説明

エチレンオキシド製造用触媒及びエチレンオキシドの製造方法

【課題】エチレンオキシド製造用触媒の製造において、銀触媒成分を担体に含浸させ、含水した状態で行う加熱処理について検討し、触媒安定性や初期の選択性の向上した触媒を得ることを目的とする。
【解決手段】銀系成分を含む溶液を担体に含浸して銀系成分含浸担体を得、次いで、この銀系成分含浸担体を、水蒸気及び酸素を含み、この酸素の含有割合が、全体に対して、0.2体積%以上7体積%以下である雰囲気下で焼成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エチレンオキシド製造用触媒及びエチレンオキシドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エチレンを分子状酸素により気相接触酸化して工業的にエチレンオキシドを製造する際に使用される触媒は銀触媒である。エチレンオキシドを効率よく生産するために、この銀触媒の改良の要請が強く、より高選択性、長寿命の触媒の出現が望まれている。このため、従来から種々の方法が提案されており、触媒の調製方法についても、種々の検討が行われている。
【0003】
例えば、特許文献1においては、銀触媒成分を担体に含浸後、不活性ガス雰囲気下で加熱処理する方法が記載されている。また、特許文献2や3においては、銀触媒成分を担体に含浸後、空気雰囲気下、又は水蒸気雰囲気下で加熱処理する方法が記載されている。さらに、特許文献4においては、銀触媒成分を担体に含浸後、不活性ガスと酸素との混合ガス雰囲気下で加熱処理する方法が記載されている。さらにまた、特許文献5においては、銀触媒成分を担体に含浸後、窒素ガス雰囲気下で加熱処理した後、水蒸気と酸素との混合ガス雰囲気下で加熱処理する方法が記載されている。
【0004】
【特許文献1】特表平10−510212号公報
【特許文献2】特開平09−150058号公報
【特許文献3】WO2007−116585号公報
【特許文献4】US2006−252639号公報
【特許文献5】US2007−225511号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、銀系成分を含む溶液を担体に含浸させて得られた銀系成分含浸担体を、空気等、酸素を含む雰囲気で加熱すると、詳細は不明だが、触媒の活性が低くなる傾向があるという問題点が生じる場合がある。
【0006】
一方、上記銀系成分含浸担体を不活性ガスの雰囲気下で加熱した場合、析出する銀系成分の粒子径が小さくなるものの、触媒のエチレンオキシド選択性が早くに低下する傾向があった。また、上記銀系成分含浸担体を不活性ガスの雰囲気下で加熱した後、追加で酸素を含有する方法で加熱する特許文献5に記載の方法の場合、加熱工程が2倍に増えてしまい、製造能力が半減してしまうこと、及び2度目の加熱工程においては高濃度の酸素が必要であること等の問題が生じる場合がある。さらに、触媒の選択性の安定性においても改善の余地がある。
【0007】
そこで、この発明は、エチレンオキシド製造用触媒の製造において、銀系成分を含む溶液を担体に含浸し、得られた銀系成分含浸担体を加熱する際、加熱工程を2回に増やすことなく、1回のままで、触媒の活性、選択性及びそれらの安定性が向上した触媒を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明は、銀系成分を含む溶液を担体に含浸して銀系成分含浸担体を得、次いで、この銀系成分含浸担体を、水蒸気及び酸素を含み、この酸素の含有割合が、全体に対して、0.2体積%以上7体積%以下である雰囲気下で焼成することにより、上記の課題を解決したのである。
【発明の効果】
【0009】
この発明において製造されるエチレンオキシド製造用触媒は、所定の銀系成分含浸担体を、所定量の水蒸気及び酸素を含む雰囲気下で焼成するので、析出する銀系成分の粒子径が適切な大きさとなり、触媒の安定性や初期の選択性が向上する。
