説明

エチレン樹脂粉体塗料及びエチレン樹脂粉体塗料の被覆物

【課題】前処理を必要としなくても、溶融亜鉛メッキ鋼板への接着性が良好なエチレン樹脂粉体塗料を提供する。
【解決手段】エチレン重合体が含まれたエチレン系樹脂と、エポキシ系樹脂と、が含まれていることを特徴とするエチレン樹脂粉体塗料であり、本発明に係るエチレン樹脂粉体塗料は、前記エチレン系樹脂100質量部に対して、エポキシ系樹脂が1〜1900質量部含まれており、前記エチレン重合体は、シングルサイト触媒を用いて製造されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融亜鉛メッキ鋼板上に塗装されるエチレン樹脂粉体塗料に関する。
【背景技術】
【0002】
橋梁等を構築するために用いられる鋼材は、防食性を高めるために、表面に亜鉛メッキが付与される場合が多く、このような亜鉛メッキが付与された鋼材は、通常の大気中では良好な耐食性を発揮し得るが、亜鉛メッキは、塩水に曝され易い海浜付近の環境や酸性雨を受け易い環境等の腐食性環境下においてはメッキ層が数年で消失してしまう場合が多い。このため、亜鉛メッキされた鋼材の防食性を高めるために、その表面にポリオレフィンなどの粉体樹脂を塗装することが行なわれている(特許文献1)。
【0003】
ポリオレフィンなどの粉体樹脂を亜鉛メッキ金属材料に塗布する場合、亜鉛とポリオレフィン粉体の接着性が乏しいため、亜鉛メッキ表面にリン酸亜鉛処理を施したり、またクロム系プライマーやエポキシ系プライマーなどのプライマーを施すなど前処理を行なっている。
【特許文献1】特開平11−131259号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このような前処理は、製造工程が煩雑になり、コスト高になるという問題がある。また、クロム系プライマーは、環境に影響を与えるため、使用が制限されている。
【0005】
そこで、本発明は、前処理を必要としなくても、溶融亜鉛メッキ鋼板への接着性が良好なエチレン樹脂粉体塗料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以上の目的を達成するため、本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、エチレン重合体が含まれたエチレン系樹脂にエポキシ系樹脂を含ませることによって、前処理を必要としなくても、溶融亜鉛メッキ鋼板への接着性を向上させることができることを見出した。すなわち、本発明は、エチレン重合体が含まれたエチレン系樹脂と、エポキシ系樹脂と、が含まれていることを特徴とするエチレン樹脂粉体塗料である。
【0007】
本発明に係るエチレン樹脂粉体塗料は、前記エチレン系樹脂100質量部に対して、エポキシ系樹脂が1〜1900質量部含まれていることが好ましく、3〜1425質量部含まれていることがさらに好ましい。前記エチレン重合体は、シングルサイト触媒を用いて製造されていることが好ましい。
【0008】
また、本発明は、前記エチレン樹脂粉体塗料が基材金属の表面に粉体塗装法により被覆されていることを特徴とするエチレン樹脂粉体塗料の被覆物である。
【発明の効果】
【0009】
以上のように、本発明によれば、前処理を必要としなくても、溶融亜鉛メッキ鋼板への接着性が良好なエチレン樹脂粉体塗料を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明に係るエチレン樹脂粉体塗料において、エチレン系樹脂には、エチレン重合体が40質量%以上含まれていることが好ましく、また50質量%以上含まれていることがより好ましく、さらに60質量%以上含まれていることがより好ましい。また、本発明に係るエチレン樹脂粉体塗料は、エチレン重合体の他に酸変性ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレンエラストマー、エチレンプラストマーなどが含まれても良い。
