説明

エクステンサ−リラクサ手段を含む経皮薬物送達装置

経皮薬物送達装置は、薬物を収容するための1つ以上の薬室(24)で構成される貯留器層(10)を含む。貯留器層(10)の下面には、薬室(24)から送達される薬物が通る孔(26)が穿孔された弾性膜(12)によって、境界が形成される。貯留器層(10)にはエクステンサ手段(18)が結合され、エクステンサ手段(18)は、制御手段(22)によって駆動されて、薬室(24)が圧縮されて孔(26)が拡大するように貯留器層(10)を変形させる。これによって、薬物が薬室(24)から押し出され、孔(26)を通って患者の皮膚(30)に接触する。弾性膜(12)が皮膚(30)に粘着されるとき、装置の伸張および弛緩が皮膚(30)の伸張および弛緩を生じさせて、皮膚の表面が提示する障壁を破壊し、薬物の送達を増進する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
技術分野
本発明は、患者への薬物の投与に関し、特に、シリンジを使用しない薬物の経皮投与に関する。「薬物」という用語は、治療的であると否とにかかわらず、患者の血流中に送達する必要のある生物学的活性を有するあらゆる物質の意味に用いられ、たとえば薬品、ワクチンおよびたんぱくを含む。患者はヒトでも動物でもよい。
【0002】
背景
薬物の局所投与は、歴史的に創傷および身体の外部に制限される他の症状の治療に限られていた。経皮パッチに基づく市販用の最初の薬物送達システムは、1979年の
TransdermScop(商標)パッチであった。ニコチンパッチはより新しい例であり、経皮システムが一般的であることと、経皮システムが薬物送達システムとして広汎に受け入れられていることを示す。
【0003】
経皮経路を介しての薬物の送達は、経口および静脈内または筋肉内などのより古くからある経路に比べて、いくつかの利点を有する。これらを列挙すると以下のとおりである。
・1週間にも達する長期間にわたって一定の血中薬物濃度を達成する能力。
・経口薬物送達の本来的特性の一部である時折の極端な変動を伴わない薬物動態プロフィルの予測が、達成可能である。
・経皮システムの取り外しによって、直ちに治療を中断することができる。
・投与資格を有する看護士または医師を必要とする静脈内または筋肉内経路に比べて、自己投与が非常に容易。
・ファーストパス効果−体循環に入る前に肝臓を通る際の薬物の代謝−が回避される。
・薬物送達の非侵襲的方法である。
・ほとんどの経皮システムにおいて、その使用によって患者の活動が制限されない。
・投与頻度が低下することによる患者のコンプライアンス向上。
・消化器酵素または消化器pHによって不活性化される薬物(たとえば、エストローゲン、テストステロン、ニトログリセリン)を、経皮経路を使用することによって、体循環に直接送達することができる。
・体循環内への直接の送達および低送達用量に関連する低副作用。
【0004】
受動薬物送達機構
市販の経皮薬物送達システムの大多数は、皮膚を通しての薬物分子の受動拡散に基づいている。受動拡散を利用する経皮システムには2つの主なやり方があり、それらは粘着剤中薬物および貯留器システムである。2つのシステムの主要な差異は次のとおりである。貯留システムにおいては、薬物は、薬物貯留器の形態をした薄膜内に装填され、角質層に達する前に粘着層を拡散透過し、その後角質層を貫通して、毛細血管および血管へと拡散しなければならない。粘着剤中薬物の場合は、貯留器だけでなく粘着剤層内にも装填される。これによって薬物と角質層との距離がなくなり、バースト効果と薬物の即時放出が提供される。
【0005】
このようなシステムにおいては、薬物の通過は、薬物拡散に対する抵抗の関数である透過係数に依存する。抵抗そのものは、皮膚の3層すなわち角質層、表皮および真皮、ならびに薬物が収容される媒体/高分子の関数である。これは数学的には次のように示される。
Dk/d=1/抵抗(cm-1・sec)=透過係数(cm・sec-1
ここで、Dkは角質層内での薬物の拡散係数であり、dは角質層の厚さである。
【0006】
抵抗は直列に生じ、全抵抗は薬物装填媒体および皮膚の3層によって示される個々の抵抗の和である。したがって、総合的な透過性は個々の抵抗の和に反比例する。
【0007】
上述した関係と皮膚の層の透過性があるため、小さな薬物分子(親水性または脂溶性)が、受動送達での皮膚経由の送達のための最も可能性の高い候補となる。どの程度広い範囲の治療用分子が皮膚を通して送達され得るかを調べるためには、まず、皮膚の構造とその障壁特性とを理解する必要がある。
