説明

エネルギー回生用二次電池

【課題】大電流による充放電が可能で高容量なエネルギー回生用二次電池を実現する。
【解決手段】本発明のエネルギー回生用二次電池は、有機ラジカル高分子を電極活物質として含むエネルギー回生用二次電池であり、当該有機ラジカル高分子は、下記式(1)
【化1】


で表される、TEMPOラジカルを含む二つの置換基が主鎖五員環骨格に対しendo−exoに立体配置している二置換ポリノルボルネン構造を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二置換ポリノルボルネンであってTEMPO(2,2,6,6-tetramethylpiperidine 1-oxyl)ラジカルを含む二つの置換基が主鎖骨格に対しendo−exoに配置した有機ラジカル高分子を電極活物質とするエネルギー回生用二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
1990年代に登場したリチウムイオン二次電池は、高エネルギー密度を有する最先端電池として、携帯電話やノートパソコン、各種携帯情報端末等に用途を拡大してきた。そして、現在では、自動車用途や電力貯蔵等への応用も検討されるに至る。
【0003】
しかしながら、このリチウムイオン二次電池で使われる正極活物質の主なものは、鉱石の産出が一部の国に偏っているため、国際情勢や政情不安等の影響を受けやすく供給不安や価格高騰の状況が続いているコバルト元素を構成元素とするコバルト酸リチウム(LiCoO)である。このため、IT社会を安定的に発展維持するためにも、コバルトを代替する、資源的に豊富であり、また環境に対しても無害な有機元素や鉄等の元素からなる二次電池活物質を開発することが課題である。
【0004】
一方、地球温暖化や化石燃料の資源的枯渇対策のため、エネルギーの効率化を進める必要がある。その一つとして、資源的に無尽蔵と言われる太陽や風力によりエネルギーを得ようと太陽電池や風力発電が積極的に進められている。また、貴重な石油を大量消費する自動車・電車等の輸送機器では、減速時に摩擦熱等の熱エネルギーの形で捨てられていた慣性エネルギーを電気エネルギーに変換して回収再利用する回生エネルギーシステムを導入し始めている。
【0005】
しかしながら、いずれもエネルギーが常時定常的に発生するものでなく、負荷や発生電流の変動が非常に大きく、蓄電に従来からよく知られている二次電池を使用する限り、電池の安全性や耐久性等電池特性を優先させるため、すべてのエネルギーを蓄電することができない。
【0006】
例えば、ガソリン車を例にすると、仕事として活用しているエネルギーは投入エネルギー量の10〜13%であり、燃料消費国内評価基準の10・15モードからみても減速エネルギーを効率よく回収しなければならないことがわかる。もしも、この減速エネルギーをすべて回収することができるすれば、走行エネルギーを50%削減でき、省エネルギーやCO削減に大きくつながる。
【0007】
因みに、現在非常に注目されているハイブリッド車でも、計算方法にもよるが、搭載している二次電池の安全性・耐久性を確保するため、約20km/時から停止までの減速エネルギー回収にとどまっている。それ以上の速度からの減速エネルギーは、時間あたりのエネルギーが大きすぎるため、電池にとっては負担が大きい。このため、熱エネルギーとして大気中に捨てているのが現状である。
【0008】
また、二次電池は、その安全性や耐久性を確保するために、必ず充放電制御回路や保護回路を介して充放電を行うが、これらの回路は充放電エネルギーを自消して動作している。そのため、該回路中の半導体の動作電圧や動作電流以下となる小さなエネルギーでは、回路が動作しないため蓄電することができない。一般的に、太陽電池による起電力が使える時間帯が10時頃から15時頃といわれているのは、これ以外の時間帯では太陽電池の起電力が半導体の動作電圧・電流に達しないためである。
【0009】
より効率的に蓄電するために、リチウムイオン二次電池では、活物質のコバルト酸リチウムのCo原子をNi原子やMn原子に一部若しくは全て置き換え、充放電時に生じるリチウムイオンによる活物質の損傷やデンドライトを抑制することが試みられている。しかしながら、リチウムイオン二次電池はリチウムイオンの遷移金属結晶内での移動速度が充放電速度の律速となり、瞬時の充電には対応できない。充電の観点からみると、リチウムイオン二次電池はエネルギー回生用二次電池としては基本的に不向きである。
