説明

エラストマー成形品の製造方法及び電子写真用ブレード

【課題】離型層を有する成形型内でのエラストマー成形品の製造方法において、容易に離型層を形成できて寸法精度が向上した、かつ離型層材料の使用量を減らして、必要に応じて成形品表面に必要な表面粗さを付与できる手法を提供する。
【解決手段】JIS K6300に基づく100℃におけるtc(10)が0.1分以上15分以下であり、かつ、23℃における粘度が0.5Pa・s以上、50Pa・s以下である液状ポリシロキサンを硬化して離型層を形成した成形型を用いる。離型層表面に液状ポリシロキサンが固化する過程において、必要に応じて1乃至30μmの微粒子を付与して粗さ形成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エラストマー成形品の製造方法及び該製造方法で製造された電子写真用ブレードに関する。
【背景技術】
【0002】
現像ブレード、クリーニングブレード等の電子写真用ブレードとしては、均一な厚みのシート状のゴム部材(ブレード部材)を支持部材に結合させたものが一例として挙げられる。現像ブレードの場合、ゴム部材の厚みは現像剤担持体との当接圧を決めるために重要であり、トナーのコート量も支配するので、高い精度で厚みが管理されることが要求される。すなわち、高品質な画像を安定して形成するために、高いゴム成形精度の加工方法を確立することが重要である。
【0003】
このような、特にゴム部材に、高い厚み精度が要求される部材においては、その製造に遠心成形法が用いられることが多い。遠心成形法の有利な点は、高い厚み精度が容易に達成できることである。遠心成形法は、原料の投入量で自在に厚みが調整でき、硬化速度や成形品硬度が異なる処方のものでも同一の生産装置で製造することができるので、汎用性が高い。一方、この成型法は、安定した生産には、成形型に良好な離型手段を予め施すことが必要である。
【0004】
遠心成形法ではオイル性の離型剤を用いる場合が多い。例えば、パラフィン系オイル、シリコーン系オイル、フッ素系化合物などの離型剤を適当な濃度に希釈して成形型表面に塗布し、成形品との固着を防ぎ、良好な生産加工性が達成される。しかし、オイル性の離型剤は成形型表面から脱離して成形品に付着した場合には、その成形品の用途によっては大きな問題となってしまう場合がある。例えば、電子写真用ブレードの場合、離型剤のオイル成分が移行すると、板状の支持部材との接着では接着性の低下になり、オイル成分が移行し付着した面が現像剤担持体との当接面である場合はオイル成分由来の画像不良を起こす原因となる。また生産性の観点からも、オイル成分の離型性塗膜を均一に形成するには、型成形機内の成形型の内面を高い頻度で清掃する必要があるなど不都合が多い。
【0005】
他の離型手段としてはシリコーン樹脂やフッ素樹脂を成形型に焼き付けて離型性被膜を設ける方法があり、これによると、一度の前処理で繰り返し成形品を製造できる。被膜を設ける方法は一回の下地処理で何度も長期にわたって繰り返し成形できるメリットを有する。しかし、オイル性の離型手段とは異なり、被膜表面が変質して離型性が低下したり、被膜に欠損などが起きたりしたときには、その再塗工に非常に手間がかかってしまう。すなわち、再塗工するには、離型性が低下した被膜を完全に除去し、成形型面を清掃する必要がある。この清掃作業には、強アルカリの洗浄液が必要とされ、除去作業に手間がかかり、結果作業時間が長くなるなど、デメリットも大きい。また、特に電子写真用ブレード部材の製造において、耐磨耗性能から好ましく用いられる熱硬化性ポリウレタンエラストマーでは、イソシアネート成分は化学的反応活性が高いので、離型性の被膜をすぐに変質し、離型性の低下、汚染、異物付着等が起きてしまう。
【0006】
オイル性の離型剤を用いない手法の一例として、例えば成形型の内面にポリシロキサン系の材料で硬化した被膜を形成し離型手段としているものがある。このような方法であると、汚れが起きることが少なく良好な離型性が継続できる(例えば特許文献1)。
【0007】
また、このような成型機内に離型手段を設ける手法でさらに生産効率を向上される事例としては、成形型の内周面に剥離可能に接合された保持層を設け、その上にシリコーンゴムの層を設けてこれを離型層とし、オイル性の離型剤を使用することなく繰り返し成形が可能な手法が提案されている(例えば特許文献2)。この手法では離型性が低下した場合には、毎回その層を張り替えることなく、上から再度、シリコーン層をたすことによって成形加工性の回復を容易に行なえる手法が提案されている。さらに、離型層そのものの交換が必要になった場合には離型層の下にある剥離可能にした保持層と共にはずすことによって容易に交換が可能になっており、交換のメンテナンスを容易にしている。また、保持層を設けることによって成型機の振れを吸収して精度を高める役割も果している。これらの技術は電子写真用ブレード部材に用いられるエラストマー材料の重要な製品管理項目である高い厚み精度と、生産性を向上させるための良好な加工性を実現するために発案されてきた手法である。
【0008】
以上のように、電子写真用のブレード部材の成形には、成形型にシリコーンからなる層を形成させてこれを離型手段とし、繰り返し使用できる生産加工方法が多く用いられている。
【0009】
