説明

エネルギー貯蔵デバイス

【課題】
入出力特性に優れ貯蔵エネルギー密度の高いエネルギーデバイスを得る。
【解決手段】
ファラデー的な反応がリチウムイオンの脱離・挿入反応であり、ファラデー的な反応をする正極材料と非ファラデー的な反応をする材料とを有する正極と、主としてファラデー的な反応をする2種以上の材料を有する負極で構成する。従って、正極集電体上にファラデー的な反応をする材料からなる合剤層を構成し、そのより表層に非ファラデー的な反応をする材料層を設けることでより高い入出力特性が得られる効果があった。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気エネルギーを貯蔵,放出するエネルギーデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気自動車やハイブリッド自動車、あるいは電動工具などの電源として、これまでよりも高入出力の電源が求められており、さらに急速な充放電が可能で、しかも高容量化された電源が求められている。
【0003】
特に、温度依存性が小さく、−20℃〜−30℃という低温においても、入出力特性を維持できる電源が求められている。
【0004】
これまでは、以上のような要求に対し、リチウム二次電池,ニッケル水素電池,ニッケルカドミウム電池,鉛蓄電池などの、反応機構が主にファラデー的である二次電池をより高性能化することや、反応機構が非ファラデー的であり、瞬間的な入出力可能な電源として入出力特性や低温環境下での特性が良好な電気二重層キャパシタを併用することによって対処してきた。
【0005】
また、高エネルギー密度,高出力密度,低温特性の改善を目的として、リチウム二次電池のリチウム二次電池正極に電気二重層キャパシタの材料として用いられる活性炭を混合したリチウム二次電池がある(特許文献1参照)。
【0006】
【特許文献1】特開2002−260634号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来のリチウム二次電池等では、大電流での充放電特性が悪く、入出力特性が低下するという課題があった。また、電気二重層キャパシタでは、エネルギー密度が低いという課題があった。
【0008】
本発明は、入出力特性に優れ、貯蔵エネルギー密度の高いエネルギーデバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のエネルギー貯蔵デバイスは、ファラデー的な反応をする材料と非ファラデー的な反応をする材料とを有する正極と、ファラデー的な反応をする材料を有する負極とを有し、負極の材料が、少なくとも黒鉛及び非黒鉛質炭素を有することを特徴とする。
【0010】
特に、ファラデー的な反応をする材料と非ファラデー的な反応をする材料とが、層状に形成されることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、入出力特性に優れ、貯蔵エネルギー密度の高いエネルギーデバイスを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の一実施形態を図1に基づいて以下に説明する。
【0013】
図1は、本発明の一つの実施形態におけるコイン型のエネルギーデバイスの断面を示す模式図である。
【0014】
正極11は、正極集電体1上に正極合剤層2が形成されているもので、正極合剤層2は、ファラデー的な反応をする正極材料と、ファラデー的な反応より反応速度の速い非ファラデー的な反応をする材料とを有する。
【0015】
負極12は、負極集電体3上に負極合剤層4が形成されているもので、負極合剤層4は、少なくとも2種以上の主としてファラデー的な反応をする材料を有するものである。
【0016】
本発明におけるファラデー反応は、ファラデー的な反応をする材料にリチウムイオンの脱離・挿入がおこり、化合物の形成,インターカレート,金属間化合物の形成が伴うものである。
【0017】
ここで、『ファラデー的な反応』とは、活物質の酸化状態が変化し、電荷が電気二重層を通過し、電極界面を通して活物質内部に移動する反応を意味する。これは一次電池や二次電池の反応と類似の機構である。
【0018】
