説明

エポキシ樹脂用硬化剤

本発明は、(A)(a1)分子内に6以下の窒素原子を有するポリエチレンポリアミンと(a2)モノグリシジルエーテルとを反応させることによって得られる付加物1〜99重量%(ここで、(a1)と(a2)との付加物は好ましくは過剰のポリエチレンポリアミンを除去することによって単離される)及び、
(B)(b1)ジアミン又はポリアミンと(b2)スチレンとを反応させることによって得られる付加物99〜1重量%
からなるエポキシ樹脂用硬化剤、並びに、更にエポキシド化合物を含む硬化性組成物、更に、成形物及びシート状構造物を製造するため、及び接着剤及びシーラント分野において適用するため、更にエポキシ樹脂モルタルのためのこれらの硬化性組成物の使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、(A)(a1)分子内に6以下の窒素原子を有するポリエチレンポリアミンと(a2)モノグリシジルエーテルとを反応させることによって得られる付加物、及び
(B)(b1)ジアミン又はポリアミンと(b2)スチレンとの付加物
からなるエポキシ樹脂用硬化剤、並びに更にエポキシド化合物を含む硬化性組成物に関する。
【0002】
成形物及びシート状構造物を製造するため、また同様に接着剤及びシーラント分野で適用するため、更にエポキシ樹脂モルタルのためのこれらの硬化性組成物の使用も、同様に本発明によって提供される。
【背景技術】
【0003】
アミン性硬化剤及びエポキシ樹脂をベースとする硬化性組成物は、金属及び無機基材を被覆及び表面処理するため、接着剤及びシーラントとして、マトリクス樹脂として、工具材樹脂として、あるいは、極めて一般的に、成形品又はシート状の構造物を製造するための注型樹脂として、産業界で広く使用されている。
【0004】
用いられるアミン性硬化剤は、特に、脂肪族、脂環式或いは芳香族アミンである。これらのアミンをベースとする硬化性組成物又は硬化組成物の機械的及び物理的特性は、多くの用途に関して十分なものである。しかしながら、実際においては、これらの生成物は、多くの場合において、例えば表面特性が劣っていたり或いは水和物が激しく形成されるといった欠点を有している。しかし、これらの表面の欠陥は、たとえばトップコート材料の場合のように視覚的な障害を単に引き起こすだけではない。表面の欠陥、特に水和物の形成は、硬化剤を例えばプライマーとして用いる場合のようにオーバーコートしなければならない場合に被膜間接着が十分でなく続いて適用するトップコート材料が再剥離を起こすという状況をもたらす可能性がある。この理由のために、低い遊離アミン含量を有するアミン化合物を用いることが好ましい。これらの場合、このようなアミンとエポキシ樹脂との予備付加物がしばしば用いられる。その有利性は、表面特性が改良されることに加えて、蒸気圧がより低く、またそれゆえ不快な臭気及び毒性が低下することである。しかしながら、このような化合物の遊離アミン含量も未だに極めて高いので、「遊離付加物」として知られるものを用いるのが通常である。この場合、遊離アミンの過剰分は蒸留によって分離除去される。しかしながら、これらの化合物の欠点は、非常に高いその粘度である。室温及びより低い温度において処理することを可能にするために、比較的多量の希釈剤を加える必要がある。しかしながら、これにより硬化した熱硬化性樹脂の機械特性が著しく損なわれる。希釈剤を加えることは、更に、揮発の結果として強い不快な臭気を導き出す。いくつかの場合にはこれらの溶媒は健康に有害であるか又は毒性である。ガス放出性溶媒による環境汚染は甚大である。現在存在する溶媒は、特に厚い層を施している間に同様に技術的に問題を引き起こす。例えば、プライマーの場合、被覆中に溶媒が残留することは悪影響を与え望ましくない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、本発明の目的は、遊離アミン含量が比較的低いが、同時に室温での粘度が低く、非反応性希釈剤又は溶媒を加えることなく処理することができ、硬化した熱硬化性樹脂の表面特性及び機械的特性が高レベルである、エポキシ樹脂ベースの硬化性組成物用の硬化剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的は、本発明に従って、
(A)(a1)分子内に6以下の窒素原子を有するポリエチレンポリアミンと(a2)モノグリシジルエーテルとを反応させることによって得られる付加物1〜99重量%、好ましくは10〜90重量%、より好ましくは30〜70重量%(ここで、(a1)と(a2)との付加物は好ましくは過剰のポリエチレンポリアミンを除去することによって単離される)及び、