ところが、近年の電子写真技術の進歩とニーズの向上、高速化や高画質化への対応をとるために材料としての処方技術や成形精度における加工技術だけでは満足のできる製品スペックに到達することが難しくなってきた。ところで、現像装置に由来する画像ムラ、画像スジ、ゴーストなどの発生を防止するには現像剤担持体上に均一に現像剤担持体を薄層化しなくてはならない。そのためには現像ブレードと現像スリーブの当接部において所定のトリボ(摩擦帯電)を付与しなければならない。そのような問題の対策のために現像ブレードの現像剤担持体との接触面の表面粗さをコントロールすることにより、トナーに均一にトリボを付与できる手法が提案されている(特許文献3)。この時の現像ブレードにおける現像剤担持体との接触面の表面粗さ(十点平均粗さ(Rzjis))が5μm乃至25μmの範囲にあることが特に好ましいとされている。
【0010】
これらの事例から電子写真用ブレードには、単なる、容易に寸法精度良く作製する成形技術や生産性の向上だけではなく、同時に付加価値として表面性のコントロール技術との融合が求められている。
【特許文献1】特開2003−231142号公報
【特許文献2】特開2004−025846号公報
【特許文献3】特開2006−098498号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って、本発明は、内面に離型層を有する成形型内でエラストマーを加工する際に、容易に離型層が形成でき、寸法精度の向上、離型層材料の使用量の削減が可能であり、必要により、成形品表面の表面粗さも容易に付与できる加工方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討し、特定の硬化特性、流動性を有する液状ポリシロキサンを成形型内で硬化させて離型層を形成したならば、エラストマーの加工が良好かつ容易に行えることを見出し、ついに本発明に至った。
【0013】
すなわち、本発明は、以下に記載するとおりである。
【0014】
(1)離型層を有する成形型内でエラストマー原料を硬化するエラストマー成形品の製造方法であって、
該離型層が、JIS K6300−2:2001に基づく100℃におけるtc(10)が0.1分以上15分以下であり、かつ、JIS K7117−2:1999に基づく23℃における粘度が0.5Pa・s以上50Pa・s以下である液状ポリシロキサンを成形型内で硬化して形成されている
ことを特徴としたエラストマー成形品の製造方法。
【0015】
(2)成形型内の離型層表面に、粒子径1μm以上30μm以下の微粒子が露出して、凹凸を形成していることを特徴とする上記(1)のエラストマー成形品の製造方法。
【0016】
(3)前記液状ポリシロキサンが、JIS K6300−2:2001に基づく100℃におけるtc(90)が20分以上60分以下であることを特徴とする上記(1)又は(2)のエラストマー成形品の製造方法。
【0017】
(4)成形型が遠心成形用であることを特徴とする上記(1)乃至(3)のいずれかのエラストマー成形品の製造方法。
【0018】
(5)前記エラストマーが、熱硬化性ポリウレタンエラストマーであることを特徴とする上記(1)乃至(4)のいずれかのエラストマー成形品の製造方法。
【0019】
(6)ブレード部材が、上記(5)のエラストマー成形品の製造方法で作製されたものであることを特徴とする電子写真用ブレード。
【発明の効果】
【0020】
本発明の製造方法では、遠心成形型内でのエラストマーの成形品の製造、特に電子写真用ブレードのゴム部材の製造において、良好な成形加工性を有しながら、表面精度が高く、かつ、該離型層材料の使用量が低減されている。さらに本発明の製造方法では、必要に応じて、表面に所定の粗さが形成されたエラストマー成形品が製造できる
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明は成形型内に予め離型層を形成させ、エラストマー原料を投入してなるエラストマー成形品の製造方法に関するもので、特に離型層材料の特性に着眼し成形方法の向上と成形品に付加価値を与えるものである。
【0022】
本発明のエラストマー成形品の製造方法では、以下の1)乃至3)が達成されている。
1)成形品の厚み精度が良好である。
2)高価なポリシロキサンの使用量が少量であっても均一な離形層を形成することができるので、コストメリットが大きい。
3)電子写真用ブレードの生産方法においては、表面に必要な粗さを容易に付与することができ、しかもその粗さが繰り返し成形を行っても継続的に維持されている。
【0023】
まず初めに、成形型内に離型層を形成させた成形型を用いるエラストマーの一般的な成形方法について、遠心成形型を用いた例で解説する。なお、遠心成形型で解説するが、遠心成形に限らず、例えば断面が凹型の溝が入った形状やスラッシュ成形など成形型内に離型層を有し、その上に成形材料が投入される成形方法であれば同じ原理であるので特に方法は問わない。
【0024】
図1は本発明を実施するための遠心成形型の一例の斜視図である。また、図2及び図3は、図1のような成形装置において本発明を実施するにあたって詳細を説明するための部分断面図である。
【0025】
遠心成形型10は断面が凹状の溝部分を有し、ここに遠心成形型内周面10aがある。また、円周形状の中心軸10bに回転可能な機構が設けられており、流し込まれた材料が成形型の回転により遠心されて広がるようになっている。さらにこの成形型は周囲に加熱して温度制御が可能な槽(不図示)を具備しており、任意の成形温度に調整できるようになっている。遠心成形型内周面10aには離型手段が施されており、回転している遠心成形型内にエラストマー原料が投入され、熱硬化後に脱型され成形品とされる。
【0026】
