説明

エマルション塗料組成物およびそれを用いた複層塗膜形成方法

【課題】低VOCでありながら、旧塗膜の有無にかかわらず、密着性、造膜性およびヌレ性が良好であり、かつ、ワレが発生しにくい複層塗膜を形成することができるエマルション塗料組成物およびそれを用いた複層塗膜形成方法を提供する。
【解決手段】ガラス転移温度が−30〜10℃であるモノマー混合液(a’)を乳化重合して得られる硬化性官能基を有する架橋型エマルション樹脂(a)、ガラス転移温度が45℃以上であるモノマー混合液(b’)を乳化重合して得られる硬化性官能基を有する架橋型エマルション樹脂(b)、および、ガラス転移温度が0〜100℃であるモノマー混合液(c’)を乳化重合して得られる硬化性官能基を有する非架橋型エマルション樹脂(c)を含んでいることを特徴とするエマルション塗料組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エマルション塗料組成物およびそれを用いた複層塗膜形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
基材に対して塗り替えを行う場合、基材表面に既に形成されている旧塗膜と、塗り替えの塗料を塗布して得られる塗膜との密着性を向上させるために、塗料の塗布前に、予め旧塗膜上にシーラーと呼ばれる下塗り塗料を塗布するのが一般的である。このシーラーは環境への配慮から水系のものが用いられるようになってきている。
【0003】
このような水系シーラー組成物として、例えば、異なるガラス転移温度(Tg)を有する少なくとも2種類の合成樹脂成分をエマルション組成物として含んでいるものが開示されている。(例えば、特許文献1参照。)しかしながら、この組成物は、密着性、造膜性およびヌレ性を確保するために揮発性有機化合物(VOC)を含んでおり、環境問題の観点から、上記の性能を確保しつつ、さらなる低VOCのシーラーが望まれている。
【0004】
また、水系シーラーから得られるシーラー塗膜の直上に、つや消し塗膜のような樹脂成分の少ない上塗り塗膜を形成した場合、吸水によって膨潤したシーラー塗膜に追従できない上塗り塗膜にワレが発生するという問題があった。
【特許文献1】特開2004−210919号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、低VOCでありながら、旧塗膜の有無にかかわらず、密着性、造膜性およびヌレ性が良好であり、かつ、ワレが発生しにくい複層塗膜を形成することができるエマルション塗料組成物およびそれを用いた複層塗膜形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、Tgが−30〜10℃であるモノマー混合液(a’)を乳化重合して得られる硬化性官能基を有する架橋型エマルション樹脂(a)、Tgが45℃以上であるモノマー混合液(b’)を乳化重合して得られる硬化性官能基を有する架橋型エマルション樹脂(b)、および、Tgが0〜100℃であるモノマー混合液(c’)を乳化重合して得られる硬化性官能基を有する非架橋型エマルション樹脂(c)を含んでいることを特徴とするエマルション塗料組成物であり、塗料樹脂固形分中の架橋型エマルション樹脂(a)の固形分含有量は、50〜70質量%であることが好ましい。
【0007】
さらに植物油エステル化合物を含んでいることが好ましく、植物油エステル化合物は大豆油メチルエステル化合物であることがさらに好ましい。
【0008】
また、沸点が250℃以下の有機化合物の含有量が1質量%以下であることが好ましい。また、本発明のエマルション塗料組成物は下塗り塗料であることが好ましい。
また、本発明は、基材に対して、下塗り塗料を塗布した後、上塗り塗料を塗布する複層塗膜の形成方法であって、上記下塗り塗料は、上記のエマルション塗料組成物であることを特徴とする複層塗膜形成方法であり、基材は、表面に旧塗膜を有していることが好ましい。ここで例えば、上塗り塗料は、顔料体積濃度が50%以上である。
【発明の効果】
【0009】
本発明のエマルション塗料組成物は、上記3種類のエマルション樹脂を含み、低VOCでありながら、旧塗膜の有無にかかわらず、密着性、造膜性およびヌレ性が良好であり、かつ、ワレが発生しにくい複層塗膜を形成することができる。これは以下の理由によると推察される。
【0010】
