説明

エネルギー効率の良い分離構造を有する多自由度の圧電マイクロアクチュエータ

約1mm以下の大きさで製作できる多自由度圧電アクチュエータ。その多自由度圧電アクチュエータは、3次元空間の3本の基本軸それぞれの周りでまたはそれぞれの軸の方向に、回転素子または摺動素子の動きを発生させることができる。多自由度圧電アクチュエータは、1つまたは複数の側面と、第1の端面と、第2の端面とを有する圧電素子(10)を備えることができる。ここで、少なくとも1つまたは複数の側面は、独立した側面電極(11)を複数備えており、第1の端面または第2の端面のうちの少なくとも一方は、端面電極(12)を備えている。圧電アクチュエータに使用されるトランスデューサ素子(30,40)および分離構造(5)についても記載されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、多自由度(DOF)の運動を発生させることができる圧電アクチュエータまたはマイクロモータであって、全体の大きさが数ミリメートル、またはミリメートル単位以下である可能性のある圧電アクチュエータまたはモータ、およびこのようなアクチュエータを比較的優れたエネルギー効率で実装するための構造に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロロボット分野およびマイクロ工学分野では、1立方センチメートル未満の体積を持つアクチュエータがますます必要とされている。一般的な電磁アクチュエータは、現在ほとんどの用途で使用されているものの、マイクロスケールの用途で必要とされるようなセンチメートル単位以下の大きさに小型化するのには、全般的に適していない。それは、電磁アクチュエータの作動力が、アクチュエータの大きさの4乗の関数として増減することに主な原因がある。一方、圧電超音波アクチュエータは、作動力がアクチュエータの大きさの1乗の関数として増減するものであり、電磁アクチュエータよりも良好な比例特性を呈している。そのため、圧電アクチュエータは、センチメートル単位以下の大きさに小型化するのにより好適である。
【0003】
圧電アクチュエータは、通常圧電素子で構成される。この素子には、出力能力を拡大するために、頂部にトランスデューサ素子を搭載することができる。最近、トランスデューサの外径が241μmであるトランスデューサ素子を用いた圧電アクチュエータが開発された(非特許文献1を参照)。このアクチュエータは、単一自由度で回転子を回転させられることを証明した。しかしながら、および球状のロボットの目の作動の為の用途および臀部と肩部の連結のための用途といった多くの用途で、多自由度のマイクロアクチュエータが必要とされており、同様に、マイクロロボットおよびマイクロ工学の多くの分野でも必要とされている。約7mmのトランスデューサを有する圧電アクチュエータも開発されている。このような多自由度圧電アクチュエータを電気的に励起するのに使用される従来の方法は、製造上および組み立て上の難点が内在しているため、ミリメートル単位未満の大きさに小型化するのにはあまり適していない。
【0004】
共振アクチュエータを、システムまたは基板のような別の物体に実装するとき、実装される物体が十分な剛性を備えていないことによって、かなりのエネルギーが、アクチュエータから喪失されるとともに、そのシステムまたは基板に吸収されることになる(非特許文献2を参照)。これは作動効率を低下させるものであり、影響を受けやすい周辺システムにとって有害となる可能性がある。これを緩和するためには、アクチュエータを、中間的に分離した構造を介してシステムまたは基板に実装すればよい。この分離構造は、喪失されるエネルギーを、システムまたは基板との実装部に伝達させるのではなく、アクチュエータの実装点からアクチュエータに向けて反射させるように設計されるものである。これは、2区分構造を使って実現することができる。この場合、それら2区分は、音響インピーダンスの不整合度合いが、かなり大きくなっていなければならない。材料の剛性は音響インピーダンスに最も著しく影響を及ぼす要因であるため、他のものが全て一定であれば、このような構造用に通常、剛性材料および非剛性材料が選択されることが望ましい。このような構造を使用する際に生じる主な欠点は、高分子等の典型的な非剛性材料が、かなり大きな音響散逸係数を有していることである。つまり、このような材料を用いると、アクチュエータがこの構造に伝達するエネルギーは、粘性効果に起因して、多くが喪失されてしまう。加えて、このような分離構造は、薄膜の第一波のアクチュエータでは利用可能であるが(非特許文献3を参照)、バルク用の第二波アクチュエータには提供されていない。
【0005】
本明細書でなされている、文献、行為、材料、装置、部品、等についての考察はどれも、これらの事柄のいずれかまたは全部が、従来技術の基本部分の一部を形成するもの、あるいは、本発明に関連する分野において、その考察は周知の知識であり、本出願の各請求項の優先日以前に存在していたものと、認めているようには把握されるべきでない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】B.Watson,J.Friend&L.Yeo,J.Micromech.Microeng.19(2009)
【非特許文献2】W.Newell,Proceedings of the IEEE(1965)
【非特許文献3】K.Lakin,K.McCarron&R.Rose,IEEE Ultrasonics Symposium(1995)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
「備える」という用語、または「備えた」若しくは「備えている」等の変形は、本明細書全体にわたって、記載されている要素、整数、若しくはステップ、または要素、整数、若しくはステップから成る群を包含し、いかなる他の要素、整数、若しくはステップ、または要素、整数、若しくはステップから成る群も除外しないことを意味するものと理解される。
【0008】
本発明は、約1mm以下の大きさで製作できる多自由度の圧電アクチュエータまたはマイクロモータを提供することを所望の特徴とする。さらに本発明は、エネルギー効率が比較的良好な、圧電アクチュエータに使用される分離構造であって、高音響吸収材料を追加する必要のない分離構造を提供することを所望の特徴とする。本明細書では、その分離構造付きアクチュエータの実施形態を例示して提供している。但し、この分離構造付きアクチュエータの用途は、本明細書の例に限定されない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
1つの態様によれば、3次元空間の3本の基本軸それぞれの周りでまたはその方向に、回転素子または摺動素子の運動を発生させることができる圧電アクチュエータであって、1つまたは複数の側面と、第1の端面と、第2の端面と、を有する本体を備えた圧電素子を備え、少なくとも1つまたは複数の側面は、複数の独立した側面電極を備え、第1の端面または第2の端面のうちの少なくとも一方は、端面電極を備えている、圧電アクチュエータが提供される。
【0010】
一実施形態によれば、圧電素子は、端面電極が存在する平面に垂直な軸であって、その圧電素子の幾何学的中心を通過する軸として規定される長手方向軸を有する。圧電素子は、この長手方向軸と垂直且つ相互に垂直な各横軸を有するものと理解することができる。圧電素子は様々な形態を有することができるが、矩形のブロックまたは円筒体を備えるのがよい。
【0011】
一実施形態によれば、圧電素子は、1つ、1つ以上、少なくとも4つ、または4つのみの側面を有することができる。1つ以上の側面を有する場合に、各側面に側面電極を備えることができる。側面が1つである場合に、この側面に複数の電極を設けることができる。一実施形態では、アクチュエータ本体は、4つの電極を備えた1つの側面を有することができる。
【0012】
それらの電極は、導電性材料で構成することができる。適切な電極の例として、銀フィルムまたは金フィルム等の金属フィルム、銀の塗料等の導電性塗料または導電性ペーストが挙げられる。
【0013】
4つの側面電極が存在する場合に、一実施形態では、それらの電極を、2組の対を形成するように配置することができる。この場合、所与の対に属する2つの側面電極は、圧電素子の対向する側面または対向する場所に存在する。この実施形態において、側面電極対の各電極は、圧電素子の長手方向軸を中心に、他方の電極から180度回転させた場所またはその付近に設置することができる。
【0014】
圧電素子の2組の対向する側面電極対は、それら側面電極が存在する平面に垂直な2本の軸が、相互に垂直であり、且つ、端面電極が存在する平面に垂直な軸(即ち、圧電素子の長手方向軸)に垂直であるように設置されることが好ましい。
【0015】
上記によれば、長手方向軸をz軸と考えるならば、圧電素子の側面電極は、2つはy−z平面に平行であり、且つ、2つはx−z平面に平行であるように設置することができる。
【0016】
圧電素子は、圧電セラミック材料を含む適切な圧電材料で任意に形成することができる。一実施形態では、圧電素子は、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)素子で構成することができる。PZTは、富士セラミックス社(日本)等の数多くの供給業者から商品として入手することができる。
【0017】
圧電素子は、長手方向軸の方向に分極していてよい。
【0018】
圧電素子は、横方向および/または長手方向に振動させることによって作動させることができる。
【0019】
横方向振動は、対向する側面電極対の両側に交流(AC)信号を印加することによって誘発することができる。この場合、一方の側面電極を正極のAC信号に接続し、他方を接地に接続するようにしてよいし、または、一方の側面電極を正極のAC信号に接続し、他方を負極のAC信号に接続し、2つの信号の位相が180度ずれるようにしてもよい。
【0020】
長手方向振動は、2組の対向する側面電極対のうちの一方または両方にAC信号を印加することによって誘発することができる。この場合、選択された電極は、位相が合うように同じ極のAC信号に接続され、両端面電極の少なくとも一方は、電気的に接地されている。
