説明

エチレンガス吸着剤、それを用いた食品保存剤、および食品保存方法

【課題】エチレンガスの吸着特性に優れたエチレンガス吸着剤を提供する。
【解決手段】エチレンガス吸着剤においては、窒素吸着法によって求めた比表面積をS1とし、二酸化炭素吸着法によって求めた比表面積をS2としたとき、S2/S1が1以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エチレンガス吸着剤、それを用いた食品保存剤、および食品保存方法に関する。
【背景技術】
【0002】
活性炭は、メタンやエタン、エチレンなどのガスを吸着する性質を有する。この性質を利用し、食品の保存にあたり、活性炭からなるガス吸着剤が開発され、広く利用されている。
活性炭は、スリット形状やV字状等のミクロ孔の内部に溜めるようにして、ガスを吸着することが知られている(例えば、非特許文献1)。このようなメカニズムに基づき、活性炭の改良検討では、ガス吸着面積を増大するという観点から、比表面積を増大させることが盛んに検討されている(非特許文献1および、特許文献の段落0002)。
【0003】
この比表面積を増大させるために従来行われてきた手法は、賦活処理である。特許文献1および非特許文献1には、比表面積を増大させることを目的として、通常の炭素材の炭素化処理に加えて、賦活処理を行うことが記載されている。同文献によれば、この賦活処理により、細孔を生成するとともに拡大させて、活性炭の比表面積を増大させることができると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−122608号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】「最新 吸着技術」、角田光雄 監修、総合技術センター発行、(1993)P.128−129、132−133
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の活性炭では、エチレンガスの吸着量を大幅に向上させるには限界があった。たとえば、果実等の食品の品質低下を抑制するために用いられるガス吸着剤には、低分圧のガスを吸着する高いガス吸着性能と、そのガス吸着性能を一定期間維持する性能が求められる。
しかし、従来の活性炭では、食品の品質低下を抑制できる程度に充分なエチレンガスの吸着量を達成することできなかった。また、エチレンガス吸着性能およびその経時変化について、製品間で大きくばらつくことがあり、改善の余地を有していた。
また、従来の活性炭の製造方法においては、所定のガス吸着性能を得るためには賦活処理が必須となる。この賦活処理が、工程の煩雑化をもたらすとともに、製品間の性能のばらつきを引き起こす要因となっていた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、
窒素吸着法によって求めた比表面積をS1とし、
二酸化炭素吸着法によって求めた比表面積をS2としたとき、
S2/S1が1以上である、エチレンガス吸着剤が提供される。
【0008】
本発明者らは、
(i)エチレン分子のサイズに合った大きさの細孔が存在すること、
(ii)このような大きさの細孔がどれくらい存在するかを示す指標を見出すこと、および、
(iii)そのような指標を適切な値に制御すること
によって、従来にないエチレンガス吸着特性を実現できると考えた。
本発明者らは、こうした指標として、
S2/S1を採用し、この値を、1以上に制御することで、従来にないエチレンガス吸着特性を実現できることを見出し本発明の完成に至ったものである。
【0009】
また、本発明によれば、上記エチレンガス吸着剤を含む、食品保存剤が提供される。
【0010】
また、本発明によれば、上記エチレンガス吸着剤とともに食品を包装する工程を含む、食品保存方法が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、エチレンガスの吸着特性に優れたエチレンガス吸着剤、それを用いた食品保存剤、および食品保存方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】一般的な多糖類の化学構造を示す図である。
【図2】エチレン吸着等温線の結果を示す図である。
【図3】各試料のエチレン吸着等温線の結果を示す図である。
【図4】各試料のエチレン吸着量を示す図である。
【図5】エチレン吸着量と炭素化収率の関係を示す図である。
【図6】窒素ガスおよび二酸化炭素ガスを用いた孔の評価方法を示す概念図である。
【図7】炭素化温度に対するエチレン吸着量と比表面積変化の関係を示す図である。
【図8】試料の加熱温度に対するIRスペクトル変化を示す図である。
【図9】セルロースの熱分解機構を示す図である。
【図10】炭素化温度に対するH/CおよびO/Cの原子比を示す図である。
【図11】本発明のエチレンガス吸着剤の推定される構造を示す図である。
【図12】エチレン吸着等温線の結果を示す図である。
【図13】エチレン吸着量と比表面積変化の関係を示す図である。
【図14】エチレン吸着等温線および二酸化炭素吸着等温線を示す図である。