【0011】
エチレン系樹脂は、樹脂成分として酸変性ポリエチレンを含ませることにより、基材金属との接着性を向上させることができ、その場合、エチレン系樹脂中の酸変性ポリエチレンの含有量は、必要の応じて加えることができるが、好ましくは1〜50質量%、より好ましくは5〜30質量%、特に好ましくは8〜25質量%である。エチレン系樹脂は、樹脂成分としてエチレン・酢酸ビニル共重合体を含ませることにより、基材金属とのエッジカバリング性を向上させることができ、その場合、エチレン系樹脂中のエチレン・酢酸ビニル共重合体の含有量は、必要の応じて加えることができるが、好ましくは3〜50質量%、より好ましくは12〜35質量%、特に好ましくは15〜30質量%である。
【0012】
本発明に係るエチレン樹脂粉体塗料に用いられるエチレン系樹脂は、下記の(a1)及び(a2)の特性を少なくとも1つを有することが好ましく、特に2つの特性を有することが好ましい。
(a1)密度(d)が、好ましくは0.89〜0.96(g/cm)、さらに好ましくは0.90〜0.955(g/cm)、より好ましくは0.91〜0.95(g/cm)、特に好ましくは0.92〜0.95(g/cm)の範囲。
(a2)190℃、2.16Kg荷重におけるメルトフローレート(MFR2.16)が、好ましくは0.01〜200(g/10分)、さらに好ましくは0.1〜100(g/1
0分)、より好ましくは1〜50(g/10分)、特に好ましくは2〜30(g/10分)の
範囲。
上記の特性において、
(a1)密度(d)が、上記の範囲より小さいと、粉体塗装品に最低限必要な剛性が得られない場合があり、また使用に際して塗装表面に傷が発生しやすくなる場合がある、
(a2)190℃、2.16Kg荷重におけるメルトフローレート(MFR2.16)が、上記の範囲より小さいと、流動性が悪く粉体塗装が困難になる場合があり、また、上記の範囲より大きいと、機械的特性が低下して、得られる粉体塗装物の性能が低下する場合がある。
【0013】
本発明に係るエチレン樹脂粉体塗料のエチレン系樹脂に含まれるエチレン重合体は、メタロセン触媒系などのいわゆるシングルサイト触媒の存在下で重合されることが好ましく、シングルサイト触媒下で重合されるエチレン単独の重合によって得られる重合体、または、シングルサイト触媒下でエチレンとα−オレフィンとの共重合によって得られる共重合体(エチレン・α−オレフィン共重合体)などがある。α−オレフィンは、エチレン・α−オレフィン共重合体中に単独であっても、2種以上含まれていてもよい。α−オレフィンとしては、炭素数3〜10、好ましくは炭素数3〜8のα−オレフィンを用いることができる。α−オレフィンとしては、プロピレン、ブテン−1、ペンテン−1、ヘキセン−1、4−メチルペンテン−1、オクテン−1などを挙げることができる。エチレン・α−オレフィン共重合体において、エチレン・α−オレフィン共重合体中、α−オレフィンから誘導される繰り返し単位は、必要に応じた量を含むことができるが、通常、好ましくは15モル以下の範囲、さらに好ましくは0.1〜10モル%の範囲で、特に好ましくは0.1〜5モル%の範囲で含まれている。α−オレフィンは、エチレン−α−オレフィン共重合体中に単独であっても、二種以上含まれていてもよい。
【0014】
シングルサイト触媒としては、周期律表第IV又はV族遷移金属のメタロセン化合物と、有機アルミニウム化合物及び/又はイオン性化合物の組合せなどが用いられ、メタロセン触媒系などの公知のシングルサイト触媒を用いることができる。シングルサイト触媒は、活性点が均一である点において、活性点が不均一なマルチサイト触媒とは区別されるものである。
【0015】
