説明

エチレンオキシド製造用触媒およびエチレンオキシドの製造方法

【課題】高効率、高選択率で、また長期に渡って安定してエチレンオキシドを製造するためのエチレンオキシド製造用触媒を提供することを目的とする。
【解決手段】α−アルミナを主成分とする多孔質担体に銀および反応促進剤を含有してなる触媒であって、該触媒の各々の粒子に含まれる銀量の相対標準偏差が0.001以上、0.1以下であることを特徴とするエチレンを酸化してエチレンオキシドを製造するための触媒である。また前記エチレンオキシド製造用触媒の存在下で、エチレンを分子状酸素または分子状酸素含有ガスにより気相酸化する段階を有する、エチレンオキシドの製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エチレンオキシド製造用触媒およびエチレンオキシドの製造方法に関する。詳細には、本発明は、エチレンオキシド選択性に優れ、高い選択率でエチレンオキシドを製造しうるエチレンオキシド製造用触媒、およびこのエチレンオキシド製造用触媒を用いたエチレンオキシドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エチレンを銀触媒の存在下で分子状酸素含有ガスにより接触気相酸化してエチレンオキシドを製造することは工業的に広く行われている。この接触気相酸化に用いる銀触媒については、その担体、担持方法、反応促進剤などに関し、多くの技術が提案されている。
【0003】
銀触媒の触媒活性、選択性および触媒寿命はすでに高いレベルに達しているが、なおこれらの触媒性能の向上が求められている。例えば選択率を例にとれば、エチレンオキシドの生産規模は大きいことから、選択率が僅か1%向上するだけでも、原料エチレンの使用量が著しく節約され、その経済的効果は大きい。このような事情から、より優れた触媒性能を有する銀触媒の開発や、これを用いた多管式反応器での接触気相酸化反応の高効率化や選択性の向上は、当該技術分野の研究者の継続的なテーマとなっている。
【0004】
例えば、特許文献1には、α−アルミナを主成分とする担体に銀を担持させた触媒が開示され、好適な触媒のサイズ、銀の担持量の他に、触媒を反応器に充填して得られる触媒層における銀装填量に関して記載されている。また、例えば特許文献2には、触媒を固定床多管式反応器の反応管に所定の速度で充填することで、触媒が均一に充填され、触媒を長期間安定して使用できることが記載されている。さらに、例えば特許文献3には、所定の内径を有する反応管に所定の外径または長さを有する触媒を充填する方法が開示され、触媒層中に含まれる銀の含有量に関して記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2007−500596号公報
【特許文献2】特開2002−306953号公報
【特許文献3】特開2010−36115号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記特許文献に記載の方法であっても反応の転化率や選択率は依然として充分なものではなく、また触媒の一粒一粒に含まれる銀含有量が不均一でると所望の性能を安定して得ることができないという点において、改善の余地がある状況であった。
【0007】
そこで本発明は、高効率、高選択率で、また長期に渡って安定してエチレンオキシドを製造するためのエチレンオキシド製造用触媒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上述した課題を解決すべく、特にエチレンオキシド製造用触媒に含まれる銀量について鋭意研究を行った。その結果、α−アルミナを主成分とする多孔質担体に銀を担持する際に均一に担持することで、上記以外の条件で充填した場合に比べて高効率、高選択率でエチレンオキシドを製造することができ、触媒の寿命も長いことを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち本発明は、α−アルミナを主成分とする多孔質担体に銀および反応促進剤を含有してなる触媒であって、下記式(1)により求められる該触媒の各々の粒子に含まれる銀量の相対標準偏差が0.001以上、0.1以下であることを特徴とするエチレンを酸化してエチレンオキシドを製造するための触媒である。
