説明

エスカレーター制御装置およびエスカレーター群制御装置

【課題】省エネ性と利便性の優先度を考慮して、エスカレーターの定量的な省エネ計画を設定し、実現し易いエスカレーターの省エネ制御装置を提供する。
【解決手段】一日の各時間帯毎に、乗客負荷の上限値、運転速度、および稼動/停止を自由にスケジューリングし、設定された乗客負荷の上限値の範囲内で、設定された運転速度で、並びに稼動可能時間帯内でエスカレーターが運転制御されるようにした。乗客負荷が、その時間帯に設定された上限値を超えると、アナウンス装置71と表示装置72により、特定乗客以外の乗客のエスカレーターへの乗り込みを禁止する。エスカレーターの運転速度は、スケジューリングされた通りにインバータ8によって速度制御され、不稼動時間帯になるとエスカレーターは自動的に停止させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエスカレーターの省エネ運転制御を行うエスカレーター制御装置およびエスカレーター群制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エスカレーターにおける省エネ制御方式としては、特許文献1に示されるように、エスカレーターの運転負荷に応じて、運転効率の高い運転速度に調整することにより、省エネ効果を生み出す公知例がある。
【0003】
また、特許文献2に示されるように、エスカレーターの運転を学習制御することにより、各時間帯における運転方向、運転時間、運転速度等を最適なものにする公知例がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−194650号公報
【特許文献2】特開2006−143450号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、これらの公知例は、運転後に省エネ効果を診断することは可能であるが、省エネ効果の目標値が設定されている場合に、その目標に対応する制御が考慮されておらず、運転前に定量的な省エネ効果を計画することはできなかった。
【0006】
本発明の目的は、エスカレーターの省エネ運転に関して、複数の省エネ機能を有し、一日の各時間帯において各省エネ機能を使い分け、省エネ性と利便性の優先度を選択できるエスカレーター制御装置を提供することである。
【0007】
本発明の他の目的は、省エネ運転の目標値の達成をし易くしたエスカレーター制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の望ましい実施態様においては、可変電圧・可変周波数の交流を出力するPWMインバータによって誘導電動機を可変速制御し、この誘導電動機によってエスカレーターを駆動するエスカレーターの制御装置において、各時間帯毎にエスカレーターの乗客負荷の上限値を設定する設定部、運転中の前記エスカレーターの乗客負荷を検出する負荷検出手段、および運転中の前記エスカレーターの前記乗客負荷検出値が当該時間帯の前記乗客負荷の上限値を上回ったとき、前記乗客負荷を制限する乗客負荷制限手段を備えたことを特徴とする。
【0009】
本発明の他の望ましい実施態様においては、各時間帯毎に前記エスカレーターの運転速度を設定する速度設定部と、前記速度設定部によって設定された運転速度で前記エスカレーターを速度制御する速度制御装置とを備えたことを特徴とする。
【0010】
本発明の他の望ましい実施態様においては、各時間帯毎に前記エスカレーターの運転または休止を設定する稼動設定部と、前記稼動設定部によって設定された運転または休止のスケジュールに沿って、前記エスカレーターを運転または休止させるエスカレーター駆動装置とを備えたことを特徴とする。
【0011】
本発明の具体的な実施形態においては、エスカレーターの運転速度、乗客負荷、及び駆動率を、必要な時間帯毎に設定する。
【0012】
式(1)にエスカレーターの消費電力の計算式を示す。
【0013】
=(L×V×J)/(2×6120×η)+P×H ……………(1)
ここで、P:消費電力(kW)、L:乗客負荷(Kg)、V:速度(m/min)、J:駆動率、η:駆動系の効率、P:無負荷運転時の階高1(m)当たりの消費電力(kW/m)、H:階高(m)である。
【0014】
式(1)において、消費電力Pを抑制する上で、エスカレーターの設置後に調整可能となる項目は、乗客負荷L、運転速度V、及び駆動率Jの3点である。この3項目を低減することで消費電力を低減できるが、その場合にはエスカレーターの利便性も低下する場合がある。