一方、『非ファラデー的な反応』とは、電極界面を通過する電荷移動は起こらず、電極表面にイオンが物理的に吸着脱離されることで電荷を蓄積・放出する反応を意味する。これは電気二重層キャパシタの反応と類似の機構である。
【0019】
また、非ファラデー的な反応のように、電荷が電極界面に蓄積されると同時に、活物質との電子のやりとりが起こるファラデー的な反応を伴う反応がある。これはレドックスキャパシタと呼ばれるエネルギーデバイスの反応と類似の機構である。これはファラデー反応を伴うが、二次電池などでのファラデー反応よりも反応速度が速い。
【0020】
このことからレドックスキャパシタと二次電池などのそれぞれのファラデー的な反応を、反応速度の異なるファラデー的な反応と称することとし、レドックスキャパシタを反応速度が速いファラデー反応,二次電池を反応速度の遅いファラデー反応と称する。
【0021】
なお、『ファラデー的』及び『非ファラデー的』なる用語は、バッテリーのタイプとエネルギー貯蔵形式として、『ファラデー的』及び『非ファラデー的』なる用語を用いて類型化されている。
【0022】
本実施の形態の特徴は、負極に少なくとも2種以上の主としてファラデー的な反応をする材料を有するものである。
【0023】
より詳述すると、ファラデー的な反応による蓄積エネルギー、すなわちリチウムイオンの脱離・挿入量が異なり、かつファラデー的な反応によるリチウムイオンの脱離・挿入量に対する材料の電位変化挙動が異なるか、もしくは、非ファラデー的なエネルギーの蓄積量の異なる2種以上の材料を有するものである。
【0024】
具体的には、ファラデー的な反応による蓄積エネルギーを大きくしうる黒鉛と、リチウムイオンの脱離・挿入に従い電位が連続的に変化する非晶質炭素を有することがあげられる。
【0025】
黒鉛の作用により、エネルギーデバイスの貯蔵エネルギー密度を高くすることができ、同時に、非晶質炭素の作用により、大電流での充放電時における非ファラデー的な反応を進行させることができる。
【0026】
これにより、入出力特性に優れ、貯蔵エネルギー密度の高いエネルギーデバイスを得ることができる。
【0027】
上述の作用は、負極に主として非ファラデー的な反応をする材料を有することでより優れた効果が発現できる。
【0028】
負極における主としてファラデー的な反応をする材料と、主として非ファラデー的な反応をする材料とは、負極合剤中において混合してもよく、また、主としてファラデー的な反応をする材料と非ファラデー的な反応をする材料とを各々別の領域に構成してもよい。例えば、負極集電体上に主としてファラデー的な反応をする黒鉛と非晶質炭素とを混合した合剤層を構成し、そのより表層に非ファラデー的な反応をする材料層を設けてもよい。
【0029】
また、本実施の形態において、正極におけるファラデー的な反応をする正極材料と、非ファラデー的な反応をする材料とは、正極合剤中に混合して用いる形態があるが、より望ましい形態として、ファラデー的な反応をする材料と非ファラデー的な反応をする材料を各々別の領域に構成するもので、例えば、正極集電体上にファラデー的な反応をする材料からなる合剤層を構成し、そのより表層に非ファラデー的な反応をする材料層を設ける形態がある。
【0030】
これにより反応速度が速い非ファラデー的な反応が生じる層を、対向する負極により近い側に集中させることが出来るため、キャパシタに類似の効果をより発現でき、より入出力特性に優れるエネルギーデバイスを実現できる。
【0031】
本実施の形態のエネルギーデバイスは、図1に示すように、ファラデー的な反応をする正極材料と非ファラデー的な反応をする材料とを有する正極11と、少なくとも2種以上の主としてファラデー的な反応をする材料を有する負極12と、を有し、正極11と負極12とを電気的に絶縁し、可動イオンのみを通す絶縁層7を正極11と負極12とで挟むように形成し、これらをケース6に挿入後、電解液を注液することで製造する。絶縁層7と電極(11,12)に電解液を十分に保持させることによって、正極11と負極12の電気的絶縁を確保し、正極11と負極12との間でイオンの授受を可能とする。
【0032】
なお、コイン型以外の形状のエネルギーデバイスを作製することも可能である。
【0033】
円筒型の場合は、正極と負極とを向き合わせ、その間に絶縁層を挿入した状態で捲回して電極群を製造する。
【0034】