また前記エチレンオキシド製造用触媒の存在下で、エチレンを分子状酸素または分子状酸素含有ガスにより気相酸化する段階を有する、エチレンオキシドの製造方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、固定床多管式反応器を用いたエチレンオキシドを製造するための触媒として好適に使用でき、高効率、高選択率で、また長期に渡り安定してエチレンオキシドを製造することがでる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
α−アルミナを主成分とする多孔質担体に銀および反応促進剤を含有してなる触媒であって、該触媒の各々の粒子に含まれる銀量の相対標準偏差が0.001以上、0.1以下であることを特徴とするエチレンを酸化してエチレンオキシドを製造するための触媒である。
【0012】
ここで銀量の相対標準偏差とは、下記式(1)によって求められる。
銀含有量の相対標準偏差 = 銀含有量の標準偏差/平均の銀含有量 ・・・(1)
ここで、銀含有量の標準偏差は下記式(2)で求められ、
【0013】
【数1】

【0014】
(但し、Nは銀含有量を測定した触媒の個数、Xnは各粒子の銀含有量を表す)であり、平均の銀含有量はN個の粒子の銀含有量の算術平均を表す。
【0015】
本発明のエチレンオキシド製造用触媒に用いられる担体の組成については、α−アルミナを主成分とすること以外は特に制限されない。ここで、担体が「α−アルミナを主成分とする」とは、α−アルミナ以外に一部、γーアルミナ、非晶質アルミナなどの別の形態のアルミナを含んでもよいことを意味する。担体におけるアルミナの含有量は、担体の全質量100質量%に対して90質量%以上が好ましく、より好ましくは95質量%以上であり、さらに好ましくは98質量%以上である。α−アルミナを主成分とするものであればその他の組成は特に制限されないが、担体は、例えばアルカリ金属またはアルカリ土類金属の酸化物や遷移金属の酸化物を含有しうる。これらの含有量についても特に制限はないが、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の酸化物の含有量は、酸化物換算で好ましくは0〜5質量%であり、より好ましくは0.01〜4質量%である。また、遷移金属の酸化物の含有量は、酸化物換算で好ましくは0〜5質量%であり、より好ましくは0.01〜3質量%である。
【0016】
担体はまた、シリカ(二酸化ケイ素)を通常含有する。担体におけるシリカの含有量についても特に制限はないが、好ましくは0.01〜10.0質量%であり、より好ましくは0.1〜5.0質量%であり、さらに好ましくは0.2〜3.0質量%である。
【0017】
なお、上述した担体の組成や各成分の含有量は、蛍光X線分析法を用いて決定されうる。担体原料であるα−アルミナ粉体の粒径に関しても特に制限はないが、α−アルミナ粉体の一次粒子径は、好ましくは0.01〜100μmであり、より好ましくは0.1〜20μmであり、さらに好ましくは0.5〜10μmであり、特に好ましくは1〜5μmである。また、α−アルミナ粉体の二次粒子径は、好ましくは0.1〜1,000μmであり、より好ましくは1〜500μmであり、さらに好ましくは10〜200μmであり、特に好ましくは30〜100μmである。
【0018】
担体の比表面積についても特に制限はないが、好ましくは0.03〜10m/gであり、より好ましくは0.3〜5.0m/gであり、さらに好ましくは0.5〜3.0m/gである。担体の比表面積が0.03m/g以上であれば、必要な量の触媒成分の担持が可能となり、担体の比表面積が大きいほど触媒成分の高分散担持が容易になる。また、触媒反応の活性部位である触媒成分表面の面積が大きくなるので、好ましい。一方、担体の比表面積が10m/g以下であれば、担体の細孔径がある程度大きい値に維持され、製造された触媒を用いたエチレンオキシド製造時のエチレンオキシドの逐次酸化が抑制されうる。なお、担体の比表面積の値としては、後述する実施例に記載の手法により得られる値を採用するものとする。