【0015】
本発明の望ましい実施態様においては、この3項目を各時間帯において使い分けることにより、各時間帯の省エネ効果の増大と、エスカレーター利便性低下の抑制を調整する。
【0016】
それぞれの利便性低下には特徴がある。
【0017】
まず、速度を下げる方式は、目的のフロアへ到着する時間が遅くなるという不便さを乗客全員が分かち合って省エネ効果を引き出すものである。
【0018】
また、人数制限あるいは重量制限をする方式は、限られた乗客は全く利便性を損なうことなく目的のフロアへ到着するが、それ以外の客はエスカレーターを利用できなくなるという不便を生じる。
【0019】
例えば、昼休みの食堂への移動や出退勤時のように、エスカレーターを利用する乗客が共通の目的を持って行動する時間帯には、速度低減による省エネ運転が必要になる。
【0020】
一方、通常の勤務時間内で到着する時間が拘束されている場合とそうでない場合とに分かれているような時間帯には、人数制限(重量制限)による省エネ運転が必要になる。
【0021】
また、建屋内に複数のエスカレーターが存在する場合に、時間帯によっては、各フロアの生活パターンにより特定のエスカレーターを停止し、乗車率をゼロとして省エネを実施するケースも考えられる。例としては、食堂階へ走行するエスカレーターは、食事の時間帯以外は停止してもさほど不便になることはなく、会議室フロアへ走行するエスカレーターは、会議予定がない時間帯は停止することも可能である。
【発明の効果】
【0022】
本発明の望ましい実施態様によれば、エスカレーターの省エネ性と利便性とを考慮しながら、目標とする省エネ効果を達成し易いエスカレーター制御装置を提供できる。
【0023】
エスカレーターの省エネ性と利便性とを、管理者が意図するものに調整可能であることにより、対象となる環境、使用条件、季節、及び各フロアの生活状況に応じて、具体的な省エネ効果を計画立案に、実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施例1における荷重上限値設定による時間帯別省エネ制御の設定操作部の一設定画面例である。
【図2】図1の実施例におけるエスカレーターの各時間帯別の乗降顧客数の最大値を示す図である。
【図3】本発明の実施例1における荷重上限値設定による時間帯別省エネ制御の設定操作部の他の設定画面例である。
【図4】本発明の実施例1におけるエスカレーター制御装置の制御ブロック図である。
【図5】本発明の実施例1における時間帯別荷重制限運転の制御フロー図である。
【図6】本発明の実施例2における速度および荷重上限値設定による時間帯別省エネ制御の設定操作部の一設定画面例である。
【図7】本発明の実施例2における速度および荷重上限値設定による時間帯別省エネ制御の設定操作部の他の設定画面例である。
【図8】本発明の実施例2における時間帯別速度制限運転の制御フロー図である。
【図9】本発明の実施例3における食堂階へ乗降するエスカレーターの時間帯別省エネ制御設定操作部の一設定画面例である。
【図10】本発明の実施例3における会議室フロアへ乗降するエスカレーターの時間帯別省エネ制御設定操作部の一設定画面例である。
【図11】本発明の実施例3における病院のフロアへ乗降するエスカレーターの時間帯別省エネ制御設定操作部の一設定画面例である。
【図12】本発明の実施例3における時間帯別運転の制御フロー図である。
【図13】本発明の実施例4におけるビル内エスカレーター構成の概念図である。
【図14】本発明の実施例4における複数エスカレーターの時間帯別省エネ制御の設定操作部の一設定画面例である。
【図15】図14に示す本発明の実施例4における各時間帯毎のエスカレーター運転台数の表記画面例である。
【図16】本発明の実施例4における複数エスカレーターの時間帯別省エネ制御の設定操作部の他の設定画面例である。
【図17】図16に示す本発明の実施例4における各時間帯毎のエスカレーター運転台数の表記画面例である。
【図18】本発明の実施例4における複数エスカレーター集中運転制御の制御ブロック図である。
【図19】本発明の実施例4における複数エスカレーターの集中運転制御の制御フロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に、図面を参照して本発明の実施例につき、詳細に説明する。
