説明

エラストマー組成物、その製造方法、及び該組成物を用いた字消し

【課題】化石資源に依存することなく、リサイクルが可能で、環境に優しく、循環型社会に対応した、エラストマー組成物、及び該組成物を用いた字消しを提供する。
【解決手段】生分解性の微生物から生産されるポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシヘキサノエートからなるマトリックス中に、架橋天然ゴム粒子が島状に分散されていることを特徴とするエラストマー組成物、及びこれを基材として用いた字消しである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エラストマー組成物、その製造方法、及び該組成物を用いた字消しに関し、更に詳しくは、化石資源に依存することなく、リサイクルが可能で、環境に優しく、循環型社会に対応した、エラストマー組成物、その製造方法、及び該組成物を用いた字消しに関する。
【背景技術】
【0002】
これまで、産業・経済は石油・石炭等の化石資源の利用によって発展し、大量生産、大量消費、大量廃棄の社会システムが構築され、現在、生活基盤の多くを枯渇が予想される化石資源に依存している。
現在の社会システムは経済的な豊かさや便利さを生み出してきたが、一方では自然の浄化能力を超えた廃棄物や二酸化炭素を排出し、地球温暖化、有害物質等の環境問題を深刻化させている。
【0003】
このような問題を解決するためには、これまでの、有限な資源から商品を大量に生産し、これを大量に消費、廃棄する一方通行の社会システムを改め、廃棄物の発生を抑制し、限りある資源を有効活用する循環型社会への移行が強く求められている。この循環型社会の形成に向けて、我が国では平成14年12月に「バイオマス・ニッポン総合戦略」を閣議決定し、産業競争力の再構築に取り組んでいる。
【0004】
バイオマスは、自然の恵みによりもたらされる持続的に再生可能な有機資源である。バイオマスは燃焼すると二酸化炭素を排出するが、成長時に光合成により大気中の二酸化炭素を吸収・固定するので、実質的に二酸化炭素を増加させないという特徴を有する。これを「カーボンニュートラル」と呼び、化石資源由来のエネルギーや製品をバイオマスに置き換えることで二酸化炭素排出量の大幅な削減が可能となり、従って、その技術及び製品開発が強く求められている。
【0005】
近年、高分子材料においても、循環型社会の形成に配慮した数多くの提案がなされている。
例えば、天然ゴムと生分解性プラスチックとからなるゴム製造用組成物(実施例では加硫剤、加硫促進剤を使用)(特許文献1)、生分解性材料とエポキシ化ポリイソプレンと、必要により、更に架橋剤を混合してえられる生分解性材料組成物(特許文献2)、天然ゴムに生分解性樹脂と充填剤とを添加した生分解性ゴム組成物(特許文献3)、結晶性ポリ乳酸と、天然ゴム、ポリイソプレンから選ばれたゴム成分とからなるポリ乳酸系樹脂組成物(特許文献4)、ポリ乳酸からなる連続相中に天然ゴム等からなる分散相が均一に微分散されたポリマーブレンド材料(特許文献5)等が挙げられる。
【0006】
他方、字消しは、塩化ビニル樹脂からなる塩ビ字消し、スチレン系熱可塑性エラストマーあるいはオレフィン系熱可塑性エラストマーからなる非塩ビ字消し、及び天然ゴム字消しの3種類に大別することができる。
このうち塩ビ字消し、非塩ビ字消しは字消し市場の9割超を占め、これらを構成する高分子材料や可塑剤、軟化剤はいずれも石油等の化石資源由来の材料であり、これらの字消しを利用し続けることは上記循環型社会形成の趣旨に反する。
これに対し、天然ゴム字消しは、天然ゴムや植物油から製造されるサブ(ファクチス)等のバイオマスを活用しており、循環型社会形成の趣旨に合致したものである(特許文献6、非特許文献1)。
【特許文献1】特開平10−274494号公報
【特許文献2】特開2000−95898号公報
【特許文献3】特開2000−319446号公報
【特許文献4】特開2003−183488号公報
【特許文献5】特開2004−143315号公報
【特許文献6】特開2000−43492号公報(実施例1、2参照)
【非特許文献1】「ゴム工業便覧」(新版)日本ゴム協会編 表25.2、817頁、昭和48年11月15日 社団法人ゴム協会発行
