説明

エラストマーウェブ、及びそれを用いた可撓性部材

【課題】熱可塑性エラストマーを含有する微細なナノファイバーが集積された柔軟で軽量の薄いエラストマーウェブと、簡便なエレクトロスピニング法により安価に安定して大量に供給できるそれの製造方法とを提供する。
【解決手段】可撓性のエラストマーウェブ1は、熱可塑性エラストマーと界面活性剤とを含む液滴14が電圧印加されつつターゲット電極15へ噴霧されることにより、前記熱可塑性エラストマーと前記界面活性剤とを含有したナノファイバー16が集積されて、形成されたものである。それの製造方法は、熱可塑性エラストマーと界面活性剤と有機溶媒とが含まれた混合液12を電圧印加しながらその液滴14をターゲット電極15へ噴霧して、ターゲット電極15上に、有機溶媒が揮発し熱可塑性エラストマーと界面活性剤とが含有されたナノファイバー16を形成して、そのナノファイバー16が集積したエラストマーウェブ1を製造するというものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性エラストマーを含有した微細なナノファイバーで形成されたエラストマーウェブとその製造方法、及びそれを用いた可撓性部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ナノオーダーの径を有する結晶性の熱可塑性樹脂製のナノファイバーで形成された繊維ウェブを簡便かつ大量に製造する方法として、ポリアクリロニトリル、ポリ乳酸、ポリエチレンオキシドのような結晶性熱可塑性樹脂の溶液に高電圧を印加することによって、その溶液をノズルから噴霧化し、その液滴が電場中で溶媒を揮発させながら陰極へ誘引させ、陰極上に熱可塑性樹脂ナノファイバーが集積した不織布ウェブを形成するという所謂エレクトロスピニング(ES)法が知られている。
【0003】
エレクトロスピニング法で形成した結晶性熱可塑性樹脂のナノファイバーの形態は、その熱可塑性樹脂の分子量、溶液の濃度や表面張力や誘電率などの様々なパラメータに、強く依存している。しかし同じくエレクトロスピニング法で、結晶性の熱可塑性樹脂と同様にして、非晶性の熱可塑性エラストマーのナノファイバーを作製しようとしても、弾性のエラストマーが延伸性に乏しいため、またそれらパラメータの最適化が困難であるために、繊維化し難い。
【0004】
特許文献1に、エレクトロスピニング法でなくキャストによる製膜法で作製したもので、非結晶性の熱可塑性エラストマーとカーボンナノファイバーとを含む膜からなる高分子柔軟電極が、開示されている。
【0005】
キャストのような面倒な操作を必要とする製膜法によって作製された通気性に欠ける製膜よりも、一層柔軟かつ薄くて軽量であり必要に応じ優れた導電性を付与できる熱可塑性エラストマー製のナノファイバーで形成された繊維であって、キャストによる製膜法よりも簡便なエレクトロスピニング法で大量に製造可能である可撓性のエラストマーウェブが望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−227001号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は前記の課題を解決するためになされたもので、熱可塑性エラストマーを含有する微細なナノファイバーが集積された柔軟で軽量の薄いエラストマーウェブと、簡便なエレクトロスピニング法により安価に安定して大量に供給できるエラストマーウェブを製造する方法と、そのエラストマーウェブを用いた可撓性部材とを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の目的を達成するためになされた特許請求の範囲の請求項1に記載の可撓性のエラストマーウェブは、熱可塑性エラストマーと界面活性剤とを含む液滴が電圧印加されつつターゲット電極へ噴霧されることにより、前記熱可塑性エラストマーと前記界面活性剤とを含有したナノファイバーが集積されて、形成されていることを特徴とする。
【0009】
請求項2に記載のエラストマーウェブは、請求項1に記載されたもので、前記熱可塑性エラストマーが、スチレン系熱可塑性エラストマー、オレフィン系熱可塑性エラストマー、塩化ビニル系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリエーテル系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマー、及び/又は天然ゴムであることを特徴とする。
【0010】
請求項3に記載のエラストマーウェブは、請求項1に記載されたもので、前記界面活性剤が、カチオン界面活性剤及び/又はアニオン界面活性剤であることを特徴とする。
【0011】
