説明

エポキシ樹脂組成物、それを用いて形成した建築用材および身飾品

【課題】吸水性が低く、耐熱性の高い青色を主とする有色効果を発揮するコロイド含有組成物を、効率良くコスト的に有利に製造できるようにする。
【解決手段】本発明は、エポキシ樹脂2中に酸化ケイ素からなるコロイド粒子3の多結晶体を含有させたエポキシ樹脂組成物1に関する。このエポキシ樹脂組成物1は、多結晶体におけるコロイド粒子3間の平均距離Lが85nm以上240nm以下である。好ましくは、平均距離は104nm以上196nm以下である。コロイド粒子3の平均粒径Rは、たとえば70nm以上238nm以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポキシ樹脂中に酸化ケイ素からなるコロイド粒子の多結晶体を含有させたエポキシ樹脂組成物に関するものである。本発明はさらに、前記エポキシ樹脂組成物を用いて形成した建築用材や身飾品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、隣接するコロイド粒子どうしを実質的に接触させずに、コロイド粒子を規則的に配列した固定化コロイド結晶がある。固定化コロイド結晶は、たとえば重合性物質を含有させた溶媒にコロイド粒子を分散させ、重合性物質を重合させることによって形成することができる(たとえば特許文献1参照)。
【0003】
この固定化コロイド結晶は、たとえば平均粒径145nmの酸化ケイ素を、31重量%となるようにジメタクリル酸エチレンとメタクリル酸メチルに混合することで、酸化ケイ素からなるコロイド粒子の多結晶体を、ポリマー鎖反発により固定することにより形成することができる。このように形成された固定化コロイド結晶は、反射スペクトルのピーク波長が530nm程度である。
【0004】
一方、酸化ケイ素からなるコロイド粒子を水中において最密充填法で充填する技術がある(たとえば特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】再公表WO2003/100139号公報
【特許文献2】特開2006−247915
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の固定化コロイド結晶は、反射スペクトルのピーク波長が530nm程度であり、青色を主とする遊色効果を示すものは作成できなかった。また、アクリル系の樹脂を用いているために、吸水率が高く、耐熱性が低いため信頼性が十分ではなかった。
【0007】
一方、特許文献2に記載の酸化ケイ素粒子を最密充填させる技術では、コロイド粒子が最密充填するように堆積させる必要があるために長い期間(たとえば1年以上)がかかってしまう。そのため、量産性およびコスト面において問題があった。
【0008】
本発明は、吸水性が低く、耐熱性の高い青色を主とする遊色効果を発揮するコロイド含有組成物を、効率良くコスト的に有利に製造できるようにすることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の側面においては、エポキシ樹脂中に酸化ケイ素からなるコロイド粒子の多結晶体を含有させたエポキシ樹脂組成物であって、前記多結晶体における前記コロイド粒子間の平均距離は85nm以上240nm以下であることを特徴とする、エポキシ樹脂組成物が提供される。
【0010】
本発明の第2の側面においては、本発明の第1の側面に係るエポキシ樹脂組成物を用いて形成したことを特徴とする、建築用材が提供される。
【0011】
本発明の第3の側面においては、本発明の第1の側面に係るエポキシ樹脂組成物を用いて形成したことを特徴とする、身飾品が提供される。
【0012】
好ましくは、前記多結晶体における前記コロイド粒子間の平均距離は104nm以上196nm以下である。
【0013】
前記コロイド粒子の平均粒径は、たとえば70nm以上238nm以下である。
【0014】
前記多結晶体において隣接するコロイド粒子どうしは、静電気力により互いに反発しているのが好ましい。隣接するコロイド粒子どうしはまた、該コロイド粒子に修飾されたポリマー鎖が反発したものであってもよい。
【0015】