また、上記銀系成分含浸担体の加熱工程は最低限の1回であり、焼成雰囲気の酸素濃度が0.2〜7体積%であるため、生産効率上、好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、この発明の実施形態について詳細に説明する。
この発明は、銀系成分を含む溶液を担体に含浸して銀系成分含浸担体を得、次いで、この銀系成分含浸担体を、水蒸気及び酸素を含む雰囲気で焼成する際、酸素の含有割合を全体に対して、0.2体積%以上7体積%以下である雰囲気下とすることを特徴とする、エチレンオキシド製造用触媒を提供することにある。さらに、当該エチレンオキシド製造用触媒を使用して、エチレンからエチレンオキシドを製造する方法を提供することである。
【0011】
(銀系成分)
この発明にかかるエチレンオキシド製造用触媒に使用される触媒成分は、銀を主成分とし、この銀に加え、セシウムを必須成分として含有する成分(以後、「銀系成分」と称する。)である。さらに、この銀系成分が、リチウム、レニウムを成分として含む場合、本発明が特に有効である。
【0012】
上記エチレンオキシド製造用触媒全体に対する、銀の含有量は、5〜40重量%が好ましく、8〜30重量%がさらに好ましい。5重量%より少ないと、活性が低くなる傾向がある。一方、40重量%より多いと、銀の担持工程を2回以上に分けて行う必要があり、また、触媒製造コストの面で不利になる傾向がある。
【0013】
銀を供与する化合物としては、酸化銀、硝酸銀、炭酸銀、シュウ酸銀等の各種化合物が使用できるが、これらの中でも、シュウ酸銀が特に好ましい。
【0014】
上記セシウムの含有量は、100〜10000重量ppmが好ましく、250〜3000重量ppmがより好ましく、500〜1500重量ppmが最適である。また、銀系成分を含浸する前に、必要なセシウム含有量の一部を、後述するような担体処理で担持してもよい。上記の範囲より少なすぎると、選択性が低下し、逆に上記の範囲より多すぎると、活性、選択性が低下する傾向がある。
【0015】
セシウムを供する化合物としては、水酸化物、硝酸塩、炭酸塩、酢酸塩、塩化物、酸化物、シュウ酸塩等の各種化合物を使用できる。これらの中でも、担体処理で使用する場合は、炭酸塩が好ましい。
【0016】
本発明は、リチウムが成分として含まれる場合、触媒性能が安定化して長寿命となるため、特に有効である。リチウムの含有量は、10〜10000重量ppmが好ましく、100〜2000重量ppmがより好ましく、250〜1000重量ppmが最適である。また、銀系成分を含浸する前に、必要なリチウム含有量の一部を、後述するような担体処理で担持してもよい。上記の範囲より少なすぎると、活性が低下し、逆に上記の範囲より多すぎると、選択性が低下する傾向がある。
【0017】
リチウムを供する化合物としては、水酸化物、硝酸塩、炭酸塩、酢酸塩、塩化物、酸化物、シュウ酸塩等の各種化合物を使用できる。これらの中でも、担体処理で使用する場合は、炭酸塩が好ましい。
【0018】
本発明においては、レニウムが成分として含まれる場合、触媒のエチレンオキシド選択性が向上するため特に有効である。レニウムの含有量は、10〜1000重量ppmが好ましく、50〜500重量ppmがより好ましい。上記の範囲より少なすぎると、より十分な選択性が得られ難い傾向があり、一方、上記範囲より多すぎると、かえって活性が低下する傾向がある。
【0019】
レニウムを供する化合物としては、過レニウム酸化合物、酸化レニウム、塩化レニウム等があげられ、これらの中でも、過レニウム酸アンモニウムが最適である。
【0020】
(含浸のための銀系成分含有溶液)
上記触媒成分を担体に担持する際、各成分が溶解しうる適当な溶媒に上記触媒成分を溶解させて、銀系成分含有溶液を調製し、使用される。この溶媒としては、取扱いの容易さから通常水が選択されるが、メタノール、エタノール等のアルコール類や水とアルコールの混合溶液も使用可能である。
【0021】
上記銀系成分含有溶液では、溶液中の銀濃度は高い方が、担体に含浸させた際の銀濃度が高くなるために好ましい。そのため、銀系成分が上記溶媒に溶解し易くなるように、錯体形成剤を使用する。錯体形成剤は、銀と錯体を形成しやすく、得られた錯体が上記溶媒に溶解し易い化合物が好ましい。