請求項4に記載のエラストマーウェブは、請求項1に記載されたもので、前記ナノファイバーに、カーボンナノファイバーがさらに含有されていることを特徴とする。
【0012】
請求項5に記載の可撓性のエラストマーウェブを製造する方法は、熱可塑性エラストマーと有機溶媒と界面活性剤水溶液とが含まれた混合液を電圧印加しながらその液滴をターゲット電極へ噴霧して、前記ターゲット電極上に、前記有機溶媒が揮発し前記熱可塑性エラストマーと前記界面活性剤とが含有されたナノファイバーを形成して、そのナノファイバーが集積した可撓性のエラストマーウェブを得るというものである。
【0013】
請求項6に記載の方法は、請求項5に記載されたもので、前記混合液中、前記熱可塑性エラストマーが3〜20重量%、前記界面活性剤水溶液が前記有機溶媒に対して0.01〜0.5の重量比で、夫々含まれていることを特徴とする。
【0014】
請求項7に記載の方法は、請求項5に記載されたもので、前記界面活性剤水溶液中、前記界面活性剤が1〜10重量%含まれていることを特徴とする。
【0015】
請求項8に記載の方法は、請求項5に記載されたもので、前記混合液中に、カーボンナノファイバーが、前記熱可塑性エラストマーに対し最大でも0.5の重量比で含まれており、前記ナノファイバーに、前記カーボンナノファイバーが含有されていることを特徴とする。
【0016】
請求項9に記載の可撓性部材は、熱可塑性エラストマーと界面活性剤とを含有したナノファイバーが集積されている可撓性のエラストマーウェブからなる繊維素材であり、またはその繊維素材が柔軟基材の表面の少なくとも一部に付されていることを特徴とする。
【0017】
請求項10に記載の可撓性部材は、請求項9に記載されたもので、前記ナノファイバーに、カーボンナノファイバーがさらに含有されている前記繊維素材からなる柔軟電極が、前記可撓性基材に付されたエレクトロデバイスであることを特徴とする。
【0018】
請求項11に記載の可撓性部材は、請求項10に記載されたもので、前記エレクトロデバイスが、高分子アクチュエータ、キャパシタ、スイッチング器、又はセンサーであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明のエラストマーウェブは、サブミクロンからナノオーダーの径を有する微細な熱可塑性エラストマー製ナノファイバーが集積して形成された熱可塑性エラストマーと界面活性剤とからなる繊維であると、高い初期弾性・延伸性・強靭性を有し、軽量であり、薄くても丈夫であって柔軟で破断し難い優れた可撓性を示し、しかも滑らかで肌触りの良いものである。またこのエラストマーウェブは、優れた導電性を有するカーボンナノファイバーが熱可塑性エラストマー製ナノファイバーにさらに含有されていると、高い導電性を示しつつ、大きな変形に追随できる優れた可撓性を示す。
【0020】
本発明のエラストマーウェブを製造する方法によれば、簡便なエレクトロスピニング法により、微細なナノファイバーが集積した均質で高品質の不織布のエラストマーウェブを、大量かつ効率良く、安価に得ることができる。
【0021】
また、本発明の可撓性部材は、熱可塑性エラストマーと界面活性剤とからなるエラストマーウェブで形成された繊維素材であると、柔軟で破断することなく延伸したり変形したりでき、しかも適度な透湿性を有し衛生的である。そのため、皮膚等の人体に直接接触する衛生用品や医療用具の繊維素材として、用いることができる。
【0022】
また、可撓性部材は、カーボンナノファイバーをさらに含有するエラストマーウェブからなる繊維素材で形成された柔軟電極が、可撓性基材に付されたエレクトロデバイスであると、柔軟電極に電圧を印加してその電極を電場駆動させても、大きな導電性を有しつつ、柔軟電極がその大きな変形に追随できる。そのため、破断することなく延伸したり変形したりするという優れた可撓性を示すので、小型で携帯できる各種電気製品に、用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明を適用するエラストマーウェブを製造する方法を示す概要図である。
【図2】本発明を適用するエラストマーウェブを製造する際の熱可塑性エラストマー濃度毎において得られたエラストマーウェブの電子顕微鏡写真を示す図である。
【図3】本発明を適用するエラストマーウェブを製造する際の界面活性剤の量と、ナノファイバーの径との相関関係を示す図である。
【図4】本発明を適用するエラストマーウェブを製造する際のカーボンナノファイバー量毎において得られたエラストマーウェブの電子顕微鏡写真を示す図である。
【図5】本発明を適用するカーボンナノファイバーを含有するエラストマーウェブの拡大した電子顕微鏡写真を示す図である。
【図6】本発明を適用するエラストマーウェブ中の熱可塑性エラストマーに対するカーボンナノファイバーの重量比と、エラストマーウェブの抵抗値との相関関係を示す図である。
