアバッグ用基布に用いるポリカプラミド繊維は動的粘弾性の温度依存性試験において、tanδが最大値を示す際の温度(Tmax)が90〜120℃であることが好ましい。動的粘断性の温度依存性試験で得られるTmaxは分子鎖の運動拘束力に対応し、Tmaxは高いほど分子鎖の運動拘束力が大きいことを示す。Tmaxが90℃未満の場合には高温時の分子鎖の運動性が高い、すなわち耐熱性に優れた繊維を得ることができない。また、Tmaxが120℃より高い繊維を製糸性良く得ることは現状困難である。
【0031】
本発明のポリカプラミド繊維の総繊度は100〜840dtex、単糸繊度は1〜15dtexであることが好ましい。エアバッグ用基布を薄くするためには本来総繊度は小さい方が好ましい。しかしながら、総繊度が100dtex未満の場合には、原糸の生産性が低下するために高コスト化するばかりか、エアバッグが展開する際に部分的に強力が不足することでエアバッグが破裂し、人体の安全性が損なわれる恐れがある。総繊度が840dtexを超える場合には安全性は確保されるものの、得られるエアバッグ用基布は肉厚で収納性に劣る製品となってしまう。好ましい総繊度として、200〜500dtexの範囲を例示することができる。
【0032】
また、単糸繊度が小さい繊維を用いるほど、得られる基布は柔軟で収納性が良好になるとともにカバリング性が向上し基布の通気性を抑制することができる。このことから単糸繊度は小さいほど好ましいが単糸繊度が1dtex未満の場合には製織等の際にガイド等の摩擦によって単糸が破断することで工程通過性悪化させる可能性がある。単糸繊度が15dtexを越えると基布の収納性の悪化、さらには通気性の増大を伴いエアバッグ基布として十分な機能を果たさなくなる可能性を有している。好ましい単糸繊度の範囲としては1.5〜7dtex、さらに好ましくは1.5〜5dtexの範囲を例示することができる。
【0033】
また、本発明のエアバッグ用基布に用いるポリカプラミド繊維には各種の耐光剤、防炎剤、顔料、難燃剤、艶消剤、滑剤等の添加剤を用いても良い。
【0034】
本発明のエアバッグ用基布に用いるポリカプラミド繊維は、強度が6〜11cN/dtex、伸度が15〜35%であることが好ましい。強度が6cN/dtex未満の場合にはエアバッグ用基布として要求される強力を有する基布を得ようとした際に必要となる繊維の本数が増加し、得られたエアバッグ用基布が肉厚で収納性に劣る製品となる。強度に特に上限は無いが、強度が11cN/dtexを超える繊維を安価に得ることは現在の技術では困難である。
【0035】
伸度が15%未満の場合には、エアバッグが膨張した際に満足すべき衝撃吸収特性を得ることができない。伸度には本来上限はないが、本発明の範囲を満足するポリカプラミド繊維を製造した際には伸度は、その殆どが35%以下となる。
【0036】
ポリカプラミド繊維の沸水収縮率は、5〜15%であることが必要である。沸水収縮率が上記の範囲より大きいと寸法安定性が悪くなるために、得られた基布のしわや通気度バラツキなどの不具合を生じてしまう可能性を有している。沸水収縮率は本来低い程良いが、5%未満の沸水収縮率を満足する繊維を得ることは現状の技術で製糸性良く得ることは困難である。
【0037】
本発明のエアバッグ用基布に用いるポリカプラミド繊維の単糸断面は異型断面であっても良く、断面形状としては扁平型、三角型、C型、Y型、団子型、中空型、あるいはそれらの組合せ等を例示することができるがこれに限られるものではない。しかしながら製織時に基布厚みを低減させ、エアバッグ用基布の収納性を向上させること、およびコートエアバッグとした際に表面の凹凸が少ないためコーティング剤量を低減することが可能な扁平断面糸であることが好ましい。扁平率および異型度には特に決まりは無く、異型断面糸が生産性良くえられる範囲であれば良い。
【0038】
本発明のエアバッグ用基布に用いるポリカプラミド繊維の交絡数は3〜50個/mであることが好ましく、より好ましくは3〜30個/m、さらに好ましくは3〜20個/mである。交絡数が3個/m未満の時には製織時等に単糸が織機等に引っ掛って工程通過性を悪化させてしまう。
