エネルギー吸収ベルト
【課題】高い安全性と、高性能の衝撃エネルギー吸収能力を有し、然かも、小型軽量化の可能でかつ衝撃エネルギー吸収時に人体に与える衝撃を均一化して人体の損傷を防止しえるエネルギー吸収ベルトを提供する。
【解決手段】エネルギー吸収ベルト1であって、当該ベルト1は表裏2層に配置され、からみ糸7により相互に接結されている第1の布帛2と第2の布帛3とから構成されており、当該第1及び第2の布帛2、3は何れも平織組織を有しており、且つ当該それぞれの布帛2、3は何れも少なくとも3種類の縦糸4と少なくとも1種類の緯糸5とから構成され、当該縦糸4の内、第1の縦糸4−1は予め定められた引張強度で切断する糸で構成され、第2の縦糸4−2は、当該引張強度では切断せず伸張する高度の伸張特性を有する糸で構成され、第3の縦糸4−3は高強力特性を有し、他の縦糸よりも糸足6が長くなるように当該布帛内に織り込まれている事を特徴とするエネルギー吸収ベルト1。
【解決手段】エネルギー吸収ベルト1であって、当該ベルト1は表裏2層に配置され、からみ糸7により相互に接結されている第1の布帛2と第2の布帛3とから構成されており、当該第1及び第2の布帛2、3は何れも平織組織を有しており、且つ当該それぞれの布帛2、3は何れも少なくとも3種類の縦糸4と少なくとも1種類の緯糸5とから構成され、当該縦糸4の内、第1の縦糸4−1は予め定められた引張強度で切断する糸で構成され、第2の縦糸4−2は、当該引張強度では切断せず伸張する高度の伸張特性を有する糸で構成され、第3の縦糸4−3は高強力特性を有し、他の縦糸よりも糸足6が長くなるように当該布帛内に織り込まれている事を特徴とするエネルギー吸収ベルト1。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エネルギー吸収ベルトに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の衝撃エネルギー吸収ベルトとしては、実開昭49−11428号公報(特許文献1)或は特開昭50−4725号公報(特許文献2)等に示されている様に、破断伸度がそれぞれ異なる複数種の縦糸を同時に使用して構成された一枚構造の織物からなり、当該複数種の縦糸の一部を他の縦糸より浮かせて織り込む様に構成されたエネルギー吸収ベルトが知られている。
【0003】
然しながら、係る公知例では、1層の織物から構成されている事と、少なくとも2種類の縦糸は当該エネルギー吸収ベルトの伸張過程で切断されてしまう様に構成されているので、エネルギー吸収ベルト全体としてみた場合には、強力が不十分であり、安全性に関する信頼性が乏しいものであった。
【0004】
一方、織物を2層に配列させたエネルギー吸収ベルトとしては、例えば特開2003−275333号公報(特許文献3)に示されている通り、上下2層の織物をからみ糸で相互に接合すると共に、切断伸度が異なる複数種の芯糸を使用し、当該エネルギー吸収ベルトの伸張に伴って、地糸は切断されないが、当該芯糸のみが順次切断する様に構成されたエネルギー吸収ベルトが開示されている。
【0005】
然しながら、係るエネルギー吸収ベルトにあっては、芯糸を複数種類使用することと、からみ糸を使用するものであるから、製織工程が煩雑である事から生産コストが高騰する欠点を有すると同時に、当該芯糸の切断が部分的且つ集中的に発生する事から、作業者が事故に際して受ける衝撃が段階的に発生するので、不快感を感じるという欠点が有った。
【0006】
従って、従来より、強力が十分あり、エネルギー吸収効果が高く、落下物に対する衝撃の大幅に和らげ、コストが低く、安全性に対する信頼性の高いエネルギー吸収ベルトが求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】実開昭49−11428号公報
【特許文献2】特開昭50−4725号公報
【特許文献3】特開2003−275333号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の目的は、上記した従来のエネルギー吸収ベルトに於ける問題点を解消し、簡易な構成でありながら、理想的な破断伸張特性を示し、事故発生時に、作業員或はユーザーを保護する為に十分な耐久性と強度を有するエネルギー吸収ベルトであって、然も生産性が高く生産コストが抑制できるエネルギー吸収ベルトを提供するものであり、更には、低荷重から高荷重の落下物を広範囲に亘って効率的に受け止める事が可能で、安全保護を受けるべき対象となる作業員或はユーザーの範囲を拡大する事が可能な当該エネルギー吸収ベルトを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上記した目的を達成するため、以下に記載されたような技術構成を採用するものである。即ち、本発明に係るエネルギー吸収ユニットの基本的な構成としては、エネルギー吸収ベルトであって、当該ベルトは表裏2層に配置され、からみ糸により相互に接結されている第1の布帛と第2の布帛とから構成されており、当該第1及び第2の布帛は何れも平織組織を有しており、且つ当該それぞれの布帛は何れも少なくとも3種類の縦糸と少なくとも1種類の緯糸とから構成され、当該縦糸の内、第1の縦糸は予め定められた引張強力で切断する糸で構成され、第2の縦糸は、当該引張強力では切断せず伸張する高度の伸張特性を有する糸で構成され、第3の縦糸は、高強力特性を有し、他の縦糸よりも糸足が長くなるように当該布帛内に織り込まれている事を特徴とするエネルギー吸収ベルトである。
【0010】
上記した通り、本発明では、2層構造の平織物からなるエネルギー吸収ベルトであって、芯糸を使用せずに各平織物では、3種類の地糸の特性を選択することによって、ベルト内での荷重の印加状態のバランスを向上させ、地糸の中の特に第1の縦糸4−1のそれぞれが、当該ベルト内で均一に分散された状態で、順次にエネルギー吸収出来ると共に、それに伴う地糸の切断が発生する様に構成でき、これにより第2の縦糸4−2の伸張をコントロールし当該ベルトのエネルギー吸収領域を任意に設定でき、更に第3の縦糸により安全性を確保する為の十分な強度保持出来る。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、基本的には上記した様な技術構成を採用しているので、以下に示す様な作用効果を発揮する事が可能である。
即ち、簡易な構成でありながら、図2に示す様な、理想的な破断伸張特性を示し、十分な使用中の耐久強度を有するエネルギー吸収ベルトであって、然も生産性が高く生産コストが抑制できるエネルギー吸収ベルトが容易に得られるという作用効果を有するものである。
【0012】
更には、本発明に於いては、事故発生時に、作業員或はユーザーを保護する為に十分な耐久性と強度を有するエネルギー吸収ベルトであって、落下物の荷重の制限を大幅に緩和出来、低荷重の落下物から高荷重の落下物まで、広範囲に亘って効率的に受け止める事が可能で、安全保護を受けるべき対象となる作業員或はユーザーの範囲を拡大する事が可能な当該エネルギー吸収ベルトを提供するもので、従来のエネルギー吸収ベルトの欠点を改良したエネルギー吸収ベルトを容易に且つ安価に得ることが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、本発明に於けるエネルギー吸収ベルトの1具体例の構成を示す断面図である。
【図2】図2は、本発明に於ける当該エネルギー吸収ベルトの1具体例の引張強伸度曲線を示す図である。
【図3】図3は、本発明に於けるエネルギー吸収ベルトの1具体例を構成している各経糸(地糸)の引張強伸度曲線の例を示す図である。
【図4】図4は、本発明に於ける当該エネルギー吸収ベルトの落下衝撃試験を行う為の落下衝撃試験装置の一例を示す図である。
【図5】図5は、本発明及び本発明の比較例に於ける引張強伸度曲線を示す図である。
【図6】図6は、本発明に於ける当該エネルギー吸収ベルトを使用した、落下対象物が85kgに於ける当該エネルギー吸収ベルトの衝撃荷重波形を示す図である。
【図7】図7は、本発明に於ける当該エネルギー吸収ベルトを使用した、落下対象物が100kgに於ける当該エネルギー吸収ベルトの衝撃荷重波形を示す図である。
【図8】図8は、本発明に於ける当該エネルギー吸収ベルトを使用した、落下対象物が120kgに於ける当該エネルギー吸収ベルトの衝撃荷重波形を示す図である。
【図9】図9は、本発明に於ける当該エネルギー吸収ベルトを使用した、落下対象物が140kgに於ける当該エネルギー吸収ベルトの衝撃荷重波形を示す図である。
【図10】図10は、本発明に於ける当該エネルギー吸収ベルトの1具体例の落下対象物が85kgに於ける衝撃荷重波形を示す図である。
【図11】図11は、本発明に於ける当該エネルギー吸収ベルトの1具体例の落下対象物が100kgに於ける衝撃荷重波形を示す図である。
【図12】図12は、特許文献3に於ける当該エネルギー吸収ベルトの落下対象物が85kgに於ける引張強伸度曲線を示す図である。
【図13】図13は、特許文献3に於ける当該エネルギー吸収ベルトの落下対象物が100kgに於ける衝撃荷重波形を示す波形図である。
【図14】図14(A)から図14(E)は、本発明に於ける当該エネルギー吸収ベルトの試験結果を示すグラフである。
【図15】図15は、本発明に於ける、第1の経糸の第2の経糸に対する影響を示すグラブである。
【図16】図16(A)は、ナイロンロープの衝撃荷重波形を示す波形図であり、図16(B)は、本発明に於ける当該エネルギー吸収ベルトの衝撃荷重波形を示す波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明の具体的な態様に於ける構成の例を、図面を参照しながら詳細に説明する。
