説明

エチレンオキシド製造用触媒および該触媒を用いたエチレンオキシドの製造方法

【課題】高効率、高選択率でエチレンオキシドを製造でき、長期に使用できるエチレンオキシド製造用触媒を提供する。
【解決手段】α−アルミナを主成分とする担体に触媒成分を担持させてなるエチレンオキシド製造用触媒であって、前記担体として、あらかじめアルカリ金属を含浸させて乾燥させ、酸素濃度5体積%未満の不活性雰囲気中、400〜950℃で0.1〜10時間熱処理したアルカリ金属プレドープ担体を用いる、エチレンオキシド製造用触媒である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エチレンオキシド製造用触媒および該触媒を用いたエチレンオキシドの製造方法に関する。詳細には、本発明は、エチレンオキシド選択性に優れ、高い選択率でエチレンオキシドを製造しうる触媒およびこの触媒を用いたエチレンオキシドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エチレンを銀触媒の存在下で分子状酸素含有ガスにより接触気相酸化してエチレンオキシドを製造することは工業的に広く行われている。この接触気相酸化に用いる銀触媒については、その担体、担持方法、反応促進剤などに関し、多くの技術が提案されている。
【0003】
銀触媒の触媒活性、選択性および触媒寿命はすでに高いレベルに達しているが、なおこれらの触媒性能の向上が求められている。例えば選択率を例にとれば、エチレンオキシドの生産規模は大きいことから、選択率が僅か1%向上するだけでも、原料エチレンの使用量が著しく節約され、その経済的効果は大きい。また、実プラントでは運転可能な温度範囲に制限があり、反応時の温度上昇を抑制することで触媒のライフサイクルが長くなり、生産性が向上する。このような事情から、より優れた触媒性能を有する銀触媒の開発が当該技術分野の研究者の継続的なテーマとなっている。
【0004】
例えば、特許文献1には、多孔性担体をアルカリ金属化合物の溶液に含浸させ、熱処理したものに、銀などの触媒成分を担持させた触媒が開示されている。
【特許文献1】特開平9−150058号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記特許文献に記載の銀触媒では、触媒性能は依然として不充分であるという問題があった。
【0006】
そこで本発明は、高効率、高選択率でエチレンオキシドを製造しうる触媒およびこの触媒を用いたエチレンオキシドの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上述した課題を解決すべく鋭意研究を行った。その結果、アルカリ金属をプレドープした担体を用いる場合、アルカリ金属を担体に含浸させ乾燥させた後、不活性雰囲気中で熱処理することによって、エチレンオキシドを高効率、高選択率で製造でき、長期使用が可能なエチレンオキシド製造用触媒が提供されうることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は、α−アルミナを主成分とする担体に触媒成分を担持させてなるエチレンオキシド製造用触媒であって、前記担体として、あらかじめアルカリ金属を含浸させて乾燥させ、酸素濃度5体積%未満の不活性雰囲気中、400〜950℃で0.1〜10時間熱処理したアルカリ金属プレドープ担体を用いる、エチレンオキシド製造用触媒である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高効率、高選択率でエチレンオキシドを製造でき、長期に使用できるエチレンオキシド製造用触媒、およびこの触媒を用いたエチレンオキシドの製造方法が提供されうる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0011】
本発明の第1は、α−アルミナを主成分とする担体に触媒成分を担持させてなるエチレンオキシド製造用触媒であって、前記担体として、あらかじめアルカリ金属を含浸させて乾燥させ、酸素濃度5体積%未満の不活性雰囲気中、400〜950℃で0.1〜10時間熱処理したアルカリ金属プレドープ担体を用いる、エチレンオキシド製造用触媒である。本発明の触媒は、アルカリ金属をプレドープしなかった触媒と比較して、エチレンオキシド製造反応における初期選択率および寿命の改善が得られ、反応温度の上昇が抑制される。反応温度の上昇が抑制されると触媒を長期に利用できるため、触媒交換コストおよび操業ロスの減少により、経済性向上が期待できる。
【0012】
本発明のエチレンオキシド製造用触媒は、上述した通り、あらかじめアルカリ金属を含浸させて乾燥させ、酸素濃度5体積%未満の不活性雰囲気中で熱処理したアルカリ金属プレドープ担体を用いるものであればよく、その他の形態(担体の形状や触媒成分の具体的な形態など)は特に制限されない。
【0013】