【図7】本発明を適用するエラストマーウェブ中、及び本発明を適用外のエラストマー薄膜中の熱可塑性エラストマーに対するカーボンナノファイバーの重量比と、エラストマーウェブ及びエラストマー薄膜の初期弾性率との相関関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を実施するための形態を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの形態に限定されるものではない。
【0025】
本発明のエラストマーウェブの好ましい形態は、熱可塑性エラストマーとしてポリスチレン−ポリ(エチレン−エチレン/プロピレン)ブロック−ポリスチレンと、界面活性剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムと、気相法で調製した炭素繊維カーボンナノファイバーとを含有したナノファイバーが、集積されている可撓性のエラストマーウェブである。
【0026】
このナノファイバーは、繊維径例えばその平均繊維径が、サブミクロンからナノオーダー、例えば1〜2500nmであることが好ましく、1000nm以下であるとなお一層好ましい。
【0027】
このようなエラストマーウェブの製造方法の好ましい形態は、エレクトロスピニング法によるもので、その製造途中を示す図1を参照して説明すると、以下の通りである。
【0028】
熱可塑性エラストマーであるポリスチレン−ポリ(エチレン−エチレン/プロピレン)ブロック−ポリスチレンと、カーボンナノファイバーと、界面活性剤であるドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム水溶液とを、有機溶媒であるクロロホルムに分散させて、乳化した混合液を調製する。その混合液12を、シリンジ11に注入する。シリンジ11先端に装着されているノズル13を陽極とし、ノズル13の先方に配置されたドラム型のターゲット電極15を陰極とし、高圧電圧を印加する。するとノズル13で、乳化した混合液の液滴が形成され、電場中でターゲット電極15側へ誘引され、正帯電した液滴の先端が略円錐状のテイラーコーンとなり、そこからスプレー状になって液滴粒子が噴霧される。液滴粒子は、有機溶媒や水が蒸発しながら、ターゲット電極15へ到達し、熱可塑性エラストマーと界面活性剤とカーボンナノファイバーとからなるナノファイバー16が、ターゲット電極15表面上に付着する。順次ナノファイバー16が堆積して集積され、終にはエラストマーウェブ1が形成される。ドラム型のターゲット電極15を回転させながら、エラストマーウェブ1を、巻取機(不図示)で巻取り、不織布の繊維束とする。
【0029】
非晶性で弾性の熱可塑性エラストマーが延伸性に乏しいにも関わらず、このようなエラストマーウェブが、エレクトロスピニング法で、形成できる機構は、必ずしも明らかではないが、下記のように推察される。
【0030】
界面活性剤を含有しない熱可塑性エラストマーの有機溶媒溶液を、エレクトロスピニング法で繊維化しようとしても、その溶液が十分に帯電せず、静電反発力が表面張力に勝らない結果、液滴とならず噴霧できないために液垂れしてしまう所為で、ターゲット電極へ到達し難くなり、繊維ウェブが形成されない。一方、本発明のエラストマーウェブの製造方法によれば、熱可塑性エラストマーと界面活性剤との水−有機溶媒の混合液が、乳化していることにより、誘電率の増加及び表面張力の低下が生じる。これによって、高電圧を印加したときに、乳化した混合液の液滴の静電反発が表面張力に勝る結果、液滴のテイラーコーンの先端で、微細なスプレー状となるマルチ化が生じて液滴の微細粒子が噴霧されるようになり、ターゲット電極へ到達でき、エラストマーウェブが形成される。
【0031】
このようなエラストマーウェブは、繊維素材であり柔軟電極となるものであり、柔軟基材の表面の一部に付されていると、高分子アクチュエータ、キャパシタ、スイッチング器、センサーのようなエレクトロデバイスとして用いられる。
【0032】
エラストマーウェブとして、熱可塑性樹脂と界面活性剤とカーボンナノファイバーとからなる例を示したが、カーボンナノファイバーを有していなくてもよい。カーボンナノファイバーを有しないエラストマーウェブは、包帯、絆創膏の基材のような医療材料として、微細な通気孔を有するので、粉塵や微生物などを遮断するマスクや機能性フィルターやセパレーターとして用いられる。
【0033】
熱可塑性エラストマー、界面活性剤、カーボンナノファイバー、有機溶媒は、前記の好ましい形態で示したものの他、特に限定されない。
【0034】