【0008】
ヒトの皮膚は、表皮、真皮および下皮の3つの主要な層から成る。表皮は皮膚の外面であり、主にケラチン生成細胞から成り、ケラチン生成細胞はさらに、基底層、有棘層、顆粒層および表層の4層に区別される。表層は角質層としても知られており、ヒトと外部環境との間の最前線防御である。
【0009】
真皮は真皮乳頭層および真皮網状層の2層から成る。真皮は、一般に、細胞合成、抗張力のためのコラーゲン合成、および皮膚に変形可能特性を与える弾性繊維合成に関係する細胞要素および繊維要素で構成される。
【0010】
下皮は、脂肪組織を含み、その主たる機能は真皮をその下の組織に付着させることである。皮膚付属器は表皮領域に由来するが、真皮内にまで延びている。これらには毛嚢、脂腺、起毛筋(毛嚢を起立させる)、および汗腺が含まれる。
【0011】
皮膚は多くの機能を有する。これらは、保護、感覚、熱調節、機械的および免疫的防御の形成、紫外線暴露に応じたビタミンD合成、紫外線保護のための色素沈着、ならびに創傷治療への関与である。
【0012】
皮膚の防護壁は、最外層である角質層を形成するたんぱくと脂質との組合せから成る。この層は絶え間なく脱落し再生され、水、化学物質、細菌および菌類の侵入に対する防御を提供する。したがって、この層は、薬物の貫通に対する障壁を提供するという点で、薬物の経皮的送達に関して最も重要な層である。障壁は15〜20層の、平坦な、部分的に乾燥し、死亡し、角質化した表皮細胞の形態である。この層の厚さは、身体の部位に応じて10μmから20μmにわたり、最も厚い層は掌および足裏に存在する。この障壁は、実際、薬物送達にとって、消化器、鼻腔、口腔、膣または直腸送達の経路の上皮障壁よりも手ごわい障壁である。さらに、皮膚の表面には破片、微生物、皮脂および他の物質が存在するが、これらは薬物の貫通に対して些細な障壁となるにすぎない。
【0013】
角質層障壁は、約40%の脂質、約40%のたんぱく、および約20%の水から成る。この脂質に富む性質は、親水性および荷電分子の輸送を排除し、脂溶性分子の輸送を促進する。構造はれんがとモルタルで作られた壁に類似ており、水和たんぱくがレンガを構成し、脂質がモルタルを構成する。薬物送達に対する上述の障壁にかかわらず、薬物分子が角質層を一旦横切ると、それらの皮膚の下層への進入およびその後の体循環への取り込みは、比較的迅速で妨害を受けない。
【0014】
薬物は、図1に示すように、角質層2を横切って、または汗腺1を通って、または毛嚢3を通って、皮膚を貫通する。
【0015】
能動薬物送達機構
上述の受動的方法の傍らで、皮膚を通して薬物を送達する多くの能動的方法が研究されてきた。これらのシステムは、一般に、2つの範疇に分類することが可能である。すなわち、角質層を迂回または除去する方法、および、薬物の送達を電気的に支援する方法である。電気的に支援する方法には、イオントフォレシス(iontophoresis)、フォノフォレシス(phonophoresis)、エレクトロポーテーション(electroportation)、応力波の使用、およびフォトメカニカル(photomechanical)送達がある。小胞(follicular)送達は角質層の迂回を可能にし、微細切開および微細針技術は、障壁層の除去または貫通のために使用することができる。これらについて以下に詳述する。
【0016】
電気支援薬物送達
イオントフォレシス
イオントフォレシスは、薬物送達の非侵襲的方法であり、低レベルの電気エネルギーを安全かつ効果的な方法で使用する。イオントフォレシスは、皮膚を横切って下部組織に薬物分子を輸送するために、二極性電界を利用する。貫通を促進する機構は、皮膚の両側間の電気化学的ポテンシャル差の増大に加えて、細孔の拡大および/または新たな細孔の生成によることが、明らかにされている。適用部位の形態によっては、苦痛を招く組織損傷の可能性がある。
【0017】
フォノフォレシス
薬物送達における超音波の使用(ソノフォレシス(sonophoresis)またはフォノフォレシスとも呼ばれる)は、1950年代に初めて報告され、現在では、たんぱくなどの大きな分子の送達をはじめ、経皮薬物送達を促進するためのその使用例が多数ある。20kHzから19MHzにわたる周波数範囲の超音波が皮膚の浸透性を向上させるために用いられてきたが、100kHzよりも低い範囲の周波数が皮膚の浸透性を向上させる能力の高いことが明らかにされている。
【0018】