また、電極を二軸で捲回すると、長円形型の電極群も得られる。
【0035】
角型の場合は、正極と負極とを短冊状に切断し、正極と負極とを交互に積層し、各電極間に絶縁層を挿入し、電極群を作製する。
【0036】
いうまでもなく、本発明は、本実施の形態で述べた電極群の構造,コイン型であるか,捲回型であるか,角型であるかに限られたものではなく、任意の構造に適用可能である。
【0037】
ファラデー的な反応をする正極材料は、リチウムを含有する酸化物であることが好ましい。
【0038】
これは例えば、LiCoO2,LiNiO2,LiMn1/3Ni1/3Co1/32
LiMn0.4Ni0.4Co0.22のような層状構造を有する酸化物や、LiMn24
Li1+xMn2-x4のようなスピネル型の結晶構造を有するMnの酸化物、また、Mnの一部をCoやCr等の他の元素で置換えしたものを用いることができる。
【0039】
非ファラデー反応をする材料としては、比表面積が大きく、広い電位範囲で酸化還元反応が起こらない物質、例えば活性炭,カーボンブラック,カーボンナノチューブなどの炭素材料を用いることができる。
【0040】
例えば、比表面積,材料コストの観点から活性炭を用いることが望ましい。より好ましくは、粒径が1〜100μm、比表面積が1000〜3000m2/gであり、ミクロ孔と呼ばれる直径0.002μm以下の細孔,メソ孔と呼ばれる直径0.002〜0.05
μmの細孔、およびマクロ孔と呼ばれる直径0.05μm 以上の細孔を有する活性炭を用いるものである。
【0041】
また、非ファラデー反応をする材料としては、ポリアニリン,ポリチオフェン,ポリピロール,ポリアセン,ポリアセチレンなどの導電性高分子材料などといった材料や黒鉛の微粉などを用いることもできる。
【0042】
正極材料、必要に応じ導電剤,結着剤,非ファラデー反応をする材料、および溶媒を混合した正極スラリーを、例えば、ドクターブレード法により正極集電体上に塗付し、加熱により溶媒を乾燥し、例えば、ロールプレスによって正極を加圧成形し、正極を作製する。
【0043】
導電剤は、一般に高抵抗である正極材料の電気伝導性を補うものである。導電剤は、天然黒鉛,人造黒鉛,コークス,カーボンブラック,非晶質炭素などを使用することが可能である。
【0044】
正極集電体は、電解液に溶解しにくい材質であれば良く、例えば、アルミニウム箔を用いることができる。
【0045】
また、結着剤とは、正極材料,導電剤,非ファラデー反応をする材料を集電体に固着させるためのもので、ポリテトラフルオロエチレン,ポリフッ化ビニリデン,フッ素ゴム等の含フッ素樹脂,ポリプロピレン,ポリエチレン等の熱可塑性樹脂,ポリビニルアルコール等の熱硬化性樹脂,スチレン−ブタジエンゴムといったゴム系樹脂,メチルエチルセルロースといったセルロース類、等である。
【0046】
溶媒には、結着剤の種類に応じ選択することが好ましく、例えば、N−メチル−ピロリドン(NMP)等の有機溶媒,水を用いることができる。
【0047】
また、正極のより望ましい形態である正極集電体上にファラデー的な反応をする材料からなる合剤層を構成し、そのより表層に非ファラデー的な反応をする材料層を設ける手法がある。この手法としては、非ファラデー反応をする材料を除く正極材料,導電剤,結着剤、および溶媒を混合した正極スラリーを正極集電体上に塗付し、溶媒を乾燥後、必要に応じ加圧成形した後、非ファラデー反応をする材料と結着剤,溶媒,必要に応じ導電剤を混合したスラリーを更に塗付し、乾燥,加圧成形するということが考えられる。
【0048】
負極における主としてファラデー的な反応をする負極材料は、リチウムイオンを電気化学的に吸蔵・放出可能な材料であり、黒鉛や非晶質炭素等の炭素材料の他に、SnO2 等の酸化物負極や、Li,SiやSnなどを含有した合金材料、及びこれらの複合材の2種以上を用いるものであるが、黒鉛と非晶質炭素の2種を用いることが好適である。
【0049】
上述の2種以上の負極材料と、必要に応じ導電剤,結着剤、および溶媒を混合した負極スラリーを、正極の作製と同様に負極集電体上に塗付し、加熱により溶媒を乾燥し、例えばロールプレスによって負極を加圧成形し、負極を作製する。
【0050】
負極集電体は、リチウムと合金化しにくい材質、例えば銅箔を用いることができる。