【0039】
本発明のエアバッグ用基布を分解して得られたポリカプラミド繊維の交絡数は10個/m以下であることが好ましく、さらに好ましい範囲は5個/m以下である。基布を分解して得られたポリカプラミド繊維の交絡数は、すなわち基布中でのポリカプラミド繊維の交絡数を示している。基布を分解して得られたポリカプラミド繊維の交絡数が5個/mを超える場合には基布中での交絡部による凹凸が多く、エアバック用基布の通気性の悪化および厚みの肉厚化が懸念される。
【0040】
本発明のエアバッグ用基布は前述のポリカプラミド繊維を少なくとも構成要素の一部として用いていれば、通常用いられているナイロン6‐6繊維を用いたエアバッグ用基布と比較して低コスト化が図れるが、リサイクルの観点からすくなくとも50重量%以上が前述のポリカプラミド繊維であることが好ましく、経糸、緯糸の全てが前述のポリカプラミド繊維から成ることが好ましい。
【0041】
次に本発明のエアバッグ用基布に用いるポリカプラミド繊維の製造方法を図1に従い説明するが、ポリカプラミド繊維の製造方法はこれに限定されるものではない。
【0042】
あらかじめ銅化合物や芳香族アミン化合物、芳香族メルカプト化合物、リン系化合物、ヒンダードフェノール系化合物を混合した硫酸相対粘度3〜4.5のポリカプラミド樹脂を溶融し口金1より紡出する。紡糸温度は共重合する化合物の種類や量等によって適宜変更を行うことができるが、250〜320℃であることが好ましい。250℃未満で紡糸を行なった場合にはポリマの溶融時に十分な流動性が得られない可能性があり、320℃を越える温度ではポリマが分解し、本発明で用いるポリカプラミド繊維を得られない可能性がある。異型断面糸を製造する場合には口金孔の形を目的とする断面の繊維が得られるように設計すれば良い。
【0043】
紡糸口金1の直下に加熱筒2または断熱筒からなる徐冷領域を設け、紡出糸条を180〜350℃の高温雰囲気下を通過させても良い。
【0044】
紡出された未延伸糸条は、次いで冷却装置3により10〜100℃、好ましくは15〜75℃の風を吹きつけて冷却固化することが好ましい。冷却風が10℃未満の場合には通常装置とは別に大型の冷却装置が必要となるため好ましくない。また、冷却風が100℃を超える場合には紡糸時の単糸揺れが大きくなるため、単糸同士の衝突等が発生し製糸性良く繊維を製造することが困難となる。空冷による冷却装置3は横吹き出しタイプでも良いし、環状型吹きだしタイプを用いても良い。
【0045】
冷却固化された未延伸糸条は、次いで油剤ローラを有する給油装置4により油剤が付与される。油剤は、水系であっても非水系であっても良いが、ポリカプラミドの吸湿特性を考慮すると非含水油剤であることが好ましい。好ましい油剤組成として、平滑剤成分としてアルキルエーテルエステル、界面活性剤成分として高級アルコールのアルキレンオキサイド付加物、極圧剤成分として有機ホスフェート塩等を鉱物油で希釈した非水系油剤を例示することができる。
【0046】
油剤を付与された未延伸糸条は、引取りローラ5に捲回して引取る。引取られた未延伸糸条は一旦巻き取った後、若しくは一旦巻き取ることなく連続して延伸工程に供する。引取りローラ5と同様に、2ケのローラを1ユニットとするネルソン型ローラを、給糸ローラ6、第1延伸ローラ7、第2延伸ローラ8および第1弛緩ローラ9、第2弛緩ローラ10と並べて配置し、順次糸条を捲回して延伸熱処理を行なうが、延伸段数に特に決まりはない。
【0047】
通常、引取りローラ5と給糸ローラ6間では糸条を集束させるためにストレッチを行う。好ましいストレッチ率は1〜5%の範囲である。引取りローラ5の表面温度は20〜80℃であれば良い。
【0048】
