説明

エアフィルタ

【課題】低い通気抵抗、かつ高い捕集効率で、空気中の菌、ウィルス等を捕集、不活性化することができ、しかもオゾンによる抗菌性能の劣化を生じることもない、エアフィルタを提供する。
【解決手段】高分子材料である、たとえば強塩基性陰イオン樹脂に、イオン交換吸着して抗菌剤であるヨウ素を含有し、そのヨウ素を含有した高分子材料を糸状に加工してフィルタ素材をつくり、そのフィルタ素材を用いて不織布をつくってその不織布を用いて抗菌フィルタ3を形成する。そして、たとえばその抗菌フィルタ3の下流側に、活性炭を用いて形成した活性炭フィルタ4を設けて、空気清浄機に使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、エアフィルタに関するものであり、たとえば、空気清浄機に使用して、空気中の菌、ウィルス等を捕集、不活性化することができるエアフィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エアフィルタとしては、(1)有機高分子成型物にヨウ素を吸着含有させたもの(特開昭57―50906号公報)、(2)多孔質シート(不織布)にアミジン基またはグアニジン基を含む抗菌剤と、カテキンとを付着させたもの(特開平9―141021号公報)、(3)高吸水性繊維中にヨウ素を含有させたもの(特開平10―53519号公報)等が知られている。
【0003】
【特許文献1】特開平1-130719号公報
【特許文献2】実用新案登録第3032523号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、これらの従来方法では、いずれもフィルタを構成する素材の、繊維、シート、成型物等への加工後に、得られるその加工物に抗菌剤を付着(吸着)により含有させるため、その付着(吸着)物によりフィルタ繊維間に目詰まりを来たして通気性が劣化し、その結果、通気抵抗が上昇し、捕集効率が低下するという問題があった。
【0005】
また、前記(2)のカテキンを併用するフィルタを、オゾンを発生する電気集塵式空気清浄機に用いる場合には、カテキンの還元性により、オゾンーカテキンの酸化還元反応を生じ、抗菌効果が減少してしまうという問題もあった。
【0006】
なお、スチレン系樹脂材料に、防ばい剤と界面活性剤とを配合して抗菌処理することも知られているが(特開昭64―66254号公報)、単にその物自体のカビの繁殖防止を図るものにすぎず、空気中の菌やウィルスの捕集、不活性化を図るものではなかった。
【0007】
そこで、この発明の課題は、通気抵抗を高めることなく、かつ高い捕集効率で、空気中の菌、ウィルス等を捕集、不活性化することができ、しかもオゾンによる抗菌性能の劣化を生じることもない、エアフィルタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そのため、請求項1に記載のエアフィルタは、抗菌剤であるヨウ素を含有した高分子材料を糸状に加工してフィルタ素材をつくり、そのフィルタ素材を用いて抗菌フィルタを形成してなることを特徴とする。
【0009】
そして、糸状に加工する前に既にフィルタ素材自体が抗菌性を有するため、糸状に加工後に抗菌剤を含有させる必要もなく、よって、抗菌剤の付着(吸着)によりフィルタ繊維間に目詰まりを来たして通気性が劣化することもない。それゆえ、空気を通したとき、低い通気抵抗、かつ高い捕集効率で、空気中の菌、ウィルス等を捕集、不活性化して清浄な空気を提供する。また、抗菌剤として、ヨウ素を使用するものであるから、オゾンを発生する電気集塵式空気清浄機に使用しても抗菌性能の劣化を生じない。
【0010】
請求項2に記載のエアフィルタは、請求項1に記載のエアフィルタにおいて、前記フィルタ素材を用いて不織布をつくり、その不織布を用いて抗菌フィルタを形成してなることを特徴とする。
