説明

エステル化合物、放射線硬化性化合物、硬化物、及び、それらの製造方法

【課題】 新規なデンドリマーのコア化合物となるエステル化合物、前記エステル化合物より得られる新規な放射線硬化性化合物、その化合物を硬化した新規な硬化物、及び、それらの製造方法を提供することである。
【解決手段】 同一分子内に1つのオキセタニル基と2つのカルボキシル基又はその前駆基を有し式(1)で表されるオキセタン化合物、及び、多価カルボン酸から得られることを特徴とするエステル化合物、前記エステル化合物より得られる新規な放射線硬化性化合物、その化合物を硬化した新規な硬化物、及び、それらの製造方法である。
(式(1)中、Aは水素原子、又は、炭素数1〜6のアルキル基を表し、Bは炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、ハロゲン原子、又は、ニトロ基を表し、Bの置換基数nは0〜3の整数を表し、また、Rは水素原子又はベンジル基を表す。)
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エステル化合物、放射線硬化性化合物、硬化物、及び、それらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、線状高分子とは異なる性質を持つ、多分岐構造を有する高分子の研究が盛んに行われている。それらは主に、ハイパーブランチポリマーとデンドリマーに大別される。
デンドリマーは、対応する線状高分子、ハイパーブランチポリマーと比較して慣性半径が小さいことに起因して溶液粘性が低く、末端官能基数が極端に多い、単分散という特徴を有している。また、コアが中心に対称な一次構造であるため、ある程度の世代になると、その分子形態を球状とみなすことができる。そのため、ドラッグデリバリーや、その特異的な構造を利用した特殊な分野への応用が考えられている。
デンドリマーがこのような特性を示すことが広く認知された1990年代から、デンドリマーの機能化の研究が活発化した。デンドリマーの機能化を行うには、末端官能基への機能性基の導入、コアにおける錯体形成、コアや枝分かれ部分の骨格変化が挙げられる。これまで報告されている機能性デンドリマーは、大半が数種類のデンドリマーをベースとしたものである。したがって、近年、新規なデンドリマーの開発が期待されている。
また、最近、本発明者等は同一分子内にオキセタニル基とカルボキシル基を有するモノマー類の自己重付加反応によるハイパーブランチ高分子が得られることを報告している(特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2004−352787号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の1つの目的は、新規なデンドリマーのコア化合物となるエステル化合物、及び、その製造方法を提供することである。
本発明の他の目的は、前記エステル化合物より得られる新規な放射線硬化性化合物、その化合物を硬化した新規な硬化物、及び、それらの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記従来技術における問題点を克服するために鋭意検討した結果、以下の<1>、<4>、<6>、<7>、<10>及び<11>により上記課題を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。好ましい実施態様である<2>、<3>、<5>、<8>及び<9>と共に以下に記載する。
<1> 同一分子内に1つのオキセタニル基と2つのカルボキシル基又はその前駆基を有し式(1)で表されるオキセタン化合物、及び、多価カルボン酸から得られることを特徴とするエステル化合物、
【0006】
【化1】

(式(1)中、Aは水素原子、又は、炭素数1〜6のアルキル基を表し、Bは炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、ハロゲン原子、又は、ニトロ基を表し、Bの置換基数nは0〜3の整数を表し、また、Rは水素原子又はベンジル基を表す。)
<2> 前記オキサタン化合物が、下記式(2)の化合物である上記<1>に記載のエステル化合物、
【0007】
【化2】

(式(2)中、Aは水素原子、又は、炭素数1〜6のアルキル基を表す。)
<3> 前記多価カルボン酸が、テレフタル酸、又は、1,3,5−ベンゼントリカルボン酸である上記<1>又は<2>に記載のエステル化合物、
<4> 上記<1>〜<3>に記載のエステル化合物のヒドロキシル基の少なくとも一部に重合性基を導入した放射線硬化性化合物、
<5> 前記重合性基が、(メタ)アクリロイル基を含む基である上記<4>に記載の放射線硬化性化合物、
<6> 上記<4>又は<5>に記載の放射線硬化性化合物を含む組成物を、放射線照射により硬化した硬化物、
<7> 同一分子内に1つのオキセタニル基と2つのカルボキシル基又はその前駆基を有し式(1)で表されるオキセタン化合物、及び、
多価カルボン酸を用い、
塩基性触媒存在下付加反応を行う工程
を含むエステル化合物の製造方法、
【0008】
【化3】

(式(1)中、Aは水素原子、又は、炭素数1〜6のアルキル基を表し、Bは炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、ハロゲン原子、又は、ニトロ基を表し、Bの置換基数nは0〜3の整数を表し、また、Rは水素原子又はベンジル基を表す。)
<8> 前記塩基性触媒が、第4オニウム塩、クラウンエーテル錯体類、又は、第3アミンである上記<7>に記載のエステル化合物の製造方法、
<9> 前記塩基性触媒が、テトラフェニルホスホニウムブロミドである上記<7>又は<8>に記載のエステル化合物の製造方法、
<10> 同一分子内に1つのオキセタニル基と2つのカルボキシル基又はその前駆基を有し式(1)で表されるオキセタン化合物、及び、多価カルボン酸を用い、塩基性触媒存在下付加反応を行いエステル化合物を得る工程、並びに、前記エステル化合物のヒドロキシル基の少なくとも一部に重合性基を導入する工程を含むことを特徴とする放射線硬化性化合物の製造方法、
【0009】
【化4】

