説明

エチレン系重合体およびそれよりなるフィルム

【目的】熱安定性に優れると共に、幅広い成形加工温度範囲で成形加工性に優れ、かつ、低温ヒートシール性にも優れたエチレン系重合体およびフィルムを提供する。
【解決手段】下記(A)〜(H)の要件を満足することを特徴とするエチレン系重合体を用いる。
(A)密度(kg/m)が910以上940未満、(B)MFR(g/10分)が0.1以上20以下、(C)末端ビニル数が1,000炭素原子当たり0.2個以下、(D)160℃で測定した溶融張力[MS160(mN)]とMFRの関係がMS160>90−130×log(MFR)、(E)190℃で測定した溶融張力[MS190(mN)]とMS160の関係が、MS160/MS190<1.8、
(F)流動の活性化エネルギー[E(kJ/mol)]と密度の関係が、127−0.107d<E<88−0.060d、(G)連続昇温溶出分別法による溶出温度−溶出量曲線にピークが複数個存在、(H)50℃におけるn−ヘプタン抽出量が0.2重量%以下

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融張力が高く優れた成形加工性、強度、耐熱性を有するエチレン系重合体及びそれよりなるフィルムに関するものである。さらに詳細には、特定の範囲の分子量分布と、比較的広い組成分布を有し、溶融張力が高く、耐熱性、低温融着特性に優れたエチレン系重合体及びそれよりなるフィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、高圧ラジカル重合で製造される低密度ポリエチレン(以下、LDPEと記す。)は、溶融張力(以下、MSと記す。)が高いエチレン重合体であることが知られている。しかし、流動の活性化エネルギー(以下、Eと記す。)が大きく、溶融粘度の温度依存性が大きいため、実際のフィルム成形において、特定の成形加工温度範囲においてのみ高いMSを有することから、重合体に適した加工機を選定することが必要であった。また、機械強度、耐熱性、耐候性に劣り、その改善が求められていた。
【0003】
一方、直鎖状低密度ポリエチレン(以下、LLDPEと記す。)と呼ばれているエチレン・α−オレフィン共重合体は、チーグラー型触媒またはメタロセン触媒で製造され、LDPEと比較し、強度および靭性が大きく、フィルム、シート、中空成形体、射出成形体等のさまざまな用途に用いられているが、Eが小さく、広い温度範囲で溶融張力は安定しているものの、溶融張力の絶対値が小さいために、フィルム成形時の成形安定性に欠けるという課題を有している。
【0004】
そして、成形加工性を改良したエチレン系重合体として、例えば(イ)特定のメタロセン触媒を用い、特定の重合条件下で得られた長鎖分岐を有するエチレン−α−オレフィン共重合体(例えば特許文献1参照。)、(ロ)特定のメタロセン触媒で得られた、Eが60kJ/mol以上であるエチレン−α−オレフィン共重合体(例えば特許文献2参照。)、(ハ)特定のメタロセン触媒を用い、特定の重合条件下で得られた、分子量分布が1.5〜4.5と狭いにもかかわらず、連続昇温溶出分別法(TREF)により求めた溶出温度−溶出曲線において、低温側にブロードなピークを有し、かつ、85℃から100℃の間にも一つのピークを有するような組成分布をもつエチレン−α−オレフィン共重合体(例えば特許文献3参照。)、等が提案されている。
【0005】
また、Eが低く、組成分布の広く、かつMSが高いことから幅広い成形加工温度範囲で安定した加工性を有するエチレン系重合体として、Cr系触媒を用いて製造されたエチレン重合体が知られている。
【0006】
【特許文献1】米国特許第5,272,236号明細書
【特許文献2】特開2004−292772号公報
【特許文献3】特開平09−25317号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1,2に提案されたエチレン系共重合体は、LDPEと同様にEが大きく、溶融粘度の温度依存性が大きいため、成形加工において、温度を厳密にコントロールする必要がある。また、組成分布が非常にシャープであるため、同じ密度で比較した場合ヒートシール温度が、相対的に低融点成分を多く含む組成分布の広いLDPEより高めとなり、かつ、耐熱性に劣る、という課題を有していた。
【0008】
また、特許文献3に提案されたエチレン−α−オレフィン共重合体は、分子量分布が1.5〜4.5と狭く、組成分布を拡大しても低温での融着特性(シール強度)が不十分である、という課題を有していた。さらに、Cr系触媒を用いて製造されたエチレン重合体においては、我々の検討において、エチレン重合体中に末端ビニル基が1,000個の炭素原子当たり0.3個以上存在するため溶融加工時の黄変等の熱安定性に課題があることが判明した。
【0009】
そこで、末端ビニル基等の不飽和結合数が少なく熱安定性に優れると共に、組成分布が広く、Eが低く幅広い成形加工温度範囲で成形加工性に優れ、かつ、低温ヒートシール性にも優れたエチレン系重合体の開発が望まれており、本発明は、熱安定性に優れると共に、幅広い成形加工温度範囲で成形加工性に優れ、かつ、低温ヒートシール性にも優れたエチレン系重合体およびそれよりなるフィルムを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記の課題に対して鋭意検討した結果、特定の要件を満足するエチレン系重合体が熱安定性に優れると共に、幅広い成形加工温度範囲で成形加工性に優れ、かつ、低温ヒートシール性にも優れたエチレン系重合体となることを見出し、本発明を完成させるに到った。
【0011】
すなわち、本発明は、エチレンから導かれる繰り返し単位、又は、エチレンから導かれる繰り返し単位及び炭素数3〜8のα−オレフィンから導かれる繰り返し単位、からなり下記(A)〜(H)の要件を満足することを特徴とするエチレン系重合体に関するものである。
(A)密度[d(kg/m)]が910以上940未満
(B)190℃、2.16kg荷重で測定したメルトフローレート[MFR(g/10分)]が0.1以上20以下
(C)末端ビニル数が1,000炭素原子当たり0.2個以下
(D)160℃で測定した溶融張力[MS160(mN)]とMFRの関係が、下記式(1)を満足
MS160>90−130×log(MFR) (1)
(E)190℃で測定した溶融張力[MS190(mN)]とMS160の関係が、下記式(2)を満足
MS160/MS190<1.8 (2)
(F)流動の活性化エネルギー[E(kJ/mol)]と密度の関係が、下記式(3)を満足
127−0.107d<E<88−0.060d (3)
(G)連続昇温溶出分別法(TREF)による溶出温度−溶出量曲線にピークが複数個存在
(H)50℃におけるn−ヘプタン抽出量が0.2重量%以下
【0012】