このような成形方法において、従来は、オイル性の離型剤被膜や焼き付け型の離型剤被膜であったが、本発明ではポリシロキサンからなる層を成形型内面に形成し、離型層11aとする。なお、成形型内面に離型層を形成するのに用いるポリシロキサンは離形層を形成すること可能であれば、様々なシリコーン材料から選ぶことができる。例えば、硬化反応のタイプでは付加反応型、縮合反応型があり、成分数からは一成分硬化型や二成分硬化型などがある。単に成形型内周面に離型層としてポリシロキサン層を形成するだけならばミラブルタイプを除いて殆どのポリシロキサンが使用可能である。しかし、成形品の表面精度が高く、かつ、離型性も容易に達成でき、材料の使用量が少量で済み、かつ必要に応じて離型層表面に粗さを設けさせて成形品に粗さを持たせるためには、特定の粘性を有する液状硬化型のポリシロキサンが好ましい。すなわち、液状であるから成形型内に満遍なく行き渡り、後に硬化するので平坦な面が得られる。この平面精度が成形品の精度に影響を及ぼす。なお、この時の材料としては任意のタイミングで硬化反応開始が可能であり保管も容易で、作業性が向上するので、二成分硬化型、三成分硬化型などを選ぶことが好ましい。
【0027】
ところで、室温硬化型のものは硬化反応に時間がかかるので効率的ではなく、硬化中に液ダレ等により層厚にムラが生じやすいので、ある程度の温度をかけて硬化させる型ものが良い。なお、この遠心成形型を用いる熱硬化性エラストマーの成形に温度をかけるので離型層の形成にも適当である。つまり、付加反応型で熱硬化性であり、加熱することによって硬化速度を速められるのでより適している。
【0028】
なお、ここで用いる液状ポリシロキサンとしては、JIS K6300−2:2001に基づくtc(10)が、100℃において、0.1分以上15分以下であることが、本発明では重要である。また、液状ポリシロキサンは、JIS K7117−2:1999に基づく23℃における粘度が0.5Pa・s以上50Pa・s以下である。
【0029】
なお、上記のJIS K6300−2:2001に基づく100℃におけるtc(10)(以下、特に断らない限り「tc(10)」と表す)は、液状ポリシロキサンの100℃における硬化開始点に相当するものであり、以下の点を決める要因である。
1)均一な厚みの離型層を形成するための要因、すなわち成形品の厚み精度。
2)均一な厚みの層を作るための離型層材料の必要量。
3)成形品の表面に粗さを付与できる材料かどうかの基準。
【0030】
ポリシロキサンを離型層にする場合、図2に示すよう遠心成形型10の遠心成形型内周面10aに対して平滑に離型層11aが形成されることが、表面精度を得るために望ましい。この上に成形する熱硬化性エラストマーが投入され熱硬化された後、離型層11aによって容易に剥離され、厚み精度の良い熱硬化性エラストマーの成形品12aが作製される。
【0031】
離型層11aを均一に形成させるには、遠心成形機で成形型を回転しながら離型層材料の硬化温度以上に加温し、ここに液状ポリシロキサン材料を投入する。そこで該液状ポリシロキサン材料の100℃における反応開始点tc(10)について着目して考えると、これは材料が投入されてから硬化する過程において、増粘の速さと成形型内での広がり易さを表していることがわかる。例えばtc(10)が極端に短い材料と、100℃の遠心成形型内に投入すると、成形型内全域に均一に行き渡る前に硬化が進み、離形層に厚みバラツキが発生する。例えば、図3で概略図に11bとして示すような離形層が形成される。すなわち、均一に広がるまでの時間より先に増粘と硬化が始まり均一に広がり難く、不均一な厚みの離型層になる。
【0032】
図3で示したような厚みの不均一な離型層を持った成形型で、熱硬化性エラストマーを成形すると厚み精度の悪い熱硬化性エラストマーの成形品12bとなる。このように不均一になりやすい材料を用いて離形層を形成するのは、手順が上手く確立されたとしても、僅かの手順のズレで離形層が不均一に形成される結果となるので望ましくない。
【0033】
なお、液状ポリシロキサン、特に付加硬化型のシリコーンは、反応速度が温度に大きく依存する。従ってtc(10)が短すぎて成形型内全域に行き渡らせることができない場合は、一度成形型内の温度を下げる方法がある。つまり、投入される成形型を一旦冷ませることで投入する液状のポリシロキサンの増粘速度を下げ、成形型内に広がってから再び昇温して硬化させる。しかし、このような大きなバッチ処理の遠心成形機の場合は熱容量が大きいので冷ますのに時間も手間もかかり、生産効率が悪くなる。すなわち、連続生産の生産性を考慮すると、遠心成形機そのものを冷ますことは非効率的である。従って、高温での硬化開始時間が長くて増粘が遅く、流動性を確保できる時間が長く設けられる材料が望ましい。
【0034】
なお、本発明では、ポリシロキサン層を離型層としているので、成形型を繰り返し使用して、離型層表面が変質して離型性が悪化して作業性が低下した時には、その上に新しいポリシロキサン層からなる離型層を形成することによって容易に離型性を回復できる。これは高温でエラストマー成形を連続的に生産する設備においては、作業の中断が最低限度の時間で済み効果的である。
【0035】
tc(10)が短い材料を高温で連続生産性を維持したまま使いこなす手法として、もっとも単純で簡単な方法は離型層になる液状の熱硬化型のポリシロキサンを投入量する量を増やすことである。図3のように不均一な離型層11bが形成されるようなときでも投入量が多ければそのムラが吸収され全域に流れ込まれ、図2のような厚みの均一な離型層11aを形成することができる。つまり、増粘の速さによって発生する層のムラは全体として投入される量によって補うことが可能である。ところがポリシロキサン材料は他の熱硬化性エラストマーと比較して材料単価が高価であり、また、離型層が厚くなるので、エラストマーの硬化特性を悪くする結果となる。