即ち、図1は本発明にかかるエネルギー吸収ベルト1の一具体例の構成の例を示す図であって、図中、エネルギー吸収ベルト1であって、当該ベルト1は表裏2層に配置され、からみ糸7により相互に接結されている第1の布帛2と第2の布帛3とから構成されており、当該第1及び第2の布帛2、3は何れも平織組織を有しており、且つ当該それぞれの布帛2、3は何れも少なくとも3種類の縦糸4と少なくとも1種類の緯糸5とから構成され、当該縦糸4の内、第1の縦糸4−1は予め定められた引張強度で切断する糸で構成され、第2の縦糸4−2は、当該引張強度では切断せず伸張する高度の伸張特性を有する糸で構成され、第3の縦糸4−3は、高強力特性を有し、他の縦糸よりも糸足6が長くなるように当該布帛内に織り込まれている事を特徴とするエネルギー吸収ベルト1が示されている。
【0015】
そして、本発明に於ける当該第1及び第2の布帛2、3の何れにも、上記特許文献3に示される様な芯糸は使用されるものではなく、或は当該第1及び第2の布帛2、3のその中間部分、つまりその境界部分にも当該芯糸は使用されていない事が特徴である。
【0016】
本発明に於いては、係る構成を採用する事によって、当該エネルギー吸収ベルト1の製織工程の簡略化及び効率化が図られ、更には、ベルト内での荷重の印加状態のバランスを向上させ、それによって、事故発生時に対象物(作業員他)の落下に際して発生する衝撃荷重の発生箇所を分散させる事が可能となり、対象物が受ける衝撃を緩和することが可能になる。具体的には、本発明に於いて使用される当該第2の経糸が、事故時の衝撃を受けて伸びようとする際に、当該第1の経糸が順次均等な場所で切断されることによって当該第2の経糸の伸び過ぎを抑制する様に作用するので、エネルギーを均一に且つゆっくりと吸収しながら当該第2の経糸が伸びることになる。即ち、本発明に於いては、当該第2の経糸の伸張動作と当該第1の経糸による伸張抑制動作とが絶妙に相乗し合うことによって、上記した作用効果が達成されるのである。
【0017】
本発明に於いて使用される当該第1乃至第3の縦糸は、その繊度やフィラメント数、或は撚数等は特に限定されないが、何れもナイロン、ポリエステル、ポリプロピレン系合成繊維或はアラミド繊維、炭素繊維等から選択された少なくとも一つの合成繊維で構成されている事が好ましく、又、当該第1乃至第3の縦糸は何れも同一の合成繊維で構成されていても良く、或は、相互に異なる合成繊維で構成されたもので有ってもよい。
【0018】
本発明に於ける当該第1乃至第3の縦糸の具体例としては、何れもナイロン或はポリエステル系合成繊維で構成されているものであっても良く、場合によっては、当該ナイロンとポリエステル系合成繊維を混合して使用するものであっても良い。
【0019】
一方、本発明に於いて使用される当該緯糸も、その繊度やフィラメント数等は特に限定されないが、何れもナイロン、ポリエステル、ポリプロピレン系合成繊維或はアラミド繊維、炭素繊維等から選択された少なくとも一つの合成繊維で構成されている事が望ましい。
【0020】
本発明に於ける当該各縦糸と緯糸の繊度及びフィラメント数は、当該布帛2、3の必要特性を勘案して、任意に決定する事が可能である。
図3を参照して更に説明するならば、本発明に於いて使用される当該第1の縦糸4−1は、所定の引張強力以上で切断する様な破断特性を有している事が望ましい。
【0021】
又、本発明に於いて使用される当該第2の縦糸4−2は、高度の伸張特性を有し、当該第1の縦糸4−1が切断する当該引張強力或は切断が進行している当該引張強力では切断せずに伸張のみが継続される特性を有するものである事が好ましい。
【0022】
一方、当該第3の縦糸4−3は、本発明で使用される全ての縦糸の中で引張強度が最も高く、最後まで切断されない高強力糸である事が望ましい。
上記した当該特許文献1及び2では、ベルトを構成する地縦糸に複数種の切断伸度の異なる糸条を使用して、当該エネルギー吸収ベルトの伸張に伴って、当地縦糸を順次に且つ全てを切断することによって、衝撃エネルギーを吸収する様に構成されたものであり、又当該特許文献3は、織物の基本的組織には組み込まれていない切断伸度の異なる2種の芯糸を使用して、当該芯糸の双方を最終的には全部切断して衝撃エネルギーを吸収する様に構成されたものであるのに対し、本発明に於いては、芯糸は一切使用するものではなく、当該エネルギー吸収ベルトの地縦糸に上述した3種類の縦糸を使用する事に特徴がある。
【0023】
即ち、本発明に於いては、上記した様な技術構成を採用している結果、当該第1の縦糸4−1に所定の衝撃荷重が印加されると、当該第1の縦糸4−1が部分的に且つランダムに分散した部位で順次に破断が発生し、その間では、当該第2の縦糸4−2は切断せずに徐々に伸張され、当該第1の縦糸4−1が全て破断した後も伸張を継続しながら当該衝撃荷重を吸収する様に挙動することになる。
【0024】
更に、本発明に於いては、上記した通り、当該第2の経糸の伸張動作を当該第1の経糸による伸張抑制動作により制御する事が可能であるので上記した作用効果が達成されるのである。
【0025】
その後、当該第2の縦糸4−2が伸張を継続する途中で、当該第3の縦糸4−3が徐々に張力を受け、当該予め与えられているループ状に当該布帛表面に突出して形成された糸足部分6が消失するまで、当該第2の縦糸4−2と同方向に伸ばされ、衝撃エネルギーを更に吸収し、当該第2の縦糸4−2と当該第3の縦糸4−3が共に直線状態で相互に平行状態になった時点、もしくは平行状態となる直前で、当該エネルギー吸収ベルトによる当該衝撃エネルギーの吸収作用は完了する。
【0026】
そして、当該エネルギー吸収ベルト1は、当該衝撃エネルギーの吸収作用の完了時点では、当該第2と第3の縦糸4−2と4−3は共に切断されずに双方の縦糸が協同して、荷重を保持する事になる。
【0027】
即ち、本発明に於いて使用される当該第3の縦糸4−3は、本発明に於いて使用される複数種の縦糸の内で、最も強度が高い糸であることが望ましく、更に当該第3の縦糸4−3は、図1に示す様に、糸足を他の縦糸の糸足よりも長く設定した状態で製織する。
【0028】
処で、本発明に於ける当該第3の縦糸4−3の糸足6の長さは、特に限定されるもではないが、当該第2の縦糸の伸度との関係で決定する事が好ましい。
係る織構造は、例えば、当該第3の縦糸4−3の張力を他の縦糸の張力より低めに設定することによって実現可能である。
【0029】
つまり、本発明に於いては、当該第3の縦糸4−3は、当該第2の縦糸4−2が伸張を継続する間、当該エネルギー吸収ベルト1の織組織全体が伸張することを可能にし、それによって、当該第2の縦糸4−2が完全に伸張することを支援する事になる。
【0030】
当該第3の縦糸4−3に於ける当該第2の縦糸4−2に対する当該織込み長さの差は、例えば、当該平織物1m当り、100mmから500mmであることが好ましい。
【0031】
〔実施例〕
以下に、本発明に係るエネルギー吸収ベルト1の実施例を説明する。
本発明に係るエネルギー吸収ベルトを以下の仕様にて試作製造し、その特性をそれぞれ測定した。
【0032】
尚、本実施例では、第1の縦糸については、使用本数を0本から24本/20.8mmの間で適宜変化させ、当該第1の経糸を使用した場合と使用しない場合の特性上の相違を明らかにすると同時に、落下荷重を85kgから140kgの間で適宜変化させて実験を行った。
【0033】
本願発明に係るエネルギー吸収ベルトの仕様:
当該ベルトの幅:20.8mm、
当該ベルトを構成する第1の布帛、第2の布帛共、平織組織(1/1平二重組織、縦糸密度:248本/20.8mm、緯糸密度:17本/30mm)で構成され、糸仕様は、両布帛共以下の通りであった。
(1)第1の縦糸
ナイロン−6、1400T/1(60t/m) 引張強度 8.39 cN/dtex(破断伸度:35%)、密度0本〜24本/20.8mm、
(2)第2の縦糸
ポリエステル2110T/1(300t/m) 破断伸度:140%、密度116本/20.8mm、
(3)第3の縦糸
ナイロン−6、1400T/2(120t/m) 引張強度 8.39 cN/dtex(破断伸度:35%)、密度104本/20.8mm、
(4)絡み糸
ポリエステル2110T/1(300t/m) 破断伸度:140%、密度4本/20.8mm、
(5)緯糸
ナイロン−6、1400T/1(60t/m) 引張強度 8.39 cN/dtex(破断伸度:35%)、密度17本/30mm、
尚、上記具体例に於いては、当該第3の縦糸は、その他の縦糸、つまり第1及び第2の縦糸に比べて、製織時の当該縦糸に印加される張力を減少させ、糸足がその他の縦糸の糸足に比べて、長くなる様に調整して製織した。
【0034】
当該ベルトが完成した後、当該ベルトの縦糸方向に1mの長さを切り出して、それぞれの縦糸を分解し、当該1mに対する織込み長さを測定した結果、第3の縦糸は、第1及び第2の縦糸に比べて、平均で490mm長く織り込まれていることが判明した。
【0035】
此処で、本発明に係る当該エネルギー吸収ベルト1の動的な特性を把握する為に、図4に示す落下衝撃試験装置40を使用して試験を行った。具体的には、当該第1の経糸の使用本数を0本、8本、16本、20本及び24本と変更した各試料に対して落下対象物の重さを85Kgとして1.7mの落下試験を行うと共に、当該第1の経糸の本数を24本に固定した試料に関しては、当該落下対象物の重さを85Kgから140Kgまで変更しながら、1.7mの落下試験を行い、それぞれの落下時の衝撃荷重及び伸びとを測定し、その結果、表2および図6乃至図9並びに図14(A)乃至図14(E)に示す様な伸びデーターと衝撃荷重波形が得られた。