以下に本発明に関し、詳細に説明する。
【0013】
本発明のエチレン系重合体は、エチレンから導かれる繰り返し単位、又は、エチレンから導かれる繰り返し単位及び炭素数3〜8のα−オレフィンから導かれる繰り返し単位、からなるエチレン系重合体であり、一般的にはエチレン重合体、エチレン−α−オレフィン共重合体と称される範疇に属するものである。
【0014】
そして、炭素数3〜8のα−オレフィンとしては、例えばプロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテン、4−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ブテン等が挙げられ、これら炭素数3〜8のα−オレフィンは、少なくとも2種類を併用していてもよい。
【0015】
本発明のエチレン系重合体は、(A)密度[d(kg/m)]が910kg/m以上940kg/m以下であり、特に910kg/m以上940kg/m以下であることが好ましい。ここで、密度が910kg/m未満のエチレン系重合体は、融解温度が低いため成形加工を行った製品は耐熱性に劣るものとなる。一方、940kg/mを超えるエチレン系重合体は、融解温度が高いため成形加工を行う際のヒートシール温度が高くなり生産性が低下することに加えて、得られる製品は耐衝撃強度性に劣るものとなる。なお、本発明でいう密度は、JIS K6760(1995年)に準拠し、密度勾配管法により測定することができる。
【0016】
本発明のエチレン系重合体は、(B)190℃、2.16kg荷重で測定したメルトフローレート[MFR(g/10分)](以下、MFRと記す。)が、0.1g/10分以上20g/10分以下である。ここで、MFRが0.1g/10分未満でのエチレン系重合体は、成形加工時に押し出し機の負荷が大きくなり、生産低下するため好ましくない。また、20を超えると溶融張力が小さくなり、かつ、製品の強度も低下するため好ましくない。
【0017】
本発明のエチレン系重合体は、(C)末端ビニル数が1,000炭素原子当たり0.2個以下であり、特に0.1個以下であることが好ましい。ここで、末端ビニル数が1,000炭素原子当たり0.2個を越えるエチレン系重合体は、成形加工時の熱劣化、とくに黄変の問題が生じるものとなる。
【0018】
なお、本発明でいう末端ビニル数は、例えばフーリエ変換赤外分光光度計(FT−IR)を用いて、エチレン系重合体を熱プレスした後、氷冷して調製したフィルムを試料とし、4000cm−1〜400cm−1の範囲で測定した結果により、下式を用い算出することができる。
1000炭素原子当たりの末端ビニル数(個/1000C)=a×A/L/d
(式中、aは吸光光度係数、Aは末端ビニルに帰属される909cm−1の吸光度、Lはフィルムの厚み、dは密度を示す。)
aの吸光光度係数は、H−NMR測定より、1000炭素原子当たりの末端ビニル数を確認したサンプルを用いて作成した検量線から求めることができる。H−NMR測定は、核磁気共鳴測定装置(日本電子社製、商品名GSX400)を用い、重水素化ベンゼンとo−ジクロロベンゼンの混合溶媒中、130℃において実施した。1000炭素原子当たりの末端ビニル数は、メチレンに帰属されるピークと末端ビニルに帰属されるピークの積分比から算出した。各ピークは、テトラメチルシランを基準(0ppm)として、化学シフトが1.3ppmのピークをメチレン、4.8−5.0ppmのピークを末端ビニルと帰属した。
【0019】
本発明のエチレン系重合体は、(D)160℃で測定した溶融張力[MS160(mN)](以下、MS160と記す。)と190℃で、2.16kg荷重で測定したMFRの関係が、下記式(1)を満足するものである。ここで、MS160が[110−110×log(MFR)]以下の範囲にあるエチレン系重合体は、成形加工時の成形加工性に問題を有するものとなる。
MS160>110−110×log(MFR) (1)
なお、本発明でいうMS160は、長さが8mm,直径が2.095mmであるダイスを用い、流入角90°で、せん断速度10.8s−1、延伸比が47の条件で、測定温度160℃で測定することができる。ただし、最大延伸比が47未満の場合、破断しない最高の延伸比で測定した値をMS160とした。
【0020】
本発明のエチレン系重合体は、(E)190℃で測定した溶融張力[MS190(mN)](以下、MS190と記す。)とMS160の関係が、下記式(2)を満足するものであり、特に下記式(2’)を満足するものであることが好ましい。ここで、MS160/MS190が1.8以上のエチレン系重合体である場合、成形加工温度による溶融張力が大きく変化するために、成形加工温度の厳密な調節が必要となり、ひいては成形可能範囲が狭くなり、成形加工性に劣るエチレン系樹脂となる。
【0021】
MS160/MS190<1.8 (2)
MS160/MS190<1.7 (2’)
なお、本発明でいうMS190は、長さが8mm,直径が2.095mmであるダイスを用い、流入角90°で、せん断速度10.8s−1、延伸比が47の条件で、測定温度190℃で測定することができる。ただし、最大延伸比が47未満の場合、破断しない最高の延伸比で測定した値をMS190とした。
【0022】
本発明のエチレン系重合体は、(F)流動の活性化エネルギー[E(kJ/mol)](以下、Eと記す。)と密度の関係が、下記式(3)を満足するものであり、特に下記式(3’)を満足するものであることが好ましい。ここで、E≦(127−0.107d)のエチレン系重合体である場合、成形加工に供した際の加工性に問題が生じる。一方E≧(88−0.060d)のエチレン系重合体である場合、溶融粘度の温度依存性が大きく、成形加工温度の厳密な調節が必要となり、ひいては成形可能範囲が狭くなるという問題が生じる。
【0023】
127−0.107d<E<88−0.060d (3)
127−0.107d<E<87−0.060d (3’)
なお、本発明でいうEは、例えば160℃〜230℃の動的粘弾性測定によって得られるシフトファクターをアレニウス式に代入して求めることができる。
【0024】
本発明のエチレン系重合体は、(G)連続昇温溶出分別法(以下、TREFと記す。)により求めた溶出温度−溶出量曲線においてピークが複数個存在するものであり、特に融点が高く、結晶化度が上昇することから成形体とした際の耐熱性および剛性が向上することから、高温側のピークが85℃から100℃の間に存在することが好ましい。また、成形体とした際の低温ヒートシール特性に優れることから低温側のピークは65℃から80℃の間に存在することが好ましい。
【0025】
なお、図1に本発明のエチレン系重合体の代表的なTREF溶出温度−溶出量曲線を示す。また、図2には代表的なメタロセン触媒によるエチレン・α−オレフィン共重合体のTREF溶出温度−溶出量曲線を示す。本発明のエチレン系重合体は組成分布が広いために溶出温度−溶出量曲線が2つのピークを有しており、従来のメタロセン触媒により得られるエチレン・α−オレフィン共重合体とは異なったものである。