作用の一般的な機構は、超音波媒介の熱効果、一時的キャビテーション、および音響流を含む。熱効果は、分子の皮膚内での拡散を促進し得る皮膚温度の上昇を含む。超音波の適用持続時間によっては、摂氏数度程度の組織温度上昇が達成されるが、皮膚内での超音波伝播の効率は、散乱と吸収での減衰によって低下する。熱効果は、組織吸収波エネルギーの結果生じて、波の伝播方向に分子を押す分子への放射圧によって、さらに高まると考えられている。皮膚を超音波に曝すことで気泡が形成される。この気泡は、ガスで満ちた温和な泡であることも、激しく崩壊してキャビテーションの形成をもたらす蒸気で満ちた泡であることもある。これは、崩壊の結果生じる衝撃波による皮膚構造の変更をもたらし得る。キャビテーション泡の発振は液流をもたらし、この液流は音響流と呼ばれており、これも皮膚内での薬物拡散を促進し得る。
【0019】
主な不都合は、キャビテーション泡によって生じる皮膚構造の永続的な変化という結果の可能性があることである。
【0020】
エレクトロポーテーション
エレクトロポーテーションにおいては、小さな電気的パルスを皮膚表面に加えて、皮膚の上層ならびにそのたんぱくおよび脂質膜を貫通する一時的な水路を生成させる。エレクトロポーテーションを起こさせるためには、皮膚の両側間の電圧が数百ミリボルトに達して、10μs〜100msの電界パルスをもたらさなければならない。パルスを印加すると最初に膜が帯電し、僅かな安定期間後に膜は不安定になって、この時点でエレクトロポーテーションが起きる。
【0021】
応力波
レーザを用いた応力波の皮膚への印加は、薬物分子に対する皮膚の浸透性を高めるために用いられてきた。しかし、レーザ誘起応力波(LISW)の使用に先立つ皮膚の緩和な加熱が、皮膚の浸透性をさらに有意に向上させることが示されている(2)。その機構は、細胞間脂質の流動性が向上し、その結果角質細胞が膨潤して、薬物が皮膚を通る通路となる流路をレーザが形成することが可能になることによると、考えられている。この方法の主な問題点は、処理の複雑さと装置の非常な高価さである。
【0022】
フォトメカニカル送達
フォトメカニカル薬物送達は、皮膚の浸透性を高めるための高圧勾配の使用を含む。圧力は、レーザによって発生される機械的応力パルスによって生成される。これによって、薬物分子に対する皮膚の浸透性が一時的に上昇する。皮膚の障壁特性は数分で回復する。40kDAに達する高分子が、皮膚の障壁層を、その障壁機能失効の一時的な期間に、横断し得ることが明らかにされている。
【0023】
皮膚表面の除去または迂回
小胞薬物送達
小胞薬物送達は、毛嚢、毛幹および脂腺などの皮膚付属器に関連する細孔を利用して、角質層を迂回し、皮膚のより深部にまで薬物が浸透することを可能にする。小胞経路の断面積は比較的小さいが、小胞送達に関わる皮膚付属器に関連する豊富な血液供給が、薬物の吸収を増進し、これによって薬物の皮膚通過を増進する。
【0024】
微細切開
これは、運動量移動と切断(scizing)との組合せを用いて、角質層および下部組織を通る微細導管を創生する技術である。運動量は、ガス輸送され皮膚に向けて斜めに加速される不活性尖鋭粒子を利用した切除機構を通じて与えられる。その結果、苦痛を伴うことなく、皮膚表面に微細孔すなわち導管が生成される。これとたとえば微細針の使用との差異は、微細針を引き抜くことにより、創生された開口そのものが閉じることである。直径100〜250μm、深さ200μmのオーダーの孔がこれまで生成されており、孔は繰り返し、迅速に、正確にかつ無痛で生成可能である。粒子サイズ、流れ、キャリアガス圧、暴露面積および時間の精密な制御が極めて重要であり、このため、実用化が制限される。皮膚は速やかに治癒し、アブレーションの結果としての有害事象を伴わないことが示されている。
【0025】
微細加工技術
微細針アレイ
微細針概念は1970年代に初めて着想されたが、皮膚浸透性を向上させるための微細針アレイは、1990年代後半に、加工技術のより広範な利用可能性を伴って、Hashimiらによって開発された。神経の貫通を回避するための制御された長さと、角質層を貫通するに足る高い強度とを有する針アレイを生産することが可能になっており、これによって、皮膚の保護障壁を克服して無痛様式での薬物送達を増強する媒体が提供される。それらは、たとえばパッチ経由での薬物送達に先立って、皮膚表面を「準備」するために使用してもよい。微細針は、薬物貯留器に連結することによって、薬物を皮膚内に直接送達するために使用してもよく、集積電子回路および駆動機構を通じて、その後の制御を行う。
【0026】
MEMS(マイクロエレクトロメカニカルシステム)シリンジ