担体の組成については、α−アルミナを主成分とすること以外は特に制限されない。ここで、担体が、「α−アルミナを主成分とする」とは、α−アルミナ以外に一部、γーアルミナ、非晶質アルミナなどの別の形態のアルミナを含んでもよいことを意味する。担体におけるアルミナの含有率は、担体の全質量100質量%に対して90質量%以上が好ましく、より好ましくは95質量%以上であり、さらに好ましくは98質量%以上である。α−アルミナを主成分とするものであればその他の組成は特に制限されないが、担体は、例えばアルカリ金属またはアルカリ土類金属の酸化物や遷移金属の酸化物を含有しうる。これらの含有率についても特に制限はないが、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の酸化物の含有率は、担体の質量に対して、酸化物換算で好ましくは0.001〜5質量%であり、より好ましくは0.01〜4質量%である。また、遷移金属の酸化物の含有率は、担体の質量に対して、酸化物換算で好ましくは0.001〜5質量%であり、より好ましくは0.01〜3質量%である。
【0014】
担体はまた、シリカ(二酸化ケイ素)を通常含有する。担体におけるシリカの含有率についても特に制限はないが、担体の質量に対して、好ましくは0.01〜10.0質量%であり、より好ましくは0.1〜5.0質量%であり、さらに好ましくは0.2〜3.0質量%である。
【0015】
なお、上述した担体の組成や各成分の含有率は、蛍光X線分析法を用いて決定されうる。
【0016】
担体の形状は特に制限されず、リング状、球状、円柱状、ラシヒリング状、サドルリング状など粒状のほか、従来公知の知見が適宜参照されうる。また、担体のサイズ(平均相当直径)についても特に制限はなく、好ましくは0.1〜30mmであり、より好ましくは1〜15mmである。
【0017】
担体原料であるα−アルミナ粉体の粒径に関しても特に制限はないが、α−アルミナ粉体の一次粒子径は、好ましくは0.01〜100μmであり、より好ましくは0.1〜20μmであり、さらに好ましくは0.5〜10μmであり、特に好ましくは1〜5μmである。また、α−アルミナ粉体の二次粒子径は、好ましくは0.1〜1,000μmであり、より好ましくは1〜500μmであり、さらに好ましくは10〜200μmであり、特に好ましくは30〜100μmである。
【0018】
担体の比表面積についても特に制限はないが、好ましくは0.03〜10m/gであり、より好ましくは0.1〜5m/gであり、さらに好ましくは0.5〜2m/gである。担体の比表面積が0.03m/g以上であれば、吸水率が十分に確保され、触媒成分の担持が容易となる。一方、担体の比表面積が10m/g以下であれば、担体の細孔径がある程度大きい値に維持され、製造された触媒を用いたエチレンオキシド製造時のエチレンオキシドの逐次酸化が抑制されうる。なお、担体の比表面積の値としては、後述する実施例に記載の手法により得られる値を採用するものとする。
【0019】
担体の有する細孔のサイズも特に制限されないが、平均細孔直径は、好ましくは0.1〜5.0μmであり、より好ましくは0.1〜3.0μmであり、さらに好ましくは0.5〜2.0μmである。平均細孔直径が0.1μm以上であれば、エチレンオキシド製造時の生成ガスの滞留に伴うエチレンオキシドの逐次酸化が抑制されうる。一方、平均細孔直径が5.0μm以下であれば、担体の強度が実用的な程度に確保されうる。なお、平均細孔直径の値としては、後述する実施例に記載の手法により得られる値を採用するものとする。
【0020】
担体の気孔率も特に制限されないが、好ましくは20〜80%であり、より好ましくは30〜70%である。担体の気孔率が20%以上であれば、触媒成分の担持が容易となるという点で好ましい。一方、担体の気孔率が80%以下であれば、担体の強度が実用的な程度に確保されうるという点で好ましい。なお、気孔率の値としては、後述する実施例に記載の手法により得られる値を採用するものとする。
【0021】
担体の吸水率についても特に制限はないが、好ましくは10〜70%であり、より好ましくは20〜60%であり、さらに好ましくは30〜50%である。担体の吸水率が10%以上であれば、触媒成分の担持が容易となる。一方、担体の吸水率が70%以下であれば、担体の強度が実用的な程度に確保されうる。なお、担体の吸水率の値としては、後述する実施例に記載の手法により得られる値を採用するものとする。
【0022】
本発明の触媒においては、上述の担体に、アルカリ金属を含浸、乾燥後、酸素濃度5体積%未満の不活性雰囲気中で熱処理してプレドープさせたものを担体として用いる。アルカリ金属としては、例えば、リチウム、カリウム、ナトリウム、ルビジウム、セシウムなどが用いられ、好ましくはセシウム、リチウム、ナトリウムが用いられうる。2種類以上のアルカリ金属が用いられてもよい。
【0023】
本発明の触媒は、上述の担体に触媒成分として、好ましくは銀が担持されてなる構成を有する。そして、銀に加えて、好ましくは、反応促進剤として、上述のアルカリ金属の他に、レニウムを含有する。上述した以外の従来公知の成分がさらに用いられてもよい。銀の担持率については特に制限はなく、エチレンオキシドの製造に有効な量で担持すればよい。例えば、銀の担持率はエチレンオキシド製造用触媒の質量基準で1〜30質量%であり、好ましくは5〜20質量%である。レニウムの担持率は、触媒の質量基準で、好ましくは10〜2000質量ppmであり、より好ましくは50〜1000質量ppmであり、さらに好ましくは100〜500質量ppmである。
【0024】
