説明

エマルジョン塗料の製造方法とこれより得られるエマルジョン塗料から形成される塗膜

【課題】エマルジョン塗料の製造方法、該エマルジョン塗料及び該エマルジョン塗料から形成される塗膜を提供する。
【解決手段】光触媒複合粒子と樹脂成分とを含むエマルジョン塗料を製造する方法であって、光触媒複合粒子としては、酸化チタンが分散し、かつ、リン酸イオン及びカルシウムイオンが溶解したpH4.0以下の分散水溶液を、pH5.0〜11.0にpH調整して酸化チタンの表面にリン酸カルシウムを再析出させて付着させた光触媒複合粒子を作製し、得られた該光触媒複合粒子を光触媒成分として塗料に配合することを特徴とするエマルジョン塗料の製造方法、該エマルジョン塗料及びその塗膜。
【効果】光触媒複合粒子の生産性を高めると共に、該光触媒複合粒子を含む塗料や塗膜の有機物光分解機能や耐候性を向上させたエマルジョン塗料を提供できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光触媒複合粒子を含むエマルジョン塗料の製造方法、これより得られるエマルジョン塗料及び該エマルジョン塗料から形成される塗膜に関するものであり、更に詳しくは、リン酸カルシウムをリン酸イオン及びカルシウムイオンが溶解した酸性溶液から再析出させて酸化チタンの表面に付着させた再析出リン酸カルシウムで光触媒表面を被覆してなる光触媒複合体を光触媒成分として塗料に配合したエマルジョン塗料の製造方法、そのエマルジョン塗料及びその塗膜に関するものである。本発明は、リン酸カルシウムを酸化チタン表面に被覆してなる光触媒複合粒子の生産性を著しく高めると共に、該光触媒複合粒子を塗料に配合した高機能性を発揮する新規エマルジョン塗料及びその塗膜を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
光触媒は、太陽や蛍光灯などの光が当たると活性化されて、有機物や細菌などの有害物質を分解する作用を有する。この性質を活かして、光触媒である酸化チタンを含んだ塗料を、例えば、壁材などの基材に塗装して、光触媒機能を発揮させる試みがなされている。該塗料により形成される塗膜は、表面に付着した汚れ(有機物)を光触媒で分解できる上に、親水性を有する光触媒が塗膜表面に露出しているので、汚れが付着しにくいという特性を発揮する。従って、光触媒を含有する塗膜は、自ら汚れを除去するセルフクリーニング機能を有している。
【0003】
しかし、塗料成分として、樹脂成分を含む有機系塗料を用いた場合には、樹脂成分が酸化チタンと接触するために、その光触媒作用により、樹脂が分解され、塗膜の劣化が起こるという問題があった。そこで、最近では、アパタイトなどのリン酸カルシウムを酸化チタンに被覆した光触媒複合粒子を含有した塗料が提案されている(例えば、特許文献1〜3参照)。これらの塗料では、いずれも、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二ナトリウムなどを溶解させた擬似体液に、酸化チタンを分散させた分散液に、塩化カルシウムを添加して光触媒複合粒子を製造している。
【0004】
この種の光触媒複合粒子では、アパタイトは、酸化チタンの表面を完全に被覆しているのではなく、酸化チタン表面に分散して析出している。すなわち、酸化チタンの表面が部分的に露出しているため、光触媒機能は、ほとんど失われることはない。また、酸化チタンの表面をアパタイトが被覆しているので、アパタイトがスペーサーとなり、酸化チタンは、直接樹脂成分とは接しないため、樹脂成分の分解が抑制され、有機系塗料の使用が可能になる。また、アパタイトは、タンパク質やアルデヒド類などの物質吸着能に優れているため、上記光触媒複合粒子は、光がなくても物質を吸着できる上、これらの消光時に吸着しておいた物質を、光が照射された時に、光触媒作用により分解することができる。
【0005】
しかしながら、上記特許文献1〜3等の先行技術に記載の塗料に含まれる光触媒複合粒子の製造に使用する擬似体液は、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、塩化物イオンなどのイオン種を大過剰に含むため、光触媒複合粒子が分散した分散液をそのまま塗料に用いると、こうした共存イオン種の影響により樹脂成分が凝集し、分散不良を生じることがあった。樹脂成分の凝集を防ぐためには、分散液を何度もデカンテーションしなければならず、生産工程が増えるので、生産性が悪くなる。また、上記疑似体液を用いる手法では、アパタイト結晶の成長が非常に遅く、工業的製品の製造技術としては生産性が低いために実用化が難しく、また、この方法で製造された光触媒複合粒子を含む塗料により形成された塗膜は、樹脂成分が凝集し、均質性が低下することがある。そのため、この種の塗料は、有機物光分解機能、耐候性ともに満足できるものではなく、当技術分野では、それらの問題を解消できる新しい塗料や塗膜を開発することが強く要請されていた。
【0006】
【特許文献1】特開2000−1631号公報
【特許文献2】特開2003−80078号公報