【0019】
前記担体は、好ましくは、少なくとも40Nの圧壊強度を有する。担体の圧壊強度は、好ましくは50N以上であり、より好ましくは60N以上である。上述の範囲であれば、十分な機械的強度が維持できる。担体の圧壊強度の上限値は特に限定されない。なお、担体の圧壊強度の値としては、後述する実施例に記載の手法により得られる値を採用するものとする。
【0020】
担体の嵩密度は、好ましくは0.5〜1.0kg/Lであり、より好ましくは0.5〜0.9kg/Lであり、さらに好ましくは0.5〜0.80kg/Lである。担体の嵩密度が上述の範囲であれば、適当な充填比重が得られ、十分な強度の触媒を製造することができる。なお、担体の嵩密度の値としては、後述する実施例に記載の手法により得られる値を採用するものとする。
【0021】
担体の細孔容積も特に制限されないが、好ましくは0.2〜0.6cm/gであり、より好ましくは0.3〜0.5cm/gである。担体の細孔容積が0.2cm/g以上であれば、触媒成分の担持が容易となるという点で好ましい。一方、担体の細孔容積が0.6cm/g以下であれば、担体の強度が実用的な程度に確保されうるという点で好ましい。なお、担体の細孔容積の値としては、水銀圧入法により得られる値を採用するものとする。
【0022】
担体の有する細孔のサイズも特に制限されないが、平均細孔直径は、好ましくは0.1〜10μmであり、より好ましくは0.2〜4.0μmであり、さらに好ましくは0.3〜3.0μmである。平均細孔直径が0.1μm以上であれば、エチレンオキシド製造時の生成ガスの滞留に伴うエチレンオキシドの逐次酸化が抑制されうる。一方、平均細孔直径が10μm以下であれば、担体の強度が実用的な程度に確保されうる。なお、平均細孔直径の値としては、水銀圧入法により得られる値を採用するものとする。
【0023】
担体の吸水率についても特に制限はないが、好ましくは10〜70%であり、より好ましくは20〜60%であり、さらに好ましくは30〜50%である。担体の吸水率が10%以上であれば、触媒成分の担持が容易となる。一方、担体の吸水率が70%以下であれば、担体の強度が実用的な程度に確保されうる。なお、担体の吸水率の値としては、後述する実施例に記載の手法により得られる値を採用するものとする。
【0024】
本発明に用いられるエチレンオキシド製造用触媒は、上述した担体に触媒成分として銀が担持されてなる構成を有する。また、銀のほかに、一般に反応促進剤として用いられる触媒成分が担体にさらに担持されてもよい。反応促進剤の代表例としては、アルカリ金属、具体的にはリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムが挙げられる。アルカリ金属のほかには、タリウム、硫黄、クロム、モリブデン、タングステン、レニウムなどもまた、反応促進剤として用いられうる。これらの反応促進剤は、1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。これらのうち、反応促進剤としてはセシウムが好適に用いられる。
【0025】
本発明の触媒は、α−アルミナを主成分とする多孔質担体に銀を担持した後に、触媒の各々の粒子に含まれる銀量の標準偏差が0.001以上、0.1以下になるように担持されていれば良く、好ましくは0.05以下である。0.1を超えると、銀含有量のばらつきが大きくなり、触媒の選択性や寿命安定性が低下する。
【0026】