エチレン重合体は、メタロセン触媒系などのシングルサイト触媒の存在下において、不活性ガス中での流動床式気相重合又は攪拌式気相重合、不活性溶媒中におけるスラリー重合、モノマーを溶媒とするバルク重合等の公知の各種の重合方法により、製造することができる。シングルサイト触媒としては、周期律表第IV又はV族遷移金属のメタロセン化合物と、有機アルミニウム化合物及び/又はイオン性化合物の組合せなど公知の重合触媒を用いることができる。
【0016】
シングルサイト触媒を用いて製造されたエチレン重合体として、エチレン・α−オレフィン共重合体は、公知のものであり、数社から各種のものが市販されている。例えば、宇部興産株式会社の「ユメリット」や、「エリート」、「エスコレン」、「エボリュー」、「カーネル」などの商品名で各種のものが市販されており、本発明においてはこれら市販のものを利用することができる。これらのポリエチレン樹脂は、2種以上のものが併用されても良い。
【0017】
シングルサイト触媒を用いて製造されたエチレン重合体は、下記の(b1)及び(b2)の特性を少なくとも1つを有することが好ましく、特に2つの特性を有することが好ましい。
(b1)密度(d)が、好ましくは0.88〜0.96(g/cm)、さらに好ましくは0.90〜0.955(g/cm)、より好ましくは0.906〜0.95(g/cm)、特に好ましくは0.908〜0.95(g/cm)の範囲。
(b2)190℃、2.16Kg荷重におけるメルトフローレート(MFR2.16)が、好ましくは0.01〜200(g/10分)、さらに好ましくは0.1〜100(g/10
分)、より好ましくは0.5〜50(g/10分)、特に好ましくは1〜40(g/10分)の
範囲。
特に重合体(A)がエラストマー単独の場合は、(b2)メルトフローレート(MFR2.16)が1〜10(g/10分)の範囲が好ましい。
特に重合体(A)がエチレン−酢酸ビニル共重合体単独の場合は、(b2)メルトフローレート(MFR2.16)が10〜40(g/10分)の範囲が好ましい。
上記の特性において、
(a1)密度(d)が、上記の範囲より小さいと、粉体塗装品に最低限必要な剛性が得られない場合があり、また使用に際して塗装表面に傷が発生しやすくなる場合がある、
(a2)190℃、2.16Kg荷重におけるメルトフローレート(MFR2.16)が、上記の範囲より小さいと、流動性が悪く粉体塗装が困難になる場合があり、また、上記の範囲より大きいと、機械的特性が低下して、得られる粉体塗装物の性能が低下する場合がある。
【0018】
本発明に係るエチレン樹脂粉体塗料のエチレン系樹脂に含まれる酸変性ポリエチレンは、メタロセン触媒などのシングルサイト触媒、アルミナ又はシリカ−アルミナに担持した酸化クロム等の触媒(フィリップス法)、アルミナに担持した酸化モリブデン等の触媒(スタンダード法)、遷移金属化合物と有機金属化合物よりなるチーグラー系触媒などの存在下にエチレン単独及び/又はエチレンと炭素数3〜10のα−オレフィンとの共重合によって得られる共重合体などの変性用ポリエチレンを、不飽和カルボン酸類、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、ケイ皮酸、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸、シトラコン酸、安息香酸ビニルなどの不飽和ジカルボン酸、これら不飽和ジカルボン酸の無水物、或いはこれら不飽和ジカルボン酸のエステルなどでグラフトなどにより変性させた酸変性ポリエチレンを含むことが好ましい。特に変性用ポリエチレンとしては、アルミナ又はシリカ−アルミナに担持した酸化クロム等の触媒(フィリップス法)、アルミナに担持した酸化モリブデン等の触媒(スタンダード法)、遷移金属化合物と有機金属化合物よりなるチーグラー系触媒などの存在下にエチレン単独及び/又はエチレンとα−オレフィンとの共重合によって得られる共重合体などが好ましく用いることができる。