【0036】
尚、図4に示す落下衝撃試験装置40は、適宜のシャフト41内に適宜の制御装置及び適宜の測定回路を含む制御測定手段48と接続されたロードセル42を設け、当該ロードセル42に垂下された第1のチャック部43を取り付けると共に、錘46が接続された第2のチャック部44を当該錘46と共に当該シャフト41内を自由落下させるように構成せしめ、当該第1と第2のチャック部43、44間に測定すべきエネルギー吸収ベルト45を取り付ける。
【0037】
本発明に於いては、当該第1と第2のチャック部43、44間の長さを1.7mに設定しているが、これに限定されるものではない。
尚、当該錘46は、試験実行前では、適宜のストッパー47により所定の位置に保持されており、試験実行時に制御測定手段48からの指示信号によって当該ストッパー47を解放して当該錘46を自由落下させる様に構成されている。
【0038】
図6乃至図9から理解される様に、当該第1の経糸の使用本数を24本/20.8mmに固定した試料に於いては、落下荷重が85kgから140kgの間で変化させた場合であっても、本発明に於ける当該エネルギー吸収ベルト1では、衝撃が印加された直後瞬間的に衝撃荷重値が急上昇するが、衝撃荷重が4.50kNの近辺で、直に当該第1の縦糸の切断が開始される事によって、当該衝撃エネルギーが徐々に吸収される為、当該衝撃荷重値は、上昇せずに略平行な値を維持し、その後、当該波形の終段部では、当該第2の縦糸及び当該第3の縦糸の双方によるベルトの伸びに対する荷重の増加に関する影響が現れ、当該波形は上方に膨らむが、当該第2の縦糸及び当該第3の縦糸によって当該エネルギー吸収ベルト1が切断される事なく緩やかに静止状態に戻る事が示されている。
【0039】
尚、この種のエネルギー吸収ベルトに関しては、安全帯の規格である国家安全基準が『85Kg−1.7m落下時の衝撃荷重8.0kN以下』に設定されている事を勘案すると、本発明で得られる衝撃荷重が4.5kN以下であることは、エネルギー吸収ベルトとして極めて理想的である。
【0040】
一方、本発明者は、前記した特許文献3の実施例に基づいて作製されたエネルギー吸収ベルトを使用して上記と同様の試験を行い、その結果を図12及び図13に示す。
図12は、前記した特許文献3の実施例に基づいて作製されたエネルギー吸収ベルトを使用して85kgの荷重を取り付けて1.7m落下させた場合の衝撃荷重波形を示したものであり、又図13は、上記と同じ試料に100kgの荷重を取り付けて1.7m落下させた場合の衝撃荷重波形を示したものである。
【0041】
尚、図10及び図11は、本発明に於ける図6及び図7に示すものと同じ衝撃荷重波形を図12及び図13の衝撃荷重波形の時間軸に合わせるために、時間軸を圧縮して示したものであり、両者の対比を容易にする目的で修正表示したものである。
つまり、図10と図12、及び図11と図13とはそれぞれ試験方法に於いて対応しているものである。
【0042】
両者を比較すると、特許文献3により得られたエネルギー吸収ベルトでも、本発明に係るエネルギー吸収ベルトが示す衝撃荷重曲線と近似した衝撃荷重曲線が示されてはいるが、同特許文献3によるエネルギー吸収ベルトでは、全ての芯糸が切断される事が前提となっているので、衝撃が印加された直後の衝撃エネルギーの吸収期間では、本発明と同様に衝撃荷重波形が細かい振幅を持つ振動状態を示すが、同特許文献3の当該波形は、衝撃エネルギーを吸収している期間がかなり長く、然も個々の振幅が大きくなっているので、衝撃エネルギーを吸収している間でも、細かい振動が絶えず対象物(落下中の作業員等)に加えられる為、対象物が不快な衝撃を絶えず受けるという問題がある。
【0043】
然しながら、本発明に係る当該エネルギー吸収ベルト1にあっては、当該衝撃波形の振幅が当該特許文献3の同じ波形の振幅に比べて小さく、衝撃エネルギーを吸収している期間はかなり短いので、対象物が不快な衝撃を受けるという問題は解決される。
【0044】
一方、当該特許文献3により得られるエネルギー吸収ベルトでは、加重が100kgを越えると当該衝撃荷重曲線の終端部の波形が急峻に増大し、然も大きな振幅を持った凸状の波形を示している。
【0045】
係る当該特許文献3により得られるエネルギー吸収ベルトの当該衝撃荷重曲線の終端部の波形は、荷重が更に増加するに従って、より急峻になり、且つより激しい振幅を示すものである。
【0046】
係る特性においては、衝撃エネルギーの吸収過程に於いて当該エネルギー吸収ベルトがその衝撃を完全に吸収しきれずに、衝撃エネルギーの吸収過程の最後の段階で、瞬間的に大きな荷重が対象物に印加されることを意味しており、対象物(落下中の作業員等)に極めて危険な状態を発生させる事は明らかであり、当該対象物(落下中の作業員等)は更に危険でかつ不快な衝撃を受けるという問題がある。
【0047】
係る相違は、本発明に於いては、織組織が平織組織であることに加えて、第1の縦糸が切断されている間も当該第2の縦糸が切断されずに伸張を続けるので、当該第1の縦糸に掛かる衝撃荷重が適度に分散され、部分的に集中して切断される事がなく、ベルトの伸びも緩やかとなる他、当該第3の縦糸も当該第2の縦糸の伸張に合わせて当該糸足長さの差を減少させて行くが、その挙動は、当該エネルギー吸収ベルト1の伸びに対して制動的に機能するので、一層ベルトの伸びが緩やかとなるからである。
【0048】
一方、当該特許文献3を含む従来のエネルギー吸収ベルトでは、織組織が畦織或は綾織であるため、経糸の浮きが多くまた芯糸では織物の長手方向に沿って浮いている状態であるから、当該経糸或は芯糸の切断は均一ではなく、所定の部位に集中する事になるので、上記した衝撃荷重波形の振幅が大きく且つ長くなるのである。
【0049】
又、本発明に於いては、当該衝撃荷重波形の終端部分に於ける当該第2及び第3の縦糸によって形成される当該膨出部は、落下荷重が85kg或は100kgでは、殆ど見られないが、当該荷重が120kg以上のものになると、図8および図9に示す様に、当該グラフ上に顕出されてくる。
【0050】
又、当該膨出部は、当該落下荷重が大きく成る程、当該膨出部の大きさも大きくなるが、当該膨出部の形状は、本発明の構成から必然的に発生される極めて緩やかな曲線を呈するものであり、その結果、衝撃荷重波形の終端部分に於いて、当該対象物が、従来例に於ける様な、強い衝撃を受ける事は無く、対象物に対する安全性が確実に担保されるのである。
【0051】
いずれにしても、本発明に於いては、衝撃荷重が印加された直後の所定の期間内で「安全帯の規格」8.0kNを下回り、衝撃荷重値のレベルで確実に然もソフトに衝撃エネルギーを吸収する事が出来且つ、当該エネルギー吸収ベルトが切断される恐れもなく、確実に対象物の落下を停止保護する事が可能となる。
【0052】
これに対し、当該特許文献3では、上記した問題点が存在する他、全ての芯糸が切断された後で、更に当該エネルギー吸収ベルトの伸張を許容する機構が存在しないので、上記した様な当該衝撃荷重波形の終端部に急峻な膨出部が形成されるので、当該エネルギー吸収ベルトが、確実に切断されることなく、対象物の落下を安全に停止保護する事が保証されていない。
【0053】
又、当該特許文献3のエネルギー吸収ベルトの衝撃荷重波形を示す当該特許文献3に記載されている図6乃至図8は、当該織組織は綾織で得られたものであること、及び当該特許文献3に於いて平織物を使用したエネルギー吸収ベルトの当該衝撃荷重波形は、当該特許文献3に於ける衝撃荷重波形を示す当該特許文献3に記載されている図9に示されている通り、本発明の衝撃荷重波形とは似ても似つかぬものでしかない事は明らかである。
【0054】
更に、本発明に於いて、当該第1の経糸を使用しない場合のエネルギー吸収ベルトと当該第1の経糸を使用した場合の当該エネルギー吸収ベルトの特性上の差異を検討する為、表2に示す様に、当該第2及び当該第3の縦糸の使用本数を前記した具体例の値に固定しつつ、当該第1の経糸の使用本数を0本から24本の間で変更した試料番号1乃至5を使用して実験を行ったものを試料番号1乃至5として表2に示し、又上記した通り、当該第1の経糸の使用本数を24本に固定した試料では、印加荷重を100kg、120kg及び140kgに変更して測定した結果を試料番号6乃至8として表2に示す。
【0055】
又、上記各資料についての衝撃荷重波形を図14(A)から図14(E)に示すが、各衝撃荷重波形の時間軸は、図10乃至図13の波形図の時間軸と同じに設定してある。
上記実験結果より明らかな通り、当該第1の経糸を使用しないエネルギー吸収ベルト(試料番号1)では、当該ベルトが図14(A)に示されている様に、長時間に亘って伸び続け、それによってベルト全体の伸びが大きくなり、当該第1の経糸がない当該エネルギー吸収ベルトは、実用性がない事が明らかとなる。
【0056】
更に、当該第1の経糸を含まない試料番号1のサンプルでは、当該ベルトが長時間に亘って伸び続ける事から、落下する作業者が受けるエネルギーの総量は大きくなり、当該作業者が不快感を強く感じたり、場合によっては障害を蒙る可能性がある。
【0057】
これに対し、当該第1の経糸を使用した当該試料番号2乃至5のエネルギー吸収ベルトでは、当該第2乃至第3の各縦糸と当該第1の経糸とを組み合わせることによって、当該衝撃荷重は、当該第1の経糸数が増加するに従って増加するものの、当該最大衝撃荷重は、何れも4.5kN以下と言う理想的な値を保っており、且つ図14(B)乃至図14(E)から判るように、当該ベルトが伸張している時間は大幅に短縮されると同時に、当該ベルトの伸びも確実に抑制されている事が判明している。