MEMSシリンジは、ケイ素およびソフトリソグラフィ技術に基づいている。MEMSシリンジは、中空の先鋭なケイ素微細針のアレイと、薬物を保持するための変形可能なPDMS(ポリジメチルシロキサン)貯留器とで構成される。このシステムの目的は、薬物の送達の際の粒子沈殿によって誘起される詰まり形成の問題を解決することであり、モデル皮膚組織において成功裏に試験されてきた。針は200μmまでの深さで皮膚を貫通するように設計され、この深さでは神経終末は存在しないため無痛であり、薬物はここから皮膚のより深い層へと拡散して血液中に吸収される。このシステムの利点は、薬物を凍結乾燥形態で送達する手段を提供することにあり、これは、貯蔵温度を制御する必要がなく、したがって、薬物およびワクチンを広く、特に遠隔の第三世界の地に配布できることを意味する。
【0027】
本発明
本発明は、請求項1に規定される経皮薬物送達装置を提供する。
さらに、本発明の好ましい特徴は従属クレームに規定される。
【0028】
本明細書において、「より低い」という語および関連する語は、経皮薬物送達装置の、使用に際して患者の皮膚に接触して配置されることを意図した側を示す。「より高い」という語および関連する語は、装置の反対側を示す。これらの語は、装置の絶対的向きを定義するためのものではない。
【0029】
患者の皮膚に接触して配置されたとき、本装置は体内への薬物の能動送達を提供する。本装置は、異物の侵入に対する皮膚の最大の障壁、すなわち角質層の破壊を生じさせる。さらに、このシステムは皮膚の小胞経路の細孔の拡張を生じさせて、その薬剤の進入経路を一層増強する。破壊は下部の脂質層に生じることもあり、皮膚を介しての薬剤の拡散を一層増進させる。
【0030】
本装置は、以下のタイプの薬物、治療剤および分子を送達することが可能である。
・たんぱくおよび高分子
・イオン性薬物
・非イオン性薬物
・脂溶性薬物
・親水性薬物
・ワクチン
【0031】
本装置は、以下の剤形を送達することが可能である。
・固体、たとえば、粒子および凍結乾燥物質
・液体
・半固体
・乳濁液
・ゲル
【0032】
本装置は、以下のおよび他の薬効分類で使用することが可能である。
・避妊:たとえば、エチニルエストラジオールおよび新規プロゲステロンであるノルエルゲストロミン
・癌疼痛:たとえば、クエン酸フェンタニルの一剤形であり、一般に慢性癌疼痛管理に使用される強力なオピオイド鎮痛薬のDuragesic
・CNS:たとえば、変動するパーキンソン症状を軽減するために必要とされるドパミン刺激のためのロチゴチンパッチ、おょび、抑うつのためのセレギリン
・糖尿病:たとえば、インシュリン
・ホルモン補充および痛覚関連:たとえば、中程度ないし激しい血管運動症状の軽減のため、および骨粗しょう症の治療のために適応されるEstraderm(エストラジオール)
・心臓血管系:たとえば、Nitroderm TTS(ニトログリセリン)
・ワクチン:たとえば、免疫応答を誘導するため
【0033】
本装置は、1以上の経路での皮膚の貫通を増進してもよく、それには以下の経路が含まれる。ただし、これらの経路に限定されるものではない。
・経付属器:浸透物は、「短絡」路(たとえば、毛嚢または汗腺)経由で角質層を横断する。人体の毛嚢および汗腺の相対密度が判っている現在、毛嚢は薬物送達のための圧倒的に一般的な経路である。貯留器に働く機械的動作が、その内容物に対する圧力を生成して、内容物を利用可能な出口から押し出し、内容物を細孔および小胞に向かわせる。これらの細孔および小胞は、貯留器およびその下部の皮膚に接触する粘着層の拡張によって加わる圧力のために、直径が拡大する。これは、以下に説明するように、「真空」の利用によってさらに増強されることもある。
・細胞間:浸透物は、最も直接的な経路で角質層を横切り、角化細胞および細胞外脂質層間で分配を繰り返し、これらを拡散貫通する。浸透速度は、死亡たんぱく/皮膚細胞が、貯留器およびその下部の皮膚に接触した粘着層の伸張を通じて、それらに加わる物理的力によって破壊されるにつれて、劇的に上昇し、このため、薬物の侵入に対する最大の障壁が破壊される。角質層に対するこの破壊は微視的または巨視的であり、両方であることもある。
・脂質二重層:下部脂質二重層に対する破壊は、皮膚への薬剤の拡散、および、局部的な免疫型反応の刺激をさらに増進することもある。
【0034】
発明の詳細な説明
図2に示す経皮薬物送達装置は、1以上の剤形での1以上の薬物または他の治療用分子を収容する一連の薬室から成る貯留器層10を含む。貯留器層10は可撓性を有し、その下面には弾性膜12によって境界が形成されている。弾性膜12には剤形薬物が通過し得る孔が穿孔されている。膜12には、装置を患者の皮膚に付着するための粘着層14が設けられている。粘着層14は、膜12をヒトまたは動物の皮膚に離脱可能に接着するために適していなければならない。