【特許文献3】特開2004−58050号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような状況の中で、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、上述の従来材の問題点を解決できる新しい塗料や塗膜を開発することを目標として鋭意研究を重ねた結果、酸化チタンが分散し、かつ、リン酸イオンとカルシウムイオンが溶解したpH4.0以下の分散水溶液を、pH5.0〜11.0にpH調整することによって、リン酸カルシウムが酸化チタンの表面で均一に再析出することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みて開発されたもので、簡便に酸化チタンの表面にリン酸カルシウムを被覆させることができ、光触媒複合粒子の生産性を高め、かつ、該光触媒複合粒子を含む塗料や塗膜の有機物光分解機能や耐候性を向上させることができるエマルジョン塗料の製造方法と、これより得られるエマルジョン塗料及び該エマルジョン塗料により形成される塗膜を提供することを目的とするものである。また、本発明は、光触媒複合粒子と樹脂成分とを含むエマルジョン塗料を製造する方法において、前記光触媒複合粒子が、酸化チタンが分散し、かつ、リン酸イオン及びカルシウムイオンが溶解したpH4.0以下の分散水溶液を、pH5.0〜11.0にpH調整して酸化チタンの表面にリン酸カルシウムを再析出させることで製造された光触媒複合粒子からなることを特徴とするエマルジョン塗料の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)光触媒複合粒子と樹脂成分とを含むエマルジョン塗料を製造する方法であって、光触媒複合粒子として、酸化チタンが分散し、かつ、リン酸イオン及びカルシウムイオンが溶解した酸性の分散水溶液を、該分散水溶液のpHよりアルカリ側に調整して、酸化チタンの表面にリン酸カルシウムを再析出させて付着させた光触媒複合粒子を作製し、得られた該光触媒複合粒子を光触媒成分として塗料に配合することを特徴とするエマルジョン塗料の製造方法。
(2)前記酸性の分散水溶液を、アンモニア水を用いてpH調整する、前記(1)に記載のエマルジョン塗料の製造方法。
(3)前記酸化チタンとして、酸性チタニアゾルを用いる、前記(1)に記載のエマルジョン塗料の製造方法。
(4)pH4.0以下の酸性の分散水溶液を、pH5.0〜11.0にpH調整する、前記(1)に記載のエマルジョン塗料の製造方法。
(5)リン酸カルシウムと酸化チタンの質量比を0.1:99.9〜50:50とする、前記(1)に記載のエマルジョン塗料の製造方法。
(6)光触媒複合粒子と樹脂成分とを含むエマルジョン塗料であって、該光触媒複合粒子が、リン酸イオン及びカルシウムイオンを含む溶液から、酸化チタンの表面にリン酸カルシウムを再析出させて付着させてなる、再析出リン酸カルシウムで酸化チタン表面を高純度かつ均一に被覆した高機能性光触媒複合粒子からなり、該光触媒複合粒子が、光触媒成分として塗料に配合されていることを特徴とするエマルジョン塗料。
(7)前記(6)に記載のエマルジョン塗料から形成される塗膜であって、該塗膜の膜厚が1〜20μmであることを特徴とする塗膜。
【0010】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明は、光触媒複合粒子と樹脂成分とを含むエマルジョン塗料を製造する方法であって、光触媒複合粒子として、酸化チタンが分散し、かつ、リン酸イオン及びカルシウムイオンが溶解した酸性の分散水溶液を、該分散水溶液のpHよりアルカリ側に調整して、酸化チタンの表面にリン酸カルシウムを再析出させて付着させた光触媒複合粒子を作製し、得られた該光触媒複合粒子を光触媒成分として塗料に配合することを特徴とするものである。
【0011】
また、本発明は、上記エマルジョン塗料であって、該光触媒複合粒子が、リン酸イオン及びカルシウムイオンを含む溶液から、酸化チタンの表面にリン酸カルシウムを再析出させて付着させてなる、再析出リン酸カルシウムで酸化チタン表面を高純度かつ均一に被覆した高機能性光触媒複合粒子からなり、該光触媒複合粒子が光触媒成分として塗料に配合されていることを特徴とするものである。更に、本発明は、上記エマルジョン塗料から形成される塗膜であって、該塗膜の厚さが1〜20μmであることを特徴とするものである。
【0012】
本発明のエマルジョン塗料の製造方法は、酸化チタンにリン酸カルシウムを付着させて光触媒複合粒子を製造する第一工程と、その後に、該光触媒複合粒子の分散液と樹脂成分を混合させて、エマルジョン塗料を製造する第二工程から構成される。
【0013】
上記第一工程では、酸化チタンが分散し、かつ、リン酸イオン、カルシウムイオンが溶解した酸性の分散水溶液を、該分散水溶液のpHよりアルカリ側に調整すること、好適には、例えば、pH4.0以下の分散水溶液を調製し、その後、該分散水溶液をpH5.0〜11.0にpH調整することにより、酸化チタンの表面にリン酸カルシウムを再析出させ、付着させた光触媒複合粒子を製造する。
【0014】