【0058】
この事は、本発明に係る当該ネルギー吸収ベルトが、当該落下衝撃が印加された直後に細かい振幅のエネルギー吸収領域を形成して、落下する作業者を抑制された伸びを介して受け止めて、大きなエネルギーを吸収すると共に伸びを短時間で終了させるという構成を有しているので、当該作業員の受けるエネルギーの総量も抑制される事から、当該作業員の受ける不快感は払拭され、又障害を受ける危険も確実に回避される事になる。
【0059】
然も、本発明に於いては、当該第1の経糸を組み合わせることによって、落下荷重を140kgに設定した場合でも、当該衝撃荷重は、上記規制値である8kg以下に留まっており、全体の伸びも650mmという規制値よりも少ない値に留める事が可能となる。
【0060】
即ち、本発明に於いては、当該第1の経糸の本数を調整する事によって、当該衝撃荷重及び当該ベルトの伸び量を適宜の値に調整することが可能であるから、当該ネルギー吸収ベルトの使用用途に応じて上記特性を適宜の値に設定する事が出来ると同時に、当該特性を得る為の仕様の設定に大きな自由度が確保されるという利点がある。
【0061】
更に、本発明に於いては、当該第1の縦糸4−1の使用本数と当該第2の縦糸4−2の使用本数との関係について検討した結果、当該第2の縦糸4−2の単位当りの使用本数に対して、当該第1の縦糸4−1の使用本数は、13乃至20%の割合である事が望ましい事が判明した。
【0062】
次に、上記織物仕様に従って製造された本発明のエネルギー吸収ベルト1の静的特性を検討する為に、当該エネルギー吸収ベルト1のそれぞれについて、引張強伸度を測定し、その結果を図2に示す。
【0063】
図2から理解される様に、本発明に係るエネルギー吸収ベルト1は、何れも、従来のエネルギー吸収ベルトが示す引張強伸度曲線とは異なる波形を呈しており、本発明に係る当該エネルギー吸収ベルト1は、伸度に対する荷重(強力)の変動が全体にフラットに近い緩やかな上昇カーブを示している。
【0064】
此処で、再度本発明に係るエネルギー吸収ベルトの動的衝撃荷重波形を示す図10及び図11と、特許文献3のエネルギー吸収ベルトの動的衝撃荷重波形を示す図12及び図13とを比較検討するならば、特許文献3では、切断糸が全て切断されるのでエネルギー吸収期間中の期間も長く、振幅も大きくなっているが、本発明では、切断糸が高伸縮性糸に対して伸張にブレーキを掛けながら切断していく状況を発揮するので、その期間が短く且つ振幅も小さくなり、その結果、静的特性を示す図5(D)に示す様に、その引張強伸度曲線は、緩い右肩上がりの理想的曲線を示すのに対し、特許文献3では、図5(C)に示す様に、エネルギー吸収期間中は、かなり大きな振幅の振動が見られ且つ当該期間中のグラフは略平坦状態を示している。
【0065】
一方、特許文献1及び2の静的特性波形を示す図5(A)及び図5(B)について検討するならば、双方の静的特性波形を示す図5(A)及び図5(B)と図5(C)に示す特許文献3の静的特性波形とを比較すると、何れも特許文献3の静的特性波形と近似している事は明らかである。
【0066】
従って、特許文献1及び2の動的特性波形は、特許文献3の動的特性波と同じとなるものと推測される。
従って、特許文献1及び2のエネルギー吸収ベルトは、本発明とは異なる静的並びに動的特性を有しているものと考えられる。
【0067】
尚、上記した比較実験に使用されたそれぞれのエネルギー吸収ベルトの構成仕様を表1に示す。
又、本発明に係る当該エネルギー吸収ベルト1の緯糸打ち込み数は17ピック/30mmであり、厚みが6.84mm、幅が20.8mmそして重さが77.42g/mとなる様に設計した。
【0068】
次に、本発明に於ける当該第1の経糸と第2の経糸との関係について言及するならば、本発明に於ける当該第1の経糸は、本発明で使用される3種類の経糸の中では、一番低伸度特性を有するものである事が望ましく、当該第2の経糸伸びつつある間に、徐々に切断されていく様な糸であることが好ましい。
【0069】
一方、当該第2の経糸は、衝撃荷重が印加された場合には、当該衝撃エネルギーを吸収するために伸張する事が必要であり、比較的高い伸張率を有する糸であることが望ましい。
つまり、当該第2の経糸は、当該3種類の経糸の中では、最も大きな伸度特性を有し、従って、高い伸張率を有するものである事が望ましい。
【0070】
既に、説明したとおり、本発明に係るエネルギー吸収ベルト1に於いては、衝撃荷重が印加された場合には、主に当該第2の経糸が伸張することによって、かなりの衝撃エネルギーを当該第2の経糸で吸収するもので、当該第1の経糸は、当該第2の経糸の伸張に合わせて徐々に切断されて行くが、それによって、当該第2の経糸の急激な伸張を抑制し、安定し、且つ均一な当該エネルギー吸収ベルトの衝撃吸収伸びを実現できるのである。
【0071】
本発明に於いては、係る構成を実現する為に、当該第2の経糸の伸張率は80%以上である事が必要である。
つまり、エネルギー吸収ベルトの静的引張試験に於いては、当該エネルギー吸収ベルトの破断伸度が約80乃至95%と設定されており、係る基準から判断するならば、当該エネルギー吸収ベルトは、少なくとも当該ベルトが破断する時点までは、当該第2の経糸は破断せずに、当該伸張性を維持している必要があるからである。
【0072】
従って、本発明に於ける当該第2の経糸の伸張率は、80%以上である事が望ましく、更に好ましくは、当該第2の経糸の伸張率は100%以上あり、更に理想的には、140%以上である事が望ましい。
【0073】
此処で、本発明に於ける上記した当該第1と第2の縦糸との関係について、検討する為に、前記した具体例に於いて、当該第1の経糸に伸張率が50%である糸を使用し、当該第1の経糸を使用しない場合と当該第1の経糸を24本使用した場合の2つの試料を作成し、上記したと同様の試験装置を使用して、85kgの荷重を用いて衝撃落下試験を行った。
【0074】
当該試験の結果を、図15(A)及び(B)にそれぞれ示す。
即ち、図15(A)は、当該第1の経糸は使用せず、当該第2と第3の経糸と緯糸で構成されたエネルギー吸収ベルトの試験結果を示す衝撃荷重波形であり、図15(B)は、当該第1の経糸を24本使用して、当該第1と第3の縦糸と合わせて織成したエネルギー吸収ベルトの衝撃荷重波形である。
【0075】
双方の試験結果から、理解されるように、当該第1の経糸が無い試料では、当該ベルトは、極めて短い時間で急峻に衝撃荷重が上昇し、且つ短時間で破断に到っている。
これに対し、第1の経糸を併用したものでは、上記と同様の周期の短い衝撃荷重波形となると同時に、第1の経糸を使用しないものよりも当該衝撃荷重が増加している。
【0076】
これは、当該第2の経糸の伸張率が低く、当該エネルギー吸収ベルトの試験に於ける伸度80%に到達する以前に破断が生ずることを意味すると共に、当該第1の経糸のエネルギーが当該第2の経糸の波形に上乗せされている結果、衝撃荷重が、逆に増加しているものと推測される。
【0077】
係る減少は、当該第2の経糸が、少なくとも伸張率が80%以上である必要がある事、及び、本発明に於いては、当該第2の経糸が主に当該衝撃エネルギーを吸収する機能を荷ない、当該第1の経糸は、当該第2の経糸の伸張、ひいては、当該エネルギー吸収ベルトの急激な伸びを抑制する機能を荷っていることを示しているものである。
【0078】
尚、本発明の特性を従来公知の高所作業用安全帯の命綱部(以後ランヤード部)として使用されているナイロン三つ打ち(又は八つ打ち)ロープと比較してみると、ナイロンロープと本発明に係るエネルギー吸収ベルトの衝撃荷重波形を図16(A)及び図16(B)に示す様に、ナイロンロープは、衝撃荷重が最大で8.0kNを示すのに対し、本発明に係るエネルギー吸収ベルトは4.5kNであり、衝撃吸収能力が極めて大きい事が明らかである。
【0079】
更にナイロンロープでは、図16(A)から明らかな通り、その衝撃荷重波形が極めて短期間に急上昇、急降下を示している事から、瞬間的に落下対象物に係る荷重は極めて大きく、落下対象物に損傷を与える危険性が極めて高い事を示している。
これに対し、本発明では、図16(B)に示す様に、エネルギー吸収期間が長く、衝撃荷重も落下対象物に損傷を与えるレベルより遥かに低いレベルに設定されている。
【0080】
【表1】
【0081】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明は、エネルギー吸収ベルトとして有効に使用する事が出来る。
【符号の説明】
【0083】
1:エネルギー吸収ベルト
2:第1の布帛
3:第2の布帛
4:縦糸
4−1:第1の縦糸
4−2:第2の縦糸
4−3:第3の縦糸
5:緯糸
6:糸足
7:からみ糸
40:落下衝撃試験装置
41:シャフト
48:制御測定手段
42:ロードセル
43、44:チャック部
46:錘
45:エネルギー吸収ベルト
47:ストッパー
【技術分野】
【0001】
本発明は、エネルギー吸収ベルトに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の衝撃エネルギー吸収ベルトとしては、実開昭49−11428号公報(特許文献1)或は特開昭50−4725号公報(特許文献2)等に示されている様に、破断伸度がそれぞれ異なる複数種の縦糸を同時に使用して構成された一枚構造の織物からなり、当該複数種の縦糸の一部を他の縦糸より浮かせて織り込む様に構成されたエネルギー吸収ベルトが知られている。
【0003】
然しながら、係る公知例では、1層の織物から構成されている事と、少なくとも2種類の縦糸は当該エネルギー吸収ベルトの伸張過程で切断されてしまう様に構成されているので、エネルギー吸収ベルト全体としてみた場合には、強力が不十分であり、安全性に関する信頼性が乏しいものであった。