【0010】
一方、最近、回生エネルギーシステム用蓄電デバイスとして、電気ニ重層キャパシタが関心をもたれている。このデバイスは、界面における分極を利用して蓄電し、大電流を一度に放出でき、充放電の劣化がない等優れた特徴を有しているが、本質的にリチウムイオン二次電池より容量エネルギー密度が小さいという欠点を有している。
【0011】
最近、有機化合物を活物質に利用した電池として、導電性高分子や有機硫黄化合物を電極活物質とする新しいタイプの二次電池が提案されており、導電性高分子を正極または負極の活物質とする電池が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0012】
この電池は、導電性高分子に対する電解質イオンのドープ反応及び脱ドープ反応を電池動作原理としている。
【0013】
尚、ここで述べているドープ反応とは、導電性高分子の電気化学的な酸化反応若しくは還元反応により生じた荷電ソリトン、ポーラロン、バイポーラロン等のエキシトンを、対イオンによって安定化させる反応と定義し、脱ドープ反応とは対イオンによって安定化されたエキシトンが電気化学的に酸化もしくは還元する反応と定義する。
【0014】
しかしながら、電気化学的な酸化還元反応によって生じたエキシトンは、導電性高分子中に広がるπ電子共役系電子雲の広い範囲に亘って非局在化するため、エキシトン濃度を高めることには限界があった。例えば、ポリアニリンではドープ率が50%以下、ポリアセチレンでは7%前後である。このため、電池の軽量化では一定の効果を奏するものの、高容量化においては、依然として不十分である。
【0015】
また、ジスルフィド結合を有する有機化合物を正極活物質とし、ジスルフィド結合の解離・再結合を電池動作原理とする電池が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0016】
しかしながら、この電池では、分子量が小さくなった解離生成物が電解液中に拡散し、再結合への効率が悪い。このため、この電池では充放電サイクルでの容量低下が著しいといった問題があった。
【0017】
更に、最も新しい、有機化合物を電極活物質とする電池として、有機ラジカル化合物のラジカルの酸化還元を電池動作原理とする二次電池が提案されている。具体的には、窒素ラジカル化合物、ニトロキシドラジカル化合物、オキシラジカル化合物等を活物質とする二次電池が提案されている(例えば、特許文献3,4、並びに非特許文献1参照)。
【特許文献1】米国特許第4442187号公報(1984年4月10日公開)
【特許文献2】米国特許第4833048号公報(1989年5月23日公開)
【特許文献3】特開2004−207249号公報(2004年7月22日公開)
【特許文献4】特許2004−193004号公報(2004年7月8日公開)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
しかしながら、上記特許文献3,4及び非特許文献1に開示されている構成では、リチウムイオン二次電池と比較して容量が小さいという問題を生じる。
【0019】
具体的には、上記特許文献3,4及び非特許文献1に開示されている構成の電池は、高出力かつ大電流による急速充電においては、従来の既存の二次電池と比較して優れた効果があり、エネルギー回生用二次電池として一番有力な構成であるものの、リチウムイオン二次電池と比較して容量が小さいという大きな欠点を有していた。
【0020】
このように、大電流による充放電が可能で高容量なエネルギー回生用二次電池を実現するために様々な二次電池が提案されてきたが、未だその要求を充分に満たす二次電池が得られていないのが実情である。
【0021】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、大電流による充放電が可能で高容量なエネルギー回生用二次電池を提供することができる電極、及びそれを含むエネルギー回生用二次電池を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明に係るエネルギー回生用二次電池は、上記課題を解決するために、有機ラジカル高分子を電極活物質として含むエネルギー回生用二次電池であり、当該有機ラジカル高分子は、下記式(1)
【0023】
