説明

エステル樹脂組成物及びその成形品

【課題】難燃性を確保しつつ、光沢を付与し、高熱伝導性を得ることのできるエステル樹脂組成物を提供する。
【解決手段】不飽和ポリエステル樹脂とビニルエステル樹脂のいずれか一方又は両方、低収縮剤、ビニル架橋剤からなる樹脂混合物と、難燃剤と、無機充填材とを含有するエステル樹脂組成物に関する。樹脂混合物100質量部に対して、難燃剤として水酸化アルミニウムを40〜100質量部及び赤リンを7質量部以上含有する。エステル樹脂組成物全量に対して、無機充填材として平均粒子径の異なる2種類以上の球状アルミナを50質量%以上及び炭酸カルシウムを3〜15質量%含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ封入・コイル封入に用いられるエステル樹脂組成物及びその成形品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
モータを封入する事例はその用途や使用環境に応じて多種多様であるが、近年においては、様々な封入モータが市販されている。そして、これらのモータについては、近年のエネルギー利用の更なる高効率化のために、高出力化・小型化が求められており、現在では様々な改良が検討されている。
【0003】
通常、モータは作動中に熱を持ち始め、次第に高温になっていく。特に電流が流れるコイル部分は、ジュール熱で昇温し蓄熱しやすい。そして、このように温度が上昇すると出力が低下し、本来のモータ性能を得ることができなくなり、このようなモータを備えた機器の性能も次第に低下していくこととなる。よって、モータを高効率で駆動させるには、熱放散性を高めてモータの温度上昇を防ぐための熱対策が必要である。
【0004】
上記のような熱対策の一つとして、樹脂による封入化で熱放散性を向上させるという手法がある(例えば、特許文献1参照。)。この場合、樹脂に高熱伝導性フィラーを高充填することによって、高熱伝導性の樹脂を得るようにしているが、一般にフィラーの充填量が増加すると樹脂の成形性が低下したり、また、成形品の光沢が無くなったりする。従って、高熱伝導性フィラーを高充填する場合には、使用するフィラーの種類、平均粒子径、粒度分布等を考慮して、樹脂の成形性を確保すると共に成形品に光沢を付与する必要がある。
【0005】
また、モータ等を封入した成形品には難燃性も要求されるが、高熱伝導性や光沢だけでなく、難燃性も確保したBMC(バルクモールディングコンパウンド)を得ようとする場合には、樹脂量に対して一定量以上の難燃剤を添加する必要がある(例えば、特許文献2参照。)。具体的には、難燃剤として水酸化アルミニウムを用いる場合には、従来、樹脂100質量部に対して200質量部以上の水酸化アルミニウムを添加する必要があるが、このような系では充分な熱伝導性を得ることは困難であった。
【特許文献1】特開2004−231702号公報
【特許文献2】特開2001−261954号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、難燃性を確保しつつ、光沢を付与し、高熱伝導性を得ることのできるエステル樹脂組成物及びその成形品を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の請求項1に係るエステル樹脂組成物は、不飽和ポリエステル樹脂とビニルエステル樹脂のいずれか一方又は両方、低収縮剤、ビニル架橋剤からなる樹脂混合物と、難燃剤と、無機充填材とを含有するエステル樹脂組成物において、樹脂混合物100質量部に対して、難燃剤として水酸化アルミニウムを40〜100質量部及び赤リンを7質量部以上含有すると共に、エステル樹脂組成物全量に対して、無機充填材として平均粒子径の異なる2種類以上の球状アルミナを50質量%以上及び炭酸カルシウムを3〜15質量%含有して成ることを特徴とするものである。
【0008】
請求項2の発明は、請求項1において、ビニルエステル樹脂として、ノボラック骨格を有するものを用いて成ることを特徴とするものである。
【0009】
請求項3の発明は、請求項1又は2において、赤リンとして、粒子表面が樹脂でコーティングされたものを用いて成ることを特徴とするものである。
【0010】
本発明の請求項4に係る成形品は、請求項1乃至3のいずれかに記載のエステル樹脂組成物を成形硬化して成ることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の請求項1に係るエステル樹脂組成物によれば、難燃性を確保しつつ、光沢があって、高熱伝導性の成形品を得ることができるものである。
【0012】
請求項2の発明によれば、耐熱性に優れた成形品を得ることができるものである。