【0004】
一方、織物を2層に配列させたエネルギー吸収ベルトとしては、例えば特開2003−275333号公報(特許文献3)に示されている通り、上下2層の織物をからみ糸で相互に接合すると共に、切断伸度が異なる複数種の芯糸を使用し、当該エネルギー吸収ベルトの伸張に伴って、地糸は切断されないが、当該芯糸のみが順次切断する様に構成されたエネルギー吸収ベルトが開示されている。
【0005】
然しながら、係るエネルギー吸収ベルトにあっては、芯糸を複数種類使用することと、からみ糸を使用するものであるから、製織工程が煩雑である事から生産コストが高騰する欠点を有すると同時に、当該芯糸の切断が部分的且つ集中的に発生する事から、作業者が事故に際して受ける衝撃が段階的に発生するので、不快感を感じるという欠点が有った。
【0006】
従って、従来より、強力が十分あり、エネルギー吸収効果が高く、落下物に対する衝撃の大幅に和らげ、コストが低く、安全性に対する信頼性の高いエネルギー吸収ベルトが求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】実開昭49−11428号公報
【特許文献2】特開昭50−4725号公報
【特許文献3】特開2003−275333号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の目的は、上記した従来のエネルギー吸収ベルトに於ける問題点を解消し、簡易な構成でありながら、理想的な破断伸張特性を示し、事故発生時に、作業員或はユーザーを保護する為に十分な耐久性と強度を有するエネルギー吸収ベルトであって、然も生産性が高く生産コストが抑制できるエネルギー吸収ベルトを提供するものであり、更には、低荷重から高荷重の落下物を広範囲に亘って効率的に受け止める事が可能で、安全保護を受けるべき対象となる作業員或はユーザーの範囲を拡大する事が可能な当該エネルギー吸収ベルトを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上記した目的を達成するため、以下に記載されたような技術構成を採用するものである。即ち、本発明に係るエネルギー吸収ユニットの基本的な構成としては、エネルギー吸収ベルトであって、当該ベルトは表裏2層に配置され、からみ糸により相互に接結されている第1の布帛と第2の布帛とから構成されており、当該第1及び第2の布帛は何れも平織組織を有しており、且つ当該それぞれの布帛は何れも少なくとも3種類の縦糸と少なくとも1種類の緯糸とから構成され、当該縦糸の内、第1の縦糸は予め定められた引張強力で切断する糸で構成され、第2の縦糸は、当該引張強力では切断せず伸張する高度の伸張特性を有する糸で構成され、第3の縦糸は、高強力特性を有し、他の縦糸よりも糸足が長くなるように当該布帛内に織り込まれている事を特徴とするエネルギー吸収ベルトである。
【0010】
上記した通り、本発明では、2層構造の平織物からなるエネルギー吸収ベルトであって、芯糸を使用せずに各平織物では、3種類の地糸の特性を選択することによって、ベルト内での荷重の印加状態のバランスを向上させ、地糸の中の特に第1の縦糸4−1のそれぞれが、当該ベルト内で均一に分散された状態で、順次にエネルギー吸収出来ると共に、それに伴う地糸の切断が発生する様に構成でき、これにより第2の縦糸4−2の伸張をコントロールし当該ベルトのエネルギー吸収領域を任意に設定でき、更に第3の縦糸により安全性を確保する為の十分な強度保持出来る。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、基本的には上記した様な技術構成を採用しているので、以下に示す様な作用効果を発揮する事が可能である。
即ち、簡易な構成でありながら、図2に示す様な、理想的な破断伸張特性を示し、十分な使用中の耐久強度を有するエネルギー吸収ベルトであって、然も生産性が高く生産コストが抑制できるエネルギー吸収ベルトが容易に得られるという作用効果を有するものである。
【0012】
更には、本発明に於いては、事故発生時に、作業員或はユーザーを保護する為に十分な耐久性と強度を有するエネルギー吸収ベルトであって、落下物の荷重の制限を大幅に緩和出来、低荷重の落下物から高荷重の落下物まで、広範囲に亘って効率的に受け止める事が可能で、安全保護を受けるべき対象となる作業員或はユーザーの範囲を拡大する事が可能な当該エネルギー吸収ベルトを提供するもので、従来のエネルギー吸収ベルトの欠点を改良したエネルギー吸収ベルトを容易に且つ安価に得ることが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、本発明に於けるエネルギー吸収ベルトの1具体例の構成を示す断面図である。
【図2】図2は、本発明に於ける当該エネルギー吸収ベルトの1具体例の引張強伸度曲線を示す図である。
【図3】図3は、本発明に於けるエネルギー吸収ベルトの1具体例を構成している各経糸(地糸)の引張強伸度曲線の例を示す図である。
【図4】図4は、本発明に於ける当該エネルギー吸収ベルトの落下衝撃試験を行う為の落下衝撃試験装置の一例を示す図である。
【図5】図5は、本発明及び本発明の比較例に於ける引張強伸度曲線を示す図である。
【図6】図6は、本発明に於ける当該エネルギー吸収ベルトを使用した、落下対象物が85kgに於ける当該エネルギー吸収ベルトの衝撃荷重波形を示す図である。
【図7】図7は、本発明に於ける当該エネルギー吸収ベルトを使用した、落下対象物が100kgに於ける当該エネルギー吸収ベルトの衝撃荷重波形を示す図である。
【図8】図8は、本発明に於ける当該エネルギー吸収ベルトを使用した、落下対象物が120kgに於ける当該エネルギー吸収ベルトの衝撃荷重波形を示す図である。
【図9】図9は、本発明に於ける当該エネルギー吸収ベルトを使用した、落下対象物が140kgに於ける当該エネルギー吸収ベルトの衝撃荷重波形を示す図である。
【図10】図10は、本発明に於ける当該エネルギー吸収ベルトの1具体例の落下対象物が85kgに於ける衝撃荷重波形を示す図である。
【図11】図11は、本発明に於ける当該エネルギー吸収ベルトの1具体例の落下対象物が100kgに於ける衝撃荷重波形を示す図である。
【図12】図12は、特許文献3に於ける当該エネルギー吸収ベルトの落下対象物が85kgに於ける引張強伸度曲線を示す図である。
【図13】図13は、特許文献3に於ける当該エネルギー吸収ベルトの落下対象物が100kgに於ける衝撃荷重波形を示す波形図である。
【図14】図14(A)から図14(E)は、本発明に於ける当該エネルギー吸収ベルトの試験結果を示すグラフである。
【図15】図15は、本発明に於ける、第1の経糸の第2の経糸に対する影響を示すグラブである。
【図16】図16(A)は、ナイロンロープの衝撃荷重波形を示す波形図であり、図16(B)は、本発明に於ける当該エネルギー吸収ベルトの衝撃荷重波形を示す波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明の具体的な態様に於ける構成の例を、図面を参照しながら詳細に説明する。
即ち、図1は本発明にかかるエネルギー吸収ベルト1の一具体例の構成の例を示す図であって、図中、エネルギー吸収ベルト1であって、当該ベルト1は表裏2層に配置され、からみ糸7により相互に接結されている第1の布帛2と第2の布帛3とから構成されており、当該第1及び第2の布帛2、3は何れも平織組織を有しており、且つ当該それぞれの布帛2、3は何れも少なくとも3種類の縦糸4と少なくとも1種類の緯糸5とから構成され、当該縦糸4の内、第1の縦糸4−1は予め定められた引張強度で切断する糸で構成され、第2の縦糸4−2は、当該引張強度では切断せず伸張する高度の伸張特性を有する糸で構成され、第3の縦糸4−3は、高強力特性を有し、他の縦糸よりも糸足6が長くなるように当該布帛内に織り込まれている事を特徴とするエネルギー吸収ベルト1が示されている。
【0015】
そして、本発明に於ける当該第1及び第2の布帛2、3の何れにも、上記特許文献3に示される様な芯糸は使用されるものではなく、或は当該第1及び第2の布帛2、3のその中間部分、つまりその境界部分にも当該芯糸は使用されていない事が特徴である。
【0016】
本発明に於いては、係る構成を採用する事によって、当該エネルギー吸収ベルト1の製織工程の簡略化及び効率化が図られ、更には、ベルト内での荷重の印加状態のバランスを向上させ、それによって、事故発生時に対象物(作業員他)の落下に際して発生する衝撃荷重の発生箇所を分散させる事が可能となり、対象物が受ける衝撃を緩和することが可能になる。具体的には、本発明に於いて使用される当該第2の経糸が、事故時の衝撃を受けて伸びようとする際に、当該第1の経糸が順次均等な場所で切断されることによって当該第2の経糸の伸び過ぎを抑制する様に作用するので、エネルギーを均一に且つゆっくりと吸収しながら当該第2の経糸が伸びることになる。即ち、本発明に於いては、当該第2の経糸の伸張動作と当該第1の経糸による伸張抑制動作とが絶妙に相乗し合うことによって、上記した作用効果が達成されるのである。
【0017】
本発明に於いて使用される当該第1乃至第3の縦糸は、その繊度やフィラメント数、或は撚数等は特に限定されないが、何れもナイロン、ポリエステル、ポリプロピレン系合成繊維或はアラミド繊維、炭素繊維等から選択された少なくとも一つの合成繊維で構成されている事が好ましく、又、当該第1乃至第3の縦糸は何れも同一の合成繊維で構成されていても良く、或は、相互に異なる合成繊維で構成されたもので有ってもよい。