【化1】

【0024】
で表される、TEMPOラジカルを含む二つの置換基が主鎖五員環骨格に対しendo−exoに立体配置している二置換ポリノルボルネン構造を含むことを特徴としている。
【0025】
上記構成によれば、式(1)で表される二置換ポリノルボルネン構造を有する有機ラジカル高分子を含むため、大電流による充放電が可能で高容量なエネルギー回生用二次電池を提供することができるという効果を奏する。
【0026】
本発明に係るエネルギー回生用二次電池では、上記有機ラジカル高分子の数平均分子量が10万以上であることが好ましい。
【0027】
上記構成によれば、電解液に活物質が溶解したり、膨潤したりしないという更なる効果を奏する。特に、分子量が低いと活物質が充放電サイクルテスト中に電極間で移動し、電池寿命に影響を及ぼす。
【0028】
本発明に係るエネルギー回生用二次電池では、電極活物質として、更に炭素材料を含むことが好ましい。
【0029】
上記構成によれば、電圧降下を抑制しながら、大電流による充放電が可能となるという更なる効果を奏する。
【0030】
本発明に係るエネルギー回生用二次電池では、上記炭素材料が、熱分解気相成長炭素繊維であることが好ましい。
【0031】
上記構成によれば、1A以上10〜100A以下という大電流であっても使用することができるエネルギー回生用二次電池を提供することができるという更なる効果を奏する。
【0032】
尚、気相成長炭素繊維は、カーボンブラック等と比べて極めて分散性が悪く、リチウムイオン二次電池でも長い間使用されていなかったが、有機ラジカル電池では、分散性の優劣は電池特性に影響を与えないため用いることができる。
【0033】
上記構成によれば、本発明に係る上記電極を含むため、大電流による充放電が可能で高容量なエネルギー回生用二次電池を提供することができるという効果を奏する。
【0034】
本発明に係るエネルギー回生用二次電池では、電解液を更に含み、充放電時に、有機ラジカル高分子が電解液に不溶であることが好ましい。
【0035】
上記構成によれば、有機ラジカル高分子が移動することを抑制することができるため、、充放電サイクルテストにおいて容量の低下を招かず、電極の膨れも生じ難いという更なる効果を奏する。
【発明の効果】
【0036】
本発明に係るエネルギー回生用二次電池は、以上のように、有機ラジカル高分子を電極活物質として含むエネルギー回生用二次電池であり、当該有機ラジカル高分子は、式(1)で表される、TEMPOラジカルを含む二つの置換基が主鎖骨格に対しendo−exoに立体配置している二置換ポリノルボルネン構造を含むことを特徴としている。
【0037】
このため、大電流による充放電が可能で高容量なエネルギー回生用二次電池を提供することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
以下、本発明について詳しく説明する。
【0039】
本実施の形態に係るエネルギー回生用二次電池は、下記式(1)
【0040】
【化2】

【0041】
で表される、TEMPOラジカルを含む二つの置換基が主鎖骨格に対しendo−exoに立体配置している二置換ポリノルボルネン構造を有する有機ラジカル高分子を含む電極を含む。
【0042】
本実施の形態に係るエネルギー回生用二次電池は、式(1)で表される二置換ポリノルボルネン構造を有する有機ラジカル高分子を含む電極を備えていること以外は、従来公知の構成と同様な電池構造を有し、その構造は特には限定されない。例えば、図1に示すような、正極層(電極)2と負極層4とを、電解質を含むセパレータ6を介して、重ね合わせ、正極層2及び負極層4の外側には、それぞれ正極集電体8及び負極集電体10が配置され、更にそれらの集電体には、それぞれ正極端子12及び負極端子14が取り付けられてなる構造であり、全体が外装フィルム16にて覆われてなる構成が挙げられる。
【0043】
(1)正極層2
本実施の形態に係る正極層2は、有機ラジカル高分子を含む電極であり、当該有機ラジカル高分子は式(1)で表される、TEMPOラジカルを含む二つの置換基が主鎖五員環骨格に対しendo−exoに立体配置している二置換ポリノルボルネン構造を含む。
【0044】
上記有機ラジカル高分子は、数平均分子量が10万以上であることがより好ましい。
【0045】
尚、上記数平均分子量は、例えば、GPC(ポリスチレン基準、THF溶媒)により測定することができる。