(式(1)中、Aは水素原子、又は、炭素数1〜6のアルキル基を表し、Bは炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、ハロゲン原子、又は、ニトロ基を表し、Bの置換基数nは0〜3の整数を表し、また、Rは水素原子又はベンジル基を表す。)
<11> 同一分子内に1つのオキセタニル基と2つのカルボキシル基又はその前駆基を有し式(1)で表されるオキセタン化合物、及び、多価カルボン酸を用い、塩基性触媒存在下付加反応を行いエステル化合物を得る工程、前記エステル化合物のヒドロキシル基の少なくとも一部に重合性基を導入し放射線硬化性化合物を得る工程、並びに、前記放射線硬化性化合物を含む組成物に放射線を照射し硬化させる工程を含むことを特徴とする硬化物の製造方法。
【0010】
【化5】

(式(1)中、Aは水素原子、又は、炭素数1〜6のアルキル基を表し、Bは炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、ハロゲン原子、又は、ニトロ基を表し、Bの置換基数nは0〜3の整数を表し、また、Rは水素原子又はベンジル基を表す。)
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、一級のヒドロキシル基を有するデンドリマーのコア化合物として用いることのできるエステル化合物を得ることができる。
また、本発明によれば、優れた放射線硬化特性を有する放射線硬化性化合物、及び、その化合物を架橋反応により硬化して得られる特異な構造を有する硬化物を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明のエステル化合物は、同一分子内に1つのオキセタニル基と2つのカルボキシル基又はその前駆基を有し式(1)で表されるオキセタン化合物、及び、多価カルボン酸から得られることを特徴とする。
【0013】
【化6】

(式(1)中、Aは水素原子、又は、炭素数1〜6のアルキル基を表し、Bは炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、ハロゲン原子、又は、ニトロ基を表し、Bの置換基数nは0〜3の整数を表し、また、Rは水素原子又はベンジル基を表す。)
以下に、本発明のエステル化合物、及び、その製造方法について詳述する。
【0014】
(同一分子内に1つのオキセタニル基と2つのカルボキシル基又はその前駆基を有する化合物)
本発明に用いることのできる同一分子内に1つのオキセタニル基と2つのカルボキシル基又はその前駆基を有する化合物は、上記式(1)で表される化合物である。
上記式(1)のAは、水素原子、又は、炭素数1〜6の分岐を有してもよいアルキル基であり、その中でも水素原子、メチル基、又は、エチル基が好ましい。
上記式(1)のBは、芳香環上の任意の位置における一価の置換基を表し、Bの置換基数nは0〜3を表す。
Bは、炭素数1〜6の分岐を有してもよいアルキル基、炭素数1〜6の分岐を有してもよいアルコキシ基、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、又は、ニトロ基であり、その中でもメチル基、エチル基、メトキシ基、塩素原子、臭素原子、又は、ヨウ素原子が好ましい。
nが0の場合は、芳香環上にBがないことを表し、nが1〜3の場合は、芳香環上にBがそれぞれ1〜3つ結合していることを表す。また、nが2以上の場合、芳香環上のそれぞれのBは、互いに同一でも異なっていてもよい。
上記式(1)のカルボキシル基又はその前駆基(−COOR基)は、芳香環上の任意の位置に結合した−COOR基であり、オキセタニル基を含むアルコキシ基の置換位置を除く芳香環上の任意の2箇所で結合している。
−COOR基の置換位置としては、芳香環上のオキセタニル基を含むアルコキシ基の置換位置に対し、2箇所のメタ位にあるのが好ましい。
上記式(1)のRは、水素原子又はベンジル基を表す。カルボキシル基の前駆基としては、反応性が低く、かつ、中性条件での脱着が容易であるベンジル基で保護されたカルボキシル基(ベンジルオキシカルボニル基)が特に好ましい。
このような前駆基は、多価カルボン酸と付加重合した後に脱保護し、カルボキシル基とするのが好ましい。
上記式(1)で表される化合物は、好ましくは下記式(2)で表される化合物である。
【0015】
【化7】

【0016】
本発明に用いることのできる同一分子内にオキセタニル基とカルボキシル基又はその前駆基とを有する化合物の合成法としては、特に制限されるわけではないが、例えば以下のScheme1及び2に示す方法で合成することができる。
【0017】
【化8】