【0018】
本発明に於ける当該第1乃至第3の縦糸の具体例としては、何れもナイロン或はポリエステル系合成繊維で構成されているものであっても良く、場合によっては、当該ナイロンとポリエステル系合成繊維を混合して使用するものであっても良い。
【0019】
一方、本発明に於いて使用される当該緯糸も、その繊度やフィラメント数等は特に限定されないが、何れもナイロン、ポリエステル、ポリプロピレン系合成繊維或はアラミド繊維、炭素繊維等から選択された少なくとも一つの合成繊維で構成されている事が望ましい。
【0020】
本発明に於ける当該各縦糸と緯糸の繊度及びフィラメント数は、当該布帛2、3の必要特性を勘案して、任意に決定する事が可能である。
図3を参照して更に説明するならば、本発明に於いて使用される当該第1の縦糸4−1は、所定の引張強力以上で切断する様な破断特性を有している事が望ましい。
【0021】
又、本発明に於いて使用される当該第2の縦糸4−2は、高度の伸張特性を有し、当該第1の縦糸4−1が切断する当該引張強力或は切断が進行している当該引張強力では切断せずに伸張のみが継続される特性を有するものである事が好ましい。
【0022】
一方、当該第3の縦糸4−3は、本発明で使用される全ての縦糸の中で引張強度が最も高く、最後まで切断されない高強力糸である事が望ましい。
上記した当該特許文献1及び2では、ベルトを構成する地縦糸に複数種の切断伸度の異なる糸条を使用して、当該エネルギー吸収ベルトの伸張に伴って、当地縦糸を順次に且つ全てを切断することによって、衝撃エネルギーを吸収する様に構成されたものであり、又当該特許文献3は、織物の基本的組織には組み込まれていない切断伸度の異なる2種の芯糸を使用して、当該芯糸の双方を最終的には全部切断して衝撃エネルギーを吸収する様に構成されたものであるのに対し、本発明に於いては、芯糸は一切使用するものではなく、当該エネルギー吸収ベルトの地縦糸に上述した3種類の縦糸を使用する事に特徴がある。
【0023】
即ち、本発明に於いては、上記した様な技術構成を採用している結果、当該第1の縦糸4−1に所定の衝撃荷重が印加されると、当該第1の縦糸4−1が部分的に且つランダムに分散した部位で順次に破断が発生し、その間では、当該第2の縦糸4−2は切断せずに徐々に伸張され、当該第1の縦糸4−1が全て破断した後も伸張を継続しながら当該衝撃荷重を吸収する様に挙動することになる。
【0024】
更に、本発明に於いては、上記した通り、当該第2の経糸の伸張動作を当該第1の経糸による伸張抑制動作により制御する事が可能であるので上記した作用効果が達成されるのである。
【0025】
その後、当該第2の縦糸4−2が伸張を継続する途中で、当該第3の縦糸4−3が徐々に張力を受け、当該予め与えられているループ状に当該布帛表面に突出して形成された糸足部分6が消失するまで、当該第2の縦糸4−2と同方向に伸ばされ、衝撃エネルギーを更に吸収し、当該第2の縦糸4−2と当該第3の縦糸4−3が共に直線状態で相互に平行状態になった時点、もしくは平行状態となる直前で、当該エネルギー吸収ベルトによる当該衝撃エネルギーの吸収作用は完了する。
【0026】
そして、当該エネルギー吸収ベルト1は、当該衝撃エネルギーの吸収作用の完了時点では、当該第2と第3の縦糸4−2と4−3は共に切断されずに双方の縦糸が協同して、荷重を保持する事になる。
【0027】
即ち、本発明に於いて使用される当該第3の縦糸4−3は、本発明に於いて使用される複数種の縦糸の内で、最も強度が高い糸であることが望ましく、更に当該第3の縦糸4−3は、図1に示す様に、糸足を他の縦糸の糸足よりも長く設定した状態で製織する。
【0028】
処で、本発明に於ける当該第3の縦糸4−3の糸足6の長さは、特に限定されるもではないが、当該第2の縦糸の伸度との関係で決定する事が好ましい。
係る織構造は、例えば、当該第3の縦糸4−3の張力を他の縦糸の張力より低めに設定することによって実現可能である。
【0029】
つまり、本発明に於いては、当該第3の縦糸4−3は、当該第2の縦糸4−2が伸張を継続する間、当該エネルギー吸収ベルト1の織組織全体が伸張することを可能にし、それによって、当該第2の縦糸4−2が完全に伸張することを支援する事になる。
【0030】
当該第3の縦糸4−3に於ける当該第2の縦糸4−2に対する当該織込み長さの差は、例えば、当該平織物1m当り、100mmから500mmであることが好ましい。
【0031】
〔実施例〕
以下に、本発明に係るエネルギー吸収ベルト1の実施例を説明する。
本発明に係るエネルギー吸収ベルトを以下の仕様にて試作製造し、その特性をそれぞれ測定した。
【0032】
尚、本実施例では、第1の縦糸については、使用本数を0本から24本/20.8mmの間で適宜変化させ、当該第1の経糸を使用した場合と使用しない場合の特性上の相違を明らかにすると同時に、落下荷重を85kgから140kgの間で適宜変化させて実験を行った。
【0033】
本願発明に係るエネルギー吸収ベルトの仕様:
当該ベルトの幅:20.8mm、
当該ベルトを構成する第1の布帛、第2の布帛共、平織組織(1/1平二重組織、縦糸密度:248本/20.8mm、緯糸密度:17本/30mm)で構成され、糸仕様は、両布帛共以下の通りであった。
(1)第1の縦糸
ナイロン−6、1400T/1(60t/m) 引張強度 8.39 cN/dtex(破断伸度:35%)、密度0本〜24本/20.8mm、
(2)第2の縦糸
ポリエステル2110T/1(300t/m) 破断伸度:140%、密度116本/20.8mm、
(3)第3の縦糸
ナイロン−6、1400T/2(120t/m) 引張強度 8.39 cN/dtex(破断伸度:35%)、密度104本/20.8mm、
(4)絡み糸
ポリエステル2110T/1(300t/m) 破断伸度:140%、密度4本/20.8mm、
(5)緯糸
ナイロン−6、1400T/1(60t/m) 引張強度 8.39 cN/dtex(破断伸度:35%)、密度17本/30mm、
尚、上記具体例に於いては、当該第3の縦糸は、その他の縦糸、つまり第1及び第2の縦糸に比べて、製織時の当該縦糸に印加される張力を減少させ、糸足がその他の縦糸の糸足に比べて、長くなる様に調整して製織した。
【0034】
当該ベルトが完成した後、当該ベルトの縦糸方向に1mの長さを切り出して、それぞれの縦糸を分解し、当該1mに対する織込み長さを測定した結果、第3の縦糸は、第1及び第2の縦糸に比べて、平均で490mm長く織り込まれていることが判明した。
【0035】
此処で、本発明に係る当該エネルギー吸収ベルト1の動的な特性を把握する為に、図4に示す落下衝撃試験装置40を使用して試験を行った。具体的には、当該第1の経糸の使用本数を0本、8本、16本、20本及び24本と変更した各試料に対して落下対象物の重さを85Kgとして1.7mの落下試験を行うと共に、当該第1の経糸の本数を24本に固定した試料に関しては、当該落下対象物の重さを85Kgから140Kgまで変更しながら、1.7mの落下試験を行い、それぞれの落下時の衝撃荷重及び伸びとを測定し、その結果、表2および図6乃至図9並びに図14(A)乃至図14(E)に示す様な伸びデーターと衝撃荷重波形が得られた。
【0036】
尚、図4に示す落下衝撃試験装置40は、適宜のシャフト41内に適宜の制御装置及び適宜の測定回路を含む制御測定手段48と接続されたロードセル42を設け、当該ロードセル42に垂下された第1のチャック部43を取り付けると共に、錘46が接続された第2のチャック部44を当該錘46と共に当該シャフト41内を自由落下させるように構成せしめ、当該第1と第2のチャック部43、44間に測定すべきエネルギー吸収ベルト45を取り付ける。
【0037】
本発明に於いては、当該第1と第2のチャック部43、44間の長さを1.7mに設定しているが、これに限定されるものではない。
尚、当該錘46は、試験実行前では、適宜のストッパー47により所定の位置に保持されており、試験実行時に制御測定手段48からの指示信号によって当該ストッパー47を解放して当該錘46を自由落下させる様に構成されている。
【0038】
図6乃至図9から理解される様に、当該第1の経糸の使用本数を24本/20.8mmに固定した試料に於いては、落下荷重が85kgから140kgの間で変化させた場合であっても、本発明に於ける当該エネルギー吸収ベルト1では、衝撃が印加された直後瞬間的に衝撃荷重値が急上昇するが、衝撃荷重が4.50kNの近辺で、直に当該第1の縦糸の切断が開始される事によって、当該衝撃エネルギーが徐々に吸収される為、当該衝撃荷重値は、上昇せずに略平行な値を維持し、その後、当該波形の終段部では、当該第2の縦糸及び当該第3の縦糸の双方によるベルトの伸びに対する荷重の増加に関する影響が現れ、当該波形は上方に膨らむが、当該第2の縦糸及び当該第3の縦糸によって当該エネルギー吸収ベルト1が切断される事なく緩やかに静止状態に戻る事が示されている。
【0039】
尚、この種のエネルギー吸収ベルトに関しては、安全帯の規格である国家安全基準が『85Kg−1.7m落下時の衝撃荷重8.0kN以下』に設定されている事を勘案すると、本発明で得られる衝撃荷重が4.5kN以下であることは、エネルギー吸収ベルトとして極めて理想的である。
【0040】
一方、本発明者は、前記した特許文献3の実施例に基づいて作製されたエネルギー吸収ベルトを使用して上記と同様の試験を行い、その結果を図12及び図13に示す。
図12は、前記した特許文献3の実施例に基づいて作製されたエネルギー吸収ベルトを使用して85kgの荷重を取り付けて1.7m落下させた場合の衝撃荷重波形を示したものであり、又図13は、上記と同じ試料に100kgの荷重を取り付けて1.7m落下させた場合の衝撃荷重波形を示したものである。