すなわち、基材や旧塗膜に対する造膜性およびヌレ性については、Tgの低い架橋型エマルション樹脂(a)および比較的Tgの高い非架橋型エマルション樹脂(c)によって確保することが可能となり、そのため、アンカー効果が充分に機能し、旧塗膜との優れた密着性を確保することができたと考えられる。
【0011】
また、ワレの発生については、架橋型エマルション樹脂(a)および(b)によって吸水による膨潤を制御することによって抑制することが可能となり、そのため、例えば、直上の塗膜との密着性も向上させることができたと考えられる。
【0012】
さらに、植物油エステル化合物を含有することで、さらに、直上の塗膜との密着性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明のエマルション塗料組成物は、硬化性官能基を有する架橋型エマルション樹脂(a)、硬化性官能基を有する架橋型エマルション樹脂(b)および硬化性官能基を有する非架橋型エマルション樹脂(c)を含んでいる。
【0014】
本発明のエマルション塗料組成物に含まれる硬化性官能基を有する架橋型エマルション樹脂(a)は、本発明のエマルション塗料組成物の主たる樹脂成分であり、塗布時の旧塗膜に対する造膜性およびヌレ性を確保する働きをするものである。具体的には、Tgが−30〜10℃であるモノマー混合液(a’)を乳化重合することによって得ることができる。なお、本発明においてTgは、モノマー混合液を構成するモノマー組成から計算によって算出することができる。
【0015】
上記モノマー混合液(a’)としては、硬化性官能基を有するモノマーを含んでいる。このようなモノマーとしては特に限定されず、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸二量体、クロトン酸、2−アクリロイルオキシエチルフタル酸、2−アクリロイルオキシエチルコハク酸、2−アクリロイルオキシエチルアシッドフォスフェート、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、ω−カルボキシ−ポリカプロラクトンモノ(メタ)アクリレート、イソクロトン酸、α−ハイドロ−ω−[(1−オキソ−2−プロペニル)オキシ]ポリ[オキシ(1−オキソ−1,6−ヘキサンジイル)]、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、3−ビニルサリチル酸、3−ビニルアセチルサリチル酸等のカルボキシル基含有モノマー;ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等の水酸基含有モノマー;グリシジル(メタ)アクリレート等のエポキシ基含有モノマー;(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジブチル(メタ)アクリルアミド、ダイアセトン(メタ)アクリルアミド、N−(2−ヒドロキシエチル)アクリルアミド、N−(2−ヒドロキシエチル)メタクリルアミド等のアミド基含有不飽和モノマー;ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のアミノ基含有モノマー;アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート等のカルボニル基含有モノマー等を挙げることができる。得られる塗膜の吸水を抑制するという観点から、カルボキシル基含有モノマーまたはカルボニル基含有モノマーが好ましい。上記モノマーは単独であっても2種以上であってもよい。
【0016】
また、上記モノマー混合液(a’)は、架橋性モノマーを含んでいる。このようなモノマーとしては特に限定されず、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼン、トリビニルベンゼン、ジアリルフタレート等を挙げることができる。上記モノマーは2種以上であってもよい。上記モノマー混合液(a’)中の上記架橋性モノマーの含有量は、0.1〜1.0質量%であることが好ましい。上記含有量が0.1質量%未満であると上塗りの耐水性が低下する恐れがあり、1.0質量%を超えると造膜不良を起こす恐れがある。
【0017】