前記酸化ケイ素の含有量は、たとえば20重量%以上40重量%以下である。前記エポキシ樹脂の含有量は、たとえば60重量%以上80重量%以下である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、多結晶体におけるコロイド粒子間の平均距離が所定の範囲に制御されているため、青色を主とする遊色効果を示すことができる。
【0017】
本発明は、酸化ケイ素からなるコロイド粒子の多結晶体をエポキシ樹脂に含有させたものである。そのため、本発明に係るエポキシ樹脂組成物では、エポキシ樹脂によって吸水率を低くしつつ耐熱性を向上させることができる。前記エポキシ樹脂組成物はさらに、コロイド粒子が多結晶体となっているために最密充填のように製造に長期間を要することもなく1日〜10日程度の短期間で形成することができる。そのため、本発明に係るエポキシ樹脂組成物は、コスト的に有利に製造でき、量産性に優れたものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係るエポキシ樹脂組成物の一例に相当するものであり、多結晶体においてコロイド粒子が静電気反発している例を示す模式図である。
【図2】本発明に係るエポキシ樹脂組成物の一例に相当するものであり、単結晶体においてコロイド粒子がポリマー鎖反発している例を示す模式図である。
【図3】SEMによる分析画像の一例を示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、本発明に係るエポキシ樹脂組成物について、図面を参照しつつ説明する。
【0020】
図1に示したエポキシ樹脂組成物1は、隣接するコロイド粒子3の反発が静電気反発の場合の例である。このエポキシ樹脂組成物1は、エポキシ樹脂2中にコロイド粒子3を分散させたものであり、多数の単結晶体4からなる多結晶体を含むものとなっている。図中において符号5として示した点線は、多結晶体において、単結晶体4の配向が異なる境界線、すなわち単結晶体4どうしの境界線を示している。図中において符号6として示した仮想線は、コロイド粒子3の静電気力が及ぶ範囲を示している。
【0021】
このような静電気反発の多結晶体は、たとえば未硬化状態のエポキシ樹脂中に酸化ケイ素粉末を含有させた状態において超音波分散装置によって1〜15時間処理してエポキシ樹脂中に酸化ケイ素粉末分散させた後、乾燥機によって120〜150℃の温度で1〜20時間加熱してエポキシ樹脂を硬化させることにより形成することができる。
【0022】
図2に示したエポキシ樹脂組成物1は、隣接するコロイド粒子3の反発がポリマー鎖反発の場合の例である。図中において符号7は、コロイド粒子3に修飾されたポリマー鎖である。コロイド粒子3へのポリマー鎖の修飾は、たとえば重合性物質(エポキシ樹脂以外)を含む溶媒に酸化ケイ素粉末を分散させることにより行なうことができる。
【0023】
重合性物質としては、たとえばメタクリル酸メチル、酢酸ビニル、スチレン、アクリル酸メチル、ジメタクリル酸エチレン等のビニル系モノマー又はマクロモノマー、チレンオキシド、トリメチレンオキシド、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン等の環状エーテル、β−プロピオンラクトン等の環状エステル、ε−カプロラクタム等の環状アミド、メチルシラン、フェニルシラン等のポリシランを与えるモノマーを使用することができる。例示した重合性物質は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0024】
溶媒としては、たとえば水、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、ニトロベンゼン、メタノール、エタノール、アセトン、イソプロピルアルコール、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、クロロホルム、ジオキサン、アクリロニトリルを用いることができる。例示した溶媒は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0025】