【0046】
また、上記有機ラジカル高分子は、充放電時に電解液に不溶であることがより好ましい 上記有機ラジカル高分子は、例えば、非特許文献3(T. Katsumata., et. al., “ Polyacetylene and polynorbornene derivatives carrying TEMPO. Synthesis and properties as rechargeable batteries.”, Macromolecular Rapid Communications, 27, 1206-1211, (2006))に記載されている方法により合成することができる。具体的には、例えば、ノルボルネンモノマーを用い、Grubbs第2世代錯体を触媒として用いて、ジクロロメタン中、30℃で重合を行うことにより合成することができる。
【0047】
本実施の形態に係るエネルギー回生用二次電池では、有機ラジカル高分子を電極活物質として上記正極層2に含み、該有機ラジカル高分子が炭素材料と混合されて構成されていることがより好ましい。
【0048】
尚、上記「電極活物質」とは、充電反応及び放電反応等の電極反応に直接寄与する物質のことであり、電池システムの中心的役割を果たすものである。本実施の形態では、電極活物質として、上記有機ラジカル高分子を用いるものである。
【0049】
本実施の形態では、上記炭素材料は導電付与材として用いられ、従来のリチウムイオン二次電池でも使用されているものである。但し、本実施の形態の場合では、金属粉や導電性高分子の微粒子では電池としての動作が認められないことから、理論的解明はまだされていないが、上記炭素材料は、単なる集電体以上の何らかの作用効果を及ぼしているものと考えられている。
【0050】
上記正極層2を形成するに際して、用いる塗工方法は特に限定されるものでない。その場合において、溶剤の種類、有機ラジカル高分子と溶剤との配合比、添加剤の種類とその添加量等は、二次電池の要求特性等を考慮するとともに、製造工程における製造のし易さ等も考慮して、任意に設定される。
【0051】
本実施の形態に係る正極層2は、例えば、上記有機ラジカル高分子を炭素材料と混合し、当該有機ラジカル高分子と炭素材料とをそのまま用いて成形したり、それらを適当な溶剤に溶解若しくは分散させて混合し、溶液やスラリーの形態において塗工して、乾燥させる等の方法により作製することができる。尚、上記炭素材料が、熱分解気相成長炭素繊維であることがより好ましい。
【0052】
上記溶剤としては、一般の有機溶剤であれば特に限定されず、例えば、ジメチルスルフォキシド、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、プロピレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、γ―ブチルラクトン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、ニトロベンゼン、アセトン等の非水溶媒;メチルアルコール、エチルアルコール等のプロトン性溶媒等が挙げられる。
【0053】
また、本実施の形態に係る正極層2は、種々の添加剤と組み合わせて作製することができる。上記添加剤としては、バインダーや粘度調整剤として作用するポリエチレンやポリフッ化ビニリデン、ポリヘキサフルオロプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアクリレート、アルキルナフタレンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸のホルムアルデヒド縮合物、ポリエチレンオキサイド、カルボキシメチルセルロース等の樹脂が挙げられる。
【0054】
本実施の形態に係る正極層2では、正極層2における各構成材料間の結び付きを強めるために、必要に応じて結着剤を用いることができる。結着剤としては、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ビニリデンフロライド−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ビニリデンフロライド−テトラフルオロエチレン共重合体、スチレン−ブタジエン共重合ゴム、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリイミド、各種ポリウレタン等の樹脂バインダーが挙げられる。これらの樹脂バインダーは、単独で用いてもよいし2種類以上組み合わせて混合して用いてもよい。尚、正極層2中におけるバインダーの割合は、特に限定されないが、例えば5〜30質量%とすることができる。