上記モノマー混合液(a’)は、上記Tgの条件を満たす範囲において、上記モノマーの他、その他のモノマーを含んでいてもよく、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル;スチレン、メチルスチレンのビニル化合物;(メタ)アクリロニトリル等のニトリル等を挙げることができる。上記モノマーは2種以上であってもよい。
【0018】
上記架橋型エマルション樹脂(a)を得るための乳化重合としては特に限定されず、当業者によってよく知られた方法を挙げることができる。また、ラウリルメルカプタン、n−ブチルメルカプタン、t−ブチルメルカプタン、オクチルメルカプタン等のアルキルメルカプタン;チオグリコール酸−2−エチルへキシル、2−メチル−5−t−ブチルチオフェノール、四臭化炭素、α−メチルスチレンダイマー等の連鎖移動剤を用いることができる。また、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム等の過硫酸塩;t−ブチルハイドロパーオキサイド、過酸化水素等の過酸化物;亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、アスコルビン酸、ロンガリット等の還元剤と上記開始剤のような酸化剤を組み合わせたもの等のレドックス開始剤;4,4’−アゾビス4−シアノ吉草酸等のアゾ系化合物等の重合開始剤を上記モノマー混合液(a’)に含有させる方法等を挙げることができる。
【0019】
得られた架橋型エマルション樹脂(a)の体積平均粒子径は特に限定されず、例えば、50〜500nmである。上記体積平均粒子径は、光散乱法等、当業者によってよく知られている方法で決定することができる。
【0020】
本発明のエマルション塗料組成物に含まれる硬化性官能基を有する架橋型エマルション樹脂(b)は、得られる塗膜を堅くして、吸水による膜の膨潤を抑制し、ワレの発生を制御する働きをするものである。具体的には、Tgが45℃以上であるモノマー混合液(b’)を乳化重合することによって得ることができる。
【0021】
上記モノマー混合液(b’)としては、硬化性官能基を有するモノマーを含んでいる。このようなモノマーとしては特に限定されず、具体的には、上記モノマー混合液(a’)のところで述べたものを挙げることができる。得られる塗膜の均質性の観点から、上記モノマー混合物(a’)で用いたものと同一の硬化性官能基を有するものであることが好ましい。
【0022】
また、上記モノマー混合液(b’)は、架橋性モノマーを含んでいる。このようなモノマーとしては特に限定されず、具体的には、上記モノマー混合液(a’)のところで述べたものを挙げることができる。上記モノマー混合液(b’)中の上記架橋性モノマーの含有量は、1.2〜10.0質量%であることが好ましい。上記含有量が1.2質量%未満であると膜の吸水抑制効果が低下する恐れがあり、10.0質量%を超えると不揮発成分50%程度のエマルション樹脂の製造が困難になり、得られるエマルション塗料の塗布作業性が低下する恐れがある。
【0023】
上記モノマー混合液(b’)は、上記Tgの条件を満たす範囲において、上記モノマーの他、その他のモノマーを含んでいてもよく、具体的には、上記モノマー混合液(a’)のところで述べたものを挙げることができる。
【0024】
上記架橋型エマルション樹脂(b)を得るための乳化重合としては特に限定されず、具体的には、上記モノマー混合液(a’)のところで述べたものを挙げることができる。
【0025】
得られた架橋型エマルション樹脂(b)の体積平均粒子径は特に限定されず、具体的には、上記架橋エマルション樹脂(a)のところで述べたものを挙げることができる。
【0026】
本発明のエマルション塗料組成物に含まれる硬化性官能基を有する非架橋型エマルション樹脂(c)は、非架橋型であることから、基材や旧塗膜へのヌレ性を向上させて優れた密着性を確保する働きをするものである。具体的には、Tgが0〜100℃であるモノマー混合液(c’)を乳化重合することによって得ることができる。
【0027】
上記モノマー混合液(c’)としては、硬化性官能基を有するモノマーを含んでいる。このようなモノマーとしては特に限定されず、具体的には、上記モノマー混合液(a’)のところで述べたものを挙げることができる。
【0028】
上記モノマー混合液(c’)は、上記Tgの条件を満たす範囲において、上記モノマーの他、その他のモノマーを含んでいてもよく、具体的には、上記モノマー混合液(a’)のところで述べたものを挙げることができる。