延伸は給糸ローラ6と第1延伸ローラ7間、および第1延伸ローラ7と第2延伸ローラ8間で行い、給糸ローラ6の温度は30〜170℃、第1延伸ローラ7の温度は90〜230℃とし、糸条の延伸を行なう。2段延伸法を採用する場合の各段数における延伸倍率は延伸条件により適宜変更することが可能である。ここで熱収縮応力曲線から得られる最高応力時の温度が本発明の範囲に入るポリカプラミド繊維を得るためには、熱セットローラ、即ち1段延伸の場合には第1延伸ローラ7、2段延伸の場合には第2延伸ローラ8等の最終延伸ローラの温度が150〜230℃、好ましくは190〜220℃であることが重要である。
【0049】
熱セット後の糸条は、第2延伸ローラ8と第1弛緩ローラ9との間で7%以下、さらに好ましくは0.5〜5%の弛緩(リラックス)処理を施す。また、2回目の弛緩処理として第1弛緩ローラ9と第2弛緩ローラ10間で7%以下の弛緩処理を行なうことが耐熱性に優れたエアバッグ用基布を得るためには好ましい。
【0050】
弛緩処理を施された糸条は巻取り機12にて巻き取られる。弛緩処理では熱延伸によって生じた歪みを取るだけで無く、延伸によって達成された構造を固定したり、非晶領域の配向を緩和させ熱収縮率を下げたりすることができる。弛緩ローラは非加熱ローラまたは、160℃以下に加熱したローラを用いる。非加熱ローラを用いた場合にも延伸工程からの持ち込み熱によって第1弛緩ローラ9の表面温度は通常120℃以上となる。
【0051】
また、毛羽の発生を少なくして高品位のポリカプラミド繊維を得るために、1段延伸が行われる給糸ローラ6と第1延伸ローラ7の間に、繊維糸条に高圧流体を吹き付けて、該繊維を構成する糸条に軽度の交絡を付与し、糸条を集束させながら延伸を行っても良い。
【0052】
糸条を交絡させるための装置は通常糸条を巻き取る直前、本製造例の場合には第2弛緩ローラ10と巻取り機12の間に交絡ノズル11を設置して糸条に交絡を付与する。かくして本発明のエアバッグ用基布に用いるポリカプラミド繊維を得ることができる。
【0053】
本発明のエアバッグ用基布はJIS L1096(6.12.1A法)に準じて測定した引張り強力が500N/cm以上が好ましく、より好ましくは550N/cm以上である。また、JIS L1096(6.15.2A−2法)の方法で測定し、経方向と緯方向の平均値から得られる引裂き強力200N以上が好ましく、より好ましくは250N以上である。かかる範囲の引張り強力、および引裂き強力を有するエアバッグ用基布は、あらゆる種類、例えば運転席用エアバッグ、助手席用エアバッグ、サイドエアバッグ、ニーエアバッグ、インフレ−タブルカ−テン用エアバッグ等のいずれに適用しても、バック展開時の衝撃力に耐えることができる。エアバッグ用基布の引張り強力値および引裂き強力値は高いほど好ましい。
【0054】
本発明エアバッグ用基布の厚みは0.15〜0.5mmであることが好ましく、さらに好ましい範囲は0.2〜0.35mmである。かかる範囲の厚みを有するエアバッグ用基布は、インフレーターから噴射される高温ガスに対し十分な耐熱性を有し、かつより厳しい収納性が要求される小型車等へ好適に搭載ができる。
【0055】
本発明のエアバッグ用基布に使用するポリカプラミド原糸を異型断面、特に扁平断面とした際には、従来の円断面糸からなる基布の厚みに比べ、同一のカバーファクターで比較した場合、およそ15%以上薄くでき、コンパクト性、収納性に優れることが特徴である。
【0056】
本発明のエアバッグ用基布は、カバーファクターが1500〜2400であることが好ましく、より好ましくは1700〜2200である。ここで、カバーファクターとは経糸の総繊度をD(dtex)、織密度をN(本/2.54cm)、緯糸の総繊度をD(dtex)、織密度をN( 本/2.54cm)としたときに、(D×0.9)1/2 ×N+(D×0.9)1/2 ×Nで表される値である。カバーファクターは基布の厚みや柔軟性等の収納性、および引張り強力や引裂き強力といった機械的特性と直接的に関係しており、適切な範囲にあることがエアバッグ用基布として重要である。
【0057】