【0022】
このような錯体形成剤としては、アミン化合物等をあげることができる。このアミン化合物の具体例としては、アンモニア、ピリジン、アセトニトリル、ブチルアミン等の炭素数1〜6のモノアミン、エタノールアミン等の炭素数1〜6のアルカノールアミン、エチレンジアミン、1,3−プロパンジアミン等の炭素数1〜6のポリアミン等があげられ、これらの中でも、アンモニア、ピリジン、ブチルアミン、エタノールアミン、エチレンジアミン、1,3−プロパンジアミン等が好ましく、エチレンジアミン及び1,3−プロパンジアミンから選ばれる1種の使用、又は2種の混合使用がより好ましい。
【0023】
上記錯体形成剤の添加量は、上記銀系成分中の銀を錯体化させるために必要な量の105〜130モル%に加えるのが、反応性の面から好ましい。
【0024】
(多孔性担体)
上記の銀系成分含有溶液を含浸、すなわち担持させる担体としては、多孔性担体があげられる。この多孔性担体としては、α−アルミナ等のアルミナ、炭化珪素、チタニア、ジルコニア、マグネシア等の多孔性耐火物が挙げられる。そして、その中でも、主成分がα−アルミナであるものが特に好適である。さらに、この多孔性担体に、10重量%程度を上限としてシリカ成分を含有させたものでもよい。
【0025】
上記担体は、その諸物性によって、得られる触媒の触媒活性に大きな影響を与える場合がある。この担体の表面積は、0.1〜10m/gがよく、0.6〜5m/gが好ましく、0.8〜2m/gがさらに好ましい。上記範囲より小さいと、担持させる銀を高分散させることが困難となりやすく、活性が低下する可能性がある。一方、上記範囲より大きいと、細孔径が小さくなり、物質移動や放熱の面で不利になり、触媒性能が低下するおそれがある。
【0026】
また、上記触媒成分の含浸操作を容易にするという点で、上記担体の吸水率が好ましくは20〜60重量%、更に好ましくは25〜50重量%であるものが望ましい。上記範囲より小さいと、一度に担持できる金属量が少なくなり、後述する含浸工程の回数が増加するおそれがある。一方、上記範囲より大きいと、要求される表面積を保持できないおそれがある。
【0027】
(担体処理工程)
上記担体には、そのまま上記銀系成分含有溶液を含浸させてもよいが、上記銀系成分含有溶液を含浸させる前に、触媒成分の一部であるリチウム、又はリチウム及びセシウムを担体に担持させる(担体処理)と、触媒の寿命向上につながり、好ましい。
【0028】
上記担体処理に使用するリチウム化合物、セシウム化合物は、上記銀系成分含有溶液を担体に含浸する際、再溶出を防ぐ目的で、銀系成分含有溶液への溶解度が低いものが好ましい。具体的には、リチウム化合物、セシウム化合物は、いずれも炭酸塩であることが最適である。また、リチウム化合物、セシウム化合物を溶解する溶媒としては、取扱いの容易さから水が好ましい。
【0029】
上記の担体処理工程を行った後、多孔性担体と余剰のリチウム化合物とセシウム化合物の含有溶液を分離し、その後、減圧乾燥や、加熱処理等の乾燥処理が行われる。この加熱処理は、好ましくは100〜300℃、更に好ましくは130〜200℃での空気、窒素等の不活性ガス、過熱水蒸気を利用して行う。特に好ましいのは過熱水蒸気を利用する方法である。
【0030】
(銀系成分担持工程)
上記銀系成分担持工程とは、上記銀系成分含有溶液を担体あるいは担体処理を施した担体に含浸させ(銀系成分含浸工程)、次いで、水蒸気及び酸素を含み、かつ、酸素濃度が0.2〜7体積%の雰囲気下で加熱する(焼成工程)両工程を含む工程である。この酸素濃度で加熱することによって、加熱工程が1回のままで、触媒の活性、選択性及びそれらの安定性が向上する。この理由は詳細は不明だが、析出する金属銀の粒子径が適度な大きさとなったためと考えることができる。
【0031】
上記銀系成分含浸工程としては、担体あるいは担体処理を施した担体に銀系成分含有溶液を浸漬する方法や、スプレー吹き付けする方法があげられる。さらに、必要に応じて、減圧処理を組み合わせることも可能である。この銀系成分含浸工程によって、銀系成分含浸担体が得られる。