【0029】
なお、上記モノマー混合液(c’)には、上記モノマー混合液(a’)で述べたような架橋性モノマーを含まない。上記モノマー混合液(c’)が上記架橋性モノマーを含むと、基材や旧塗膜へのヌレ性が低下し密着性が低下する。
【0030】
上記非架橋型エマルション樹脂(c)を得るための乳化重合としては特に限定されず、具体的には、上記モノマー混合液(a’)のところで述べたものを挙げることができる。なお、上記乳化重合には上記連鎖移動剤を用いることが好ましい。
【0031】
得られた非架橋型エマルション樹脂(c)の体積平均粒子径は特に限定されず、具体的には、上記架橋エマルション樹脂(a)のところで述べたものを挙げることができる。また、上記非架橋型エマルション樹脂(c)の数平均分子量としては、5000〜12000であることが好ましい。上記数平均分子量が5000を下回ると、得られる塗膜の架橋度が不充分になり、耐水性が低下する恐れがある。また12000を上回ると、エマルション塗料組成物のヌレ性が不充分になり、密着性が低下する恐れがある。
【0032】
本発明のエマルション塗料組成物は、上記3種類のエマルション樹脂を含んでいる。塗料樹脂固形分中の上記硬化性官能基を有する架橋型エマルション樹脂(a)の固形分含有量としては、50〜70質量%であることが好ましい。上記含有量が50質量%未満であると、得られる塗膜の造膜性が低下する恐れがある。また70質量%を超えると、得られる塗膜の堅さが不充分になる恐れがある。
【0033】
本発明のエマルション塗料組成物は、旧塗膜へのヌレ性および密着性を向上させるために、植物油エステル化合物を含んでいることが好ましい。上記植物油エステル化合物は、植物油に含まれる高級脂肪酸トリグリセリドに対して、メタノールを用いたエステル交換反応を行うことによって得ることができ、具体的には、大豆油メチルエステル、亜麻仁油メチルエステル、菜種油メチルエステル等を挙げることができる。このようなもので市販されているものとして、例えば、AGRIPLAST(Cock Composites and Poymers社製大豆油メチルエステル)等を挙げることができる。
【0034】
本発明のエマルション塗料組成物は、硬化剤を含んでいる。上記硬化剤を含むことで、一般的な塗膜性能を向上させるだけでなく、密着性をも向上させることができる。上記硬化剤としては特に限定されず、上記エマルション樹脂の硬化性官能基と架橋反応可能なものを挙げることができ、具体的には、アジピン酸ジヒドラジド、カルボジイミド化合物等当業者によってよく知られているものを適宜選択し、あるいは組み合わせて用いることができる。
【0035】
本発明のエマルション塗料組成物中における硬化剤の含有量は、含まれる硬化剤の種類によって適宜設定されるが、上記エマルション樹脂の硬化性官能基がカルボキシル基である場合、上記硬化剤がアジピン酸ジヒドラジドであれば、例えば、上記カルボキシル基/上記ヒドラジド基のモル比が1/1〜3/1、上記硬化剤がカルボジイミド化合物であれば、例えば、上記樹脂固形分に対して0.5〜1質量%である。
【0036】
本発明のエマルション塗料組成物は、上記の他に、必要に応じて、着色顔料、体質顔料、顔料分散剤、消泡剤、増粘剤等を含むことができる。
【0037】
上記着色顔料としては特に限定されず、例えば、黄鉛、黄色酸化鉄、酸化鉄、カーボンブラック、二酸化チタン等の無機顔料;アゾキレート系顔料、不溶性アゾ系顔料、縮合アゾ系顔料、フタロシアニン系顔料、インジゴ顔料、ペリノン系顔料、ペリレン系顔料、ジオキサン系顔料、キナクリドン系顔料、イソインドリノン系顔料、金属錯体顔料等の有機顔料等を挙げることができる。また、上記体質顔料は炭酸カルシウム、沈降性硫酸バリウム、クレー、タルク等を挙げることができる。
【0038】
本発明のエマルション塗料組成物は、環境に対する配慮の観点から、VOCの含有量が1質量%以下であることが好ましい。上記VOCは常圧において揮発性を有する有機化合物であり、VOCの含有量を1質量%以下であることが好ましい。なお、エマルション塗料組成物中のVOCの有無および含有量は、水素炎イオン化検出器(FID検出器)付きガスクロマトグラフィによる分析等、当業者によってよく知られた方法を用いて得ることができる。
【0039】
本発明のエマルション塗料組成物は、基材や旧塗膜への密着性、造膜性およびヌレ性に優れているので、下塗り塗料として用いることが好ましい。
