説明

エリスロポエチン産生促進作用を有する置換ベンズアニリド化合物

【課題】低分子性のEPO産生促進作用を有する化合物の提供。
【解決手段】次の一般式(1):


[式中、R1は、ハロゲン原子、C1-6アルコキシ基又はアミノ基、R2、R3は、水素原子、ハロゲン原子又はカルボキシル基、R4は、ハロゲン原子、カルボキシル基、水酸基又はカルバモイル基、R5は、水素原子、アミノ基又は水酸基を示す]で表される化合物。EPO産生低下に起因する疾患、例えば貧血の予防及び/又は治療剤として有用。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なエリスロポエチン産生促進剤に関する。さらに詳細には、エリスロポエチン産生低下に起因する疾患、例えば貧血の予防及び/又は治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
エリスロポエチン(Erythropoietin:EPO)は、赤芽球前駆細胞から成熟赤血球への成熟と分化に関与する糖タンパク質ホルモンであり、天然に存在する165アミノ酸からなる単量体ポリペプチドである(非特許文献1)。
【0003】
ヒトのEPOは、赤血球の増殖・分化において必須であり、赤血球産生の低下を特徴とする血液疾患の治療に有用である。臨床的には、EPOは、慢性腎不全(chronic renal failure:CRF)患者における貧血、自己貯血及び未熟児貧血の治療(非特許文献2〜4)、AIDS及び化学療法を受けている癌患者において使用されている(非特許文献5)。また、EPOは慢性貧血における有効性も認められている。
【0004】
EPOは、成人では主に腎臓で産生されるが、それ以外では、中枢神経系のアストロサイト及びニューロンにおいても産生され、EPO及びEPO受容体は脳−末梢境界の毛細血管において発現している。さらに、EPOを全身投与すると、EPOは血液脳関門を通過して、脳及び脊髄虚血、機械的外傷、てんかん、興奮毒及び神経炎症に応答したニューロン細胞の喪失を減少させることが報告されている(非特許文献6〜10)。
【0005】
EPOのようなタンパク質を用いた療法においては、プロテアーゼによる分解を受けやすいことによる血漿半減期の短さ(非特許文献11、12)や、循環における化合物の治療有効濃度を維持するために、静脈内注射を頻回行わねばならないなどの問題がある。また、静脈内注射に代わる投与経路として皮下注射があるが、投与部位からの吸収が遅いため、徐放効果は有るものの、血漿中濃度が静脈内注射に比べて有意に低くなる。そこで、同等の治療効果を挙げるためには静脈内注射の場合と同様の回数を注射しなければならず、患者への負担となる。また、ヒト血清EPOは糖タンパク質であって、EPO表面に結合した糖鎖の構造は複雑であり、そのグリコシル化は広範かつ多様であることから、サイズの不均一性を示し、組換えヒトEPOではヒト血清EPOを再現よく作製することができない、などの問題もある。
【0006】
従って、上記に示したような貧血を含むEPO産生低下に起因する疾患の治療において生体利用性の低いEPOでなく、内因性EPOを増加させる方法及び化合物が当該技術分野において必要とされている。
【0007】
一方、EPOの産生量は、転写因子である低酸素誘導性因子(hypoxia inducible factor:HIF)を介して酸素濃度により制御されていることが知られている(非特許文献13)。すなわち、通常大気下では、2−オキソグルタル酸ジオキシゲナーゼ酵素によりプロリン残基がヒドロキシル化されたHIFサブユニット(HIF−1α)がユビキチン−プロテアソーム系により分解され、EPOの産生は促進されないが、低酸素下では、2−オキソグルタル酸ジオキシゲナーゼ酵素によるHIF−1αのプロリン残基のヒドロキシル化が抑制され、その結果、安定化されたHIF−1αは細胞質から核内に移行し、HIF−1βと二量体を形成してEPO遺伝子のhypoxia responsible element(HRE)配列に結合して転写を促進し、EPOの産生を促進する。
【0008】
このようなEPO産生機構を利用した2−オキソグルタル酸ジオキシゲナーゼ酵素などのHIFプロリルヒドロキシラーゼに対する酵素阻害剤が、EPO産生促進剤として報告されている(特許文献1〜4)。
【0009】
しかしながら、HIFにより産生が制御されている遺伝子には、EPOをコードする遺伝子だけではなく、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)をコードする遺伝子なども挙げられる。VEGFは血管新生促進作用を有しており、この機能を介して悪性腫瘍を悪化させる原因となり得ることも報告されている(非特許文献14、15)。また、貧血は癌による化学治療によっても引き起こされ、貧血治療薬はそのような化学療法を受けている癌患者に投与されることも考えられることから(非特許文献6)、癌を悪化させるVEGFなどの産生も促進する可能性のあるHIFプロリルヒドロキシラーゼ酵素活性阻害作用を有する化合物には、そのような危険性も内包される。