【0021】
一実施形態では、交流信号は、正弦波AC信号とすることができる。方形波および/またはのこぎり波のAC信号は単独で利用することができるし、または、その信号を正弦波信号と順番に利用してもよい。
【0022】
回転素子または摺動素子は、圧電素子の1つの端部に搭載することができる。回転素子の直径は、1mmより大きくてよいし、1mm以下、例えば約0.4mmであってもよい。
【0023】
回転素子の3自由度の回転は、圧電素子/電極集合体および本明細書に記載の電気入力方式を使って達成することができる。これは、横方向に振動するy方向振動モードを、90度の位相差をもって、長手方向に振動するz方向振動モードと結合させることによってx軸を中心とする回転を誘発することと、横方向に振動するx方向振動モードを、90度の位相差をもって、長手方向に振動するz方向振動モードと結合させることによってy軸を中心とする回転を誘発することと、横方向に振動するx方向振動モードを、90度の位相差をもって、横方向に振動するy方向振動モードと結合させることによってz軸を中心とする回転を誘発することと、によって、3次元空間の3本の基本軸のそれぞれを中心とする回転を発生させることで、実現することができる。
【0024】
第1の態様の更に別の実施形態では、圧電アクチュエータは、トランスデューサ素子を備えている。トランスデューサ素子は、圧電素子の1つの端部に搭載されることができる。トランスデューサ素子は、圧電素子と回転素子との間または圧電素子と摺動素子との間に搭載することができる。
【0025】
トランスデューサ素子は、アクチュエータの出力性能を増大するのに使用することができる。一実施形態では、トランスデューサ素子は、長手方向軸を有する本体を備えている。そのトランスデューサ素子の長手方向軸は、圧電素子の長手方向軸と同一にさせることができる。トランスデューサ素子の断面は、1または複数の内壁および/または外壁によって規定され、様々な形態を有することができるのであり、中実ロッドまたは中空管体または両者の組み合わせにより構成することができる。適切なトランスデューサ素子は、直径1mm未満のものを、ケイデンスサイエンス社(米国)等の製造業者から入手することができる。
【0026】
一実施形態では、トランスデューサ素子にスロットまたは切り欠きを設けることができる。
【0027】
本明細書では、「スロット」という用語は、トランスデューサ素子内に形成されまたはトランスデューサ素子の表面上に作製される切り欠きのあらゆる形態を含むものと理解されるべきである。切削、欠刻、溝、ピッチ、穴、等の形態は全て対象に含むものと理解されるべきである。この規定は、分離構造に形成されるスロットを含め、本明細書に規定の他のスロットにも当てはまるものである。
【0028】
スロットは、トランスデューサ素子の1つまたは複数の壁に設けることができる。例えば、トランスデューサ素子の内壁および/または外壁に設けることができる。スロットは、あらゆる数量、配置、寸法、形状、および/または深さでも設けることができる。例えば、スロットは、平行な側壁、非平行な側壁を有することができ、実質的にU形状またはV形状となり得る。好適な実施形態によれば、スロットは、対にして配置するのがよい。この場合、所与の対に属する個々のスロットは、トランスデューサ素子の対向する側面に設置され、対を成している各スロットは、対応するスロットのものと同じ寸法、形状、および/または深さを有している。スロットが対で配置される場合、それぞれのスロット対の各スロットは、トランスデューサ素子の長手方向軸を中心に、他方のスロットから180度回転させた場所またはその付近に設けることができる。このような対は何組設けてもかまわないが、スロットは対称に設けることが望ましい。このように対称に配置すれば、アクチュエータ内で長手方向振動が誘発される際に、無用な横方向運動が絶対に起こらないことが分かっている。
【0029】
更に別の実施形態では、スロットは、トランスデューサ素子が相互に垂直な2つの平面に関して対称となるように設けることができる。この場合、上記両平面の交差線は、トランスデューサ素子の長手方向軸と一致している。トランスデューサ素子の長手方向軸がz軸を成す場合、スロットは、トランスデューサ素子がx−z平面およびy−z平面に関して対称となるように設けることができる。スロットは、これらの平面それぞれに関するトランスデューサ素子の対称性が同じになるように設けることができる。
【0030】
前に規定したように、トランスデューサ素子は、中実であってよく、中空であってもよい。中空素子の場合、スロットは、中空素子の壁を部分的にまたは完全に貫通することができる。スロットは、各横方向振動モードが独立して、他のモードと共通の周波数で結合できるようにすることによって、このようなアクチュエータの設計上の柔軟性を高めることができる。加えて、トランスデューサ素子にスロットを含めることによって、遥かに短いトランスデューサ素子長で振動モードを結合できるようになるため、アクチュエータの長さおよび容積を小さくすることができる。
【0031】
スロットは、レーザ加工によって形成することができる。別の実施形態では、スロットは、結果的にトランスデューサ素子にスロットが形成されるような態様で、トランスデューサ素子に材料を添加し、または、そこに突起部分を作製することによって形成することができる。スロットの数量、配置、寸法、形状、および/または深さは、共振周波数を調整し、アクチュエータの出力性能を最適化するために、戦略的に設定できるパラメータである。
【0032】
さらに別の実施形態では、スロットは使用するよりむしろ、適切な場所でトランスデューサ素子に材料を追加することによって、トランスデューサ素子の曲げ運動を改変することができる。一実施形態では、トランスデューサ素子の壁上に、突起部分領域を形成することができる。それらの突起部分領域は、任意の所望の形状で構成することができ、例えば、こぶ状とすることもできれば、一連の衝撃を与えて構成することもできる。
【0033】
突起部分領域は、スロットを設けるのと同様に、対にして配置することができる。この場合、所与の対に属する個々の突起部分領域は、トランスデューサ素子の対向する側面に設置され、対を成している各突起部分領域は、対応する領域のものと同じ寸法、形状、および/または高さを有している。突起部分領域が対で配置される場合、領域対それぞれに属する各領域は、トランスデューサ素子の長手方向軸を中心に、他方の領域から180度回転させた場所またはその付近に設置することができる。このような対は何組設けてもかまわないが、領域は対称に設けることが望ましい。このように対称に配置すれば、アクチュエータ内で長手方向振動が誘発される際に、無用な横方向運動が絶対に起こらないことが分かっている。
【0034】
更に別の実施形態では、突起部分領域は、トランスデューサ素子が相互に垂直な2つの平面に関して対称となるように設けることができる。この場合、2つの平面の交差線は、トランスデューサ素子の長手方向軸と一致している。トランスデューサ素子の長手方向軸がz軸を成す場合、突起部分領域は、トランスデューサ素子がx−z平面およびy−z平面に関して対称となるように設けることができる。突起部分領域は、これらの平面それぞれに関するトランスデューサ素子の対称性が同じになるように設けることができる。
【0035】
更に別の実施形態では、スロットおよび突起部分領域の両方を、トランスデューサ素子に設けることができる。
【0036】
圧電素子電極に印加されるAC信号の周波数は、アクチュエータの出力性能を最適化すべく、アクチュエータの横方向共振周波数および長手方向共振周波数それぞれに対応して調節することができる。これらの振動モードを結合することは、共通の共振周波数で起こるため、アクチュエータの幾何学的パラメータを変更することによって実現することができる。
【0037】
トランスデューサ素子には、金属、高分子、およびセラミックスを含め、任意の適した材料が使用されてよい。トランスデューサ素子は、作動効率を低下させる粘性材料エネルギーの損失を最小限に抑えるべく、ステンレス鋼等の音響消散性の低い材料で製作するのがよい。金属のロッドおよび管体は、直径1mm未満のものを、ケイデンスサイエンス社(米国)等の製造業者から容易に入手することができる。
【0038】
さらに別の実施形態では、アクチュエータは、分離構造を備えることができる。その分離構造は、圧電素子と実装台との間に設けることができる。
【0039】
一実施形態では、分離構造は、複数のセグメントから成る本体を備えることができる。一実施形態では、分離構造は、2セグメント構造を備えることができる。別の実施形態では、分離構造は、2以上の周期的構造のセグメントを備えることができる。それらのセグメントは異なっていてもかまわない。一実施形態では、各セグメントは、剛性が相互に異なっていてよい。即ち、1つのセグメントは、剛性の高い他の構造に対して、相対的に、比較的低い剛性を有することができる。剛性の相対的な差は、2つのセグメント間の材質および/または幾何学構造の差によってもたらされ得る。
【0040】
セグメント間の幾何学的構造の違いを活用した分離構造用に、幾何学的に改変された比較的剛性の低いセグメントを、トランスデューサ素子について本明細書に記載されているものと同様の態様で作製することができる。例えば、分離構造の中実部分または中空部分の壁に、スロットまたは突起部分領域を形成することができる。
【0041】
中空分離構造の一実施形態では、スロットは、壁を部分的にまたは完全に貫通することができる。分離構造の比較的剛性の低いセグメントおよび比較的剛性の高いセグメントの断面形態は、任意の適切な形にすることができる。本明細書に規定されたアクチュエータに使用するためには、分離構造の各セグメントは、円筒形にするとともに、圧電素子の長手方向軸と一致した円筒軸を有するのがよい。分離構造のスロットも、結果的にトランスデューサ素子にスロットが形成されるような態様で、市販のレーザ加工機によって、またはトランスデューサ素子に材料を添加若しくは突起部分を作製することによって、形成することができる。
【0042】