【実施例1】
【0026】
本発明の第1の実施例を図1〜図3により説明する。
【0027】
本実施例は、複数の省エネ機能を有し、一日の各時間帯毎に、各省エネ機能を使い分けるものであるが、1種類の省エネ機能でもその省エネ機能の適用率を変化させることにより、目的を達成させることが可能である。
【0028】
本実施例は、一定時間内において乗客負荷を制限する省エネ機能を用いる場合を例とし、その負荷率を各時間帯毎に使い分けるものである。
【0029】
本実施例として、ビル内にあるオフィスに連結されるエスカレーターを例に採る。
【0030】
図1は、対象となるエスカレーターの各時間帯における荷重制限のための操作部の設定画面例である。本実施例では、具体的に顧客との商談がメイン業務となるオフィスにおけるビル内のエスカレーターを例として挙げており、図1の設定の根拠となった需要の一例を図2によって説明する。
【0031】
図2は、対象となるビル内の統計値より求められた各時間帯において来社した顧客数の最大値を示した図である。
【0032】
図2に示す如く、各時間帯において、来社顧客数に応じて乗客負荷の上限値を調整することにより、省エネ効果を発揮させるものとする。図2による図1の制限荷重の設定は、乗客一人の荷重を65(kg)とし、図2に示されている各時間帯の最大乗客数に65(kg)を乗算して設定している。すなわち、乗客負荷の上限値は、各時間帯においてエスカレーターに乗り込むことが許される累計人数を荷重に換算したものに相当する。尚、同時に乗込んだ人数ではなく、累計人数であるため、例えば、12時から14時の間に、体重65kgの人間が同時に1人ずつ乗って行った場合、12人目まではエスカレーターは稼動するが、12人目を運び終えたら、あるいは、13人目が乗り込んできたら、エスカレーターを停止するなどして乗り込みを制限する。尚、体重が65kgよりも軽い人が乗り込んだ場合には許容される累計人数は増えることになる。但し、午前10時から12時、午後14時から17時までの時間帯は、顧客との商談時間となっており、実際に最大乗客数が20人を超えているため、荷重の制限を設けないものとしている。
【0033】
一方、図1で荷重制限を設定した各時間帯においては、オフィス内社員は、個別業務の行動となるため、エスカレーターを使用しなくても良い社員も存在する。そこでエスカレーター乗客の総荷重を制限することにより省エネ効果を増大させるものである。
【0034】
ここで、荷重制限のための施策としては、総荷重がその最大制限荷重を超える場合はエスカレーターを停止するかあるいはアナウンスにより特定乗客以外の乗客のエスカレーターへの乗り込みを禁止する等の対策を講じるものとする。このとき、エスカレーターに乗り込めない乗客は階段を使用して移動するものとする。優先的にエスカレーターの使用が可能となる乗客の例としては、顧客接待及び運搬などの特定の業務をする社員が挙げられる。ここで、瞬時における乗客総荷重の算出は、モータ駆動力を逐次検出し、そのモータ駆動力から換算して求めるものとする。
【0035】
図3は、さらに省エネが必要になった場合の、各時間帯における荷重制限のための操作部の設定画面例である。この図では、各時間帯の制限荷重を図1の半数としており、その理由は、ここまで荷重の制限をしないと目標とする省エネ効果が得られない状況に至ったような状況を想定している。
【0036】
図3においても、商談時間帯には荷重制限を外しているが、商談時間帯以外のところでは、顧客もエスカレーターに乗降できないケースが出てくる。したがって、図3では省エネ優先という状況の下で、商談時間外ということで、顧客にも省エネの協力を依頼する設定例である。但し、顧客からクレームが出た場合は、制限荷重を緩めて、ビル内での他の民生機器で目標とする省エネ効果を引き出すことを考える。
【0037】
図4は、本発明の実施例1におけるエスカレーター制御装置の制御ブロック図である。本実施例における荷重制限運転の制御方式を図4のブロック回路図及び図5の処理フロー図により説明する。図4は本発明における制御方式のブロック回路図であるが、図4では、図1において各時間帯の制限荷重を設定する操作部を略称して操作部1としている。
【0038】