第一工程で得られる光触媒複合粒子の形態は、特に限定されるものではないが、リン酸カルシウムがタンパク質や各種の水性の汚れ成分を吸着する作用を有し、それらの吸着能に優れること、酸化チタンが光触媒作用を有し、光触媒機能に優れることを考慮すると、酸化チタンの表面の一部がリン酸カルシウムで被覆されている形態が好ましい。また、得られるエマルジョン塗料を外壁などに塗布した場合、汚れが雨で流されやすくするために、光触媒複合粒子は、親水機能を有することが望ましい。
【0015】
次に、第一工程で用いられる各種成分について説明する。酸化チタンとしては、光触媒機能を発揮するものであれば適宜のもので良く、例えば、酸化チタンの粒子径が1nm〜数μm程度のものを用いることが好適である。また、多孔質の酸化チタンを用いることがより好ましく、この場合には、粒子の表面積が大きくなるので、より大きな光触媒性能が得られる。酸化チタンの細孔の孔径は、特に限定されるものではないが、水分や有機成分を効率良く吸着するという観点から、1nm〜0.1μmであることが好ましい。
【0016】
また、酸化チタンの結晶形はアナタースであることが好ましく、これにより、より高い光触媒性能が得られる。更に、酸化チタンの形態は、粉体、スラリー、中性チタニアゾル、酸性チタニアゾルなどが好ましく、分散性が良好な酸性チタニアゾルがより好ましい。通常、酸性チタニアゾルは、pH4を超えると凝集してしまうので、光触媒としては用いられないが、本発明においては、後述するように、酸化チタンは、pH4以下の酸性条件下で用いるため、酸性チタニアゾルを好適に使用することができる。なお、酸性チタニアゾルには、塩酸酸性チタニアゾルと硝酸酸性チタニアゾルがあるが、本発明においては、塩酸酸性チタニアゾルが特に好ましい。
【0017】
リン酸カルシウムとしては、特に限定されないが、例えば、アパタイト、リン酸三カルシウム及びリン酸八カルシウムからなる群から選ばれる1種以上を使用することが好ましい。アパタイトとは、リン灰石であり、例えば、水酸アパタイト、フッ化アパタイト、炭酸アパタイト、銀アパタイトなどが挙げられる。
【0018】
アパタイトなどのリン酸カルシウムは、細菌などのタンパク質や、水性の汚れ(汗、手垢、水性インキなど)の吸着能力に優れている。一方、酸化チタンは、このような吸着能はリン酸カルシウムに比べると乏しい。従って、酸化チタン表面の一部に更にリン酸カルシウム被覆を形成することによって、リン酸カルシウムでタンパク質や各種の汚れ成分をより効率よく吸着し、これを酸化チタンの光触媒的酸化還元作用により分解することができる。
【0019】
このようなリン酸カルシウム及び酸化チタンの作用を考慮すると、リン酸カルシウムの被覆率は1〜99%(面積%)が好ましい。被覆率が1%未満であると、リン酸カルシウムでの吸着効果があまり得られず、一方、被覆率が99%を超えると、酸化チタンの表面の露出率が低くなるため、酸化チタンの光触媒効果が得られにくい。より好ましい被覆率は、2〜80%程度であり、更に好ましい被覆率は5〜70%程度である。
【0020】
リン酸カルシウム被覆の厚さは、特に限定されるものではないが、光触媒機能とコストの観点から1nm〜3μm程度が好ましく、1nm〜2μm程度が更に好ましい。また、リン酸カルシウム被覆の形態は、特に限定されるものではなく、種々の形態が可能である。例えば、リン酸カルシウムが層状であっても良いし、微細片状や、微細粒状であっても良い。
【0021】
すなわち、本発明の光触媒複合粒子は、酸化チタンの表面の一部にリン酸カルシウムの被覆層が形成された形態、酸化チタンの表面の一部が微細片状又は微細粒状のリン酸カルシウムが付着して覆われた形態のいずれの形態であっても良い。微細粒状のリン酸カルシウムが、酸化チタン表面に均一に点在する形態が最も好ましく、その場合には、上記被覆率は30%以下、例えば1〜10%程度でも良い。
【0022】
本発明において、分散水溶液をpH4以下に調整するために用いられる酸としては、特に制限されないが、塩酸、硫酸、硝酸、酢酸、蟻酸などを用いることが好ましい。塩酸は、イオン成分が溶媒から飛散しやすく、エマルジョン塗料の貯蔵安定性も良好となるため、好適に用いられる。塩酸の濃度は1〜10Nが好ましく、2〜6Nがより好ましい。また、分散水溶液のpHは1.5〜3.0に調整することが好ましい。pHを上記範囲内とすることにより、分散水溶液中でリン酸カルシウムを十分に溶解させておくことが可能となる。
【0023】
上記酸性の分散水溶液を、該分散水溶液のpHよりアルカリ側に調整して、酸化チタンの表面にリン酸カルシウムを再析出させて付着させた光触媒複合粒子を作製する。この場合、例えば、pH4以下に調整した分散水溶液を、pH5〜11にpH調整するために用いられるアルカリとしては、例えば、アンモニア水、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムを用いることが好ましい。アンモニア水は、イオン成分が溶媒から飛散しやすく、塗膜の耐久性が良好となるので好適に用いられる。アンモニア水の濃度は5〜50%が好ましく、20〜30%がより好ましい。また、pH4以下に調整した分散水溶液のpHは8.0〜10.0にpH調整することが好ましい。pHを上記範囲内とすることにより、酸化チタンの表面でリン酸カルシウムを十分に析出させることが可能となる。