【0041】
尚、図10及び図11は、本発明に於ける図6及び図7に示すものと同じ衝撃荷重波形を図12及び図13の衝撃荷重波形の時間軸に合わせるために、時間軸を圧縮して示したものであり、両者の対比を容易にする目的で修正表示したものである。
つまり、図10と図12、及び図11と図13とはそれぞれ試験方法に於いて対応しているものである。
【0042】
両者を比較すると、特許文献3により得られたエネルギー吸収ベルトでも、本発明に係るエネルギー吸収ベルトが示す衝撃荷重曲線と近似した衝撃荷重曲線が示されてはいるが、同特許文献3によるエネルギー吸収ベルトでは、全ての芯糸が切断される事が前提となっているので、衝撃が印加された直後の衝撃エネルギーの吸収期間では、本発明と同様に衝撃荷重波形が細かい振幅を持つ振動状態を示すが、同特許文献3の当該波形は、衝撃エネルギーを吸収している期間がかなり長く、然も個々の振幅が大きくなっているので、衝撃エネルギーを吸収している間でも、細かい振動が絶えず対象物(落下中の作業員等)に加えられる為、対象物が不快な衝撃を絶えず受けるという問題がある。
【0043】
然しながら、本発明に係る当該エネルギー吸収ベルト1にあっては、当該衝撃波形の振幅が当該特許文献3の同じ波形の振幅に比べて小さく、衝撃エネルギーを吸収している期間はかなり短いので、対象物が不快な衝撃を受けるという問題は解決される。
【0044】
一方、当該特許文献3により得られるエネルギー吸収ベルトでは、加重が100kgを越えると当該衝撃荷重曲線の終端部の波形が急峻に増大し、然も大きな振幅を持った凸状の波形を示している。
【0045】
係る当該特許文献3により得られるエネルギー吸収ベルトの当該衝撃荷重曲線の終端部の波形は、荷重が更に増加するに従って、より急峻になり、且つより激しい振幅を示すものである。
【0046】
係る特性においては、衝撃エネルギーの吸収過程に於いて当該エネルギー吸収ベルトがその衝撃を完全に吸収しきれずに、衝撃エネルギーの吸収過程の最後の段階で、瞬間的に大きな荷重が対象物に印加されることを意味しており、対象物(落下中の作業員等)に極めて危険な状態を発生させる事は明らかであり、当該対象物(落下中の作業員等)は更に危険でかつ不快な衝撃を受けるという問題がある。
【0047】
係る相違は、本発明に於いては、織組織が平織組織であることに加えて、第1の縦糸が切断されている間も当該第2の縦糸が切断されずに伸張を続けるので、当該第1の縦糸に掛かる衝撃荷重が適度に分散され、部分的に集中して切断される事がなく、ベルトの伸びも緩やかとなる他、当該第3の縦糸も当該第2の縦糸の伸張に合わせて当該糸足長さの差を減少させて行くが、その挙動は、当該エネルギー吸収ベルト1の伸びに対して制動的に機能するので、一層ベルトの伸びが緩やかとなるからである。
【0048】
一方、当該特許文献3を含む従来のエネルギー吸収ベルトでは、織組織が畦織或は綾織であるため、経糸の浮きが多くまた芯糸では織物の長手方向に沿って浮いている状態であるから、当該経糸或は芯糸の切断は均一ではなく、所定の部位に集中する事になるので、上記した衝撃荷重波形の振幅が大きく且つ長くなるのである。
【0049】
又、本発明に於いては、当該衝撃荷重波形の終端部分に於ける当該第2及び第3の縦糸によって形成される当該膨出部は、落下荷重が85kg或は100kgでは、殆ど見られないが、当該荷重が120kg以上のものになると、図8および図9に示す様に、当該グラフ上に顕出されてくる。
【0050】
又、当該膨出部は、当該落下荷重が大きく成る程、当該膨出部の大きさも大きくなるが、当該膨出部の形状は、本発明の構成から必然的に発生される極めて緩やかな曲線を呈するものであり、その結果、衝撃荷重波形の終端部分に於いて、当該対象物が、従来例に於ける様な、強い衝撃を受ける事は無く、対象物に対する安全性が確実に担保されるのである。
【0051】
いずれにしても、本発明に於いては、衝撃荷重が印加された直後の所定の期間内で「安全帯の規格」8.0kNを下回り、衝撃荷重値のレベルで確実に然もソフトに衝撃エネルギーを吸収する事が出来且つ、当該エネルギー吸収ベルトが切断される恐れもなく、確実に対象物の落下を停止保護する事が可能となる。
【0052】
これに対し、当該特許文献3では、上記した問題点が存在する他、全ての芯糸が切断された後で、更に当該エネルギー吸収ベルトの伸張を許容する機構が存在しないので、上記した様な当該衝撃荷重波形の終端部に急峻な膨出部が形成されるので、当該エネルギー吸収ベルトが、確実に切断されることなく、対象物の落下を安全に停止保護する事が保証されていない。
【0053】
又、当該特許文献3のエネルギー吸収ベルトの衝撃荷重波形を示す当該特許文献3に記載されている図6乃至図8は、当該織組織は綾織で得られたものであること、及び当該特許文献3に於いて平織物を使用したエネルギー吸収ベルトの当該衝撃荷重波形は、当該特許文献3に於ける衝撃荷重波形を示す当該特許文献3に記載されている図9に示されている通り、本発明の衝撃荷重波形とは似ても似つかぬものでしかない事は明らかである。
【0054】
更に、本発明に於いて、当該第1の経糸を使用しない場合のエネルギー吸収ベルトと当該第1の経糸を使用した場合の当該エネルギー吸収ベルトの特性上の差異を検討する為、表2に示す様に、当該第2及び当該第3の縦糸の使用本数を前記した具体例の値に固定しつつ、当該第1の経糸の使用本数を0本から24本の間で変更した試料番号1乃至5を使用して実験を行ったものを試料番号1乃至5として表2に示し、又上記した通り、当該第1の経糸の使用本数を24本に固定した試料では、印加荷重を100kg、120kg及び140kgに変更して測定した結果を試料番号6乃至8として表2に示す。
【0055】
又、上記各資料についての衝撃荷重波形を図14(A)から図14(E)に示すが、各衝撃荷重波形の時間軸は、図10乃至図13の波形図の時間軸と同じに設定してある。
上記実験結果より明らかな通り、当該第1の経糸を使用しないエネルギー吸収ベルト(試料番号1)では、当該ベルトが図14(A)に示されている様に、長時間に亘って伸び続け、それによってベルト全体の伸びが大きくなり、当該第1の経糸がない当該エネルギー吸収ベルトは、実用性がない事が明らかとなる。
【0056】
更に、当該第1の経糸を含まない試料番号1のサンプルでは、当該ベルトが長時間に亘って伸び続ける事から、落下する作業者が受けるエネルギーの総量は大きくなり、当該作業者が不快感を強く感じたり、場合によっては障害を蒙る可能性がある。
【0057】
これに対し、当該第1の経糸を使用した当該試料番号2乃至5のエネルギー吸収ベルトでは、当該第2乃至第3の各縦糸と当該第1の経糸とを組み合わせることによって、当該衝撃荷重は、当該第1の経糸数が増加するに従って増加するものの、当該最大衝撃荷重は、何れも4.5kN以下と言う理想的な値を保っており、且つ図14(B)乃至図14(E)から判るように、当該ベルトが伸張している時間は大幅に短縮されると同時に、当該ベルトの伸びも確実に抑制されている事が判明している。
【0058】
この事は、本発明に係る当該ネルギー吸収ベルトが、当該落下衝撃が印加された直後に細かい振幅のエネルギー吸収領域を形成して、落下する作業者を抑制された伸びを介して受け止めて、大きなエネルギーを吸収すると共に伸びを短時間で終了させるという構成を有しているので、当該作業員の受けるエネルギーの総量も抑制される事から、当該作業員の受ける不快感は払拭され、又障害を受ける危険も確実に回避される事になる。
【0059】
然も、本発明に於いては、当該第1の経糸を組み合わせることによって、落下荷重を140kgに設定した場合でも、当該衝撃荷重は、上記規制値である8kg以下に留まっており、全体の伸びも650mmという規制値よりも少ない値に留める事が可能となる。
【0060】
即ち、本発明に於いては、当該第1の経糸の本数を調整する事によって、当該衝撃荷重及び当該ベルトの伸び量を適宜の値に調整することが可能であるから、当該ネルギー吸収ベルトの使用用途に応じて上記特性を適宜の値に設定する事が出来ると同時に、当該特性を得る為の仕様の設定に大きな自由度が確保されるという利点がある。
【0061】
更に、本発明に於いては、当該第1の縦糸4−1の使用本数と当該第2の縦糸4−2の使用本数との関係について検討した結果、当該第2の縦糸4−2の単位当りの使用本数に対して、当該第1の縦糸4−1の使用本数は、13乃至20%の割合である事が望ましい事が判明した。
【0062】
次に、上記織物仕様に従って製造された本発明のエネルギー吸収ベルト1の静的特性を検討する為に、当該エネルギー吸収ベルト1のそれぞれについて、引張強伸度を測定し、その結果を図2に示す。
【0063】
図2から理解される様に、本発明に係るエネルギー吸収ベルト1は、何れも、従来のエネルギー吸収ベルトが示す引張強伸度曲線とは異なる波形を呈しており、本発明に係る当該エネルギー吸収ベルト1は、伸度に対する荷重(強力)の変動が全体にフラットに近い緩やかな上昇カーブを示している。
【0064】
此処で、再度本発明に係るエネルギー吸収ベルトの動的衝撃荷重波形を示す図10及び図11と、特許文献3のエネルギー吸収ベルトの動的衝撃荷重波形を示す図12及び図13とを比較検討するならば、特許文献3では、切断糸が全て切断されるのでエネルギー吸収期間中の期間も長く、振幅も大きくなっているが、本発明では、切断糸が高伸縮性糸に対して伸張にブレーキを掛けながら切断していく状況を発揮するので、その期間が短く且つ振幅も小さくなり、その結果、静的特性を示す図5(D)に示す様に、その引張強伸度曲線は、緩い右肩上がりの理想的曲線を示すのに対し、特許文献3では、図5(C)に示す様に、エネルギー吸収期間中は、かなり大きな振幅の振動が見られ且つ当該期間中のグラフは略平坦状態を示している。