【0051】
また、正極と同様に負極スラリーに非ファラデー反応をする材料、例えば活性炭,カーボンブラック,カーボンナノチューブなどの炭素材料、を混合し、塗付,乾燥,加圧成形により、負極を作製することができる。さらにまた、正極と同様、2種以上の負極材料と、必要に応じ導電剤,結着剤、および溶媒を混合した負極スラリーを、負極集電体上に負極材料負極活物質,結着剤、および有機溶媒を混合した負極スラリーを、塗付,乾燥,必要に応じ加圧成形後、非ファラデー反応をする材料と結着剤,溶媒,必要に応じ導電剤を混合したスラリーを更に塗付し、乾燥,加圧成形することでえることができる。
【0052】
絶縁層7は、正極11と負極12とを電気的に絶縁し、可動イオンのみを通す絶縁層となるポリエチレン,ポリプロピレン,4フッ化エチレンなどの高分子系の多孔質フィルムなどで構成される。
【0053】
電解液は、エチレンカーボネート(EC),プロピレンカーボネート(PC),ジメチルカーボネート(DMC),ジエチルカーボネート(DEC),メチルエチルカーボネート(MEC)などの有機溶媒に6フッ化燐酸リチウム(LiPF6 ),4フッ化硼酸リチウム(LiBF4 )などのリチウム塩電解質を体積濃度で0.5から2M程度含有したものを用いることができる。
【0054】
なお、図1中、符号5はふた、符号6はケース、符号8はパッキンをそれぞれ示す。
【0055】
以下、本実施形態のエネルギーデバイスのさらに詳細な実施例を示し、具体的に説明する。但し、本実施形態は以下に述べる実施例に限定されるものではない。
【0056】
なお、以下に説明する実施例は、ファラデー的な反応をする正極材料と非ファラデー的な反応をする材料とを有する正極と、負極とを有し、ファラデー的な反応がリチウムイオンの脱離・挿入反応であり、負極に主としてファラデー的な反応をする2種以上の材料を有することを特徴とするエネルギー貯蔵デバイスに関するものである。
【0057】
また、本実施形態に記載されるエネルギーデバイスの用途としては、特に限定されない。例えば、パーソナルコンピュータ,ワープロ,コードレス電話子機,電子ブックプレーヤ,携帯電話,自動車電話,ポケットベル,ハンディターミナル,トランシーバ,携帯無線機等の携帯情報通信機器の電源として、あるいは携帯コピー機,電子手帳,電卓,液晶テレビ,ラジオ,テープレコーダ,ヘッドホンステレオ,ポータブルCDプレーヤ,ビデオムービー,電気シェーバー,電子翻訳機,音声入力機器,メモリーカード、等の各種携帯機器の電源として、その他、冷蔵庫,エアコン,テレビ,ステレオ,温水器,オーブン電子レンジ,食器洗い機,乾燥器,洗濯機,照明器具,玩具等の家庭用電気機器、さらに産業用途として、医療機器,電力貯蔵システム,エレベータ等への適用が可能である。
【0058】
本実施形態の効果は、高入出力を必要とする機器やシステムにおいて、特に高く、例えば電気自動車,ハイブリッド電気自動車,ゴルフカート等の移動体用電源として使用が有効である。
【0059】
(実施例1)
図1に示す構成で、コイン型のエネルギーデバイスを作製した。
【0060】
まず、正極ファラデー層上に非ファラデー反応をする材料層からなる正極を作製した。
【0061】
正極材料は平均粒径10μmのLiMn0.35Ni0.35Co0.22とした。
【0062】
導電助剤は平均粒径3μm、比表面積13m2/gの黒鉛質炭素と平均粒径0.04μm,比表面積40m2/gのカーボンブラックを重量比4:1となるように混合したものを用いた。
【0063】
結着剤としてはポリフッ化ビニリデン8wt%を予めN−メチルピロリドンに溶解した溶液を用いた。
【0064】
これに、正極活物質,導電助剤及び、ポリフッ化ビニリデンが重量比85:10:5となるように混合し、充分に混練したものを正極スラリーとした。この正極スラリーを、厚さ20μmのアルミニウム箔からなる正極集電体の片面に塗布し、乾燥した。これをロールプレスでプレスして集電体上に正極材料層を作製した。
【0065】
また、比表面積が2000m2/gの活性炭と平均粒径0.04μm,比表面積40m2/gのカーボンブラックを重量比8:1となるように混合し、結着剤としてポリフッ化ビニリデン8wt%を予めN−メチルピロリドンに溶解した溶液を用い、活性炭,カーボンブラック及び、ポリフッ化ビニリデンが重量比80:10:10となるように混合し、充分に混練したものをスラリーとした。