酸化ケイ素粉末として、平均粒子径が70nm以上238nm以下のものを使用するのが好ましい。このような範囲に平均粒子径を有する酸化ケイ素粉末を用いることにより、図3において符号Rで示したコロイド粒子3の粒子径、および符号Lで示したコロイド粒子3間の距離を適正化し、エポキシ樹脂組成物1を用いて形成した部材を、青色を主とする遊色効果を呈する部材として視認性を向上させることができる。
【0026】
酸化ケイ素の粉末は、たとえば次のようにして作成することができる。まず、所定の容器に所定量のコロイダルシリカおよびメタノールをそれぞれ100〜300g量り取り、遠心分離機において9100rpm程度の回転数で1時間かけて固形成分と液体成分を分離させる。遠心分離後、容器内に出来た上澄み液を廃棄し、廃棄した上澄み液とほぼ同量のメタノールを量り取って所定の容器に入れ、再度、遠心分離機にて固形成分と液体成分を分離させる。このような処理を2〜4回繰り返す。固形成分と液体成分の分離が終了した場合、固形成分を乾燥機において35〜60℃にて真空乾燥させることにより酸化ケイ素粉末を得ることができる。
【0027】
隣接するコロイド粒子3どうしをポリマー鎖反発させたエポキシ樹脂組成物1においては、酸化ケイ素粉末として、有機分子で被覆したものを使用してもよい。この場合、有機分子を含めた全体の平均粒子径Rは、上記した範囲にあればよい。
【0028】
有機分子としては、たとえばポリ(メタクリル酸メチル)、ポリスチレン、ポリ(無水マレイン酸)、ポリ(メタクリル酸メチル)やそれらの共重合体を用いることができる。例示した有機分子は、粒子表面との親和性を上げるために適当な官能基を有していてもよい。このような官能基としては、トリメトキシシラン基、トリエトキシシラン基が有効である。酸化ケイ素粉末の表面を覆う有機分子の量は、たとえば粒子重量に対して2重量%以上20重量%以下とされる。
【0029】
エポキシ樹脂組成物1における酸化ケイ素の含有量は、たとえば20重量%以上40重量%以下とされる。酸化ケイ素の含有量が20重量%以上であれば、コロイド粒子3の静電気反発などの反発力を粒子間に及ぼして規則配列をとることができる。そのため、エポキシ樹脂組成物1を用いて形成した部材を、青色を主とする遊色効果を呈する部材として視認性を向上させることができる。一方、酸化ケイ素の含有量が40重量%以上であれば、各多結晶体を小さくすることなく、エポキシ樹脂組成物1を用いて形成した部材を、青色を主とする遊色効果を呈する部材として視認性を向上させることができる。なお、酸化ケイ素の含有量が40〜50重量%であっても、構造色が急激に低下するものの、個人の趣向によっては使用可能である。
【0030】
多結晶体において単結晶体4は、コロイド粒子3が体心立方構造または面心立方構造となって規則的に配列されている。すなわち、多結晶体は、体心立方構造の単結晶体4のみからなる、面心立方構造の単結晶体4のみからなる、あるいは体心立方構造の単結晶体4と面心立方構造の単結晶体4が混在したものとなっている。ただし、多結晶体は、体心立方構造の単結晶体4と面心立方構造の単結晶体4の両方を有することが好ましい。これにより、後述するように広い可視光波長範囲の回折波長が得られるため、エポキシ樹脂組成物1を用いて形成した部材を、遊色効果を呈する部材として視認性を向上させることができる。
【0031】
コロイド粒子3間には、上述のように静電気反発またはポリマー鎖反発により反発力が作用しており、図3において符号Lで示したコロイド粒子3間の平均距離は85nm以上240nm以下の距離で保たれている。好ましくは、多結晶体におけるコロイド粒子3間の平均距離Lは、104nm以上196nm以下である。
【0032】
ここで、単結晶体4が体心立方構造である場合、サンプルの屈折率を1.5として考えてみる。コロイド粒子3間の平均距離Lが85nmのとき、回折波長は294nm(=2×1.5×85×2×31/2/3)である。コロイド粒子3間の平均距離Lが240nmのとき、回折波長は831nm(=2×1.5×240×2×31/2/3)となる。すなわち、単結晶体4が体心立方構造である場合において、コロイド粒子3間の平均距離Lが85nm以上240nm以下のとき、回折波長は294nm〜831nmである。ただし、単結晶体4が体心立方構造のみで形成される場合に、可視光波長範囲の回折波長を得るためには、回折波長が360nm以上となるように、コロイド粒子3間の平均距離Lは104nm(360nm=2×1.5×104×2×31/2/3)以上であることが必要となる。