幾何学的に改変された分離構造における剛性の低いセグメントに、数量、配置、寸法、形状、および/または深さが任意のスロットを形成することができる。上述のように、スロットは、側壁を平行、非平行とすることができ、実質的にU形状または実質的にV形状で構成することができる。一実施形態では、スロットは対にして配置することができ、この場合、所与の対に属するスロットは、セグメントの対向する側面に設置され、同じ寸法、形状、および/または深さを有している。このようなスロットの対は、分離構造に何組配置してもかまわない。スロット対のそれぞれに属する各スロットは、分離構造の長手方向軸を中心に、他のスロットから180度回転させた場所またはその付近に設けることができる。スロットを対称に構成すれば、アクチュエータ内で長手方向振動が誘発される際に、不要な横方向運動は絶対に起こらない。
【0043】
スロットは、幾何学的に改変された比較的剛性の低いセグメントが、相互に垂直な2つの平面に関して対称となるように形成され得る。この場合、上記両平面の交差線は、分離構造の長手方向軸と一致している。トランスデューサ素子の長手方向軸がz軸を成すと考えられる場合、スロットは、分離構造がx−z平面およびy−z平面に関して対称となるように設けることができる。スロットは、これらの平面それぞれに関する対称性が同じになるように設けることができる。
【0044】
分離構造の幾何学的に改変された比較的剛性の低いセグメントは、比較的剛性の高いセグメントよりも壁から物質を多く除去してスロットを内蔵させることによって、形成することができる。これは、セグメントの構造的剛性を最小限に抑え、これにより、音響インピーダンスの不整合および分離効率が高まる。次いで、標準的な比較的剛性の高いセグメントと、この幾何学的に改変された比較的剛性の低いセグメントとを一緒に使用するなどして、比較的高い剛性の構造−比較的低い剛性の構造を周期的構造も含んで組み立てることによって、分離構造を製作することができる。
【0045】
分離構造が突起部分領域を有する場合に、それら突起部分領域は、トランスデューサ素子の特徴として本明細書に記載している突起部分領域の特徴を有することになる。ここでも、自明であるが、スロットおよび突起部分領域の両方を分離構造に設けることができる。
【0046】
幾何学的に改変された比較的剛性の低いセグメントを用いるか否かに関わらず、分離構造を製作するのに任意の適切な材料を使用することができる。幾何学的に改変された比較的剛性の低いセグメントを用いれば、音響吸収係数が低い材料を使用することが可能になる。これらの材料は、典型的には、スロットを内蔵させて幾何学的に改変する以前は剛性が高いものである。マイクロ分野の用途用に、ステンレス鋼のロッドまたは管体といった材料を使用することができる。これらの材料は、ケイデンスサイエンス社(米国)等の供給業者から入手することができる。
【0047】
分離構造は、製作するのに幾何学的に改変された比較的剛性の低いセグメントを用いるか否かに関わらず、その幾何学的パラメータおよび材料的性質を使って、特定の用途に合うように改造することができる。構造の剛性に不整合があるため、分離構造の共振周波数スペクトルの中に「ギャップ」が現れる。これらギャップ内の周波数では、分離構造は、励起されても振動しない。分離部の材料の性質の他に、直径、周期、体積分率(各セグメントが占める周期部分)、等といった幾何学的パラメータを調整することによっても、これらのギャップの中心周波数および帯域幅を改変することができる。周期は、分離構造内にいくつ含めてもかまわない。この場合、使用される周期が多くなると、アクチュエータから実装部に伝達されるエネルギーは少なくなるが、長さは一層長くなる。これも、特定の状況に応じて設定できるパラメータである。
【0048】
分離構造が幾何学的に改変された比較的剛性の低いセグメントを使って製作される場合、単一長の金属の材料で製作することができる。これは、分離構造に誤差および非効率をもたらす可能性のある組み立て手段の必要性を取り除くものである。これは、ステンレス鋼でできた管のような通常の材料を選択し、かつ、長さに沿ってセグメントにスロットを設け、比較的高い剛性の構造−比較的低い剛性の構造を形成することによって実現することができる。
【0049】
一実施形態では、圧電アクチュエータ全体の最大直径は1mm未満であり、500μm未満であることがより好ましく、約350μmであることがさらに好ましい。
【0050】
圧電アクチュエータは、マイクロガイドワイヤまたはマイクロカテーテルに実装することができる。
【0051】
第2の態様では、圧電アクチュエータに使用されるトランスデューサ素子であって、1または複数の壁を有する本体を備えたトランスデューサ素子が提供される。この場合、トランスデューサ素子の壁にスロットが設けられ、且つ/または突起部分領域が設けられ、対にして配置される。なお、所与の対に属するスロットまたは突起部分領域は、トランスデューサ素子の対向する側面上に設置される。
【0052】
一実施形態では、スロットは、同じ寸法、形状、および/または深さを有することができる。突起部分領域の場合、これらは、同じ寸法、形状、および/または高さを有することができる。
【0053】
この態様では、スロットまたは突起部分領域は、本体上に対称に配置することができる。この態様では、対それぞれに属する各スロットまたは突起部分領域は、トランスデューサ素子の長手方向軸を中心に、他方から180度回転させた場所またはその付近に設置することができる。
【0054】
第3の態様では、圧電アクチュエータに使用されるトランスデューサ素子であって、1または複数の壁を有する本体を備えたトランスデューサ素子が提供される。この場合、トランスデューサ素子の壁にスロットが設けられ、且つ/または突起部分領域が設けられ、それらスロットおよび/または突起部分領域は、トランスデューサ素子が相互に垂直な2つの平面に関して対称となるように配置される。なお、上記両平面の交差線は、トランスデューサ素子の長手方向軸と一致している。
【0055】
上記した第2および第3の態様では、トランスデューサ素子は、これらの態様で規定されるスロットおよび/または突起部分領域の特徴の他に、本発明の第1の態様の一部として本明細書に規定のトランスデューサ素子の1つ、一部、または全部の特徴も有することができる。
【0056】
第2および第3の態様のトランスデューサ素子は、圧電素子、例えば本発明の第1の態様に記載のコンポーネントとして本明細書に規定の圧電素子に搭載することができる。
【0057】
第4の態様では、圧電アクチュエータに使用される分離構造であって、1つまたは複数の比較的剛性の低いセグメントと、1つまたは複数の比較的剛性の高いセグメントとを備えた複数のセグメントから成る本体を備えた分離構造が提供される。剛性の差は、比較的剛性の低いセグメントと比較的剛性の高いセグメントとの間の材料特性の差、および/またはそれらの幾何学的構造によるものである。
【0058】
第4の態様の一実施形態では、分離構造は、2セグメント以上の構造を有する。相対的剛性の差は、それら2セグメント相互間の材料特性の差、および/またはそれらの幾何学的構造によるものである。別の実施形態では、分離構造は、周期的に配置された複数のセグメントを備えることができる。
【0059】
剛性の差が幾何学的構造の差による場合、上記の比較的剛性の低いセグメントに、1組または複数組のスロット対を対称に配置して設けることができる。
【0060】
剛性の差が幾何学的構造の差による場合、上記の比較的剛性の高いセグメントに、1組または複数組の突起部分領域対を対称に配置して設けることができる。
【0061】
所与の対に属するスロットまたは突起部分領域は、それらが存在するセグメントの対向する側面に設置することができる。スロットは、同じ寸法、形状、および/または深さを有することができる。突起部分領域は、同じ寸法、形状、および/または高さを有することができる。対それぞれに属する各スロットまたは突起部分領域は、分離構造の長手方向軸を中心に、他方から180度回転させた場所またはその付近に設置することができる。スロットまたは突起部分領域は、上記セグメントが相互に垂直な2つの平面に関して対称となるように配置することができる。この場合、上記両平面の交差線は、分離構造の長手方向軸と一致している。
【0062】
第4の態様の分離構造は、圧電素子、例えば本発明の第1の態様のコンポーネントとして本明細書に規定の圧電素子に装着することができる。
【0063】
更に別の実施形態では、分離構造は、多自由度アクチュエータ等の圧電アクチュエータを形成するように、単一長の手持ち材料による圧電素子と一緒に形成することができる。一実施形態では、その単一長の手持ち材料は、中実であってもよければ中空のチタン管体であってもよく、次いで、それらの外面に、PZT材料を選択的に成長させる。この後に、トランスデューサ素子に相当する部分およびアクチュエータ−分離構造構体の剛性低いセグメントにスロットを設ければよい。或いは、PZT材料を成長させる前にスロットを凹設けても差し支えない。この場合、材料は、スロットの上にまたはそれを覆って選択的に成長することができる。
【0064】
第4の態様の分離構造は更に、本発明の第1の態様の一部として本明細書に規定の分離構造の1つ、一部、または全部の特徴も有することができる。
【0065】
例示のみを目的として、本明細書に付属する図面を参照して、本発明について以下に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1a】本発明に係る圧電素子の実施形態を示す図である。
【図1b】本発明に係る圧電素子の実施形態を示す図である。
【図2a】本発明に係る圧電アクチュエータ内で横方向(x方向)振動モードを励起するのに使用可能な通電方式を示す図である。
【図2b】本発明に係る圧電アクチュエータ内で長手方向(z方向)振動モードを励起するのに使用可能な通電方式を示す図である。
【図3a】図2aおよび図2bにあるような基本振動モードを結合して、3次元空間の3本の基本軸のうちのx軸の周りで回転子を回転させるのに使用可能な、通電方式を示す図である。
【図3b】図2aおよび図2bにあるような基本振動モードを結合して、3次元空間の3本の基本軸のうちのy軸の周りで回転子を回転させるのに使用可能な、通電方式を示す図である。