【図15】エチレンガス吸着剤を用いた部材を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、エチレンガスを吸着するものである。エチレンは植物の呼吸を促進するホルモンとして作用し、農作物等の食品の腐敗や保存期間短縮の原因となる。本発明のエチレンガス吸着剤は、例えば、食品から発生するまたはその周囲に存在するエチレンガスを効率的に吸着することができる。このため、本発明のエチレンガス吸着剤を用いれば、食品の品質の劣化を抑制するとともに、食品を長期間保存することができる。
【0014】
本発明は、S1およびS2という2種類の比表面積の比によって特定される。すなわち、窒素吸着法によって求めた比表面積をS1とし、二酸化炭素吸着法によって求めた比表面積をS2としたとき、S2/S1が1以上である。
【0015】
窒素吸着法によって求めた比表面積S1(以下、窒素換算比表面積S1という)は、広い孔径分布を有する細孔の総数を反映するパラメータである。
【0016】
従来の活性炭では、比表面積の指標として、この窒素換算比表面積S1を制御している(非特許文献1および特許文献1)。同文献には、この窒素換算比表面積S1を増大させるには、賦活剤や賦活ガスを用いて賦活処理を行うことが記載されている。この賦活処理とともに炭素化処理を、炭素材に対して行うことにより、炭素化中に生じる空隙の孔径を一層広げることができる。したがって、従来の活性炭においては、このような賦活処理により、窒素換算比表面積S1を制御して、活性炭の大表面積化が行われている。
【0017】
しかし、本発明者らの検討によれば、従来の賦活処理により窒素換算比表面積S1を大きくしたとしても、活性炭において、エチレンガスの吸着量や吸着安定性等の吸着特性が一定程度までしか向上しないことが判明した。
【0018】
本発明者らがさらに検討した結果、二酸化炭素吸着法によって求めた比表面積S2(以下、二酸化炭素換算比表面積S2という)の増減の傾向が、エチレンガスの吸着量の増減の傾向とよく一致することを見出した。二酸化炭素換算比表面積S2の測定に用いる二酸化炭素ガスの動力学的分子径は、窒素ガスよりも小さい。このため、窒素ガスでは検出できないサイズの細孔を、二酸化炭素ガスにより検出できると考えられる。
上記実験事実に基づき、本発明者らは、次の仮説を立てた。
(1)エチレン分子を吸着させるのに適したサイズの細孔というものが存在する。
(2)上記(1)のサイズの細孔を増大させることでエチレンガス吸着性能を効果的に改善できる。
こうした仮説に基づき、本発明者らは、エチレン分子を吸着させるのに適したサイズの細孔がどれくらい存在するかを示す指標を見出し、その指標を適切な値に制御することを検討した。
【0019】
そして、種々の実験結果から、窒素換算比表面積S1と、二酸化炭素換算比表面積S2との比、S2/S1が、上記(2)の指標として適切であるとの結論を得た。すなわち、S2/S1を大きくすれば、エチレン分子を吸着させるのに適したサイズの細孔が増大するという関係を見出した。
ここで、「エチレン分子を吸着させるのに適したサイズ」とは、より熱力学的に安定な状態を実現するサイズということを意味している。すなわち、エチレン分子を吸着させるのに適したサイズの細孔内では、エチレンガスの吸着がしやすい傾向がある。
【0020】
以上のように、本発明においては、二酸化炭素換算比表面積S2/窒素換算比表面積S1(以下、S2/S1という)を採用し、原料および製法を適切に選択することにより、この比の値を1以上としている。これにより、エチレンガスの吸着特性に優れたエチレンガス吸着剤を得ることができる。
【0021】
これに対して、特許文献1や非特許文献1に記載の活性炭のS2/S1は、大きくとも0.5に止まり、本発明のものより大幅に下回る。
前述のとおり、従来の活性炭においては、ガスの吸着量を増大させるためには、賦活処理を用いて、比表面積の増大を図ることを最も重要視している。この賦活処理は、炭素化中に生じる空隙の孔径を拡張するものである。これにより、エチレンガスを吸着しやすい細孔の孔径も拡張されることになる。その結果、窒素換算比表面積S1が増大する一方で、二酸化炭素換算比表面積S2は低減する。従って、従来の活性炭のS2/S1は、本発明のものより大幅に下回ることになる。
【0022】
以下、本発明のエチレンガス吸着剤について、詳細に説明する。
【0023】
本発明において、S2/S1の下限値は、特に限定されないが、好ましくは1以上、より好ましくは1.5以上である。S2/S1を上記範囲内とすることにより、エチレンガスの吸着特性に優れたエチレンガス吸着剤を得ることができる。なお、S2/S1の上限値は、特に限定されないが、たとえば好ましくは1000以下であり、より好ましくは100以下である。また、本発明において、S2/S1の下限値を1.5以上とすることにより、高いガス吸着性能と、そのガス吸着性能を一定期間維持する性能を実現できる。さらには、エチレンガス吸着性能およびその経時変化について、製品間で大きくばらつくことを抑制することも可能となる。
【0024】