(Scheme1中、A、B、n及びRは、式(1)のA、B、n及びRと同義であり、また、Xは、ハロゲン原子を表す。)
【0018】
上記Scheme1に示すように、上記式(3)に示すジエステルに、塩基存在下上記式(4)に示すハライドを反応させ、本発明の同一分子内に1つのオキセタニル基と2つのカルボキシル基又はその前駆基を有し式(1)で表されるオキセタン化合物を得ることができる。
【0019】
塩基としては、アルカリ金属、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ金属の炭酸塩、アルカリ土類金属の水酸化物、アルカリ土類金属の炭酸塩、アルカリ金属水素化物、および有機アンモニウムなどが例示できる。この用いられる塩基化合物の具体例としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、水素化ナトリウム、水素化カリウム、金属ナトリウム、金属カリウム、トリエチルアミン、またはジイソプロピルエチルアミン等である。これらの中でも、水酸化カリウム及び水酸化ナトリウムが好ましい。
Xはハロゲン原子であり、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が好ましく、塩素原子がより好ましい。
上記式(4)に示す化合物は、上記(3)に示すジエステル1モルに対し、1〜5モル用いるのが好ましく、1〜2モルがより好ましい。
上記Scheme1では、前記塩基の使用量が、上記式(3)に示すジエステルに対して1〜2モル用いることが好ましく、1〜1.2モルであるのがより好ましい。
上記Scheme1に用いられる溶媒としては、原料および反応生成物に対して不活性な化合物を用いることができる。好適な反応溶媒としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、クロルベンゼン、アニソール、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、クロロベンゼン及びジメチルスルホキシドなどが挙げられる。
また、反応速度を促進するため、相間移動触媒を用いてもよい。相間移動触媒としては、公知のものを用いることができるが、第4アンモニウム塩類や第4ホスホニウム塩類が好ましく、その中でもテトラブチルアンモニウムブロマイドがより好ましい。
【0020】
(多価カルボン酸)
本発明に用いることのできる多価カルボン酸としては、分子中に2個以上、好ましくは2〜10個のカルボキシル基を有する化合物であり、更に好ましくは2〜4個のカルボキシル基を有する化合物であり、特に好ましくは2又は3個のカルボキシル基を有する化合物である。
【0021】
分子中に2個のカルボキシル基を有する化合物であるジカルボン酸としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、トリデカン二酸、テトラデカン二酸、ペンタデカン二酸、ヘキサデカン二酸、オクタデカン二酸、ノナデカン二酸及びエイコサン二酸等の2〜20個の炭素原子を有する直鎖脂肪族飽和ジカルボン酸、メチルマロン酸、エチルマロン酸、n−プロピルマロン酸、n−ブチルマロン酸、メチルコハク酸、エチルコハク酸及び1,1,3,5−テトラメチルオクチルコハク酸等の3〜20個の炭素原子を有する分岐鎖脂肪族飽和ジカルボン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、γ−メチルシトラコン酸、メサコン酸、γ−メチルメサコン酸、イタコン酸及びグルタコン酸等の直鎖又は分岐鎖脂肪族不飽和ジカルボン酸、ヘキサヒドロフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、メチルヘキサヒドロフタル酸、メチルヘキサヒドロイソフタル酸及びメチルヘキサヒドロテレフタル酸、シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸、シクロヘキセン−1,6−ジカルボン酸、シクロヘキセン−3,4−ジカルボン酸及びシクロヘキセン−4,5−ジカルボン酸等のテトラヒドロフタル酸、シクロヘキセン−1,3−ジカルボン酸、シクロヘキセン−1,5−ジカルボン酸及びシクロヘキセン−3,5−ジカルボン酸等のテトラヒドロイソフタル酸、シクロヘキセン−1,4−ジカルボン酸及びシクロヘキセン−3,6−ジカルボン酸等のテトラヒドロテレフタル酸、1,3−シクロヘキサジエン−1,2−ジカルボン酸、1,3−シクロヘキサジエン−1,6−ジカルボン酸、1,3−シクロヘキサジエン−2,3−ジカルボン酸、1,3−シクロヘキサジエン−5,6−ジカルボン酸、1,4−シクロヘキサジエン−1,2−ジカルボン酸及び1,4−シクロヘキサジエン−1,6−ジカルボン酸等のジヒドロフタル酸、1,3−シクロヘキサジエン−1,3−ジカルボン酸及び1,3−シクロヘキサジエン−3,5−ジカルボン酸等のジヒドロイソフタル酸、1,3−シクロヘキサジエン−1,4−ジカルボン酸、1,3−シクロヘキサジエン−2,5−ジカルボン酸、1,4−シクロヘキサジエン−1,4−ジカルボン酸及び1,4−シクロヘキサジエン−3,6−ジカルボン酸等のジヒドロテレフタル酸、メチルテトラヒドロフタル酸、エンドメチレンテトラヒドロフタル酸、エンドシス−ビシクロ〔2.2.1〕ヘプト−5−エン−2,3−ジカルボン酸(商品名:ナジック酸)及びメチル−エンドシス−ビシクロ〔2.2.1〕ヘプト−5−エン−2,3−ジカルボン酸(商品名:メチルナジック酸)等の飽和又は不飽和脂環式ジカルボン酸、クロレンディック酸、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、3−メチルフタル酸、3−エチルフタル酸、3−n−プロピルフタル酸、3−イソプロピルフタル酸、3−n−ブチルフタル酸、3−イソブチルフタル酸、3−sec−ブチルフタル酸及び3−tert−ブチルフタル酸等の3−アルキルフタル酸、4−メチルフタル酸、4−エチルフタル酸、4−n−プロピルフタル酸、4−イソプロピルフタル酸、4−n−ブチルフタル酸、4−イソブチルフタル酸、4−sec−ブチルフタル酸及び4−tert−ブチルフタル酸等の4−アルキルフタル酸、2−メチルイソフタル酸、2−エチルイソフタル酸、2−n−プロピルイソフタル酸、2−イソプロピルイソフタル酸、2−n−ブチルイソフタル酸、2−イソブチルイソフタル酸、2−sec−ブチルイソフタル酸及び2−tert−ブチルイソフタル酸等の2−アルキルイソフタル酸、4−メチルイソフタル酸、4−エチルイソフタル酸、4−n−プロピルイソフタル酸、4−イソプロピルイソフタル酸、4−n−ブチルイソフタル酸、4−イソブチルイソフタル酸、4−sec−ブチルイソフタル酸及び4−tert−ブチルイソフタル酸等の4−アルキルイソフタル酸、5−メチルイソフタル酸、5−エチルイソフタル酸、5−n−プロピルイソフタル酸、5−イソプロピルイソフタル酸、5−n−ブチルイソフタル酸、5−イソブチルイソフタル酸、5−sec−ブチルイソフタル酸及び5−tert−ブチルイソフタル酸等の5−アルキルイソフタル酸、メチルテレフタル酸、エチルテレフタル酸、n−プロピルテレフタル酸、イソプロピルテレフタル酸、n−ブチルテレフタル酸、イソブチルテレフタル酸、sec−ブチルテレフタル酸及びtert−ブチルテレフタル酸等のアルキルテレフタル酸、ナフタリン−1,2−ジカルボン酸、ナフタリン−1,3−ジカルボン酸、ナフタリン−1,4−ジカルボン酸、ナフタリン−1,5−ジカルボン酸、ナフタリン−1,6−ジカルボン酸、ナフタリン−1,7−ジカルボン酸、ナフタリン−1,8−ジカルボン酸、ナフタリン−2,3−ジカルボン酸、ナフタリン−2,6−ジカルボン酸、ナフタリン−2,7−ジカルボン酸、アントラセン−1,3−ジカルボン酸、アントラセン−1,4−ジカルボン酸、アントラセン−1,5−ジカルボン酸、アントラセン−1,9−ジカルボン酸、アントラセン−2,3−ジカルボン酸及びアントラセン−9,10−ジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸、並びに2,2’−ビス(カルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン等を具体的に挙げることができる。
【0022】
分子中に3個のカルボキシル基を有するポリカルボン酸としては、トリカルバリル酸、クエン酸、イソクエン酸及びアコニット酸等の脂肪族トリカルボン酸、1,2,3−ベンゼントリカルボン酸(ヘミメリト酸)、1,2,4−ベンゼントリカルボン酸(トリメリト酸)及び1,3,5−ベンゼントリカルボン酸(トリメシン酸)等の芳香族トリカルボン酸等が挙げられる。
【0023】
分子中に4個以上のカルボキシル基を有するポリカルボン酸としては、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸等の4〜13個の炭素原子を有する脂肪族テトラカルボン酸、マレイン化メチルシクロヘキセンテトラカルボン酸等の脂環式テトラカルボン酸、メロファン酸、プレーニト酸、ピロメリト酸及びベンゾフェノンテトラカルボン酸等の芳香族テトラカルボン酸、ヘキサヒドロメリト酸、ベンゼンペンタカルボン酸、及びメリト酸等を挙げることができる。
【0024】
上記に挙げた多価カルボン酸の中でも、コストの面やデンドリマーのコアとして用いた場合の側鎖の広がりやすさから、テレフタル酸、又は、1,3,5−ベンゼントリカルボン酸が好ましい。
【0025】
(エステル化合物、及び、その製造方法)
本発明のエステル化合物は、同一分子内に1つのオキセタニル基と2つのカルボキシル基又はその前駆基を有するオキセタン化合物、及び、多価カルボン酸から得られるエステル化合物である。
本発明のエステル化合物の製造方法は、塩基性触媒存在下付加反応を行う工程を含む製造方法である。
また、本発明のエステル化合物の製造方法は、前記付加反応を行う工程の後にカルボキシル基前駆基をカルボキシル基へ変換する工程を含んでいてもよい。該前駆基のカルボキシル基への変換は、特に制限はなく公知の方法を用いることができるが、例えば、ベンジルオキシカルボニル基である場合、水素雰囲気下パラジウム/炭素触媒(Pd/C)を用いる方法等が好ましく用いられる。
前記多価カルボン酸を下記式(5)で表すと、本発明のエステル化合物は下記式(6)で表すことができる。
【0026】
【化9】