まず、操作部1において設定された各時間帯の制限荷重をマイコン3内のメモリ4で記憶する(S2)。そこで運転が開始されたならば(S3)、時計2においては常時電波による時刻を読み取り、入力回路6を介してその時刻信号をマイコン3内のCPU5へ送り込む(S4)。そこで読み取った時刻における制限荷重をCPU5がメモリ4から読み取る(S5)。次に、実機運転中の乗客の総荷重を検出(S6,S7)し、これと制限荷重をCPU5で比較(S8)し、前述の如く、出力回路7を介した出力により、もし総荷重がその最大荷重を超える場合は、乗客負荷制限手段を起動する。乗客負荷制限手段としては、エスカレーターを停止するか、あるいはアナウンス装置71および表示装置72により、特定乗客以外の乗客のエスカレーターへの乗り込みを禁止するものとし(S9)、常に実機の総荷重が制限荷重を超えないものにする。この場合の実機の荷重値は、インバータ8からモータ9へ流れる電流値に基づいてトルク検出器10により検出し(S6)、そのトルク値を使用して総荷重を推算するものとする(S7)。この一連の作用を運転が終了するまで継続する(S10及びS11)。これが各時間帯における荷重制限制御の運転方式である。
【実施例2】
【0039】
本発明の第2の実施例を図6〜図8により説明する。本実施例では、ある一定時間内における乗客負荷を制限する省エネ機能に加えて、エスカレーターの運転速度制御を追加し、2つの省エネ機能を各時間帯において使い分ける実施例である。
【0040】
図6および図7は、本発明の実施例2における速度および荷重上限値設定による時間帯別省エネ制御の設定操作部の一設定画面例である。これらの図では、図1と同様に、ビル内にあるオフィスに連結されるエスカレーターの各時間帯における省エネ機能の設定例を示す。荷重制限のための施策としては、実施例1と同様に、総荷重がその最大制限荷重を超える場合はエスカレーターを停止するかあるいはアナウンスにより特定乗客以外の乗客のエスカレーターへの乗り込みを禁止する等の対策を講じるものとする。
【0041】
図6および図7に示される操作部により駆動するエスカレーターは、図に示す如く、午前7時から9時、午後17時から19時までの通勤時には20又は10[m/min]、及び12時から14時までの昼休みの時間帯においては10[m/min]に、省エネのための速度低減運転を行う。
【0042】
図1〜5の実施例1においては速度制限を入れていなかったが、上記速度を制限する時間帯はエスカレーターを利用する乗客が共通の目的を持って行動する可能性が高い時間帯の省エネ運転であり、エスカレーターの運転速度を低減しても業務にはさほど影響しない時間帯である。本実施例では、切り替える速度を、30,20,および10[m/min]の3種類とし、30[m/min]を通常運転、20及び10[m/min]を速度低減運転とする。ただ同じ速度低減運転でも、時間の調製を十分取れる昼休みにおいては、10[m/min]の速度で運転し、時間の調製がやや利きにくくなる通勤時は、通常、20[m/min]の速度での運転としておく。但し、エスカレーターにおける省エネ効果をさらに必要とされる状況が出てきたときには、図7のように、通勤時の速度を、10[m/min]と設定値を切り替えている。
【0043】
次に、本実施例における速度切替制御方式の詳細説明を、図4のブロック回路図及び図8の処理フロー図で説明する。
【0044】
図8の各時間帯の速度に対する処理フロー図においても、操作部1において設定された各時間帯の設定速度をメモリ4で記憶し、時計2において電波により読み取った時刻をCPU5へ送り込むまでの制御方式は実施例1の荷重制限制御方式と同様のものとなる(S13)。そこで、運転が開始されたならば(S14)、次に読み取った時刻における速度をCPU5がメモリ4から読み取り(S15)、図5で説明したステップS5〜S9の処理を実行する。すなわち、CPU5が読み取った時刻における制限荷重をメモリ4から読み取り(S5)、実機運転中の乗客の総荷重を検出(S6,S7)し、これと制限荷重をCPU5で比較(S8)し、もし総荷重がその最大荷重を超える場合は、乗客負荷制限手段を起動する。乗客負荷制限手段としては、エスカレーターを停止するか、あるいはアナウンス装置71および表示装置72により、特定乗客以外の乗客のエスカレーターへの乗り込みを禁止(S9)し、常に実機の総荷重が制限荷重を超えないようにする。
【0045】
さて、図8のステップS16では、現在時刻における設定速度をメモリから読み取り、その運転速度指令信号を出力回路7を介してインバ−タ8へ送り(S17)、指定の回転数を得るための周波数と電圧でモータ9を駆動するものとする(S18及びS19)。この一連の動作を運転が終了するまで継続する(S20及びS21)。