(B)(b1)ジアミン又はポリアミンと(b2)スチレンとを反応させることによって得られる付加物99〜1重量%、好ましくは90〜10重量%、より好ましくは70〜30重量%、
からなる本発明のエポキシ樹脂用硬化剤によって達成される。
【0007】
本発明の硬化剤は、比較的低い粘度を有し室温で処理することが可能であるので、悪影響を与える溶媒及び/又は可塑剤を加える必要がない。これらの付加物の遊離アミン含量は低い。
【0008】
市販の硬化剤と比較すると、ほぼ同程度の処理寿命(ポットライフ)を有するのに組み合わさって、驚くべきことに特に低い温度(10℃)での極めて速い硬化速度が観察される。これは予測できなかったことである。それどころか、ほぼ同程度の処理寿命からは、同等の硬化速度が予測されるであろう。これは、処理寿命は通常硬化速度に依存するからである。
【0009】
ポリアミン付加物(A)を調製するのに用いられる付加物成分(a2)としては、単官能性で、好ましくは芳香族のグリシジルエーテル、例えばフェニルグリシジルエーテル、クレシルグリシジルエーテル、蒸留カシューナッツオイルをベースとするグリシジルエーテル、モノアルコールをベースとするグリシジルエーテル、スチレンオキシド等が挙げられる。フェニルグリシジルエーテル及びクレシルグリシジルエーテルを用いることが好ましい。
【0010】
アミン化合物(a1)としては、分子内に6以下、好ましくは5以下、より好ましくは2〜4の窒素原子を有するポリエチレンポリアミンを用いる。アミノエチルピペラジン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン又はトリエチレンテトラミンのようなポリエチレンポリアミンが好ましい。特に好ましくは、化合物(a1)はエチレンジアミン及び/又はジエチレントリアミンから選択される。
【0011】
単離ポリアミン付加物(A)を調製するために、エポキシド化合物を、60〜80℃で撹拌しながら過剰量のアミン成分に加え、反応が起こった後、適当な場合には減圧下で、蒸留によって過剰量のアミン化合物を分離除去する。
【0012】
本発明によれば、付加レベルは、アミン化合物1モルあたりスチレン0.1〜2.5モル、好ましくは0.5〜2モルとなるように選択される。
【0013】
用いることのできるアミン(b1)としては、原則として、少なくとも2の反応性アミン水素原子を有する全てのアミンが挙げられ、例としては、複素環アミン、例えばピペラジン、N−アミノエチルピペラジン;脂環式アミン、例えばイソホロンジアミン、1,2−(1,3;1,4)−ジアミノシクロヘキサン、アミノプロピルシクロヘキシルアミン、トリシクロドデカンジアミン(TCD);芳香脂肪族アミン、例えばキシリレンジアミン;場合によっては置換されている脂肪族アミン、例えばエチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、2,2,4(2,4,4)−トリメチルヘキサメチレンジアミン、2−メチルペンタメチレンジアミン;エーテルアミン、例えば1,7−ジアミノ−4−オキサヘプタン、1,10−ジアミノ−4,7−ジオキサデカン、1,14−ジアミノ−4,7,10−トリオキサテトラデカン、1,20−ジアミノ−4,17−ジオキサエイコサン、及び特に、1,12−ジアミノ−4,9−ジオキサドデカンがある。プロポキシル化ジオール、トリオール及びポリオールをベースとするエーテルジアミン(Huntsman製Jeffamine、登録商標)を用いることもできる。更に、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ジプロピレントリアミン、トリプロピレンテトラミンのようなポリアルキレンポリアミン、並びに遊離アミン水素を有する高分子量アミン又は付加物若しくは縮合物も用いることができる。
【0014】
キシリレンジアミン及び/又はトリメチルヘキサメチレンジアミンを用いることが好ましい。
【0015】
付加物(B)はキシリレンジアミン−スチレン付加物であることが特に好ましい。
【0016】
この種の付加物(B)は、Gaskamineの商標名で三菱ガス化学から入手することができる。Gaskamine240が好ましく用いられる。これはキシリレンジアミンとスチレンとの付加物である。アミン当量は102であり、25℃における粘度は約65mPa・sである。
【0017】