銀量の標準偏差が前記範囲に入っていれば、銀や反応促進剤の担持量については特に制限はなく、エチレンオキシドの製造に有効な量で担持すればよい。例えば、銀の場合、その担持量はエチレンオキシド製造用触媒の質量基準で1〜30質量%であり、好ましくは5〜20質量%である。また、反応促進剤の担持量は、エチレンオキシド製造用触媒の質量基準で、通常0.001〜2質量%であり、好ましくは0.01〜1質量%であり、より好ましくは0.01〜0.7質量%である。特に、反応促進剤の最適な担持量は、担体物性の違いや反応促進剤の組み合わせなどにより異なる。このため、予め反応促進剤の担持量の異なる触媒を調製し、当該触媒について性能を評価した後、最高性能を示す反応促進剤の担持量を決定し、このような最高性能を示す量の反応促進剤量を担持して触媒を調製することが好ましい。なお、下記実施例及び比較例では、このように予め最高性能を示す反応促進剤の担持量を決定した後、触媒を調製した。
【0027】
本発明に用いられうるエチレンオキシド製造用触媒は、従来公知のエチレンオキシド製造用触媒の製造方法に従って調製されうる。
【0028】
以下、上述した担体を用いて本発明におけるエチレンオキシド製造用触媒を製造する手法の一例を説明するが、本発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載に基づいて定められるべきであり、下記の手法のみに限定されるわけではない。
【0029】
まず、担体を準備する。担体の調製方法としては、次のような調製方法を採用することで、担体のサイズや物性が制御されうることが知られている。すなわち、1)α−アルミナを主成分とする母粉体に、所望のサイズおよび量の気孔形成剤を添加する方法、2)物性の異なる少なくとも2種の母粉体を所望の混合比で調合する方法、3)担体を所望の温度にて所望の時間焼成する方法、などが知られており、これらを組み合わせた手法も知られている。例えば、α−アルミナ粉体に、成型性を向上させる効果のある成型助剤や触媒の強度を向上させる補強剤やバインダー、触媒に細孔を形成させる気孔形成剤を添加して混合する。添加する物質としては、添加によって触媒性能に悪影響を及ぼさないものが好ましい。例えば、シリカ、アルミナ、シリカ−アルミナ、ガラス繊維、炭化珪素、窒化珪素、グラファイトなどの無機結合剤が添加されうる。必要によりエチレングリコール、グリセリン、プロピオン酸、マレイン酸、ベンジルアルコール、プロピルアルコール、ブチルアルコール、セルロース、メチルセルロース、でんぷん、ポリビニルアルコールまたはフェノール等の有機結合剤が加えられる。また、桃、杏、クルミなどの殻、種などを均一粒径に揃えたもの、あるいは粒子径が均一で焼成により消失する物質などが気孔形成剤として添加されうる。さらに水を加えてニーダなどの混練機を用いて十分に混合した後、押し出し成型などにより適当な金型を用いて所望の形状に成型、造粒し、乾燥した後焼成する。これらの調製方法については、例えば、「多孔質体の性質とその応用技術」竹内雍監修、株式会社フジ・テクノシステム発行(1999年)に記載されている。また、特開平5−329368号公報、特開2001−62291号公報、特開2002−136868号公報、特許第2983740号公報、特許第3256237号公報、特許第3295433号公報なども参照されうる。
【0030】
一方、担体に銀を担持させるための溶液を調製する。具体的には、銀化合物を単独で、または銀錯体を形成するための錯化剤もしくは必要に応じて反応促進剤を、水などの溶媒に添加する。
【0031】
ここで、銀化合物としては、例えば、硝酸銀、炭酸銀、シュウ酸銀、酢酸銀、プロピオン酸銀、乳酸銀、クエン酸銀、ネオデカン酸銀などが挙げられる。また、錯化剤としては、例えば、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、エチレンジアミン、プロピレンジアミンなどが挙げられる。これらの銀化合物や錯化剤は、それぞれ、1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。
【0032】
次いで、上記で得られた溶液を、同じく上記で準備した担体に含浸または浸漬させる。この際、反応促進剤は、担体に溶液を含浸または浸漬させる前段階において溶液に溶解させて同時に含浸させてもよいし、銀を担持した後に担持してもよい。
【0033】