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記従来技術において、ゴムに加硫や架橋を施さないものは引張り強度や弾性が不十分なため、用途が制限される場合があり、例えば、字消し用材料としてはゴム弾性が発現せず適当ではない。一方、加硫や架橋を施したものは引張り強度や弾性が大き過ぎるため用途が制限される場合があり、例えば、字消し用材料としては硬くなりゴム弾性が得られず不適当である。更には、加硫や架橋工程が必要であるため製造工程が複雑となるばかりでなく、加硫剤の硫黄や加硫促進剤、助剤の酸化亜鉛等の加硫薬剤の安全性についての問題もはらんでいる。
【0008】
他方、天然ゴム字消しは、上記したとおり、循環型社会形成の要請には適合するものの、例えば、塩ビ字消しに比べて消字性能が劣ること、加硫工程を含むため塩ビ字消しや非塩ビ字消しに比べて製造工程が複雑で、上記した如く、硫黄や加硫促進剤等の加硫薬剤の安全性等にも問題がある。更に、製造工程内で発生する端材の再利用が困難であることから不経済であり、生産性にも問題がある。
【0009】
本発明はかかる実情に鑑み、上記従来技術の問題点を解決するもので、微生物から生産されるポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシヘキサノエート(以下、PHBHと記す)と天然ゴムとゴム架橋剤をPHBHの溶融温度以上で且つゴム架橋剤の架橋温度以上で混練し、PHBHからなるマトリックス中に、架橋天然ゴム粒子を島状に分散させることにより、従来の加硫や架橋では得られない引張り強度、弾性等の物性を備えたエラストマー組成物、その製造方法、及び該組成物を用いた字消しを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は上記目的を達成するためになされたもので、本発明の請求項1は、PHBHからなるマトリックス中に、架橋天然ゴム粒子が島状に分散されていることを特徴とするエラストマー組成物を内容とする。
【0011】
本発明の請求項2は、PHBHの繰り返し単位の組成比が、ポリ(3−ヒドロキシブチレート)/ポリ(3−ヒドロキシヘキサノエート)=80/20以上99/1以下(mol/mol)であることを特徴とする請求項1記載のエラストマー組成物を内容とする。
【0012】
本発明の請求項3は、PHBHと天然ゴムとゴム架橋剤をPHBHの溶融温度以上で且つゴム架橋剤の架橋温度以上において混練することにより、前記PHBHからなるマトリックス中に、前記架橋ゴム粒子を分散させることを特徴とするエラストマー組成物の製造方法を内容とする。
【0013】
本発明の請求項4は、PHBHの繰り返し単位の組成比が、ポリ(3−ヒドロキシブチレート)/ポリ(3−ヒドロキシヘキサノエート)=80/20以上99/1以下(mol/mol)であることを特徴とする請求項3記載のエラストマー組成物の製造方法を内容とする。
【0014】
本発明の請求項5は、PHBHからなるマトリックス中に、架橋天然ゴム粒子が島状に分散されているエラストマー組成物からなることを特徴とする字消しを内容とする。
【0015】
本発明の請求項6は、PHBHの繰り返し単位の組成比が、ポリ(3−ヒドロキシブチレート)/ポリ(3−ヒドロキシヘキサノエート)=80/20以上99/1以下(mol/mol)であることを特徴とする請求項5記載の字消しを内容とする。
【0016】
本発明の請求項7は、天然ゴム50〜99重量%、PHBHが50〜1重量%、及びゴム架橋剤が天然ゴム100重量部に対し0.1〜5重量部であることを特徴とする請求項5又は6記載の字消しを内容とする。
【0017】
本発明の請求項8は、更に、軟化剤を含有することを特徴とする請求項5〜7のいずれか1項に記載の字消しを内容とする。
【0018】
本発明の請求項9は、軟化剤がバイオマス由来であることを特徴とする請求項8記載の字消しを内容とする。
【0019】
本発明の請求項10は、軟化剤が動植物油、これに由来する可塑剤から選ばれることを特徴とする請求項8又は9記載の字消しを内容とする。
【0020】
本発明の請求項11は、軟化剤が天然ゴムとPHBHとの合計100重量部に対して1〜200重量部であることを特徴とする請求項8〜10のいずれか1項に記載の字消しを内容とする。
【0021】
本発明の請求項12は、更に、充填剤を含有することを特徴とする請求項5〜11のいずれか1項に記載の字消しを内容とする。
【0022】