【0019】
酸変性ポリエチレンは、変性用ポリエチレン100質量部に対して、不飽和カルボン酸類が、0.05〜2質量部でグラフトなどの変性されたものが好ましく、さらに0.1〜1.5質量部でグラフトなどの変性されたものが好ましい。変性用ポリエチレンに不飽和カルボン酸類をグラフトさせる方法としては、例えば、変性用エチレン重合体及び不飽和カルボン酸類を反応開始剤の存在下に溶融混練することができる。反応開始剤としては、t−ブチル−ハイドロパーオキサイドなどの有機過酸化物系の反応開始剤が使用できる。また、2,3−ジメチル−2,3−ジフェニルブタンなどのクメンの二量体およびその誘導体も使用できる。
【0020】
変性用ポリエチレンにおいて、α−オレフィンは、炭素数3〜10(炭素数3、炭素数4、炭素数5、炭素数6、炭素数7、炭素数8、炭素数9及び/又は炭素数10)のα−オレフィンを挙げることができ、これらα−オレフィンは複数組み合わせて用いることができる。α−オレフィンとしては、プロピレン、ブテン−1、ペンテン−1、ヘキセン−1、4−メチルペンテン−1、オクテン−1などのα−オレフィンを挙げることができる。
【0021】
酸変性ポリエチレンは、下記の(b11)及び(b12)の特性を少なくとも1つを有することが好ましく、特に2つの特性を有することが好ましい。
(b11)密度(d)が、好ましくは0.880〜0.960(g/cm)、さらに好ましくは0.900〜0.960(g/cm)、より好ましくは0.900〜0.950(g/cm)、特に好ましくは0.906〜0.940(g/cm)の範囲。
(b12)190℃、2.16Kg荷重におけるメルトフローレート(MFR2.16)が、好ましくは0.01〜200(g/10分)、さらに好ましくは0.1〜50(g/10
分)、より好ましくは0.5〜20(g/10分)、特に好ましくは1〜5(g/10分)の範
囲。
【0022】
本発明に係るエチレン樹脂粉体塗料のエチレン系樹脂に含まれるエチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)は、エチレンと酢酸ビニルとを高圧法、乳化法などの公知の製造法によって共重合により製造されたものを用いることができる。エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)は、下記の(c1)、(c2)及び(c3)の特性を少なくとも1つを有することが好ましく、特に(c1)及び(c2)の特性を少なくとも有することが好ましい。
(c1)密度が、好ましくは0.92〜0.99(g/cm)、さらに好ましくは0.92〜0.95(g/cm)、特に好ましくは0.92〜0.94(g/cm)の範囲。
(c2)190℃、2.16kg荷重におけるメルトフローレート(MFR2.16)が、好ましくは0.3〜1000(g/10分)、さらに好ましくは0.5〜500(g/10分)、より好ましくは5〜100(g/10分)、特に好ましくは10〜50(g/10分)の範囲。
(c3)酢酸ビニル含有量が、好ましくは1〜60質量%、さらに好ましくは3〜25質量%、特に好ましくは5〜20質量%の範囲。
【0023】
上記特性のうち、
(c1)密度が、上記範囲より小さい場合は剛性が高くなりすぎ製品の脆性が悪化する場合があり、また上記範囲より大きい場合は剛性が低くなりすぎ受傷性が悪化する場合がある。(c2)190℃、2.16kg荷重におけるメルトフローレート(MFR2.16)が、上記範囲より小さい場合は、流動性が悪化し、製品表面外観が悪化する場合があり、また上記範囲より大きい場合には、流動性が高くなりすぎエッジカバリング性が悪化する場合がある。