【0010】
EPOの産生は、EPOの5’側に位置するプロモーター及び3’側に位置するエンハンサーにより制御されており、HIFはエンハンサー中のHRE配列に結合し、EPOの産生を促進すると考えられている。加えて、GATA−2、NFκBなどもEPO産生を制御するとされており(非特許文献16、17)、HIFプロリルヒドロキシラーゼ酵素活性阻害以外の作用機構でもEPO産生促進は達成できると考えられる。このようなことからHIFプロリルヒドロキシラーゼ酵素活性阻害に依存しないEPO産生促進作用を有する化合物は、貧血治療において有用であると考えられる。
【0011】
また、前述のように、EPOは赤芽球前駆細胞の増殖及び成熟を促進するが、EPOの産生を介さずに赤芽球前駆細胞の成熟・分化を促進する作用を有する化合物も貧血治療薬として有用である。EPOの有する血球増殖促進作用を増強する活性を有する化合物やEPOのシグナル伝達の重要な制御機構のひとつである脱リン酸化を触媒する造血細胞ホスファターゼに対して阻害作用を有する化合物が報告されているが(特許文献5〜7)、その活性は必ずしも十分とは言えない。また、EPO受容体に作用する合成ペプチド、ヘマタイドが報告されているが(非特許文献18)、EPOと同等の活性発現には高用量の投与が必要であり、経口投与に適さないという問題点がある。
【0012】
従って、EPO産生促進作用を持つ経口投与可能な低分子性の貧血治療剤が、今後の貧血治療において有用であると考えられる。
【0013】
本発明に関連するベンズアニリド骨格は、例えば、筋変性疾患治療剤として有用なイオンチャンネル阻害剤(特許文献8)、高脂血症治療剤として有用なFXR転写活性抑制剤(特許文献9)、アテロ−ム性動脈硬化症治療剤として有用なMSRアンタゴニスト(特許文献10、11)、感染症治療剤として有用な化合物(特許文献12、13及び非特許文献19)、鎮痛剤として有用なCOX−1阻害剤(非特許文献20)、制癌剤として有用な化合物(非特許文献21〜23)、血栓症治療剤として有用なFactorX阻害剤(非特許文献24、25)、抗菌剤として有用な化合物(非特許文献26、27)、糖尿病治療剤として有用な11β−HSD1阻害剤(非特許文献28)、抗炎症剤として有用なΔ5脂肪酸デサチュラーゼ阻害剤(非特許文献29)、抗痙攣剤として有用な化合物(特許文献30)、平滑筋弛緩剤として有用な化合物(非特許文献31)等が知られており、当該文献中において、ベンズアニリド骨格は化合物の部分構造として取り入れられている。しかしながら、いずれの文献においても貧血治療やエリスロポエチンの産生を促進する作用に関しての記載や示唆はない。
【0014】
一方、タンパク質キナーゼA(PKA)とタンパク質キナーゼAアンカータンパク質(AKAP)の結合調節剤が知られている(特許文献14)。当該文献はPKA−AKAPの結合活性を指標に物質ライブラリーのスクリーニングでヒットした化合物を記載したものであるが、文献中165頁には、4−アミノ−N−(4−ヒドロキシフェニル)ベンズアミド(A):
【0015】
【化1】

【0016】
で示される化合物がヒットしたことが記載されている。また、文献記載の化合物がcAMPシグナル経路の異常に伴う種々疾病に有効であること、そしてその一例として、溶血性貧血、再生不良性貧血、再生不能性貧血等に有用であるとの記載もある(当該文献29頁)。しかしながら、当該文献中において、式(A)で示される化合物の貧血に対する効果は記載されておらず、エリスロポエチンの産生を促進する作用に関しての記載や示唆はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開2006−137763号公報
【特許文献2】WO2003/53997号パンフレット
【特許文献3】WO2005/11696号パンフレット
【特許文献4】WO2007/38571号パンフレット
【特許文献5】特表2000−536365号公報
【特許文献6】特開平11−171774号公報
【特許文献7】特開2002−275159号公報
【特許文献8】特開2009−149534号公報
【特許文献9】特開2002−241273号公報
【特許文献10】特表2003−502347号公報
【特許文献11】特表2002−521437号公報
【特許文献12】特開2000−007645号公報
【特許文献13】米国特許4659738号公報
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】Lin F-K, et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 82: 7580-7584 (1985)
【非特許文献2】Eschbach JW, et al., N. Engl. J. Med, 316: 73-78(1987)
【非特許文献3】Eschbach JW, et al., Ann. Intern. Med., 111: 992 (1989)
【非特許文献4】Lim VS, et al., Ann. Intern. Med., 110: 108-114 (1989)