また、本発明のエチレンガス吸着剤として、熱処理により、炭素原子を含む有機物を炭化することにより得られる多孔質体を用いることができる。この有機物としては、特に限定されないが、石油ピッチ、石炭ピッチ、ポリアクリルトリル系、レーヨン系、フェノール樹脂系等の繊維系原料;穀類、果実殻、木粉等の植物系原料、パン酵母、ビール酵母、酵母滓などの酵母類等が挙げられる。また、有機物としては、糖類を含む化合物が好ましい。糖類としては、単糖類、単糖が2〜20分子程度結合したオリゴ糖類、デンプンおよびセルロース等の多糖類等が挙げられる。この中でも、セルロースが好ましい。
【0025】
上記窒素換算比表面積S1は、窒素吸着等温線に基づいて算出することが好ましい。例えば、エチレンガス吸着剤を−196℃に冷却した状態で窒素ガスを導入し容量法により窒素ガスの吸着量V〔cm/g〕を測定する。このときに導入する窒素ガスの圧力P〔mmHg〕を徐々に上げる。その圧力P〔mmHg〕を窒素ガスの飽和蒸気圧P〔mmHg〕で割った相対圧力P/Pとする。この相対圧力P/Pに対し、吸着量V〔cm/g〕をプロットすることにより、窒素吸着等温線を得る。この窒素吸着等温線に基づく細孔分布解析としては、例えばα解析が一般的に知られている。α解析は、無孔性固体の標準等温線と比較して細孔構造を解析する方法であり、K.Kaneko and C.Ishi、 Colloid Surface、 1992に記載された手順に従って行うことができる。本件では、自動ガス吸着装置(日本ベル(株)製、Belsorp 28SA)にて得た窒素吸着等温線に対してα解析を適用した。標準窒素吸着等温線には無孔性カーボンブラックのデータを用い、この標準等温線におけるP/P=0.4の吸着量を指標として、これを試料の吸着等温線の各相対圧での吸着量と比較することで、細孔径2nm以下のミクロ孔領域の細孔表面積を評価した。
【0026】
また、−196℃で測定した窒素吸着等温線で得られる窒素換算比表面積S1としては、S2/S1が所望の値を満たす限り特に限定されないが、下限値は、好ましくは1m/g以上であり、より好ましくは10m/g以上であり、一方、上限値は、好ましくは1000m/g以下であり、より好ましくは600m/g以下である(これらの窒素換算比表面積S1の値はα解析を用いて算出する。ただし、α解析にも従わない窒素吸着等温線である場合であって、N吸着量が極小の場合には、Nガスの入り込むスペースが無いような非多孔性の材料であると判断し、窒素換算比表面積S1は1m/gとする。)。窒素換算比表面積S1を上記範囲内とすることにより、エチレンガスの吸着効率を向上させることができる。例えば、原料や製法を適切に選択することにより、窒素換算比表面積S1を上記範囲内とすることができる。
【0027】
上記二酸化炭素換算比表面積S2は、二酸化炭素吸着等温線に基づいて算出することが好ましい。例えば、室温下における二酸化炭素の吸着測定(自動ガス吸着装置(日本ベル(株)製、Belsorp 28SA))を行い、二酸化炭素吸着等温線を得る。この二酸化炭素吸着等温線に基づく細孔分布解析としては、例えばDR解析が一般的に知られている。DR解析は、F. Martin、 et al.、 Separation and Purification Technology、 2010に記載された手順に従って行うことができる。DR解析は、主としてI型を示す等温線に対して適用される細孔構造解析法の1つである。ミクロ孔の吸着ポテンシャル分布がガウス分布に従うと仮定すると、吸着量Vと相対圧P/Pとの間には、以下の関係が成り立つ。
V=Vexp[−(A/βE
ただしA=RTln(P/P)
:吸着ポテンシャル、V:ミクロ孔容量、β:親和係数、E:特性吸着エネルギー
上式の両辺を対数でとったlnVと(P/P)とのプロットの切片からV、傾きからEが算出できる。本書では、二酸化炭素の室温データとしてβ=0.36、吸着量の換算には比重1.035を用いる。
【0028】
また、25℃で測定した二酸化炭素吸着等温線で得られる二酸化炭素換算比表面積S2としては、S2/S1が所望の値を満たす限り特に限定されないが、下限値は、好ましくは250m/g以上であり、より好ましくは500m/g以上であり、一方、上限値は、好ましくは2000m/g以下であり、より好ましくは1500m/g以下である(これらの二酸化炭素換算比表面積S2はDR解析に基づいて算出する)。二酸化炭素換算比表面積S2を上記範囲内とすることにより、エチレンガスの吸着量を向上させることができる。また、例えば、原料や製法を適切に選択することにより、二酸化炭素換算比表面積S2を上記範囲内とすることができる。
【0029】
また、本発明のエチレンガス吸着剤においては、25℃で測定した二酸化炭素吸着等温線で得られる、平衡圧20kPaにおける二酸化炭素の吸着量は、特に限定されないが、0.5mmol/g以上が好ましく、1.0mmol/g以上がより好ましい。エチレンガスの吸着量の指標となる二酸化炭素換算比表面積S2は、圧力およびその二酸化炭素の吸着量から算出される。このため、この平衡圧20kPaにおける二酸化炭素の吸着量を高くすることは、平衡圧が低い状態でも、エチレンガスを所定量吸着できることを示す。
【0030】
また、本発明のエチレンガス吸着剤においては、25℃、平衡圧20kPaで測定したエチレンガスの吸着量は、特に限定されないが、0.6mmol/g以上が好ましく、0.8mmol/g以上がより好ましく、1.5mmol/g以上がさらに好ましい。この平衡圧20kPaにおけるエチレンガスの吸着量を高くすることは、低分圧なエチレンガスを所定量吸着できることを示す。