【0027】
【化10】

【0028】
上記式(5)のQは、前記多価カルボン酸よりカルボキシル基を除いた部位を表し、また、多価カルボン酸のカルボキシル基数mは2以上の整数を表す。
上記式(6)のA、B、n、及び、Rは、前記式(1)のA、B、n、及び、Rと同義であり、上記式(6)のQ、及び、mは、上記式(5)のQ、及び、mと同義である。
【0029】
(塩基性触媒)
本発明で行う付加反応には、第4オニウム塩、クラウンエーテル錯体または第3アミンなどを塩基性触媒として用い、これらの存在下に付加反応させることが好ましい。これらの塩基性触媒の中でも、オキセタニル基とカルボキシル基との反応性の面から、第4オニウム塩またはクラウンエーテル錯体の使用が好ましい。
【0030】
第4オニウム塩としては、テトラブチルアンモニウムブロマイド、テトラブチルアンモニウムクロライド、テトラブチルアンモニウムアイオダイド、テトラエチルアンモニウムブロマイド、テトラエチルクロライド、テトラエチルアイオダイド、n−ドデシルトリメチルアンモニウムブロマイド、オクタデシルトリメチルアンモニウムブロマイド、トリメチルベンジルアンモニウムブロマイド、セチルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、セチルジメチルベンジルアンモニウムブロマイド、セチルピリジウムサルフェート、テトラエチルアンモニウムアセテート、トリメチルベンジルアンモニウムベンゾエート、トリメチルベンジルアンモニウムボレート、5−ベンジル−1,5−ジアザビシクロ[4,3,0]−5−ノネニウムクロライド、及び5−ベンジル−1,5−ジアザビシクロ[4,3,0]−5−ノネウムテトラフルオロボレート等の第4アンモニウム塩類が例示でき、並びにアンモニウムテトラブチルホスホニウムブロマイド、テトラブチルホスホニウムクロライド、テトラフェニルホスホニウムブロマイド、テトラフェニルホスホニウムアイオダイド、テトラフェニルホスホニウムクロライド、ベンジルトリフェニルホスホニウムブロマイド、ベンジルトリフェニルホスホニウムクロライド、トリフェニルメトキシメチルホスホニウムクロライド、トリフェニルメチルカルボニルメチルホスホニウムクロライド、トリフェニルエトキシカルボニルメチルホスホニウムクロライド、トリオクチリベンジルホウホニウムクロライド、トリオクチルメチルホスホニウムクロライド、トリオクチルエチルホスホニウムアセテート、及びテトラオクチルホスホニウムクロライド、トリオクチルエチルホスホニウムジメチルホスフェートなどの第4ホスホニウム塩類が例示できる。これらの中でも第4ホスホニウム塩類を用いることが好ましく、反応性の面からテトラフェニルホスホニウムブロミドが特に好ましい。
【0031】
クラウンエーテル錯体としては、12−クラウン−4、15−クラウン−5、18−クラウン−6、ジベンゾ−18−クラウン−6、21−クラウン−7、及び24−クラウン−8などが挙げられる。これらは、KF、KCl、KBr、CsF、CsCl、CsBr、チオシアン酸カリウム、ナトリウムフェノキサイド、カリウムフェノキサイド、安息香酸ナトリウム、安息香酸カリウム、酢酸ナトリウム、または酢酸カリウムなどの無機塩類あるいは有機塩類との錯体として用いられる。これらの中でもジベンゾ−18−クラウン−6が好ましい。
【0032】
第3アミンとしては、ジエチルアミノプロピルアミン、N−アミノエチルピペラジン、ベンジルジメチルアミン及びトリス(ジメチルアミノメチル)フェノールなどが例示できる。
【0033】
本発明のエステル化合物の製造方法における反応条件は、反応に用いる同一分子内に1つのオキセタニル基と2つのカルボキシル基又はその前駆基を有するオキセタン化合物、及び、多価カルボン酸の種類により、決定すればよい。具体的には、以下の各条件で行うことが好ましい。また、反応は連続式および回分式のいずれでも行うことができる。
【0034】
(触媒濃度)
前記塩基性触媒の使用量は、反応に用いる同一分子内に1つのオキセタニル基と2つのカルボキシル基又はその前駆基を有するオキセタン化合物に対して、1〜20mol%であることが好ましく、より好ましくは1〜10mol%であり、特に好ましくは5mol%である。上記範囲であると、反応速度が速く、コストの面でも好適である。
【0035】
(反応温度、及び、反応時間)
前記自己重付加反応における反応温度は、120〜200℃の範囲で行うことが好ましく、130〜190℃がより好ましく、160℃が特に好ましい。一方、反応時間については特に限定はないが、反応温度との兼ね合いで、6〜30時間の反応時間が好ましく、12時間が特に好ましい。
【0036】
(反応溶媒)
前記自己重付加反応は、無溶媒で行っても、反応溶媒を用いて行ってもよい。反応溶媒としては、例えば、トルエン、アニソール、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、クロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン及びジメチルスルホキシドなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0037】
(放射線硬化性化合物、及び、その製造方法)
本発明の放射線硬化性化合物は、前記エステル化合物のヒドロキシル基の少なくとも一部に重合性基を導入した化合物である。
また、本発明の放射線硬化性化合物の製造方法は、前記エステル化合物を得る工程、及び、前記エステル化合物のヒドロキシル基の少なくとも一部に重合性基を導入する工程を含むことを特徴とする。
前記エステル化合物のヒドロキシル基とは、オキセタニル基の開環により生じたヒドロキシル基、並びに、同一分子内に1つのオキセタニル基と2つのカルボキシル基又はその前駆基を有するオキセタン化合物及び多価カルボン酸由来のヒドロキシル基である。