【0055】
正極層2における有機ラジカル高分子の混合比は、電池の要求特性に応じて適宜に選択され得るものであり一義的に限定されるものではない。通常、10質量%以上、98質量%以下の混合割合となるように選定される。混合比が10質量%以上であれば、二次電池として必要なエネルギー密度を安定して得ることができ、また、98質量%以下であれば、内部抵抗を低くすることができるため、電池として安定に動作させることができる。これは、集電体として作用する炭素材料同士の接触を阻害しないためと考えられる。
【0056】
(2)負極層4
上記正極層2の対向電極となる、負極層4は、導電性材料から構成されるものであれば、特に限定されるものではなく、従来から公知のものを電池仕様に従い採用することができる。このような導電性材料としては、例えば、天然黒鉛、石油コークス、石炭コークス、ピッチコークス、カーボンブラック、活性炭、樹脂焼成炭素、有機高分子焼成体、熱分解気相成長炭素繊維、メソカーボンマイクロビーズ、メソフェーズピッチ系炭素繊維、ポリアクリロニトリル系炭素繊維、低温焼成炭素、フラーレン、カーボンナノチューブ等の炭素材料、金属リチウム、リチウム合金、窒化リチウム、Li(3−X)N ( 0<X<1,M=Co, Ni,Cu)及びこれらの混合物が挙げられる。より具体的には、黒鉛をバインダーと共に塗工した銅箔、リチウム重ね合わせ銅箔、白金板等が挙げられる。対向電極となる負極層4は、後述するセパレータ6を介して正極層2と対向させて設けられる。
【0057】
(3)集電体(正極集電体8、負極集電体10)
本実施の形態に係るエネルギー回生用二次電池では、負極集電体10及び正極集電体8として、ニッケル、アルミニウム、銅、金、銀、アルミニウム合金、ステンレス、若しくは炭素等からなる、箔、金属平板、若しくはメッシュ状等の形状の材料を用いることができる。
【0058】
(4)セパレータ6
本実施の形態に係るエネルギー回生用二次電池では、従来のリチウムイオン二次電池と同様に、正極2と負極4とを隔てる目的で、セパレータ6を利用することができる。セパレータ6としては、多孔質のポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィンフィルム、又はこれらと他の樹脂との複合フィルム等が挙げられる。
【0059】
(5)電解質
電解質は、正極層2と負極電極4との間の荷電担体輸送を行うものである。一般には、室温で10−5〜10−1S/cmのイオン伝導性を有するものが用いられる。このような電解質としては、例えば、電解質塩を溶剤に溶解させた電解液や、電解質塩を含む高分子化合物からなる固体電解質を利用することができる。
【0060】
上記電解液を構成する電解質塩としては、例えば、LiPF、LiClO、LiBF4、LiCFSO、Li(CFSON、Li(CSON、Li(CFSOC、Li(CSON等の従来から公知の材料を用いることができる。
【0061】
また、電解質を溶解するための溶剤としては、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、γ―ブチルラクトン、テトラヒドロフラン、ジオキソラン、スルホラン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン等の有機溶媒が挙げられる。これらは、単独で用いてもよいし、2種以上の混合溶剤として用いてもよい。
【0062】
固体電解質を構成する高分子化合物としては、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−エチレン共重合体、フッ化ビニリデン−モノフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−トリフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン三元共重合体等のフッ化ビニリデン系重合体や、アクリロニトリル−メチルメタクリレート共重合体、アクリロニトリル−メチルアクリレート共重合体、アクリロニトリル−エチルメタクリレート共重合体、アクリロニトリル−エチルアクリレート共重合体、アクリロニトリル−メタクリル酸共重合体、アクリロニトリル−アクリル酸共重合体、アクリロニトリル−ビニルアセテート共重合体等のアクリロニトリル系重合体、更にポリエチレンオキサイド、エチレンオキサイド−プロピレンオキサイド共重合体、これらのアクリレート体やメタクリレート体の重合物等が挙げられる。尚、固体電解質は、これらの高分子化合物に電解液を含ませてゲル状にしたものを用いてもよいし、高分子化合物のみをそのまま用いてもよい。