【非特許文献5】Danna RP, et al., Erythropoietin in Clinical Applications-An International Perspective, New York: Marcel Dekker; p301-324 (1990)
【非特許文献6】Sakanaka M, et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA., 95, 4635-4640 (1998)
【非特許文献7】Celik M, et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA., 99, 2258-2263 (2002)
【非特許文献8】Brines ML, et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA., 97, 10526-10531 (2000)
【非特許文献9】Calapai G, et al., Eur. J. Pharmacol., 401, 349-356 (2000)
【非特許文献10】Siren A-L, et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA., 98, 4044-4049 (2001)
【非特許文献11】Spivack JL and Hogans BB, Blood, 73: 90 (1989)
【非特許文献12】McMahon FG, et al., Blood, 76: 1718 (1990)
【非特許文献13】Jelkman W, Internal Medicine 43, 649-659 (2004)
【非特許文献14】Maxwell PH, et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 94, 15, 8104-8109 (1997)
【非特許文献15】Fang J, et al., Cancer Res., 61, 15, 5731-5735 (2001)
【非特許文献16】Imagawa S, et al., Blood 89, 1430-1439 (1997)
【非特許文献17】La Ferla K, et al., FASEB J, 16, 1811-1813 (2002)
【非特許文献18】Stead RB, et al., Blood, 108, 1830-1834 (2006)
【非特許文献19】Antonysamy SS, et al., Bioorganic & Medicinal Chemistry Letters, 18(9), 2990-2995 (2008)
【非特許文献20】Kakuta H, et al., J. Med. Chem., 51, 2400-2411 (2008)
【非特許文献21】Dominguez C, et al., Bioorg. Med. Chem. Lett., 17, 6003-6008 (2007)
【非特許文献22】Furet P, et al., Bioorg. Med. Chem. Lett., 13, 2967-2971 (2003)
【非特許文献23】Avila C, et al., Bioorg. Med. Chem. Lett., 16, 3005-3008 (2006)
【非特許文献24】Mendel D, et al., Bioorg. Med. Chem. Lett., 17, 4832-4836 (2007)
【非特許文献25】Yee Y, et al., J. Med. Chem., 43, 873-882 (2000)
【非特許文献26】Zhou Y, et al., Antimicrob. Agents Chemother., 49, 4942-4949 (2005)
【非特許文献27】Eldahshan O, et al., Molecules, 7, 501-506 (2002)
【非特許文献28】Coppola GM, et al., J. Med. Chem., 48, 6696-6712 (2005)
【非特許文献29】Obukowicz MG, et al., J. Pharmacol. Exp. Ther., 287, 157-166 (1998)
【非特許文献30】Clark CR, et al., J. Pharm. Sci., 79, 220-222 (1990)
【非特許文献31】Ghelardoni M, et al., J. Med. Chem., 16, 1063-1065 (1973)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明の目的は、低分子性のEPO産生促進作用を有する化合物を提供することにある。さらに詳細には、貧血の予防及び/又は治療に有用な医薬を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記実情に鑑み、本発明者らは、EPO産生促進作用を持つ化合物を鋭意探索した結果、下記一般式(1)で表される置換ベンズアニリド化合物が、ヒト肝臓癌由来のHepG2細胞を用いた試験においてEPO産生を促進することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0021】