本発明のエチレンオキシド製造用触媒は、上述した担体を使用する点を除けば、従来公知のエチレンオキシド製造用触媒の製造方法に従って調製されうる。
【0025】
担体の調製方法としては、次のような調製方法を採用することで、担体のサイズや物性が制御されうることが知られている。すなわち、1)α−アルミナを主成分とする母粉体に、所望のサイズおよび量の気孔形成剤を添加する方法、2)物性の異なる少なくとも2種の母粉体を所望の混合比で調合する方法、3)担体を所望の温度にて所望の時間焼成する方法、などが知られており、これらを組み合わせた手法も知られている。例えば、α−アルミナ粉体に、成型性を向上させる効果のある成型助剤や触媒の強度を向上させる補強剤やバインダー、触媒に細孔を形成させる気孔形成剤を添加して混合する。添加する物質としては、添加によって触媒性能に悪影響を及ぼさないものが好ましい。例えば、シリカ、アルミナ、ガラス繊維、炭化珪素、窒化珪素、グラファイトなどが添加されうる。必要によりエチレングリコール、グリセリン、プロピオン酸、マレイン酸、ベンジルアルコール、プロピルアルコール、ブチルアルコール、セルロース、メチルセルロース、でんぷん、ポリビニルアルコールまたはフェノール等の有機結合剤が加えられる。さらに水を加えてニーダなどの混練機を用いて十分に混合した後、押し出し成形などにより適当な金型を用いて所望の形状に成形、造粒し、乾燥した後焼成する。これらの調製方法については、例えば、「多孔質体の性質とその応用技術」竹内雍監修、株式会社フジ・テクノシステム発行(1999年)に記載されている。また、特開平5−329368号公報、特開2001−62291号公報、特開2002−136868号公報、特許第2983740号公報、特許第3256237号公報、特許第3295433号公報なども参照されうる。
【0026】
担体にアルカリ金属をプレドープするためには、例えば、アルカリ金属化合物の水溶液が用いられうる。リチウム、カリウム、ナトリウム、ルビジウム、セシウムなどのアルカリ金属は、例えば、塩類や錯体などのアルカリ金属化合物として用いられる。好ましくは、アルカリ金属の硝酸塩、炭酸塩、重炭酸塩、ハロゲン塩、亜硝酸塩、硫酸塩などの無機塩類、例えばギ酸塩などのカルボン酸塩および水酸化物が挙げられる。より好ましくは、水酸化物、硝酸塩、硫酸塩などが用いられうる。具体的には、硝酸セシウム、水酸化セシウム、塩化セシウム、炭酸セシウム、硫酸セシウム、硝酸リチウム、水酸化リチウム、塩化リチウム、炭酸リチウム、蓚酸リチウム、硫酸リチウム、ほう酸リチウム、硝酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、ほう酸ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸ルビジウム等が例示できる。2種類以上のアルカリ金属化合物が併用されてもよい。上述のアルカリ金属化合物は、好ましくは水溶液として全量が溶解した状態で用いられるが、一部不溶であってもよい。必要に応じて、錯体を形成するための錯化剤をさらに添加してもよい。錯化剤としては、例えば、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、エチレンジアミン、プロピレンジアミンなどが用いられうる。とりわけ、エチレンジアミンが好適である。これらの錯化剤は、単独で使用してもよく、2種類以上併用してもよい。
【0027】
アルカリ金属を担体にプレドープするための含浸は公知の方法で実施できる。必要により、減圧、加熱、スプレー吹付けなどを併せ行なう。
【0028】
アルカリ金属をプレドープするための水溶液中のアルカリ金属濃度は、最終的に得られる触媒全量に対して、好ましくは1〜5000質量ppm、より好ましくは100〜4000質量ppm、さらに好ましくは500〜3000質量ppmの範囲でプレドープされるように選定される。2種類以上のアルカリ金属を用いる場合は、合計量が上述の範囲になるようにすることが好ましい。アルカリ金属としてリチウムを用いる場合、得られる触媒の全量に対して、好ましくは1〜2000質量ppm、より好ましくは1〜1000質量ppm、より好ましくは1〜500質量ppmの範囲でプレドープされる。セシウムは、得られる触媒の全量に対して、好ましくは100〜5000質量ppm、より好ましくは300〜4000質量ppmの範囲でプレドープされる。プレドープするアルカリ金属の量が最終的に得られる触媒全量に対して1〜5000質量ppmの範囲であれば、担体との相互作用が最適に制御されうる。また、上記範囲であれば、後述の銀などの触媒成分を担持させる段階で、銀やレニウムなどと共にさらにアルカリ金属を担持させる場合であっても、最終的にドープされるアルカリ金属の量が銀やレニウムの担持量と最適なバランスを保つことができる。
【0029】
その後、上述の担体を乾燥し、焼成(熱処理)する。乾燥は、空気、酸素、または不活性ガスの雰囲気中で行ってもよいが、好ましくは減圧下で乾燥させる。乾燥は、好ましくは、30〜200℃の温度で、より好ましくは50〜150℃の温度で行う。乾燥は、好ましくは、0.01〜10時間、より好ましくは0.05〜5時間程度行う。
【0030】