【0026】
本発明のエチレン系重合体は、(H)50℃におけるn−ヘプタン抽出量が0.2重量%未満である。ここで、該抽出量が0.2重量%を超えるエチレン系重合体である場合、成形品は低温ヒートシール性に劣るものとなる。
【0027】
更に、本発明のエチレン系重合体は、特に機械強度に優れる成形品を得ることが可能となることから(I)重量平均分子量(以下、Mwと記す。)と数平均分子量(以下、Mnと記す。)の比(Mw/Mn)が4.5以上7.5以下であることが好ましく、特に5.0以上7.0以下であることが好ましい。なお、本発明でいうMw及びMnは、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(以下、GPCと記す。)によって測定した溶出曲線より標準ポリエチレン換算値として算出することが可能である。
【0028】
本発明のエチレン系重合体の製造方法としては、上記要件(A)〜(H)を満足するエチレン系重合体の製造が可能であれば如何なる製造方法を用いることも可能であり、例えば重合触媒および/または重合条件を多段階で変更する多段重合法、複数の重合触媒を混合した触媒による重合法、同一または異なる重合触媒で調製した複数のエチレン系重合体をブレンドする方法等を挙げることができる。
【0029】
上記要件(A)〜(H)を満たし、好ましくは前記要件(I)を満足する本発明のエチレン系重合体は、後述する本願実施例の製造条件そのもの、あるいは条件因子のマイナー変動によって任意に作り分けることが可能である。条件因子変動の具体例を述べると、用いる成分(a)および成分(b)の構造、成分(a)に対する成分(b)の量、用いる助触媒成分の種類など触媒成分に関する要件や、重合温度、エチレン分圧、共存させる水素などの分子量調整剤の量、添加するコモノマー量など重合条件制御によっても作り分けが可能である。またさらに多段重合との組み合わせで、物性の範囲を拡大することも可能である。
【0030】
より具体的には、例えばエチレン分圧を低下させること、コモノマー添加量を減少させること、成分(a)の構造を変えること等によって、末端ビニル数を減少させることが可能である。また、溶融張力は、成分(a)の構造を変えること、末端ビニル数を増加させること、成分(b)の構造を変えること、エチレン分圧を低下させること、長鎖分岐数を増加させること、長鎖分岐長さを増加させること、成分(a)に対する成分(b)の量を変えること、Mw/Mnを増加させること等により増加させることが可能である。さらに流動の活性化エネルギー(E)は、成分(a)の構造、末端ビニル数、成分(b)の構造、エチレン分圧、長鎖分岐数、長鎖分岐長さ、成分(a)に対する成分(b)の量により制御が可能である。
【0031】
本発明のエチレン系重合体の製造に用いる重合触媒としては、例えば、特開2004−346304号公報、特開2005−248013号公報、特開2006−321991号公報に記載の重合触媒を挙げることができる。例えばメタロセン化合物として、2つのシクロペンタジエニル基が2種類以上の原子の連鎖からなる架橋基で架橋されているか、もしくは2個以上の原子の連鎖からなる架橋基で架橋されている架橋型ビスシクロペンタジエニルジルコニウム錯体[成分(a)]と、架橋型(シクロペンタジエニル)(フルオレニル)ジルコニウム錯体および/または架橋型(インデニル)(フルオレニル)ジルコニウム錯体[成分(b)]を用いたメタロセン触媒の存在下に、エチレンを重合する、またはエチレンと炭素数3〜8のα−オレフィンを共重合する方法を用いることができる。
【0032】
成分(a)の具体例としては、1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン−1,3−ジイル−ビス(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロライド、1,1−ジメチル−1−シラエタン−1,2−ジイル−ビス(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロライド、プロパン−1,3−ジイル−ビス(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロライド、ブタン−1,4−ジイル−ビス(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロライド、シス−2−ブテン−1,4−ジイル−ビス(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロライド、1,1,2,2−テトラメチルジシラン−1,2−ジイル−ビス(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロライド等のジクロライドおよび上記遷移金属化合物のジメチル体、ジエチル体、ジヒドロ体、ジフェニル体、ジベンジル体を例示することができる。
【0033】
成分(b)の具体例としては、ジフェニルメチレン(1−シクロペンタジエニル)(9−フルオレニル)ジルコニウムジクロリド、ジフェニルメチレン(2−トリメチルシリル−1−シクロペンタジエニル)(9−フルオレニル)ジルコニウムジクロリド、ジフェニルメチレン(1−シクロペンタジエニル)(2,7−ジメチル−9−フルオレニル)ジルコニウムジクロリド、ジフェニルメチレン(1−シクロペンタジエニル)(2,7−ジ−t−ブチル−9−フルオレニル)ジルコニウムジクロリド、イソプロピリデン(1−シクロペンタジエニル)(9−フルオレニル)ジルコニウムジクロリド、イソプロピリデン(1−シクロペンタジエニル)(2,7−ジ−t−ブチル−9−フルオレニル)ジルコニウムジクロリド、ジフェニルシランジイル(1−シクロペンタジエニル)(9−フルオレニル)ジルコニウムジクロリド、ジメチルシランジイル(1−シクロペンタジエニル)(9−フルオレニル)ジルコニウムジクロリド、ジフェニルメチレン(1−インデニル)(9−フルオレニル)ジルコニウムジクロリド、ジフェニルメチレン(2−フェニル−1−インデニル)(9−フルオレニル)ジルコニウムジクロリド、ジフェニルメチレン(2−フェニル−1−インデニル)(2,7−ジ−t−ブチル−9−フルオレニル)ジルコニウムジクロリド等のジクロライドおよび上記遷移金属化合物のジメチル体、ジエチル体、ジヒドロ体、ジフェニル体、ジベンジル体を例示することができる。また上記遷移金属化合物のジルコニウム原子をチタン原子またはハフニウム原子に置換した化合物も例示することもできる。
【0034】
本発明のエチレン系重合体の製造における、成分(a)に対する成分(b)の量は、特に制限はなく、0.0001〜100倍モルであることが好ましく、特に好ましくは0.001〜10倍モルである。