【0013】
請求項3の発明によれば、取り扱い上の安全性を確保することができると共に、樹脂混合物中での分散性を向上させることができるものである。
【0014】
本発明の請求項4に係る成形品によれば、難燃性を確保しつつ、光沢があって、熱伝導率が1.6W/mK以上であるような高熱伝導性の成形品を得ることができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0016】
本発明において不飽和ポリエステル樹脂としては、その種類は特に限定されるものではない。すなわち、不飽和多塩基酸又は場合により飽和多塩基酸を含む不飽和多塩基酸と多価アルコールとを反応させることによって得られるものを用いることができ、通常、成形材料として使用されているものであれば適宜使用することができる。
【0017】
また、ビニルエステル樹脂としては、その種類は特に限定されるものではないが、ノボラック骨格を有するものを用いると、耐熱性に優れた成形品を得ることができるものである。このようなノボラック骨格を有するビニルエステル樹脂の具体例としては、日本ユピカ株式会社製「ネオポール8411H」等を挙げることができる。
【0018】
また、低収縮剤としては、ポリスチレン、ポリメタクリレート、ポリ酢酸ビニル、飽和ポリエステル、スチレン−ブタジエン系ゴム等の熱可塑性樹脂を挙げることができる。このうち1種類のみを用いたり、2種類以上を併用したりすることができる。不飽和ポリエステル樹脂とビニルエステル樹脂の合計100質量部に対して、低収縮剤は30〜150質量部の範囲で添加するのが好ましく、50〜100質量部の範囲で添加するのがより好ましい。
【0019】
また、ビニル架橋剤としては、例えば、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、tert−ブチルスチレン、ジビニルベンゼン、メタアクリル酸メチル等を挙げることができる。中でもスチレンが好ましい。また、ビニル架橋剤は、通常、希釈剤として、上述した不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、低収縮剤にあらかじめ配合させておくか、又は個別に添加するなどして用いることができる。
【0020】
上述した不飽和ポリエステル樹脂とビニルエステル樹脂のいずれか一方又は両方、低収縮剤、ビニル架橋剤からなるものを以下では樹脂混合物という。
【0021】
また、難燃剤としては、水酸化アルミニウム及び赤リンを用いる。
【0022】
ここで、水酸化アルミニウムとしては、平均粒子径が3〜50μmであるものを用いるのが好ましい。平均粒子径が3μmより小さくても、あるいは50μmより大きくても、エステル樹脂組成物の成形性が低下するおそれがある。また、水酸化アルミニウムの含有量は、樹脂混合物100質量部に対して、40〜100質量部に設定する。水酸化アルミニウムの含有量が40質量部より少ないと、成形品に難燃性を付与することができない。逆に水酸化アルミニウムの含有量が100質量部より多くても、成形品に難燃性を付与することができなかったり、また、成形品の熱伝導性を高めることができなかったりする。水酸化アルミニウムの好ましい含有量は、50〜75質量部である。
【0023】
一方、赤リンとしては、粒子表面がフェノール樹脂等の樹脂でコーティングされたものを用いるのが好ましい。粒子表面が樹脂でコーティングされていない赤リンは不安定であり、取り扱い上の安全性に問題があるおそれがある。また、赤リンの粒子表面を樹脂でコーティングすることで、樹脂混合物中での分散性が向上する。また、赤リンの含有量は、樹脂混合物100質量部に対して、7質量部以上(実質上の上限は12質量部)に設定する。赤リンの含有量が7質量部より少ないと成形品に難燃性を付与することができない。赤リンの好ましい含有量は、7〜10質量部である。
【0024】
また、無機充填材としては、平均粒子径の異なる2種類以上の球状アルミナ及び炭酸カルシウムを用いる。
【0025】
球状アルミナとしては、平均粒子径が2〜50μmであるものを用いるのが好ましく、平均粒子径が3〜40μmであるものを用いるのがより好ましい。平均粒子径が2μmより小さくても、あるいは50μmより大きくても、エステル樹脂組成物の成形性が著しく低下するおそれがある。ここで、平均粒子径が20〜50μmである球状アルミナと、平均粒子径が2〜10μmである球状アルミナを用いる場合には、両者の質量比率は90/10〜10/90であることが好ましい。この範囲を逸脱すると、エステル樹脂組成物の成形性が著しく低下すると共に、成形品の光沢やツヤが無くなってムラが多くなるおそれがある。上記質量比率のより好ましい範囲は80/20〜20/80である。また、エステル樹脂組成物全量に対して、平均粒子径の異なる2種類以上の球状アルミナの合計含有量は50質量%以上に設定する。これより少ないと充分な熱伝導性を得ることができない。なお、上記合計含有量が90質量%より多いと、エステル樹脂組成物の成形性が著しく低下すると共に、成形品の光沢やツヤが無くなってムラが多くなるので、実質上の上限は90質量%である。また、上記合計含有量のより好ましい範囲は60〜80質量%である。