焼成は、酸素濃度5体積%未満の不活性雰囲気中で行われる工程を含むことが重要である。好ましくは、熱処理の際の酸素濃度は3体積%未満であり、より好ましくは1体積%未満である。本発明者らは、焼成雰囲気中の酸素濃度について検討した結果、焼成雰囲気中の酸素濃度が5体積%未満である場合、製造される触媒の活性および選択率が向上することを見出した。また、焼成雰囲気中の酸素濃度が5体積%未満の場合、製造される触媒中でアルカリ金属が高分散しているが、一方で酸素濃度が5体積%以上の場合、製造される触媒中にアルカリ金属が凝集している部分が存在することが、X線マイクロアナライザーによって確認された。上述のような酸素濃度5体積%未満の不活性雰囲気としては、好ましくは、窒素、ヘリウム、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気である。これらの不活性ガスは、好ましくは、10〜5000ml/minの気流として熱処理室に導入されうる。前記熱処温度は、400〜950℃であり、好ましくは450〜850℃であり、より好ましくは500〜800℃である。熱処理温度が400〜950℃の範囲であれば、担体とアルカリ金属との相互作用を最適化できるため、触媒の活性および選択率が向上しうる。熱処理時間は、0.1〜10時間であり、好ましくは0.1〜5時間である。熱処理時間が0.1〜10時間の範囲であれば、担体とアルカリ金属との相互作用を最適化できるため、触媒の活性および選択率が向上しうる。
【0031】
なお、焼成は、2段階以上行われてもよい。好ましくは、上述の乾燥段階で残った水分および錯化剤を十分に除去するための焼成の段階を行い、次いでアルカリ金属と担体との間に相互作用を持たせるための焼成の段階を行う。2段階以上行われる場合、アルカリ金属と担体との間に相互作用を持たせるための焼成の段階を、上記の条件で行う。
【0032】
2段階で焼成を行う場合、例えば、1段階目の焼成を60〜450℃、好ましくは100〜400℃、より好ましくは150〜350℃で行う。焼成温度が60℃以上であれば、残存する水や錯化剤を十分に除去することができ、450℃以下であれば、触媒の生産性の低下やコストの上昇を避けることができる。焼成時間は、好ましくは0.02〜10時間であり、より好ましくは0.05〜5時間であり、さらに好ましくは0.1〜3時間である。焼成時間が0.02時間以上であれば、残存する水や錯化剤を十分に除去できる。焼成時間が10時間以下であれば、触媒の生産性の低下やコストの上昇を避けることができる。また、焼成雰囲気としては、空気、酸素ガス、窒素などが好ましく、生産性およびコストの面から、空気が特に好ましい。2段階目の焼成は、1段階目の焼成の後、酸素濃度5体積%未満の不活性雰囲気中で行われる。好ましくは、酸素濃度は3体積%未満であり、より好ましくは1体積%未満である。前記熱処温度は、400〜950℃であり、より好ましくは450〜850℃であり、さらに好ましくは500〜800℃である。熱処理時間は、好ましくは0.1〜10時間であり、より好ましくは0.1〜5時間である。
【0033】
次いで、アルカリ金属をプレドープした担体に銀を担持させるための溶液を調製する。具体的には、銀化合物を単独で、または銀錯体を形成するための錯化剤とともに、水などの溶媒に添加する。さらに銀に加えて、好ましくは、アルカリ金属化合物またはレニウム化合物の少なくとも一方、特にレニウム化合物を用いることが好ましい。
【0034】
ここで、銀化合物としては、例えば、硝酸銀、炭酸銀、シュウ酸銀、酢酸銀、プロピオン酸銀、乳酸銀、クエン酸銀、ネオデカン酸銀などが挙げられる。また、錯化剤としては、例えば、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、エチレンジアミン、プロピレンジアミンなどが挙げられる。これらの銀化合物や錯化剤は、それぞれ、1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。
【0035】
アルカリ金属化合物としては、上記と同様の化合物が用いられうる。レニウム化合物としては、例えば、過レニウム酸アンモニウム、過レニウム酸ナトリウム、過レニウム酸カリウム、過レニウム酸、塩化レニウム、酸化レニウムなどが挙げられる。錯化剤は、上記と同様のものが用いられうる。
【0036】
次いで、上記で得られた溶液を、同じく上記で準備した担体に含浸させる。この際、上術のレニウム化合物またはアルカリ金属化合物は、上記の銀化合物溶液に溶解させて同時に含浸させてもよいし、銀を担持した後に担持してもよい。
【0037】
続いて、これを乾燥し、焼成する。乾燥は、空気、酸素、または不活性ガス(例えば、窒素)の雰囲気で行ってもよいが、好ましくは減圧下で乾燥させる。乾燥は、例えば、30〜200℃の温度範囲で実施でき、50〜150℃の温度で行うことが好ましい。また、乾燥は、好ましくは0.01〜10時間行う。また、焼成は、空気、酸素、または不活性ガス(例えば、窒素)の雰囲気中で、150〜700℃の温度で、好ましくは200〜600℃の温度で行うことが好ましい。なお、焼成は、1段階のみ行われてもよいし、2段階以上行われてもよい。好ましい焼成条件としては、1段階目の焼成を空気雰囲気中で150〜250℃にて0.1〜10時間行い、2段階目の焼成を空気雰囲気中で250〜450℃にて0.1〜10時間行う条件が挙げられる。さらに好ましくは、かような2段階焼成後にさらに、不活性ガス(例えば、窒素、ヘリウム、アルゴンなど)雰囲気中で450〜700℃にて0.1〜10時間、3段階目の焼成を行うとよい。