すなわち、本発明は、次の一般式(1):
【0022】
【化2】

【0023】
[式中、
1は、ハロゲン原子、C1-6アルコキシ基又はアミノ基を示し、
2、R3は、同一又は異なってもよく、水素原子、ハロゲン原子又はカルボキシル基を示し、
4は、ハロゲン原子、カルボキシル基、水酸基又はカルバモイル基を示し、
5は、水素原子、アミノ基又は水酸基を示す]
で表される化合物、若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物(ただし、4−アミノ−N−(4−ヒドロキシフェニル)ベンズアミドを除く)を有効成分とするEPO産生促進剤に関する。
【0024】
より詳細には、本発明は下記化合物群:
3−アミノ−N−(4−アミノ−2−クロロフェニル)ベンズアミド、
2−メトキシ−N−(3−カルボキシフェニル)ベンズアミド、
4−クロロ−N−(4−カルボキシフェニル)ベンズアミド、
4−ブロモ−N−(4−カルボキシフェニル)ベンズアミド、
4−クロロ−N−(3−ヒドロキシフェニル)ベンズアミド、
4−クロロ−N−(2−カルバモイルフェニル)ベンズアミド、
4,5−ジクロロ−2−カルボキシ−N−(4−ヒドロキシフェニル)ベンズアミド、
4−ブロモ−N−(3−ヨード−4−ヒドロキシフェニル)ベンズアミド、及び、
4−ブロモ−N−(4−フルオロフェニル)ベンズアミド
からなる群から選択される前記EPO産生促進剤を提供するものである。
【0025】
また、本発明は、前記一般式(1)で表される置換ベンズアニリド化合物、若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物を有効成分とする貧血の予防及び/又は治療剤に関する。より詳細には、本発明は、前記した化合物群から選ばれる置換ベンズアニリド化合物、若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物を有効成分とする貧血の予防及び/又は治療剤を提供するものである。
【0026】
また、本発明は、EPO産生促進用の製剤を製造するための、前記一般式(1)で表される置換ベンズアニリド化合物、若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物の使用(use)に関する。より詳細には、本発明は、EPO産生促進用の製剤を製造するための、前記した化合物群から選ばれる置換ベンズアニリド化合物、若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物の使用を提供するものである。
【0027】
さらに、本発明は、前記一般式(1)で表される置換ベンズアニリド化合物、若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物の有効量を、EPOの産生促進が必要とされる患者に投与することを特徴とする、EPO産生の促進方法(method)に関する。より詳細には、本発明は、前記した化合物群から選ばれる置換ベンズアニリド化合物、若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物の有効量を、EPOの産生促進が必要とされる患者に投与することを特徴とする、EPO産生の促進方法を提供するものである。
【0028】
また、本発明は、前記一般式(1)で表される置換ベンズアニリド化合物、若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物の有効量を細胞に接触させて、当該細胞におけるEPOの産生を促進させる方法に関する。より詳細には、本発明は、前記した化合物群から選ばれる置換ベンズアニリド化合物、若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物の有効量を細胞に接触させて、当該細胞におけるEPOの産生を促進させる方法を提供するものである。ここで、「接触」とは、本明細書中で使用するとき、インビトロ又はインビボにおいて、本発明の置換ベンズアニリド化合物等が、細胞による前記化合物等の取り込み作用又は細胞表面での相互作用などにより、増殖、分化、生理活性物質の分泌などの細胞の機能を調節するように前記化合物等を細胞に添加することを意味する。
【0029】
さらに、本発明は、前記一般式(1)で表される置換ベンズアニリド化合物、若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物、及び医薬として許容される担体とを含有してなるEPOの産生を促進させるための医薬組成物に関する。より詳細には、本発明は、前記した化合物群から選ばれる置換ベンズアニリド化合物、若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物の1種又は2種以上の化合物、及び医薬として許容される担体とを含有してなるEPOの産生を促進させるための医薬組成物を提供するものである。