本発明において、触媒の各々の粒子に含まれる銀量の標準偏差が0.001以上、0.1以下になるように担持するために、上記溶液を含浸させる際に用いるブレンダーとしては、V型、ダブルコーン型、球型、円筒型等を用いることができる。液を均一に含浸する目的において、前記構造に加え、さらに薬液と担体との混合効率を向上させる回転、揺動等の混合方式を有するブレンダーが好適に用いられる。浸漬により薬液を担体に含ませた場合でも、次に行う乾燥工程において、吸収された薬液が加熱とともに担体の外に一旦外に出てきて、その後に乾燥されるため、不均一担持を防ぐという点において混合効率の良い構造及び回転方法を有するブレンダーが好適に用いられる。
【0034】
続いて、これを乾燥し、焼成する。乾燥は、空気、酸素、または不活性ガス(例えば、窒素)の雰囲気中で、80〜120℃の温度で行うことが好ましい。また、焼成は、空気、酸素、過熱スチームまたは不活性ガス(例えば、窒素)の雰囲気中で、150〜700℃の温度で、好ましくは200〜600℃の温度で行うことが好ましい。なお、焼成は、1段階のみ行われてもよいし、2段階以上行われてもよい。好ましい焼成条件としては、1段階目の焼成を空気雰囲気中で150〜250℃にて0.1〜10時間行い、2段階目の焼成を空気雰囲気中で250〜450℃にて0.1〜10時間行う条件が挙げられる。さらに好ましくは、かような2段階焼成後にさらに、不活性ガス(例えば、窒素、ヘリウム、アルゴンなど)雰囲気中で450〜700℃にて0.1〜10時間、3段階目の焼成を行うとよい。尚、上記方法により得られた各々の触媒において、一粒一粒の中に含まれる銀の含有量は、実施例に記載の手法により分析された値を採用するものとする。
【0035】
本発明は、前記エチレンオキシド製造用触媒の存在下で、エチレンを分子状酸素または分子状酸素含有ガスにより気相酸化する段階を有する、エチレンオキシドの製造方法でもある。
【0036】
本発明に用いるエチレンオキシド製造用反応器は、単管式反応器であっても多管式反応器であってもよいが、工業的には複数の反応管を有する多管式反応器が好ましく用いられうる。エチレンオキシド製造用反応器としては、特に制限されず固定床反応器、流動床反応器、移動床反応器など従来公知のものが用いられうるが、好ましくは固定床反応器である。特に好ましくは、固定床多管式反応器である。エチレンオキシド製造用反応器の反応管としては、内径が15〜50mmのものが用いられる。反応管の内径は、好ましくは18〜45mmであり、より好ましくは20〜40mmである。反応管の内径が15mm未満である場合、反応管の数が増加するため、反応器の製造費用が高くなってしまう。一方、反応管の内径が50mmを超えると、除熱効果が低下し、触媒層内の蓄熱が増加する。
【0037】
本発明に用いるエチレンオキシド製造用反応器においては、前記エチレンオキシド製造用触媒は、外径または長さのうちいずれか大きい方の値が前記反応管の内径に対して10〜50%であり、好ましくは15〜45%であり、より好ましくは20〜40%である。反応管の内径に対する触媒の外径または長さのうちいずれか大きい方の値が10%より小さいと、充填比重および圧力損失が大きくなり、装置、ユーティリティの両面で不利となり、燃焼反応を引き起こす場合がある。一方、反応管の内径に対する触媒の外径または長さのうちいずれか大きい方の値が50%より大きいと、触媒層中の銀の含有量が小さくなり、触媒の活性や寿命が低下する場合がある。
【0038】
上述の条件に加えて触媒層中に含まれる触媒成分である銀の含有量が30〜140kg/mとなるように触媒を充填することで、触媒の活性および寿命が向上する。また、充填速度を制御することによって充填比重を調節し、これによって触媒層中に含まれる銀の含有量を容易に調節できる。
【0039】
反応管の内径に対する触媒の外径または長さのうちいずれか大きい方の値の値が前述の条件を満たす場合であっても、触媒層中に含まれる銀の含有量が140kg/mよりも大きいと、充填比重および圧力損失が大きくなり、装置、ユーティリティの両面で不利となる場合がある。一方、触媒層中に含まれる銀の含有量が30kg/mよりも小さいと、触媒層中の銀の含有量が小さくなり、触媒の活性や寿命が低下する場合がある。触媒層中に含まれる銀の含有量は、好ましくは60〜135kg/mであり、より好ましくは100〜130kg/mである。触媒層中に含まれる銀の含有量の値としては、特開2010−36115号公報の実施例に記載の手法により得られる値が採用されるものとする。