本発明のエアバッグ用基布の通気度はJIS L1096(1990)(6.27.1A法)の方法に準じ、タテ20cm、ヨコ15cmの布帛サンプルにおいて、直径10cmの円形部分に層流管式通気度測定機を用いて、19.6KPaの圧力に調整した空気を流したときに通過する空気量(cc/cm/sec)が0〜20cc/cm2/secであることが好ましい。通気度が20cc/cm2/secを超える場合には、エアバッグが衝突等により膨張した際にエアバッグ内部の空気が外部に漏れ、乗員の安全性が損なわれる恐れがある。
【0058】
本発明のエアバッグ用基布はコーティングの有無を問わず好適に使用することができる。コーティングを行なう際に基布表面に塗布する樹脂エラストマーについては、シリコーン樹脂、クロロプレン樹脂、ポリウレタン樹脂などが用いることができ、中でもシリコーン樹脂が好ましい。本発明のエアバッグ用基布に用いるポリカプラミド繊維を異型断面、特に扁平断面にした場合には基布表面の凹凸が小さくなるため樹脂付着量が少なくなるという効果も期待できる。
【0059】
エアバッグ用基布表面にコーティングする樹脂エラストマー付着量は0.1〜80g/mが好ましく、より好ましくは5〜30g/m、さらに好ましくは10〜20g/mである。樹脂付着量が0.1g/m未満の場合には基布全面への樹脂の均一塗布が困難となり、エアバッグ膨張時にエア漏れを起こしたり、応力集中により破裂したりする危険が伴う。また、樹脂塗布量が80g/mを越える場合には、収納性、柔軟性が悪化する可能性がある。
【0060】
次に本発明のエアバッグ用基布の製造方法を例示するがこれに限定されるものではない。
【0061】
前述の製造方法で得られたポリカプラミド繊維は整経、製織される。織機はウォータージェット型が多く用いられるが、レピア型やエア−ジェット型など何ら限定されるものではない。また、基布の織構造については、通常平織りが多いが、斜文織や朱子織、あるいはこれらの組合せ等いずれの構造であっても構わない。
【0062】
更に上記得られた基布に加熱加圧加工処理、所謂カレンダ−加工を行っても良い。カレンダ−加工機は通常のカレンダ−機でよく、カレンダ−加工の温度は180〜220℃、圧力は3000〜10000N/cm、速度は4〜50m/分が好ましい。カレンダ−加工は、少なくとも片面に施してあれば性能は充分に得られる。
【0063】
必要に応じて、基布に樹脂エラストマーをコーティングし、ヒートセット加工してコートエアバッグ用基布とする。場合によっては、製織後に精練を施し、引き続き樹脂エラストマーの塗布を行うこともできる。
【0064】
基布表面に樹脂エラストマーをコーティングする方法としては、基布を樹脂溶液槽に浸漬させたのち、余分な樹脂をマングル、バキューム、さらにはコーティングナイフ等を用いて除去・均一化する方法、スプレー装置やフォーミング装置を用いて樹脂を吹き付ける方法などが一般的である。これらのうち樹脂を均一、かつ、少なく塗布するという観点からナイフコーティング法が好ましいが、何ら限定されるものではない。
【0065】
塗布する樹脂エラストマーは前述の通り、シリコーン樹脂、クロロプレン樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド系樹脂等の難燃性、耐熱性、空気遮断性等に優れているものが好ましく好ましく使用される。
【0066】
なお、上記高次加工の工程順序は、本発明の効果を損ねない範囲で何ら限定されるものではない。
【0067】
かくして、本発明のエアバッグ用基布を得ることができる。得られたエアバッグ用基布をエアバッグとして用いる際、リサイクルを容易にする観点から縫糸等もエアバッグ用基布と同一素材または比重差等により簡単に分離できる素材とすることが好ましい。
【実施例】
【0068】
以下、実施例によって本発明の態様を更に詳しく説明する。明細書本文および実施例に用いた特性の定義および測定法は次の通りである。
【0069】
[繊度、強度、伸度、沸水収縮率]
JIS L1017(2002)に従い測定した。
【0070】