【図3c】図2aおよび図2bにあるような基本振動モードを結合して、3次元空間の3本の基本軸のうちのz軸の周りで回転子を回転させるのに使用可能な、通電方式を示す図である。
【図4a】本発明に係るトランスデューサ素子の実施形態を示す図である。
【図4b】本発明に係るトランスデューサ素子の実施形態を示す図である。
【図4c】本発明に係るトランスデューサ素子の実施形態を示す図である。
【図5】本発明に係る、圧電素子に装着するための分離構造の一実施形態を示す図である。
【図6】本発明に係る圧電アクチュエータの一実施形態を示す図である。
【図7】(a)はマイクロモータが、直交曲げ振動モードと軸方向振動モードとの結合によって、どのように長手方向z軸を中心とする回転を発生させることができるか、(b)はどのように横方向x軸を中心とする回転を発生させることができるか、(c)はどのように横方向y軸を中心とする回転を発生させることができるかを示す図である。
【図8】(a)は250×250×500μmPZT圧電素子頂部に搭載された中空円筒形トランスデューサ(外径230μm、内径110μm)であって、曲げ共振周波数を下げるべく、典型的には181μm離間され、壁をまっすぐに貫通する30×100μmのスロットが、トランスデューサ壁内に、x−z平面およびy−z平面に関して対称に設けられているトランスデューサを備えたマイクロモータの一実施形態を示す図である。(b)は関連するFEA予測変位を表した、第1の曲げ振動モード形状の図である。(c)は関連するFEA予測変位を表した、第2の曲げ振動モード形状の図である。(d)は関連するFEA予測変位を表した、第1の軸方向振動モード形状の図である。
【図9】トランスデューサ長に対する共振周波数の測定値を示す図である。第2の曲げ共振周波数を軸方向共振周波数と結合させて2本の横方向軸(xおよびy)での回転を達成すべく、トランスデューサ長を変更し、1450μmにおいてこれを実現した。長手方向軸の回転には、第1の曲げモードを使用した。
【図10】導電性エポキシ樹脂を使ってトランスデューサをPZT素子に接着し、PZT素子を隔離された基板に接着し、電力金線をPZT素子に接続して製作したマイクロモータの試作品を示す図である。
【図11】過渡的な始動段階の回転子の角加速度に基づいて計算した各軸を中心とする回転速度の関数として、マイクロモータのトルクの測定値を示した図である。横方向x軸、横方向y軸、および長手方向z軸の動作周波数はそれぞれ、456kHz、462kHz、および191kHzであった。
【図12】回転速度を6〜20RPMに下げるのに、連続バースト−トリガー式制御方式をどのように活用したのかを示す図である。提示の静止画像は、3本の直交回転軸のうちの、(a)は長手方向z軸、(b)は横方向x軸、(c)は横方向y軸を中心とするマイクロモータ動作のビデオ撮影から取り出したものである。見易くするために、長さ1mmのナイロンを回転子に接着した。
【図13】ステンレス鋼−ナイロン複合体で形成された分離構造の規格化帯域幅および中心周波数を示すグラフである。各線は、見易くするために適合させたものである。
【図14】本発明に係る分離構造を製作した試作品を示す図である。
【図15】テストを行った分離構造の、数値計算および実験による共振周波数スペクトルであって、モード5とモード6の間の、中心周波数520kHz、帯域幅380kHzの阻止帯域が現れているスペクトルを示すグラフである。各線は、見易くするために適合させたものである。
【図16】第1の阻止帯域の中心周波数(520kHz)で分離構造を示す図である。(a)は実験的に励起した分離構造であって、振動変位はページ平面に垂直である。(b)は数値計算により励起した分離構造であって、変位形状を示すために、ページ面内で振動変位を表示している。接続界面における振動振幅を、本図面の表に示している(挿入図)。
【発明を実施するための形態】
【0067】
圧電アクチュエータまたはモータから運動を発生させることは、トランスデューサの共振振動性質を、周期的に励起させる圧電素子を使うことによって実現される。これら振動モードの形状およびアクチュエータの幾何学的形状に応じて、移動および回転を含む、種々の出力動作を発生させることができる。
【0068】
圧電アクチュエータの圧電素子10、20の実施態様を、図1aおよび図1bに示す。圧電素子は多くの異なる形状を成すことができるものの、図1aに示しているのは矩形ブロックの素子であり、図1bに示しているのは円筒形の素子である。
【0069】
圧電素子は、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)を含め、さまざまな材料で製作することができる。PZTは、富士セラミックス社(日本)等の供給業者から商品として入手することができる。
【0070】
圧電素子10には、それぞれが別々の側面電極11を有する4つの側面が設けられている。他方、図示の圧電素子20には、4つの側面電極11を有する1つの側面が備わっている。どちらの実施態様も、端面電極12を有する。これらの電極は、アクチュエータ内で振動モードを励起するために使用される。それらの実施態様において、端面電極は、図示された圧電素子10、20の下方の端部にそれぞれ設けられるものと想定することができる。
【0071】
図1aおよび図1bに示されたように、圧電素子10、20の2組の対向する側面電極対は、側面電極11が存在する各平面に垂直な2本の軸が、相互に垂直であり、且つ端面電極12が存在する平面に垂直な軸(素子の長手方向軸)に垂直である、ように設置される。
【0072】
例えば、図1aの圧電素子10の側面電極11は、2つはy−z平面に平行であり、もう2つはx−z平面に平行である、ように設置される。
【0073】
運動が3本の基本軸の周りまたは3本の基本軸全てでなされる必要がない場合、4つ未満の側面電極11および2つ未満の端面電極12を備えることは任意であることを理解されたい。
【0074】
図2a、図2b、図3a、および図3bを精査すれば自明であるが、電気入力が印加される諸電極のうちの一部のものは図示されていない。更に、これらの図において、正弦波AC信号の表示も、単に例示であり、方形波および/またはのこぎり波といった他のAC信号も可能である。
【0075】
図2aのx方向といった圧電素子の横方向振動は、一対の対向する側面電極11に正弦波AC信号を印加することによって誘発することができる。この場合、それら2つの信号の位相が180度ずれるように、一方の電極を正極AC信号に接続し、他方を負極AC信号に接続することができる(図2a参照)。このようにすれば、所与の入力電圧に対して達成可能な横方向振動の振幅は、最大化する。
【0076】
図2bのz方向といった圧電素子の長手方向振動は、対向する側面電極11から成る(1組または複数組の)電極対のうちの一方または両方に正弦波AC信号を印加することによって誘発することができる。この場合、選択した電極を、位相が合うように同一極のAC信号に接続し、両端面電極12のうちの一方を、電気的に接地する(図2b参照)。
【0077】
このような電気入力方式を用いれば、図示の圧電素子頂部に直接的にまたは間接的に載置した回転子(例えば0.397mmのボール回転子)の3自由度回転を実現できるであろう。3次元空間の3本の基本軸それぞれを中心とする回転は、次のようにして誘発することができる。
1.x軸を中心とする回転は、横方向に振動するy方向振動モードを、90度の位相差をもって、長手方向に振動するz方向振動モードと結合させることによって誘発することができる(図3a参照)。
2.y軸を中心とする回転は、横方向に振動するx方向振動モードを、90度の位相差をもって、長手方向に振動するz方向振動モードと結合させることによって誘発することができる(図3b参照)。
3.z軸を中心とする回転は、横方向に振動するx方向振動モードを、90度の位相差をもって、横方向に振動するy方向振動モードと結合させることによって誘発することができる(図3c参照)。
【0078】
図1a〜3cを参照して説明したような圧電素子を有する圧電アクチュエータも含め、本発明に係る圧電アクチュエータは、アクチュエータの出力性能を拡大すべく、圧電素子頂部に搭載されるトランスデューサ素子も備えることができる。
【0079】
トランスデューサ素子の長手方向軸は、圧電素子10、20の長手方向軸と一致させることができ、また、トランスデューサ素子は多くの断面形態を有することができる。図4a〜4cにあるように、トランスデューサ素子は、中空管体30で形成することもできれば、中実ロッド40で形成することもできる。図示のトランスデューサ素子は、直径1mm未満とすることができ、ケイデンスサイエンス社(米国)等の適切な製造業者から供給される材料で形成することができる。
【0080】
図4a〜4cに示されたように、スロット31、41は、トランスデューサ素子の壁に設けることができる。図で示した実施態様において、スロットは対にして配置されており、スロット対は、図にあるものも含め、任意の数量、配置、寸法、形状、および/または深さにすることができることは自明である。所与の対に属するスロットの態様は、スロットがトランスデューサ素子30、40の対向側面に設置され、且つ同じ寸法、形状、および深さを有するようなものとなっている。特定の態様が図示されているが、このようなスロット対はいくつでも設けることができる。このように対称な構成で設ければ、アクチュエータ内で長手方向振動が誘発される際に、無用な横方向運動は絶対に起こらない。
【0081】
図4aに示すトランスデューサ素子30のスロット31は、トランスデューサ素子が、長手方向軸を中心とする若干の角度方向だけ、図4aのx−z平面およびy−z平面といった2つの平面に関して対称となるように設けられている。これらの平面は相互に垂直であり、それらの交差線は、トランスデューサ素子の長手方向軸と一致することになる。
【0082】
図4bおよび図4cにあるスロット41は、これらの平面それぞれに関するトランスデューサ素子の対称性が同じになるように設けることができる。
【0083】
図示のスロットは、トランスデューサ素子に設けることができ、図4aにある中空素子の場合に、壁を部分的にまたは完全に貫通することができる。