【0024】
次に、上述した成分を用いた光触媒複合粒子の製造工程の一実施の形態例について説明する。共存イオン種を殆ど含有しない純水に、例えば、塩化カルシウムとリン酸を加える。水中では、塩化カルシウムとリン酸が反応して、リン酸カルシウムが得られるが、該リン酸カルシウムは、水に不溶であるため、析出してしまう。しかし、リン酸カルシウムは、酸性下では水に可溶となるため、希塩酸などの酸を加えて、水溶液をpH4以下に調整することで、リン酸カルシウムが溶解した水溶液が得られる。該水溶液に、酸化チタンを分散させ、分散水溶液を調製する。
【0025】
次いで、上記分散水溶液に、アンモニア水などのアルカリを加えて、pH5〜11にpH調整すると、分散水溶液中で溶解していたリン酸カルシウムが酸化チタンの表面で析出するので、酸化チタンがリン酸カルシウムで被覆された光触媒複合粒子が得られる。
【0026】
本発明の先行技術として、例えば、疑似体液を使用して酸化チタン表面にアパタイトを担持させたアパタイト光触媒が知られている。しかし、材料の粒子径分布やモルフォロジー(形態)制御の観点から考えると、従来材では、粒子径分布や形態制御が難しく、粒子径分布や形態にばらつきがあり、分解活性機能の高活性化にも限界があった。また、製法及び生産効率の観点から考えると、従来材では、結晶の成長が遅く、工業製品として生産するには限界があった。
【0027】
これに対して、本発明において、再析出法を用いてリン酸カルシウムを再析出、担持させた材料は、生産性及び品質の点で極めて優れており、簡便かつ短時間で量産可能であり、また、得られる製品は、従来材では達成し得なかった生成物の高精度の組成比制御、粒子径分布、及びモルフォロジー(形態)の制御が達成されており、特に、粒子分布にまとまりがあり、それにより、分解活性も同時に制御され、高活性化されている。
【0028】
本発明で使用するリン酸カルシウムを酸化チタン表面に担持させた光触媒複合粒子、リン酸カルシウムを、再析出法により酸化チタン表面に再析出させ、該酸化チタン表面に多孔質のリン酸カルシウムを均一に担持させた粒子構造を有し、レーザ散乱法測定による該粒子の粒子径分布が80から600nmの範囲に制御されてまとまって存在していること、また、材料中のリン酸カルシウムの存在割合が、0.1〜50wt%であり、更に、材料の体積換算平均粒子径が、50nm〜1000nmであることを特徴とするものである。
【0029】
このように、本発明のエマルジョン塗料の製造方法によれば、上記光触媒複合粒子を、NaやClなどの多くのイオンを含む擬似体液を用いなくとも、簡便に製造することができるので、生産性が良好である。また、エマルジョン塗料とした際にも、後述する樹脂成分の凝集を防ぐことが可能となる。
【0030】
本発明において、光触媒複合粒子の製造工程は、上記の一実施の形態例に限定されるものではない。例えば、分散水溶液の調製の段階は、予め純水に酸を加えて、pH4以下に調整し、その後に、塩化カルシウムとリン酸を加えても良い。また、予め酸化チタンを水中に分散させておいても良い。すなわち、酸化チタンが分散し、かつ、リン酸カルシウムが溶解した分散水溶液が調製できれば、各種成分(塩化カルシウム、リン酸、酸化チタン)は、どのタイミングで加えても良い。
【0031】
このようにして得られる光触媒複合粒子におけるリン酸カルシウムと酸化チタンの質量比は0.1:99.9〜50:50が好ましく、1:99〜25:75がより好ましく、2:98〜20:80が更に好ましい。質量比を上記範囲内とすることにより、酸化チタンの光触媒機能を損なうことなく酸化チタンの表面を被覆することができるので、エマルジョン塗料とした際に、該塗料に含まれる樹脂成分の分解を防ぐことができる。
【0032】
次に、上記第二工程では、第一工程で得られた光触媒複合粒子と後述する樹脂成分を混合して、エマルジョン塗料を製造する。本発明のエマルジョン塗料は、光触媒複合粒子を乾燥粒子としてではなく、その分散液と樹脂成分とを混合することによって得られる。本発明では、乾燥粒子ではなく、分散液として、樹脂成分及び水を混合することにより、光触媒複合粒子の分散性が飛躍的に向上する。
【0033】
ここで、第二工程で用いられる樹脂成分について説明する。本発明で使用される樹脂成分としては、水系の有機系塗料を含むものであれば、特に制限されない。例えば、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、アクリルシリコーン樹脂、エポキシ樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリスチレン樹脂、フッ素樹脂などの合成樹脂エマルジョンが挙げられる。中でもアクリルシリコーン樹脂エマルジョンが好ましい。
【0034】