【0035】
第2の粘着層16が、貯留器層10の上面をエクステンサ(伸張器:extensor)層18に結合させる。第2の粘着層16は第1の粘着層14とは異なる粘着剤で構成してよい。本発明のこの実施形態においては、エクステンサ層18はマイクロエレクトロメカニカル(MEMS)装置として形成されている。第3の粘着層20が、エクステンサ層18のためのマイクロ電子制御回路から成る制御層22に、エクステンサ層18を結合させる。第3の粘着層20は第2の粘着層16と同様であってもよい。エクステンサ層18と制御層22との電気的接続が、点線23によって模式的に示されている。
【0036】
本装置は、エクステンサ層18によって貯留器層10を交互に伸張および弛緩させて、貯留器層10内の薬室から薬物が絞り出されて、弾性膜12の孔を通過するように動作する。
【0037】
貯留器層10の伸張および弛緩は、貯留器層10の基底部にある孔26の伸張および弛緩をもたらす。貯留器の内容物に加わる力によって、内容物は皮膚表面およびその付属器の方向に物理的に力を受けることになる。
【0038】
貯留器層10の伸張および弛緩は、次いで、貯留器層10の底の、皮膚に付着された粘着層14の伸張および弛緩をもたらす。その結果、皮膚ならびにその表層、角質層および汗腺、毛嚢などの細孔の伸張および弛緩が生じる。皮膚表面の伸張および弛緩は、皮膚表面の細胞/障壁の破壊と付属器の孔径の増大を生じさせる結果となり、これによって、皮膚を通して体内への薬物または治療剤の送達が増進される。
【0039】
貯留器層10の第1の例を図3に模式的に示す。この貯留器層10は多数の立方形の薬室24に分割され、薬室にはそれぞれ、薬室の下面を成す弾性膜12の部位を貫通する孔26が設けられている。
【0040】
貯留器層10の第2の例を図4に模式的に示す。この貯留器層10は、多数の半球形の薬室24を有し、薬室にはそれぞれ、薬室の下面を成す弾性膜12の部位を貫通する孔26が設けられている。
【0041】
いずれの薬室24も、本システムのエクステンサ層18によって加えられるエクステンサ/リラクサ(弛緩器:relaxor)力に応じて伸張するに足るだけの柔軟性を有する。薬室24は、また、有意な体積増大を伴うことなく伸張するに足るだけの剛性を有し、および/または外部から拘束される。好ましくは、体積減少が存在し、その結果、装置が駆動されるときに薬室が加圧される。貯留器層10は、各々の直径が10mmに達する大きな多数の薬室24で構成してもよいし、各々の直径が数マイクロメートルの小さな数百個の薬室24で構成してもよい。
【0042】
貯留器薬室24の構成材料は、たとえば、Rohm GmbHによって販売されている薬学的ポリマーのEudragit(登録商標)類、アクリル酸架橋ポリマー、または、PDMS(ポリジメチルシロキサン)などの、ポリマーであってよい。
【0043】
孔26は、弾性膜12が弛緩状態にあるときに開くように形成してよく、エクステンサ/リラクサ刺激が加えられることによって、伸張および弛緩する。孔26の直径は、数マイクロメートルから1000マイクロメートル(1mm)までの範囲内でよい。
【0044】
あるいは、孔26は収縮した状態に形成してもよく、これによって孔生成の間に材料は除去されず、孔26は弛緩状態の間に閉じて、伸張相の間に開く、または拡張することになる。
【0045】
エクステンサ層18は、四角形、円形または他のどのような形状でもよく、最終の経皮パッチの形状および大きさと同じであっても異なっていてもよい。エクステンサ層18は、貯留器層10の上、下、または1以上の縁部に位置してもよい。
【0046】
伸張および弛緩の度合いは、本システムの公称寸法の和の0.1%以下でも、本システムの公称寸法の和の200%程度まででもよく、その上限は本装置を付着するヒトまたは動物の皮膚の伸張性によって決定される。伸張および弛緩の頻度は、300秒当たり1サイクルから1秒当たり1000サイクルまでの範囲内でよい。
【0047】
薬物送達への影響の点でいくつかの因子が相関し、これらの因子には、たとえば、エクステンササイクル当たりの孔の伸張の度合い、エクステンサ駆動の頻度、ならびに薬物が含まれる剤形の物理的および化学的特性がある。
【0048】