【0031】
食品からエチレンガスが生成された初期段階では、エチレンガス量が数ppmと微量であるため、エチレンガスの分圧は低い状態となる。こうした食品からエチレンガスが生成された初期段階における低分圧のエチレンガスの吸着特性を示す指標としては、上記低平衡圧下でのエチレンガスの吸着特性となる。本発明では、指標としての低平衡圧の範囲を、初期段階におけるエチレンガスの分圧が低いという観点から、10kPaから50kPaとする。また、この低平衡圧の範囲の中でも、エチレンガスの吸着量の上昇率が高くなる観点から、平衡圧が20kPaのものを最適な指標として採用する。
本発明では、こうした初期段階におけるエチレンガスの低分圧時においても、(i)低平衡圧下のエチレンガスの吸着量を大きくすることにより及び/または(ii)低平衡圧下の二酸化炭素の吸着量を大きくすることにより、エチレンガスの吸着量を所定値確保することが可能となる。これにより、エチレンガスの生成開始段階から、エチレンガスをある程度吸着できるので、食品の劣化を一層抑制することができる。また、測定温度の25℃は、室温保存を想定している。たとえば、輸送等において冷蔵保存を行う場合には、冷蔵保存の温度を測定温度に合わせて、本発明における低平衡圧下の二酸化炭素および又はエチレンガスの吸着量を決定できる。また、低平衡圧時におけるエチレンガスまたは二酸化炭素の吸着量は、例えば、原料や製法を適切に選択することにより、上記範囲内とすることができる。
【0032】
また、本発明のエチレンガス吸着剤においては、25℃、平衡圧100kPaで測定したエチレンガスの吸着量は、特に限定されないが、1.0mmol/g以上が好ましく、2.0mmol/g以上がより好ましい。この平衡圧100kPaにおけるエチレンガスの吸着量を高くすることは、エチレンガスを充分吸着できることを示す。
【0033】
また、本発明のエチレンガス吸着剤の酸素原子(以下、Oと表記する)/炭素原子(以下、Cと表記する)の原子比は、特に限定されないが、好ましくは0.01以上0.3以下であり、より好ましくは0.1以上0.2以下である。また、このエチレンガス吸着剤の水素原子(以下、Hと表記する)/Cの原子比は、特に限定されないが、好ましくは0.01以上0.6以下であり、より好ましくは0.1以上0.2以下である。O/Cの原子比及び/又はH/Cの原子比を上記範囲内とすることにより、エチレンガスの吸着効率に優れたエチレンガス吸着剤が得られる。また、エチレンガス吸着剤中におけるO、HおよびCの質量の測定手法としては、一般的な燃焼法による元素分析装置(ヤナコ分析工業株式会社 CHN CORDER)を用いることができる。
【0034】
次に、本発明のエチレンガス吸着剤の製造方法について説明する。
【0035】
本発明のエチレンガス吸着剤の製造方法は、賦活処理を行わずに、熱処理することにより、炭素原子を含む有機物を炭素化する工程を含むものである。本書では、賦活処理とは、アルカリ金属やアルカリ水溶液などの賦活剤を用いる薬品賦活法、および水蒸気や炭酸ガスを用いるガス賦活法などの汎用の手法を意味する。また、本発明の熱処理においては、一度ピークに達した時点を基準に炭素化収率(残炭率)が好ましくは50%以下、より好ましくは80%以下に減少しないような環境下で熱処理を行うことを意味する。こうした環境は、例えば、密閉装置や不活性ガスを用いた密閉した空間を用いたり、熱処理温度を適切に調整することにより達成できる。
以下、詳細に説明する。
【0036】
上記密閉装置を用いる場合、例えば、有機物を電気炉にて熱処理する。電気炉内は炭素化収率(残炭率)を軽減させない環境下が望ましい。不活性ガスを用いる場合、例えば、不活性ガス雰囲気下で有機物を熱処理する。不活性ガスとしては、特にガス種は限定されないが、Nガス、Arガス等の希ガスなどが挙げられる。本発明においては、高炭素化収率を達成できるNガスが好ましく、99.9995%以上の純度のNガスがより好ましい。熱処理の温度条件としては、特に限定されないが、例えば、好ましくは400℃以上1000℃以下であり、より好ましくは500℃以上900℃以下であり、さらに好ましくは700℃以上900℃以下である。この中でも、700℃近傍の温度条件がとくに好ましい。熱処理の温度条件を適切に選択することにより、エチレンガスの吸着特性を向上させることができる。
【0037】
次に、密閉装置を用いた具体的な一例を示す。例えば、まず、有機物(例えば、セルロース)を密閉装置(例えば、ルツボ)に入れる。次いで、密閉した状態で、タール分が揮発しない条件で加熱処理を行う。このように、タール分をそのまま系外に排出せずに、これを炭素分として固定化することが好ましい。これにより、エチレンガス吸着剤のエチレンガスの吸着特性を一層向上させることができる。
【0038】
前述のとおり、一般的な活性炭の製法は、賦活処理により、付加的に炭素材料の大表面積化を行うものである。このため、発達した細孔構造を有する活性炭が得られるとともに、炭素材料から活性炭が得られるまでに大きな重量減少(炭素消耗)が付随して起こる。
【0039】