本発明の請求項13は、充填剤がバイオマス由来であることを特徴とする請求項12記載の字消しを内容とする。
【0023】
本発明の請求項14は、充填剤が貝殻粉末、卵殻粉末から選ばれる請求項12又は13記載の字消しを内容とする。
【0024】
本発明の請求項15は、充填剤が天然ゴムとPHBHとの合計100重量部に対して10〜1000重量部であることを特徴とする請求項12〜14のいずれか1項に記載の字消しを内容とする。
【発明の効果】
【0025】
本発明のエラストマー組成物は、化石資源に頼らず、原料として用いられる材料は、バイオマス由来の天然ゴム及び生分解性ポリエステル系のプラスチックであるPHBHであり、従って、廃棄しても大気中の二酸化炭素を増加させることがなく、自然環境下で分解され、環境適応型のエラストマー組成物である。
【0026】
また、本発明のエラストマー組成物は、熱可塑性エラストマーであるため、成形時に出る端材は容易にリサイクルが可能で、従って、コストダウンが図られるとともに、資源循環型社会に適合するものである。
【0027】
更に、本発明のエラストマー組成物の製造方法は、天然ゴムとPHBHとの混練と天然ゴムの架橋とを同時に行うため、工程が簡略化され、生産性が高い。また、天然ゴムの架橋に硫黄、酸化亜鉛などの加硫剤や加硫促進剤を使用しないため、安全性も高い。
【0028】
本発明のエラストマー組成物は、従来の加硫や架橋で得られる材料とは異なり、例えば、字消しの基材として好適である。
【0029】
本発明のエラストマー組成物からなる字消しは、化石資源に頼る従来の塩ビ字消しや非塩ビ字消しとは異なり環境に優しく、また、成形時に出る端材は容易にリサイクルされ、材料の無駄が減るためコストダウンが図られる。
【0030】
更に、従来の天然ゴム字消しは混練工程とは別に架橋工程が必要であるのに対して、本発明では混練と同時に架橋が行われるため、工程が簡略化され生産性が高い。
また、従来の天然ゴム字消しは、硫黄、酸化亜鉛等の加硫剤や加硫促進剤を使用するのに対し、本発明の字消しはこのような薬剤を使用しないため、安全性も高い。
【0031】
更にまた、本発明の字消しは、従来の天然ゴム字消しや非塩ビ字消しに比べ消字能力が高い。
【0032】
また、本発明のPHBHを含むエラストマー組成物からなる字消しは、生分解性プラスチックとして例えばポリ乳酸を含むエラストマー組成物からなる字消しに比べて高い消字力を有する。これはPHBHの融点が100〜160℃にあり、ポリ乳酸の170〜180℃に比べて低いことが影響していると考えられる。
即ち、字消しによる消去のメカニズムは、字消しを紙面上の筆跡に密着摩擦させ、筆跡を字消しに吸着させるとともに、筆跡を吸着した字消しの表面を消し屑として字消しから脱離させて字消し表面を新しくして、再び筆跡を吸着可能とすることによりなる。従って、消去の際における人の手の力のような軽い応力における適度な摩耗性能が消字力に大きく影響すると考えられる。本発明のエラストマー組成物は、ゴム粒子が分散相となりPHBHが連続相となる構造からなるため、組成物の摩耗性能は連続相の物性に大きく左右されると考えられ、軽い応力で摩耗するためには連続相の強度が低い方が好ましい。PHBHはポリ乳酸に比べて融点が低いため、字消しを使用する際の摩擦熱で強度が低下しやすく、これが字消しにとってより優れた摩耗性能を発現させているものと考えられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
本発明のエラストマー組成物は、PHBHからなるマトリックス(海)中に、架橋天然ゴム粒子が島状に分散されている海島構造からなることを特徴とする。
【0034】
本発明で用いられる天然ゴムは、ラテックスから固形ゴムに加工する方法によってシートラバー、ペールクレープ、ブラウンクレープ、ブランケットクレープ、ブロックラバー、クラムラバー等に分類され、種々の格付け等級があるが、それらに制限はなく何れでも利用でき、産地にも制限はない。また、エポキシ化天然ゴムに挙げられるような天然ゴム誘導体も利用できる。これらは単独で又は必要に応じ、2種以上組み合わせて用いられる。
【0035】