なお、アクリルシリコーン樹脂中のシリコーン成分の含有量は1〜60質量%が好ましく、5〜40質量%がより好ましい。シリコーン成分が少ないと、樹脂が上述した光触媒複合粒子により分解されやすくなる。一方、シリコーン成分が多すぎると、得られるエマルジョン塗料を重ね塗りした場合に、先に形成された塗膜上に塗料が付着しにくく、新たに形成された塗膜が割れやすくなる。
【0035】
光触媒複合粒子は、エマルジョン塗料全体の固形分比において、1〜20質量%であることが好ましい。より好ましくは2〜15質量%であり、更に好ましくは3〜10質量%である。この範囲より少ないと塗膜中における光触媒複合粒子が少なくなることから、光触媒効果が少なくなり、一方、この範囲よりも多いと塗膜の耐候性が低下する。
【0036】
更に、エマルジョン塗料の固形分は、2〜30質量%であることが望ましい。より望ましくは2〜20質量%であり、更に望ましくは3〜10質量%である。エマルジョン塗料の固形分を上記範囲内とすることにより、形成する塗膜の膜厚が均一なものとなるので望ましい。
【0037】
なお、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、塗料中には、必要に応じて、ブチルセルソルブ、ブチルカルビトール、トリエチレングリコール、テキサノールなどの造膜助剤を用いても良い。また、塗料には、必要に応じて、消泡剤、増粘剤、凍結安定剤、湿潤剤、顔料、水溶性樹脂、浸透助剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤などの添加剤を配合しても良い。
【0038】
このようにして得られるエマルジョン塗料の塗装対象物への塗布は、例えば、刷毛、ローラー、エアスプレー、エアレススプレーなどの通常の方法及び手段により行うことができる。また、塗装対象物の材質の伸縮に追従するよう、形成される塗膜の膜厚は薄くすることが好ましい。塗膜の膜厚は1〜20μmが好ましく、1から10μmがより好ましく、2〜8μmが更に好ましい。膜厚が上記範囲内となることにより、まだらな塗膜が形成されるのを防ぎ、膜厚の均一な塗膜が得られる。更に、膜厚を均一にするために、エマルジョン塗料を複数回重ね塗りすることが好ましい。
【0039】
本発明のエマルジョン塗料の製造方法によれば、光触媒複合粒子をNaやClなどのイオン濃度を増やすことなく簡便に製造することができるので、生産性が良好であり、かつ、エマルジョン塗料とした際も、樹脂成分の凝集も抑制され、貯蔵安定性に優れている。また、該エマルジョン塗料により形成される塗膜は、油分や水分の付着によっても、黄ばみを生じたり劣化したりすることが非常に少なくなり、優れた耐久性と美観保持が得られる。更に、有機系塗料であっても、樹脂成分が酸化チタンと直接接触するのを妨げるため、塗膜が安定である。
【発明の効果】
【0040】
本発明により、次のような効果が奏される。
(1)リン酸イオン及びカルシウムイオンが溶解した酸性溶液から再析出法で再析出させたリン酸カルシウムを酸化チタン表面に形成してなる光触媒複合粒子を塗料に配合して、塗料成分の劣化を抑制可能にした、エマルジョン塗料を提供することができる。
(2)本発明により、酸化チタンの表面にリン酸カルシウムを簡便な工程で被覆させることができ、光触媒複合粒子の生産性を高めると共に、該光触媒複合粒子を含む塗料や塗膜の有機物光分解機能や耐候性を向上できる、エマルジョン塗料の製造方法を提供することができる。
(3)上記エマルジョン塗料より得られる該エマルジョン塗料から形成される塗膜を提供することができる。
(4)再析出法で酸化チタン表面に形成したリン酸カルシウムは、該酸化チタンの表面で均一に析出し、また、本方法では、反応条件等を任意に制御することが可能であり、疑似体液を利用した場合に問題となる他の成分の混入を確実に防止した、高純度のリン酸カルシウムを形成することが可能となる。
(5)共存イオン種による影響のないエマルジョン塗料を製造することができる。
(6)分散液のデカンテーションを行わなくとも、貯蔵安定性が良好で、かつ、優れた光触媒活性を発揮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
次に、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。なお、用いた各試薬のうち、製造者の特記のないものは、和光純薬試薬特級を用いている。pHは、「卓上pHメーターF−21」(株)堀場製作所製を用いて測定した。また、「%」は「質量%」を示す。
【実施例】
【0042】
[試験1:光触媒複合粒子の製造方法の違いによるエマルジョン塗料の評価]
(光触媒複合粒子分散液1の製造)
イオン交換水1Lに、Ca2+が5.97mM、HPO2−が3.59mMになるように塩化カルシウムとリン酸を溶解させ、5N塩酸にてpH1.5の水溶液に調整した。該水溶液に、光触媒用酸化チタン(昭和タイタニウム(株)製「スーパータイタニアF4」)10gを分散させ、分散水溶液を得た。
【0043】
該分散水溶液を、25%アンモニア水にてpH9.0〜10.0に調整して、23℃で6時間撹拌反応させ、酸化チタンの表面にリン酸カルシウムを析出させ、デカンテーションを3回行い、25%アンモニア水で最終pHを9.0に調整して、表1に示す光触媒複合粒子分散液1を調製した。