【発明の効果】
【0030】
本発明は、優れたEPO産生促進作用を有している、置換ベンズアニリド化合物、若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物を見出したものであり、EPO産生を促進することにより症状が改善される疾患(例えば、慢性腎不全患者における貧血、自己貯血及び未熟児貧血、AIDS及び化学療法を受けている癌患者の貧血、慢性貧血、鉄欠乏性貧血、再生不良性貧血、溶血性貧血、巨赤芽球性貧血などの貧血)の予防及び/又は治療のための医薬組成物として有用である。また、本発明は、EPO産生促進作用を有する経口投与可能な低分子性の化合物を有効成分とする貧血の予防及び/又は治療剤を提供するものである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0032】
本発明における用語の定義は以下の通りである。
【0033】
本明細書中で使用するとき、「ハロゲン原子」とは、ハロゲノ基を意味し、具体的にはフッ素原子、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子等である。
【0034】
本明細書中で使用するとき、「アルコキシ基」は、直鎖又は分枝状であってもよい。従って、「C1-6アルコキシ基」には、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、n−ペンチルオキシ基、n−ヘキシルオキシ基等の炭素数1〜6個の直鎖又は分枝状のアルコキシ基が挙げられる。
【0035】
その他、ここに定義のない基については、通常の定義に従う。
【0036】
一般式(1)中、R1におけるハロゲン原子としては、塩素原子又は臭素原子が好ましい。
【0037】
一般式(1)中、R1におけるC1-6アルコキシ基としては、C1-4アルコキシ基が好ましく、メトキシ基がさらに好ましい。
【0038】
一般式(1)中、R2、R3におけるハロゲン原子としては、塩素原子又は臭素原子が好ましい。
【0039】
一般式(1)中、R4、R5におけるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子又はヨウ素原子が好ましい。
【0040】
本発明の一般式(1)で表される置換ベンズアニリド化合物の具体例として、下記化合物を挙げることができる。
【0041】
【表1】

【0042】
本発明の一般式(1)で表される置換ベンズアニリド化合物、若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物は、本発明の置換ベンズアニリド化合物のみならず、その医薬として許容される塩、それらの各種の水和物や溶媒和物、若しくはそれらの結晶多形、又はこれらの物質のプロドラッグとなる物質を包含している。
【0043】
本発明の一般式(1)で表される置換ベンズアニリド化合物の医薬として許容される塩としては、具体的には、化合物を塩基性化合物として扱う場合は、無機酸(例えば、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸等)や有機酸(例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、アスパラギン酸、グルタミン酸等)との酸付加塩等が挙げられ、化合物を酸性化合物として扱う場合には、無機塩(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩、バリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩等)や有機塩(例えば、ピリジニウム塩、ピコリニウム塩、トリエチルアンモニウム塩等)が挙げられる。
【0044】
本発明の一般式(1)で表される置換ベンズアニリド化合物やその医薬として許容される塩の溶媒和物としては、水和物や各種の溶媒和物(例えば、エタノールなどのアルコールとの溶媒和物)が挙げられる。
【0045】
本発明の一般式(1)で表される置換ベンズアニリド化合物は、公知の方法、あるいはこれに準じた方法を参考に製造することができる。以下に製造法の一例を以下に示すが、本発明化合物の製造法はこれに限定されるものではない。
【0046】
Wがハロゲン原子である安息香酸誘導体(2)とアニリン誘導体(3)とを塩基の存在下で反応することにより、化合物(1)を製造することができる。また、Wが水酸基である安息香酸誘導体(2)とアニリン誘導体(3)とを縮合剤の存在下、脱水縮合反応させることによっても化合物(1)を製造することができる。この反応経路を化学反応式で示すと次の通りである。
【0047】
【化3】

【0048】
[式中、R1、R2、R3、R4、R5は、前記と同じものを示し、Wは、ハロゲン原子又は水酸基を示す]