【0046】
この実施例では、図6において、荷重制限時間を午後のみとしているが、エスカレーターにおける省エネ効果をさらに必要とされる状況が出てきた時には、図7に示すように、午前中も荷重制限を採用する。図7では、午前9時から12時までの時間帯において、乗客の最大総荷重を700[kg]としている。さらに、前述の通り、図7においては、更なる省エネ効果を引き出すため、出退勤時の速度設定値を、10[m/min]と下げている。
【0047】
本実施例における荷重制限運転の制御方式は、実施例1における荷重制限運転の制御方式と同様であり、その制御の詳細フローも図5のステップS5〜S9と同様であるため、その旨を1ステップ枠として記入した。
【0048】
以上が、各時間帯における速度設定を活用した省エネ運転の制御方式である。本実施例の制御方式は(1)式の消費電力計算式を活用することにより、速度低減による省エネ効果の算出が可能になる。具体的には、目標消費電力量を満足するために、図6における速度低減時間及びその低減速度を調整し、その調整によって(1)式の消費電力計算式から得られる消費電力の低減量を算出し、目標とする消費電力の低減量に達するまで速度低減時間を長くするか、あるいは速度を低下させていくことにより目標を達成することが可能である。
【0049】
本実施例では、負荷と速度の2種類の省エネ用制限項目と、時間帯との組合せによる多段階に設定を変更することが可能である。
【実施例3】
【0050】
本実施例は、ある時間帯において、ほとんど人の出入りが無くなるようなフロアに乗降するエスカレーターの時間帯別の省エネ制御方式である。
【0051】
この場合には、実施例1に示した2つの省エネ機能に加えて、各時間帯においてそのエスカレーターの運転停止を操作する省エネ制御方式であり、この場合には(1)式における1台当りのエスカレーターの消費電力について、駆動率Jをゼロにするものである。
【0052】
図9〜図11は、本発明の実施例3における食堂階、会議室フロア及び病院のフロアにそれぞれ連結するエスカレーターの時間帯別省エネ制御設定操作部の設定画面例を示す。
【0053】
図9〜図11では、図6及び図7と比較して、速度制御と荷重制御の2つの時間帯別省エネ機能に加えて、そのエスカレーターの運転の有無、すなわち、停止を選択するための操作部が設置されている。
【0054】
これらの図において、各エスカレーターの速度制御と荷重制御に関する制御方式は実施例1及び実施例2と同様のものであり、その説明は本実施例では省略する。また、本実施例を活用する場合は、速度制御と荷重制御に対する操作が無いケースも出てくるため、その場合は図9〜図11における速度制御と荷重制御の操作部を無くすことも可能である。
【0055】
各エスカレーターの稼働の有無は、連結する各フロアの使用状況により異なり、エスカレーターが稼働しない階への移動は階段を使用して移動するか、エレベーターが設置されているビルであれば、エレベーターを利用して階を跳び越えて移動するものとする。
【0056】
図9は、食堂へ乗降するエスカレーターの省エネ制御の設定例画面である。
【0057】
エスカレーターを運転させるのは食事をする時間帯だけとし、12時〜14時までと18時〜20時30分までの2つの時間帯だけの運転としている。また、その運転中は多数の利用者があるため、運転速度は常時通常の30[m/min]とし、荷重制限は適用していない。
【0058】
次に、図10は会議室へ乗降するエスカレーターの省エネ制御の設定例画面であり、エスカレーターを運転させるのは、会議が開催される頻度が高い午前の10時〜12時までと、午後の14時〜18時までの時間帯のみの運転としている。この場合の階の移動は、各個人が工夫することにより達せられるものであり、運転速度は最低速の10[m/min]とし、荷重制限は500[kg]以下のものとしている。
【0059】
最後に、図11は病院のフロアに乗降するエスカレーターの省エネ制御の設定例画面であり、エスカレーターを運転させるのは、病院の午前の診察開始30分前の8時30分から午前の診察終了時刻13時までと、午後の診察時間帯14時30分〜18時30分までとする。病院の診察が完全に休みとなる時間帯13時〜14時30分および18時30分以降はエスカレーターを停止する。また、その運転は人身の保護に関連するものであり、運転速度は、常時、通常の30[m/min]とし、荷重制限は適用していない。
【0060】