【0044】
(光触媒複合粒子分散液2の製造)
イオン交換水の配合量を変化させ、光触媒用酸化チタンとして塩酸酸性チタニアゾル(テイカ(株)製「TKS−201(34%)」)29.4gを用いた以外は、光触媒複合粒子分散液1と同様にして、表1に示す光触媒複合粒子分散液2を調製した。
【0045】
(光触媒複合粒子分散液3の製造:従来処方)
光触媒用酸化チタンの10%分散水溶液と、NaCl、KCl、CaCl、KHPO、NaHPOと、イオン交換水を用いて、Naが160mM、Kが3.64mM、Ca2+が5.97mM、Clが169mM、HPO2−が3.59mMとなるように擬似体液を調製した。この擬似体液(1L)に、光触媒用酸化チタン(昭和タイタニウム(株)製「スーパータイタニアF4」)が1%になるように添加し、37℃で6時間撹拌し、反応させた。デカンテーションを3回行い、25%アンモニア水で最終pHを9.0に調整して、表1に示す光触媒複合粒子分散液3を調製した。
【0046】
(光触媒複合粒子分散液4の製造:コンポジット処方)
イオン交換水1Lに、光触媒用酸化チタン(昭和タイタニウム(株)製「スーパータイタニアF4」)10g、リン酸カルシウム(太平化学製「HAP200」)を0.06mMとなるように添加し、分散液を調製した。デカンテーションを3回行い、25%アンモニア水で最終pHを9.0に調整して、表1に示す光触媒複合粒子分散液4を調製した。
【0047】
【表1】

【0048】
(エマルジョン塗料の製造)
上記調製した光触媒複合粒子分散液1〜4を用いて、表2に示す配合にて、実施例1、実施例2、比較例1、及び比較例2のエマルジョン塗料を製造した。表2中、樹脂成分は、商品名「ポリデュレックスG−659」(旭化成ケミカルズ(株)製、固形分42%)を用いた。また、各実施例、比較例には、消泡剤(ビックケミー(株)製「BYK−028」)を0.1%、成膜助剤(イーストマンケミカル(株)製「テキサノール」)を4.0%、増粘剤(サンノプコ(株)製「SNシックナー618」)を適量添加した。更に、25%アンモニア水にて最終pHを9.0に調整して、エマルジョン塗料を得た。得られた各エマルジョン塗料の粘度(フォードカップNo4)を表2に示す。
【0049】
【表2】

【0050】
[光触媒活性評価]
(吸光度測定によるメチレンブルー分解試験)
水系プライマーとして、商品名「水系セラミトーン(ベージュ色:日本塗料工業会塗料用標準色見本帳2003年B版、B15−50B(5Y5R/1)近似色)」(藤倉化成(株)製)をアルミニウム製平板(5cm×5cm)上に塗布し、乾燥後、実施例1と比較例1、2の各エマルジョン塗料をスプレー塗布し、試験体を作成した。
【0051】
前処理として、ブラックライトBLBを用いて、各塗面が1mW/cmの照射強度で受光するように、試験体に3時間以上照射した。次に、アクリル樹脂製リング(外径:45mm、内径:40mm、高さ:30mm)を、非水溶性接着剤を用いて塗面上に固定した。そして、このリング内に吸着液(12ppmメチレンブルー水溶液)を30mL注ぎ入れ、硝子製蓋(50mm×50mcm×0.5mm)で密封し、暗所にて12時間以上静置して、塗膜にメチレンブルー水溶液を十分に吸着させた。
【0052】
その後、吸着液を排出し、リング内を蒸留水で軽く洗浄した後に、8ppmメチレンブルー水溶液を30mL注ぎ入れ、上記硝子製蓋にて、再び蓋をして密封した。ブラックライトBLBを、塗面が1mW/cmの照射強度で受光するように照射し、メチレンブルーの分解による水溶液の脱色の経時変化を吸光度により測定した。吸光度の測定には、デジタル比色計(「miniphoto 10」三紳工業(株)、フィルタ:660nm)を用いた。
【0053】
なお、次の基準にて判定した。その結果を、表3と図1に示す。
◎:72時間経過時に、吸光度が0.5未満
○:72時間経過時に、吸光度が0.5以上、0.7未満
△:72時間経過時に、吸光度が0.7以上、1.0未満
×:72時間経過時に、吸光度が1.0以上
なお、以下の表3〜6において、ブランクとは、光触媒複合粒子分散液の代わりに、純水を配合したものである。
【0054】
【表3】

【0055】
また、実施例2については、リング内に吸着液(8ppmメチレンブルー水溶液)を30mL注ぎ入れ、硝子製蓋(50mm×50mcm×0.5mm)で密封し、暗所にて12時間以上静置して、塗膜にメチレンブルー水溶液を十分に吸着させ、その後、吸着液を排出し、リング内を蒸留水で軽く洗浄した後に、4ppmメチレンブルー水溶液を30mL注ぎ入れ、上記硝子製蓋にて、再び蓋をして密封した以外は、上記の吸光度測定によるメチレンブルー分解試験と同様にして、分解試験を行った。
【0056】
なお、次の基準にて判定した。その結果を、表4と図2に示す。
◎:48時間経過時に、吸光度が0.1未満
○:48時間経過時に、吸光度が0.1以上、0.3未満
△:48時間経過時に、吸光度が0.3以上、0.5未満
×:48時間経過時に、吸光度が0.5以上
【0057】
【表4】

【0058】