これに対して、本発明においては、上記賦活処理を行わないものである。このため、一般的な活性炭が有する幅広い細孔分布の細孔の形成が抑制され、エチレンガスを吸着しやすい孔径の細孔を効率的に維持することができるものと推察される。また、熱重量減少がほとんど起きないような温度域で炭素化を実行することができる、また、賦活処理を必要としないため、コストを低減することができる。
【0040】
以上のように、本発明のエチレンガス吸着剤は、有機物、とくに好ましくはセルロースを熱分解するという簡便な手法により、得られるものである。
【0041】
次に、本発明のエチレンガス吸着剤を用いた食品の保存方法について説明する。
【0042】
本発明の食品の保存方法は、前述のエチレンガス吸着剤とともに食品を包装する工程を含む。食品としては、例えば、桃、りんご、梨など果実を含む農産物が好ましい。これにより、エチレンガスが食品に接触することを抑制できるので、食品の品質の劣化を防止することができる。
【0043】
食品と一緒に包装するために、本発明のエチレンガス吸着剤は、各種の態様を採用できる。例えば、本発明のエチレンガス吸着剤の粉末を、スポンジ同士を接着するバインダに混ぜ込んだ第1の態様、袋詰した第2の態様、及び不織布に混ぜ込んだ第3の態様を用いることができる。
【0044】
これらの例示の中で、第1の態様が好ましい。この第1の態様について図15を用いて説明する。図15(a)に示すエチレンガス吸着部材100は、発泡層110と発泡層130との間にエチレンガス吸着材層120を有する。このエチレンガス吸着材層120は、これらの発泡層110、130を接着するバインダと、本発明のエチレンガス吸着剤とを含有する。発泡層110、130は例えば、スポンジ等を用いることができる。一方、図15(b)に示すエチレンガス吸着部材200は、発泡層210と発泡層230との間にエチレンガス吸着材層220を有する。このエチレンガス吸着材層220は、これらの発泡層210、230を接着するバインダと、本発明のエチレンガス吸着剤とを含有する発泡層(スポンジ)で構成されている。
【0045】
バインダが発泡層110、130またはバインダが発泡層210、230および炭素部材が融着している。このため、エチレンガス吸着剤の粉末が脱離して食品に付着することを抑制することができる。また、エチレンガス吸着剤を含有するエチレンガス吸着材層120、220の両面をスポンジで覆うことができるので、エチレンガス吸着部材100、200の意匠性を向上させることができる。さらに、エチレンガス吸着部材100、200上に食品を載置することも可能となり、より食品に近接した位置にエチレンガス吸着剤を配置することができる。また、エチレンガス吸着部材100、200は、フレキシブル性を有するため、梱包材の底部や側壁等のスペースに詰め込んだり、食品を覆うように敷き詰めるように使用できる。また、エチレンガス吸着部材100、200は、クッション材としても使用できる。
【0046】
以上、図面を参照して本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【実施例1】
【0047】
以下、本発明を実施例を参照して詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例の記載に何ら限定されるものではない。
(実施例1)
図1に示すグルコース環を主骨格とする、市販のセルロース(関東化学社、カラムクロマトグラフィー用セルロース)及びデンプン(関東化学社、いも由来スターチ、鹿1級品)を出発原料に用いた(図1において、(a)は、α型のデンプン、(b)は、β型のセルロースを示し、RはOH基を示す)。これらを管状炉に導入し、N(純度99.9995%)雰囲気下、10℃/minで昇温し、所定温度(500〜700℃)で3h保持することにより炭化物を得た。これらのエチレン吸着能を、110℃で減圧処理をした後、容量法を用いて吸着等温線(25℃、100kPa)を測定した。
【0048】
得られた炭素体の25℃におけるエチレン吸着等温線の結果を図2に示す(図2(a)は、セルロース炭素化物のエチレン吸着等温線、図2(b)は、デンプン炭素化物のエチレン吸着等温線を示す。これらの図において、黒四角は500℃、黒逆三角は600℃、黒菱形は700℃、半黒丸は800℃、半黒三角は900℃を示す。)。横軸は平衡圧、縦軸は吸着量を示す。
【0049】
いずれも吸脱着が同一の挙動を示しており、活性炭やゼオライトへのOやH等の室温下での分子ガス吸着に良く見られる等温線を示した。つまり、エチレンガスは試料中に存在する細孔内への物理吸着によって取りこまれていることが示唆される。また、25℃、100kPaにおけるエチレン吸着量は、両原料とも700℃において、デンプンで1.7mmol/g、セルロースで2.2mmol/gであった。
【0050】
図3に市販のエチレン吸着剤の25℃におけるエチレン吸着等温線を示す。また、図4に市販のエチレン吸着剤の25℃、100kPaにおけるエチレン吸着量を示す。図3、4において、市販品に加えて本試験で得られた炭素体のエチレン吸着等温線およびエチレン吸着量も記した。また、図3において、黒丸は700℃の温度条件で熱処理したセルロース(以下、700℃セルロースという)、黒四角は700℃デンプン、黒逆三角は合成ゼオライト、黒菱形は竹炭、半黒四角はケイソウ土を示す。試料(ケイソウ土(昭和化学工業株式会社製、ラジオライトSPF)、合成ゼオライト(東ソー株式会社製 ゼオラム(登録商標))、竹炭(有限会社日本エイム製 竹炭粉)は、市販のエチレン吸着剤である。いずれのエチレン吸着剤も、常温・常圧下では、高くても1mmol/g程度のエチレン吸着量であった。本試験で得られた700℃炭素体はこれらの市販品よりも遥かに高い吸着量を示している。