【0049】
Wがハロゲン原子である安息香酸誘導体(2)とアニリン誘導体(3)の反応は、溶媒中、塩基の存在下により行うことができる。溶媒としては、特に限定されないが、例えば、1,2−ジクロロエタン、クロロホルム、ジクロロメタン、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、トルエン、ベンゼン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、アセトニトリル、プロピオニトリル等を使用することができる。塩基としては、特に限定されないが、例えば、ピリジン、4−ジメチルアミノピリジン(DMAP)、コリジン、ルチジン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン(DBU)、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノナ−5−エン(DBN)、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクテン(DABCO)、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、ジイソプロピルペンチルアミン、トリメチルアミン、水素化リチウム、水素化ナトリウム、水素化カリウム、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等を使用することができる。反応温度は、−20〜150℃、好ましくは0〜100℃であり、反応時間は、30分〜48時間、好ましくは1〜24時間である。
【0050】
また、Wが水酸基である安息香酸誘導体(2)とアニリン誘導体(3)の反応は、溶媒中、縮合剤を用いて行うことができる。なお、反応を加速する目的で、縮合剤の他に塩基や縮合促進剤を共存させてもよい。溶媒としては、特に限定されないが、例えば、1,2−ジクロロエタン、クロロホルム、ジクロロメタン、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、トルエン、ベンゼン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、アセトニトリル、プロピオニトリル等を使用することができ、塩基としては、特に限定されないが、例えば、ピリジン、コリジン、ルチジン、DBU、DBN、DABCO、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、ジイソプロピルペンチルアミン、トリメチルアミン、水素化リチウム、水素化ナトリウム、水素化カリウム、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等を使用することができる。縮合促進剤活性化剤としては、特に限定されないが、DMAP、1−ヒドロキシ−7−アゾベンゾトリアゾール(HOAt)、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)、3−ヒドロキシ−3,4−ジヒドロ−4−オキソ−1,2,3−ベンゾトリアゾール(HODhbt)、N−ヒドロキシ−5−ノルボルネン−2,3−ジカルボキシイミド(HONB)、ペンタフルオロフェノール(HOPfp)、N−ヒドロキシフタルイミド(HOPht)、N−ヒドロキシコハク酸イミド(HOSu)等を使用することができる。縮合剤としては、特に限定されないが、N,N’−ジシクロへキシルカルボジイミド(DCC)、N,N’−ジイソプロピルカルボジイミド(DIPCI)、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(WSCI)、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(WSC・HCl)等を使用することができる。
【0051】
種々の置換基を有する安息香酸誘導体(2)、アニリン誘導体(3)を反応に用いることにより、種々の置換基を有するベンズアニリド誘導体を合成することができる。例えば、置換基として水酸基、アルコキシ基、カルボキシル基を有するベンズアニリド誘導体は、J. Med. Chem., 16, 1063-5 (1973)、J. Med. Chem., 43, 873-882 (2000)等を参考に合成することができる。置換基としてハロゲン原子を有するベンズアニリド誘導体は、Bioorg. Med. Chem. Lett., 13, 2967-2971 (2003)、J. Med. Chem. 48, 6696-6712 (2005)等を参考に合成することができる。置換基としてアミノ基を有するベンズアニリド誘導体は、J. Med. Chem., 51, 2400-2411 (2008)等を参考に合成することができる。また、置換基としてカルバモイル基を有するベンズアニリド誘導体は、前記カルボキシル基に通常のアミド化反応を行うことで合成することができる。
【0052】