【0084】
スロットを用いれば、各横方向振動モードを単独で、他のモードと、共通の周波数で結合できるようになることから、このようなアクチュエータの設計上の柔軟性が高まる。加えて、トランスデューサにスロットを含めることによって、遥かに短いトランスデューサ長で振動モードを結合できるようになるため、アクチュエータの長さおよび容積が小さくなる。説明しているように、このようなスロットは、市販のレーザ加工機によって設けることができるが、スロットを形成するようにトランスデューサに材料を添加することも含め、他の形成技法を活用しても差し支えない。スロットの数量、配置、寸法、形状、および/または深さは、共振周波数を調整し、アクチュエータの出力性能を最適化すべく、戦略的に設定できるパラメータである。
【0085】
スロットを備えた実施形態を図示しているが、本明細書に記載の説明から自明であるように、トランスデューサ素子には、その代わりにまたはそれに加えて、規定の特徴を有する突起部分領域を設けることも可能である。
【0086】
圧電素子電極に印加されるAC信号の周波数(ω)は、出力性能を最適化すべく、アクチュエータの横方向共振周波数および長手方向共振周波数それぞれに対応するように調節することができる。これらの振動モードは共通の共振周波数で起こるため、それらを結合することは、アクチュエータの幾何学的パラメータを変更することによって実現することができる。
【0087】
図4a〜4cに示すトランスデューサ素子には、金属、高分子、およびセラミックスを含め、任意の適切な材料を使用することができる。好ましくは、トランスデューサ素子は、作動効率を低下させる粘性材料エネルギー損失を最小限に抑えるべく、ステンレス鋼等の低音響散逸性材料で製作するのがよい。金属ロッドおよび管体は、直径1mm未満のものを、ケイデンスサイエンス社(米国)等の製造業者から容易に入手することができる。
【0088】
図5は、本発明に係る分離構造5の一実施態様を示している。分離構造5は、2つのセグメント50、51の周期構造を形成することによって製作される。この場合、それら2つのセグメントは、主に材料の性質若しくは幾何学的構造またはその両方によって、剛性が異なっている。
【0089】
幾何学構造の違いを活用した分離構造において、幾何学的に改変された比較的剛性の低いセグメント50は、本明細書に規定のトランスデューサ素子30、40とほとんど同じ態様で作製することができる。この場合、中実部分または中空部分の壁にスロット52が設けられる。中空の場合、スロット52は、壁を部分的にまたは完全に貫通することができる。分離構造5の比較的剛性の低いセグメント50および比較的剛性の高いセグメント51の断面形態は、様々な適切な形状とすることができる。本明細書に記載の圧電素子20に使用するには、分離構造5のセグメントは、圧電素子20の長手方向軸と一致した長手方向軸を有する円筒体とするのがよい。スロット52も、本明細書に記載のように市販のレーザ加工機または他の技法によって設けることができる。
【0090】
トランスデューサ素子30、40と同様に、分離構造5に使用されるスロットは、任意の数量、配置、寸法、形状、および/または深さにすることができる。図で示した実施態様において、スロット52は対にして配置されている。この場合、所与の対に属するスロット52は、セグメント50の対向する側面に設置され、同じ寸法、形状、および深さを有している。このような対は、何組を設けてもかまわない。このように対称な構成で設ければ、アクチュエータ内で長手方向振動が誘発される際に、無用な横方向運動は絶対に起こらない。
【0091】
図示するように、スロット52は、幾何学的に改変された比較的剛性の低いセグメントが、長手方向軸を中心とする若干の角度方向だけ、図5のx−z平面およびy−z平面といった2つの平面に関して対称となるように配設されている。これらの平面は相互に垂直であり、それらの交差線は、セグメントの長手方向軸と一致することになる。スロット52は、図5に示すように、これらの平面それぞれに関する対称性が同じになるように設けることができる。
【0092】
幾何学的に改変された比較的剛性の低いセグメント50は、スロット52を含めることにより、比較的剛性の高いセグメント51に比べ少ない材料で形成されている。これによって、セグメント50の構造的剛性は最小限に抑えられ、ひいては、音響インピーダンス不整合および分離効率が高まる。分離構造5は、比較的高い剛性の構造51−比較的低い剛性の構造50を形成することによって製作することができる。
【0093】
図では示していないが、本明細書で説明しているように、比較的剛性の高いセグメント51は、対称に配置された突起部分領域の対を1組または複数組有することができる。
【0094】
幾何学的に改変された比較的剛性の低いセグメント50を用いるか否かに関わらず、分離構造5を製作するのに任意の適切な材料を使用することができる。幾何学的に改変された比較的剛性の低いセグメント50を用いれば、音響吸収係数が低い材料を使用することが可能になる。これらの材料は、通常は、スロットを設けて幾何学的に改変する以前は剛性が高いものである。マイクロ分野の用途用に、ステンレス鋼のロッドまたは管体といった材料を使用することができる。これらの材料は、ケイデンスサイエンス社(米国)等の供給業者から、商品として低価格で入手することができる。
【0095】
分離構造5を図示したように製作するのに、比較的剛性の低いセグメント50を用いるか否かに関わらず、分離構造の幾何的パラメータおよび材料的性質を用いて、特定の用途に合うように、分離構造5を改造することができる。分離構造5の剛性に不整合があるため、分離構造5の共振周波数スペクトルの中に「ギャップ」が現れる。これらギャップ内の周波数では、分離構造5は、励起されても振動しない。材料の性質の他に、分離構造5の直径、周期、体積分率(各セグメントが占める周期部分)等の幾何的パラメータを調整することによっても、このギャップの中心周波数および帯域幅を改変することができる。周期は、分離構造5内にいくつ含めてもかまわない。この場合、使用される周期が長くなると、アクチュエータから実装部に伝達されるエネルギーは減少するが、長さは一層長くなる。これも、特定の状況に応じて設定できるパラメータである。
【0096】
一実施態様では、図示のように幾何学的に改変された比較的剛性の低いセグメント50を使用した分離構造は、(図5に示すように)単一長の手持ち材料で製作することができる。これは、分離構造5に誤差をもたらすとともに効率を悪化させる可能性のある組み立て手段を不要にするものである。これは、ステンレス鋼の管体等の普通の材料を選択するとともに、長さに沿って離間されたセグメントにスロット52および/または突起部分領域(図示省略)を導入し、比較的高い剛性の構造51−比較的低い剛性の構造50を形成することによって実現することができる。
【0097】
多自由度圧電アクチュエータ構造6の別の実施態様を図6に示す。この実施態様では、分離構造は、単一長の手持ち材料で製作されている。例えば、アクチュエータは、中実の基材または中空チタン管体61で製作することができるのであり、次いで、その外面60に、圧電素子部分を形成すべく、PZT材料を選択的に成長させる。この後、トランスデューサ素子を形成するとともに分離構造部分の比較的剛性の低いセグメント50を形成するために、スロット62を設ければよい。あるいは、PZT材料60を成長させる前にスロット62を設けてもよい。この場合、PZT材料60は、図6に示すように成長させるかまたはスロットの上端部を覆って選択的に成長させることができる。
【0098】
アクチュエータの試作品の開発についての説明
本明細書に規定の特徴を用いて、マイクロモータまたはアクチュエータ7の試作品を開発した。本試作品は、中空円筒形トランスデューサ70を含んでこの試作品を構成したが、これは、単一のチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)圧電素子71の頂部に搭載され、PZT圧電素子71に励起されてボール回転子72を駆動するものである。
【0099】
この試作品では、2つの曲げ振動モードを結合することによって、長手方向軸を中心に回転運動を発生させることができる(図7a参照)。加えて、トランスデューサ内で曲げ振動モードを軸モードと結合することによって、各横方向軸を中心に回転運動を発生させることができる(図7bおよび図7c参照)。これらの回転出力を実現するには、各振動モードを、他方に対して4分の1波長分の位相差をもって励起する必要がある。2つの振動モードのうちの位相が進んでいる方を変更することによって、任意の軸を中心とする回転を反転することができる。その結果、3自由度の可逆回転がもたらされる。この場合、2本の直交横方向軸(xおよびy)および長手方向軸(z)の周りで回転が生じる。
【0100】
トランスデューサ内で必要な振動モードを起動するために、PZT圧電素子内で曲げ運動および軸方向運動を発生させる方法が考案された。
【0101】
この設計に使用されるPZT素子は、長手方向に分極している。PZT素子の対向する2つの側面の相互間の電気的な差を加えることで、d31圧電歪み結合によって、PZT素子を強制的に曲げることができる。あるいは、上方または下方の長手方向電極のいずれかを接地した状態でPZT素子の対向する2つの側面の相互間に等しい電気ポテンシャルを印加することで、PZT素子を軸方向に強制的に延伸させることができる。
【0102】
このような共振モータの性能は、直交する2つの振動モードが結合されるその精度のレベルによって決まる。2つの振動モードを結合することは、2つの共振周波数を所望の精度水準内で整合させるために、トランスデューサの幾何学的パラメータを調整することによって実現される。この例で周波数の整合を実施するために、有限要素解析(FEA)を実施した。
【0103】
3自由度マイクロモータの設計および開発を行うために選択されたFEAパッケージは、ANSYS11.0(アンシス社、ペンシルバニア州キャノンズバーグ)であった。マイクロエレクトロメカニカルシステムズ(MEMS)および圧電材料の用途に対する特有の適合性に基づいて、このパッケージが選択された。マイクロモータの振動モードの共振周波数を予測し、調整するために、最初にモード解析を行った。