本発明で用いられるPHBHは、特開2007−77232号公報に記載されているように、微生物から生産され、繰り返し単位の組成比は、柔軟性と強度のバランスの観点から、ポリ(3−ヒドロキシブチレート)/ポリ(3−ヒドロキシヘキサノエート)が80/20以上99/1以下(mol/mol)であることが好ましい。PHBHは、繰り返し単位の組成比を変えることで、融点、結晶化度を変化させることができ、ヤング率、耐熱性などの物性を変化させることが可能であり、ポリプロピレンからポリエチレンの範囲の物性を持たせることが可能である。
【0036】
天然ゴムとPHBHの組成比率は、目的とするエラストマー組成物の用途や物性により適宜決定すればよいが、例えば、字消しの基材としては、天然ゴムが50〜99重量%、PHBHが50〜1重量%の範囲が好ましく、より好ましくは天然ゴム70〜95重量%、PHBHが30〜5重量%である。PHBHが1重量%未満になるとエラストマー組成物の流動性が悪く成形性に問題が出る。PHBHが50重量%を越えるとエラストマー組成物が硬くなりゴム弾性が発現せず、例えば、字消しの基材として使用した場合に十分な消字性能が発揮されない傾向がある。
【0037】
本発明で用いられるゴム架橋剤としては、有機過酸化物が好適に使用できる。具体的には、ジクミルパーオキサイド(例えば日本油脂社製パークミルD)、2,5−ジメチル−2,5−ジ−t−ブチルパーオキシヘキサン(例えば日本油脂社製パーヘキサ25B)、ジ−t−ブチルパーオキシジイソプロピルベンゼン(例えば日本油脂社製パーブチルP)、2,5−ジメチル−2,5−ジ−t−ブチルパーオキシヘキシン−3(例えば日本油脂社製パーヘキシン25B)等が挙げられる。また、その他有機加硫剤も使用できる。具体的には、N,N′−m−フェニレンジマレイミド(例えば大内新興化学社製バルノックPM)、p−キノンジオキシム(例えば大内新興化学社製バルノックGM)、アルキルフェノールホルムアルデヒド樹脂(例えば田岡化学社製タッキロール201)等が挙げられる。これらは単独で又は必要に応じ、2種以上組み合わせて用いられる。
【0038】
ゴム架橋剤は、通常、天然ゴム100重量部に対し0.1〜5.0重量部使用される。ゴム架橋剤が0.1重量部未満では架橋が不十分となり、天然ゴムが粒子とならず目的とする構造が得られず、一方、5.0重量部を越えると架橋ゴム粒子の反発弾性が大きくなりすぎ、成形性に問題が生じる傾向がある。
【0039】
本発明のエラストマー組成物には、生分解性プラスチック材料や天然ゴム材料の分野において使用される各種の添加剤を添加することが可能である。このような添加剤としては、紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系光安定剤、酸化防止剤等の耐候性改良剤、高級脂肪酸系アルコール、脂肪族アマイド、金属石鹸、脂肪酸エステル等の滑剤等が挙げられる。
【0040】
本発明のエラストマー組成物を字消しの基材として使用する場合は、軟化剤、充填剤、有機・無機顔料、染料等の着色材、香料、安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光劣化防止剤、防カビ剤などの他の添加物も適宜任意に使用することも可能である。
【0041】
軟化剤としては、鉱物油、動植物油あるいはこれらを由来とする可塑剤が使用できる。鉱物油として具体的には、パラフィン系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイル、芳香族系プロセスオイル等が挙げられる。動植物油として具体的には、菜種油、ひまし油、綿実油、亜麻仁油、大豆油、胡麻油、とうもろこし油、紅花油、パーム油、ヤシ油、落花生油、木蝋、ロジン、パインタール、トール油等が挙げられる。動植物油を由来とする可塑剤としてはグリセリン脂肪酸エステルが挙げられ、具体的にはグリセリンジアセトモノラウレート、グリセリントリアセテート、グリセロールジアセテート等が挙げられる。これらは単独で又は必要に応じ、2種以上組み合わせて用いられる。一層環境適応型のエラストマー組成物を提供できる点で、再生可能な資源であるバイオマス由来の動植物油あるいはこれに由来する可塑剤を用いるのが好ましい。
【0042】
軟化剤の配合量は、通常、天然ゴムとPHBHの混合物100重量部に対して1〜200重量部である。好ましくは10〜150重量部である。軟化剤が1重量部未満では軟化剤の添加量が十分でなく、一方、200重量部を越えるとブリードするおそれがある。
【0043】