【0035】
本発明のエチレン系重合体の製造に用いることができる方法における成分(a)と成分(b)を用いたメタロセン触媒としては、成分(a)と成分(b)と有機アルミニウム化合物[成分(c)]からなる触媒、成分(a)と成分(b)とアルミノオキサン[成分(d)]からなる触媒、さらに成分(c)を含んでなる触媒、成分(a)と成分(b)とプロトン酸塩[成分(e)]、ルイス酸塩[成分(f)]または金属塩[成分(g)]から選ばれる少なくとも1種類の塩からなる触媒、さらに成分(c)を含んでなる触媒、成分(a)と成分(b)と成分(d)と無機酸化物[成分(h)]からなる触媒、成分(a)と成分(b)と成分(h)と成分(e)、成分(f)、成分(g)から選ばれる少なくとも1種類の塩からなる触媒、さらに成分(c)を含んでなる触媒、成分(a)と成分(b)と粘土鉱物[成分(i)]と成分(c)からなる触媒、成分(a)と成分(b)と有機化合物で処理された粘土鉱物[成分(j)]からなる触媒を例示することができるが、好ましくは成分(a)と成分(b)と成分(j)からなる触媒を用いることができる。
【0036】
成分(i)および成分(j)として用いることが可能な粘土鉱物は、微結晶状のケイ酸塩を主成分とする微粒子である。粘土鉱物の大部分は、その構造上の特色として層状構造を成しており、層の中に種々の大きさの負電荷を有することが挙げられる。この点で、シリカやアルミナのような三次元構造を持つ金属酸化物と大きく異なる。これらの粘土鉱物は、一般に層電荷の大きさで、パイロフィライト、カオリナイト、ディッカイトおよびタルク群(化学式当たりの負電荷がおよそ0)、スメクタイト群(化学式当たりの負電荷がおよそ0.25から0.6)、バーミキュライト群(化学式当たりの負電荷がおよそ0.6から0.9)、雲母群(化学式当たりの負電荷がおよそ1)、脆雲母群(化学式当たりの負電荷がおよそ2)に分類されている。ここで示した各群には、それぞれ種々の粘土鉱物が含まれるが、スメクタイト群に属する粘土鉱物としては、モンモリロナイト、バイデライト、サポナイト、ヘクトライト等が挙げられる。また、上記粘土鉱物は複数混合して用いることもできる。
【0037】
成分(j)における有機化合物処理とは、粘土鉱物層間に有機イオンを導入し、イオン複合体を形成することをいう。有機化合物処理で用いられる有機化合物としては、N,N−ジメチル−n−オクタデシルアミン塩酸塩、N,N−ジメチル−n−エイコシルアミン塩酸塩、N,N−ジメチル−n−ドコシルアミン塩酸塩、N,N−ジメチルオレイルアミン塩酸塩、N,N−ジメチルベヘニルアミン塩酸塩、N−メチル−ビス(n−オクタデシル)アミン塩酸塩、N−メチル−ビス(n−エイコシル)アミン塩酸塩、N−メチル−ジオレイルアミン塩酸塩、N−メチル−ジベヘニルアミン塩酸塩、N,N−ジメチルアニリン塩酸塩を例示することができる。
【0038】
成分(a)と成分(b)と成分(j)からなる触媒は、有機溶媒中、成分(a)と成分(b)と成分(j)を接触させることによって得られるが、成分(a)と成分(j)の接触生成物に成分(b)を添加する方法、成分(b)と成分(j)の接触生成物に成分(a)を添加する方法、成分(a)と成分(b)の接触生成物に成分(j)を添加する方法、成分(j)に成分(a)と成分(b)の接触生成物を添加する方法を例示することができる。
【0039】
接触溶媒としては、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、シクロペンタンもしくはシクロヘキサン等の脂肪族炭化水素類、ベンゼン、トルエンもしくはキシレン等の芳香族炭化水素類、エチルエーテルもしくはn−ブチルエーテル等のエーテル類、塩化メチレンもしくはクロロホルム等のハロゲン化炭化水素類、1,4−ジオキサン、アセトニトリルまたはテトラヒドロフランを例示することができる。
【0040】
接触温度については、0〜200℃の間で選択して処理を行うことが好ましい。
【0041】
各成分の使用量は、成分(j)1gあたり成分(a)が、0.0001〜100mmol、好ましくは0.001〜10mmolである。
【0042】
このようにして調製された成分(a)と成分(b)と成分(j)の接触生成物は、洗浄せずに用いても良く、また洗浄した後に用いても良い。また、成分(a)または成分(b)がジハロゲン体の時、さらに成分(c)を添加することが好ましい。また、成分(j)、重合溶媒およびオレフィン中の不純物を除去することを目的に成分(c)を添加することができる。
【0043】
本発明のエチレン系重合体の製造に用いることができる方法において、重合温度は−100〜120℃が好ましく、特に生産性を考慮すると20〜120℃、さらには60〜120℃の範囲で行うことが好ましい。重合時間は10秒〜20時間の範囲が好ましく、重合圧力は常圧〜300MPaの範囲で行うことが好ましい。エチレンと炭素数3〜8のα−オレフィンの供給割合として、エチレン/炭素数3〜8のα−オレフィン(モル比)が、1〜200、好ましくは3〜100、さらに好ましくは5〜50の供給割合を用いることができる。また、重合時に水素などを用いて分子量の調節を行うことも可能である。重合はバッチ式、半連続式、連続式のいずれの方法でも行うことが可能であり、重合条件を変えて2段階以上に分けて行うことも可能である。また、エチレン系共重合体は、重合終了後に従来既知の方法により重合溶媒から分離回収され、乾燥して得ることができる。
【0044】
重合はスラリー状態、溶液状態または気相状態で実施することができ、特に、重合をスラリー状態で行う場合にはパウダー粒子形状の整ったエチレン系共重合体を効率よく、安定的に生産することができる。また、重合に用いる溶媒は一般に用いられる有機溶媒であればいずれでもよく、具体的には例えばベンゼン、トルエン、キシレン、プロパン、イソブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、ガソリン等が挙げられ、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテン等のオレフィン自身を溶媒として用いることもできる。
【0045】
本発明のエチレン系重合体は、各種成形品として用いることが可能であり、その中でも溶融張力が高く、耐熱性、低温融着特性に優れることからフィルムとした際に、成形加工性、耐熱性、低温ヒートシール性に優れるフィルムとなる。そして、フィルムとする際には、特に耐熱性フィルムとして用いることが可能となり、さらに透明性に優れる容器、袋としての転用が可能となることから、厚み10μm〜500μmのフィルムとすることが好ましく、特に30μm〜300μmのフィルムとすることが好ましい。なお、本発明のエチレン系重合体をフィルムとする際の製造方法に制限はなく、例えば空冷インフレーション成形、水冷インフレーション成形、キャスト成形等の共押出し法;押出ラミネーション法、ドライラミネーション法等を例示することができる。