【0051】
図5に各原料の炭素化温度に対する収率(炭として残量)とエチレン吸着量の関係を示す(図5(a)はセルロース、図5(b)はデンプンの結果を示す。これらの図中において、黒丸はエチレン吸着量、黒四角は炭素化率を示す)。セルロースにおいては、400℃付近で熱分解に伴う大きな重量減少を示すが、600℃以降はほぼ重量変化はなく、700〜1000℃付近の炭素化収率は約20%であった。また、デンプンの重量減少についても、400℃〜700℃付近まで、セルロースと同様の傾向がある。エチレン吸着は、この大きな重量変化が起こる温度領域から観察されるが、重量変化が緩慢な700℃付近で吸着量が高くなることが伺える。
【0052】
図7にエチレン吸着量と比表面積の関係を示す(図7(a)はセルロース、図7(b)はデンプンの結果を示す。これらの図中において、黒四角はエチレン吸着量、黒丸はCO吸着から求めたミクロ孔表面積、黒三角はN吸着から求めたミクロ孔表面積を示す)。比表面積測定には、Nガス及びCOガスを用いて行った。両ガスの動力学的分子径はそれぞれ3.64Å、3.30Åであり、COの方がより小さい孔径の細孔を評価している(図6参照)。−196℃におけるN吸着等温線のα解析と25℃におけるCO吸着等温線のDR解析を用いて、得られた炭素体のミクロ孔表面積を算出した。
【0053】
セルロースでは400℃加熱以降でNガスによって見積もられる細孔が発達している様子が伺えるが、デンプンでは全く観測されない。しかしながらCOをプローブとすると、いずれの炭素体も700℃において、約1000m/gのミクロ孔表面積を有していることが分かった。さらに、炭素化温度に対するCO表面積の変化は、エチレン吸着量の変化に極めて良く一致していることから、COで規格化される細孔に対してエチレンガスが物理吸着していることが推測される。
【0054】
図8に両試料の加熱処理に対するIRスペクトル変化を示す。図8中において、黒丸はOH伸縮、黒三角はCH伸縮、黒四角はC=C伸縮、黒逆三角は炭素網面のCH面外の各振動モードを示している。
約400℃付近で、グルコース骨格(単位セル)開裂に伴い、OH基が脱離し、一旦低分子化した成分が再結合しながら、炭素網面が形成していく様子がIRから見て取れる。即ち、炭素の微細構造が再構築しはじめるような温度域でエチレン吸着能が現れることになる。(炭素の基本構造(炭素網面と積層構造)が発達する温度域は、一般的に600℃以上からであり、その温度域から真密度が大きく増加することになる。)
【0055】
図8に、セルロースの熱分解機構を示す(本図は、次の文献(T. Hirata, M. Maekawa and T.Nohmi, Journal of Mass Spectrometry, Japan. 46 (1998) p259−274.)を基に作製したものである)。
一般的にセルロースの熱分解は、レボグルコサンと呼ばれるタール分が生成する経路を経て炭素体に転換される。これに前もってNaOHでセルロースを改質処理してから加熱処理をすると、デヒドログルコースを経る熱分解機構を示すようになる(このことは、N. Miyajima、 et al.、 Themochimca Acta、 498 (2008) p33−38に記載されている)。今回、前もってNaOHでセルロースを処理し、同様の700℃の熱処理条件で得た炭素体は、0.1mmol/gとエチレン吸着能をほとんど示さなくなった。このときの加熱処理としては、G2クラス(99.9995%以上の純度)のNを用い、十分不活性雰囲気が達成された後、流通式で加熱処理を行っている。
これに対して、本実施例において、空気雰囲気下で、るつぼ内にセルロースを入れ、これにふたをしてタール分が揮発しない条件で加熱処理を行った場合、得られた炭化物は炭素化収率が若干劣るものの、前者の条件と同程度のエチレン吸着能(2mmol/g)を示した。
以上のことから、レボグルコサンを経る熱分解機構で加熱処理を進め、かつこのタール分をそのまま系外に排出するのではなく、これを如何に残留分(炭素分)として固定化するのかが、エチレン吸着特性を高めるための重要な因子であると考えられる。
【0056】
図10に、炭素化温度に対するH/C及びO/C原子比の変化を示す(図10(a)はセルロース、図10(b)はデンプンの結果を示す。これらの図中において、黒四角はエチレン吸着量、黒丸はO/C原子比、黒逆三角はH/C原子比を示す)。試料中におけるO、HおよびCの質量の測定手法としては、一般的な燃焼法による元素分析装置(ヤナコ分析工業株式会社 CHN CORDER)を用いた。
炭素化温度の上昇に伴い、両原料の熱分解が進行するため、H/C及びO/Cが減少している。特にO/Cの減少は、IRのデータから表面官能基であるOH基の脱離に起因していると推察される。
【0057】