本発明は更に、硬化性エポキシド化合物、本発明の硬化剤、及び場合によってエポキシ樹脂技術において通常用いられる1以上の助剤及び添加剤を含む硬化性組成物を提供する。
【0018】
本発明にしたがって硬化性組成物に用いられるエポキシド化合物は、分子あたり平均で1を超えるエポキシド基を有し、単価及び/又は多価及び/又は多核フェノール、特にビスフェノール及びノボラックから誘導される通常市販されている製品、例えばビスフェノールAジグリシジルエーテル及びビスフェノールFジグリシジルエーテルである。これらのエポキシド化合物の多数の例示が、ハンドブック"Epoxidverbindungen und Epoxidharze", A.M. Paquin, Springer Verlag Berlin, 1958, Chapter IV及び同様にLee & Neville, "Handbook of Epoxy Resins", 1967, Chapter 2に記載されている。
【0019】
2以上のエポキシド化合物の組成物を用いることもできる。
【0020】
本発明においては、ビスフェノールA、ビスフェノールF又はノボラックをベースとするグリシジルエーテルと、例えばフェノールのモノグリシジルエーテル或いは単価又は多価脂肪族又は脂環式アルコールをベースとするグリシジルエーテルのような反応性希釈剤と呼ばれるものとの組成物が好ましい。かかる反応性希釈剤の例としては、フェニルグリシジルエーテル、クレシルグリシジルエーテル、p−t−ブチルフェニルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、C12〜C14アルコールグリシジルエーテル,ブタンジグリシジルエーテル、ヘキサンジグリシジルエーテル、シクロヘキサンジメチルジグリシジルエーテル、又はポリエチレングリコール若しくはポリプロピレングリコールをベースとするグリシジルエーテルが挙げられる。必要な場合には、これらの反応性希釈剤を加えることによってエポキシ樹脂の粘度を更に低下させることができる。
【0021】
エポキシド樹脂に対する本発明の硬化剤の混合比は好ましくは等量に選択される。即ち、アミン当量あたり1エポキシド当量を用いる。しかしながら、硬化させた熱硬化性樹脂の所期の用途及び所望の最終特性にしたがって、化学量論的に過剰量又は過小量の硬化剤成分を用いることができる。
【0022】
本発明は、一態様においては、成形物及びシート状構造物を製造するため、また同様に接着剤及びシーラント分野で適用するため、更にエポキシ樹脂モルタルのための本発明の硬化性組成物の使用も提供する。
【0023】
本発明は更に、かかる組成物を硬化させることによって得られる硬化物品を提供する。同様に用いるエポキシ樹脂は、本発明の硬化剤により加熱下及び冷温下(室温)で硬化可能である。
【0024】
エポキシ樹脂は、エポキシ樹脂技術において通常の助剤及び添加剤のような更なる補助剤の存在下で硬化させることができる。言及することのできる例としては、この分野において通常の粒径分布の砂利、砂、シリケート、グラファイト、二酸化シリコン、タルク、マイカ等が挙げられる。更に、顔料、染料、安定剤、流動調整剤、可塑化剤、非反応性増量樹脂、可塑剤及び促進剤を用いることができる。
【0025】
硬化性組成物は、更に、エポキシ樹脂技術において通常の硬化剤、特にアミン性硬化剤を、共硬化剤として含んでよい。
【0026】
本発明の組成物は、硬化物品を製造するための注型樹脂として極めて一般的に用いることができ、また特定の最終用途に適合する配合物として、例えば接着剤として、マトリクス樹脂として、工具材樹脂として、或いは被覆材料として用いることができる。
【実施例】
【0027】
報告する粘度値(それぞれ25℃)は、Haake VT550回転粘度計を用いて製造者の仕様書に従って測定した。
【0028】
実施例1:単離付加物(A)の調製
ジエチレントリアミン309g(3モル)を反応容器に充填した。この最初の充填物を約60℃に加熱した後、クレシルグリシジルエーテル185g(1エポキシド当量)を約60分かけて加えた。温度が90℃に上昇した。次に、反応生成物を260℃に加熱し、減圧下(<1mbar)で過剰のアミンを分離除去した。留出物206g(DETA2モル);粘度8500mPa・s;理論アミン当量約72。
【0029】
実施例2:(A)及び(B)を含む硬化剤配合物
実施例1の付加物500gとキシリレンジアミン−スチレン付加物(Gaskamine240)500gとを60℃〜70℃でホモジナイズした。粘度600mPa・s;理論アミン当量約85。