【0066】
このスラリーを正極材料層の上に塗布し、乾燥し、ロールプレスでプレスして電極を作製した。この電極を直径が16mmの円盤状に打ち抜いて正極11とした。
【0067】
正極合剤の総重量は、15mg/cm2 となるようにした。このとき正極合剤の総重量に対する正極活物質,導電助剤,ポリフッ化ビニリデン(活性炭/正極活物質:19wt%)及び活性炭の重量比は68:10:6:16であり、活性炭の重量は16wt%であった。
【0068】
ついで負極を作製した。
【0069】
負極材料には、平均粒径10μmの非晶質炭素と、平均粒径16μmの化学気相蒸着法によりカーボン層をコートした球状の天然黒鉛を選択した。この非晶質炭素と黒鉛を混合した負極混合材に、平均粒径0.04μm,比表面積40m2/gのカーボンブラックを重量比で95:5で機械的に混合した。尚、負極混合材における非晶質炭素と黒鉛との混合比率は、95:5,80:20,50:50,20:80,5:95とした。
【0070】
結着剤としてポリフッ化ビニリデン8wt%を、予めN−メチルピロリドンに溶解した溶液を用い、先に混合した非晶質炭素とカーボンブラックからなる炭素材とポリフッ化ビニリデンが重量比90:10となるように充分に混練した。このスラリーを、厚さ10
μmの銅箔からなる負極集電体27の片面に塗布し、乾燥した。これをロールプレスでプレスして電極を作製した。負極合剤の重量は、4.5mg/cm2となるようにした。この電極を直径が16mmの円盤状に打ち抜いて負極15とした。
【0071】
正負極の間には厚さ40μmのポリエチレン多孔質セパレータからなる絶縁層7を挟んでケースに収め、1.5mol/dm3LiPF6のエチレンカーボネートとエチルメチルカーボネート(体積比:1/9)との混合系電解液を注液した。その後ふた5をし、ガスケットを介して封止した。
【0072】
(比較例1)
比較例1のエネルギーデバイスとして、負極材料が実施例1における非晶質炭素のみのエネルギーデバイス、及び黒鉛のみのエネルギーデバイスを実施例1と同様に作製した。
【0073】
(出力特性とエネルギー量の評価方法)
実施例1及び比較例1それぞれのエネルギーデバイス温度25℃において、以下の条件で充放電した。まず、電圧4.1Vまで電流密度0.85mA/cm2の定電流で充電した後、4.1Vで定電圧充電をする定電流定電圧充電を3時間行った。充電が終了した後に、30分の休止時間をおき、放電終止電圧2.7Vまで、0.28mA/cm2の定電流で放電した。このサイクルを5サイクル繰り返し、この5サイクル目の放電容量を各エネルギーデバイスのエネルギー量とした。
【0074】
この後、電圧4.1Vまで電流密度0.85mA/cm2の定電流で充電した後、4.1Vで定電圧充電をする定電流定電圧充電を3時間行った後、0.28mA/cm2で上述の測定したエネルギー量の50%に相当する放電を行い、充電している状態をDOD=50%とする。その後、1時間程度経過した後、1.7mA/cm2,5.5mA/cm2,11mA/cm2の電流で10秒間の短い時間での放電を行い、出力特性を調べた。
【0075】
各放電後10分間休止し、その後、それぞれの放電により放電した容量分を0.17
mA/cm2で充電する。例えば1.7mA/cm2で10秒間放電した後の充電は0.17mA/cm2 で100秒間行う。この充電後には30分の休止を置き、電圧が安定した後に次の測定をするようにした。この10秒間の充放電試験により得られた充放電曲線から放電開始2秒目の電圧を読み取り、横軸を測定時の電流値とし、縦軸を測定開始2秒目の電圧としてプロットし、I−V特性から最小自乗法で求めた直線で外挿し、2.5V と交わる電流値Pを求めた。出力は、(外挿した交点Pの電流値Imax)×(各充放電の開始電圧Vo)として計算した。
【0076】
図2に実施例1及び比較例1のエネルギーデバイスの負極混合材における非晶質炭素の比率に対する出力,エネルギー量の結果を示す。尚出力及びエネルギー密度については、非晶質炭素のみで作製した比較例1のエネルギーデバイスの値を1とした比率で示している。
【0077】