長時間にわたる伸張、すなわち、貯留器と皮膚の細孔との間の自由経路の長時間にわたる妨害が有益なこともあり、たとえば、薬物を製剤化するのに界面張力が低く粘性の低い溶液が用いられる場合、本装置の貯留器内に入れられた薬物は、エクステンサ駆動によって直ちに貯留器から出る。
【0049】
高速の伸張および弛緩が有益なこともあり、たとえば、本送達装置の貯留器への貯留に先立って、薬物を含めるために高粘性剤形が用いられる場合である。この例では、薬物が徐々に血液循環中に拡散していく始点となる皮膚の細孔内への送達を容易にする機械的圧力が、より重要であるかもしれない。
【0050】
前述のように、本発明に従う装置は、薬物送達の3つの可能なモード、すなわち、細孔を通じて、角質層の死亡たんぱく細胞の破壊を通じて、および脂質二重層の破壊を通じてというモードを提供する。当然、拡大した細孔を通じた薬物の拡散が存在するところ、つまり、エクステンサ駆動頻度が300秒当たり1回程度と低くてもよいところでは、エクステンサ層の駆動がそのような低頻度では角質層または下部の脂質二重層のいずれかの破壊をもたらすほど活発ではないため、上述の第2および第3の経路での送達の余地はほとんど残らないことになる。
【0051】
治療効果を得るために、様々なモードの送達が補完し合う必要がある状況もあり得る。これは、たとえば、角質層および下部の脂質二重層の破壊をもたらす高頻度の初期の短期間と、3つの経路全てを通じての促進された拡散を起こさせるより低頻度のその後の期間とを、必要とするかもしれない。エクステンサ層は、所望のあらゆる頻度パターンで長時間にわたって動作するように制御することが可能である。
【0052】
エクステンサ層18は、多くの材料で構成することが可能である。その材料には、適切に構成され制御層22に接続されたときに、制御刺激に応答して伸張および弛緩を生じさせるポリマー性の、ゼラチン質の、金属の、合成繊維由来の、および圧電性の材料が含まれるが、これらに限定されない。しかしながら、好ましくは、エクステンサ層18は、貯留器層10に結合された材質層の伸張および弛緩を生じさせるマイクロメートルサイズのモータ、または他の機械的システムから成るマイクロエレクトロメカニカル(MEMS)装置として作製される。特に好適であることが判明しているMEMSシステムの1つの例は、その薄膜が貯留器層10に付着可能でエクステンサ層18としての役割を果たすエレクトロポリマー性(electropolymeric)の材料を使用する。
【0053】
エクステンサ層18によって引き起こされる伸張および弛緩は、図5に示すように、単一の軸に沿う伸張をもたらしてよい。この例では、マイクロエレクトロメカニカルモータの要素28が互いを越えるように滑って、長方形のエクステンサ層18を、中抜き矢印で示す方向に伸張させる。ただし、同じ結果を得るために、モータ要素の他の配置を採用することも可能である。
【0054】
あるいは、エクステンサ層18によって引き起こされる伸張および弛緩を全方向において等しくして、全方向に等しい貯留器層10の伸張および弛緩を生じさせてもよく、また、エクステンサ層18によって引き起こされる伸張および弛緩を様々な方向で異なるようにして、様々な方向で異なる貯留器層10の伸張および弛緩を生じさせてもよい。図6は、マイクロエレクトロメカニカルモータ(不図示)によって、中抜き矢印で示すように全方向に等しく伸張される、または、電源へ接続されると全方向に等しく伸張するエレクトロポリマー材料の膜から成る円形のエクステンサ層18の例を示す。
【0055】
制御層22は、伸張および弛緩の度合いおよび頻度の点で、エクステンサ層18の伸張および弛緩を制御するように設計されたマイクロ電子回路を含む。制御層22は、標準的な集積回路作製技術、ならびに適切な材料、配置およびエクステンサ層18に対する接続を使用して作製されるが、これは当業者には明らかであろう。
【0056】
貯留器層10の弛緩は受動的であってよく、つまり、自然に弛緩状態に戻る弾性的な貯留器層10によってなされてよい。好ましくは、また、特に本装置を高頻度で動作させるときは、エクステンサ層18は貯留器層10を弛緩状態へと駆動するように能動的に制御されてもよい。
【0057】
制御層22はまた、ポリマーの薄膜または他の材料の薄膜から電力を供給する電源を含んでもよく、その電源は標準的な薄膜電源、すなわちポリマー膜細胞工学を利用したものでよい。
【0058】
エクステンサ層18は、制御層22によるエクステンサ層18の駆動の制御、ならびに、貯留器層10およびその薬室24へのエクステンサ層18への適切な接続を通じて、貯留器層10の薬室24を、集合的にすなわちグループで、または個別に駆動するように構成してもよい。
【0059】