(c3)酢酸ビニル含有量が、上記範囲より小さい場合は剛性が高くなりすぎ製品の脆性が悪化する場合があり、また上記範囲より大きい場合は剛性が低くなりすぎ受傷性が悪化する場合がある。
【0024】
エチレン系樹脂は、下記の(d1)、(d2)、(d3)、(d4)及び(d5)の特性を少なくとも1つを有する樹脂粉体として用いることが好ましい。エチレン系樹脂の樹脂粉体の特性としては、(d1)と、(d2)〜(d5)から選ばれる少なくとも1つの特性との組み合わせが好ましく、さらに(d1)及び(d2)と、(d3)〜(d5)から選ばれる少なくとも1つの特性との組み合わせなどが好ましい。
(d1)嵩密度が、0.2〜0.5(g/cc)、さらに0.25〜0.45(g/cc)、特に0.30〜0.40(g/cc)。
(d2)安息角が、25〜45度、さらに28〜40度、特に30〜38度。
(d3)粒径は、好ましくは35メッシュ通過品であり、さらに好ましくは40メッシュ通過品であり、特に好ましくは50メッシュ通過品である。
(d4)平均粒径は、80〜470μm、さらに好ましくは100〜350μm、特に好ましくは150〜300μm。
(d5)粉体の形状を顕微鏡で観察して、顕著なヒゲ・紐状のないこと。
【0025】
エチレン系樹脂の樹脂粉体としての特性について、
(d1)嵩密度が、上記の範囲を外れると、得られるエチレン樹脂粉体塗料の流動性が悪く、粉体塗装が困難になる場合がある。
(d2)安息角が、上記の範囲を外れると、得られるエチレン樹脂粉体塗料の流動性が悪く、粉体塗装が困難になる場合がある。
(d3)粒径が、上記の範囲を外れると、得られるエチレン樹脂粉体塗料の流動性が悪く、粉体塗装が困難になる場合がある。
(d4)平均粒径は、上記の範囲を外れると、得られるエチレン樹脂粉体塗料の流動性が悪くなり、塗装品の外観を悪化させたり、表面平滑性が低下する場合がある。
(d5)粉体の形状を顕微鏡で観察して、粉体が顕著なヒゲ・紐状のものを含む場合、粉体の流動性が悪く、表面の平滑な塗膜が得られにくい。
【0026】
本発明に係るエチレン樹脂粉体塗料で用いられるエポキシ系樹脂としては、エポキシ系熱可塑性樹脂若しくはエポキシ系熱硬化性樹脂、また両者を用いることができ、従来より、粉体塗料組成物に使用されているものであれば、特に制限なく、各種のエポキシ樹脂を使用することができる。エポキシ系熱可塑性樹脂としては、エポキシ基を含む不飽和モノマーなどがあり、例えば、グリシジルメタクリレート、ブチルグリシジルマレート、ブチルグリシジルフマレート、プロピルグリシジルマレート、グリシジルアクリレート、N-〔4-(2,3−エポキシプロポキシ)−3、5−ジメチルベンジル〕アクリルアミド等が
挙げられる。コスト面と性能のバランスからグリシジルメタクリレート、N−〔4−(2
,3−エポキシプロポキシ)−3,5−ジメチルベンジル〕アクリルアミドなどが好ましい。一方、エポキシ系熱硬化性樹脂としては、例えば、ビスフェノールAや、ビスフェノールF、ビスフェノールS、ノボラック系のグリシジルエーテル型、グリシジルエステル型、グリシジルアミン型、ジシクロペンタジエン骨格型、ビフェノール型等が挙げられる。コスト面と性能のバランスからビスフェノールAや、フェノールF、ノボラック系が好ましい。
【0027】
本発明に係るエチレン樹脂粉体塗料は、粉体の良好な流動層を形成するものであればよく、例えば流動空気線速度が、好ましくは2〜45cm/秒、さらに好ましくは5〜40cm/秒、より好ましくは10〜35cm/秒、特に好ましくは12〜30cm/秒のポリエチレン粉体である。
【0028】
本発明に係るエチレン樹脂粉体塗料は、下記の(e1)、(e2)、(e3)、(e4)及び(e5)の特性を少なくとも1つを有することが好ましい。エチレン樹脂粉体塗料の特性としては、(e1)と、(e2)〜(e5)から選ばれる少なくとも1つの特性との組み合わせが好ましく、さらに(e1)及び(e2)と、(e3)〜(e5)から選ばれる少なくとも1つの特性との組み合わせなどが好ましい。