【0038】
なお、触媒性能は、アルカリ金属の状態や担体にも大きく依存しており、例えば、触媒中の水溶性アルカリ金属の量、触媒に固定化されたアルカリ金属の量、アルカリ金属の分散状態、担体物性の影響を受ける。α−アルミナを主成分とする担体の比表面積に対する触媒中の水溶性セシウム量の比は、好ましくは100〜2000質量ppm・g/mであり、より好ましくは200〜1000質量ppm・g/mであり、さらに好ましくは400〜700質量ppm・g/mである。α−アルミナを主成分とする担体の比表面積に対する触媒中の水溶性セシウム量の比が100〜2000質量ppm・g/mの範囲であれば、触媒の活性および選択率が向上しうる。α−アルミナを主成分とする担体の比表面積に対する触媒中の水溶性セシウム量の比は、例えば、仕込みのセシウム量や用いる担体を選択することによって調整されうるが、必要に応じて不活性雰囲気中での熱処理を施してもよい。
【0039】
触媒中の水溶性セシウム量は、触媒を沸騰水で洗浄した後、その洗浄液に含まれるセシウムを既知の原子吸光やイオンクロマトグラフィーなどの方法で得ることができる。また、触媒に固定化されたセシウム量は、原料として用いたセシウム量から、触媒調製工程でのロス分と触媒中の水溶性セシウム量を差し引いて算出することができる。
【0040】
本発明の第2は、本発明の第1のエチレンオキシド製造用触媒の存在下で、エチレンを分子状酸素含有ガスにより気相酸化する段階を有する、エチレンオキシドの製造方法である。
【0041】
本発明の第2のエチレンオキシドの製造方法は、触媒として本発明の第1のエチレンオキシド製造用触媒を使用する点を除けば、常法に従って行われうる。
【0042】
例えば、工業的製造規模における一般的な条件、すなわち反応温度150〜300℃、好ましくは180〜280℃、反応圧力0.1〜4.0MPa、好ましくは1.0〜3.0MPa、空間速度1,000〜30,000hr−1(STP)、好ましくは3,000〜8,000hr−1(STP)が採用される。触媒に接触させる原料ガスとしては、エチレン0.5〜40容量%、酸素3〜10容量%、炭酸ガス1〜20容量%、残部の窒素、アルゴン、水蒸気等の不活性ガスおよびメタン、エタン等の低級炭化水素類からなり、さらに反応抑制剤としての二塩化エチレン、塩化ジフェニル等のハロゲン化物を0.1〜10容量ppm含有するものが挙げられる。本発明の製造方法において使用される分子状酸素含有ガスとしては、空気、酸素および富化空気が挙げられる。
【実施例】
【0043】
本発明の効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。なお、本実施例において、各種パラメータの測定は以下の手法により行われた。
【0044】
<担体の平均細孔直径の測定>
水銀圧入法により測定した。具体的には、200℃にて少なくとも30分間脱気した担体をサンプルとし、測定装置としてオートポアIII9240W(株式会社島津製作所製)を用い、1.0〜6,000psiaの圧力範囲および60個の測定ポイントで平均細孔直径を得た。
【0045】
<担体中のシリカ含有率の測定>
後述する蛍光X線分析法により測定した。
【0046】
<担体の比表面積の測定>
担体を粉砕した後、0.85〜1.2mmの粒径に分級したもの約0.2gを正確に秤量した。秤量したサンプルを200℃にて少なくとも30分間脱気し、BET(Brunauer−Emmet−Teller)法により測定した。
【0047】
<担体の吸水率および気孔率の測定>
日本工業規格(JIS R 2205(1998年度))に記載の方法に準拠して、以下の手法により測定した。
【0048】
a)破砕前の担体を、120℃に保温した乾燥機中に入れ、恒量に達した際の重量を秤量した(乾燥重量:W1(g))。
【0049】
b)上記a)で秤量した担体を水中に沈めて30分間以上煮沸した後、室温の水中にて冷却し、飽水サンプルとした。この飽水サンプルの水中での重量を秤量した(飽水サンプル水中重量:S(g))。
【0050】
c)上記b)で得た飽水サンプルを水中から取り出し、湿布ですばやく表面を拭い、水滴を除去した後に秤量した(飽水サンプル重量:W2(g))。
【0051】
d)上記で得られたW1およびW2を用い、下記数式1に従って、吸水率を算出した。
【0052】
e)上記で得られたW1、W2およびSを用い、下記数式2に従って、気孔率を算出した。
【0053】
【数1】

【0054】
<アルカリ金属、レニウム、銀の担持率の測定>
蛍光X線分析法を用いて行った。測定装置としてRIGAKU製RIX2000を用い、ファンダメンタルパラメータ法(FP法)にて測定した。
【0055】
<水溶性セシウム量の測定>
約5gの触媒を約100mlの水で約30分間煮沸した後、触媒と煮沸液を分離した。この操作を2回繰り返し、集めた煮沸液を室温まで冷却した。このセシウム含有水溶液をろ過した後、純水を加えて液量を200mlに調整した。この溶液を任意量取り、0.1%塩化カリウム水溶液を添加した後、純水を加えて5倍に希釈した。希釈した溶液を、島津製作所製原子吸光分光光度計AA−6650にて測定した。