【0033】
一方、単結晶体4が面心立方構造である場合、サンプルの屈折率を1.5として考えてみる。コロイド粒子3間の平均距離Lが85nmのとき、回折波長は361nm(=2×1.5×85×21/2)である。コロイド粒子3間の平均距離Lが240nmのとき、回折波長は1018nm(=2×1.5×240×21/2)となる。すなわち、単結晶体4が面心立方構造である場合において、コロイド粒子3間の平均距離Lが85nm以上240nm以下のとき、回折波長は361nm〜1018nmである。ただし、単結晶体4が面心立方構造のみで形成される場合に、可視光波長範囲の回折波長を得るためには、回折波長が832nm以下となるように、コロイド粒子3間の平均距離Lは196nm(832nm=2×1.5×196×21/2)以下であることが必要となる。
【0034】
しかしながら、多結晶体は、単結晶体4が体心立方構造面または心立方構造のどちらかの結晶構造のみで形成されることは考えにくい。そのため、多結晶体においては、平均距離Lが85nm以上であれば、少なくとも面心立方構造から可視光波長範囲の回折波長が得られ、コロイド粒子3間の平均距離Lが240nm以下であれば、少なくとも体心立方構造から可視光波長範囲の回折波長が得られる。そのため、コロイド粒子3間の平均距離Lは、85nm以上240nm以下の距離であればよい。また、コロイド粒子3間の平均距離Lが104nm以上196nm以下であれば、多結晶体において、体心立方構造と面心立方構造の比率に関係なく安定して可視光範囲の回折波長を得ることができる。
【0035】
コロイド粒子3間の平均距離Lは、SEM(走査電子顕微鏡JSM−6700F)を用いて、加速電圧15kVで二次電子組成像を観察したSEM画像(図3参照)によって測定することができる。より具体的には、コロイド粒子3間の平均距離Lは、SEM画像において、隣接する一方の粒子の中心から他方の粒子の中心までの距離を任意に10箇所選択してそれらの距離を測定し、その平均値を算出するとともに、この平均値をSEMでの倍率に応じて換算することにより演算することができる。
【0036】
ここで、コロイド粒子3の平均距離Lは、エポキシ樹脂組成物1における酸化ケイ素の含有量を調整することで制御可能であり、後述するように、酸化ケイ素の含有量は、たとえば20重量%以上40重量%以下とされる。
【0037】
図3において符号Rで示したコロイド粒子3の平均粒径は、たとえば70nm以上238nm以下である。コロイド粒子3の平均粒径Rが70nm以上であれば、可視光波長よりも回折波長が短くなることがない。一方、コロイド粒子3の平均粒径Rが238nm以下であれば、可視光波長よりも回折波長が長くなることがない。そのため、コロイド粒子3の平均粒径Rが70nm以上238nm以下であれば、エポキシ樹脂組成物1により形成した部材を、青色を主とする遊色効果を呈する部材として視認性を向上させることができる。
【0038】
コロイド粒子3の平均粒径Rは、SEM(走査電子顕微鏡JSM−6700F)を用いて加速電圧15kVで二次電子組成像を観察した画像(図3参照)において、コロイド間の平均距離Lと同様にして演算することができる。
【0039】
ここで、平均粒径Rは、例えばコロイダルシリカ作製時の温度を調整することで制御可能である。コロイド粒子3の平均粒径Rを70nm以上238nm以下とする場合、コロイダルシリカも作成時の温度は、たとえば10℃以上70℃以下とされる。
【0040】
エポキシ樹脂組成物1におけるエポキシ樹脂2としては、脂環型、二官能タイプのグリシジルエーテル型、多官能タイプのグリシジルエーテル型、グリシジルエステル型、およびグリシジルアミン型のいずれをも使用することができる。
【0041】
脂環型エポキシ樹脂としては、たとえばアリサイクリックジエポキシアセタール、アリサイクリックジエポキシアジペート、アリサイクリックジエポキシカルボキシレート、およびビニルシクロヘキセンジオキシドなどが挙げられる。