以上の結果をまとめると、図11のような構造体に対してエチレンが吸着していると考えられる。本図の炭素前駆体の構造図は、「カーボン用語辞典,炭素材料学会 カーボン用語辞典編集委員会 編,アグネ承風社,P.223−224 に掲載の「炭素前駆体」項」および「大谷杉郎, 炭素, 61, p.65 (1970)」から抜粋したものである。図中、(i)は、炭素の六角網面及びその積層構造の発達の乏しい分子が絡み合った構造(平均的に炭素10個に対して酸素1個が結合しているような熱分解物の集合体)を示し、(ii)は分子の絡み合いの空隙がCO及びエチレンガスが吸着可能な細孔を担う部分を示す。
【0058】
一般的な活性炭の作製においては、有機物を不活性雰囲気下で加熱(炭素化)して、次にガス賦活を行い炭素体自身の酸化分解反応によって穴を開け大表面積化を行う。特にセルロース等の木質系バイオマスは炭素化だけでは細孔径や細孔容量が小さいため、ガス賦活はバイオマスからの活性炭製造には欠かせない工程である。酸化分解はHO、O、およびCOといった雰囲気下で再加熱を行うことで、ガス化反応を進行させて行う。結果として、大きな重量減少(炭素消耗)が付随して起こる。また、その細孔構造は、炭素化中に生じる空隙の孔径を広げ、くさびあるいはスリット状の細孔となると考えられている。
【0059】
本実施例で得られた炭素化物は、そのような賦活工程を行っておらず、またエチレンに見合った空隙は、熱重量減少がほとんどないような温度域で発達しているため、その細孔構造は、一般的な活性炭とは本質的に異なると捉えることができる。
【0060】
(実施例2)
上記セルロース及びデンプンを原料として用い、700℃の温度条件で、同様に炭素化した炭素化試料(それぞれCell700及びStar700と表記)と市販の活性炭素繊維(アドール社製、ACF A10)の室温におけるエチレン吸着等温線を、図12に示す(図中、黒四角は活性炭素繊維、黒丸はCell700、黒三角はStar700の結果を示す)。このエチレン吸着等温線および他のガス種の吸着等温線の測定条件を下記表1にまとめる。
【0061】
【表1】

【0062】
表1において、吸着平衡時間とは、任意の導入圧を加え、それが、吸着後に平衡圧に達した際にカウントする時間とする。すなわち、ある圧力で吸脱着の変化が600秒無かった場合、その圧力を平衡圧とする。
こうしたエチレン吸着等温線の測定条件から、低平衡圧でのエチレン吸着特性は、食品からエチレンガスが生成された初期段階における低分圧のエチレン吸着特性を示す指標となる。この初期段階におけるエチレンガスの吸着が食品の腐敗防止や長期保存に効果的である。本実施例では、指標としての低平衡圧の範囲を、初期段階におけるエチレンガスの分圧が低いという観点から、10kPaから50kPaとした。また、この低平衡圧の範囲の中でも、エチレンガスの吸着量の上昇率が高くなる観点から、平衡圧が20kPaのものを最適な指標として採用した。
【0063】
本実施例で得られた炭素化物は、10kPaから50KPaの低平衡圧におけるエチレン吸着量は市販の活性炭素繊維よりも高かった。
【0064】
このエチレン吸着量はCO吸着等温線から求めた比表面積と良い相関があり、COが吸着可能な細孔内にエチレンが物理的な相互作用で取り込まれることは、前述のとおりである。
【0065】
図13(a)は、N吸着等温線(−196℃)を示し、図13(b)は、CO吸着等温線(25℃)を示す(図中、黒四角は活性炭素繊維、黒丸はCell700、黒三角はStar700の結果を示す)。
通常、多孔体の表面積を求める場合は、Nガスをプローブとして、その凝縮温度である液体窒素温度下(−196℃)で吸着測定を行う。窒素1分子の占有断面積(0.162nm/個)を使って、Nガスが多孔質の全表面に1分子層だけ吸着したと考えられる圧力とその吸着量から表面積が算出できる。この理論計算は、他のガスプローブでも同様に使える。例えばCOの場合も、凝縮温度(ドライアイス温度:−78℃)でCO吸着を行えば、二酸化炭素1分子の占有断面積(0.195nm/個)を使って表面積を計算できる。
しかしながら、実施例2では、ドライアイス温度下ではなく室温下におけるCO吸着測定を行い表面積を概算した。この表面積の計算には、DRプロットと呼ばれる解析法(以下、DR解析という)を用いた。このDR解析(吸着等温線から概算される全細孔容量と吸着エネルギーから表面積を算出する方法。表面積算出の際に、吸着温度下での吸着ガスの密度を使う。)は、CO吸着試験ではドライアイス温度及び室温で求めた場合にそれほど両者に差異がないと考えられることから、より簡便な方法となる(DR解析法の参考文献:C.F. Martin、 et al.、 Separation and Purification Technology、 2010)。
【0066】
表2は、各試料における吸着等温線から求めた表面積およびエチレン吸着量をまとめた。
【0067】
【表2】

【0068】
通常、BET表面積で比較するのが一般的であるが、BETプロットが適応可能な吸着等温線の型がある。今回測定した試料はいずれも、このBETプロットには従わないため、α解析と呼ばれるミクロ孔の解析法から算出した。
*1:Star700はBETプロットにもα解析にも従わない吸着等温線であるため、これらの解析法では表面積を正確に計算できない。しかしながら、ほとんどN吸着が起こらない(吸着量が極めて小さい)ため、Nガスの入り込むスペースが無いような非多孔性の材料であると判断し、N吸着から求めた表面積は1m/g以下であると推測した。この場合には、窒素換算比表面積S1は1m/gとする。