【0032】
上記焼成工程における雰囲気の酸素濃度は、下限は0.2体積%以上が好ましく、0.5体積%以上がより好ましい。酸素濃度が0.2体積%より低いと、効果が不十分となる。これは、析出金属銀の粒子が小さすぎるためと考えられる。一方、酸素濃度の上限は7体積%以下が好ましく、5体積%以下がより好ましい。酸素濃度が7体積%より高くなると、触媒活性が低下してしまうおそれがある。
【0033】
上記焼成工程における雰囲気の水蒸気濃度は、下限は60体積%以上が好ましく、80体積%以上がより好ましい。一方、水蒸気濃度の上限は、98.5体積%以下が好ましく、96.5体積%以下がより好ましい。水蒸気を酸素と共存させることで、詳細は不明だが、触媒性能の安定性が向上するものと考えられる。
【0034】
なお、水蒸気及び酸素を含む雰囲気には、水蒸気や酸素以外に、窒素等の不活性ガスを含有させてもよい。その含有量は、上記酸素濃度、及び必要に応じ、上記水蒸気濃度の範囲を満たせば、特に限定されない。そのため、酸素源としては、高純度酸素又は空気が使用できるが、安全性及び経済性の観点から空気の方が好ましい。
【0035】
酸素濃度の測定は、酸素計又はガスクロマトグラフを使って実施することが可能である。後述するように、焼成工程の雰囲気が酸素又は空気と水蒸気との混合の場合は、雰囲気ガスをサンプリングし、冷却によって水蒸気を液化することで、残った気相部体積と冷却前の体積比から、酸素又は空気の焼成雰囲気中の濃度を求めることが簡便である。
【0036】
上記焼成工程の温度、時間は、析出する銀粒子の大きさが適当となるように選択される。特に、焼成温度が析出する銀粒子の大きさに大きく影響する。焼成温度は、下限は175℃以上であり、200℃以上が好ましく、260℃以上が最適である。焼成温度が175℃より低いと効果が不十分である。これは析出する金属銀の粒子が小さすぎるためと考えられる。一方、焼成温度の上限は、400℃以下であり、350℃以下が好ましく、325℃以下が最適である。焼成温度が400℃より高くなると、触媒活性が低下する傾向がある。これは、析出する金属銀の粒子が大きくなりすぎたためと考えられる。
焼成工程の時間は、5〜60分間が一般的であり、10〜30分間が好ましい。
【0037】
焼成工程で使用する装置では、雰囲気ガスである水蒸気と酸素又は空気を、所定量、連続供給し、装置外に排気する。環境、再使用等の観点から、装置外に排出するのは、雰囲気ガスの一部とし、残りを循環させるのが好ましい。雰囲気ガスの排気割合は、5〜30%が最適である。
【0038】
上記焼成工程において、ガス線速は、0.5〜5m/secが好ましく、1〜3m/secがより好ましい。ガス線速が上記範囲より小さい場合、含浸担体に含まれる水分や錯体形成剤又はその分解物が十分に除去されない場合がある。一方、上記範囲より大きい場合は、ガス線速を増大させたことによる効果はほとんどないことから、5m/sec程度で十分である。
【0039】
工業的には、銀系成分含浸担体は、焼成装置に連続的に供給され、一定時間装置内に滞留し、装置外に排出されるのが好ましい。装置としては、銀系成分含浸担体を水平に移動するバンドに積載し移動させて加熱するもの(バンド乾燥機)、又は傾斜回転円筒内に積載し、斜め下方に移動させて加熱するもの(回転乾燥機)があげられる(「化学工学便覧(改訂5版)」1988年、(社)化学工学協会編、丸善(株)、昭和63年3月18日発行、p674〜683)。これらのうち、含浸担体と雰囲気ガスとの接触の容易さから、加熱した雰囲気ガスを通気させるバンド乾燥機(通気バンド乾燥機)を使用するのが好ましい。
【0040】
(この発明にかかるエチレンオキシド製造用触媒を用いた反応)