(e1)嵩密度が、0.2〜0.5(g/cc)、さらに0.25〜0.45(g/cc)、特に0.30〜0.40(g/cc)。
(e2)安息角が、25〜45度、さらに28〜40度、特に30〜38度。
(e3)粒径は、好ましくは35メッシュ通過品であり、さらに好ましくは40メッシュ通過品であり、特に好ましくは50メッシュ通過品である。
(e4)平均粒径は、80〜470μm、さらに好ましくは100〜350μm、特に好ましくは150〜300μm。
(e5)粉体の形状を顕微鏡で観察して、顕著なヒゲ・紐状のないこと。
【0029】
本発明に係るエチレン樹脂粉体塗料としての特性について、
(e1)嵩密度が、上記の範囲を外れると、得られるエチレン樹脂粉体塗料の流動性が悪く、粉体塗装が困難になる場合がある。
(e2)安息角が、上記の範囲を外れると、得られるエチレン樹脂粉体塗料の流動性が悪く、粉体塗装が困難になる場合がある。
(e3)粒径が、上記の範囲を外れると、得られるエチレン樹脂粉体塗料の流動性が悪く、粉体塗装が困難になる場合がある。
(e4)平均粒径は、上記の範囲を外れると、得られるエチレン樹脂粉体塗料の流動性が悪くなり、塗装品の外観を悪化させたり、表面平滑性が低下する場合がある。
(e5)粉体の形状を顕微鏡で観察して、粉体が顕著なヒゲ・紐状のものを含む場合、粉体の流動性が悪く、表面の平滑な塗膜が得られにくい。
【0030】
本発明に係るエチレン樹脂粉体塗料及びエチレン系樹脂は、高級脂肪酸、高級脂肪族アミド、金属せっけん、グリセリンエステル等の滑剤、天然シリカ、合成シリカ、タルク、珪藻土等の滑剤やアンチブロッキング剤、フェノール系、りん系、BHT等の酸化防止剤、ベンゾフェノン、ベンゾトリアゾール、HALS等の紫外線吸収剤、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、りん系、ハロゲン系等の難燃剤、シリカ、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、マイカ、カーボンブラック等の無機・有機充填剤、アゾ系、フタロシアニン系、キナクリドン系、酸化鉄、群青等の顔料、帯電防止剤、界面活性剤などを添加することができる。
【0031】
本発明に係るエチレン樹脂粉体塗料は、エチレン系樹脂とエポキシ系樹脂の各成分をバンバリーミキサー、ロールミキサー、ニーダー、高速回転ミキサー、押出機等の各種混練機、好ましくは、二軸押出機を用いて溶融混練してペレットとし、そのペレットを粉砕機、例えば、高速回転式粉砕機を用いて粉砕する方法、後処理により粉体形状を改良する方法などにより、樹脂粉体を製造することができる。特に、常温下で高速回転式粉砕機を用いて粉砕し、振動篩により分級する方法により製造されたエチレン系樹脂の樹脂粉体は、粉体の流動性が良く、この粉体を用いる粉体塗装物は表面平滑性の優れたものが得られる。また、同様の処理によって予め樹脂粉体とされたエチレン系樹脂とエポキシ系樹脂をドライブレンダーなどによって混合することによっても製造することができる。
【0032】
本発明に係るエチレン樹脂粉体塗料は、粉体塗装法により、鉄、溶融亜鉛メッキされた鉄、アルミニウム、銅、亜鉛、ニッケル、錫、ステンレスなどの金属素材の、パイプ、線材、鋼板など形状の基材金属の表面に、樹脂粉体を成形被覆することができる。粉体塗装法としては、流動浸漬法、静電塗装法、散布法、回転成形法、プローバック法、融着被覆法などの塗装方法を挙げることができる。
【0033】
基材金属は、本発明に係るエチレン樹脂粉体塗料によって塗装する前に、公知の前処理、例えば溶剤脱脂、酸洗、ショットブラスト等の前処理が行われ、さらにプライマー処理としてエポキシ系樹脂のプライマーを行なわなくても、より大きな接着力が有する粉体塗装物を得ることができる。