【0056】
(実施例1)
はじめに、アルカリ金属のプレドープ工程を行った。具体的には、硝酸セシウム0.1282gを約30mlの水に溶解し、さらにエチレンジアミンを13.6ml加えた。この硝酸セシウム−エチレンジアミン水溶液をα−アルミナ担体104.4g(比表面積1.5m/g、SiO含有率0.7質量%、吸水率41.7%、平均細孔直径0.143μm、気孔率60.9%)に含浸した後、90℃で減圧乾燥した。これを空気気流中300℃で0.2時間熱処理(アルカリ金属プレドープ工程の1段階目焼成)し、さらに窒素気流中565℃で3時間熱処理(アルカリ金属プレドープ工程の2段階目焼成)し、セシウムプレドープ担体を得た。次いで、銀担持工程として、このセシウムプレドープ担体52.2gにシュウ酸銀20g、エチレンジアミン6.8ml、硝酸セシウム0.0534g、過レニウム酸アンモニウム0.0281g、および水10gからなる銀含有液を含浸させた後、90℃で減圧乾燥した。これを空気気流中200℃で0.2時間熱処理(触媒主成分担持工程の1段階目焼成)し、さらに空気気流中400℃で0.2時間熱処理(触媒主成分担持工程の2段階目焼成)して触媒Aを得た(表1)。触媒Aの銀含有率は14.8質量%であり、セシウム含有率は1330質量ppmであり、レニウム含有率は290質量ppmであった。水溶性セシウム量は940質量ppmであった。
【0057】
(実施例2)
硝酸セシウム0.3845gを約30mlの水に溶解し、さらにエチレンジアミンを13.6ml加えた。この硝酸セシウム−エチレンジアミン水溶液を実施例1と同様のα−アルミナ担体104.4gに含浸した後、90℃で減圧乾燥した。これを空気気流中300℃で0.2時間熱処理(アルカリ金属プレドープ工程の1段階目焼成)し、さらに窒素気流中620℃で3時間熱処理(アルカリ金属プレドープ工程の2段階目焼成)し、セシウムプレドープ担体を得た。このセシウムプレドープ担体を52.2gにシュウ酸銀20g、エチレンジアミン6.8ml、過レニウム酸アンモニウム0.0281g、および水10gからなる銀含有液を含浸させた後、90℃で減圧乾燥した。これを空気気流中200℃で0.2時間熱処理(触媒主成分担持工程の1段階目焼成)し、さらに空気気流中400℃で0.2時間熱処理(触媒主成分担持工程の2段階目焼成)した後、窒素気流中565℃で3時間熱処理(触媒主成分担持工程の3段階目焼成)して触媒Bを得た。触媒Bの銀含有率は14.8質量%であり、セシウム含有率は2180質量ppmであり、レニウム含有率は290質量ppmであった。水溶性セシウム量は690質量ppmであった。
【0058】
(実施例3)
プレドープする硝酸セシウムを0.3418gに変更したこと以外は、上記の実施例2と同様の手法に従って触媒Cを得た。触媒Cの銀含有率は14.8質量%であり、セシウム含有率は1940質量ppmであり、レニウム含有率は290質量ppmであった。水溶性セシウム量は720質量ppmであった。
【0059】
(実施例4)
実施例3と同様の方法で得たセシウムプレドープ担体52.2gにシュウ酸銀20g、エチレンジアミン6.8ml、硝酸セシウム0.0214g、過レニウム酸アンモニウム0.0281g、および水10gからなる銀含有液を含浸させた後、90℃で減圧乾燥した。これを空気気流中200℃で0.2時間熱処理(触媒主成分担持工程の1段階目焼成)し、さらに空気気流中400℃で0.2時間熱処理(触媒主成分担持工程の2段階目焼成)した後、窒素気流中565℃で3時間熱処理(触媒主成分担持工程の3段階目焼成)して触媒Dを得た。触媒Dの銀含有率は14.8質量%であり、セシウム含有率は2180質量ppmであり、レニウム含有率は290質量ppmであった。水溶性セシウム量は830質量ppmであった。
【0060】
(実施例5)
アルカリ金属プレドープ工程の2段階目焼成の雰囲気を窒素/酸素 95.2/4.8(体積%)の混合雰囲気に変更したこと以外は、上記の実施例1と同様の手法に従って触媒Eを調製した。触媒Eの銀含有率は14.8質量%であり、セシウム含有率は1330質量ppmであり、レニウム含有率は290質量ppmであった。水溶性セシウム量は880質量ppmであった。
【0061】
(実施例6)
アルカリ金属プレドープ工程の2段階目焼成の温度を565℃から800℃に変更したこと以外は、上記の実施例1と同様の手法に従って触媒Fを調製した。触媒Fの銀含有率は14.8質量%であり、セシウム含有率は1330質量ppmであり、レニウム含有率は290質量ppmであった。水溶性セシウム量は750質量ppmであった。
【0062】
(実施例7)