次に、本実施例の制御方式を図4のブロック回路図及び図12の処理フロー図で説明する。
【0061】
まず、操作部1において設定された各時間帯毎の制限荷重、各時間帯毎の設定速度、並びに各時間帯毎の運転または休止の稼動スケジュールをメモリ4に記憶させる(S23)。本実施例においては、各時刻においてエスカレーターが運転する時間になっているかどうかを判断する必要があり、図12において運転する時間帯をメモリ4で記憶(S23)した後、時計2により読み取った時刻(S24)において、その時刻が運転時間に入っているかどうかを判定する(S25)。そして、運転時間に入ったならば、設定されている図8と同一の速度制御、及び図5と同一の荷重制限制御を、電源がOFFとなるまで継続していく(S37及びS38)。しかし、一度運転を開始した後運転を停止する時間帯が出てくるため、速度制御及び荷重制限制御の継続中でも最初に戻り(S37からS24)、時刻を時計2で読み取っての運転継続かあるいは運転停止かの判断を常に繰り返すものとする(S24−S26)。
【0062】
さらに、運転を一時的に停止(S26)した後も、時刻を連続的に読み取り(S24)、運転を再開するタイミングを常に見ていく(S25)ものとする。
【0063】
本実施例においても、図に示すように、運転速度に対する制御は図8に示したものと同様のものであり、荷重制限に対する制御は図5に示したものと同様のものであり、図5の荷重制限制御および図8の速度制御の処理ステップを、図12中のステップS27からS36に順次適用している。この2つの制御は、実施例1及び実施例2と同様であり、重複を避けるため、詳細説明は省略する。
【0064】
以上が本実施例の詳細説明であり、本実施例の効果として省エネ性と利便性の優先比率を選択する自由度が拡大し、ビル内の省エネ性をさらに強化する運転が可能となる。
【実施例4】
【0065】
本実施例は、複数のエスカレーターが設置されているビルにおいて、各時間帯におけるエスカレーターの運転台数を規制することにより省エネ効果をもたらすための制御方式である。
【0066】
この場合には(1)式に示されるエスカレーターの消費電力において、駆動率Jをゼロとする運転を、複数台のエスカレーターを対象として各時間帯において設定するというものである。
【0067】
図13は、本発明の実施例4におけるビル内エスカレーター構成の概念図である。
【0068】
この図は、ある会社のビル内における各フロアの構成を示しており、ビル内において上昇する側のエスカレーターの設置部をクローズアップしている。本実施例においては上昇する側のエスカレーターに対する集中制御方式を説明するものとする。
【0069】
図13において、1階はロビー、2階は医務室及び診療所、3階と4階はデスクワークのフロアであり、5階にいくつかの会議室が配備されており、6階が食堂である。
【0070】
図14は、時間帯別の省エネ機能に対する選択操作部の設定画面例を示す。
【0071】
この図に示す操作は、実施例3に示した各エスカレーターの操作を個別に処理すれば、それを統合することにより同様の設定が可能となるが、本実施例においては、各時刻における運転台数を一画面で判るものとするため、操作部を一つにまとめて集中管理し、各運転情報を各エスカレーターの制御部に通信する方式としている。
【0072】
図15は、図14に示す本発明の実施例4における各時間帯毎のエスカレーター運転台数の表記画面例である。
【0073】
図15は、各フロアのテナントにおいて、エスカレーターを必要としない時間帯でエスカレーターを停止する運転設定例を示した運転操作部の設定画面例である。図15においては実施例3と同様の運用方式で、食堂へ上昇するエスカレーター(5階⇒6階)の運転時間は12時〜14時までと18時〜20時30分までの2回の時間帯とし、会議室へ乗降するエスカレーター(4階⇒5階)の運転時間は午前の10時〜12時までと午後の14時〜18時までの2回の時間帯としている。また、医務室へ乗降するエスカレーター(1階⇒2階)は病院と違って執務時間内は全時間帯で運転するものとしている。
【0074】
図14の運転方式は、エスカレーターを多数の従業員が使用する可能性がある時間帯はエスカレーターを継続して運転し、ほとんど使用する可能性が無い時間帯はエスカレーターを停止するというものである。
【0075】
図16は、本発明の実施例4における複数エスカレーターの時間帯別省エネ制御の設定操作部の他の設定画面例であり、利便性を損なってでも、省エネ効果をさらに増大する運転方式を必要とする場合における設定画面例である。