【0040】
本発明においては、触媒層中に含まれる銀の含有量を上述の範囲に制御するために、上述のエチレンオキシド製造用触媒を、0.3〜5L/minの充填速度で上述の反応管に充填する。前記充填速度は、好ましくは0.5〜4L/minであり、より好ましくは1.0〜3.0L/minである。充填速度を0.3〜5L/minの範囲に制御することで、適切な量の触媒成分を含む触媒層が形成されるため、触媒の活性や寿命が向上し、高効率、高選択率でエチレンオキシドを製造することができる。充填速度の値としては、特開2010−36115号公報の実施例に記載の手法により得られる値が採用されるものとする。
【0041】
本発明において、エチレンオキシド製造用触媒は、好ましくはエチレンオキシド製造用反応器の反応管に、少なくとも0.5kg/L、より好ましくは0.6〜0.9kg/L、さらに好ましくは0.65〜0.85kg/Lの充填密度になるように充填される。充填密度が0.5kg/L以上であれば、エチレンオキシドを高効率、高選択率で製造できる。なお、触媒の充填密度の値としては、特開2010−36115号公報の実施例に記載の手法により得られる値が採用されるものとする。
【0042】
エチレンオキシド製造用反応器の所定の内径を有する反応管に、上記の所定のエチレンオキシド製造用触媒を充填するための作業方法は、触媒層中に含まれる銀の含有量および充填速度が上記範囲となる方法であれば特に制限がなく、公知の充填方法、例えば充填機を用いた方法やテンプレートを使用した方法、反応管ごとに手作業によって充填する方法などが用いられうる。ただし、エチレンオキシド製造用多管式反応器の所定の内径を有する反応管に充填する際に、充填速度をどの反応管に対しても一定にする方が、反応管ごとの触媒層中の銀の含有量および圧力損失を一定の範囲の値に制御することができるため好ましい。
【0043】
本発明のエチレンオキシドの製造方法は、本発明のエチレンオキシド製造用触媒を上記の方法で充填した反応器を使用する点を除けば、常法に従って行われうる。好ましくは、エチレンを空気、酸素および富化空気などの分子状酸素含有ガスにより気相酸化する方法が用いられうる。
【0044】
例えば、工業的製造規模における一般的な条件、すなわち反応温度150〜300℃、好ましくは180〜280℃、反応圧力0.2〜4.0MPaG、好ましくは1.0〜3.0MPaG、空間速度1,000〜30,000hr−1(STP)、好ましくは3,000〜8,000hr−1(STP)が採用される。触媒に接触させる原料ガスとしては、エチレン0.5〜40容量%、酸素3〜10容量%、炭酸ガス0.5〜20容量%、残部の窒素、アルゴン、水蒸気等の不活性ガスおよびメタン、エタン等の低級炭化水素類からなり、さらに反応抑制剤としての二塩化エチレン、塩化ジフェニル等のハロゲン化物を0.1〜10容量ppm含有するものが挙げられる。
【実施例】
【0045】
本発明の効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。なお、本実施例において、各種パラメータの測定は以下の手法により行われた。エチレンオキシド製造用反応器は、工業的には、多管式反応器を用いるが、本実施例では単管式反応器にて性能評価を行った。
<担体の嵩密度>
担体を1Lメスシリンダー(内径66mm)に2L/minの速度で、1Lの標線まで充填して質量を測定し、担体の嵩密度を下記数式3にて算出した。
【0046】
嵩密度 (kg/L) = 担体充填重量 (kg) / 1 (L) ・・・(3)
<担体の比表面積の測定>
担体を粉砕した後、0.85〜1.2mmの粒径に分級したもの約0.2gを正確に秤量した。秤量したサンプルを200℃にて少なくとも30分間脱気し、B.E.T.(Brunauer−Emmet−Teller)法により測定した。
<担体の吸水率の測定>