重合性基は、前記エステル化合物のヒドロキシル基のうち少なくとも一部に導入されていればよく、10〜90%に導入されるのが好ましい。重合性基の導入率は、必要に応じコントロールすることが可能である。
【0038】
本発明の放射線硬化性化合物とは、紫外線又は電子線などの放射線を照射すると重合又は架橋を開始し、高分子化して硬化する性質を有する化合物をいう。本発明に用いることのできる放射線には、電子線(β線)、紫外線、X線、γ線、α線などの各種の放射線が含まれる。
【0039】
本発明に用いることのできる重合性基としては、ラジカル重合性基又はカチオン性重合性基が挙げられる。
ラジカル重合性基としては、ラジカル重合性の二重結合を含む基が好ましく、例えば、アリロキシ基、アクリロイル基又はメタクリロイル基を含む基が好ましく、(メタ)アクリロイル基を含む基が特に好ましい。
ここで、(メタ)アクリロイル基とは、アクリロイル基及び/又はメタクリロイル基の両方の構造をとり得ることを表す省略的表記である。
また、メタクリロイル基を含む基とは、その基の一部にメタクリロイル基を有していればよく、メタクリロイル基以外の部分は本発明の趣旨に反しない限り、特に限定されない。
カチオン重合性基としては、ヘテロ環状基含有硬化性基を含む基が好ましい。ヘテロ環状基含有硬化性基としては、例えば、エポキシ基、オキセタニル基、テトラヒドロフラニル基、オキサゾリニル基などの環状エーテル類、ビニルエーテル類などが好ましく挙げられ、特にエポキシ基及びオキセタニル基、ビニルエーテル類が好ましい。
前記エステル化合物のヒドロキシル基に重合性基を導入する方法としては、特に制限はなく、公知の方法を用いることができる。
【0040】
(硬化物、及び、その製造方法)
本発明の硬化物は、前記放射線硬化性化合物を含む組成物を、放射線照射により硬化した硬化物である。
また、本発明の硬化物の製造方法は、前記放射線硬化性化合物を得る工程、及び、前記放射線硬化性化合物を含む組成物に放射線を照射し硬化させる工程を含むことを特徴とする。
本発明で用いる放射線硬化性化合物を含む組成物には、重合開始剤や公知の各種添加剤を含んでいてもよく、他の樹脂と配合して用いても良い。
【0041】
本発明に用いることのできる重合開始剤とは、放射線により活性なラジカル種またはカチオン種を発生し、重合反応を開始、促進する化合物を示す。この中でも紫外線により硬化させる方法が特に好ましく、例えば、紫外線光源としては、水銀灯が用いられる。
放射線の作用によりラジカルを発生させる重合開始剤の例としては、アセトフェノン系化合物、ベンゾイン系化合物、ベンゾフェノン系化合物、チオキサントン系化合物、ベンジル系化合、及び、アシルフォスフィンオキサイド系化合物等が挙げられる。
また、感度を高める目的で重合開始剤に加えて、増感剤を用いてもよい。増感剤の例には、n−ブチルアミン、トリエチルアミン、トリ−n−ブチルホスフィン、及びチオキサントン誘導体等が含まれる。
【0042】
放射線によって活性なカチオン種を発生させる重合開始剤としては、例えば、トリアリールスルホニウム塩等の芳香族ヨードニウム塩、ジアリールヨードニウム塩等の芳香族ヨードニウム塩等のオニウム塩開始剤が挙げられ、また、スルホン酸のニトロベンジルエステルなどの非イオン性開始剤も用いることができる。
【0043】
本発明の硬化物は、公知の各種添加剤、例えば、無機充填剤、強化材、着色剤、安定剤(熱安定剤または耐候性改良剤など)、増量剤、粘度調節剤、難燃剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、変色防止剤、抗菌剤、防黴剤、老化防止剤、帯電防止剤、可塑剤、滑剤、発泡剤、及び/又は離型剤などを添加・混合することができる。上記着色剤としては、直接染料、酸性染料、塩基性染料、及び金属錯塩染料などの染料、カーボンブラック、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄、及びマイカなどの無機顔料、並びにカップリングアゾ系、縮合アゾ系、アンスラキノン系、チオインジゴ系、ジオキサゾン系、及びフタロシアニン系などの有機顔料などが挙げられる。また、上記安定剤としては、ヒンダードフェノール系、ヒドラジン系、リン系、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、及びオキザリックアシッドアニリド系などの化合物が挙げられる。さらに、上記無機充填剤としては、ガラス繊維、炭素繊維、シリカ繊維、アルミナ繊維、シリカ・アルミナ繊維、ジルコニア繊維、窒化ホウ素繊維、窒化珪素繊維、塩基性硫酸マグネシウム繊維、ホウ素繊維、及びステンレス鋼繊維などの無機質及び金属繊維、銅、鉄、ニッケル、亜鉛、錫、鉛、ステンレス鋼、アルミニウム、金、及び銀などの金属粉末、木粉、マグネシア、カルシアなどの酸化物、珪酸アルミニウム、ケイソウ土、石英粉末、タルク、クレイ、各種金属の水酸化物、炭酸塩、硫酸塩、リン酸塩、ホウ酸塩、ホウ珪酸塩、アルミノ珪酸塩、チタン酸塩、塩基性硫酸塩、塩基性炭酸塩及びその他の塩基性塩、ガラス中空球、ガラスフレークなどのガラス材料、炭化珪素、窒化アルミ、ムライト、コージェライトなどのセラミック、フライアッシュ、及びミクロシリカなどが挙げられる。
【実施例】
【0044】
以下に実施例を用いて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、Mnは数平均分子量、Mw/Mnは分子量分布である。
【0045】
(合成例1)
<5−ヒドロキシイソフタル酸ジベンジルエステル(HIPA−Bn)の合成>