【0076】
図16においては、図14と比較してエスカレーターのトータルの運転時間を低減するものであるが、まず、会議室へ乗降するエスカレーター(4階⇒5階)の運転時間としては、午後における運転時間を14時〜16時までと縮小し、会議が開催される頻度が少ない16時以降はエスカレーターを停止するものとしている。
【0077】
また、執務室へ乗降するエスカレーター(2階⇒3階、3階⇒4階)に関しては、図14における運転時間では多数の従業員が仕事をする可能性がある20時30分まで運転するものとしているが、図16においては、運転時間を定常の終了時間の18時までとし、さらに12時〜16時の間もエスカレーターを停止し、電力量の需給調整による電気代の低減を兼ねるものとしている。
【0078】
図17は、図16に示した本発明の実施例4における各時間帯毎のエスカレーター運転台数の表記画面例である。図16に示す運転方式により、各時間帯のエスカレーターの総運転台数は、図15の状態から、図17に示されるように、さらに低減される。
【0079】
図18は本発明の実施例4における複数エスカレーター集中運転制御の制御ブロック図であり、図19は同じく実施例4における複数エスカレーターの集中運転制御の制御フロー図である。
【0080】
図18に示した集中運転制御のブロック回路図では、図14及び図16に示した各時間帯における各エスカレーターの運転及び停止を操作する操作部を略称して操作部11としている。なお、図18はエスカレーター群に対する集中運転制御装置のブロック回路図であるが、個々のエスカレーターに対しては、個別に、図4に示すエスカレーター制御装置を備えることもできる。
【0081】
まず、実施例1と同様に操作部11において設定された各時間帯における各エスカレーターの運転時刻をメモリ14で記憶する(S40)。また、時計12においては常時電波による時刻を読み取り、入力回路16を介してその時刻信号をマイコン13内のCPU15へ送り込む(S41)。そこで、各時刻において運転時間となっているエスカレーターがある場合には出力回路17を介してそれぞれの運転制御部18へ運転開始の信号を送るものとする(S42)。さらに、運転開始後読み取った時刻が運転停止時間となった場合に運転を停止する(S41及びS42)。この一連の作用をエスカレーターが関連する全電源が切れるまで継続する(S43及びS44)。これが本実施例の制御方式である。
【0082】
本実施例の効果として、複数のエスカレーターを有するビルにおいて、ビル内の総エネルギー使用量に対するビル内の省エネ性が強化され、ビル内の全エスカレーターを対象とした観点での省エネ性と利便性の優先比率の選択自由度が拡大する。
【0083】
尚、本実施例においては、各エスカレーター個別の制御については省略するが、前述したように、各エスカレーターの制御部(図4)において、実施例2及び実施例3に示した各エスカレーター個別の省エネ制御方式を導入し、省エネ効果をさらに増大することも当然に可能である。
【0084】
本発明の望ましい実施形態においては、負荷(荷重)と運転速度の2種類の省エネ用制限項目と、稼動時間帯との組合せによる多段階に設定を変更することが可能であり、その他のビル内における民生機器の増減、季節毎の省エネ機能設定等に対応させる場合にも本制御方式は活用できる。
【0085】
また、空調機器の買い替えのように、ビル内の省エネ効果が別の作用により増大したような場合には、エスカレーターによる省エネ特性はさほど必要が無くなることも出てくるため、各時間帯における省エネ機能を縮小し、利便性を向上させる制御方式に切り替えることも可能となる。
【0086】
以上の如く本実施例においては、エスカレーターにおける省エネと利便性に対する優先度の選択を自由に設定することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明はエスカレーターの省エネ運転に係わるものであり、特に省エネ性と利便性の調整が可能なものとして利用可能性が高いと考えられる。
【符号の説明】
【0088】