本装置は、即時に、遅延して、または数時間もしくは数日にわたって間欠的に、駆動することができる。
【0060】
適切で薬学的に許容され、適用可能な粘着剤を、種々の層および構成要素を結合するための粘着層16,20と、皮膚に接触すべき粘着層14とに使用する。粘着層14,16,20、特に皮膚に接触する粘着層14は、横方向の伸張力に耐えるに足るだけの強度を有するべきであり、また、弛緩して元の状態に戻り得るような柔軟性を有するべきである。
【0061】
薬物および他の治療用分子の粘着層14の通過は、本システムの全体的な機能に何の有意な影響も及ぼしてはならない。貯留器層10の伸張は粘着層14の伸張ももたらし、したがって、粘着層14を薄くし、さらに、薬物の粘着層14の通過に対するあらゆる影響を最小にする。粘着層14に孔を形成してもよい。それらの孔が貯留器層10の孔26に直接対向する場合、それらは物質の流れに対して、妨害のない経路を提供する。
【0062】
皮膚の最上層である角質層は死亡細胞で構成されるので、伸張および弛緩のサイクルを繰り返すと、角質層からの死亡皮膚細胞の除去によって、ある領域では、特に、伸張の度合いが大きい場所では、皮膚への粘着力が失われることが想像される。
【0063】
そのような状況では、皮膚の表面との接触面積が増大するように、多孔質の弾性膜12の表面の粗さを増すことが有益な特徴となる。この粗い表面は均一であっても不均一であってもよく、さらには皮膚表面への係留点となって、局部的な粘着の消失を生じ難くし、または全く生じなくする。
【0064】
本装置のさらなる強化例を、患者の皮膚30に接触している状態で、図7に示す。この強化装置は、皮膚の付属器を通しての薬物の取り込みをさらに向上させ、拡散も増強するという追加の特徴を貯留器層10に有する。
【0065】
本発明のこの実施形態においては、弾性膜12はわずかに剛性の壁を有する大きな孔26を含む。より薄い破断可能な膜36が、薬物を収容した薬室24から孔26を封止する。破断可能な膜36は、エクステンサおよびリラクサ刺激を貯留器層10に加えるだけでは破れない程度の強度を有する。粘着層14の孔32は、弾性膜12の孔26に対して位置合わせされている。
【0066】
マイクロチャネル34が孔26,32から延びて、微細作製されたポンプまたは他の真空生成装置(不図示)へと達する。ポンプの作動で孔26,32の排気が起こり、孔26,32内の圧力が低下する。その結果、孔26,32が崩壊し、また、装置のエクステンサ/リラクサ動作によって拡げられていた皮膚そのものの細孔が、ある程度崩壊する。
【0067】
真空度が閾値レベルに達すると、破断可能な膜36が破れて、薬物が、貯留器層10から繋がる装置の孔空隙26,32の両方と、上方にかけて部分的に崩壊している皮膚30の細孔とを満たすことになる。結果として、薬物または治療剤の取り込みの速度が劇的に向上する。
【0068】
本強化装置においては、上述のようにまた図示したように、破断可能な膜36は1回のみ破れることが可能であり、したがって、本装置は薬物の単回投与に最も適している。薬室24と孔26との間に一時的な封止を提供する代替の手段を備えてもよい。そのような代替物の1つはマイクロバルブであり、これは、その両側の圧力差が閾値を超えるまでは閉じており、閾値を超えると開いて、薬物を薬室24から開放する。ポンプが停止して圧力差が再び小さくなると、バルブは再び閉じることが可能であり、これにより装置の再使用が可能になる。このようにすることで、本強化装置は、長期間にわたって薬物を患者に間欠的に送達するために使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】薬物の経皮送達のための経路を示すヒトの皮膚の断面図である。
【図2】本発明の好ましい実施形態に従う経皮薬物送達装置の一般的な構造を示す分解図である。
【図3】本発明に従う装置における貯留器層の一実施形態の略断面図である。
【図4】本発明に従う装置における貯留器層の代替の実施形態の略断面図である。
【図5】本発明に従う装置におけるエクステンサ層の一実施形態の略平面図である。
【図6】本発明に従う装置におけるエクステンサ層の代替の実施形態の略平面図である。
【図7】本発明の第2の好ましい実施形態に従う経皮薬物送達装置の一般的な構成を示す略断面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬物を収容するための1つ以上の薬室(24)を有する貯留器層(10)であって、下面に、薬室(24)から送達される薬物が通る孔(26)が穿孔された弾性膜(12)によって、境界が形成されている貯留器層(10)と、