この発明にかかるエチレンオキシド製造用触媒を用いて、エチレンをエチレンオキシドに転換する反応は、一般に知られた方法で実施できる。反応圧力は、通常、0.1〜3.6MPa(0〜35kg/cmG)であり、反応温度は、通常、180〜350℃、好ましくは200〜300℃である。反応原料ガスの組成は、一般に、エチレンが1〜40容量%、分子状酸素が1〜20容量%の混合ガスが用いられ、また、一般に希釈剤、例えばメタンや窒素等の不活性ガスを一定割合、例えば1〜70容量%で存在させることができる。分子状酸素含有ガスとしては、通常、空気あるいは工業用酸素が用いられる。更に、反応改変剤として、例えばハロゲン化炭化水素を0.1〜50ppm程度、反応原料ガスに加えることにより触媒中のホットスポットの形成を防止でき、且つ触媒の性能、殊に触媒選択性を大幅に改善させることができる。
【実施例】
【0041】
以下に実施例を用いて本発明を更に具体的に説明する。まず、各種測定方法について、説明する。
(1)酸素濃度測定
焼成工程中の雰囲気ガス中の酸素濃度は、酸素計を雰囲気ガスが銀系成分含浸担体に接触する箇所の上流側に設置し、測定した。酸素計には、横河電機(株)製:「限界電流式酸素濃度計OX102」、又は「限界電流式酸素濃度計OX100」を使用した。焼成温度が当該酸素計の測定可能範囲(上限:250℃)より高い場合は、250℃で目標とする酸素濃度となるように空気流量を調節し、その後、目標とする焼成温度まで昇温した。
【0042】
(2)活性の測定
活性は、触媒1リットル、1時間当たりのエチレンオキシド生産量が、STY=0.25kg−EO/L−cat・hとなるように反応温度を調整したときの反応温度で示す。触媒活性が低下し、生産量がその反応温度でSTYを維持できない場合、反応温度を上昇させ、STYを維持できるようにする。
【0043】
(3)選択性の測定
選択性は、エチレン基準、すなわち、消費したエチレンのモル数に対する生成したエチレンオキシドのモル数の割合で示した。
【0044】
(4)累積エチレンオキシド(累積EO)の算出
評価期間の目安として、累積EOを示した。累積EOとは、触媒1LあたりのEO生産量の合計(kg−EO/L−cat)であり、STY(触媒1L、1hあたりのEO生産量:kg−EO/h・L−cat)と評価期間(h)から算出される。
【0045】
(5)選択性の低下速度の測定
触媒の性能安定性を比較するために、選択性の低下速度として、累積EO 100kg−EO/L−catあたりの選択性低下速度(%/(EO 100kg−EO/L−cat))を示した。
【0046】
[実施例1]
(担体の前処理)
α‐アルミナ担体(表面積1.1m/g、吸水率30.9重量%、SiO 3.1重量%、NaO 0.23重量%、SiO/NaO重量比14、形状8mmφ×8mmのリング状)100gを、炭酸セシウム(CsCO)0.180gと炭酸リチウム(LiCO)1.96gとが溶解した水溶液200mlに浸漬させ、余分な液を切り、次いで、これを150℃の過熱水蒸気にて15分間、2m/秒の流速で加熱乾燥し、リチウムとセシウム成分を担持した。
【0047】
(銀系成分及び錯体形成剤を含む水溶液の調製)
硝酸銀(AgNO)322gとシュウ酸カリウム一水和物(K・HO)187gを各々1.4L、1.6Lの水に溶解した後、湯浴中で60℃に加温しながら徐々に混合し、シュウ酸銀(AgC)の白色沈殿を得た。濾過により沈殿物を回収し、蒸留水により洗浄し、結晶水を有するシュウ酸銀(含水率19.8重量%)を得た。こうして得た結晶水含有シュウ酸銀359gを、エチレンジアミン103g、1,3−ジアミノプロパン28.1g、及び水133gより成る水溶液に徐々に添加して溶解させ、銀錯体溶液を調製した。この銀錯体溶液の比重は、1.60g/mlであった。
【0048】
(銀錯体溶液の担体への含浸処理及び焼成処理)
上記で得た銀錯体溶液12.3gに、硝酸セシウム(CsNO)濃度5.25重量%の水溶液0.6ml、過レニウム酸アンモニウム(NHReO)濃度2.96重量%の水溶液0.6mlを添加し、銀系成分含有溶液を得た。
【0049】