[熱収縮応力曲線から求めた最高応力時温度測定]
試料を長さ25cm、初荷重0.045cN/dtexで歪計にセットし、乾熱状態で25℃から150℃までを昇温速度10℃/分、150℃から250℃までを昇温速度3℃/分で昇温した時の収縮応力を東洋ボールドウィン社製SS−207D−UEで検出し、熱収縮応力曲線を描いた後、収縮応力が最大となる温度を求めた。加熱炉として東洋ボールドウィン社製TKC−IIISを用いた。各試料につき2回の測定を行ない、その平均値を採用した。
【0071】
[定長拘束法でのDSC測定]
J.Polym.Sci.Phy.Ed., VOL. 15, 1507 「Melting of Constrained Drawn Nylon 6 Yarns」に記載のTodokiらの方法に準じて以下の通り測定を行った。秤量した繊維試料を4×2.5×0.4mm3のアルミ板に、たるみの無いように巻き付け、試料両端に結びつけた細い針金を用いてアルミ板に固定し、アルミニウム製標準容器に入れ測定サンプルとした。測定にはセイコーインスツルメンツ社製SSC5200熱分析システムを用い、昇温速度10℃/分で30℃から250℃まで測定を行った。各サンプルにつき2回の測定を行い、その平均値を採用した。
【0072】
[動的粘弾性測定]
(株)オリエンテック社製DDV−II型動的粘弾性測定装置を用い、振動数110Hz、昇温速度3℃/分で室温から200℃までの範囲で測定を行い、損失正接(tanδ)のピークが最大になる時の温度を求めた。各サンプルにつき2回の測定を行い、その平均値を採用した。
【0073】
[交絡数]
水浸漬法により長さ1mm以上の交絡部の個数を測定し、1mあたりの個数に換算した。水浸漬バスは、長さ70cm、幅15cm、深さ5cmの大きさで、長手方向両端より10cmのところに仕切板を設けたものを用いた。このバスに純水を深さ約3cmになるように満たし、原糸サンプルを水浸させ、交絡部個数を測定した。なお、油剤等の不純物の影響を排除するために測定毎に純水を交換した。なお、原糸10本の測定結果の平均を交絡数とした。
【0074】
[硫酸相対粘度]
ポリマ試料を98%硫酸に1重量%の濃度で溶解し、オストワルド粘度計を用いて25℃で測定し、次式に従い求めた。硫酸相対粘度(ηr)=(試料溶液の滴下秒数)/(硫酸溶液滴下秒数)。各サンプルにつき2回の測定をおこない、その平均値を採用した。
【0075】
[製糸性]
紡糸連続延伸を行ったときの断糸、毛羽の発生状況から2段階で評価した。
○:良好で長時間の安定製糸が可能。毛羽発生率が1個/万m未満。
×:不安定。毛羽発生率が1個/万m以上。
【0076】
[耐熱強度保持率測定試験]
繊維を荷重無しの条件で180℃の恒温炉で40時間放置した後の引張り強度を測定し、次式に従って強度保持率を求めた。{強度保持率(%)}={耐熱試験前強度}/{耐熱試験後強度}×100。各サンプルにつき2回の測定を行い、その平均値を採用した。
【0077】
[基布通気度]
縦20cm、横15cmの基布サンプルを縦方向に伸張保持し、その中央部に19.6kPaの圧力に調整した空気を流した時に通過する空気量を測定した。各サンプルにつき2回の測定を行い、その平均値を採用した。
【0078】
[強制耐熱処理後の基布通気度測定]
得られた基布をオーブンを用いて120℃雰囲気下で50時間熱処理を施した後、25℃雰囲気下で50時間放置というサイクルを5回繰り返した後、縦20cm、横15cmの基布サンプル縦方向に伸張保持し、その中央部に19.6kPaの圧力に調整した空気を流した時に通過する空気量を測定した。各サンプルにつき2回の測定を行い、その平均値を採用した。
【0079】
(実施例1、比較例1、比較例2)