充填剤としては、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、シリカ、珪藻土、酸化マグネシウム、酸化チタン、タルク、セリサイト、石英粉末、モンモリロナイト、ホタテ、カキ、しじみなどの貝殻粉末、卵殻粉末、有機中空粒子、無機中空粒子等が挙げられる。これらは単独で又は必要に応じ、2種以上組み合わせて用いられる。一層環境適応型のエラストマー組成物を提供できる点で、廃棄物として大量に発生するバイオマス由来のホタテ、カキ等の貝類粉末あるいは卵殻粉末を用いるのが好ましい。
充填剤の配合量は、通常、天然ゴムとPHBHの混合物100重量部に対して10〜1000重量部である。好ましくは50〜500重量部である。10重量部未満では充填剤の添加効果が十分でなく、一方、1000重量部を越えると組成物が硬くなり、十分なゴム弾性が発現せず、例えば字消しの基材として使用した場合に十分な消字性能が発揮されない傾向がある。
【0044】
本発明のエラストマー組成物は、PHBH、天然ゴム及びゴム架橋剤、更に必要に応じ、軟化剤、充填剤等を混練機に入れ、PHBHの溶融温度以上で且つゴム架橋剤の架橋温度以上で混練することにより得ることができる。
混練は高剪断下で行われるのが好ましく、このような高剪断下で混練できる混練機としては、二軸混練押出機、バンバリーミキサー、加圧ニーダー、ミキシングロール等が挙げられる。これらの中で、好ましくは二軸混練押出機が用いられる。
PHBHの溶融温度以上とは、PHBHの溶融温度より10〜50℃高い温度が好ましく、また、ゴム架橋剤の架橋温度以上とは、ゴム架橋剤の架橋温度より5〜20℃高い温度が好ましい。
【0045】
本発明のエラストマー組成物は、優れた弾性や緩衝性を有し、包装用緩衝材、断熱材、遮音材、吸音材、畳床、床材、壁材等の分野において有用で、特に、字消し用の基材として有用である。
本発明のエラストマー組成物が従来の加硫や架橋したものに比べ、このようなユニークな物性を有する理由としては、混練されることにより、ゴム成分が切断されることによるものと考えられる。
【0046】
上記エラストマー組成物を用いた本発明の字消しは、上記エラストマー組成物をプレス成形、射出成形、押出成形等により成形され、所定の寸法に裁断されて製品とされる。
【実施例】
【0047】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明を更に詳細に説明するが、これらは本発明の範囲を何ら制限するものではない。
【0048】
以下の実施例及び比較例で用いた材料を表1に示す。
【0049】
【表1】

【0050】
実施例1〜11
表2に示す材料の内、天然ゴム、軟化剤、充填材、光劣化防止剤を予め加圧ニーダーで混練し、ロールを用いてゴム架橋剤を添加してゴム混練物を得た。得られたゴム混練物は5mm角程度のペレット状に裁断した。次に、テクノベル社製二軸押出機KZW−15TW−60(同方向完全噛合型、スクリュー径15mm、L/D=60)を用いて、ゴム混練物ペレットと生分解性プラスチックペレットを表2に示した配合比率になるよう各々定量供給器で供給し、スクリュー回転数400rpm、シリンダー温度110〜155℃に設定して混練した。
得られた組成物ペレットを一軸押出機(シリンダー温度100〜120℃、ヘッド温度130℃)にて角棒状に押出成形し、裁断して12×18×43mmのサイズの字消しを作製した。
【0051】
字消しの特性として、硬さと消字率を評価した。結果を表2に示す。
硬さは「JIS S 6050プラスチック字消し」に従い、C型硬度計(高分子計器製タイプC硬度計)を用いて測定した。
また、消字率は下記の方法にて測定した。
(1)試料を厚さ5mmの板状に切り、試験紙との接触部分を半径6mmの円弧に仕上げたものを試験片とした。
(2)試験片を着色紙に対して垂直に、しかも着色線に対して直角になるように接触させ、試験片におもりとホルダの質量の和が0.5kgとなるようにおもりを載せ、150±10cm/minの速さで着色部を4往復摩消させた。
(3)濃度計(DENSITOMETER PDA65 Sakura社製)によって、着色紙の非着色部分の濃度を0として、着色部及び摩消部の濃度をそれぞれ測定した。
(4)消字率は次の式によって算出した。
消字率(%)=(1−(摩消部の濃度÷着色部の濃度))×100
【0052】
【表2】

【0053】
比較例1