【0036】
離型層11aは成形品12aと接触する成形型表面にのみ形成されていれば十分にその役割を果すが、成型機の成形型の平面精度や回転の振れを吸収して機械的な精度を高める役割も果すので、0.5mm乃至1mm程度の厚みが適当である。
【0037】
一方、tc(10)が長い材料・処方を用いて、高温の成形型内でも少量の材料で平面精度の良い離型層を得ることが可能になる。しかしながら、あまりtc(10)が長すぎると硬化開始が遅れることとなり、作業性が悪くなる。
【0038】
したがって、離型層形成用の液状ポリシロキサンは、tc(10)が0.1分乃至15分であるものが適当である。
【0039】
また、Tc(10)が適正であっても、最終的に液状ポリシロキサンが硬化して離型層となるのに時間がかかりすぎると離型層形成の作業性が悪くなり好ましくない。一方、該硬化が早すぎると、硬化開始から完了までが短くなりすぎ、微粒子を添加して離型層表面に凹凸の形成が上手く行えないことになる。そこで、離型層形成用の液状ポリシロキサンは、100℃におけるJIS K6300−2:2001に基づくtc(90)が、20分以上60分以下であることが望ましい。なお、このtc(90)は測定温度(100℃)において液状ポリシロキサンがほぼ硬化が完了した時間(硬化完了点)に相当するものである。したがって、先のtc(10)とtc(90)の間が、液状ポリシロキサンが硬化して離型層形成するのに要する時間の目安となる。
【0040】
液状ポリシロキサンのtc(90)が20分より短いと、液状ポリシロキサンの硬化完了が早すぎて、表面性状が平滑になりづらいとともに、微粒子を添加しての凹凸形成の作業時間を取りづらくなるので好ましくない。また、同tc(90)が60分より長いと、離型層形成に時間がかかりすぎ、部分硬化した液状ポリシロキサンが移動して離型層が波打つことがあり、作業性も悪化するので好ましくない。
【0041】
一方、液状ポリシロキサンとしては、成形型内での流動性を得るために、反応性からは上記tc(10)、tc(90)により適切なものを選択できるが、原料の調製、成形型内での分散性等から粘度も重要である。すなわち、本発明では、液状ポリシロキサンのJIS K7117−2:1999に基づく23℃における粘度が0.5Pa・s以上50Pa・s以下であることである。
【0042】
つまり、23℃における粘度が5Pa・s程度である液状ポリシロキサンは成形型内で均一に広がり、離形層が均一な厚み、均一な面精度で成形面を形成できた。なお、液状ポリシロキサンの粘度は低いほど面精度や材料使用量の削減を図ることができるが、あまり高粘度になると、十分な広がりが達成できず、面精度を悪くしてしまう。したがって、液状ポリシロキサンは50Pa・s以下であることが好ましい。
【0043】
しかし、粘度が低すぎる場合、遠心力により液が飛散してしまって作業環境が悪くなったり、後記する表面へ微粒子の付与工程を設けても沈降してしまい、表面の粗さを発現させたりすることが難しくなる。したがって、液状ポリシロキサンの粘度は0.5Pa・s以上であるのが好ましい。
【0044】
電子写真用ブレードのゴム部材を作製するのに、本発明のエラストマー成形品の製造方法によることができるが、該ゴム部材はその表面に適切な凹凸(粗さ)を形成しておくことが望ましい。そのためには成形型表面に凹凸が付与された、すなわち離型層表面に粗さが形成された成形型を用いるのが好ましい。本発明におけるエラストマー成形品の製造方法は、必要に応じて離型層表面に粗さを付与するのに適しているという利点がある。
【0045】
すなわち、図2の離型層11aの成形品との接触表面に所定の粗さがあると、成型された熱硬化性エラストマーの成形品12aの表面に対して所望の粗さを付与することができる。例えば、現像ブレードの場合、現像剤担持体との当接面に規定された凹凸があると画像像ムラ、画像スジ、ゴーストなどの発生を低減できることが知られている。この粗さは、十点平均粗さ(Rzjis)で、5μm乃至25μmであることが好ましい。つまり、離型層11aの表面に適切に凹凸が形成されていると離型性による生産加工性の向上や平面の高精度化だけでなく電子写真用ブレードとしての高機能化も可能になる。
【0046】
このように離型層に粗さを付与する手法としては、液状ポリシロキサンが成型機内に投入されて均一に広がった後に硬化する過程において、微粒子を表面に付与する方法がある。この時の微粒子の大きさは、形成しようとする粗さにより適宜選択することができるが、通常粒径が1μm乃至30μm程度であることが好ましい。この範囲であると、適切な粗さを持った離型層を形成することができ、成形品の表面に適切な粗さを与えることが可能となる。すなわち、成形型内の離型層表面に、粒子径1μm以上30μm以下の微粒子が露出して、凹凸を形成していることになる。
【0047】
かかる目的で使用する微粒子は、長期間の本用途に対する使用に関して化学的に安定であれば、いずれでも使用できる。固体潤滑剤である微粒子などが使用可能で、例えば、シリコーン系微粒子、フッ素樹脂系微粒子、二硫化モリブデン、黒鉛、フッ化黒鉛、窒化ホウ素、二硫化タングステンなどが挙げられる。
【0048】