【0034】
本発明に係るエチレン樹脂粉体塗料は、粉体塗装法により、薬品や飲料水等の液体、気体、固体の輸送や保存用のタンク類、椅子、すべり台、カートなどの遊具、ローリーコンテナ、道具箱などのコンテナ、ボックス類、フラワースタンド、鑑賞用池、生ゴミ処理器などの家庭雑貨などの塗装物を製造できる。
【実施例】
【0035】
次に、本発明に係るエチレン樹脂粉体塗料の実施例について説明する。
実施例1
エチレン重合体であるシングルサイト触媒としてメタロセン触媒を用いて合成されたエチレンとヘキセン−1の共重合体(密度:0.931g/cm、MFR(2.16):4.0g/10分、Mw/Mn:4.5、スウェル比:1.19)と、エポキシ系熱可塑性樹脂であるエチレン−グリシジルメタクリレート−酢酸ビニル共重合体(密度0.945g/cm、MFR(2.16):7g/10分、融点:95℃)を表1に示す配合でタンブラー型ミキサーを用いて、60rpmで15分間予備混合した後、二軸混練押出機(池貝産機(株)製、PCM−40型)を用いて190℃で溶融混練し、得られたペレットを粉砕機((株)吉田製作所製、ウイレー型粉砕機:1029−B型)を用いて粉砕し、平均粒子径200μmの粉体として調整することによって、実施例1に係るエチレン樹脂粉体塗料を得た。
【0036】
【表1】

【0037】
実施例2
エチレン重合体であるシングルサイト触媒としてメタロセン触媒を用いて合成されたエチレンとヘキセン−1の共重合体(密度:0.931g/cm、MFR(2.16):4.0g/10分、Mw/Mn:4.5、スウェル比:1.19)のペレットを粉砕機((株)吉田製作所製、ウイレー型粉砕機:1029−B型)を用いて粉砕し、平均粒子径200μmの粉体として調整した。そのエチレン重合体粉体とエポキシ系熱硬化性樹脂粉体(ビスフェノールA型エポキシにイミダゾール系硬化剤を加えた物)を表1に示す配合でタンブラー型ミキサーを用いて60rpmで15分間混合することによって、実施例2に係るエチレン樹脂粉体塗料を得た。
【0038】
実施例3乃至6
エチレン重合体であるシングルサイト触媒としてメタロセン触媒を用いて合成されたエチレンとヘキセン−1の共重合体(密度:0.931g/cm、MFR(2.16):4.0g/10分、Mw/Mn:4.5、スウェル比:1.19)と、EVA(密度:0.92g/cm、MFR(2.16):10g/10分、酢酸ビニル含量:4重量%)、スチレン系エラストマー(スチレン−イソプレン−スチレン共重合体、密度:0.92g/cm、MFR(2.16):9g/10分)、エチレン系エラストマー(エチレン−ブテン−1共重合体、密度:0.88g/cm3、MFR(2.16):4g/10分)又は無水マレイン酸グラフトポリエチレン(密度:0.92g/cm、MFR(2.16):2g/10分、酸変性量:1質量%)を実施例1と同様の方法によって溶融混練した後、粉砕し、平均粒子径200μmのポリエチレン粉体を調整した。その後、そのポリエチレン粉体とエポキシ系熱硬化性樹脂粉体(ビスフェノールA型エポキシにイミダゾール系硬化剤を加えた物)を表1に示す配合でタンブラー型ミキサーを用いて60rpmで15分間混合することによって、実施例3乃至6に係るエチレン樹脂粉体塗料を得た。
【0039】
実施例7及び8
表1に示す配合で実施例1と同様の方法によって実施例7及び8に係るエチレン樹脂粉体塗料を得た。
【0040】
実施例9乃至16
表1に示す配合で実施例3乃至6と同様の方法によって実施例9乃至16に係るエチレン樹脂粉体塗料を得た。
【0041】
比較例1乃至5
表1に示す配合で実施例1と同様の方法によって比較例1及至5に係るエチレン樹脂粉体塗料を得た。
【0042】