熱可塑性エラストマーは、ゴム成分の軟質セグメントと樹脂成分の硬質セグメントとからなるブロック共重合体やブレンド体や単重合体のようなものである。例えば、スチレン系熱可塑性エラストマー、具体的にはポリスチレン−ポリ(エチレン/プロピレン)ブロック共重合体であるセプトンSEP(株式会社クラレ製、セプトンは登録商標)、ポリスチレン−ポリ(エチレン/プロピレン)ブロック−ポリスチレン共重合体であるセプトンSEPS(株式会社クラレ製)、ポリスチレン−ポリ(エチレン/ブチレン)ブロック−ポリスチレン共重合体であるセプトンSEBS(株式会社クラレ製)、ポリスチレン−ポリ(エチレン−エチレン/プロピレン)ブロック−ポリスチレン共重合体であるセプトンSEEPS(株式会社クラレ製)、ポリスチレン−ポリブタジエン共重合体の水素添加物、ポリスチレン−ポリイソプレンの水素添加物;オレフィン系熱可塑性エラストマー、具体的にはポリプロピレン(PP)とエチレン−プロピレンゴム(EPM)とが分散したブレンド体、ポリプロピレンとエチレン−プロピレン−ジエン−メチレンゴム(EPDM)とが分散し又は架橋したブレンド体;塩化ビニル系熱可塑性エラストマー、具体的には結晶性ポリ塩化ビニルと非晶性ポリ塩化ビニルとの共重合体;ポリエステル系熱可塑性エラストマー、具体的にはポリエチレンテレフタレートのようなポリエステルとポリエーテルとの共重合体;ポリウレタン系熱可塑性エラストマー、具体的にはポリウレタンとポリエーテル/ポリエステルとの共重合体;ポリアミド系熱可塑性エラストマー、具体的にはポリアミドとポリエーテル/ポリエステルとの共重合体;天然ゴムが挙げられる。
【0035】
界面活性剤は、例えば、カチオン界面活性剤、具体的にはドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムのようなアルキルアリールスルホン酸塩、アルキルスルホン酸塩、アルキル硫酸塩、高級脂肪酸アルカリ塩のような脂肪酸塩;アニオン界面活性剤、具体的には有機アンモニウム塩が挙げられる。混合液中に前記量の範囲内で含有されていると、エレクトロスピニング法により優れたエラストマーの繊維を形成することができ、それに対応する量だけエラストマーウェブ中に含有される。
【0036】
有機溶媒は、熱可塑性エラストマーを溶解させたりカーボンナノファイバーを分散させたりするもので、クロロホルムやジクロロメタンのようなハロゲン化炭化水素系溶媒、n−ヘキサンのような飽和炭化水素系溶媒で例示される非水溶性又は難水溶性の有機溶媒が挙げられる。
【0037】
カーボンナノファイバーは、繊維径が1〜1000nm程度のナノオーダーで、繊維長が最大10μm程度という高結晶性の微細炭素繊維であり、具体的には気相法炭素繊維であるVGCF(昭和電工株式会社製;VGCFは登録商標)が挙げられる。カーボンナノファイバーは、混合液中に前記量の範囲内で含有されていると、それに対応する量だけエラストマーウェブ中に含有され、優れた導電性を示す。
【0038】
ターゲット電極15はドラム型のものを示したが、平板型であってもよい。
【0039】
柔軟性基材は、電場駆動でき電極への電界の印加により伸縮に応じて変形するようなプラスチック製のものであれば特に限定されないが、例えば厚さ約50μmのポリエチレンテレフタレート(PET)板が挙げられる。
【実施例】
【0040】
本発明のエラストマーウェブ及びそれを柔軟電極として用いたエレクトロデバイスを試作した例を実施例1〜3に示し、本発明を適用外のエラストマーウェブ及びエレクトロデバイスを試作した例を比較例1〜2に示す。
【0041】
(実施例1)
熱可塑性エラストマーとして3重量%、4重量%、及び5重量%のポリスチレン−ポリ(エチレン−エチレン/プロピレン)ブロック−ポリスチレン共重合体であるセプトンSEEPS4055(株式会社クラレ製、商品名、スチレン含有量30%)のクロロホルム溶液に夫々、界面活性剤として、そのセプトン溶液中のクロロホルムに対する水溶液重量比で0.15である5重量%ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(SDS)水溶液を加えて、2時間超音波処理し乳化させた混合液を調製した。図1に示すエレクトロスピニング法に従い、その混合液をシリンジ11に入れ、20kVの高電圧を印加すると、ノズル13から混合物12の液滴14がターゲット電極15へ到達して、電極のドラム上に、エラストマーウェブ1が形成された。セプトン濃度毎に得られた何れのエラストマーウェブとも可撓性の繊維体であった。走査型電子顕微鏡(SEM)による各エラストマーウェブの電子顕微鏡写真を、図2に示す。図2から明らかな通り、4重量%セプトン溶液から得たエラストマーウェブは、3重量%又は5重量%の溶液から得たものよりも、密であり且つ均一であった。
【0042】
(比較例1)