図2に示すように、実施例1の黒鉛と非晶質炭素を混合した負極で構成されるエネルギーデバイスのエネルギー量は、比較例1における黒鉛のみの負極及び非晶質炭素のみの負極で構成されるエネルギーデバイスの出力の加性則から予測されるエネルギー量と同様の値を示した。
【0078】
一方、実施例1の黒鉛と非晶質炭素とを混合した負極で構成されるエネルギーデバイスの出力は、比較例1における黒鉛のみの負極及び非晶質炭素のみの負極で構成されるエネルギーデバイスの出力の加性則から予測される出力より高い値を示した。
【0079】
従って、負極を黒鉛と非晶質炭素を混合した構成とすることで、高エネルギー密度でかつ高い入出力特性が得られる効果があった。
【0080】
(実施例2)
実施例2のエネルギーデバイスとして、負極上に正極と同様に比表面積40m2/g のカーボンブラックの層を設け、それ以外は実施例1と同様にエネルギーデバイスを作製した。尚、実施例2における負極混合材における非晶質炭素と黒鉛との混合比率は、80:20,50:50,20:80とした。
【0081】
(比較例2)
比較例2のエネルギーデバイスとして、負極材料が実施例2における非晶質炭素のみのエネルギーデバイス、及び黒鉛のみのエネルギーデバイスを実施例2と同様に作製した。
【0082】
図3に実施例2及び比較例2のエネルギーデバイスの負極混合材における非晶質炭素の比率に対する出力,エネルギー量の結果を示す。尚出力及びエネルギー密度については、非晶質炭素のみで作製した比較例1のエネルギーデバイスの値を1とした比率で示している。
【0083】
図3に示すように、実施例2の黒鉛と非晶質炭素を混合した負極で構成されるエネルギーデバイスのエネルギー量は、比較例2における黒鉛のみの負極及び非晶質炭素のみの負極で構成されるエネルギーデバイスの出力の加性則から予測されるエネルギー量と同様の値を示した。
【0084】
一方、実施例2の黒鉛と非晶質炭素とを混合した負極で構成されるエネルギーデバイスの出力は、比較例2における黒鉛のみの負極及び非晶質炭素のみの負極で構成されるエネルギーデバイスの出力の加性則から予測される出力より高い値を示した。
【0085】
従って、負極を黒鉛と非晶質炭素を混合した構成とすることで、高エネルギー密度でかつ高い入出力特性が得られる効果があった。
【0086】
また、実施例1及び実施例2の非晶質炭素50%としたエネルギーデバイスの出力を比較すると、実施例2のエネルギーデバイスの出力が優れた。
【0087】
従って、負極に主として非ファラデー的な反応をする材料を設けることでより高い入出力特性が得られる効果があった。
【0088】
(実施例3)
実施例3では、実施例1における正極を、正極のファラデー反応をする材料と、非ファラデー反応をする材料を混合した合剤からなる正極とし、これを用いた実施例1と同様のエネルギーデバイスを作製した。
【0089】
実施例1と同様の正極材料,導電助剤,ポリフッ化ビニリデン(活性炭/正極活物質:19wt%)及び活性炭をその重量比が68:10:6:16となるよう正極合剤層を作成した。それ以外は実施例1と同様にエネルギーデバイスを作製した。尚、実施例3における負極混合材における非晶質炭素と黒鉛との混合比率は、80:20,50:50,
20:80とした。
【0090】
(比較例3)
比較例3のエネルギーデバイスとして、負極材料が実施例3における非晶質炭素のみのエネルギーデバイス、及び黒鉛のみのエネルギーデバイスを実施例3と同様に作製した。
【0091】
図4に実施例3及び比較例3のエネルギーデバイスの負極混合材における非晶質炭素の比率に対する出力,エネルギー量の結果を示す。尚出力及びエネルギー密度については、非晶質炭素のみで作製した比較例1のエネルギーデバイスの値を1とした比率で示している。
【0092】
図4に示すように、実施例3の黒鉛と非晶質炭素を混合した負極で構成されるエネルギーデバイスのエネルギー量は、比較例3における黒鉛のみの負極及び非晶質炭素のみの負極で構成されるエネルギーデバイスの出力の加性則から予測されるエネルギー量と同様の値を示した。
【0093】
一方、実施例3の黒鉛と非晶質炭素を混合した負極で構成されるエネルギーデバイスの出力は、比較例3における黒鉛のみの負極及び非晶質炭素のみの負極で構成されるエネルギーデバイスの出力の加性則から予測される出力より高い値を示した。
【0094】