日本工業規格(JIS R 2205(1998年度))に記載の方法に準拠して、以下の方法により測定した。
a)破砕前の担体を、120℃に保温した乾燥機中に入れ、恒量に達した際の質量を秤量した(乾燥重量:W1(g))。
b)上記a)で秤量した担体を水中に沈めて30分間以上煮沸した後、室温の水中にて冷却し、飽水サンプルとした。
c)上記b)で得た飽水サンプルを水中から取り出し、湿布で素早く表面を拭い、水滴を除去した後に秤量した(飽水サンプル重量:W2(g))。
d)上記で得られたW1及びW2を用い、下記数式4に従って、吸水率を算出した。
【0047】
吸水率 (%) = [(W2−W1)/W1] × 100 ・・・(4)
<圧壊強度>
精密力量測定器(丸菱科学機械製作所製)を用いて担体の横方向(長さに対して垂直方向)の圧壊強度を測定し、50個の平均値を圧壊強度とした。
<担体の磨耗率>
以下の手法により測定した。
a)100mLの担体を300mLのコニカルビーカーに入れた。
b)上記のコニカルビーカーに、純水を250mLまで加えた。
c)上記b)を電熱器で加熱し30分間煮沸した。
d)煮沸操作後にコニカルビーカー中に残留した純水を廃棄し、新たに純水を加えて純水のみを捨てる操作を5回繰り返した。
e)上記b)〜d)の洗浄操作を3回繰り返した。
f)洗浄後の担体を乾燥機で120℃にて一昼夜乾燥させた。
g)乾燥後の担体を常温に戻し、秤量した。(試験前質量:W3(g))
h)上記g)で得られた担体をステンレス製ボールミル(外径90mm, 高さ90mm)にて、106rpmで30分間回転させた。
i)回転させた後の担体の全量をステンレス製の篩(内径150mm、目開き1.7mm)に移して篩にかけ、その後秤量した。(篩かけ後質量:W4(g))
j)上記で得られたW3及びW4を用い、下記数式5にしたがって、磨耗率を算出した。
【0048】
磨耗率 (%) = [(W3−W4)/W3]×100 ・・・(5)
<銀含有量>
以下の手法により、ランダムに選択した触媒30粒について銀含有量を測定し、相対標準偏差を算出した。
a)触媒1粒の重量を秤量し、100mLコニカルビーカーに入れた。
b)上記コニカルビーカーに、硝酸を20mLまで加えた。
c)触媒中の銀が溶け終わるまで撹拌した後、純水を50mLまで加えた。
d)上記c)を電熱器で加熱し10分間煮沸した。
e)煮沸操作後にコニカルビーカー中に残留した純水を200mLトールビーカーに捕集し、純水を100mLまで加えた。
d)上記e)溶液中に含まれる銀含有量を自動電位差滴定装置(COM−1600/平沼産業製)にて測定を行った。なお、滴定液は0.1mol/LのNaCl水溶液を用いた。
<エチレンオキシド製造用触媒の添加率及び選択率>
エチレンオキシド製造時及び1年経過後の転化率及び選択率をそれぞれ下記数式6及び数式7に従って算出した。エチレンオキシド製造時の性能を「初期性能」とし、1年経過後の性能を「寿命性能」とする。
【0049】
転化率 (%)=[(反応したエチレンのモル数)/(原料ガス中のエチレンのモル数)]×100 ・・・(6)
【0050】
選択率(%)=[(エチレンオキシドに変化したエチレンのモル数)/(反応したエチレンのモル数)]×100 ・・・(7)
(実施例1)
α−アルミナを主成分とする担体(8mmリング、嵩密度:0.72kg/L、吸水率:41.1%、比表面積:1.37m2/g)4Lに対し、4Lの蒸留水を用いた30分間以上の煮沸処理を3回繰り返した。その後、120℃に保温した乾燥機中で充分に乾燥した。
【0051】
一方、修酸銀520gを含む水スラリー(水スラリー中の水の含有量:150g)に水100mL、および3.7gの硝酸セシウムを水250mLに溶解した溶液を添加して、泥状にした。次いで、これにエチレンジアミン250mLを添加し、充分に撹拌し溶解させて、含浸溶液を調製した。
【0052】