これら粉体の流動性を以下の式による浮上率で評価した。浮上率が1.20以上であれば流動性に優れた粉体である。
【0043】
浮上率=最低浮上面高さ(mm)/粉末充填高さ(mm)
(ここで、粉末充填高さとは、空気透過に優れた炉布を底部に設置した流動槽内に粉体を静かに投入した際の粉体上面の高さであり、最低浮上面高さとは、底部から静かにエアーを流入させていき、粉体表面が均一平面状態を維持できる最大エアー流入量における粉体上面の高さである。)
【0044】
実施例1乃至16、並びに比較例1乃至5に係るエチレン樹脂粉体塗料について、直径60mm、深さ300mmの流動槽を用い、粉末充填高さを100mmとして評価を行った結果を表1に示す。
【0045】
実験例1
次に、実施例1乃至16、並びに比較例1乃至5に係るエチレン樹脂粉体塗料を用いて溶融亜鉛メッキ鋼板の塗装を行なった。先ず、JIS G3302に準拠した厚み2.3mm×幅50mm×長さ150mmの溶融亜鉛メッキ鋼板を準備し、何ら前処理を行なわずに、この亜鉛メッキ鋼板を380℃のオーブンに8分間予熱し、オーブンより取り出し表面温度が300℃になったのを確認した後に、実施例1乃至16、並びに比較例1乃至5に係るエチレン樹脂粉体塗料それぞれで満たされた流動浸漬層槽に10秒間浸漬した。その流動浸漬槽から亜鉛メッキ鋼板を取り出し、200℃のオーブンで2分間、後加熱を施した。
【0046】
【表2】

【0047】
塗料の加工性は、後加熱の際に塗料が垂れるか否かによって評価した。これらの結果を表2に示す。
【0048】
これら粉体塗装された溶融亜鉛メッキ鋼板について、密着強度試験を行なった。密着強度試験は、粉体塗装された亜鉛メッキ鋼板の長さ方向に、カッターナイフを用いて10mm間隔の切れ込みを鋼板表面に達する深さまで入れ、その幅10mmの塗装皮膜と亜鉛メッキ鋼板との密着強度を引張り試験機を用いて、JIS G 3469に準拠した方法で評価した(剥離角度180度、剥離速度50mm/min)。これらの結果を表2に示す。
【0049】
表2に示すように、実施例1乃至16に係るエチレン樹脂粉体塗料の方が、比較例1乃至5に係る粉体塗料に比して、接着性に優れていることが分かる。
【0050】
実験例2
次に、実験例1で用いた亜鉛メッキ鋼板について、メッキ表面を平滑にする目的でワイヤーブラシを用い軽度の研磨を行った後に、粉体塗装処理を実験例1と同様に行い、同様に密度強度試験を行なった。その結果を表3に示す。
【0051】
【表3】

【0052】
表3に示すように、実施例1乃至6に係るエチレン樹脂粉体塗料の方が、比較例1乃至5に係る粉体塗料に比して、接着性に優れていることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン重合体が含まれたエチレン系樹脂と、エポキシ系樹脂と、が含まれていることを特徴とするエチレン樹脂粉体塗料。
【請求項2】
前記エチレン系樹脂100質量部に対して、エポキシ系樹脂が1〜1900質量部含まれていることを特徴とする請求項1記載のエチレン樹脂粉体塗料。
【請求項3】
前記エチレン重合体は、シングルサイト触媒を用いて製造されていることを特徴とする請求項1又は2記載のエチレン樹脂粉体塗料。
【請求項4】
請求項1乃至3いずれか記載のエチレン樹脂粉体塗料が基材金属の表面に粉体塗装法により被覆されていることを特徴とするエチレン樹脂粉体塗料の被覆物。

【公開番号】特開2008−179803(P2008−179803A)
【公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−334786(P2007−334786)
【出願日】平成19年12月26日(2007.12.26)
【出願人】(506252783)宇部丸善ポリエチレン株式会社 (5)
【Fターム(参考)】