従って、負極を黒鉛と非晶質炭素とを混合した構成とすることで、高エネルギー密度でかつ高い入出力特性が得られる効果があった。
【0095】
また、実施例1及び実施例3の非晶質炭素50%のエネルギーデバイスの出力を比較すると、実施例1のエネルギーデバイスの出力が優れた。
【0096】
従って、正極集電体上にファラデー的な反応をする材料からなる合剤層を構成し、そのより表層に非ファラデー的な反応をする材料層を設けることでより高い入出力特性が得られる効果があった。
【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明は、エネルギーデバイスに関するものである。
【図面の簡単な説明】
【0098】
【図1】本発明のコイン型エネルギーデバイスの一例を示す模式図。
【図2】実施例1及び比較例1のエネルギーデバイスの負極混合材における非晶質炭素の比率に対する出力,エネルギー量。
【図3】実施例2及び比較例2のエネルギーデバイスの負極混合材における非晶質炭素の比率に対する出力,エネルギー量。
【図4】実施例3及び比較例3のエネルギーデバイスの負極混合材における非晶質炭素の比率に対する出力,エネルギー量。
【符号の説明】
【0099】
1…正極集電体、2…正極合剤層、3…負極集電体、4…負極合剤層、5…ふた、6…ケース、7…絶縁層、8…パッキン、11…正極、12…負極。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ファラデー的な反応をする材料と非ファラデー的な反応をする材料とを有する正極と、ファラデー的な反応をする材料を有する負極とを有し、
前記負極の材料が、少なくとも黒鉛及び非黒鉛質炭素を有することを特徴とするエネルギー貯蔵デバイス。
【請求項2】
請求項1記載の正極であって、ファラデー的な反応をする材料と非ファラデー的な反応をする材料とが、層状に形成されることを特徴とするエネルギー貯蔵デバイス。
【請求項3】
請求項1記載の正極であって、前記ファラデー的な反応がリチウムイオンの脱離・挿入反応であることを特徴とするエネルギー貯蔵デバイス。
【請求項4】
請求項1記載の負極であって、前記ファラデー的な反応がリチウムイオンの脱離・挿入反応であることを特徴とするエネルギー貯蔵デバイス。
【請求項5】
請求項1記載の負極であって、前記ファラデー的な反応をする材料と共に非ファラデー的な反応をする材料を有することを特徴とするエネルギー貯蔵デバイス。
【請求項6】
ファラデー的な反応機構を有する領域と非ファラデー的な反応機構を有する領域とを形成した正極と、ファラデー的な反応をする材料を有する負極とを有し、前記負極のファラデー的な反応をする材料が少なくとも2種以上含有されることを特徴とするエネルギー貯蔵デバイス。
【請求項7】
請求項6記載の正極であって、ファラデー的な反応機構を有する領域と非ファラデー的な反応機構を有する領域とが、層状に形成されることを特徴とするエネルギー貯蔵デバイス。
【請求項8】
請求項7記載の正極であって、前記ファラデー的な反応がリチウムイオンの脱離・挿入反応であることを特徴とするエネルギー貯蔵デバイス。
【請求項9】
請求項7記載の負極であって、前記ファラデー的な反応がリチウムイオンの脱離・挿入反応であることを特徴とするエネルギー貯蔵デバイス。
【請求項10】
請求項7記載の負極であって、前記ファラデー的な反応をする材料と共に非ファラデー的な反応をする材料を有することを特徴とするエネルギー貯蔵デバイス。
【請求項11】
請求項6記載の負極であって、前記ファラデー的な反応をする材料が黒鉛及び非黒鉛質炭素であることを特徴とするエネルギー貯蔵デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−172778(P2006−172778A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−360672(P2004−360672)
【出願日】平成16年12月14日(2004.12.14)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.ポケットベル
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】