【0046】
100 mL三つ口フラスコに5−ヒドロキシイソフタル酸(HIPA) 3.64 g (20 mmol)をN−メチルピロリドン(NMP) 30 mLに溶解させ、ベンジルブロミド(C65CH2Br:BnBr) 8.56 g (50 mmol)を加え、NMP 10 mLで希釈した1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセン(DBU) 6.38 g (42 mmol)を氷冷下で滴下して、10分間攪拌を行った。その後室温にし、6時間攪拌を行った。反応終了後、酢酸エチルで希釈し、水道水で5回洗浄し、有機層を硫酸マグネシウムを用いて乾燥した。乾燥剤をろ別後、酢酸エチルを減圧留去し、良溶媒にクロロホルム、貧溶媒にn−ヘキサンを用いて再結晶を行い、無色板状結晶の目的とする5−ヒドロキシイソフタル酸ジベンジルエステル(HIPA−Bn)を収量:3.64g、収率:63%で得た。
【0047】
融点: 116.0〜117.0℃.
IR (KBr disk, cm-1): 3408 (νO-H aromatic), 1724 (νC=O carboxylate), 1601 (νC=C aromatic), 1234 (νC-O-C carboxylate).
【0048】
【化11】

1H NMR (500 MHz, DMSO-d6, TMS):δ(ppm) = 5.36 (s, 4.0 H, Ha), 7.37-7.39 (m, 2.0 H, Hb), 7.42 (t, 4.0 H, Jcbd = 7.5 Hz, Hc), 7.47 (d, 4.0 H, Jdc = 7.5 Hz, Hd), 7.61 (s, 2.0 H, He), 8.00 (s, 1.0 H, Hf), 10.34 (br, 1.0 H, Hg).
【0049】
(合成例2)
<5−(2−エチル−2−オキセタニルメトキシ)イソフタル酸ジベンジルエステル(OxIPA−Bn)の合成(G−1 Dendron)>
【0050】
【化12】

【0051】
100 mLナスフラスコに5−ヒドロキシイソフタル酸ジベンジルエステル(HIPA−Bn) 3.62 g (10 mmol)を入れ、N−メチルピロリドン(NMP) 15 mLに溶解させ、炭酸カリウム 1.52 g (11 mmol)、テトラブチルアンモニウムブロミド(TBAB) 0.17 g (5 mol%)を加え、70℃で3時間塩形成を行った。次にクロロメチルエチルオキセタン(CMEO) 1.48 g (11 mmol)をゆっくり滴下し、70℃で48時間還流した。反応終了後、室温まで放冷し、酢酸エチルで希釈し、水道水で5回洗浄し、有機層を硫酸マグネシウムを用いて乾燥した。乾燥剤をろ別後、酢酸エチルを減圧留去し、シリカゲルクロマトグラフィー(酢酸エチル:n−ヘキサン=1:1)を行い、白色針状固体のG−1:5−(2−エチル−2−オキセタニルメトキシ)イソフタル酸ジベンジルエステル(OxIPA−Bn、G−1)を収量:3.24g、収率:66%で得た。
【0052】
融点:74.8〜75.5 ℃
IR (KBr disk, cm-1):1722 (ν C=O carboxylate), 1957 (ν C=C aromatic), 1228 (ν C-O-C carboxylate), 1117 (ν C-O-C ether), 981 (ν C-O-C ether).
【0053】
【化13】