【0040】
本発明の複層塗膜形成方法は、基材に対して、下塗り塗料を塗布した後、上塗り塗料を塗布する複層塗膜の形成方法であって、上記下塗り塗料が、上記のエマルション塗料組成物であることを特徴とするものである。上記基材としては特に限定されず、例えば、鉄、ステンレス、アルミニウム等およびその表面処理物の金属基材、セメント類、石灰類、石膏類等のセメント系基材、ポリ塩化ビニル類、ポリエステル類、ポリカーボネート類、アクリル類等のプラスチック系基材等、および、これらからなる建築物や構造物等を挙げることができる。
【0041】
なお、本発明の複層塗膜形成方法は、用いられる下塗り塗料が基材のみならず、旧塗膜との密着性にも優れた上記のエマルション塗料組成物であるので、いわゆる新設での塗布の他、塗り替えにも利用することができる。塗り替えに利用する場合、通常、基材上の旧塗膜は全て剥離する工程を含むが、本発明の複層塗膜形成方法では、その必要がなく、旧塗膜が一部または全部残っていてもよい。上記旧塗膜としては特に限定されず、各種上塗り塗膜、中塗り塗膜および下塗り塗膜を挙げることができる。
【0042】
また、上記下塗り塗料の塗布方法としては特に限定されず、例えば、刷毛塗り、ローラー塗装、スプレー塗装等により種々の基材および旧塗膜に対して行うことができる。塗布後、常温または加熱乾燥を行うことによって下塗り塗膜を得ることができる。なお、塗布量、塗布膜厚および乾燥時間は、塗料の種類や適用する基材および基材の表面状態に応じて任意に設定することができる。
【0043】
本発明の複層塗膜形成方法における上塗り塗料としては特に限定されず、例えば、アクリル系、アルキド系、ポリエステル系、シリコーン系、フッ素系、塩化ビニル系およびエポキシ系等、当業者によってよく知られているものを挙げることができる。特に、顔料体積濃度が50%以上である上塗り塗料、例えば、樹脂成分の少ない塗料系、具体的には、つや消し塗料系のような場合には、本発明の効果が極めて高い。
【0044】
上記上塗り塗料の形態は有機溶剤型、水性型いずれであってもよいが、環境への配慮から、水性型であることが好ましい。上記上塗り塗料の塗布方法としては特に限定されず、具体的には、上記下塗り塗料のところで述べたものを挙げることができる。また、塗布量、塗布膜厚および乾燥時間は、塗料の種類や適用する基材および基材の表面状態に応じて任意に設定することができる。
【0045】
以下、具体的な実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例により限定されるものではない。なお、以下において「部」とあるのは「質量部」を意味する。
【0046】
製造例1 エマルション樹脂(a)
滴下漏斗、温度計、窒素導入管、環流冷却器および撹拌機を備えたセパラブルフラスコにイオン交換水34.5部、ペレックスSS−H(花王社製アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム)0.6部を仕込み、窒素雰囲気のもとで80℃に昇温した。スチレン40部、2−エチルへキシルアクリレート35部、メチルメタクリレート11部、エチレングリコールジメタクリレート1部、ジアセトンアクリルアミド1部、N−ブチルアクリレート10部およびメタクリル酸2部からなる、Tgが1.5℃のモノマー混合液(a’)にドデシルメルカプタン0.25部を加えた後、これを、ペレックスSS−H1.2部をイオン交換水50部に溶解させた乳化剤水溶液中に加え、ミキサーを用いて乳化させてプレエマルジョンを調製した。
【0047】
このようにして得られたプレエマルションと過硫酸アンモニウム0.3部をイオン交換水13部に溶解させた開始剤水溶液を別個の滴下漏斗から同時に滴下した。前者は120分間、後者は150分間にわたって均等に滴下を開始した。滴下終了後、同温度でさらに120分間反応を継続した。冷却後、用いたメタクリル酸の10モル%に相当するアンモニア水で中和した。中和物を200メッシュの金網で濾過し、固形分43%(酸価13、平均粒子径120nm)のエマルション樹脂(a)を得た。
【0048】
製造例2 エマルション樹脂(b)