1…操作部、2…時計、3…マイコン、4…メモリ、5…CPU、6…入力回路、7…出力回路、71…アナウンス装置、72…表示装置、8…インバータ、9…モータ、10…トルク検出器、11…操作部、12…時計、13…マイコン、14…メモリ、15…CPU、16…入力回路、17…出力回路、18…各エスカレーターの制御部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可変電圧・可変周波数の交流を出力するPWMインバータによって誘導電動機を可変速制御し、この誘導電動機によってエスカレーターを駆動するエスカレーターの制御装置において、
各時間帯毎にエスカレーターの乗客負荷の上限値を設定する設定部、
運転中の前記エスカレーターの乗客負荷を検出する負荷検出手段、および
運転中の前記エスカレーターの前記乗客負荷検出値が当該時間帯の前記乗客負荷の上限値を上回ったとき、前記乗客負荷を制限する乗客負荷制限手段
を備えたことを特徴とするエスカレーター制御装置。
【請求項2】
請求項1において、前記乗客負荷の上限値は、各時間帯においてエスカレーターに乗り込むことが許される累計人数を荷重に換算したものであることを特徴とするエスカレーター制御装置。
【請求項3】
請求項1において、前記乗客負荷制限手段は、前記エスカレーターへの乗り込みを制限する乗込み制限手段であることを特徴とするエスカレーター制御装置。
【請求項4】
請求項1において、前記乗客負荷制限手段は、前記エスカレーターへの乗り込みを制限するアナウンス装置であることを特徴とするエスカレーター制御装置。
【請求項5】
請求項1において、前記乗客負荷制限手段は、前記エスカレーターの運転を停止する運転停止手段であることを特徴とするエスカレーター制御装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかにおいて、各時間帯毎に前記エスカレーターの運転速度を設定する速度設定部と、前記速度設定部によって設定された運転速度で前記エスカレーターを速度制御する速度制御装置とを備えたことを特徴とするエスカレーター制御装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかにおいて、各時間帯毎に前記エスカレーターの運転または休止を設定する稼動設定部と、前記稼動設定部によって設定された運転または休止のスケジュールに沿って、前記エスカレーターを運転または休止させるエスカレーター駆動装置とを備えたことを特徴とするエスカレーター制御装置。
【請求項8】
可変電圧・可変周波数の交流を出力するPWMインバータによって誘導電動機を可変速制御し、この誘導電動機によってエスカレーターを駆動するエスカレーターの制御装置において、
所定時間内の乗客負荷の上限値を設定する負荷上限値設定部と、運転中の前記エスカレーターの乗客負荷を検出する負荷検出手段と、運転中の前記エスカレーターの前記乗客負荷検出値が当該時間帯の前記乗客負荷の上限値を上回ったとき、前記乗客負荷を制限する乗客負荷制限手段とを含む負荷制限制御装置、
所定時間内の前記エスカレーターの運転速度を設定する速度設定部と、前記速度設定部によって設定された運転速度で前記エスカレーターを運転する速度制御手段とを含む速度制御装置、または
所定時間内の前記エスカレーターの運転または休止を設定する稼動設定部と、前記稼動設定部によって設定された運転または休止のスケジュールに沿って、前記エスカレーターを運転または休止させる稼動制御手段とを含む稼動制御装置のうち、少なくとも2つの制御装置を備えたことを特徴とするエスカレーター制御装置。
【請求項9】
建屋内に設置され、可変電圧・可変周波数の交流を出力するPWMインバータによって誘導電動機を可変速制御し、この誘導電動機によって駆動される複数のエスカレーターを制御するエスカレーター制御装置において、
前記各エスカレーター毎にかつ各時間帯毎に該当エスカレーターの運転または休止のスケジュールを設定する稼動スケジュール設定部、および
前記稼動スケジュール設定部によって設定された前記稼動スケジュールに沿って、複数の前記エスカレーターをそれぞれ運転または休止させる稼動制御部
を備えたことを特徴とするエスカレーター群制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2012−180192(P2012−180192A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−44727(P2011−44727)
【出願日】平成23年3月2日(2011.3.2)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】