離型層表面に微粒子を固着させて表面に粗さを付与する方法としては、液状ポリシロキサンが成形型に投入された後に硬化する間に微粒子を加え、硬化中の離型層上に分散し、離型層の硬化を完了することである。そのためには微粒子を直接噴霧する、有機溶剤に分散させて噴霧する、液状ポリシロキサン中に分散させて噴霧するなどして、硬化中にある離型層表面に付与する。
【0049】
この離型層へ予め粗さを付与する際、離型層形成用の液状ポリシロキサンのtc(10)が重要である。
【0050】
つまり、tc(10)が極端に速い(例えば0.08分)場合は、成形型内に液状ポリシロキサンを投入後に微粒子を付与しても粒子が離型層表面に上手く乗らない。具体的には、成形型内に液状ポリシロキサンを流し込んで、その後に微粒子を噴霧し、離型層が完全に硬化したあと表面を観察すると確かに離型層表面には粗さが形成されている。しかし、このような離型層を有する成形型で数ショット繰返し成形をすると徐々に成形品の粗さが失われてしまい、長期にわたる繰り返しの成形に弱い。
【0051】
tc(10)が非常に短いということは、成形温度において増粘が速いとともに硬化完了も速くなる。すなわち、液状から固化までの時間が非常に短い。従って液状ポリシロキサンを成形型に投入した後、微粒子を噴霧する工程を設けたとしても、固化が速いために噴霧しようとしたときにはほぼ固まり、固化した層の上に微粒子が乗りかぶさっただけの状態になり、離型層表面に微粒子が固着できない。つまり、離型層への微粒子の固着が不十分となり、数ショットの成形で表面上の微粒子が欠落してしまい、離型層の表面粗さが連続成形に耐えないのである。
【0052】
tc(10)が3分である液状ポリシロキサンを用いた時には、同じ操作で離型性が良好で、かつ繰返し数ショットの成形にも耐える粗さを有した離型層が形成できている。つまり、液状ポリシロキサンの硬化がそんなに起きていない状態で微粒子付与の一連の工程が完了するので、離型層表面に微粒子が付着した後に離型層の完全な固化が起こり、そして微粒子がしっかりと固着した離型層になる。したがって、繰返し成形で微粒子脱落が起こり難い粗さを持った離型層となる。
【0053】
ところで、tc(10)が極端に遅い(例えば18分)と、均一な平面の離型層が形成できるが、粗さの付与において微粒子を噴霧しても、離型層の表面には殆ど粗さが発現しないことがある。つまり、tc(10)が長いということは、成形型内に投入されたときその成形温度において、液状ポリシロキサンが長時間に渡って硬化しないでいることを示しており、増粘する速度も遅いことを表している。したがって、液状ポリシロキサンを成形型内に流し込んで液が全域に行き渡った段階で、すぐに表面に微粒子を噴霧すると、液状ポリシロキサンは液状であるところに微粒子が乗る。その状態では、微粒子が徐々に液状ポリシロキサンに埋没してしまい、長時間かけて硬化が完了したときには表面が平滑になってしまう。
【0054】
この点からも、離型層形成用の液状ポリシロキサンのtc(10)は100℃において0.1分乃至15分であること好ましい。
【0055】
なお、液状ポリシロキサンのtc(10)、tc(90)は、上記したポリシロキサンから適宜条件にあったものを選択するほか、反応促進剤あるいは反応遅延剤を適宜組み合わせてことによって調整可能である。
【0056】
本発明では、反応温度に加熱した成形型内に液状ポリシロキサンを投入し、成形型の表面に液状ポリシロキサンを均一に拡散させて硬化させ、離型層を形成する。本発明においては、エラストマー成形品の製造に供され、離型層の再生が必要になったときには、その上に再度離型層を形成することで再生可能である。しかし、古い離型層の上に新しい離型層を形成して再生するのも限度があり、その際には、全離型層を成形型表面から剥離して再生することが必要となる。そのために、成形型表面と離型層の間に成形型表面から容易に剥離できる材料で保持層13を形成しておくことが好ましい。なお、容易に保持層を剥離できるようにするために、該保持層に対する離型剤、例えばシリコーンの層を形成しておくこともできる。
【0057】
そのような保持層としては、エポキシ樹脂系の離型剤が使用可能である。なお、その厚みとしては、エラストマー成形に直接関係しないので、成形型内に均一な膜が形成される程度でよく、通常0.1mm乃至2mm程度、好ましくは0.2mm乃至1mm程度とする。
【0058】
したがって、本発明のエラストマー成形品の製造方法は、遠心成形方式による時は、以下の工程を取ることが好ましい。
【0059】
工程1)遠心成形装置の成形型を遠心成形装置に載置し、成形型を加熱し、遠心駆動している中に、保持層に対する離型剤を塗布し、離型被膜を形成する。
【0060】
工程2)遠心駆動している離型被膜が形成された成形型内に液状エポキシ樹脂を投入し、硬化させて、エポキシ樹脂からなる保持層を形成する。なお、エポキシ樹脂の硬化温度にあわせて加熱温度を調整することもできる。また、エポキシ樹脂の投入量は必要な保持層の厚みにより適宜増減する。
【0061】
工程3)引き続き、遠心駆動している保持層が形成された成形型内に、離型層形成用の液状ポリシロキサンを投入し、その後、必要により離型層表面への粗さ形成用に微粒子を噴霧し、液状ポリシロキサンを硬化して、離型層を形成する。なお、成形型の加熱温度は液状ポリシロキサンの硬化特性により異なるが、100℃程度が適当であり、微粒子の噴霧時期は、該液状ポリシロキサンのtc(90)以前に行うのが適当である。
【0062】
工程4)離型層が形成された成形型を、必要により原料エラストマーの成形温度に加熱温度を調整した後、該成形型内へ原料エラストマーを投入し、成形型内に均一になるように遠心を継続しながら硬化させる。なお、原料エラストマーの投入量は、エラストマー成形品の厚みにより適宜増減するが、エラストマー成形品が弾性ブレード、特に現像ブレードのブレード部材用のシート成形では、0.5mm乃至2mmになる量が適当である。