硝酸セシウム0.2564g、硝酸ナトリウム0.0186gを約60mlの水に溶解させ、さらにエチレンジアミン27.2mlを加えた。この硝酸セシウム・硝酸ナトリウム−エチレンジアミン水溶液を実施例1と同様のα−アルミナ担体208.8gに含浸させた後、90℃で減圧乾燥させた。これを空気気流中300℃で0.2時間熱処理(アルカリ金属プレドープ工程の1段階目焼成)し、さらに窒素気流中565℃で3時間熱処理(アルカリ金属プレドープ工程の2段階目焼成)し、セシウム−ナトリウムプレドープ担体を得た。このセシウム−ナトリウムプレドープ担体に52.2gに、シュウ酸銀20g、エチレンジアミン6.8ml、硝酸セシウム0.0534g、過レニウム酸アンモニウム0.0281g、および水10gからなる銀含有液を含浸させた後、90℃で減圧乾燥させた。これを空気気流中200℃で0.2時間熱処理(触媒主成分担持工程の1段階目焼成)し、さらに空気気流中400℃で0.2時間熱処理(触媒主成分担持工程の2段階目焼成)して触媒Gを得た。触媒Gの銀含有率は、14.8質量%であり、セシウム含有率は1330質量ppmであり、ナトリウム含有率は20質量ppmであり、レニウム含有率は290質量ppmであった。水溶性セシウム量は920質量ppmであった。
【0063】
(実施例8)
硝酸リチウム0.1511gを約60mlの水に溶解し、さらにエチレンジアミン27.2mlを加えた。この硝酸リチウム−エチレンジアミン水溶液を実施例1と同様のα−アルミナ担体208.8gに含浸させた後、90℃で減圧乾燥した。これを空気気流中300℃で0.2時間熱処理(アルカリ金属プレドープ工程の1段階目焼成)し、さらに窒素気流中565℃で3時間熱処理(アルカリ金属プレドープ工程の2段階目焼成)し、リチウムプレドープ担体を得た。このリチウムプレドープ担体52.2gにシュウ酸銀20g、エチレンジアミン6.8ml、硝酸セシウム0.1645g、過レニウム酸アンモニウム0.0281g、および水10gからなる銀含有液を含浸させた後、90℃で減圧乾燥させた。これを空気気流中200℃で0.2時間熱処理(触媒主成分担持工程の1段階目焼成)し、さらに空気気流中400℃で0.2時間熱処理(触媒主成分担持工程の2段階目焼成)した後、窒素気流中565℃で3時間熱処理(触媒主成分担持工程の3段階目焼成)して触媒Hを得た。触媒Hの銀含有率は、14.8質量%であり、セシウム含有率は1860質量ppmであり、リチウム含有率は60質量ppmであり、レニウム含有率は290ppmであった。水溶性セシウム量は810質量ppmであった。
【0064】
(実施例9)
硝酸セシウム0.2564g、硝酸リチウム0.0151gを約60mlの水に溶解し、さらにエチレンジアミン27.2mlを加えた。この硝酸セシウム・硝酸リチウム−エチレンジアミン水溶液を実施例1と同様のα−アルミナ担体208.8gに含浸した後、90℃で減圧乾燥した。これを空気気流中300℃で0.2時間熱処理(アルカリ金属プレドープ工程の1段階目焼成)し、さらに窒素気流中565℃で3時間熱処理(アルカリ金属プレドープ工程の2段階目焼成)して、セシウム−リチウムプレドープ担体を得た。このセシウム−リチウムプレドープ担体52.2gにシュウ酸銀20g、エチレンジアミン6.8ml、硝酸セシウム0.0534g、過レニウム酸アンモニウム0.0281g、および水10gからなる銀含有液を含浸させた後、90℃で減圧乾燥させた。これを空気気流中200℃で0.2時間熱処理(触媒主成分担持工程の1段階目焼成)し、さらに空気気流中400℃で0.2時間熱処理(触媒主成分担持工程の2段階目焼成)して触媒Iを得た。触媒Iの銀含有率は14.8質量%であり、セシウム含有率は1330質量ppmであり、リチウム含有率は6質量ppmであり、レニウム含有率は290質量ppmであった。水溶性セシウム量は870質量ppmであった。
【0065】
(比較例1)
アルカリ金属プレドープ工程の2段階目焼成の雰囲気を窒素から空気に変更したこと以外は、上記の実施例1と同様の手法に従って触媒Jを得た。触媒Jの銀含有率は14.8質量%であり、セシウム含有率は1330質量ppmであり、レニウム含有率は290質量ppmであった。水溶性セシウム量は850質量ppmであった。
【0066】
(比較例2)
アルカリ金属プレドープ工程の2段階目焼成の温度を565℃から800℃に変更したこと以外は、上記の比較例1と同様の手法に従って触媒Kを調製した。触媒Kの銀含有率は、14.8質量%であり、セシウム含有率は1330質量ppmであり、レニウム含有率は290質量ppmであった。水溶性セシウム量は720質量ppmであった。
【0067】
(比較例3)
比較例2で得られた触媒Kをさらに窒素気流中565℃で3時間熱処理(触媒主成分担持工程の3段階目焼成)して触媒Lを得た。触媒Lの銀含有率は14.8質量%であり、セシウム含有率は1330質量ppmであり、レニウム含有率は290質量ppmであった。水溶性セシウム量は930質量ppmであった。
【0068】
(比較例4)
アルカリ金属プレドープ工程の2段階目焼成の雰囲気を、窒素から空気に変更したこと以外は、上記の実施例2と同様の手法に従って触媒Mを調製した。触媒Mの銀含有率は14.8質量%であり、セシウム含有率は2180質量ppmであり、レニウム含有率は290質量ppmであった。水溶性セシウム量は760質量ppmであった。
【0069】
(比較例5)
アルカリ金属プレドープ工程の2段階目焼成の温度を300℃としたこと以外は、上記の比較例1と同様の手法に従って、触媒Nを調製した。触媒Nの銀含有率は14.8質量%であり、セシウム含有率は1330質量ppmであり、レニウム含有率は290質量ppmであった。水溶性セシウム量は1070質量ppmであった。
【0070】