さらに副反応を回避する目的で、化合物(1)の置換基(R1〜R5)を適当な保護基で保護しておき、前記反応工程の終了後に脱保護を行うことにより化合物(1)を製造することもできる。置換基の保護、脱保護条件としては一般に用いられる方法(Protective Groups in Organic Synthesis Third Edition, John Wiley & Sons, Inc.)を参考にして行うことができる。
【0053】
前記の各反応で得られた中間体及び目的物は、有機合成化学で常用されている精製法、例えば、ろ過、抽出、洗浄、乾燥、濃縮、再結晶、各種クロマトグラフィー等に付して必要に応じて単離、精製することができる。また、中間体においては、特に精製することなく次反応に供することもできる。
【0054】
さらに、各種の異性体は、異性体間の物理化学的性質の差を利用し、常法により単離できる。例えばラセミ混合物は、例えば、酒石酸等の一般的な光学活性酸とのジアステレオマー塩に導いて光学分割する方法、又は、光学活性カラムクロマトグラフィーを用いた方法等の一般的ラセミ分割法により、光学的に純粋な異性体に導くことができる。また、ジアステレオマー混合物は、例えば、分別結晶化又は各種クロマトグラフィー等により分割できる。また、光学活性な化合物は適当な光学活性な原料を用いることにより製造することもできる。
【0055】
本発明のEPO産生促進剤又は貧血治療・予防剤は、一般式(1)で表される置換ベンズアニリド化合物、その塩、又はそれらの溶媒和物を有効成分として含有するものであって、医薬組成物として使用することができる。その場合、本発明の化合物を単独で用いてもよいが、通常は医薬として許容される担体、及び/又は希釈剤を配合して使用される。
【0056】
投与経路は、特に限定されないが、治療目的に応じて適宜選択することができる。例えば、経口剤、注射剤、坐剤、吸入剤等のいずれでもよい。これらの投与形態に適した医薬組成物は、公知の製剤方法を利用することによって製造できる。
【0057】
経口用固形製剤を調製する場合は、一般式(1)で表される置換ベンズアニリド化合物に医薬として許容される賦形剤、更に必要に応じて結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、矯味剤、矯臭剤等を加えた後、常法を利用して、錠剤、被覆錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤等を製造することができる。添加剤は、当該技術分野で一般的に使用されているものでよい。例えば、賦形剤としては、乳糖、白糖、塩化ナトリウム、ブドウ糖、デンプン、炭酸カルシウム、カオリン、微結晶セルロース、珪酸等が挙げられる。結合剤としては、水、エタノール、プロパノール、単シロップ、ブドウ糖液、デンプン液、ゼラチン液、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルスターチ、メチルセルロース、エチルセルロース、シェラック、リン酸カルシウム、ポリビニルピロリドン等が挙げられる。崩壊剤としては、乾燥デンプン、アルギン酸ナトリウム、カンテン末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド、乳糖等が挙げられる。滑沢剤としては、精製タルク、ステアリン酸塩、ホウ砂、ポリエチレングリコール等が挙げられる。矯味剤としては、白糖、橙皮、クエン酸、酒石酸等が挙げられる。
【0058】
経口用液体製剤を調製する場合は、一般式(1)で表される置換ベンズアニリド化合物に矯味剤、緩衝剤、安定化剤、矯臭剤等を加えて常法を利用して内服液剤、シロップ剤、エリキシル剤等を製造することができる。矯味剤としては上記に挙げられたものでよく、緩衝剤としてはクエン酸ナトリウム等が、安定化剤としてはトラガント、アラビアゴム、ゼラチン等が挙げられる。
【0059】
注射剤を調製する場合は、一般式(1)で表される置換ベンズアニリド化合物にpH調節剤、緩衝剤、安定化剤、等張化剤、局所麻酔剤等を添加し、常法を利用して皮下、筋肉及び静脈内注射剤を製造することができる。pH調製剤及び緩衝剤としてはクエン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、リン酸ナトリウム等が挙げられる。安定化剤としては、ピロ亜硫酸ナトリウム、EDTA、チオグリコール酸、チオ乳酸等が挙げられる。局所麻酔剤としては塩酸プロカイン、塩酸リドカイン等が挙げられる。等張化剤としては、塩化ナトリウム、ブドウ糖等が挙げられる。
【0060】
坐剤を調製する場合は、一般式(1)で表される置換ベンズアニリド化合物に公知の坐剤用担体、例えば、ポリエチレングリコール、ラノリン、カカオ脂、脂肪酸トリグリセライド等、更に必要に応じて界面活性剤(例えば、ツイーン(登録商標))等を加えた後、常法を利用して製造することができる。
【0061】
上記以外に、常法を利用して適宜好ましい製剤とすることもできる。
【0062】