表3に示すように、PHBHをポリ乳酸(レイシアH−100、三井化学株式会社の商品名)に置き換えて実施例7と同様に操作して字消しを作製し、その特性を評価した。但し、ポリ乳酸の溶融温度(160〜170℃)に合わせるため、ゴム架橋剤をパークミルD−40に変更し、シリンダー温度を125〜190℃に設定した。結果を表3に示す。
【0054】
【表3】

【0055】
比較例2
表4に示す材料を用い、2本ロールを用いて天然ゴムに全ての配合材を練り込んでゴム混練物を得た。得られたゴム混練物を所定の金型の寸法に合わせて予備成形し、熱プレスを用いて130℃、20分の条件で加硫、成形を行った。得られたゴム成形物を所定の寸法に裁断して字消しを得、その特性を評価した。結果を表4に示す。
【0056】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0057】
叙上のとおり、本発明のエラストマー組成物は、生分解性のPHBHと天然ゴムとを主成分としてなるので、化石資源に依存せず、廃棄しても大気中の二酸化炭素を増加させることがなく、リサイクルが可能で、環境に優しく、循環型社会に対応したエラストマー組成物で、字消しの基材として使用した場合、消字能力、安全性に優れた、自然環境下で分解される環境適応型の字消しを提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物から生産されるポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシヘキサノエート(以下、PHBHと記す)からなるマトリックス中に、架橋天然ゴム粒子が島状に分散されていることを特徴とするエラストマー組成物。
【請求項2】
PHBHの繰り返し単位の組成比が、ポリ(3−ヒドロキシブチレート)/ポリ(3−ヒドロキシヘキサノエート)=80/20以上99/1以下(mol/mol)であることを特徴とする請求項1記載のエラストマー組成物。
【請求項3】
PHBHと天然ゴムとゴム架橋剤をPHBHの溶融温度以上で且つゴム架橋剤の架橋温度以上において混練することにより、前記PHBHからなるマトリックス中に、前記架橋ゴム粒子を分散させることを特徴とするエラストマー組成物の製造方法。
【請求項4】
PHBHの繰り返し単位の組成比が、ポリ(3−ヒドロキシブチレート)/ポリ(3−ヒドロキシヘキサノエート)=80/20以上99/1以下(mol/mol)であることを特徴とする請求項3記載のエラストマー組成物の製造方法。
【請求項5】
PHBHからなるマトリックス中に、架橋天然ゴム粒子が島状に分散されているエラストマー組成物からなることを特徴とする字消し。
【請求項6】
PHBHの繰り返し単位の組成比が、ポリ(3−ヒドロキシブチレート)/ポリ(3−ヒドロキシヘキサノエート)=80/20以上99/1以下(mol/mol)であることを特徴とする請求項5記載の字消し。
【請求項7】
天然ゴム50〜99重量%、PHBHが50〜1重量%、及びゴム架橋剤が天然ゴム100重量部に対し0.1〜5重量部であることを特徴とする請求項5又は6記載の字消し。
【請求項8】
更に、軟化剤を含有することを特徴とする請求項5〜7のいずれか1項に記載の字消し。
【請求項9】
軟化剤がバイオマス由来であることを特徴とする請求項8記載の字消し。
【請求項10】
軟化剤が動植物油、これに由来する可塑剤から選ばれることを特徴とする請求項8又は9記載の字消し。
【請求項11】
軟化剤が天然ゴムとPHBHとの合計100重量部に対して1〜200重量部であることを特徴とする請求項8〜10のいずれか1項に記載の字消し。
【請求項12】
更に、充填剤を含有することを特徴とする請求項5〜11のいずれか1項に記載の字消し。
【請求項13】
充填剤がバイオマス由来であることを特徴とする請求項12記載の字消し。
【請求項14】
充填剤が貝殻粉末、卵殻粉末から選ばれる請求項12又は13記載の字消し。
【請求項15】
充填剤が天然ゴムとPHBHとの合計100重量部に対して10〜1000重量部であることを特徴とする請求項12〜14のいずれか1項に記載の字消し。

【公開番号】特開2009−132865(P2009−132865A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−186853(P2008−186853)
【出願日】平成20年7月18日(2008.7.18)
【出願人】(000106782)株式会社シード (52)
【Fターム(参考)】