【0042】
二官能タイプのグリシジルエーテル型エポキシ樹脂としては、たとえばビスフェノールA型、臭素化ビスフェノールA型、水添ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、ビスフェノールS型、ビスフェノールAF型、ビフェニル型、ナフタレン型、フルオレン型などが挙げられる。
【0043】
多官能タイプのグリシジルエーテル型エポキシ樹脂としては、たとえばフェノールノボラック型、オルソクレソーンノボラック型、DPPノボラック型、トリス・ヒドロキシフェニルメタン型、およびテトラフェニロールエタン型などが挙げられる。
【0044】
グリシジルエステル型エポキシ樹脂としては、たとえばフタル酸誘導体や合成脂肪酸などのカルボン酸とエピクロロヒドリン(ECH)の縮合により製造されたものが挙げられる。
【0045】
グリシジルアミン型エポキシ樹脂としては、たとえばテトラグリシジルジアミノジフェニルメタン(TGDDM)、トリグリシジルジイソシアネート(TGIC)、ヒダントイン型、1,3−ビス(N,N−ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサン(TETRAD−D)、アミノフェノール型、アニリン型、およびトルイジン型が挙げられる。
【0046】
例示したエポキシ樹脂2は、単独で使用しても、複数種を併用してもよく、硬化剤の種類については用いる主材に応じて適宜選択すればよい。好ましくは、エポキシ樹脂2として、主剤がジクリシジルエステル化物であり、硬化剤が無水フタル酸であるものが使用される。
【0047】
エポキシ樹脂組成物1におけるエポキシ樹脂2の含有量は、たとえば60重量%以上80重量%以下とされる。エポキシ樹脂2の含有量が60重量%以上であれば、各多結晶体を小さくすることなく、エポキシ樹脂組成物1を用いて形成した部材を、青色を主とする遊色効果を呈する部材として視認性を向上させることができる。一方、エポキシ樹脂2が80重量%以下であれば、コロイド粒子3の静電気反発などの反発力を粒子間に及ぼしてコロイド粒子3を規則配列させることができるので、エポキシ樹脂組成物1を用いて形成した部材を、青色を主とする遊色効果を呈する部材として視認性を向上させることができる。
【0048】
このように、エポキシ樹脂組成物1は、酸化ケイ素からなるコロイド粒子3の多結晶体をエポキシ樹脂2に含有させたものである。そのため、エポキシ樹脂組成物1では、エポキシ樹脂2によって吸水率を低くしつつ耐熱性を向上することができる。
【0049】
エポキシ樹脂組成物1は、コロイド粒子3が多結晶体中に分散させたものである。そのため、エポキシ樹脂組成物1は、コロイド粒子が最密充填される場合のように製造に長期間を要することもなく1日〜10日程度の短期間で形成することができるため、コスト的に有利となり、量産性に優れたものとなる。
【0050】
以上に説明したエポキシ樹脂組成物1は、吸水率を低くしつつ耐熱性を向上させたものであり、量産性に優れたものであるから、建築用材や身飾品などに使用される複合部材に適した材料となる。
【0051】
本発明に係るエポキシ樹脂組成物1を適用できる建築用材としては、たとえば内外壁材や床材を挙げることができる。
【0052】
本発明に係るエポキシ樹脂組成物1を適用できる身飾品としては、たとえばオパール調の宝玉を用いた指輪、ネックレス、イヤリング、ブローチ等を挙げることができる。
【実施例】
【0053】
本実施例では、コロイド粒子どうしを静電気反発させたエポキシ樹脂組成物からなるサンプルについて、コロイド粒子間の平均距離、結晶性、コロイド粒子の粒径、含有量、サンプルの視認性、サンプルの吸水率、およびサンプルの耐熱温度について検討した。
【0054】
(サンプルの作成)
まず所定の容器にコロイダルシリカ200g、メタノール200gを量り取り、遠心分離機において回転数9100rpmで1時間、固形成分と液体成分を分離させた。遠心分離後、容器内に出来た上澄み液(液体分)を廃棄し、廃棄した上澄み液とほぼ同量のメタノールを所定の容器に入れ、再度、遠心分離機において固形成分と液体成分を分離させた。これのような遠心分離操作を3回繰り返し、コロイド粒子を静電気反発させた。固形成分と液体成分の分離が終了した後、固形成分を乾燥機において45℃にて乾燥させて酸化ケイ素粉末を得た。