【0063】
工程5)エラストマーが十分に硬化したら、成形型の遠心を止め、エラストマー成形品を取りだす。なお、必要により成形型温度を下げて、エラストマー成形品を取り出すこともできる。しかし、エラストマー成形品が取り出しに際し変形することがなければ、成形時の温度のままにしておくことが、連続して次のエラストマー成形に成形型を供することができるので好ましい。
【0064】
エラストマー成形品を取り出した後、工程4、5を繰り返すことにより、エラストマー成形品を連続して製造することができる。また、成形型の離型層が荒れて、エラストマー成形品の表面精度が落ちてきた時には、工程3を行うことにより、成形型の再生が可能である。さらに、離型層の形成が工程3では不可となったときには離型層を保持層と共に剥離し、簡単に離型被膜を洗浄した後工程2を行うことにより保持層の再生が可能であり、以下、工程3乃至5を行うことにより、エラストマー成形品の製造ができる。
【0065】
本発明において、エラストマーとしては、一般に遠心成形、スラッシュ成形等で使用されるエラストマーならば、離型層のポリシロキサンと反応しない限り、いずれでも使用可能である。具体的には、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド、ポリウレタン、メラミン樹脂、尿素樹脂などが挙げられる。本発明ではこのような熱硬化性樹脂であればいずれであっても適用が可能できる。
【0066】
なお、電子写真用ブレード部材としての用途であれば、感光体上の清掃部材として用いる場合、あるいは現像ブレードとして用いる場合のいずれにしても、長期にわたって他の部材と摺擦される構成になっているので、耐摩耗性に優れた材料を選ぶのが好ましい。この中では熱硬化性ポリウレタンが好ましい。
【0067】
上記製造方法で製造したエラストマー成形品を用いる、電子写真用ブレードについて一例を説明する。遠心成型など熱硬化性樹脂のバッチ処理、もしくは連続したドラム成形によって作製された熱硬化性樹脂からなるシート部材は、まず短冊状に裁断されてブレード部材になる。一方で支持部材は板状部材から構成される。配置される位置精度や、それを保持するために充分な剛性が必要であるので、鉄をメッキしたものが好ましく使われる。これら二者を接着剤で接合して、電子写真用ブレードは作製される。
【0068】
本発明による製造方法は厚み精度がよく、また任意に表面に粗さを付与出来るので、電子写真装置の各種ブレード部材として、特に現像ブレードとして有用である。
【実施例】
【0069】
次に実施例にて、本発明を具体的に説明する。これら実施例は例示的なものであり、何ら本発明を限定するものではない。
【0070】
実施例1
(遠心成形型への離型層形成)
内径400mm、奥行き250mmの遠心成形型を装着した遠心成形装置を用意した。この遠心成形装置は、成形型を回転速度800rpmで遠心可能であり、電熱にて成形型を加熱する槽を備えたものである。
【0071】
まず、遠心成形型の遠心軸に対し垂直な部分、すなわちシートの平面となる部分ではなく厚み方向に当たる部分に、離型の目的で、シリコーン系の焼き付け型の離型剤「SEPA−COAT」(商品名、信越化学工業株式会社製、室温で被膜形成)を噴霧乾燥した。
【0072】
次いで、遠心成形機を駆動して、槽温を100℃にすると共に、成形型を800rpmで回転させた。その中にエポキシ樹脂用離型剤「KS−707」(商品名、信越化学工業株式会社製)を塗布した後、液状熱硬化性エポキシ樹脂を厚み1mmになる量流し込んで1時間かけて硬化し、剥離可能な樹脂層(保持層)を設けた。
【0073】
引き続き、液状ポリシロキサンである二成分硬化型シリコーンゴム「XE15−C2618」(商品名、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ製)200gを成形型に流し込んだ。液状ポリシロキサン原料が均一に全域に広がった1分後に、フッ化黒鉛微粒子の懸濁液(フッ化黒鉛:XE15−C2618(小品名):ヘキサン=1:1:10(質量比))をスプレーガン(株式会社アトマックス製)で30秒間噴霧した。このまま2時間かけて硬化させ、内周面に粗さを持った離型層を形成した。
【0074】
一方、別途用意した二成分硬化型シリコーン「XE15−C2618」(商品名)を用いて、加硫/硬化特性試験機「キュラストメータV型」(商品名、JSR株式会社製)で測定したtc(10)及びtc(90)は、それぞれ1.0分、36分であった。また、単一円筒回転式粘度計「ビスメトロンVS−H型」(商品名、芝浦システム株式会社製)で測定した23℃における粘度は5Pa・sであった。
【0075】
(エラストマーの遠心成形)
MDI−ポリブチレンアジペート系ポリウレタンプレポリマー「コロネート4387」(商品名、日本ポリウレタン工業株式会社製、イソシアネート価 6.2%)を主剤として用いた。一方、1,4−ブタンジオールとトリメチロールプロパンの7:3(質量比)混合物にTEDA(トリエチレンジアミン)1000ppm加えた硬化剤を用意した。ポリウレタンプレポリマーを80℃で完全に透明になるまで溶かした後、イソシアネート基に対する水酸基のモル比が0.95になるように硬化剤を混合し、遠心成形用のエラストマー原料を得た。
【0076】