【0063】
(6)電池
以上のように、本実施の形態に係るエネルギー回生用二次電池は、有機ラジカル高分子を、好ましくは炭素材料と混合して、正極層2を構成し、電子の授受を伴う酸化還元反応が円滑に進行するようにして構成される。また、二次電池の一般的な構成は、それぞれ活物質を含む電極層を集電板上に形成し、両者をセパレータ6を介して対向させて、電解液を含漬させ、封止したものとなる。更には、このような構成において、正極層2に含まれる活物質が、有機ラジカル高分子であり、好ましくは、それが炭素材料と混合されて、正極層2として構成されているのである。
【0064】
本実施の形態に係るエネルギー回生用二次電池では、電池の形状は特に限定されず、従来の電池で採用されている円筒型、角型、コイン型、及びシート型等の形状とすることができる。また、外装方法も特に限定されず、金属ケースやモールド樹脂、アルミラミネートフィルム等によって行うことができる。また、電極からのリードの取り出し等についても、従来より公知の方法を用いることができる。
【0065】
また、本実施の形態に係るエネルギー回生用二次電池では、正極層2及び負極層4の積層方法は、特に限定されず、交互に多層積層したり、セパレータ6を介して対向させて巻回したりするような公知技術を適用することが可能である。
【0066】
尚、本発明者等による論文である非特許文献1〜3(非特許文献1:K. Nakahara, et. al. , “ Rechargeable battery with organic radical cathodes”, Chem. Phys. Lett., 359, 351-354, ( 2002 )、非特許文献2:勝又等、「TEMPOを側鎖に有するポリマーの合成と特性」、高分子学会要旨、非特許文献3: T. Katsumata., et. al., “ Polyacetylene and polynorbornene derivatives carrying TEMPO. Synthesis and properties as rechargeable batteries.”, Macromolecular Rapid Communications, 27, 1206-1211, (2006))には、有機ラジカル高分子が開示されている。
【0067】
従来、TEMPOラジカルのようなNOラジカルは一電子酸化還元しか起こさないと考えられていた。そのため、容量を高くするために、できるだけ多くのTEMPO基を導入する方向で検討がこれまでに行われてきた。
【0068】
しかしながら、今までに報告されている有機ラジカル高分子や化合物では、ラジカル当たりの分子量から計算される理論容量を開示されている実測容量が超えることはなかったことから、何れも一電子酸化還元しか起こしていないことが判る。早大西出教授発表のポリノルボルネンでも同じ結果であった。
【0069】
本発明者等は、TEMPOラジカルを含む二つの置換基の立体配置に着目し、構造異性関係にあるポリノルボルネンを3種類合成し測定した結果、endo−exo体だけが理論容量の2倍にあたる実測容量を示すことを見出した。
【0070】
一般に、無機物の殆どは2以上の密度を持つのに対して、高分子を含む有機物では本質的に比重(密度)が1.5を超えるものは殆ど無く通常0.9〜1.2である。有機ラジカル高分子あるいは有機ラジカル化合物でも同様である。このことは、電池活物質に限らず、有機半導体や有機磁性体などがそれぞれの想定用途で実際に用いられていない最大の理由である。即ち、電池の場合、電池という一定容積あたりに充填される活物質の量、即ち分子数に電池容量は依存する。従って、密度の大きい無機物のほうが有機物よりも充填される分子数は大きい。
【0071】