【0054】
1H NMR (500 MHz, CDCl3, TMS):δ(ppm) = 0.93 (t, 3.0H Jab = 7.5 Hz, Ha), 1.88 (q, 2.0H Jba = 7.5 Hz, Ha), 4.16 (s, 2.0H Hc), 4.53 (ABq, 4.0H Jdd = 36.0 Hz, 6.0 Hz, Ha), 5.39 (s, 2.0H, He), 7.36-7.41 (m, 6.0H, Hf), 7.45 (d, 4.0H, Jgf = 6.5 Hz, Hg), 7.80 (s, 2.0H, Hh), 8.36 (s, 1.0H, Hi).
【0055】
(実施例1)
<OxIPA−Bn(G−1)とテレフタル酸との付加反応によるエステル化合物(TPA−2G1Bn)の合成>
【0056】
【化14】

【0057】
100 mL三口ナスフラスコにテレフタル酸(TPA)を0.16 g (1 mmol カルボキシル基当量 2 mmol)、5−(2−エチル−2−オキセタニルメトキシ)イソフタル酸ジベンジルエステル(G−1)を0.921 g (2 mmol)、触媒としてテトラフェニルホスホニウムブロミド(TPPB)を0.03 g (5 mol%)、N−メチルピロリドン(NMP) 5 mLを秤取り窒素置換した後、160℃で12時間反応を行った。反応終了後、反応溶液を蒸留水に注ぎ、弱塩酸水を用いて酸析を行った。その後、良溶媒にクロロホルム、貧溶媒にジエチルエーテルを用いて再沈精製を行い、減圧乾燥させることにより、茶褐色の固体(収率:13%)を得た。
【0058】
1H NMR (500 MHz, CDCl3) δ(ppm) = 1.258 (t, J = 7.5 Hz, 6.0 H, CH3-), 1.643 (q, J = 7.5 Hz, 4.0 Hz, -CH2-), 3.68-3.73 (m, 4.0 H, -CH2-OH), 4.04-4.13 (m, 8.0H, -C-CH2-O-), 5.37 (s, 8.0H, -CH2-Ph), 7.33-8.35 (m, 26.0 H, aromatic H).
【0059】
(実施例2)
<TPA−2G1Bnのベンジル基の脱保護>
【0060】
【化15】

【0061】
TPA−2G1Bnを0.1g(0.1mmol)測り取り、エタノール5mlに溶解させる。パラジウム/炭素触媒(Pd/C)を0.1g加え、系内を脱気し、その後、水素を導入した。反応を室温下に保ち、24時間攪拌した。その後、系内を窒素下に戻し、Pd/Cをメンブランフィルター(0.45μm)でろ過することで取り除いた。得られたエタノール溶液を濃縮し、クロロホルムを加えて溶解させた。ヘキサンで再沈精製を行い、目的化合物(TPA−2G1)を定量的に得た。収量:0.07g。
【0062】
1HNMR (500 MHz, CDCl3) δ(ppm) = 1.278 (t, J = 7.5 Hz, 6.0 H, CH3-), 1.653 (q, J = 7.5 Hz, 4.0 Hz, -CH2-), 3.58-3.71 (m, 4.0 H, -CH2-OH), 4.03-4.12 (m, 8.0H, -C-CH2-O-), 7.33-8.34 (m, 26.0 H, aromatic H).
【0063】
(実施例3)
<G−1と1,3,5−ベンゼントリカルボン酸(トリメシン酸、TMA)との付加反応によるエステル化合物(TMA−3G1Bn)の合成>
【0064】
【化16】

【0065】
100 mL 三口ナスフラスコに1,3,5−ベンゼントリカルボン酸(トリメシン酸、TMA)を0.21 g (1.0 mmol、カルボキシル基当量 3.0 mmol)、G−1を1.38 g (3.0 mmol)、触媒としてテトラフェニルホスホニウムブロミド(TPPB)を0.03 g (5 mol%)、N−メチルピロリドン(NMP) 5 mLを入れ窒素置換した後、160℃で12時間反応を行った。反応終了後、反応溶液をクロロホルムで希釈し、分液ロートに移して水道水で5回洗浄を行った。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥後、溶媒を減圧留去し、シリカゲルクロマトグラフィー(酢酸エチル:n−ヘキサン=1:1)を行った。その後、n−ヘキサンを用いて再沈精製を行い、オイル状の淡黄色液体(収率:17%)を得た。
【0066】
1H NMR (500 MHz, CDCl3) δ(ppm) = 1.261 (t, J = 7.5 Hz, 12.0 H, CH3-), 1.653 (q, J = 7.5 Hz, 6.0 Hz, -CH2-), 3.66-3.75 (m, 4.0 H, -CH2-OH), 4.01-4.14 (m, 8.0H, -C-CH2-O-), 5.39 (s, 8.0H, -CH2-Ph), 7.27-8.84 (m, 26.0 H, aromatic H).
【0067】
(実施例4)
<TMA−3G1Bnのベンジル基の脱保護>
【0068】
【化17】