沃化銅を表1記載の銅金属含有量となるように添加し、2−メルカプトベンゾイミダゾールを表1に記載量添加したポリカプラミドポリマ(硫酸相対粘度3.8)をエクストルーダー式押出機に連続的に供給し連続的に285℃で溶融した。溶融したポリマは285℃の配管を通りギヤポンプにて表1に示す繊度となるように計量した後、290℃の紡糸パックに導いた。パック内では15ミクロンカットのフィルターを通過し、孔径0.3mm、孔長0.4mm、孔数72の口金より糸条を押し出した。口金直下には25cmの加熱筒を取り付け、筒内雰囲気温度を250℃となるように加熱した。ここでいう筒内雰囲気温度とは加熱筒中央部の内壁から1cm離れた部分の空気層温度である。加熱筒直下にユニフロー型チムニーを設置し、糸条に30℃の冷風を40m/分の速度で吹付け冷却固化した。固化した糸条に油剤を付与した後、一旦巻き取ることなく引取りローラで引取った。
【0080】
引取った糸条を引取りローラと給糸ローラ間でストレッチをかけ、給糸ローラと第1延伸ローラ間で1段目の延伸を、第1延伸ローラと第2延伸ローラ間で2段目の延伸を行った。延伸後の糸条は第2延伸ローラと第1弛緩ローラ間で弛緩処理を施した後、さらに第1弛緩ローラと第2弛緩ローラ間で弛緩処理を施し、巻取り機にて巻取った。
【0081】
引取りローラ、給糸ローラ、第1延伸ローラ、第2延伸ローラ、第1弛緩ローラ、第2弛緩ローラの温度はそれぞれ、非加熱、50℃、100℃、200℃、150℃、150℃、ローラの表面速度は941m/分、988m/分、2917m/分、3763m/分、3612m/分、3500m/分、糸条のローラへの巻回数は3回、3回、5回、9回、5回、5回とした。この時の総延伸倍率は4.5倍であり、全体の弛緩率のうちの80%を1段目の弛緩工程で行なった。得られた繊維の特性を表1に示した。
【0082】
得られたポリカプラミド繊維を300m/minの速度で整経し、次いで津田駒製ウォータージェットルーム(ZW303)を用いて、経糸及び緯糸の織密度をそれぞれ50本/inch、回転速度1000rpmで製織し生機を得た。得られた生機はそのまま熱処理装置を通過させ、乾燥ゾーンを100℃で通過させた後、180℃1分間の熱処理を施しエアバッグ用基布を得た。得られた基布についての特性を表1に示した。
【0083】
(実施例2)
引取りローラ、給糸ローラ、第1延伸ローラ、第2延伸ローラの表面速度をそれぞれ変更し、リラックス率10%としたこと、および、表1記載の総繊度となるように吐出量を調節したこと以外は実施例1と同様に行った。
【0084】
(実施例3)
ポリマの吐出量を表1の繊度となるように変更し、各ローラ間における延伸比率は同様のまま、全体の延伸倍率を4.7倍としたこと以外は実施例1と同様に行った。
【0085】
(実施例4)
孔長さ0.6mm、形状が特開2003−55861号公報の実施例1と同様の形状を有し、孔数72の口金より糸条を押し出したこと、および、引取りローラ、給糸ローラ、第1延伸ローラ、第2延伸ローラ、第1弛緩ローラ、第2弛緩ローラの温度はそれぞれ、非加熱、50℃、100℃、200℃、150℃、150℃、ローラの表面速度は941m/分、988m/分、2917m/分、3763m/分、3612m/分、3500m/分、糸条のローラへの巻回数は3回、3回、5回、9回、5回、5回としたこと以外は実施例1と同様におこなった。
【0086】
(比較例3)
各ローラ間における延伸比率は同様のまま、全体の延伸倍率を2.5倍、弛緩率を4%としたこと以外は実施例1と同様に行った。また、弛緩処理は全体の100%を1段目の弛緩工程で施し、2段目は弛緩率0%とした。
【0087】
(比較例4)
第2延伸ローラの温度を100℃にしたこと以外は実施例1と同様に行った。
【0088】
(実施例5)
孔数が108の口金を用いて、表1に示す総繊度となるようにポリマの計量を行ったこと以外は実施例1と同様におこなった。
【0089】
(実施例6)
孔数が30の口金を用いて、表1に示す総繊度となるようにポリマの軽量を行ったこと以外は実施例1と同様におこなった。
【0090】
【表1】

【0091】