界面活性剤を用いなかったこと以外は、実施例1と同様にして、エレクトロスピニング法に従い、エラストマーウェブを作製しようとしたが、繊維化しなかった。
【0043】
(実施例2)
4重量のセプトンSEEPS4055のクロロホルム溶液に、そのセプトン溶液中のクロロホルムに対する水溶液重量比で0.10、0.15、及び0.20である5重量%ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(SDS)水溶液を加えたこと以外は、実施例1と同様にして、エラストマーウェブを得た。SDSの重量比毎に得られた何れのエラストマーウェブとも可撓性の繊維体であった。界面活性剤であるSDSの量と、ナノファイバーの径との相関関係を、図3に示す。図3から明らかな通り、SDSの溶液が重量比で0.15であるときのエラストマーウェブは、その重量比が0.1又は0.2であるときのものよりも、ナノファイバーの径は、その標準偏差が小さく、略均一で、ばらつきが小さかった。
【0044】
(実施例3)
4重量%のセプトンSEEPS4055のクロロホルム溶液に、そのセプトン溶液中のクロロホルムに対する水溶液重量比で0.15である5%ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(SDS)水溶液と、セプトンに対し重量比で0と、0.05と、0.10と、0.25と、0.35と、0.45との気相法炭素繊維カーボンナノファイバーであるVGCF(昭和電工株式会社製;登録商標)とを加えたこと以外は、実施例1と同様にして、エラストマーウェブを得た。VGCF量毎に得られた何れのエラストマーウェブとも可撓性の繊維体であった。走査型電子顕微鏡(SEM)による各エラストマーウェブの電子顕微鏡写真を、図4に示す。図4から明らかな通り、VGCFが重量比で0のエラストマーウェブ(同図(a))は、繊維表面が滑らかであった。VGCFが重量比で0.05、0.10又は0.25のエラストマーウェブ(同図(b)〜(d))は、繊維が密であった。VGCFが重量比で0.45のエラストマーウェブ(同図(f))は、繊維部分が幾分少なく、多数のビーズが観察された。一方、VGCFが重量比で0.35のエラストマーウェブ(同図(e))は、多数の凹凸が観察された。それのさらに拡大写真である図5に示すように、ナノファイバーの繊維の一本毎に、多数のVGCFの突き出しが多数確認されたことから、VGCFがナノファイバーの繊維に収まりきらなくなったため、多数の凹凸を生じたものである。
【0045】
これらVGCFを含有するエラストマーウェブについて、柔軟電極の応用について検討するため抵抗値を測定した。抵抗値測定は、縦横1cm四方のエラストマーウェブをスライドガラスで挟みつつ50g加重し、エラストマーウェブの両端から100Vの電圧を印加し、電流値を実測し、抵抗値を算出することにより、求めた。カーボンナノファイバーVGCFの重量比と、エラストマーウェブの抵抗値との相関関係を、図6に示す。図6から明らかな通り、抵抗値は、VGCF重量比が0〜0.25の間であるエラストマーウェブで1×1011Ω程度と高抵抗値であったが、VGCF重量比が0.35のエラストマーウェブで急激に低下し約1×10Ωと低抵抗値であった。このことは、VGCF重量比の増加に伴い、ナノファイバーの繊維に内在したり外部に突き出たりしたVGCFが互いに接触し易くなったために、導電性が急激に増加したためであると推察される。
【0046】
これらVGCFを含有するエラストマーウェブについて、柔軟電極の応用について検討するため初期弾性率を測定した。初期弾性率測定は、縦2cm×横1cmのエラストマーウェブの両端を、テンシロン引張試験機の二つのクランプに固定した。両クランプを互いに引き離すことによりエラストマーウェブを延伸し、夫々引張試験を行い、初期弾性を求めた。図7に、カーボンナノファイバーVGCFの重量比と、エラストマーウェブの初期弾性率との相関関係を、示す。
【0047】
(比較例2)
実施例6のエレクトロスピニング法に代えて、混合液から薄膜を調製するキャスト法により、セプトンに対するVGCFの重量比の異なるエラストマー薄膜を形成させた。その薄膜について、実施例3と同様にして、初期弾性率を測定した。その結果を、図7に示す。
【0048】