【0046】
また、本発明のエチレン系重合体は、さらに本発明のエチレン系重合体からなる層を少なくとも1層含む積層フィルムとして用いることも可能である。その際の相手材(層)としては、例えばポリエチレン、エチレン・α−オレフィン共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体、ポリプロピレン、プロピレン・α−オレフィンブロック共重合体、プロピレン・α−オレフィンランダム共重合体等のオレフィン系重合体;ビニルアルコール重合体、エチレン・ビニルアルコール共重合体、ポリブテン、ポリメチルペンテン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル、ナイロン等のポリアミド、ポリカーボネート、メタクリル樹脂、ポリウレタン、セルロース系樹脂等からなるシート、フィルム、膜等が挙げられ、更にシリカ、酸化アルミニウムなどの酸化物あるいは無機物を蒸着したシート、フィルム、膜等であってもよい。また、該フィルム、シート、膜は無延伸であってもよいし、一軸または二軸方向に延伸されたものであってもよい。また、多層フィルムの厚みとしては、特に制限はなく、経済性や加工性等の点から30μm〜500μmの範囲が好ましい。
【0047】
さらに、積層フィルムの製造方法は制限はなく、例えば多層空冷インフレーション成形、多層水冷インフレーション成形、多層キャスト成形等の共押出し法、押出ラミネーション法、サンドラミネーション法、タンデムラミネーション法、ドライラミネーション法等を例示することができる。
【0048】
本発明のエチレン系重合体は、必要に応じて、酸化防止剤、耐候安定剤、帯電防止剤、スリップ剤、界面活性剤、酸素吸収剤、ガスバリア剤、防曇剤、流滴剤、造核剤、顔料、染料、シリカ、タルク、マイカ、カーボン、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、金属ステアレート、木粉、コルク粉末、滑剤、ポリエチレンワックスやポリプロピレンワックスなどのポリオレフィンワックス、セルロースパウダー等の無機あるいは有機の添加剤や充填剤、熱可塑性樹脂および熱可塑性エラストマーを本発明の目的を損なわない範囲で添加しても良い。
【0049】
酸化防止剤の例としては、フェノール系酸化防止剤、有機ホスファイト系酸化防止剤、チオエーテル系酸化防止剤、ヒンダードアミン系酸化防止剤等を挙げることができる。
【0050】
アンチブロッキング剤の例としては、酸化アルミニウム、微粉末シリカ、ポリメチルメタアクリレート粉末、ゼオライト、シリコン樹脂等を挙げることができる。
【0051】
スリップ剤の例としては、ラウリン酸アミド、パルミチン酸アミド、ステアリン酸アミド、ベヘニン酸アミド、ヒドロキシステアリン酸アミドなどの飽和脂肪酸モノアミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、リシノール酸アミドなどの不飽和脂肪酸モノアミド、N−ステアリルステアリン酸アミド、N−オレイルオレイン酸アミド、N−ステアリルオレイン酸アミド、N−オレイルステアリン酸アミド、N−ステアリルエルカ酸アミド、N−オレイルパルミチン酸アミドなどの置換アミド、メチロールステアリン酸アミド、メチロールベヘニン酸アミドなどのメチロールアミド類、メチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスカプリン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスイソステアリン酸アミド、エチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド、エチレンビスベヘニン酸アミドなどの飽和脂肪酸ビスアミド、エチレンビスオレイン酸アミド、ヘキサメチレンビスオレイン酸アミド、N,N’−ジオレイルアジピン酸アミド、N,N’−ジオレイルセバシン酸アミドなどの不飽和脂肪酸ビスアミド、m−キシリレンビスステアリン酸アミド、N,N’−ジステアリルイソフタル酸アミドなどの芳香族系ビスアミドなどを挙げることができ、これらは、単品や2種類以上を併用して用いることができる。
【0052】
造核剤の例としては、ジベンジリデンソルビトール、ロジン酸の部分金属塩等のロジン系核剤、アルミニウム系核剤等を挙げることができる。
【0053】
これらの添加剤、充填剤、熱可塑性樹脂および熱可塑性エラストマーを添加する場合は、公知な種々の方法、例えば、ヘンシェルミキサー、V−ブレンダー、リボンブレンダー、タンブラーブレンダー等で混合後、単軸押出機、二軸押出機、ニーダー、バンバリーミキサー等で溶融混練し、造粒あるいは粉砕する方法、事前に溶融混練せずにドライブレンド又はオートフィーダーによるブレンド方法等を用いることができる。
【0054】
本発明のエチレン系重合体、それよりなるフィルム、多層フィルムの用途としては、例えば食品、医薬品、工業薬品、工業部品、電子部品、飲料等の包装袋や容器等として好適に用いることができる。さらに詳しくは、規格袋、重袋、米袋、ラップフィルム、マスキングフィルム、クリーニング袋、繊維包装袋、工業部品包装袋、電子部品包装袋、ファッションバッグ、ラミ原反、砂糖袋、油物包装袋、水物包装袋、食品包装用等の包装用フィルム、延伸テープ、バッグインボックス、輸液バッグ、血液バッグ、医療器具容器、工業薬品容器、農業用資材等に利用することができる。
【発明の効果】
【0055】
本発明により、熱安定性に優れ、幅広い成形加工温度範囲での成形加工性に優れ、優れた耐熱性を保持しながら、低温ヒートシール性も兼ね備えたエチレン系重合体とそのフィルムが得られる。
【実施例】
【0056】
以下実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、断りのない限り用いた試薬等は市販品を用いた。
【0057】
有機化合物で処理された粘土鉱物の調製、エチレン系重合体製造用触媒の調製、エチレン系重合体の製造および溶媒精製は全て不活性ガス雰囲気下で行った。また、溶媒は全て予め公知の方法で精製、乾燥、脱酸素を行ったものを用いた。トリイソブチルアルミニウムのヘキサン溶液(0.714M)は東ソーファインケム(株)製を用いた。
【0058】
エチレン系重合体の諸物性は、以下に示す方法により測定した。
【0059】
<重量平均分子量(M)、数平均分子量(M)および重量平均分子量と数平均分子量の比(M/M)の測定>
ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(以下、GPC)によって測定した。GPC装置(東ソー(株)製 商品名HLC−8121GPC/HT、カラム(東ソー(株)製 商品名TSKgel GMHhr−H(20)HTを装着)にて、カラム温度140℃、溶離液1,2,4−トリクロロベンゼンを用いて測定した。測定試料は1.0mg/mlの濃度で調製し、0.3ml注入して測定した。分子量の検量線は、分子量既知のポリスチレン試料を用いて校正されている。なお、MおよびMは直鎖状ポリエチレン換算の値として求めた。
【0060】
<密度(d)の測定>
JIS K6760(1995)に準拠して密度勾配管法で測定した。
【0061】
<末端ビニル数の測定>
フーリエ変換赤外分光光度計(FT−IR)(Perkin Elmer社製、商品名SPECTRUM ONE)を用いて、エチレン系重合体を熱プレスした後、氷冷して調製したフィルムを4000cm−1〜400cm−1の範囲で測定し、下式を用い算出した。
1000炭素原子当たりの末端ビニル数(個/1000C)=a×A/L/d
(式中、aは吸光光度係数、Aは末端ビニルに帰属される909cm−1の吸光度、Lはフィルムの厚み、dは密度を示す。なお、aは、H−NMR測定より、1000炭素原子当たりの末端ビニル数を確認したサンプルを用いて作成した検量線から求めた。H−NMR測定は、核磁気共鳴測定装置(日本電子社製、商品名GSX400)を用い、重水素化ベンゼンとo−ジクロロベンゼンの混合溶媒中、130℃において実施した。1000炭素原子当たりの末端ビニル数は、メチレンに帰属されるピークと末端ビニルに帰属されるピークの積分比から算出した。各ピークは、テトラメチルシランを基準(0ppm)として、化学シフトが1.3 ppmのピークをメチレン、4.8−5.0 ppmのピークを末端ビニルと帰属した。)
<融点の測定>
DSC(パーキンエルマー社製、商品名:DSC−7)を用いて測定を行なった。5〜10mgのサンプルをアルミニウムパンに挿填し、DSCに設置した後、80℃/分の昇温速度で230℃まで昇温し、230℃で3分間放置する。その後、10℃/分の降温速度で−10℃まで冷却し、再度10℃/分の昇温速度で−10℃から150℃まで昇温するの手順で昇温/降温操作を行い、2回目の昇温時に観測される吸熱曲線のピーク温度を評価した。
【0062】
<流動の活性化エネルギー(E)の測定>
エチレン系重合体に、耐熱安定剤(チバスペシャリティケミカルズ社製、イルガノックス1010TM;1,500ppm、イルガフォス168TM;1,500ppm)を添加したものを、インターナルミキサー(東洋精機製作所製、商品名ラボプラストミル)を用いて、窒素気流下、190℃、回転数30rpmで30分間混練したもの測定用試料として調整した。
【0063】
は、円板−円板レオメーター(アントンパール社製、商品名MCR−300)を用い、150℃、170℃、190℃の各温度で角速度0.1〜100rad/sの範囲のせん断貯蔵弾性率G’、せん断損失弾性率G”を求め、基準温度150℃での横軸のシフトファクターを求め、以下のアレニウス型の式により計算した。
粘度(η)=Aexp(E/RT)
式中、Rは気体定数である。
なお、縦軸の移動は行っていない。
【0064】
<溶融張力(MS160、MS190)の測定>
エチレン系重合体に、耐熱安定剤(チバスペシャリティケミカルズ社製、イルガノックス1010TM;1,500ppm、イルガフォス168TM;1,500ppm)を添加したものを、インターナルミキサー(東洋精機製作所製、商品名ラボプラストミル)を用いて、窒素気流下、190℃、回転数30rpmで30分間混練したもの測定用試料として調整した。
【0065】
溶融張力は、バレル直径9.55mmの毛管粘度計(東洋精機製作所、商品名キャピログラフ)に、長さが8mm,直径が2.095mmのダイスを流入角が90°になるように装着し測定した。MS160は、温度を160℃に設定し、ピストン降下速度を10mm/分、延伸比を47に設定し、引き取りに必要な荷重(mN)をMS160とした。最大延伸比が47未満の場合、破断しない最高の延伸比での引き取りに必要な荷重(mN)をMS160とした。また、温度を190℃に設定し同様の方法で測定した荷重(mN)をMS190とした。
【0066】
<TREFにより溶出温度−溶出量曲線の測定>
試料に耐熱安定性を加え、ODCBに試料濃度0.05重量%となるように135℃で加熱溶解する。この加熱溶液5mlを、ガラスビーズを充填したカラムに注入した後、0.1℃/minの冷却速度で25℃まで冷却し、試料をガラスビーズ表面に沈着する。次に、このカラムにODCBを一定流量で流しながら、カラム温度を50℃/hrの一定速度で昇温し、各温度において溶液に溶解可能な試料を準備溶出させる。
【0067】
この際、溶剤中の試料濃度はメチレンの非対象伸縮振動の波数2925cm−1に対する吸収を赤外検出器で連続的に検出される。この濃度から、溶出温度−溶出量曲線を得ることができる。TREF分析は極少量の試料で、温度変化に対する溶出速度の変化を連続的に分析できるため、分別法では検出できない比較的細かいピークの検出が可能である。
【0068】
50℃におけるn−ヘプタン抽出量の測定方法は以下の通りである。200メッシュパスの粉砕試料10gを秤量し、400mlのn−ヘプタンを加えて、50℃で2時間抽出を行い、抽出量からn−ヘプタンを蒸発させて、乾燥固化させて得た抽出物の重量の初期重量に対する割合を求めることにより算出した。
【0069】
<フィルム成形性の評価>
空冷インフレーション成形機(株式会社プラコー製、型式HD−50)により厚さ6μmの空冷インフレーションフィルムを作製することにより、フィルム成形性の評価を行った。その際の条件は、押出機シリンダー温度;200℃、押出樹脂温度;200℃、サーキュラーダイ(リップクリアランス1.2mm)、ブロー比6.0、引取速度50m/minである。
【0070】
バブル安定性は、フィルムを成形する際のバブル安定性の良否を目視で確認した。
バブル安定性の良否の判断基準を以下に示す。
○;バブルの揺れ無し。
×;バブルの揺れ有り。
【0071】
バブル形状(バブルの皺および弛み)評価は、前記フィルム成形方法に基づきフィルムを成形する際の成形開始から2時間経過後のバブル形状を目視で確認した。
【0072】
バブル形状評価の判断基準を以下に示す。
○;バブルに皺および弛み無し。
×;バブルに皺または弛み有り。
【0073】
<融着強度の評価>
前記フィルムを2枚重ね合わせ、圧力0.07MPaで所定の時間加熱して融着させた後、室温(25℃)で冷却した。融着強度は、上記の融着フィルムからシール部分の幅が5mmの短冊状の試験片を作成し、剥離試験速度200m/分で剥離試験を行った。なお、加熱温度は各樹脂の融点+5℃で行った。融着が短時間で行えるものがシール性に優れたものとなる。
【0074】
<耐熱性の評価>