本発明の一般式(1)で表される置換ベンズアニリド化合物の投与量は年齢、体重、症状、投与形態及び投与回数等によって異なるが、通常は成人に対して一般式(1)で表わされる化合物として1日あたり1mgから1000mgを、1回又は数回に分けて経口投与又は非経口投与するのが好ましい。
【実施例】
【0063】
次に、実施例を挙げて本発明を更に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、実施例に使用した被検化合物はChembridge社より入手したものを使用した。
【0064】
実施例1
本発明の置換ベンズアニリド化合物によるEPO産生促進活性は、EPOプロモーター活性に基づいて測定した。
【0065】
<材料と方法>
pGL3 basic(プロメガ)のルシフェラーゼ遺伝子にヒトEPOの5’プロモーター領域、及び3’エンハンサー領域を連結したベクターをリポフェクションによってヒト肝臓癌由来である細胞株HepG2に遺伝子導入した。得られた安定発現株(HepG2 EPO−luc)を被検化合物の評価に使用した。次に、HepG2 EPO−lucは、10%ウシ胎児血清を含む最小必須培地(MEM)(シグマ)を用いて96ウェルプレートの各ウェルに5×103細胞ずつ播種した。その後、DMSOに溶解した被検化合物を最終濃度7.5μMとなるように各ウェルに添加し、培地量を1ウェルあたり100μlとした。酸素濃度を4%としたCO2インキュベーターで24時間インキュベート後、EPOプロモーター活性として、Bright−Glo(商標)Luciferase Assay System(プロメガ)を100μl/ウェルで添加し、直ちに、ARVO(パーキンエルマー)を用いてルシフェラーゼ活性を測定した。上記方法は、Bright−Glo(商標)Luciferase Assay Systemに添付された取扱説明書に準じた。
【0066】
化合物を添加しない未刺激状態でのEPOプロモーター活性を100%とし、各化合物により誘導されたEPOプロモーター活性(% of control)を算出した。結果を表2に示す。
【0067】
【表2】

【0068】
<結果>
被検化合物を濃度7.5μM添加することにより、EPO産生促進が認められた(表2参照)。特に、化合物6は700%を超える強力なEPO産生促進作用を有していた。以上のことから、これらの化合物にはEPO産生促進作用があることが明らかとなり、貧血治療剤として有用であることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、一般式(1)で表される置換ベンズアニリド化合物若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物が、優れたEPO産生促進作用を有していることを初めて見出し、優れたEPO産生促進作用を有する経口投与可能な低分子性の貧血の予防及び/又は治療剤を提供するものである。本発明は、低分子性の新たな貧血の予防及び/又は治療剤を提供し、製薬工業において有用であり、産業上の利用可能性を有している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の一般式(1):
【化1】

[式中、
1は、ハロゲン原子、C1-6アルコキシ基又はアミノ基を示し、
2、R3は、同一又は異なってもよく、水素原子、ハロゲン原子又はカルボキシル基を示し、
4は、ハロゲン原子、カルボキシル基、水酸基又はカルバモイル基を示し、
5は、水素原子、アミノ基又は水酸基を示す]
で表される化合物、若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物(ただし、4−アミノ−N−(4−ヒドロキシフェニル)ベンズアミドを除く)を有効成分とするEPO産生促進剤。
【請求項2】
下記の化合物群:
3−アミノ−N−(4−アミノ−2−クロロフェニル)ベンズアミド、
2−メトキシ−N−(3−カルボキシフェニル)ベンズアミド、
4−クロロ−N−(4−カルボキシフェニル)ベンズアミド、
4−ブロモ−N−(4−カルボキシフェニル)ベンズアミド、
4−クロロ−N−(3−ヒドロキシフェニル)ベンズアミド、
4−クロロ−N−(2−カルバモイルフェニル)ベンズアミド、
4,5−ジクロロ−2−カルボキシ−N−(4−ヒドロキシフェニル)ベンズアミド、
4−ブロモ−N−(3−ヨード−4−ヒドロキシフェニル)ベンズアミド、及び、
4−ブロモ−N−(4−フルオロフェニル)ベンズアミド
からなる群から選ばれる、請求項1に記載のEPO産生促進剤。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のEPO産生促進剤を有効成分とする貧血の予防及び/又は治療剤。

【公開番号】特開2011−195555(P2011−195555A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−67400(P2010−67400)
【出願日】平成22年3月24日(2010.3.24)
【出願人】(000163006)興和株式会社 (618)
【Fターム(参考)】