滴下漏斗、温度計、窒素導入管、環流冷却器および撹拌機を備えたセパラブルフラスコにイオン交換水34.5部、ペレックスSS−H(花王社製アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム)0.6部を仕込み、窒素雰囲気のもとで80℃に昇温した。スチレン40部、2−エチルへキシルアクリレート20部、メチルメタクリレート32部、エチレングリコールジメタクリレート5部、ジアセトンアクリルアミド1部およびメタクリル酸2部からなるTgが49℃のモノマー混合液(b’)を、ペレックスSS−H1.2部をイオン交換水45部に溶解させた乳化剤水溶液中に加え、ミキサーを用いて乳化させてプレエマルジョンを調製した。
【0049】
このようにして得られたプレエマルションと過硫酸アンモニウム0.3部をイオン交換水13部に溶解させた開始剤水溶液を別個の滴下漏斗から同時に滴下した。前者は120分間、後者は150分間にわたって均等に滴下を開始した。滴下終了後、同温度でさらに120分間反応を継続した。冷却後、用いたメタクリル酸の10モル%に相当するアンモニア水で中和した。中和物を200メッシュの金網で濾過し、固形分52%(酸価13、平均粒子径180nm)のエマルション樹脂(b)を得た。
【0050】
製造例3 エマルション樹脂(c)
滴下漏斗、温度計、窒素導入管、環流冷却器および撹拌機を備えたセパラブルフラスコにイオン交換水34.5部、ペレックスSS−H(花王社製アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム)0.6部を仕込み、窒素雰囲気のもとで80℃に昇温した。スチレン24部、2−エチルへキシルアクリレート20部、メチルメタクリレート50部、ジアセトンアクリルアミド1部およびメタクリル酸5部からなるTgが51℃のモノマー混合液(c’)にドデシルメルカプタン2部を加えた後、これを、ペレックスSS−H1.2部をイオン交換水50部に溶解させた乳化剤水溶液中に加え、ミキサーを用いて乳化させてプレエマルジョンを調製した。
【0051】
このようにして得られたプレエマルションと過硫酸アンモニウム0.3部をイオン交換水13部に溶解させた開始剤水溶液を別個の滴下漏斗から同時に滴下した。前者は120分間、後者は150分間にわたって均等に滴下を開始した。滴下終了後、同温度でさらに120分間反応を継続した。冷却後、用いたメタクリル酸の10モル%に相当するアンモニア水で中和した。中和物を200メッシュの金網で濾過し、固形分48%(酸価32、平均粒子径130nm)のエマルション樹脂(c)を得た。
【0052】
実施例1 エマルション塗料組成物1
製造例1で得られたエマルション樹脂(a)34.18部、製造例2で得られたエマルション樹脂(b)12.42部および製造例3で得られたエマルション樹脂(c)6.62部、アジピン酸ジヒドラジド5%水溶液1.26部、カルボジライトV02−L2(日清紡績社製カルボジイミド化合物)1.5部、BYK−348(ビックケミー社製表面調整剤)、BYK−024(ビックケミー社製消泡剤)、テキサノール0.5部、AGRIPLAST(Cook Composites and Polymers社製大豆油メチルエステル)3.5部および水38.75部を撹拌、混合して、エマルション塗料組成物1を得た。
【0053】
この塗料組成物に含まれるVOCの含有量をFID検出器付きHP−5890(ヒューレットパッカード社製ガスクロマトグラフィ)にて分析し、検出された揮発成分のピーク面積の合計を予め作成したトルエン標準サンプルの検量線式に代入して求めたところ、1質量%未満であった。
【0054】
得られたエマルション塗料組成物1とスレート板とを5℃の恒温室内に静置した。24時間経過後、同恒温室内でスレート板上にエマルション塗料組成物1をハケにて塗布量200g/mで塗布し、引き続き同恒温室内で24時間放置し乾燥させて試験板1を得た。得られた試験板1の表面を、ルーペを用いて目視にて塗膜のワレを観察し、造膜性について評価した。
【0055】
また、スレート板上にHi−CRデラックス300G(日本ペイント社製上塗り用合成樹脂調合ペイント)をハケにて塗布量120g/mで2回重ね塗りし、室温で24時間放置して乾燥させた後、さらに60℃で2週間養生した旧塗膜基板を得た。
【0056】
この塗膜上に、得られたエマルション塗料組成物1を塗布量35g/mにて塗布し、室温にて24時間放置して乾燥させ、さらにその上に、Tgが−35℃であるモノマー混合物を重合して得られた樹脂エマルションを用い、PVCが60%であるつや消し塗料をハケにて塗布量120g/mで2回重ね塗りし、室温で24時間放置して乾燥させて試験板2を得た。得られた試験板2の表面を、ルーペを用いて目視にて塗膜のワレを観察し、上塗りワレ性について評価した。