制御刺激を受けると、孔(26)の大きさが減少する第1の状態と、孔(26)が拡大する第2の状態との間で、貯留器層(10)を変形させるように動作するエクステンサ手段(18)と
を含むことを特徴とする経皮薬物送達装置。
【請求項2】
薬室(24)は、第1の状態よりも第2の状態において、より圧縮されることを特徴とする請求項1記載の経皮薬物送達装置。
【請求項3】
第1の状態は貯留器層(10)の弛緩状態であることを特徴とする請求項1または2記載の経皮薬物送達装置。
【請求項4】
エクステンサ手段(18)は、エクステンサ手段(18)が駆動されたときに、エクステンサ手段(18)が貯留器層(10)を伸張するように、貯留器層(10)に接続されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の経皮薬物送達装置。
【請求項5】
エクステンサ手段(18)が駆動されたとき、エクステンサ手段(18)が貯留器層(10)を単一の軸に沿って伸張することを特徴とする請求項4記載の経皮薬物送達装置。
【請求項6】
エクステンサ手段(18)が駆動されたとき、エクステンサ手段(18)が貯留器層(10)を直交する2軸に沿って伸張することを特徴とする請求項4記載の経皮薬物送達装置。
【請求項7】
エクステンサ手段(18)は貯留器層(10)の上面に付着されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の経皮薬物送達装置。
【請求項8】
エクステンサ手段(18)はマイクロエレクトロメカニカル(MEMS)装置として形成されていることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の経皮薬物送達装置。
【請求項9】
エクステンサ手段(18)に制御刺激を提供するための制御手段(22)をさらに含むことを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の経皮薬物送達装置。
【請求項10】
制御手段(22)は、あらかじめ定義された薬物送達方法に従ってエクステンサ手段(18)を制御し得るマイクロ電子制御回路であることを特徴とする請求項9記載の経皮薬物送達装置。
【請求項11】
薬物が通り得る弾性膜(12)上の粘着剤の層(14)であって、患者の皮膚(30)に装置を粘着するために適する粘着剤の層(14)をさらに含むことを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の経皮薬物送達装置。
【請求項12】
粘着剤の層(14)に、薬剤の層通過を支援する孔(32)が形成されていることを特徴とする請求項11記載の経皮薬物送達装置。
【請求項13】
貯留器層(10)の薬室(24)と、弾性膜(14)を通る孔(32)との間に設けられる封止部材(36)と、
弾性膜(14)を通る孔(32)に接続されるマイクロポンプであって、封止部材(36)を破って、それによって薬物を薬室(24)から解放して孔(32)に入れるために充分に、孔(32)内の空気圧を低下させるマイクロポンプと
をさらに含むことを特徴とする請求項1〜12のいずれか1項に記載の経皮薬物送達装置。
【請求項14】
封止部材(36)は破断可能な膜によって形成され、該膜はその両側の圧力差が閾値を超えたときに破れることを特徴とする請求項12記載の経皮薬物送達装置。
【請求項15】
封止部材はバルブによって形成され、該バルブはその両側の圧力差が閾値を超えたときにのみ開くことを特徴とする請求項12記載の経皮薬物送達装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2008−501397(P2008−501397A)
【公表日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−514138(P2007−514138)
【出願日】平成17年6月6日(2005.6.6)
【国際出願番号】PCT/GB2005/002236
【国際公開番号】WO2005/120471
【国際公開日】平成17年12月22日(2005.12.22)
【出願人】(506403190)
【氏名又は名称原語表記】CHOWDHURY,Dewan,Fazlul,Hoque
【住所又は居所原語表記】85 Toothill Road,Loughborough,Leicestershire,Great Britain
【Fターム(参考)】