前記フィルムから幅5mm、長さ100mmの試験片を切り出して80℃に設定したオーブン中に3分間静置して取り出し、さらに室温で1日冷却後、加熱前後の寸法変化を測定した。寸法変化が少ないものが耐熱性に優れたものとなる。
【0075】
実施例1
[変性ヘクトライトの調製]
水3リットルにエタノール3リットルと37%濃塩酸100ミリリットルを加えた後、得られた溶液にN,N−ジメチル−オクタデシルアミン330g(1.1mol)を添加し、60℃に加熱することによって、塩酸塩溶液を調製した。この溶液にヘクトライト1kgを加えた。この懸濁液を60℃で、3時間撹拌し、上澄液を除去した後、60℃の水50Lで洗浄した。その後、60℃、10−3torrで24時間乾燥し、ジェットミルで粉砕することによって、平均粒径5.2μmの変性ヘクトライトを得た。
【0076】
[重合触媒(p)の調製]
上記変性ヘクトライト500gをヘキサン1.7リットルに懸濁させ、ビス(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリド5.85g(20.0mmol)とトリイソブチルアルミニウムのヘキサン溶液(0.714M)2.8リットル(2mol)の混合液を添加し、60℃で3時間攪拌した後、ビス(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリドに対して15mol%のジフェニル(1−シクロペンタジエニル)(2,7−ジ−tert−ブチル−9−フルオレニル)ジルコニウムジクロライド2.36g(3.53mmol)を添加して室温で6時間撹拌した。静置して上澄み液を除去、さらにトリイソブチルアルミニウムのヘキサン溶液(0.15M)を添加して最終的に100g/Lの触媒スラリーを得た。
【0077】
[重合触媒(q)の調製]
前記変性ヘクトライト500gをヘキサン1.7リットルに懸濁させ、プロパン―1,3−ジイルビス(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリド6.63g(20.0mmol)とトリイソブチルアルミニウムのヘキサン溶液(0.714M)2.8リットル(2mol)の混合液を添加し、60℃で3時間攪拌した後、プロパン―1,3−ジイルビス(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリドに対して5mol%のジフェニルメチレン(1−シクロペンタジエニル)(9−フルオレニル)ジルコニウムジクロリド0.58g(1.05mmol)を添加して室温で6時間撹拌した。静置して上澄み液を除去、さらにトリイソブチルアルミニウムのヘキサン溶液(0.15M)を添加して最終的に100g/Lの触媒スラリーを得た。
【0078】
[エチレン系重合体の製造]
内容積540リットルの重合器に、ヘキサン300リットルおよび1−ブテン1.6リットルを導入し、オートクレーブの内温を80℃に昇温した。このオートクレーブに前記重合触媒(p)74ミリリットルおよび前記重合触媒(q)125ミリリットルを添加し、エチレン/水素混合ガス(水素:1500ppm含)を分圧が0.9MPaになるまで導入して重合を開始した。重合中、分圧が0.9MPaに保たれるようにエチレン/水素混合ガスを連続的に導入した。また、重合温度を80℃に制御した。重合開始90分後に重合器の内圧を脱圧した後、内容物をろ過し、乾燥して54kgのエチレン系重合体粉末を得た。エチレン系重合体粉末を200℃に設定した50mm径の単軸押出機を使用して溶融混練、ペレタイズすることでエチレン系共重合体ペレットを得た。
【0079】
得られたエチレン系重合体ペレットの密度は937kg/m、MFRは8g/10分であった。
【0080】
実施例2
[重合触媒(r)の調製]
上記変性ヘクトライト500gをヘキサン1.7リットルに懸濁させ、ジメチルシランジイルビス(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリド6.97g(20.0mmol)とトリイソブチルアルミニウムのヘキサン溶液(0.714M)2.8リットル(2mol)の混合液を添加し、60℃で3時間攪拌した後、ジメチルシランジイルビス(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリドに対して15mol%のジフェニル(1−シクロペンタジエニル)(2,7−ジ−tert−ブチル−9−フルオレニル)ジルコニウムジクロライド2.36g(3.53mmol)を添加して室温で6時間撹拌した。静置して上澄み液を除去、さらにトリイソブチルアルミニウムのヘキサン溶液(0.15M)を添加して最終的に100g/Lの触媒スラリーを得た。
【0081】
[エチレン系重合体(R)の製造]
内容積540リットルの重合器に、ヘキサン300リットルおよび1−ブテン1.6リットルを導入し、オートクレーブの内温を80℃に昇温した。このオートクレーブに[重合触媒(r)の調製]で調製した重合触媒(r)147ミリリットルを添加し、エチレン/水素混合ガス(水素:1000ppm含)を分圧が0.9MPaになるまで導入して重合を開始した。重合中、分圧が0.9MPaに保たれるようにエチレン/水素混合ガスを連続的に導入した。また、重合温度を80℃に制御した。重合開始90分後に重合器の内圧を脱圧した後、内容物をろ過し、乾燥して50kgのエチレン系重合体(R)粉末を得た。エチレン系重合体粉末を200℃に設定した50mm径の単軸押出機を使用して溶融混練、ペレタイズすることでエチレン系共重合体(R)ペレットを得た。
【0082】
得られたエチレン系重合体(R)ペレットの密度は945kg/m、MFRは10g/10分であった。
【0083】
[エチレン系重合体(Q)の製造]
内容積540リットルの重合器に、ヘキサン300リットルおよび1−ブテン6.1リットルを導入し、オートクレーブの内温を80℃に昇温した。このオートクレーブに合成例1で調製した重合触媒(q)250ミリリットルを添加し、エチレン/水素混合ガス(水素:2000ppm含)を分圧が0.9MPaになるまで導入して重合を開始した。重合中、分圧が0.9MPaに保たれるようにエチレン/水素混合ガスを連続的に導入した。また、重合温度を80℃に制御した。重合開始90分後に重合器の内圧を脱圧した後、内容物をろ過し、乾燥して53kgのエチレン系重合体(Q)粉末を得た。エチレン系重合体(Q)粉末を200℃に設定した50mm径の単軸押出機を使用して溶融混練、ペレタイズすることでエチレン系共重合体(Q)ペレットを得た。
【0084】
得られたエチレン系重合体(Q)ペレット)の密度は930kg/m、MFRは4g/10分であった。
【0085】
[エチレン系重合体の調製]
前記エチレン系重合体(R)と前記エチレン系重合体(Q)を50対50の割合でブレンドし、200℃に設定した50mm径の単軸押出機を使用して溶融混練、ペレタイズすることでエチレン系重合体ペレットを得た。