【0065】
一方、特許文献1及び2の静的特性波形を示す図5(A)及び図5(B)について検討するならば、双方の静的特性波形を示す図5(A)及び図5(B)と図5(C)に示す特許文献3の静的特性波形とを比較すると、何れも特許文献3の静的特性波形と近似している事は明らかである。
【0066】
従って、特許文献1及び2の動的特性波形は、特許文献3の動的特性波と同じとなるものと推測される。
従って、特許文献1及び2のエネルギー吸収ベルトは、本発明とは異なる静的並びに動的特性を有しているものと考えられる。
【0067】
尚、上記した比較実験に使用されたそれぞれのエネルギー吸収ベルトの構成仕様を表1に示す。
又、本発明に係る当該エネルギー吸収ベルト1の緯糸打ち込み数は17ピック/30mmであり、厚みが6.84mm、幅が20.8mmそして重さが77.42g/mとなる様に設計した。
【0068】
次に、本発明に於ける当該第1の経糸と第2の経糸との関係について言及するならば、本発明に於ける当該第1の経糸は、本発明で使用される3種類の経糸の中では、一番低伸度特性を有するものである事が望ましく、当該第2の経糸伸びつつある間に、徐々に切断されていく様な糸であることが好ましい。
【0069】
一方、当該第2の経糸は、衝撃荷重が印加された場合には、当該衝撃エネルギーを吸収するために伸張する事が必要であり、比較的高い伸張率を有する糸であることが望ましい。
つまり、当該第2の経糸は、当該3種類の経糸の中では、最も大きな伸度特性を有し、従って、高い伸張率を有するものである事が望ましい。
【0070】
既に、説明したとおり、本発明に係るエネルギー吸収ベルト1に於いては、衝撃荷重が印加された場合には、主に当該第2の経糸が伸張することによって、かなりの衝撃エネルギーを当該第2の経糸で吸収するもので、当該第1の経糸は、当該第2の経糸の伸張に合わせて徐々に切断されて行くが、それによって、当該第2の経糸の急激な伸張を抑制し、安定し、且つ均一な当該エネルギー吸収ベルトの衝撃吸収伸びを実現できるのである。
【0071】
本発明に於いては、係る構成を実現する為に、当該第2の経糸の伸張率は80%以上である事が必要である。
つまり、エネルギー吸収ベルトの静的引張試験に於いては、当該エネルギー吸収ベルトの破断伸度が約80乃至95%と設定されており、係る基準から判断するならば、当該エネルギー吸収ベルトは、少なくとも当該ベルトが破断する時点までは、当該第2の経糸は破断せずに、当該伸張性を維持している必要があるからである。
【0072】
従って、本発明に於ける当該第2の経糸の伸張率は、80%以上である事が望ましく、更に好ましくは、当該第2の経糸の伸張率は100%以上あり、更に理想的には、140%以上である事が望ましい。
【0073】
此処で、本発明に於ける上記した当該第1と第2の縦糸との関係について、検討する為に、前記した具体例に於いて、当該第1の経糸に伸張率が50%である糸を使用し、当該第1の経糸を使用しない場合と当該第1の経糸を24本使用した場合の2つの試料を作成し、上記したと同様の試験装置を使用して、85kgの荷重を用いて衝撃落下試験を行った。
【0074】
当該試験の結果を、図15(A)及び(B)にそれぞれ示す。
即ち、図15(A)は、当該第1の経糸は使用せず、当該第2と第3の経糸と緯糸で構成されたエネルギー吸収ベルトの試験結果を示す衝撃荷重波形であり、図15(B)は、当該第1の経糸を24本使用して、当該第1と第3の縦糸と合わせて織成したエネルギー吸収ベルトの衝撃荷重波形である。
【0075】
双方の試験結果から、理解されるように、当該第1の経糸が無い試料では、当該ベルトは、極めて短い時間で急峻に衝撃荷重が上昇し、且つ短時間で破断に到っている。
これに対し、第1の経糸を併用したものでは、上記と同様の周期の短い衝撃荷重波形となると同時に、第1の経糸を使用しないものよりも当該衝撃荷重が増加している。
【0076】
これは、当該第2の経糸の伸張率が低く、当該エネルギー吸収ベルトの試験に於ける伸度80%に到達する以前に破断が生ずることを意味すると共に、当該第1の経糸のエネルギーが当該第2の経糸の波形に上乗せされている結果、衝撃荷重が、逆に増加しているものと推測される。
【0077】
係る減少は、当該第2の経糸が、少なくとも伸張率が80%以上である必要がある事、及び、本発明に於いては、当該第2の経糸が主に当該衝撃エネルギーを吸収する機能を荷ない、当該第1の経糸は、当該第2の経糸の伸張、ひいては、当該エネルギー吸収ベルトの急激な伸びを抑制する機能を荷っていることを示しているものである。
【0078】
尚、本発明の特性を従来公知の高所作業用安全帯の命綱部(以後ランヤード部)として使用されているナイロン三つ打ち(又は八つ打ち)ロープと比較してみると、ナイロンロープと本発明に係るエネルギー吸収ベルトの衝撃荷重波形を図16(A)及び図16(B)に示す様に、ナイロンロープは、衝撃荷重が最大で8.0kNを示すのに対し、本発明に係るエネルギー吸収ベルトは4.5kNであり、衝撃吸収能力が極めて大きい事が明らかである。
【0079】
更にナイロンロープでは、図16(A)から明らかな通り、その衝撃荷重波形が極めて短期間に急上昇、急降下を示している事から、瞬間的に落下対象物に係る荷重は極めて大きく、落下対象物に損傷を与える危険性が極めて高い事を示している。
これに対し、本発明では、図16(B)に示す様に、エネルギー吸収期間が長く、衝撃荷重も落下対象物に損傷を与えるレベルより遥かに低いレベルに設定されている。
【0080】
【表1】
【0081】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明は、エネルギー吸収ベルトとして有効に使用する事が出来る。
【符号の説明】
【0083】
1:エネルギー吸収ベルト
2:第1の布帛
3:第2の布帛
4:縦糸
4−1:第1の縦糸
4−2:第2の縦糸
4−3:第3の縦糸
5:緯糸
6:糸足
7:からみ糸
40:落下衝撃試験装置
41:シャフト
48:制御測定手段
42:ロードセル
43、44:チャック部
46:錘
45:エネルギー吸収ベルト
47:ストッパー
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エネルギー吸収ベルトであって、当該ベルトは表裏2層に配置され、からみ糸により相互に接結されている第1の布帛と第2の布帛とから構成されており、当該第1及び第2の布帛は何れも平織組織を有しており、且つ当該それぞれの布帛は何れも少なくとも3種類の縦糸と少なくとも1種類の緯糸とから構成され、当該縦糸の内、第1の縦糸は予め定められた引張強度で切断する糸で構成され、第2の縦糸は、当該引張強度では切断せず伸張する高度の伸張特性を有する糸で構成され、第3の縦糸は、高強力特性を有し、他の縦糸よりも糸足が長くなるように当該布帛内に織り込まれている事を特徴とするエネルギー吸収ベルト。
【請求項2】
当該第2の縦糸に糸破断時の伸張率が80%以上ある高伸度糸を有することを特徴とする請求項1に記載のエネルギー吸収ベルト。
【請求項3】
当該第1及び第2の布帛の何れにも或はその中間部分にも芯糸は使用されていない事を特徴とする請求項1又は2に記載のエネルギー吸収ベルト。
【請求項1】
エネルギー吸収ベルトであって、当該ベルトは表裏2層に配置され、からみ糸により相互に接結されている第1の布帛と第2の布帛とから構成されており、当該第1及び第2の布帛は何れも平織組織を有しており、且つ当該それぞれの布帛は何れも少なくとも3種類の縦糸と少なくとも1種類の緯糸とから構成され、当該縦糸の内、第1の縦糸は予め定められた引張強度で切断する糸で構成され、第2の縦糸は、当該引張強度では切断せず伸張する高度の伸張特性を有する糸で構成され、第3の縦糸は、高強力特性を有し、他の縦糸よりも糸足が長くなるように当該布帛内に織り込まれている事を特徴とするエネルギー吸収ベルト。
【請求項2】
当該第2の縦糸に糸破断時の伸張率が80%以上ある高伸度糸を有することを特徴とする請求項1に記載のエネルギー吸収ベルト。
【請求項3】
当該第1及び第2の布帛の何れにも或はその中間部分にも芯糸は使用されていない事を特徴とする請求項1又は2に記載のエネルギー吸収ベルト。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
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【図7】
【図8】
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【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2010−168687(P2010−168687A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−12504(P2009−12504)
【出願日】平成21年1月23日(2009.1.23)
【出願人】(000159146)菊地工業株式会社 (4)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年1月23日(2009.1.23)
【出願人】(000159146)菊地工業株式会社 (4)
【Fターム(参考)】
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