【0026】
一方、エステル樹脂組成物全量に対して、炭酸カルシウムの含有量は3〜15質量%に設定する。炭酸カルシウムの含有量が3質量%より少ないと、エステル樹脂組成物の成形性が著しく低下すると共に、成形品の光沢が無くなるものである。逆に炭酸カルシウムの含有量が15質量%より多いと、充分な熱伝導性を得ることができない。
【0027】
また、本発明においては、上述した樹脂混合物、難燃剤、無機充填材の成分のほか、その他の充填材や、以下のような硬化触媒、離型剤、繊維強化材、また、カーボンブラック等の顔料、増粘剤等を必要に応じて添加して用いることができる。
【0028】
すなわち、硬化触媒としては、次のような有機過酸化物を用いることができる。例えば、t−ブチルパーオキシベンゾエート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−アミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、1,1−ジ−t−ブチルパーオキシ−3,3,5−トリメチルシクロヘキサノエート、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン等を挙げることができる。
【0029】
また、離型剤としては、成形材料を調製する際に一般的に用いられているものであれば使用可能である。例えば、ステアリン酸、ミスチリン酸等の脂肪酸、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム等の脂肪族酸金属塩、リン酸エステル等の界面活性剤、カルナバ等のワックス類等を用いることができる。
【0030】
また、繊維強化材としては、例えば、ガラス繊維等を用いることができるが、繊維長が1.5〜5mmであるものを用いるのが好ましい。繊維長が1.5mmより小さいと充分な補強効果を得ることができないおそれがあり、逆に5mmより大きいとエステル樹脂組成物の成形性が低下するおそれがある。
【0031】
そして、上述した樹脂混合物、難燃剤、無機充填材、必要に応じてその他の成分をニーダー等に投入し、これを混合することによって、エステル樹脂組成物を調製することができる。
【0032】
次に、上記のようにして得たエステル樹脂組成物を成形硬化することによって、各種の成形品を製造することができる。例えば、コイルをトランスファー成形金型にセットし、上記のエステル樹脂組成物を用いてトランスファー成形を行うことによって、コイルを封入したコイル封入成形品を製造することができる。なお、成形品を製造するにあたっては、トランスファー成形法のほか、射出成形法や圧縮成形法(直圧成形)を行うこともできる。
【0033】
以上のように、本発明では、樹脂混合物100質量部に対して水酸化アルミニウムの含有量が100質量部以下であって、エステル樹脂組成物全量に対して球状アルミナの含有量が50質量%以上であるので、成形品の熱伝導率が1.6W/mK以上となり、高熱伝導性を得ることができるものである。また、水酸化アルミニウムの含有量が100質量部以下であっても、赤リンが7質量部以上含有されているので、充分な難燃性を確保することができるものである。さらに、球状アルミナとしては平均粒子径の異なる2種類以上のものを用いると共に、熱伝導性を低下させない範囲で炭酸カルシウムを含有させるようにしているので、成形品に光沢を付与することもできるものである。
【実施例】
【0034】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明する。
【0035】
(エステル樹脂組成物の原材料)
不飽和ポリエステル樹脂として、日本ユピカ株式会社製「ユピカ5523」を用いた。
【0036】
ノボラック骨格を有するビニルエステル樹脂として、日本ユピカ株式会社製「ネオポール8411H」を用いた。
【0037】
低収縮剤として、あらかじめビニル架橋剤が配合されたポリスチレン系低収縮剤(ポリスチレン30質量%スチレン溶液)を用いた。
【0038】
水酸化アルミニウムとして、昭和電工株式会社製「ハイジライトH32」(平均粒子径8μm)を用いた。
【0039】