【0086】
得られたポリエチレンの物性、成形性、融着強度、耐熱性を表に示す。
【0087】
比較例1
示差走査型熱量計による昇温測定において得られる吸熱曲線のピークが1つである、市販の直鎖状低密度ポリエチレン(ユメリット4540F、宇部興産(株)製、MFR=3.9g/10分、密度=944kg/m)を用いた以外は実施例1と同様の方法で評価を行った。得られたポリエチレンの物性、成形性、融着強度、耐熱性を表に示す。
【0088】
比較例2
示差走査型熱量計による昇温測定において得られる吸熱曲線のピークが1つである、市販の高密度ポリエチレン(ニポロンハード2500、東ソー(株)製、MFR=8.0g/10分、密度=961kg/m)とした以外は実施例1と同様の方法で評価を行った。得られたポリエチレンの物性、成形性、融着強度、耐熱性を表に示す。
【0089】
比較例3
示差走査型熱量計による昇温測定において得られる吸熱曲線のピークが1つである、市販の直鎖状低密度ポリエチレン(ニポロンZ ZF260、東ソー(株)製、MFR=2.0g/10分、密度=936kg/m)を用いた以外は実施例1と同様の方法で評価を行った。得られたポリエチレンの物性、成形性、融着強度、耐熱性を表に示す。
【0090】
比較例4
示差走査型熱量計による昇温測定において得られる吸熱曲線のピークが複数個ある、市販の低密度ポリエチレン(ペトロセン 203、東ソー(株)製、MFR=8.0g/10分、密度=919kg/m)を用いた以外は実施例1と同様の方法で評価を行った。得られたポリエチレンの物性、成形性、融着強度、耐熱性を表に示す。
【0091】
比較例5
[重合触媒(r)の調製]
上記変性ヘクトライト500gをヘキサン1.7リットルに懸濁させ、ジメチルシランジイルビス(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリド6.97g(20.0mmol)とトリイソブチルアルミニウムのヘキサン溶液(0.714M)2.8リットル(2mol)の混合液を添加し、60℃で3時間攪拌した後、ジメチルシランジイルビス(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリドに対して15mol%のジフェニル(1−シクロペンタジエニル)(2,7−ジ−tert−ブチル−9−フルオレニル)ジルコニウムジクロライド2.36g(3.53mmol)を添加して室温で6時間撹拌した。静置して上澄み液を除去、さらにトリイソブチルアルミニウムのヘキサン溶液(0.15M)を添加して最終的に100g/Lの触媒スラリーを得た。
【0092】
[エチレン系重合体(S)の製造]
内容積540リットルの重合器に、ヘキサン300リットルおよび1−ブテン1.3リットルを導入し、オートクレーブの内温を80℃に昇温した。このオートクレーブに[重合触媒(r)の調製]で調製した重合触媒(r)147ミリリットルを添加し、エチレン/水素混合ガス(水素:1000ppm含)を分圧が0.9MPaになるまで導入して重合を開始した。重合中、分圧が0.9MPaに保たれるようにエチレン/水素混合ガスを連続的に導入した。また、重合温度を80℃に制御した。重合開始90分後に重合器の内圧を脱圧した後、内容物をろ過し、乾燥して50kgのエチレン系重合体(R)粉末を得た。エチレン系重合体粉末を200℃に設定した50mm径の単軸押出機を使用して溶融混練、ペレタイズすることでエチレン系共重合体(R)ペレットを得た。
【0093】
得られたエチレン系重合体(R)ペレットの密度は950kg/m、MFRは8g/10分であった。
【0094】
比較例6
示差走査型熱量計による昇温測定において得られる吸熱曲線のピークが複数個ある、市販のメタロセンポリエチレン(ハーモレックス NH745S、日本ポリエチレン(株)製、MFR=9.0g/10分、密度=912kg/m)を用いた以外は実施例1と同様の方法で評価を行った。得られたポリエチレンの物性、成形性、融着強度、耐熱性を表に示す。
【0095】
【表1】

比較例1〜3は溶融張力が小さいため成形が困難であり、得られたフィルムも低温シール性に劣る。
【0096】
比較例4は成形性、低温シール性は問題がないが耐熱性に問題がある。
【0097】
比較例5は低温シール性が劣る。
【0098】
比較例6は成形性、耐熱性に劣る。
【図面の簡単な説明】
【0099】
【図1】本発明のエチレン系重合体の代表的なTREF溶出温度−溶出量曲線
【図2】代表的なメタロセン触媒によるエチレン・α−オレフィン共重合体のTREF溶出温度−溶出量曲線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレンから導かれる繰り返し単位、又は、エチレンから導かれる繰り返し単位及び炭素数3〜8のα−オレフィンから導かれる繰り返し単位からなり、下記(A)〜(H)の要件を満足することを特徴とするエチレン系重合体。
(A)密度[d(kg/m)]が910以上940未満
(B)190℃、2.16kg荷重で測定したメルトフローレート[MFR(g/10分)]が0.1以上20以下
(C)末端ビニル数が1,000炭素原子当たり0.2個以下
(D)160℃で測定した溶融張力[MS160(mN)]とMFRの関係が、下記式(1)を満足
MS160>90−130×log(MFR) (1)
(E)190℃で測定した溶融張力[MS190(mN)]とMS160の関係が、下記式(2)を満足
MS160/MS190<1.8 (2)
(F)流動の活性化エネルギー[E(kJ/mol)]と密度の関係が、下記式(3)を満足
127−0.107d<E<88−0.060d (3)
(G)連続昇温溶出分別法(TREF)による溶出温度−溶出量曲線にピークが複数個存在
(H)50℃におけるn−ヘプタン抽出量が0.2重量%以下
【請求項2】
更に、(I)重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)が4.5以上7.5以下、であることを満足することを特徴とする請求項1に記載のエチレン系重合体。
【請求項3】
請求項1〜2のいずれかに記載のエチレン系重合体からなることを特徴とするフィルム。
【請求項4】
請求項1〜2のいずれかに記載のエチレン系重合体からなる層を少なくとも1層含むことを特徴とする多層フィルム。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−40894(P2009−40894A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−207775(P2007−207775)
【出願日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】