【0011】
そして、不織布をつくり、これを用いて抗菌フィルタを形成することにより、菌、ウィルス等の捕集効率をより高くする。
【0012】
請求項3に記載のエアフィルタは、請求項1または2に記載のエアフィルタにおいて、前記抗菌フィルタの下流側に、活性炭を用いて形成した活性炭フィルタを設けてなることを特徴とする。
【0013】
そして、抗菌フィルタの下流側に活性炭フィルタを設けて、後者のフィルタにより、前者のフィルタから揮散するヨウ素等を取り除く。
【0014】
請求項4に記載のエアフィルタは、請求項1、2または3に記載のエアフィルタにおいて、前記高分子材料に、強塩基性陰イオン交換樹脂にイオン交換吸着してヨウ素を含有してなることを特徴とする。
【0015】
そして、高分子材料に、強塩基性陰イオン交換樹脂にイオン交換吸着してヨウ素を含有してなり、糸状に加工する前に既にフィルタ素材自体が抗菌性を有するから、糸状に加工後に抗菌剤を付着(吸着)させて含有させることが不要となる。そのため、前述のように、低い通気抵抗、かつ高い捕集効率で、空気中の菌、ウィルス等を捕集、不活性化する。
【0016】
請求項5に記載のエアフィルタは、請求項1、2、3または4に記載のエアフィルタにおいて、空気清浄機に使用してなることを特徴とする。
【0017】
そして、エアフィルタを空気清浄機に使用することにより、低い通気抵抗、かつ高い捕集効率で、空気中の菌、ウィルス等を捕集、不活性化して、汚れた空気を清浄化する。
【発明の効果】
【0018】
この発明によれば、糸状に加工する前に既にフィルタ素材自体が抗菌性を有するため、糸状に加工後に抗菌剤を含有させることが必要でなく、抗菌剤の付着(吸着)によりフィルタ繊維間に目詰まりを来たして通気性が劣化することもないから、低い通気抵抗、かつ高い捕集効率で、空気中の菌、ウィルス等を捕集、不活性化して清浄な空気を提供することができる。
また、抗菌剤として、オゾンに対し反応性の低いヨウ素を使用するから、オゾンを発生する電気集塵式空気清浄機に使用しても、オゾンによる抗菌性能の劣化を生じない。
【0019】
請求項2に記載の発明によれば、不織布をつくり、これを用いて抗菌フィルタを形成することにより、菌、ウィルス等の捕集効率をより高くすることができる。
【0020】
請求項3に記載の発明によれば、抗菌フィルタの下流側に活性炭フィルタを設けることにより、空気清浄機の空気の流れに乗ってヨウ素等が空気清浄機外に揮散するのを防ぐことができる。
【0021】
請求項5に記載の発明によれば、エアフィルタを空気清浄機に使用することにより、低い通気抵抗、かつ高い捕集効率で、空気中の菌、ウィルス等を捕集、不活性化して、汚れた空気を清浄化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、図面を参照しつつ、この発明を実施するための最良の形態につき説明する。
この発明のエアフィルタは、抗菌剤であるヨウ素を含有した高分子材料を糸状に加工してフィルタ素材をつくり、そのフィルタ素材を用いて抗菌フィルタを形成してなるものである。
【0023】
この際、高分子材料に、強塩基性陰イオン交換樹脂にイオン交換吸着してヨウ素を含有してなることが好ましい。
【0024】
抗菌剤であるヨウ素を含有した高分子材料を得るには、たとえば、ヨウ素をアルカリ金属溶液に溶解し、これに、常温常圧で強塩基性陰イオン交換樹脂を混合する。
【0025】
この際得られるヨウ素化合樹脂は、たとえば、陰イオン交換樹脂中の塩素イオンCl-が、三ヨウ化物イオンIとイオン交換され、この三ヨウ化物イオンIが、次式に示すように、官能基である第四級アンモニウム基と電気的に結合し、さらに樹脂の架橋構造に支持された構造となっている。
【0026】
【化1】