【0104】
FEAを行うに際して、完全なユニットから回転子を除いたもので、マイクロモータをモデル化した。そのモデルには、PZT素子をトランスデューサに結合するため、かつ、マイクロモータをテスト用基板に固定するために、2ヶ所のエポキシ接着剤を含ませた。そのため、導電性の高強度エポキシ(Epotek H20E、エポキシテクノロジー社、マサチューセッツ州ビレリカ)を選択し、接着部厚を10μmとした。これは、後に、数値計算−実験確認手順によって検証された。標準的な皮下注射針の管体の入手可能性に基づき、円筒形トランスデューサの内径および外径を、それぞれ110μmおよび230μmに設定した。次いで、PZT素子の大きさを、所望のモータ規模、製造性、およびこれらの制約下での共振変位の最大化に基づき、250×250×500μmに設定した。トランスデューサの材料は、ステンレス鋼304を選択し、圧電素子の材質は、PZTでは標準的なものとした。これらのパラメータの事前の情報から、トランスデューサ長が、モータの共振周波数を調整するための唯一の変数として残った。
【0105】
トランスデューサ長を変化させた場合、長さが短くなると、マイクロモータに曲げを誘発することがますます困難になった。加えて、横方向軸の回転を達成するためには、トランスデューサ長をより長くすることで、軸方向振動モードの周波数を十分に低くして、曲げ振動モードと結合できるようにする必要があることが分かった。マイクロ分野で使用するにはトランスデューサ長を最小限に抑えることが望ましいことから、より短いトランスデューサ長において曲げ運動を促進するために、簡素性を犠牲にして、トランスデューサ壁を意図的に脆弱化させることを構想した。この意図的な脆弱化は、図8aに示すように、スロット72をトランスデューサ壁に対称的に配置して設けることによって実現した。モード変位の純度を維持しつつ、全共振周波数を大幅に下げることに基づいて模索された多くの設計の中で、これらのスロットが最も適した設計であることが分かった。各直交軸を中心とする、純粋で、制御された状態の回転子の回転を達成するためには、独立の振動モード(図8b〜d)の純度を最大化することが重要である。
【0106】
このモード純度を更に助長するために、各軸における曲げ振動モード相互間に小さく正確な周波数差を発生させる目的で、各横方向軸に特有の2つのスロットを形成した。
【0107】
図9は、図7の設計にトランスデューサ長の変更を行った場合に、曲げ振動モードおよび軸方向振動モードの両方に及んだ影響を示している。具体的には、マイクロモータでモード周波数結合を行うには、第2の曲げ振動モードが第1の軸方向振動モードと密接に整合していることが必要であった。見てとれるように、これは、使用した幾何形状において、トランスデューサ長が1450μmの場合の事例である。
【0108】
次いで、図8の大きさに従って、試作品9を製作した。トランスデューサ90は、手持ちの標準的な皮下注射針の中空管体(ケイデンスサイエンス社、ニューヨーク)から所定の長さに切断したものであり、レーザ加工機(レーザマイクロマシーニングソルーションズ社、マッコーリー大学、オーストラリア)によって、スロット91を設けた。圧電素子92(Fuji C−203、富士セラミックス社、日本)に直径50μmの金線93を接着し、上記のものと同じ導電性高強度エポキシを使って電力を供給した。
【0109】
図10に、完成した試作品9を示す。マイクロモータの性能評価に使用した回転子は、直径0.397mmのクロム製のボール94(スモールパーツアンドベアリングズ、オーストラリア国クイーンズランド)であった。
【0110】
最初に、レーザドップラ振動計(ポリテック社、カリフォルニア州タスティン)を使って、振動モードの周波数を実験的に測定し、数値モデルの妥当性を確認すべく、FEAによる予測と比較した。表1に、この比較を示している。表1において、誤差は、予測値に対して規格化している。実験による周波数は全て、予測したものに対して4%以内であることは表1から明らかである。この誤差には、この大きさのモータを製作し手で組み立てることに関連する難点が寄与していると考えることができる。そのため、マイクロモータを設計するのに使用したエポキシ接着剤、並びに電気的境界条件および機械的境界条件を含め、FEAモデルは妥当であると考えた。
【0111】
kHzを単位とする共振周波数(f)の、FEAで予測したものと実験によるものとの比較。誤差(%)は、予測によるfに対して規格化している。
【表1】

【0112】
マイクロモータの性能を測定するには、過渡的始動期間の間に回転子の回転速度を測定し、モータの加速、したがってトルクを推測する必要があった。レーザドップラ速度計(Canon LV−20Z、米国)を使って、ボール回転子の接線方向速度を測定した。この速度は、後で回転速度に変換することができる。二位相出力およびトリガー能力を備えたWF1996(NF社、日本)信号発生器を使って、マイクロモータに印加する二位相電圧を生成した。続いて、BA4825(NF社、日本)電力増幅器を使って、各入力を増幅した。マイクロモータへの入力信号、および回転子速度に比例するレーザドップラ速度計からの出力電圧を、デジタルオシロスコープ(レクロイウェーブジェット、米国)を使ってモニタし、記録した。
【0113】
実験による、全3軸を中心とする回転子の時間の関数としての回転速度を、指数関数に適合させた。続いて、その等式を微分して、回転子の角加速度の式を得た。これによって、マイクロモータのトルクが計算できるようになった。図11は、3本の直交軸についてこれらのトルクを計算した結果を示したものであり、回転子の回転速度との関係でプロットしている。どの軸も、印加された電圧は、21.2VRMSであった。横方向x軸、横方向y軸、および長手方向z軸の動作周波数はそれぞれ、456kHz、462kHz、および191kHzであった。横方向x軸、横方向y軸、および長手方向z軸におけるピーク(ストール)トルクおよび最大(無負荷)回転速度はそれぞれ、1.33nNmと6300RPM、1.23nNmと4950RPM、および2.38nNmと5630RPMであった。本明細書に提示の値は、マイクロモータの平均的能力を表しているが、ピークのトルク値および回転速度値は、最大その2倍まで観察された。したがって、トップダウン製造および組み立ての最新技術が微細な領域で発達していることから、本発明者は、このマイクロモータについても大幅な性能向上が可能であると考えている。
【0114】
圧電マイクロモータは、通常、非常に高速の回転速度(>>20RPS)で動作する。マイクロドリルおよびロボット推進力といった様々な用途では、これらの回転速度は望ましいものであるが、その他の用途では速すぎる。例えばMISの場合、外科治療における生理学的な振戦の抑制、マイクロロボット鉗子、並びに、内視鏡および腹腔鏡を用いた手術等の用途では、低速での制御が必要とされる。これらを目的として、3つの回転軸全てにおいて、入力駆動信号を連続して出力するトリガバーストを行った。この場合、バーストの継続期間(マーク)は、変調デューティサイクルと同じように制御した。図12は、3つの直交回転軸に対するマイクロモータの制御を用いて撮影したビデオから取り出した静止画像を示している。このような方式で制御することによって、使用したマークにおいて、約5000RPMから10RPMまで回転速度が低下した。これは、外科医が良好な位置の制御を行うのに適度に適している。
【0115】
試作品について行なった作業に基づき、外形が350μmで、可逆3自由度回転が可能な実際のマイクロモータを設計し、試作し、テストした。より短いトランスデューサ長において曲げ振動モードおよび軸方向振動モードの共振周波数を結合させるために、トランスデューサの壁内部にスロットを設けた。21.2VRMSにおいて、マイクロモータのトルクはおよそ1〜2nNmであり、回転速度は約5000〜6000RPMであることが分った。ある電気制御方式を活用して6〜20RPMの速度に低下できることを実証し、これらのマイクロモータが、高速のみならず、多くの用途で必要とされる低速でも動作できるだけの能力を有することを実証した。このマイクロモータは、既存のマイクロロボットMISツールと一体化され、これらの技術を更に小型化するのに必要なきっかけを与えると期待されている。あるいは、手動診断および処理用のマイクロMISツールの技術を更に進化させるために使用されるものと期待されている。これらはいずれも、外科医が患者により良い治療を施せるように探求するのに役立つであろう。
【0116】
分離構造の試作品の実験についての説明
1mm未満の円筒形に設計された分離構造を、数値計算により開発し、実験的にテストを行った。このマイクロ構造は、音響的な挙動を隔絶するために、共振マイクロアクチュエータと実装部との間に設置するように設計した。共振周波数スペクトル内に音響阻止帯域が形成されることを活用した。汎用性が高いという理由から、円筒形の構造を選択した。屈曲波を隔絶することに主眼を置いて検討を行なったが、長手方向の波動に関する事例も、容易に組み込むことができる。
【0117】
自由な等方性円筒形導波路の共振傾向の特徴を把握することは、ポッホハンマーの周波数方程式によって実現することができる。屈曲波の場合は、ポッホハンマー方程式内での結合割合が大きいため、閉じた形態の解は依然として獲得し難い。結果として、近似解を得られるように、長年の間に代替技法が開発された。しかしながら、このような解および解析は、単純な自由円筒体の場合についてのみ開発されたに過ぎず、不均一性と複雑な境界条件とが合わさったことによる複雑な状況には適応できていない。これを解決するために、有限要素解析(FEA)を使って分離構造の共振周波数を予測し、このようにして、共振周波数スペクトルをプロットできるようにした。
【0118】
どちらも直径1mm未満のものが容易に入手できることを根拠に、ナイロン−6モノフィラメントとステンレス鋼304ロッドから成る複合構造を考案した。ANSYS11.0(アンシス社、米国ペンシルバニア州キャノンズバーグ)を使って、これらの材料の周期構造から成るパラメータモデルを開発した。ステンレス鋼のセグメントおよびナイロンのセグメントの直径は、300μmに設定した。複合体の周期長、体積分率、および周期数は、音響分離を調整し最適化するための変数として残しておいた。