(光沢保持率と色差による耐候性試験)
前記試験体に、紫外線照射機「アイスーパーUVテスターW−151」(岩崎電気(株)製)を用いて、ブラックパネル温度が63℃、湿度が50%RH、各塗面が1000mW/cmの照射強度で受光するように、試験体に4時間照射した。その後、槽内の温度を約30℃、湿度を98%RH以上に設定して、4時間保持し、槽内を結露させた。
【0059】
上述した照射と結露を1サイクルとし、120時間毎に光沢保持率と色差の評価を行った。光沢と色差の測定には、光沢計と色差計(「SMカラーコンピューターSM−T型」スガ試験機製)を用いた。
【0060】
なお、光沢保持率は、次の基準にて判定した。その結果を、表5と図3に示す。
◎:480時間経過時に、外観異常がなく、かつ、光沢保持率が80%以上
○:480時間経過時に、外観異常がなく、かつ、光沢保持率が50%以上
△:480時間経過時に、クラック発生などの外観異常が認められるが、光沢保持率が50%以上
×:480時間経過時に、クラック発生などの外観異常が認められ、かつ、光沢保持率が50%未満
【0061】
【表5】

【0062】
また、色差は、次の基準にて判定した。その結果を、表6と図4に示す。
◎:480時間経過時に、外観異常がなく、かつ、色差1未満
○:480時間経過時に、外観異常がなく、かつ、色差1以上3未満
△:480時間経過時に、クラック発生などの外観異常が認められるが、色差1以上3未満
×:480時間経過時に、クラック発生などの外観異常が認められ、かつ、色差3以上
【0063】
【表6】

【0064】
表3〜6と、図1〜4から明らかなように、実施例で得られたエマルジョン塗料は、光沢や色差の劣化が遅く、優れた光触媒活性を発揮できるものであった。特に、塩酸酸性チタニアゾルを用いたエマルジョン塗料は、メチレンブルーの分解に優れ、光触媒活性が良好であった。一方、比較例1、2で得られたエマルジョン塗料は、実施例に比べて、光沢や色差の劣化が早く、光触媒活性が劣るものであった。
【0065】
[試験2:pH調整の際のpH値の違いによるエマルジョン塗料の評価]
(光触媒複合粒子分散液5の製造)
イオン交換水1Lに、Ca2+が1.99mM、HPO2−が1.19mMになるように、塩化カルシウムとリン酸を添加し、5N塩酸にてpH1.5の水溶液に調整して溶解した。該水溶液に光触媒用酸化チタン(昭和タイタニウム(株)製「スーパータイタニアF4」)10gを分散させ、分散水溶液を得た。該分散水溶液を、25%アンモニア水にて、表7に示すpHになるように調整して、酸化チタンの表面にリン酸カルシウムを析出させた。その後、25%アンモニア水で最終pHを表7に示す値に調整して、表7に示す光触媒複合粒子分散液5を調製した。
【0066】
(光触媒複合粒子分散液6〜11の製造)
表7に示すpHの値になるように、25%アンモニア水で調整した以外は、光触媒複合粒子分散液5と同様にして製造し、表7に示す光触媒複合粒子分散液6〜11を調製した。
【0067】
【表7】

【0068】
(エマルジョン塗料の製造)
上記調製した光触媒複合粒子分散液5〜11を用いて、表8に示す配合にて、実施例3〜7、比較例3、及び比較例4のエマルジョン塗料を製造した。表8中、樹脂成分は、商品名「ポリデュレックスH−7000」(旭化成ケミカルズ(株)製、固形分42%)を用いた。
【0069】
また、各実施例には、消泡剤(ビックケミー(株)製「BYK−028」)を0.1%、成膜助剤(イーストマンケミカル(株)製「テキサノール」)を4.0%、増粘剤(サンノプコ(株)製「SNシックナー618」)を適量添加した。更に、最終pH調整値の低い光触媒複合粒子分散液5、8、10を用いた実施例3、6と比較例3は、25%アンモニア水にて最終pHを8.5に調整して、エマルジョン塗料を製造した。得られた各エマルジョン塗料の最終pH値と、粘度(フォードカップNo4)を表8に示す。
【0070】
また、各エマルジョン塗料について、貯蔵安定性試験を行った。
貯蔵安定性試験は、23℃で2ヵ月間保持したエマルジョン塗料の粘度の変化(フォードカップ(秒))を調べたものである。また、2ヵ月後の各エマルジョン塗料について、次の基準にて判定した。その結果を、表8に示す。
◎:水希釈不要
○:10%未満の水希釈で復元する(塗装可能)
△:10%以上の水希釈で復元する(塗装可能)
×:水希釈しても復元しない(塗装不可能)
【0071】
【表8】

【0072】
[光触媒活性評価]
(吸光度測定によるメチレンブルー分解試験)
各エマルジョン塗料について、試験1の実施例2の場合と同様にして、メチレンブルー分解試験を行った。その結果を、表9と図5に示す。なお、以下の表9〜11において、ブランクとは、光触媒複合粒子分散液の代わりに、純水を配合したものである。
【0073】
【表9】

【0074】
(光沢保持率と色差による耐候性試験)
試験1の場合と同様にして、耐候性試験を行った。光沢保持率の結果を、表10と図6に、色差の結果を、表11と図7に示す。
【0075】
【表10】

【0076】
【表11】

【0077】