得られた含浸溶液を予め約100℃に加熱した担体A2000gに含浸させた。含浸は形状が円筒状で回転、揺動により混合が可能な容量10Lのブレンダー(内径20cm×長さ38cm、愛知電機製ロッキングミキサー)を用いて回転数8rpm、揺動数2spmで行った。次いで、加熱濃縮乾燥しブレンダーから取り出した含浸後の触媒を、熱風乾燥機を用いて空気気流中で400℃にて20分賦活化し、触媒前駆体を得た。得られた触媒前駆体を、外部から不活性ガスを導入可能なステンレス製密閉容器内に充填し、窒素ガスを送り込みながら電気炉中で触媒層温度530℃にて3時間高温加熱処理し、エチレンオキシド製造用触媒Aを調製した。この触媒の平均銀含有量は15.0重量%であり相対標準偏差は0.021であった。
【0053】
エチレンオキシド製造用触媒Aを、外部が加熱型の二重管式ステンレス製反応器に備えられた内径25mm、管長7500mmの反応管に充填して充填層を形成した。次いで、当該触媒層に、エチレン21容量%、酸素7.5容量%、二酸化炭素6.5容量%、残部がメタン、アルゴン、窒素、エタン等からなり(メタン50.5容量%、アルゴン12容量%、残余(窒素及びエタン等)2.5容量%)、さらに二塩化エチレン2.5容量ppmを含有する混合ガスを導入し、反応圧力からなる混合ガスを導入し、反応圧力2.0MPaG、空間速度5500hr−1の条件下にてエチレンオキシドを製造した。エチレンオキシド製造時の性能(初期性能)及び1年経過後の性能(寿命性能)を表1に示す。
(実施例2)
含浸をダブルコーン型の容量10Lのブレンダー(内径27cm×高さ41cm)を用いて回転数0.5rpmで行ったこと以外は実施例1と同様の手法に従ってエチレンオキシド製造用触媒Bを調製した。この触媒の平均銀含有量は15.0重量%であり相対標準偏差は0.093であった。また、エチレンオキシド製造用触媒Bを用いて、実施例1と同様の条件下にてエチレンオキシドを製造した。エチレンオキシド製造時の性能(初期性能)及び1年経過後の性能(寿命性能)を表1に示す。
(比較例1)
含浸を球状の容量10Lのブレンダー(内径27cm)を用いて回転数0.1rpmで行ったこと以外は実施例1と同様の手法に従ってエチレンオキシド製造用触媒aを調製した。この触媒の平均銀含有量は15.0重量%であり相対標準偏差は0.118であった。また、エチレンオキシド製造用触媒aを用いて、実施例1と同様の条件下にてエチレンオキシドを製造した。エチレンオキシド製造時の性能(初期性能)及び1年経過後の性能(寿命性能)を表1に示す。
【0054】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明は、エチレンオキシド選択性に優れ、高い選択率でエチレンオキシドを製造しうる
【0056】
エチレンオキシド製造用触媒および当該エチレンオキシド製造用触媒を用いたエチレンオキシドの製造方法を提供する。本発明の方法を用いれば、高い選択率を長期に維持できるため、生産規模が大きいエチレンオキシド製造において、原料エチレンの使用量が著しく節約され、莫大な経済的効果をもたらす。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
α−アルミナを主成分とする多孔質担体に銀および反応促進剤を含有してなる触媒であって、下記式(1)により求められる該触媒の各々の粒子に含まれる銀量の相対標準偏差が0.001以上、0.1以下であることを特徴とするエチレンを酸化してエチレンオキシドを製造するための触媒。
銀含有量の相対標準偏差 = 銀含有量の標準偏差/平均の銀含有量 ・・・(1)
ここで、銀含有量の標準偏差は下記式(2)で求められ、
【数1】


(但し、Nは銀含有量を測定した触媒の個数、Xnは各粒子の銀含有量を表す)であり、平均の銀含有量はN個の粒子の銀含有量の算術平均を表す。
【請求項2】
請求項1に記載のエチレンオキシド製造用触媒の存在下で、エチレンを分子状酸素含有により気相酸化する段階を有する、エチレンオキシドの製造方法。

【公開番号】特開2011−212614(P2011−212614A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−84467(P2010−84467)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】