非特許文献1〜3では何れも一電子酸化還元であり理論容量相当の実測容量のみを開示しており、機構的にはNOラジカル(中性)とカチオン間での酸化還元(P型半導体)である。これが、紙上では予想されるNOラジカル(中性)とアニオン間での酸化還元(N型半導体)も生じるならば、当然その分容量が増える。しかし、有機半導体も含めてN型半導体となるものは殆ど稀有である。
【0072】
もう一つ容量がアップする可能性としては、ラジカルスピン間の相互作用により空軌道が生じ、2倍の容量を示すことが考えられる。同じラジカル物質である有機磁性体でも、ラジカルスピン相互作用を持つ物質の開発が世界中で試みられてきたが、数例しか見出せていない。
【0073】
そのような状況下、本願記載のendo−exo体ポリノルボルネンでは、SQUID(超伝導量子干渉計)による磁化率変化率の実測測定曲線が、相互作用をした時のシュミュレーション曲線に合致したことから、endo−exo体ではラジカルスピンの相互作用があることが間接的に示唆された。なお、残りのexo−exo体やendo−endo体は相互作用がない場合のシュミュレーション曲線に合致した。
【0074】
このendo−exo体が顕著な多段充放電を示したのは、上述したどちらのメカニズムで生じたのか今のところ不明である。尚、本発明者等の検討では、TEMPOラジカルの代わりに同じNOラジカルを有するプロキシルラジカルも検討したが、明らかに2電子酸化還元に相当する容量を示したのは、本願記載のTEMPOラジカルを含む二つの置換基が主鎖五員環骨格に対しendo−exoの立体配置をとる二置換ポリノルボルネンだけであった。
【0075】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0076】
以下、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0077】
〔合成例1〕
式(1)で表される構造を有する有機ラジカル高分子であるポリノルボルネンは、塩基存在下、5−ノルボルネン−endo−exo−2,3−ジカルボン酸と4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジノキシラジカルとを、カルボジイミド系縮合剤を用いて常法に従いエステル化したノルボルネンジTEMPOエステルを得、次いで、この化合物をモノマーとして第二世代Grubbs触媒を用いて不活性ガス雰囲気下で開環メタセシス重合を行い得た。
【0078】
〔実施例1〕
合成例1で得られた有機ラジカル高分子300mg、気相成長炭素繊維600mg、ポリテトラフルオロエチレン樹脂バインダー(呉羽化学製)100mgを秤量し、均一に混合した。次いで、該混合物を加圧成形し、厚さ約150μmのペレットを得、真空下80℃で1時間乾燥した後、直径12mmの円形に打ち抜き、電極層に供した。
【0079】
次に、電極層を電解液に浸漬して電極中に電解液をしみ込ませた。なお、電解液としては、1.0mol/LのLiPF6電解塩を含む、エチレンカーボネート/ジエチレンカーボネート混合溶液(混合体積比3:7)を用いた。この電極を、正極層2として、コイン型電池を構成する正極集電体8上に置き、その上に、同じく電解液を含浸させたポリプロピレン多孔質フィルムからなるセパレータ6を積層し、更に負極層4となるリチウム張合わせ銅箔を積層した。その後、周囲に絶縁パッキンを配置した状態で、コイン型電池のアルミ外装(Hohsen製)16を重ね、かしめ機によって加圧することにより、正極活物質として、有機ラジカル高分子を用い、負極活物質として金属リチウムを用いた密閉型のコイン型電池を作製した。
【0080】
作製したコイン型電池を、0.1mAの定電流で電圧が4.0Vになるまで充電し、その後0.1mAの定電流で所定電圧(本実施例では1.5V)まで放電を行った。その結果、この電池は220Ah/kgの容量をもつ二次電池であることが認められた。
【0081】
その後、4.0〜1.5Vの範囲で充放電を100回繰り返した。その結果、100サイクル後においても初期の90%以上の容量となり、充放電を繰り返しても容量低下が小さい長サイクル寿命の二次電池であることが確認できた。
【0082】
一方、同様に作製したコイン型電池を用いて、0.1mAの定電流で4.0Vになるまで充電し、ついで5.0mAの定電流で放電を行い、容量を測定した。その結果、5.0mA時の容量は0.1mA時の容量と比較して容量の低下傾向は認められるものの、80〜90%の維持率を有することから、大電流でも容量低下が小さい高出力密度の二次電池であることが判った。