こうして得た銀系成分含有溶液を、上記で得た前処理担体30gに、エバポレーター中で減圧下、40℃に加温し含浸した。この銀系成分含浸担体を、275℃の過熱水蒸気中、酸素濃度が0.9体積%になるように空気を導入した条件下、15分間、2m/secの流速で焼成し、触媒を得た。このとき、ガス雰囲気中の過熱水蒸気濃度は95.5体積%であった。得られた触媒における銀、セシウム、レニウム、リチウムの含有率(触媒基準)は、各々、10.9重量%、870重量ppm、340重量ppm、440重量ppmであった。銀含有率は、硝酸で銀を抽出し、電位差測定法で測定した。セシウム、レニウム、リチウムの含有率は、硝酸で上記の成分を抽出し、セシウム及びリチウムにおいては原子吸光法で測定し、レニウムにおいてはICP発光法で測定した。
【0050】
(エチレンオキシド(EO)の製造)
上記のように調製した銀触媒を6〜10メッシュに砕き、その3mlを内径7.5mmのSUS製反応管に充填し、反応ガス(エチレン30%、酸素8.5%、塩化ビニル1.5ppm、二酸化炭素6.0%、残り窒素)をGHSV4300hr−1、圧力0.7MPaGで流した。生成されたエチレンオキシド(EO)とその他のガスはガスクロマトグラフィーで分析した。反応結果を表1に示す。
【0051】
(結果)
触媒評価を開始すると、選択性は徐々に向上し、累積EO 59kg−EO/L−catにおいて、最高選択性85.6%に到達、その後、選択性が徐々に低下し、累積EO 151kg−EO/L−catでは、選択性84.6%まで低下した。そのときの選択性の低下速度は、1.1%/(EO 100kg−EO/L−cat)であった。
【0052】
[実施例2]
銀系成分含浸担体の焼成温度を275℃から300℃に変更したこと以外は実施例1と同様に銀触媒を調製し、エチレンオキシドの製造を行った。その結果を表1に示す。
【0053】
[実施例3]
銀系成分含浸担体の焼成温度を275℃から250℃に変更したこと以外は実施例1と同様に銀触媒を調製し、エチレンオキシドの製造を行った。その結果を表1に示す。
【0054】
[実施例4]
過熱水蒸気中、酸素濃度が3.0体積%(水蒸気濃度85.0体積%)となるように空気を導入したこと以外は実施例3と同様に銀触媒を調製し、エチレンオキシドの製造を行った。その結果を表1に示す。
【0055】
[実施例5]
過熱水蒸気中、酸素濃度が0.45体積%(水蒸気濃度97.7体積%)となるように空気を導入したこと以外は実施例3と同様に銀触媒を調製し、エチレンオキシドの製造を行った。その結果を表1に示す。
【0056】
[実施例6]
銀系成分含浸担体の焼成温度を275℃から200℃に変更したこと以外は実施例1と同様に銀触媒を調製し、エチレンオキシドの製造を行った。その結果を表1に示す。
【0057】
[比較例1]
過熱水蒸気中、酸素濃度が0.08体積%(水蒸気濃度99.6体積%)となるように空気を導入したこと以外は実施例3と同様に銀触媒を調製し、エチレンオキシドの製造を行った。その結果を表1に示す。
【0058】
[比較例2]
過熱水蒸気中、酸素濃度が0.08体積%(水蒸気濃度99.6体積%)となるように空気を導入したこと以外は実施例6と同様に銀触媒を調製し、エチレンオキシドの製造を行った。その結果を表1に示す。
【0059】
[比較例3]
過熱水蒸気中、酸素濃度が11体積%(水蒸気濃度45体積%)となるように空気を導入したこと以外は実施例1と同様に銀触媒を調製し、エチレンオキシドの製造を行った。その結果を表1に示す。
【0060】
[比較例4]
過熱水蒸気中、酸素濃度が18体積%(水蒸気濃度13.0体積%)となるように空気を導入したこと以外は実施例1と同様に銀触媒を調製し、エチレンオキシドの製造を行った。その結果を表1に示す。
【0061】
[比較例5]
銀系成分含浸担体の焼成において、過熱水蒸気を導入せず、空気のみを導入したガス雰囲気下としたこと以外は実施例3と同様に銀触媒を調製し、エチレンオキシドの製造を行った。その結果を表1に示す。
【0062】
[比較例6]
銀系成分の含浸を行った後、水蒸気と酸素含有ガスで焼成する前に、いったん過熱水蒸気のみで200℃、15分間乾燥を行ったこと以外は実施例1と同様に銀触媒を調製し、エチレンオキシドの製造を行った。その結果を表1に示す。
【0063】
[比較例7]