【0069】
TMA−3G1Bnを0.16g(0.1mmol)測り取り、エタノール5mlに溶解させる。パラジウム/炭素触媒(Pd/C)を0.1g加え、系内を脱気し、その後、水素を導入した。反応を室温下に保ち、24時間攪拌した。その後、系内を窒素下に戻し、Pd/Cをメンブランフィルター(0.45μm)でろ過することで取り除いた。得られたエタノール溶液を濃縮し、クロロホルムを加えて溶解させた。ヘキサンで再沈精製を行い、目的化合物(TMA−3G1)を定量的に得た。収量:0.11g。
【0070】
1H NMR (500 MHz, CDCl3) δ(ppm) = 1.241 (t, J = 7.5 Hz, 12.0 H, CH3-), 1.663 (q, J = 7.5 Hz, 6.0 Hz, -CH2-), 3.45-3.77 (m, 4.0 H, -CH2-OH), 4.02-4.21 (m, 8.0H, -C-CH2-O-), 7.25-8.55 (m, 26.0 H, aromatic H).
【0071】
(実施例5)
<TPA−2G1へのメタクリロイル基の導入>
【0072】
【化18】

【0073】
TPA−2G1とメタクリル酸無水物との反応をジクロロメタン中、トリエチルアミン存在下、室温24時間の条件で行い、メタクリロイル基の導入率42%で対応するTPA−2G1のメタクリロイル化体(TPA−2G2−Meth)が収率24%で得られた。なお、メタクリロイル基の導入率は1H NMRより求めた。
【0074】
(実施例6)
<TPA−2G1−Methの放射線硬化反応>
TPA−2G1−Methの放射線硬化反応は、重合開始剤として2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オン(Irgacure 907(Ciba Specialty Chemicals製))を3重量%添加したフィルム(厚さ:約10μm)を作製し、光源として250−W超高圧水銀灯(照度:8.0mW/cm2、波長:254nm)を用いて光照射を行った。その結果、FT−IRスペクトルにおけるメタクリロイル基のνC=Cに起因する1637cm-1の吸収が減少し、光照射20分後にはメタクリロイル基のνC=Cの転化率は85%に達し、硬化物が定量的に得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
同一分子内に1つのオキセタニル基と2つのカルボキシル基又はその前駆基を有し式(1)で表されるオキセタン化合物、及び、
多価カルボン酸
から得られることを特徴とする
エステル化合物。
【化1】

(式(1)中、Aは水素原子、又は、炭素数1〜6のアルキル基を表し、Bは炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、ハロゲン原子、又は、ニトロ基を表し、Bの置換基数nは0〜3の整数を表し、また、Rは水素原子又はベンジル基を表す。)
【請求項2】
前記オキサタン化合物が、下記式(2)の化合物である請求項1に記載のエステル化合物。
【化2】

(式(2)中、Aは水素原子、又は、炭素数1〜6のアルキル基を表す。)
【請求項3】
前記多価カルボン酸が、テレフタル酸、又は、1,3,5−ベンゼントリカルボン酸である請求項1又は2に記載のエステル化合物。
【請求項4】
請求項1〜3に記載のエステル化合物のヒドロキシル基の少なくとも一部に重合性基を導入した放射線硬化性化合物。
【請求項5】
前記重合性基が、(メタ)アクリロイル基を含む基である請求項4に記載の放射線硬化性化合物。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の放射線硬化性化合物を含む組成物を、放射線照射により硬化した硬化物。
【請求項7】
同一分子内に1つのオキセタニル基と2つのカルボキシル基又はその前駆基を有し式(1)で表されるオキセタン化合物、及び、
多価カルボン酸を用い、
塩基性触媒存在下付加反応を行う工程
を含むエステル化合物の製造方法。
【化3】

(式(1)中、Aは水素原子、又は、炭素数1〜6のアルキル基を表し、Bは炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、ハロゲン原子、又は、ニトロ基を表し、Bの置換基数nは0〜3の整数を表し、また、Rは水素原子又はベンジル基を表す。)
【請求項8】
前記塩基性触媒が、第4オニウム塩、クラウンエーテル錯体類、又は、第3アミンである請求項7に記載のエステル化合物の製造方法。
【請求項9】
前記塩基性触媒が、テトラフェニルホスホニウムブロミドである請求項7又は8に記載のエステル化合物の製造方法。
【請求項10】
同一分子内に1つのオキセタニル基と2つのカルボキシル基又はその前駆基を有し式(1)で表されるオキセタン化合物、及び、多価カルボン酸を用い、塩基性触媒存在下付加反応を行いエステル化合物を得る工程、並びに、
前記エステル化合物のヒドロキシル基の少なくとも一部に重合性基を導入する工程
を含むことを特徴とする放射線硬化性化合物の製造方法。
【化4】

(式(1)中、Aは水素原子、又は、炭素数1〜6のアルキル基を表し、Bは炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、ハロゲン原子、又は、ニトロ基を表し、Bの置換基数nは0〜3の整数を表し、また、Rは水素原子又はベンジル基を表す。)
【請求項11】
同一分子内に1つのオキセタニル基と2つのカルボキシル基又はその前駆基を有し式(1)で表されるオキセタン化合物、及び、多価カルボン酸を用い、塩基性触媒存在下付加反応を行いエステル化合物を得る工程、
前記エステル化合物のヒドロキシル基の少なくとも一部に重合性基を導入し放射線硬化性化合物を得る工程、並びに、
前記放射線硬化性化合物を含む組成物に放射線を照射し硬化させる工程
を含むことを特徴とする硬化物の製造方法。
【化5】

(式(1)中、Aは水素原子、又は、炭素数1〜6のアルキル基を表し、Bは炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、ハロゲン原子、又は、ニトロ基を表し、Bの置換基数nは0〜3の整数を表し、また、Rは水素原子又はベンジル基を表す。)

【公開番号】特開2006−219398(P2006−219398A)
【公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−32933(P2005−32933)
【出願日】平成17年2月9日(2005.2.9)
【出願人】(592218300)学校法人神奈川大学 (243)
【出願人】(000003034)東亞合成株式会社 (548)
【Fターム(参考)】