【0083】
尚、大電流による充放電測定ではその大電流に耐える厚みや幅の端子を用いるためフィルムパック型電池を通常用いるが、電気特性の初期評価では電流が小さいため、利便性や電池作製容易性を考慮して、本実施例では、コイン型電池を作製して用いた。
【0084】
〔実施例2〕
小型ホモジナイザーに、N−メチルピロリドン10gとポリフッ化ビニリデン400mgとを加えて、30分間攪拌し、完全に溶解させた。
【0085】
そこへ、合成例1で得た有機ラジカル高分子を0.5g加え、更に全体が均一になるまで攪拌をした。ついで、気相成長炭素繊維を0.5g加え、攪拌して黒色スラリーを得た。このスラリーを高純度アルミ箔上に塗布し120℃で乾燥させて膜厚90μmの正極を得た。これを、直径12mmの円形に打ち抜き、実施例1と同様にコイン型セルを作製した。
【0086】
作製したコイン型電池を実施例1と同様条件で評価した結果、充放電電圧3.6V、放電容量215Ah/kgのエネルギー回生用二次電池であることが確認できた。100サイクル後の容量維持率は90%以上であり、長サイクル寿命の二次電池であることが確認できた。
【0087】
〔比較例1〕
実施例1の気相成長炭素繊維に代えて平均粒径10μmの銀粉を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法でコイン型電池を作製した。
【0088】
この電池について実施例1と同様な条件で充放電したところ、放電時に電圧平坦部がみられず電圧が急速に低下し、電池動作は確認できなかった。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明のエネルギー回生用二次電池は、式(1)で表される二置換ポリノルボルネン構造を含み、上記二置換ポリノルボルネン構造では、TEMPOラジカルを含む二つの置換基が主鎖五員環骨格に対しendo−exoに立体配置している。よって、大電流による充放電が可能で高容量なエネルギー回生用二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】本発明の実施形態に係るエネルギー回生用二次電池の概略構成を示す断面図である。
【符号の説明】
【0091】
2 正極層(電極)
4 負極層
6 セパレータ
8 正極集電体
10 負極集電体
12 正極端子
14 負極端子
16 外装フィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機ラジカル高分子を電極活物質として含むエネルギー回生用二次電池であり、
当該有機ラジカル高分子は、下記式(1)
【化1】

で表される、TEMPOラジカルを含む二つの置換基が主鎖五員環骨格に対しendo−exoに立体配置している二置換ポリノルボルネン構造を含むことを特徴とするエネルギー回生用二次電池。
【請求項2】
上記有機ラジカル高分子の数平均分子量が10万以上であることを特徴とする請求項1に記載のエネルギー回生用二次電池。
【請求項3】
電極活物質として、更に炭素材料を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載のエネルギー回生用二次電池。
【請求項4】
上記炭素材料が、熱分解気相成長炭素繊維であることを特徴とする請求項3に記載のエネルギー回生用二次電池。
【請求項5】
電解液を更に含み、
充放電時に、有機ラジカル高分子が電解液に不溶であることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載のエネルギー回生用二次電池。

【図1】
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【公開番号】特開2008−282632(P2008−282632A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−124884(P2007−124884)
【出願日】平成19年5月9日(2007.5.9)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【出願人】(000230652)日本化成株式会社 (85)
【Fターム(参考)】