上記で作成した遠心状態にある離型層を形成した成形型を130℃に昇温し、その中にエラストマー原料600g(厚み1mm相当量)を投入して、50分間熱硬化して、脱型を行い、電子写真用ブレード部材用の円筒シートを得た。
【0077】
<成形性評価>
成形性について、このエラストマー成形を連続して20ショット行い、下記の評価項目を下記基準にて評価した。なお、本実施例では、下記評価項目はいずれも「○」であった。
【0078】
1)厚みバラツキ
得られた円筒シートを幅方向に5箇所、円周方向に4箇所の合計20箇所について、株式会社尾崎製作所製の厚み計「ダイヤルシックネスゲージ」(商品名)で測定し、20点について、±0.05mmの公差範囲で有るか(○)、否か(×)を判定した。
【0079】
2)材料使用量
上記成形条件で遠心している成形型にエラストマー原料200gを投入して全域に、行き渡らせることができるかどうか調べ、成形型内全域にエラストマー原料が行き渡らせることができたものを○、それ以上の材料が必要であったものを×とした。
【0080】
3)粗さの発現
表面に粗さを設けた離型層の上にエラストマー原料を成形して、成形品表面に粗さが発現しているか、また、粗さの発現が持続しているかを調べ、成形品に5μm乃至25μmの粗さが発現し、20ショット続けても継続できたものを○、それ以外のものを×とした。
【0081】
4)総合評価
以上の三項目において、全ての項目について「○」であったものを○、いずれかの項目で「×」あるいは「測定不可」が有ったものを×とした。
【0082】
<ブレード評価>
上記円筒シートから短冊状に切り出したブレード部材をキヤノン株式会社製のレーザープリンタ「LBP−1310」(商品名)のカートリッジの現像ブレードとして組み込み、ハーフトーンベタ画像を出力して、現像ブレードとしての評価を行った。なお、画像は出力初期のものを評価対象とした。評価は下記基準によった。
○:現像ブレードの厚みムラ、表面粗さ不良による画像ムラは検出されず、良好。
△:現像ブレードの厚みムラ、表面粗さ不良による画像ムラが、最初のショットの円筒シートのものでは検出されないが、8ショット目の円筒シートのものでは現れた。
×:現像ブレードの厚みムラ、表面粗さ不良による画像ムラが検出され、不可。
【0083】
実施例2
離型層原料として、液状ポリシロキサン「XE15−C2618」(商品名)100質量部に、付加硬化型促進剤「XC91−A6529」(商品名、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ製)1質量部を加えたもの200gを用いた。それ以外は実施例1と同様にして、円筒シートを得た。この離型層原料のtc(10)、tc(90)及び23℃で測定した粘度は、それぞれ、0.1分、20分、5Pa・sであった。さらに、厚みバラツキ、材料使用量、粗さの発現及び総合評価は共に「○」であった。
【0084】
実施例3
離型層原料として、液状ポリシロキサン「XE15−C2618」(商品名)100質量部に、付加硬化型遅延剤「ME75」(商品名、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ製)5質量部を加えたもの200gを用いた。それ以外は実施例1と同様にして、円筒シートを得た。この離型層原料のtc(10)、tc(90)及び23℃で測定した粘度は、それぞれ、15分、60分、5Pa・sであった。さらに、厚みバラツキ、材料使用量、粗さの発現及び総合評価は共に「○」であった。
【0085】
比較例1
実施例1において、離型層原料として、液状ポリシロキサン「XE15−C2618」(商品名)100質量部に、付加硬化型促進剤「XC91−A6529」(商品名)5質量部を加えたもの200gを用いた。この離型層原料のtc(10)、tc(90)及び23℃で測定した粘度は、それぞれ、0.08分、15分、5Pa・sであった。なお、離型層原料を実施例1と同量用いたにもかかわらず、離型層原料は成型機全域には広がらず、離型層を均一に形成することはできなかった。そのため、粗さの評価はできなかった。なお、材料使用量については、エラストマー原料200gを投入して行き渡らせるところ、成形型内全域にエラストマー原料を行き渡らせることができ、評価は「○」であった。
【0086】
比較例2
離型層原料として、比較例1と同じ液状ポリシロキサン「XE15−C2618」(商品名)100質量部に、付加硬化型促進剤「XC91−A6529」(商品名)5質量部を加えたものを二倍の400g用いた。それ以外は実施例1と同様にして、円筒シートを得た。この時は、厚みバラツキのない離型層が形成できたが、表面粗さについては繰り返し成形をしているうちに粗さは無くなって、20ショット続けての粗さ付与をすることができなかった。なお、8ショット目の円筒シートから作成した現像ブレードでは、粗さ不足による画像不良が僅かではあるが検出された。
【0087】
比較例3
離型層原料として、液状ポリシロキサン「XE15−C2618」(商品名)100質量部に、付加硬化型遅延剤「ME75」(商品名)10質量部を加えたもの200gを用いた。それ以外は実施例1と同様にして、円筒シートを得た。この離型層原料のtc(10)、tc(90)及び23℃で測定した粘度は、それぞれ、18分、70分、5Pa・sであった。厚みバラツキ、材料使用量に関しては良かったが、粗さに関しては初期から粗さが上手く発現できなかった。
【0088】
以上の実施例1乃至3及び比較例1乃至3の評価結果を表1にまとめた。
【0089】
【表1】

【0090】