(比較例6)
アルカリ金属プレドープ工程の2段階目焼成の雰囲気を窒素に変更したこと以外は、上記の比較例5と同様の手法に従って、触媒Oを調製した。触媒Oの銀含有率は14.8質量%であり、セシウム含有率は1330質量ppmであり、レニウム含有率は290質量ppmであった。水溶性セシウム量は1040質量ppmであった。
【0071】
(比較例7)
硝酸セシウム0.2564g、硝酸リチウム0.0151gを約60mlの水に溶解し、さらにエチレンジアミン27.2mlを加えた。この硝酸セシウム・硝酸リチウム−エチレンジアミン水溶液を実施例1と同様のα−アルミナ担体208.8gに含浸した後、90℃で減圧乾燥させ、さらに200℃の窒素雰囲気のオーブンで0.2時間熱処理し、セシウム−リチウムプレドープ担体を得た。このセシウム−リチウムプレドープ担体52.2gに、シュウ酸銀20g、エチレンジアミン6.8ml、硝酸セシウム0.0534g、過レニウム酸アンモニウム0.0281g、および水10gからなる銀含有液を含浸させた後、90℃で減圧乾燥させた。これを空気気流中200℃で0.2時間熱処理(触媒主成分担持工程の1段階目焼成)し、さらに空気気流中400℃で0.2時間熱処理(触媒主成分担持工程の2段階目焼成)して触媒Pを調製した。触媒Pの銀含有率は14.8質量%であり、セシウム含有率は1330質量ppmであり、リチウム含有率は6質量ppmであり、レニウム含有率は290質量ppmであった。水溶性セシウム量は1120質量ppmであった。
【0072】
(比較例8)
実施例1と同様のα−アルミナ担体52.2gにシュウ酸銀20g、エチレンジアミン6.8ml、硝酸セシウム0.1645g、過レニウム酸アンモニウム0.0359g、および水10gからなる銀含有液を含浸させた後、90℃で減圧乾燥させた。これを空気気流中200℃で0.2時間熱処理し、さらに空気気流中400℃で0.2時間熱処理した後、窒素気流中565℃で3時間熱処理して触媒Qを得た。触媒Qの銀含有率は14.8質量%であり、セシウム含有率は1860質量ppmであり、レニウム含有率は370質量ppmであった。水溶性セシウム量は980質量ppmであった。
【0073】
<初期性能評価>
各実施例および各比較例において得られた触媒を、それぞれ850〜1180μmに粉砕した。粉砕した触媒3.00gを、それぞれ内径7.5mm、管長300mmの外部が加熱式の二重管式ステンレス製反応器に充填して充填層を形成した。次いで、当該充填層に、エチレン23.0容量%、酸素7.6容量%、二酸化炭素6.0容量%、残部がメタン、アルゴン、窒素、エタンからなり、さらに二塩化エチレン3.2ppmを含有する混合ガスを導入し、反応圧力0.1MPa、空間速度5500hr−1の条件下で、エチレン転化率が8容量%となるようにして反応を行った。下記数式3および数式4に従って、エチレンオキシド製造時の転化率(数式3)および選択率(数式4)を算出した。結果を下記の表1に示す。
【0074】
【数2】

【0075】
【表1】

【0076】
<寿命評価>
触媒BおよびQをそれぞれ600〜850μmに粉砕した。粉砕した触媒0.3gを同粒径の石英砂0.9gと混合し、それぞれ内径3mm、管長300mmの外部が加熱式の二重管式ステンレス製反応器に充填し、この充填層にエチレン23.0容量%、酸素7.6容量%、二酸化炭素6.0容量%、残部がメタン、アルゴン、窒素、エタンからなり、さらに二塩化エチレン3.2ppmを含有する混合ガスを導入し、反応圧力2.5MPa、空間速度22000hr−1の条件下で、エチレン転化率が8容量%となるようにして反応を行った。触媒1kgあたりの累積生産エチレンオキシド(EO)量が600kgおよび1100kgのときの性能を表2に示す。
【0077】
【表2】

【0078】
上記表1、表2に示す結果から、本発明によれば、選択性に優れ、長期間使用できるエチレンオキシド製造用触媒が提供されうる。そして、当該触媒を用いたエチレンオキシドの製造方法によれば、高収率でエチレンオキシドを製造することが可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
α−アルミナを主成分とする担体に触媒成分を担持させてなるエチレンオキシド製造用触媒であって、
前記担体として、あらかじめアルカリ金属を含浸させて乾燥させ、酸素濃度5体積%未満の不活性雰囲気中、400〜950℃で0.1〜10時間熱処理したアルカリ金属プレドープ担体を用いる、エチレンオキシド製造用触媒。
【請求項2】
前記α−アルミナを主成分とする担体の比表面積に対する触媒中の水溶性セシウム量の比が、100〜2000質量ppm・g/mである、請求項1に記載のエチレンオキシド製造用触媒。
【請求項3】
請求項1または2に記載のエチレンオキシド製造用触媒の存在下で、エチレンを分子状酸素含有ガスにより気相酸化する段階を有する、エチレンオキシドの製造方法。

【公開番号】特開2009−241002(P2009−241002A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−93171(P2008−93171)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】