【0055】
次に、平均直径が種々の大きさの酸化ケイ素の粉末を19〜41重量%の範囲で、2液性のエポキシ樹脂(主剤としてのジクリシジルエステル化物と硬化剤として無水フタル酸とが略等量)を81〜59重量%の範囲で4時間以上混合してエポキシ樹脂中に酸化ケイ素の粉末を分散させた。その後、混合物を容器に移し、乾燥機において加熱してエポキシ樹脂を硬化させエポキシ樹脂組成物を得た。加熱温度は130℃〜150℃の温度範囲で制御し、加熱時間は5時間以上とした。このエポキシ樹脂組成物は、各規格の標準に合わせたサイズのサンプルとした。
【0056】
比較例として、エポキシ樹脂に代えてアクリル樹脂(ここではメタクリル酸メチル樹脂)を用いた組成物からサンプル(試料番号19)を作製した。
【0057】
(平均距離および粒径の測定)
エポキシ樹脂組成物におけるコロイド粒子間の平均距離およびコロイド粒子の粒径は、SEM画像に基づいて演算した。SEM画像は、JEOL社製SEM(走査型電子顕微鏡JSM−6700F)により、倍率20000倍として撮影した。平均距離およびコロイド粒子の粒径のそれぞれは、SEM画像において任意の10点について測定した後にその平均値を算出し、その平均値を20000で割った値とした。平均距離および粒径の測定結果については表1に示した。
【0058】
(結晶性)
エポキシ樹脂組成物の結晶性は、ハロゲンランプを光源とする日立ハイテク社製分光光度計U4100を用いて分析した。
【0059】
(シリカ含有量の測定)
エポキシ樹脂組成物の酸化ケイ素の特定および重量%の測定は、SII社製SEA1200VXを用いて蛍光X線分析を用いて含有元素を特定し、ティーエーインスツルメント社製DSCQ2000を用いて熱重量分析を行った後に、島津製作所社製フーリエ変換赤外分光光度計を用いてFTIR分析により行なった。エポキシ樹脂の特定もFTIR分析により行なった。酸化ケイ素およびエポキシ樹脂の含有量の測定結果については、表1に示した。
【0060】
(視認性の評価)
視認性は、サンプルの表面における多結晶体の占有率により評価した。多結晶体は、目視にて確認し、主に青から緑色として認識される部分であって、少なくとも1辺が1mm以上のものとして評価した。多結晶体がサンプルの表面積の80%以上の領域に見られる場合には◎を、多結晶体がサンプルの表面積の50%以上80%未満の領域に見られる場合には○を、多結晶体は見られるがそれが50%未満の場合には△を、多結晶体が全く見られなかった場合には×とし、評価結果を表1に示した。
【0061】
(吸水率の評価)
吸水率の評価については、サンプルの重量を測定し、その後に沸騰水中に5時間浸漬して取り出した後に重量を再度測定し、その重量の増加率を計算して求めた。重量の測定は常温(JISZ8703に規定されている温度15級(20±15℃))中にて測定した。吸水率の評価の評価結果については、表1に示した。
【0062】
(耐熱温度の評価)
耐熱温度の評価については、所定温度に維持した恒温槽にサンプル入れて1時間保持した後、サンプルを取り出して30分間常温で放冷後、サンプルに外観の異常(反り、変色)が見られない最高温度として求めた。
【0063】
【表1】

【0064】
表1から分かるように、試料番号1のサンプルはコロイド粒子間の平均距離から求められる回折波長が可視光波長よりも短く、青色を主とする遊色効果を呈するものではなかった。
【0065】
試料番号4のサンプルはコロイド粒子間の平均距離から求められる回折波長が可視光波長よりも長く、青色を主とする遊色効果を呈するものではなかった。
【0066】
試料番号5のサンプルはコロイド粒子が規則的な配列構造、すなわち結晶性をもたないために、青色を主とする遊色効果を呈するものではなかった。
【0067】
これに対して、試料番号6のサンプルはコロイド粒子の平均粒径が小さいために十分に青色を主とする遊色効果を呈するものではなかったものの、十分使用可能な範囲のものであった。