表9〜11と、図5〜7から明らかなように、実施例のエマルジョン塗料は、製造の際にデカンテーションを行わなくとも、貯蔵安定性が良好で、かつ、優れた光触媒活性を発揮することができる。
【0078】
一方、比較例3のエマルジョン塗料は、実施例と比べて、光沢や色差の劣化が早く、光触媒活性や貯蔵安定性が劣るものであった。これは、エマルジョン塗料に含まれる分散液の最終pH調整値が5未満であったため、リン酸カルシウムが酸化チタンの表面に十分に析出できなかったことによるものと考えられる。また、比較例4のエマルジョン塗料は、実施例と同様の光触媒活性を発揮することはできたが、貯蔵安定性は、本発明の実施例に比べ、劣るものであった。本発明のエマルジョン塗料の製造方法によれば、光触媒複合粒子の生産性を高め、かつ、光触媒活性の優れたエマルジョン塗料を得ることが実現できる。
【産業上の利用可能性】
【0079】
以上詳述したように、本発明は、エマルジョン塗料の製造方法とこれより得られるエマルジョン塗料及び該エマルジョン塗料から形成される塗膜に係るものであり、本発明により、リン酸イオン及びカルシウムイオンが溶解した酸性溶液から再析出法で析出させたリン酸カルシウムを酸化チタン表面に形成してなる光触媒複合粒子を塗料に配合して塗料成分の劣化を抑制可能にしたエマルジョン塗料を提供することができる。また、本発明により、酸化チタンの表面にリン酸カルシウムを簡便な工程で被覆させることができ、光触媒複合粒子の生産性を高めると共に、該光触媒複合粒子を含む塗料や塗膜の有機物光分解機能や耐候性が向上できるエマルジョン塗料の製造方法とこれより得られるエマルジョン塗料及び該エマルジョン塗料から形成される塗膜を提供することができる。本発明では、リン酸カルシウム担持光触媒粒子複合体を簡便な手法で高い生産性で作製することができるため、本発明は、該光触媒粒子複合体を配合したエマルジョン塗料を簡便な工程で高い生産性で製造することができる新しいエマルジョン塗料の生産技術を提供するものとして有用である。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】光触媒活性試験(メチレンブルー分解試験)の結果を示す吸光度の経時変化を示すグラフである。
【図2】光触媒活性試験(メチレンブルー分解試験)の結果を示す吸光度の経時変化を示すグラフである。
【図3】光触媒活性試験(耐候性試験)の結果を示す光沢保持率の経時変化を示すグラフである。
【図4】光触媒活性試験(耐候性試験)の結果を示す色差の経時変化を示すグラフである。
【図5】光触媒活性試験(メチレンブルー分解試験)の結果を示す吸光度の経時変化を示すグラフである。
【図6】光触媒活性試験(耐候性試験)の結果を示す光沢保持率の経時変化を示すグラフである。
【図7】光触媒活性試験(耐候性試験)の結果を示す色差の経時変化を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光触媒複合粒子と樹脂成分とを含むエマルジョン塗料を製造する方法であって、光触媒複合粒子として、酸化チタンが分散し、かつ、リン酸イオン及びカルシウムイオンが溶解した酸性の分散水溶液を、該分散水溶液のpHよりアルカリ側に調整して、酸化チタンの表面にリン酸カルシウムを再析出させて付着させた光触媒複合粒子を作製し、得られた該光触媒複合粒子を光触媒成分として塗料に配合することを特徴とするエマルジョン塗料の製造方法。
【請求項2】
前記酸性の分散水溶液を、アンモニア水を用いてpH調整する、請求項1に記載のエマルジョン塗料の製造方法。
【請求項3】
前記酸化チタンとして、酸性チタニアゾルを用いる、請求項1に記載のエマルジョン塗料の製造方法。
【請求項4】
pH4.0以下の酸性の分散水溶液を、pH5.0〜11.0にpH調整する、請求項1に記載のエマルジョン塗料の製造方法。
【請求項5】
リン酸カルシウムと酸化チタンの質量比を0.1:99.9〜50:50とする、請求項1に記載のエマルジョン塗料の製造方法。
【請求項6】
光触媒複合粒子と樹脂成分とを含むエマルジョン塗料であって、該光触媒複合粒子が、リン酸イオン及びカルシウムイオンを含む溶液から、酸化チタンの表面にリン酸カルシウムを再析出させて付着させてなる、再析出リン酸カルシウムで酸化チタン表面を高純度かつ均一に被覆した高機能性光触媒複合粒子からなり、該光触媒複合粒子が、光触媒成分として塗料に配合されていることを特徴とするエマルジョン塗料。
【請求項7】
請求項6に記載のエマルジョン塗料から形成される塗膜であって、該塗膜の膜厚が1〜20μmであることを特徴とする塗膜。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−150480(P2008−150480A)
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−339215(P2006−339215)
【出願日】平成18年12月15日(2006.12.15)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(000224123)藤倉化成株式会社 (124)
【Fターム(参考)】