【0030】
実施例3:(A)及び(B)を含む硬化剤配合物
実施例1の付加物350gとキシリレンジアミン−スチレン付加物(Gaskamine240)650gとを60℃〜70℃でホモジナイズした。粘度350mPa・s;理論アミン当量約89。
【0031】
使用例:硬化速度及び処理寿命(ポットライフ)
【0032】
【表1】

(1)Araldite GY783は、C12/C14グリシジルエーテルで変性され、約1000mPa・s(23℃)の粘度及び約190のエポキシド当量を有するビスフェノールA/ビスフェノールF樹脂混合物である
(2)MR=混合比:Araldite GY783 100gあたりの硬化剤(g)
(3)可塑化ポリアミン付加物。被覆及び床被覆用の標準的な硬化剤(Huntman製)
(4)可塑剤を含まず溶剤を含まないポリアミノアミド硬化剤(Huntman製)
(5)n.m.=測定不能

結果の議論
本発明の硬化性組成物の硬化速度は10℃で極めて高く、その一方で処理寿命は比較的長い。実際、本発明の実施例とAradur 46で示される比較例とを直接比較すると、より長いポットライフと共により速い硬化速度が明らかである。実施例3とAradur 3278とを比較すると、初期硬化が極めて速くポットライフが同等であることが示される。この種の硬化挙動は実施上望ましい。それは、一方では処理業者は硬化性混合物を適用する十分な時間を有しているが、他方では例えば被覆部門では被覆は迅速に行なわれる可能性があるからである。この結果は予測できないものであった。それどころか、比較的長い処理寿命はより遅い硬化速度に付随すると考えられていた。
【0033】
比較的長いポットライフと組み合わさった傑出した硬化速度に加えて、表面特性に関して極めて良好なレベルを観察することができた。
【0034】
これに関連して、テクスチャリング/水和物形成に対する抵抗性について特に言及することができる。これらの特性は、必要な湿分適合性に加えて、同様に被膜間接着の大きな役割を果たすからである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)(a1)分子内に6以下の窒素原子を有するポリエチレンポリアミンと(a2)モノグリシジルエーテルとを反応させることによって得られる付加物1〜99重量%、及び
(B)(b1)ジアミン又はポリアミンと(b2)スチレンとを反応させることによって得られる付加物99〜1重量%
からなるエポキシ樹脂用硬化剤。
【請求項2】
(a1)と(a2)との付加物が、過剰のポリエチレンポリアミンを除去することによって単離される請求項1に記載の硬化剤。
【請求項3】
化合物(a1)がエチレンジアミン及び/又はジエチレントリアミンから選択される請求項1に記載の硬化剤。
【請求項4】
化合物(a2)が芳香族モノグリシジルエーテルである請求項1に記載の硬化剤。
【請求項5】
化合物(a2)がフェニルグリシジルエーテル又はクレシルグリシジルエーテルである請求項4に記載の硬化剤。
【請求項6】
付加物(B)の形成のために、成分(b1)1モルあたり成分(b2)を0.1〜2.5当量存在させる請求項1に記載の硬化剤。
【請求項7】
アミン化合物(b1)がキシリレンジアミンである請求項1に記載の硬化剤。
【請求項8】
硬化性エポキシド化合物、請求項1に記載の硬化剤、及び場合によりアミン化合物及び/又はエポキシ樹脂技術において通常の助剤並びに添加剤を含むことを特徴とする硬化性組成物。
【請求項9】
エポキシ樹脂がビスフェノールグリシジルエーテル又はエポキシノボラックであり、反応性希釈剤によって希釈されている請求項8に記載の硬化性組成物。
【請求項10】
接着剤、マトリクス樹脂、工具材樹脂又は被覆材料としての請求項8に記載の硬化性組成物の使用。
【請求項11】
請求項8に記載の組成物を硬化させることによって得られる硬化物品。

【公表番号】特表2008−503627(P2008−503627A)
【公表日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−517284(P2007−517284)
【出願日】平成17年6月20日(2005.6.20)
【国際出願番号】PCT/EP2005/052855
【国際公開番号】WO2005/123800
【国際公開日】平成17年12月29日(2005.12.29)
【出願人】(504177804)ハンツマン・アドヴァンスト・マテリアルズ・(スイッツランド)・ゲーエムベーハー (43)
【Fターム(参考)】