【0057】
さらに、スレート板上にタイルラックU上塗り(日本ペイント社製JIS A 6909 E・RE上塗り材)をハケにて塗布量120g/mで塗布し、室温で24時間放置して乾燥させた後、さらに60℃で2週間養生した旧塗膜基板を得た。この塗膜上に、得られたエマルション塗料組成物1を塗布量35g/mにて塗布し、室温にて24時間放置して乾燥させ、さらにその上にオーデコートG(日本ペイント社製つや有り合成樹脂エマルション塗料)をハケにて塗布量120g/mで2回重ね塗りし、室温で24時間放置して乾燥させて試験板3を得た。得られた試験板3の表面を、JIS K 5600 5−6に準拠した5mm角の碁盤目カット(9マス)による密着試験を行い、密着性について評価した。
【0058】
各試験板1〜3の目視評価結果は表1に示した。
【0059】
実施例2、3および比較例1〜3
表1の配合に従って、実施例1と同様にしてエマルション塗料組成物2〜6を作製した。各々の塗料組成物に含まれるVOCを実施例1と同様にして測定したところ、いずれも0.1質量%未満であった。さらに、実施例1のエマルション塗料組成物1に代えて、各々エマルション塗料組成物2〜6としたこと以外は、実施例1と同様にして、各々試験板1〜3を得て、目視評価を実施し、評価結果を表1に示した。
【0060】
【表1】

【0061】
表1から明らかなように、本発明のエマルション塗料組成物に含まれる実施例1〜3については、造膜性、上塗りワレ性および密着性について良好であったが、本発明のエマルション塗料組成物ではない比較例1〜3については、上塗りワレ性と密着性との両立ができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明のエマルション塗料組成物から得られる塗膜は、造膜性および旧塗膜との密着性に優れ、かつ、樹脂成分の少ない上塗り塗料の塗布も可能であるため、様々な建築物の内外装の塗料、特に、下塗り塗料として適用が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス転移温度が−30〜10℃であるモノマー混合液(a’)を乳化重合して得られる硬化性官能基を有する架橋型エマルション樹脂(a)、ガラス転移温度が45℃以上であるモノマー混合液(b’)を乳化重合して得られる硬化性官能基を有する架橋型エマルション樹脂(b)、および、ガラス転移温度が0〜100℃であるモノマー混合液(c’)を乳化重合して得られる硬化性官能基を有する非架橋型エマルション樹脂(c)を含んでいることを特徴とするエマルション塗料組成物。
【請求項2】
塗料樹脂固形分中の架橋型エマルション樹脂(a)の固形分含有量は、50〜70質量%である請求項1に記載のエマルション塗料組成物。
【請求項3】
さらに植物油エステル化合物を含んでいる請求項1または2に記載のエマルション塗料組成物。
【請求項4】
前記植物油エステル化合物は大豆油メチルエステル化合物である請求項1〜3のうちのいずれか1つに記載のエマルション塗料組成物。
【請求項5】
沸点が250℃以下の有機化合物の含有量が1質量%以下である請求項1〜4のうちのいずれか1つに記載のエマルション塗料組成物。
【請求項6】
下塗り塗料である請求項1〜5のうちのいずれか1つに記載のエマルション塗料組成物。
【請求項7】
基材に対して、下塗り塗料を塗布した後、上塗り塗料を塗布する複層塗膜の形成方法であって、
前記下塗り塗料は、請求項1〜5のうちのいずれか1つに記載のエマルション塗料組成物であることを特徴とする複層塗膜形成方法。
【請求項8】
前記基材は、表面に旧塗膜を有している請求項7に記載の複層塗膜形成方法。
【請求項9】
前記上塗り塗料は、顔料体積濃度が50%以上である請求項7および8に記載の複層塗膜形成方法。

【公開番号】特開2006−335831(P2006−335831A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−160464(P2005−160464)
【出願日】平成17年5月31日(2005.5.31)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【Fターム(参考)】