【0068】
試料番号9のサンプルはコロイド粒子の平均粒径が大きいために十分に青色を主とする遊色効果を呈するものではなかったものの、十分使用可能な範囲のものであった。
【0069】
試料番号10のサンプルは酸化ケイ素濃度が上記範囲よりも低いために多結晶体が小さくなり、青色を主とする遊色効果を呈する程度が低くなるものの、使用可能な範囲であった。
【0070】
試料番号13のサンプルは酸化ケイ素濃度が上記範囲よりも高いために多結晶体の発生量が多くなり、一つ一つの多結晶体が小さいものの、使用可能な範囲であった。
【0071】
試料番号19のサンプルはエポキシ樹脂以外の樹脂(アクリル樹脂)を用いたために吸水率が高く、また耐熱温度が低かった。
【0072】
これに対して、試料番号1〜18のサンプルについては、吸水率が低く、耐熱温度がアクリル樹脂を用いた場合に比べて高かった。特に、試料番号12,14のサンプルの中間条件に位置する試料番号16,17のサンプルは、単結晶体の評価において優れた結果が得られた。このため、多結晶体におけるコロイド粒子間の平均距離は104〜196nmであることが好ましいことが分かる。このことは同時に、体心立方構造と面心立方構造の比率によらず、安定した回折波長が得られることを意味している。
【符号の説明】
【0073】
1 エポキシ樹脂組成物
2 エポキシ樹脂
3 コロイド粒子
4 単結晶体
5 境界
6 静電気力が及ぶ範囲
7 ポリマー鎖
L (コロイド粒子間の平均)距離
R (コロイド粒子の平均)粒径

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂中に酸化ケイ素からなるコロイド粒子の多結晶体を含有させたエポキシ樹脂組成物であって、
前記多結晶体における前記コロイド粒子間の平均距離は85nm以上240nm以下であることを特徴とする、エポキシ樹脂組成物。
【請求項2】
前記多結晶体における前記コロイド粒子間の平均距離は104nm以上196nm以下であることを特徴とする請求項1に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
前記コロイド粒子の平均粒径は70nm以上238nm以下である、請求項1または2に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
隣接するコロイド粒子どうしは、静電気力により互いに反発している、請求項1ないし3のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項5】
隣接するコロイド粒子どうしは、該コロイド粒子に修飾されたポリマー鎖が反発している、請求項1ないし3のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項6】
前記酸化ケイ素の含有量は、20重量%以上40重量%以下である、請求項1ないし5のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項7】
前記エポキシ樹脂の含有量は、60重量%以上80重量%以下である、請求項6に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物を用いて形成したことを特徴とする、建築用材。
【請求項9】
請求項1ないし7のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物を用いて形成したことを特徴とする、身飾品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−228003(P2009−228003A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−47417(P2009−47417)
【出願日】平成21年2月27日(2009.2.27)
【出願人】(506218664)公立大学法人名古屋市立大学 (48)
【出願人】(391003598)富士化学株式会社 (40)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】