実施例3と比較例2とに関し図7から明らかな通り、エレクトロスピニング法による実施例3のエラストマーウェブは、VGCFの量の増加に関わらず、初期弾性率は低かった。このことは、エラストマーウェブの無数の空隙により柔軟性を保持したためであると推察される。この結果から、このエラストマーウェブは駆動に追従することが示された。それに対し、キャスト法による比較例2のエラストマー薄膜は、VGCFの量が増加するに従って、初期弾性率も増加した。この結果から、このエラストマー薄膜は、駆動を阻害することが示された。このように、VGCFの高濃度領域において、エレクトロスピニング法によるエラストマーウェブはキャスト法によるエラストマー薄膜よりも、高い柔軟性を有することが示された。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明のエラストマーウェブは、柔軟であって、滑らかであり肌触りが良く、安全であるので、包帯、ガーゼ、絆創膏の基材などの衛生材料、マスクや機能性フィルターなどの医療材料、セパレーターとして用いることが可能である。特にエラストマーウェブがカーボンナノファイバーを含有していると柔軟電極として用いることができるので、高分子アクチュエータ、キャパシタ、スイッチング器、又はセンサーとして、有用である。
【符号の説明】
【0050】
1はエラストマーウェブ、11はシリンジ、12は熱可塑性エラストマーと界面活性剤との混合液、13はノズル、14は液滴、15はターゲット電極、16はナノファイバーである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性エラストマーと界面活性剤とを含む液滴が電圧印加されつつターゲット電極へ噴霧されることにより、前記熱可塑性エラストマーと前記界面活性剤とを含有したナノファイバーが集積されて、形成されていることを特徴とする可撓性のエラストマーウェブ。
【請求項2】
前記熱可塑性エラストマーが、スチレン系熱可塑性エラストマー、オレフィン系熱可塑性エラストマー、塩化ビニル系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリエーテル系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマー、及び/又は天然ゴムであることを特徴とする請求項1に記載のエラストマーウェブ。
【請求項3】
前記界面活性剤が、カチオン界面活性剤及び/又はアニオン界面活性剤であることを特徴とする請求項1に記載のエラストマーウェブ。
【請求項4】
前記ナノファイバーに、カーボンナノファイバーがさらに含有されていることを特徴とする請求項1に記載のエラストマーウェブ。
【請求項5】
熱可塑性エラストマーと有機溶媒と界面活性剤水溶液とが含まれた混合液を電圧印加しながらその液滴をターゲット電極へ噴霧して、前記ターゲット電極上に、前記有機溶媒が揮発し前記熱可塑性エラストマーと前記界面活性剤とが含有されたナノファイバーを形成して、そのナノファイバーが集積した可撓性のエラストマーウェブを製造する方法。
【請求項6】
前記混合液中、前記熱可塑性エラストマーが3〜20重量%、前記界面活性剤水溶液が前記有機溶媒に対して0.01〜0.5の重量比で、夫々含まれていることを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記界面活性剤水溶液中、前記界面活性剤が1〜10重量%含まれていることを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記混合液中に、カーボンナノファイバーが、前記熱可塑性エラストマーに対し最大でも0.5の重量比で含まれており、前記ナノファイバーに、前記カーボンナノファイバーが含有されていることを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項9】
熱可塑性エラストマーと界面活性剤とを含有したナノファイバーが集積されている可撓性のエラストマーウェブからなる繊維素材であり、またはその繊維素材が柔軟基材の表面の少なくとも一部に付されていることを特徴とする可撓性部材。
【請求項10】
前記ナノファイバーに、カーボンナノファイバーがさらに含有されている前記繊維素材からなる柔軟電極が、前記可撓性基材に付されたエレクトロデバイスであることを特徴とする請求項9に記載の可撓性部材。
【請求項11】
前記エレクトロデバイスが、高分子アクチュエータ、キャパシタ、スイッチング器、又はセンサーであることを特徴とする請求項10に記載の可撓性部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−275675(P2010−275675A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−132093(P2009−132093)
【出願日】平成21年6月1日(2009.6.1)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、文部科学省、科学技術総合研究委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504180239)国立大学法人信州大学 (759)
【Fターム(参考)】