表1に見られるように、離型層原料のポリシロキサンのtc(10)が0.1分乃至15分の範囲にあると、いずれも良好な結果が得られる。tc(10)が0.1分より短い0.08分の場合は、実施例1と同量では成形型内の全域に広がりきれず、成形できない結果となった。その投入量を二倍にすると均一に広がって平面を得ることができたが、投入直後から急速に硬化、増粘したために成形型内全域に均一な層を得るには離型層材料が多量に必要になってしまう。また、離型層は均一に成形でき、離型層表面に粗さが形成できているにかかわらず、成形品への表面粗さの付与は20ショット続けてできずに、粗さの発現に問題がある。一方、tc(10)が18分にまで遅くなると、厚みバラツキと材料使用量については良い結果が得られたが、粗さの発現に問題があった。すなわち、tc(10)が長くなると必然的にtc(90)も長くなり、完全な硬化が遅く、成形型に投入されたあとも長時間に渡って低粘度の液状であり、表面に噴霧された微粒子は離型層の降下中に沈降してしまい、微粒子が表面へ残存せず、平坦な表面になる。
【0091】
実施例4
離型層原料として、液状ポリシロキサン「TSE3032」(商品名、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ製)を用いた以外は実施例1と同様にして、円筒シートを得た。この離型層原料のtc(10)、tc(90)及び23℃で測定した粘度は、それぞれ、1分、38分、5Pa・sであった。厚みバラツキを評価したところ良好な結果であった。
実施例5
離型層原料として、液状ポリシロキサン「TSE3455」(商品名、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ製)を用いた以外は実施例1と同様にして、円筒シートを得た。この離型層原料のtc(10)、tc(90)及び23℃で測定した粘度は、それぞれ、1分、35分、50Pa・sであった。厚みバラツキを評価したところ良好な結果であった。
【0092】
比較例4
離型層原料として、液状ポリシロキサン「TSE3450」(商品名、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ製)を用いた以外は実施例1と同様にして、円筒シートを得た。この離型層原料のtc(10)、tc(90)及び23℃で測定した粘度は、それぞれ、1分、40分、100Pa・sであった。厚みバラツキを評価したところ、公差内に収まるものではなかった。
【0093】
以上の実施例4乃至5及び比較例4の評価結果を表2に示す。
【0094】
【表2】

【0095】
離型層原料は、いずれもtc(10)が0.1分乃至15分の範囲内であるものであるが、23℃における粘度が大きい離型層原料では良好な厚み精度の離型層を得ることができない(比較例4)。なお、この比較例4では、均一な厚み精度の離型層を得るには、実施例の二倍量の離型層原料が必要であった。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】本発明の遠心成形型の一例の斜視図である。
【図2】離型層が良好である成形型の部分断面図である。
【図3】離型層が不良である成形型の部分断面図である。
【符号の説明】
【0097】
10 遠心成形型
10a 断面凹状の溝部分及び遠心成形型内周面
10b 遠心軸
11a 離型層 理想的な状態
11b 離型層 不具合を起こした状態
12a 熱硬化型エラストマーの成形品 厚み精度が良いもの
12b 熱硬化型エラストマーの成形品 厚み精度が悪いもの
13 保持層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
離型層を有する成形型内でエラストマー原料を硬化するエラストマー成形品の製造方法であって、
該離型層が、JIS K6300−2:2001に基づく100℃におけるtc(10)が0.1分以上15分以下であり、かつ、JIS K7117−2:1999に基づく23℃における粘度が0.5Pa・s以上50Pa・s以下である液状ポリシロキサンを成形型内で硬化して形成されている
ことを特徴としたエラストマー成形品の製造方法。
【請求項2】
成形型内の離型層表面に、粒子径1μm以上30μm以下の微粒子が露出して、凹凸を形成していることを特徴とする請求項1記載のエラストマー成形品の製造方法。
【請求項3】
前記液状ポリシロキサンが、JIS K6300−2:2001に基づく100℃におけるtc(90)が20分以上60分以下であることを特徴とする請求項1又は2記載のエラストマー成形品の製造方法。
【請求項4】
成形型が遠心成形用であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のエラストマー成形品の製造方法。
【請求項5】
前記エラストマーが、熱硬化性ポリウレタンエラストマーであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載のエラストマー成形品の製造方法。
【請求項6】
ブレード部材が、請求項5に記載のエラストマー成形品の製造方法で作製されたものであることを特徴とする電子写真用ブレード。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−46981(P2010−46981A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−215258(P2008−215258)
【出願日】平成20年8月25日(2008.8.25)
【出願人】(393002634)キヤノン化成株式会社 (640)
【Fターム(参考)】