表1より明らかなように本発明のエアバッグ用基布を構成するポリカプラミド繊維は耐熱試験後の強力保持性に優れたものであり、該繊維を用いたエアバッグ用基布も高温雰囲気下で曝された場合に優れた強力保持率を有する。なお、耐熱試験後の強力保持率が65%以上であれば、エアバッグ用基布として実使用に供するに十分な耐熱性を有するといえる。
【0092】
比較例1の如き耐熱試験後の強力保持率に劣るポリカプラミド繊維をエアバッグ用基布として用いた場合には、車両等における実使用において、衝突等の際にエアバッグが破裂するという懸念がある。
【0093】
比較例2に関しては、銅金属量および耐熱剤量を多く含むにも関わらず、実施例2と殆ど同様の耐熱試験後強力保持率を有するに留まっただけでなく、製糸性も悪いものであった。
【0094】
また、TΔSmaxが本発明の範囲を外れるポリカプラミド繊維を用いたエアバッグ用基布は、強制耐熱処理後の通気度が耐熱処理前の通気度と比較して圧倒的に大きく、経日耐熱性に劣るものであった。
【0095】
また、実施例5のポリカプラミド繊維を用いた基布は実施例1〜4で得られた基布と比較して、肉厚で折畳み性に若干劣るものであったが、基布の経日耐圧性に優れたものであった。実施例6のポリカプラミド繊維を用いた基布は、製織後基布の通気度が若干劣るものであったが、基布の経日耐圧性に優れたものであった。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】本発明のエアバッグ用基布を構成するポリカプラミド繊維の製造方法の1例である。
【符号の説明】
【0097】
1:紡糸口金
2:加熱筒
3:冷却装置
4:給油装置
5:引取りローラ
6:給糸ローラ
7:第1延伸ローラ
8:第2延伸ローラ
9:第1弛緩ローラ
10:第2弛緩ローラ
11:交絡付与装置
12:巻取り機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エアバック基布を構成している少なくとも一部が、熱収縮応力曲線から求めた最高応力時の温度(TΔSmax)が195〜220℃であり、かつ銅化合物を銅金属量として10〜500ppm含有するポリカプラミド繊維であることを特徴とするエアバック用基布。
【請求項2】
前記ポリカプラミド繊維の定長拘束法におけるDSC(示差走査熱量測定)融解ピーク温度が222〜270℃であり、かつ動的粘弾性の温度依存性試験において、tanδが最大値を示す際の温度(Tmax)が90〜120℃であることを特徴とする請求項1記載のエアバッグ用基布。
【請求項3】
前記ポリカプラミド繊維の強度が6〜11cN/dtex、伸度が15〜35%、沸水収縮率が5〜15%、総繊度100〜840dtex、単糸繊度1〜15dtexであることを特徴とする請求項1または2に記載のエアバッグ用基布。
【請求項4】
前記ポリカプラミド繊維が銅化合物に加えて、他の耐熱剤を含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のエアバッグ用基布。
【請求項5】
前記耐熱剤が芳香族メルカプト化合物であって、該芳香族メルカプト化合物を300〜3000ppm含有することを特徴とする請求項4に記載のエアバッグ用基布。
【請求項6】
前記ポリカプラミド繊維の単糸断面が異型断面であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のエアバッグ用基布。
【請求項7】
ポリカプラミド繊維が扁平断面であることを特徴とする請求項6記載のエアバッグ用基布。

【図1】
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【公開番号】特開2006−183205(P2006−183205A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−379656(P2004−379656)
【出願日】平成16年12月28日(2004.12.28)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】