【0027】
このようにして得られる、抗菌剤であるヨウ素を含有した高分子材料である、ヨウ素化合樹脂は、それ自体、抗菌性を有するものである。すなわち、このヨウ素化合樹脂は、第四級アンモニウム基を官能基とする強塩基性陰イオン交換樹脂、つまり正に帯電した巨大な陽イオンの樹脂である。そこで、ヨウ素化合樹脂の表面にヨウ素よりもイオン化傾向の大きいイオンが近づくと、これをヨウ素イオンと交換しようとする力が働く。
【0028】
一方、細菌等の細胞は、大量の核酸を内部に有し、表面付近に酸性アミノ酸を含有するため、通常、細胞膜は負に帯電した状態にある。そこで、このヨウ素化合樹脂の表面に細菌等が近づくと、ヨウ素イオンと交換しようとする力が働き、ヨウ素イオンを遊離する。そして、ヨウ素化合樹脂の表面に接触した細菌等は、遊離されたヨウ素の酸化作用により殺菌されることになる。
【0029】
この発明のエアフィルタを得るには、前述のようにして得られる抗菌剤であるヨウ素を含有した高分子材料、たとえば、前記ヨウ素化合樹脂を、糸状に加工してフィルタ素材をつくる。
【0030】
たとえば、前記ヨウ素化合樹脂を粉体とし、これに、以降の操作上加工し易くするためポリエチレン樹脂を混合して、たとえば120〜180℃、好ましくは130〜140℃で混練する。
【0031】
次に、この混練物を、約190〜260℃まで加熱溶融した後、紡糸装置により糸状に加工してフィルタ素材をつくる。
【0032】
さらに、このフィルタ素材を用いて抗菌フィルタを形成するが、抗菌フィルタの形状は、所望の通気抵抗や捕集効率が得られるのであれば、特に限定されるものではない。たとえば、このフィルタ素材を用いて、これを編みこんで不織布をつくり、その不織布を用いて抗菌フィルタを形成してもよい。
【0033】
このように不織布をつくり、これを用いて抗菌フィルタを形成するのは、菌、ウィルス等をより高い捕集効率で捕集するためである。
【0034】
この発明のエアフィルタにおいて、高分子材料に含有させる抗菌剤として、ヨウ素を使用するが、ヨウ素は沸点が高く、加熱溶融時に揮散が少なく、またオゾン等の酸化剤に侵されにくいので、抗菌剤として好ましい。
【0035】
この発明のエアフィルタにおいては、抗菌フィルタの下流側に、活性炭を用いて形成した活性炭フィルタを設けてもよい。
【0036】
たとえば、電気集塵式空気清浄機にこの発明のフィルタを使用する例を図1に示すが、空気の流れに沿って、イオン化部1、電気集塵部2および抗菌フィルタ3を順次設け、さらに、抗菌フィルタ3の下流側に活性炭フィルタ4を設け、活性炭フィルタ4の下流側には、モ−タ5により駆動するファン6を設ける。
【0037】
そして、モータ5を作動し、ファン6を回転させて、汚れた空気を吸い込み、イオン化部1でイオン化し、帯電した粒子を電気集塵部2で静電的に吸着して集塵処理した後、抗菌フィルタ3により抗菌処理し、さらに、活性炭フィルタ4により、抗菌フィルタ3から揮散するヨウ素、臭気等を取り除いて、清浄な空気とする。このように活性炭フィルタ4を抗菌フィルタ3の下流側に設けることにより、空気清浄機の空気の流れに乗ってヨウ素等が空気清浄機の外へと揮散するのを防ぐことができる。
【0038】
この発明のエアフィルタは、たとえば、電気集塵式の他、フィルタ式、イオン式等の空気清浄機に使用することができ、これらの空気清浄機を設置可能な空間の空気の清浄化に適用することができる。また、空気清浄機の他、エアコン、マスク等のフィルタとして使用することができる。
【0039】
実施例
ヨウ素をアルカリ金属溶液に溶解し、これに、常温常圧で強塩基性陰イオン交換樹脂を混合して、ヨウ素化合樹脂を得た。
【0040】
得られたヨウ素化合樹脂を粉体とし、これに、ポリエチレン樹脂を混合して、130〜140℃で混練した。
【0041】
この混練物を、約190℃まで加熱溶融した後、紡糸装置により、径0.3mmの樹脂糸に加工してフィルタ素材をつくり、これを用いて不織布をつくり、この不織布を用いて、抗菌フィルタを形成して、この発明のエアフィルタを得た。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】この発明のエアフィルタを電気集塵式空気清浄機に用いる場合の概略説明図である。
【符号の説明】
【0043】
1 イオン化部
2 電気集塵部
3 抗菌フィルタ
4 活性炭フィルタ
5 モータ
6 ファン



【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗菌剤であるヨウ素を含有した高分子材料を糸状に加工してフィルタ素材をつくり、そのフィルタ素材を用いて抗菌フィルタを形成してなる、エアフィルタ。
【請求項2】
前記フィルタ素材を用いて不織布をつくり、その不織布を用いて抗菌フィルタを形成してなる、請求項1に記載のエアフィルタ。
【請求項3】
前記抗菌フィルタの下流側に、活性炭を用いて形成した活性炭フィルタを設けてなる、請求項1または2に記載のエアフィルタ。
【請求項4】
前記高分子材料に、強塩基性陰イオン交換樹脂にイオン交換吸着してヨウ素を含有してなる、請求項1、2または3に記載のエアフィルタ。
【請求項5】
空気清浄機に使用してなる、請求項1、2、3または4に記載のエアフィルタ。

【図1】
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【公開番号】特開2006−247403(P2006−247403A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−90869(P2006−90869)
【出願日】平成18年3月29日(2006.3.29)
【分割の表示】特願2000−12737(P2000−12737)の分割
【原出願日】平成12年1月21日(2000.1.21)
【出願人】(000006932)リコーエレメックス株式会社 (708)
【Fターム(参考)】