*2:*1の場合には、S2/S1比を870と仮定した。
また、COで求めた表面積の大きさは、活性炭素繊維<Star700<Cell700となっており、10kPaから50KPaに亘る低平衡圧のエチレン吸着量の大きさの傾向と一致した。このことは、エチレン吸着性能がCO吸着特性から推測できることを意味している。
また、本実施例の試料においては、低相対圧(0.1〜0.5)における窒素の吸着量も非常に低くなっているので、存在する細孔がエチレン吸着に効率的に働いているものと予想される。
上記のCO/N表面積比(S2/S1)の評価から、活性炭素繊維は、そのエチレン吸着に有効な細孔以外の細孔も極めて多く存在していることが分かる。つまり、エチレンガス以外の他分子が吸着可能な広い細孔径分布を持っていると考えられる。
一方、多糖類から調製した炭素体はエチレン吸着に有効な細孔が多く、存在する細孔がエチレン吸着に効率的に働いているものと予想される。以上のことから、多糖類を出発原料にすることで、賦活処理などの付加的な2次処理を必要とせず、単純な熱処理のみでエチレン吸着に有効な細孔を著しく発達し得ることが明らかとなった。
【0069】
(実施例3)
実施例3は、上記セルロース炭素化物の結果を、(i)熱処理温度とCO表面積あたりのエチレン吸着量との関係、(ii)エチレン吸着等温線とCO吸着等温線との関係の観点から、まとめたものである。
【0070】
表3は、500℃から900℃における熱処理温度とCO表面積あたりのエチレン吸着量との関係を示す(例えば、Cell500は、500℃の熱処理温度で炭素化されたセルロースを意味する)。
【0071】
【表3】

【0072】
表2において、CO表面積あたりのエチレン吸着量は、エチレン吸着量を比表面積(CO吸着基準)で割った値であり、その細孔がエチレン吸着に対してどの程度効率良く働いているかを図る指標となると考えられる。この指標が示す値が大きいほど、細孔表面に対してエチレンが充填されやすい環境になっていると推察できる。このことから、セルロースにおいては、CO表面積あたりのエチレン吸着量が高いことから、生成した細孔のエチレン吸着能が高いことが分かった。
【0073】
図14(a)は、セルロース炭素化物のエチレン吸着等温線の結果を示し、図14(b)は、同じセルロース炭素化物のCO吸着等温線を示す。これらの図において、黒四角は500℃、黒逆三角は600℃、黒菱形は700℃、半黒丸は800℃、半黒三角は900℃を示す。
図14(a)および図14(b)の両図から、両吸着挙動及び100kPaにおける吸着量がほぼ同一であることが伺える。これは、COの吸着等温線からエチレンの吸着挙動を評価できることを改めて表わしている。つまり,CO分子に有効な細孔径は、エチレンにとっても有効な細孔径であり、良い吸着場になっていることを意味している。また、両図から、20kPaまでのCO吸着量が高いものは、エチレン吸着においても低相対圧での立ち上がりが大きい傾向にあると考えられる。
【符号の説明】
【0074】
100 エチレンガス吸着部材
110 発泡層
120 エチレンガス吸着材層
130 発泡層
200 エチレンガス吸着部材
210 発泡層
220 エチレンガス吸着材層
230 発泡層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒素吸着法によって求めた比表面積をS1とし、
二酸化炭素吸着法によって求めた比表面積をS2としたとき、
S2/S1が1以上である、エチレンガス吸着剤。
【請求項2】
前記二酸化炭素吸着法によって求めた前記比表面積が、250m/g以上2000m/g以下である、請求項1に記載のエチレンガス吸着剤。
【請求項3】
25℃で測定した二酸化炭素吸着等温線で得られる、平衡圧20kPaにおける二酸化炭素の吸着量が、0.5mmol/g以上である、請求項1または2に記載のエチレンガス吸着剤。
【請求項4】
セルロースを熱分解することにより得られる、請求項1から3のいずれか1項に記載のエチレンガス吸着剤。
【請求項5】
O/Cの原子比が0.3以下であり、H/Cの原子比が0.6以下である、請求項1から4のいずれか1項に記載のエチレンガス吸着剤。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載のエチレンガス吸着剤を含む、食品保存剤。
【請求項7】
請求項1から5のいずれか1項に記載のエチレンガス吸着剤とともに食品を包装する工程を含む、食品保存方法。
【請求項8】
前記食品が、桃、りんご、梨である、請求項7に記載の食品保存方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−110868(P2012−110868A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−264214(P2010−264214)
【出願日】平成22年11月26日(2010.11.26)
【出願人】(304023994)国立大学法人山梨大学 (223)
【出願人】(394006037)株式会社松本技研 (4)
【Fターム(参考)】