赤リンとして、燐化学工業株式会社製「ノーバレッド120」を用いた。この赤リンの粒子表面は、フェノール樹脂でコーティングされている。
【0040】
無機充填材として、炭酸カルシウムのほか、次のような球状アルミナを用いた。すなわち、電気化学工業株式会社製「DAM5」(平均粒子径5μm)「DAM10」(平均粒子径10μm)株式会社マイクロン製「AX35−125」(平均粒子径37μm)を用いた。なお、下記[表1][表2]では、順に、「球状アルミナ1」、「球状アルミナ2」、「球状アルミナ3」と示す。
【0041】
その他の成分として、硬化触媒である日本油脂株式会社製「パーブチルZ」(t-Butyl peroxybenzoate)、離型剤であるステアリン酸亜鉛、顔料であるカーボンブラック、ガラス繊維である日本硝子繊維株式会社製「RESO3BM5」(繊維長3mm)を用いた。
【0042】
(エステル樹脂組成物の調製と試験片の作製)
下記[表1][表2]に示す所定量の原材料をニーダーに投入し、これを25〜30℃で20〜40分間混合することによって、エステル樹脂組成物を調製した。
【0043】
次に、上記のようにして得たエステル樹脂組成物を用いて試験片を作製した。試験片は、熱伝導率測定用、難燃性測定用、外観評価用の各用途に分けて作製した。各用途の試験片を作製するのに用いた金型、成形条件、試験片の形状はそれぞれ下記のとおりである。
【0044】
(熱伝導率測定用)
金型:φ100mm×20mmの円盤金型
成形条件:金型温度=145℃、圧力=10MPa、硬化時間=20分
形状:φ100mm×20mm
(難燃性測定用)
金型:目的の形状の試験片金型(直圧成形)
成形条件:金型温度=145℃、圧力=10MPa、硬化時間=180秒
形状:127mm×12.7mm×0.8mm
(外観評価用)
金型:目的の形状の試験片金型(トランスファー成形)
成形条件:金型温度=150℃、注入圧力=5MPa、注入時間=30秒、型締め圧力=15MPa、型締め時間=120秒
形状:70mm×40mm×3mm
(特性評価)
上記のようにして作製した熱伝導率測定用の試験片について、QTM法に基づいて熱伝導率を測定した。
【0045】
また、難燃性測定用の試験片について、UL−94に準拠した方法で難燃性を測定した。
【0046】
また、外観評価用の試験片について、目視による観察を行い、光沢があり充填ムラがないものを「◎」、光沢はあるが充填ムラがあるものを「○」、光沢がなく充填ムラがあるものを「×」と判定することにより、外観の評価を行った。
【0047】
以上の測定結果を下記[表1][表2]に示す。
【0048】
【表1】

【0049】
【表2】

【0050】
上記[表2]にみられるように、比較例1〜6については、熱伝導性、難燃性、外観のうち、少なくともいずれかにおいて欠点を有していることが確認される。
【0051】
それに対して、上記[表1]にみられるように、実施例1〜10については、熱伝導性、難燃性、外観のすべての面において優れており、特に熱伝導率はすべての実施例について1.6W/mK以上であることが確認される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不飽和ポリエステル樹脂とビニルエステル樹脂のいずれか一方又は両方、低収縮剤、ビニル架橋剤からなる樹脂混合物と、難燃剤と、無機充填材とを含有するエステル樹脂組成物において、樹脂混合物100質量部に対して、難燃剤として水酸化アルミニウムを40〜100質量部及び赤リンを7質量部以上含有すると共に、エステル樹脂組成物全量に対して、無機充填材として平均粒子径の異なる2種類以上の球状アルミナを50質量%以上及び炭酸カルシウムを3〜15質量%含有して成ることを特徴とするエステル樹脂組成物。
【請求項2】
ビニルエステル樹脂として、ノボラック骨格を有するものを用いて成ることを特徴とする請求項1に記載のエステル樹脂組成物。
【請求項3】
赤リンとして、粒子表面が樹脂でコーティングされたものを用いて成ることを特徴とする請求項1又は2に記載のエステル樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載のエステル樹脂組成物を成形硬化して成ることを特徴とする成形品。

【公開番号】特開2006−206691(P2006−206691A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−18709(P2005−18709)
【出願日】平成17年1月26日(2005.1.26)
【出願人】(000005832)松下電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】