銀系成分の含浸を行った後、水蒸気と酸素含有ガスで焼成する前に、いったん過熱水蒸気のみで200℃、15分間乾燥を行ったこと以外は実施例3と同様に銀触媒を調製し、エチレンオキシドの製造を行った。その結果を表1に示す。
【0064】
【表1】

【0065】
(結果)
実施例1〜6では、酸素濃度0.45〜3体積%で焼成を行った結果、最高選択性84.7〜85.6%、選択性の低下速度は、1.1〜2.4%/(EO 100kg−EO/L−cat)であった。
酸素濃度が上記範囲より低い0.08体積%の場合(比較例1、2)、最高選択性は85.6〜86.0%と同等であったが、選択性の低下速度は、7.1〜8.2%/(EO 100kg−EO/L−cat)と急激に大きくなった。
【0066】
一方、酸素濃度が上記範囲より高い11,18体積%の場合(比較例3,4)も、最高選択性は84.2〜85.6%と同等であったが、選択性の低下速度は、3.7〜4.3%/(EO 100kg−EO/L−cat)と大きくなった。
さらに、酸素濃度が高い21体積%(比較例5)では、活性が低く、劣化速度が大きいため、目標STYに到達できなかった。
以上より、酸素濃度0.45〜3体積%で焼成を行うことで(実施例1〜6)、触媒の寿命が安定化したことがわかる。
【0067】
実施例1〜6では、銀系成分含浸担体を水蒸気、酸素の雰囲気で焼成したが、それに対して比較例6,7では、銀系成分含浸担体を過熱水蒸気で焼成した後、追加で水蒸気、酸素の雰囲気で焼成した。過熱水蒸気で一度焼成した比較例6,7では、最高選択性が80%程度と低い値しか示さなかった。
【0068】
[実施例7]
実施例2と同様な触媒を用いて、塩化ビニル濃度1.5ppmで反応を開始し、その後、選択性が高くなるように塩化ビニル濃度を変更して評価を行った。結果を表2に示す。
【0069】
[実施例8]
担体処理を、炭酸セシウムと炭酸リチウムの混合溶液から、炭酸リチウム溶液に変更した以外は、実施例1と同様にして触媒を調製し、それ以外は実施例7と同様に塩化ビニル濃度を最適化して評価を行った。得られた触媒における銀、セシウム、レニウム、リチウムの含有率(触媒基準)は、各々、10.9重量%、670重量ppm、340重量ppm、440重量ppmであった。結果を表2に示す。
【0070】
[比較例8]
比較例2と同様な触媒を用いて、それ以外は実施例7と同様に塩化ビニル濃度を最適化して評価を行った。結果を表2に示す。
【0071】
【表2】

【0072】
(結果)
実施例7と比較例8との比較より、焼成時の酸素濃度が0.08体積%と低くなると、最高選択性は若干高くなる(+1.7%)が、選択性の低下速度が約6倍も大きくなることがわかる。すなわち、塩化ビニルを最適化して評価を行っても、塩化ビニル濃度一定で評価した場合と同様な結果であることが確認される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銀系成分を含む溶液を担体に含浸して銀系成分含浸担体を得、次いで、この銀系成分含浸担体を、水蒸気及び酸素を含み、この酸素の含有割合が、全体に対して、0.2体積%以上7体積%以下である雰囲気下で焼成することにより得られる、エチレンオキシド製造用触媒。
【請求項2】
上記焼成の温度が175℃以上400℃以下である請求項1に記載のエチレンオキシド製造用触媒。
【請求項3】
上記水蒸気及び酸素を含む雰囲気における、水蒸気の含有割合は、60体積%以上98.5体積%以下である請求項1又は2に記載のエチレンオキシド製造用触媒。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れかに記載のエチレンオキシド製造用触媒を使用してエチレンからエチレンオキシドを製造するエチレンオキシドの製造方法。

【公開番号】特開2010−36104(P2010−36104A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−201641(P2008−201641)
【出願日】平成20年8月5日(2008.8.5)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】