【0119】
最初に、FEAパッケージを使って一連のモデル解析を行い、モデルの共振周波数を予測したが、これは、これらの変数に対する構造の感度を確かめるためである。横方向分散スペクトルを生成するために、固有モード数を波数に関連付けた。角波数kは、2π/λによって求められる。式中、λは音響波長である。導波路分離構造において、音響波長が複合周期dのスカラ分率に等しい場合にはいつでも、阻止帯域が起こる。そのため、n番目の阻止帯域の波数は、式(1)によって求められる。
=2πn/d; n=1,2,3,・・・(1)
【0120】
Lを構造の全長としたときに、固有モード数mが2L/λを介して波長と関連付けられていることから、pの複合周期を有する構造の所与の固有モードの波数は、式(2)のようになる。
=πm/pd; m=1,2,3,・・・(2)
式(1)と式(2)が等しい場合にはいつでも、阻止帯域が存在することになる。
【0121】
複合体積分率および周期長が音響阻止帯域の中心周波数および帯域幅に及ぼす影響について検討を行った。体積分率ではなく周期の長さを調節することによって、阻止帯域の中心周波数を最大限に制御できることが、確立された。阻止帯域の中心周波数が、それが結合されることになる共振アクチュエータの動作周波数と一致することが望ましいことから、複合周期長は、最後に調節されるべきである。他方、体積分率は、阻止帯域の中心周波数および帯域幅に非常に強く影響することが分かった。所与の阻止帯域の帯域幅は、阻止帯域の周波数が高いと帯域幅が広くなる傾向にあるという点で中心周波数と関係があるため、帯域幅を、中心周波数に対して規格化した。図13から明らかなように、ステンレス鋼−ナイロン複合体において、最適な体積分率は約0.65である。即ち、周期は、65%をステンレス鋼にする必要がある。次いで、複合周期長を使って第1の阻止帯域の中心周波数を500kHz付近に調節し、一周期が1500μmで得られた。この周波数は、典型的な超音波マイクロアクチュエータの動作周波数に基づいて選択されたものである。最後に、FEA変位を視覚的に観察して、複合体の3つの周期は実験を行うのに十分であると判断した。
【0122】
試作品は、ナイロン101およびステンレス鋼102の複合周期を三つ含んでおり体積分率が0.65、周期が1500μmで製作された(図14)。ステンレス鋼(ケイデンスサイエンス社、米国ニューヨーク州)セグメントおよびナイロン(オーストラリアンモノフィル社、オーストラリア)セグメントをレーザ加工機(レーザマイクロマシーニングソルーションズ社、マッコーリー大学、オーストラリア)によって所定の長さに切断し、高強度エポキシ(Epotek H20E、エポキシテクノロジー社、米国マチューセッツ州ビレリカ)を使って接着部103で相互に接着した。接着部厚は10μmと推測されるが、ナイロンセグメントの長さを同じ量だけ短縮することによってこの厚さを確保した。というのは、エポキシの音響インピーダンスは、ナイロンのものと非常に似通っているからである。同じエポキシを使って構造および基板に接着した、大きさが250×250×500μmのチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)圧電素子104(Fuji C−203、富士セラミックス社、日本)を使って、分離構造内に曲げ波動を励起した。
【0123】
レーザドップラ振動計(LDV)(ポリテック社、米国カリフォルニア州タスティン)を使って、試作品の横方向の共振周波数を測定し、図15に示すように予測値と比較した。図15において、式(2)を使って波数を算出するのに、ここでも固有モード数を使用した。図15から明らかなように、実験による中心周波数および帯域幅がそれぞれ520kHzおよび380kHzである第1の音響阻止帯域が存在する。図15は更に、横方向分散スペクトルの数値計算による予測と実験による実測とが定量的に卓越して一致していることも実証しており、数値モデルおよび分離構造の設計にFEAを使用することが妥当であることを示している。
【0124】
阻止帯域内における構造の音響分離性能を検証するために、屈曲波を用いて中心周波数で試作品を励起し、LDVを使ってその振動変位を走査した(図16の(a))。観察および分離構造のFEA高調波励起との比較により(図16の(b))、音響波は、第1の周期内ではほとんど完全に隔絶されており、構造が終端するまでに十分に隔絶されている。そのため、用途に特有の要件によっては、この構造が1周期あれば十分なはずである。
【0125】
この結果に基づき、長波長限界において、共振マイクロアクチュエータが発する音響波等の音響波を隔絶できることを、分離構造により証明された。ステンレス鋼−ナイロンの複合分離構造は、中心周波数が520kHzで、帯域幅が380kHzの十分な音響阻止帯域を生成した。
【0126】
具体的な実施形態に示されたように、本発明には、広範囲にわたって説明した本発明の範囲から逸脱することなく、数多くの変形および/または変更を施すことができることは、当業者により理解されるであろう。したがって、本実施形態は、あらゆる点で、限定的に理解されるべきではなく、例示的であると理解されるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
3次元空間の3本の基本軸それぞれの周りでまたはそれぞれの軸の方向に、回転素子または摺動素子の運動を発生させることができる圧電アクチュエータにおいて、
1つまたは複数の側面と、
第1の端面と、
第2の端面と、
を有する本体を備えた圧電素子を備え、
前記少なくとも1つまたは複数の側面は、複数の独立した側面電極を備え、前記第1の端面または第2の端面のうちの少なくとも一方は、端面電極を備えている、圧電アクチュエータ。
【請求項2】
前記圧電素子の前記本体は矩形のブロックである、請求項1に記載の圧電アクチュエータ。
【請求項3】
前記本体は、4つの側面を有し、各側面は単独の側面電極を備えている、請求項1または2に記載の圧電アクチュエータ。
【請求項4】
前記本体は、4つの側面電極を備えた1つの側面を有している、請求項1に記載の圧電アクチュエータ。
【請求項5】
前記圧電素子の前記本体は円筒体である、請求項1または4に記載の圧電アクチュエータ。
【請求項6】
前記4つの側面電極は、2組の対を形成するように配置され、それによって、所与の対に属する2つの側面電極は、前記圧電素子上の対向する場所に存在している、請求項3または4に記載の圧電アクチュエータ。
【請求項7】
側面電極対の各電極は、前記圧電素子の長手方向軸の周りを、もう一方の電極から180度の角度で回転した場所またはその付近に配置されている、請求項6に記載の圧電アクチュエータ。
【請求項8】
前記圧電素子の2組の対向する前記側面電極対は、それら側面電極が存在する平面に垂直な2本の軸が、
相互に垂直であり、且つ
前記端面電極が存在する平面に垂直な軸に垂直である、ように配置されている、請求項7に記載の圧電アクチュエータ。
【請求項9】
前記本体の前記長手方向軸は、前記アクチュエータのz軸を成し、
前記圧電素子の側面電極は、
2つはy−z平面に平行であり、且つ
2つはx−z平面に平行である、ように設置されている、請求項8に記載の圧電アクチュエータ。
【請求項10】
前記圧電素子の前記本体は、チタン酸ジルコン酸鉛で形成されている、請求項1に記載の圧電アクチュエータ。
【請求項11】
前記圧電素子は、前記圧電素子の前記本体の長手方向軸の方向に分極されている、請求項1に記載の圧電アクチュエータ。
【請求項12】
前記圧電素子は、前記圧電素子の横方向振動および/または長手方向振動を誘発することによって作動させることができ、
横方向振動は、対向する側面電極対にまたがってAC信号を印加することによって誘発され、その場合に、一方の側面電極は正極のAC信号に接続されるとともに、他方は接地され、または、一方の側面電極は正極のAC信号に接続されるとともに、他方は、2つの前記信号の位相が180度ずれるように負極のAC信号に接続され、
長手方向振動は、対向する側面電極対の一方または両方にAC信号を印加することによって誘発され、選択された電極は、位相が合うように同一極のAC信号に接続され、前記端面電極のうちの少なくとも一方は、電気的に接地される、請求項1に記載の圧電アクチュエータ。
【請求項13】
前記交流信号は、正弦波AC信号、方形波AC信号、および/またはのこぎり波AC信号である、請求項12に記載の圧電アクチュエータ。
【請求項14】
前記圧電アクチュエータの前記回転素子または摺動素子は、前記圧電素子の1つの端部に搭載される、請求項1に記載の圧電アクチュエータ。
【請求項15】
横方向に振動するy方向振動モードを、90度の位相差をもって、長手方向に振動するz方向振動モードと結合させることによってx軸を中心とする回転を誘発することと、
横方向に振動するx方向振動モードを、90度の位相差をもって、長手方向に振動する前記z方向振動モードと結合させることによってy軸を中心とする回転を誘発することと、
横方向に振動する前記x方向振動モードを、90度の位相差をもって、横方向に振動する前記y方向振動モードと結合させることによってz軸を中心とする回転を誘発することと、
によって前記回転素子の3自由度回転を得ることが可能な、請求項1に記載の圧電アクチュエータ。
【請求項16】
さらに、トランスデューサ素子が前記圧電素子の一方の端部に搭載され、それが前記圧電素子と前記回転素子間または前記圧電素子と摺動素子間に搭載されたものである、請求項1に記載の圧電アクチュエータ。
【請求項17】
前記トランスデューサ素子にはスロットが設けられている、請求項16に記載の圧電アクチュエータ。
【請求項18】
前記スロットは、前記トランスデューサ素子の壁の1つまたは複数に設けられている、請求項17に記載の圧電アクチュエータ。
【請求項19】
前記スロットは、前記圧電素子の外壁および/または内壁に設けられている、請求項18に記載の圧電アクチュエータ。
【請求項20】
スロットは対にして配置され、それによって、所与の対に属するスロットは、前記トランスデューサ素子の対向する側面に設置され、且つ同じ寸法、形状、および/または深さを有している、請求項17に記載の圧電アクチュエータ。
【請求項21】
スロットから成る対それぞれに属する各スロットは、前記トランスデューサ素子の長手方向軸を中心に、他のスロットから180度回転させた場所またはその付近に設置されている、請求項20に記載の圧電アクチュエータ。
【請求項22】
対を成すスロットは、前記トランスデューサ素子上に、対称に配置されている、請求項20または21に記載の圧電アクチュエータ。
【請求項23】
前記スロットは、前記トランスデューサ素子が相互に垂直な2つの平面に関して対称となるように設けられており、前記平面の交差線は、前記トランスデューサ素子の前記長手方向軸と一致している、請求項22に記載の圧電アクチュエータ。
【請求項24】
前記トランスデューサ素子は中空または中実であり、更に、前記トランスデューサ素子が中空の場合に、前記スロットは、前記トランスデューサ素子の壁を部分的にまたは完全に貫通している、請求項17に記載の圧電アクチュエータ。
【請求項25】
前記トランスデューサ素子は、低音響散逸性材料で製作されている、請求項16に記載の圧電アクチュエータ。
【請求項26】
分離構造を更に備えている、請求項1に記載の圧電アクチュエータ。
【請求項27】
前記分離構造は、前記圧電素子と実装台との間に設けられている、請求項26に記載の圧電アクチュエータ。
【請求項28】
前記分離構造は、複数のセグメントから成る本体を備えている、請求項27に記載の圧電アクチュエータ。
【請求項29】
前記分離構造は、2つのセグメント区分構造、セグメントが3つ以上の構造、および/または周期構造を備えている、請求項28に記載の圧電アクチュエータ。
【請求項30】
前記複数のセグメントは、1または複数の比較的剛性の高いセグメントと、1または複数の比較的低い剛性のセグメントとから構成されている、請求項28に記載の圧電アクチュエータ。
【請求項31】
前記分離構造の本体は、中空または中実であり、更に、前記分離構造の前記本体の1または複数の壁にスロットが配置されている、請求項28に記載の圧電アクチュエータ。
【請求項32】
前記分離構造の前記本体は、中空の管体を備えている、請求項31に記載の圧電アクチュエータ。
【請求項33】
前記スロットは、前記分離構造の壁に部分的にまたは完全に貫通して設けられている、請求項32に記載の圧電アクチュエータ。
【請求項34】
前記分離構造の前記セグメントは円筒形状であり、前記円筒形状の軸は、前記アクチュエータの長手方向軸と同一である、請求項28に記載の圧電アクチュエータ。
【請求項35】
前記スロットは対にして配置され、それによって、所与の対に属するスロットは、前記セグメントの対向する側面に設置され、且つ同じ寸法、形状、および/または深さを有している、請求項31に記載の圧電アクチュエータ。
【請求項36】
スロットの各対それぞれに属する各スロットは、前記分離構造の長手方向軸を中心に、他のスロットから180度回転させた場所またはその付近に設置されている、請求項35に記載の圧電アクチュエータ。
【請求項37】
スロット対は、前記分離構造に、対称な形で設けられている、請求項35または36に記載の圧電アクチュエータ。
【請求項38】
前記スロットは、前記分離構造が相互に垂直な2つの平面に関して対称となるように対にして配置され、前記平面の交差線は、前記分離構造の前記長手方向軸と一致している、請求項37に記載の圧電アクチュエータ。
【請求項39】
前記分離構造の前記長手方向軸は、z軸を成し、前記スロットは、前記分離構造がy−z平面およびx−z平面に関して対称となるように設けられている、請求項37に記載の圧電アクチュエータ。
【請求項40】
圧電アクチュエータに使用されるトランスデューサ素子であって、
1つまたは複数の壁を有する本体を備え、
前記トランスデューサ素子の前記壁にスロットが設けられ、且つ/または突起部分領域が設けられ、対にして配置されており、それによって、所与の対に属する前記スロットまたは前記突起部分領域は、前記トランスデューサ素子の対向する側面上に設置されている、トランスデューサ素子。
【請求項41】
スロットのそれぞれの対に属する各スロットまたは突起部分領域から成る対それぞれに属する各突起部分領域は、前記トランスデューサ素子の長手方向軸を中心に、他のスロットから180度回転させた場所またはその付近に設置されている、請求項40に記載のトランスデューサ素子。
【請求項42】
前記スロットおよび/または突起部分領域は、前記本体に、対称に配置されている、請求項40に記載のトランスデューサ素子。
【請求項43】
圧電アクチュエータに使用されるトランスデューサ素子であって、
1つまたは複数の壁を有する本体を備え、
前記トランスデューサ素子の前記壁にスロットが設けられ、且つまたは突起部分領域が設けられ、それらスロットおよび/または突起部分領域は、前記トランスデューサ素子が相互に垂直な2つの平面に関して対称となるように配置されており、前記平面の交差線は、前記トランスデューサ素子の前記長手方向軸と一致している、トランスデューサ素子。
【請求項44】
圧電アクチュエータに使用される分離構造であって、
複数のセグメントから成る本体を備え、
前記セグメントは、1または複数の比較的剛性の低いセグメントと、1または複数の比較的剛性の高いセグメントとを備え、剛性の差は、前記比較的剛性の低いセグメントと前記比較的剛性の高いセグメントとの間の材料特性の差、および/またはそれらの幾何学的構造によるものである、分離構造。
【請求項45】
前記構造は、2セグメント以上の構造を備え、剛性の差は、それらの幾何学的構造の違いによるものであり、対称に配置された1または複数のスロット対が、前記比較的剛性の低いセグメントに設けられている、請求項44に記載の分離構造。
【請求項46】
所与の対に属するスロットは、前記比較的剛性の低いセグメントにおいて対向する側面に設置され、且つ、同じ寸法、形状、および/または深さを有している、請求項45に記載の分離構造。
【請求項47】
前記スロットの対それぞれに属する各スロットは、前記分離構造の長手方向軸を中心に、他方から180度回転させた場所またはその付近に設置されている、請求項45または46に記載の分離構造。
【請求項48】
前記スロットは、前記比較的剛性の低いセグメントに、前記セグメントが相互に垂直な2つの平面に関して対称となるように配置されており、前記平面の交差線は、前記セグメントの長手方向軸と一致している、請求項45に記載の分離構造。

【図1a】
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【図1b】
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【図2a】
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【図2b】
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【図3a】
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【図3b】
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【図3c】
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【図4a】
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【図4b】
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【図4c】
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【図5】
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【図6】
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【図7(a)】
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【図7(b)】
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【図7(c)】
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【図8(a)】
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【図8(b)】
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【図8(c)】
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【図8(d)】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公表番号】特表2013−521747(P2013−521747A)
【公表日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−555256(P2012−555256)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【国際出願番号】PCT/AU2011/000222
【国際公開番号】WO2011/103644
【国際公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【出願人】(512222286)インテリメディカル テクノロジーズ プロプライエタリー リミテッド (1)
【氏名又は名称原語表記】Intellimedical Technologies Pty Ltd
【住所又は居所原語表記】c/o MGI Melbourne Level 10, 600 St Kilda Road, Melbourne, Victoria 3004, Australia
【Fターム(参考)】