説明

エレクトロルミネッセンスディスプレイ用光取り出しフィルム、及びそれを用いた有機エレクトロルミネッセンスディスプレイ

【課題】本発明は、面発光素子から出射される光の正面輝度、光利用効率を改善すると共に良好な画質が得られるエレクトロルミネッセンスディスプレイ用光取り出しフィルム、及びそれを用いた有機エレクトロルミネッセンスディスプレイを提供することである。
【解決手段】基材フィルムの一方の面に光路変換要素を持つエレクトロルミネッセンスディスプレイ用光取り出しフィルムにおいて、前記光路変換要素がコーン形状を配列してなり、該コーン形状のピッチは1μm〜ディスプレイの一画素の50%以下の範囲であり、且つ該コーン形状の底面の半径をR、ピッチをPとした時に以下の式1を満足することを特徴とするエレクトロルミネッセンスディスプレイ用光取り出しフィルム。
0.6√2×R≦P≦2.2√2×R・・・・(式1)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は画像表示装置用のエレクトロルミネッセンスディスプレイ用光取り出しフィルム、及びそれを用いた有機エレクトロルミネッセンスディスプレイに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、情報機器の多様化等にともなって、消費電力が少なく、容積が小さい面発光素子のニーズが高まり、このような面発光素子の一つとしてエレクトロルミネッセンス素子(以下、EL素子と略す。)が注目されている。
【0003】
そして、このようなEL素子は、使用する材料によって無機EL素子と有機EL素子とに大別される。
【0004】
ここで、無機EL素子は、一般に発光部に高電界を作用させ、電子をこの高電界中で加速して発光中心に衝突させ、これにより発光中心を励起させて発光させるようになっている。一方、有機EL素子は、電子注入電極とホール注入電極とからそれぞれ電子とホールとを発光層内に注入し、このように注入された電子とホールとを発光層内で結合させて、有機材料を励起状態にし、この有機材料が励起状態から基底状態に戻るときに発光するようになっており、無機EL素子に比べて、低い電圧で駆動できるという利点がある。
【0005】
また、有機EL素子の場合には、発光材料を選択することによって適当な色彩に発光する発光素子を得ることができ、ディスプレイ用途での利用も始まってきている。
【0006】
上記のようなEL素子等の面発光素子を発光させた場合、発光された光は様々な方向に進行し、面発光素子の出射面等において全反射して面発光素子の内部に閉じ込められる光も多く存在し、光利用効率の観点からロスが大きく、さらなる光利用効率の向上及び正面輝度の改良が求められていた。
【0007】
そして、従来においては、有機EL素子等の面発光素子を発光させた場合において、その内部に閉じ込められる光を取り出して、その正面輝度を向上させるために、面発光素子にレンズシートを組み合わせて使用する方法や拡散シートを設ける手法などが提案されてきた。(例えば、特許文献1参照。)。
【0008】
しかし、上記のように面発光素子のディスプレイ用途で通常のレンズシートや拡散シートを使用した場合、正面輝度や光利用効率の観点からは良好な結果が得られるが、ディスプレイ用途として使用した場合、画質において解像度の低下等を引き起こすという問題があった。
【特許文献1】特許第2931211号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、ディスプレイ用途での使用を目的とし、面発光素子から出射される光の正面輝度、光利用効率を改善すると共に良好な画質が得られるエレクトロルミネッセンスディスプレイ用光取り出しフィルム、及びそれを用いた有機エレクトロルミネッセンスディスプレイを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の上記課題は以下の構成により達成される。
【0011】
1.基材フィルムの一方の面に光路変換要素を持つエレクトロルミネッセンスディスプレイ用光取り出しフィルムにおいて、前記光路変換要素がコーン形状を配列してなり、該コーン形状のピッチは1μm〜ディスプレイの一画素の50%以下の範囲であり、且つ該コーン形状の底面の半径をR、ピッチをPとした時に以下の式1を満足することを特徴とするエレクトロルミネッセンスディスプレイ用光取り出しフィルム。
【0012】
0.6√2×R≦P≦2.2√2×R・・・・(式1)
2.前記基材フィルムの下記式2で表される面内位相差(R)及び下記式3で表される厚み方向の位相差(Rt)が−10〜10nmであることを特徴とする前記1に記載のエレクトロルミネッセンスディスプレイ用光取り出しフィルム。
【0013】
(式2) R=(Nx−Ny)×d
(式3) Rt=〔(Nx+Ny)/2−Nz〕×d
(上記、式2及び式3において、Nxはフィルム面内における最大方向の屈折率、Nyはフィルム面内における最小の屈折率、Nzはフィルム厚み方向における屈折率を表す。dはフィルムの厚み(nm)である。)
3.前記基材フィルムの下記式2で表される面内位相差(R)がλ/4であり、下記式3で表される厚み方向の位相差(Rt)が−10〜10nmであることを特徴とする前記1に記載のエレクトロルミネッセンスディスプレイ用光取り出しフィルム。
【0014】
(式2) R=(Nx−Ny)×d
(式3) Rt=〔(Nx+Ny)/2−Nz〕×d
(上記、式2及び式3において、Nxはフィルム面内における最大方向の屈折率、Nyはフィルム面内における最小の屈折率、Nzはフィルム厚み方向における屈折率を表す。dはフィルムの厚み(nm)である。)
4.少なくとも一対の電極とその間に有機発光層を備えた発光素子、光路変換素子、λ/4位相差素子、吸収型偏光素子からなる有機エレクトロルミネッセンス画像表示装置において、一対の電極のうち少なくとも一方が光透過性電極であり、前記有機発光層から見て該光透過性電極のある方向に前記光路変換素子及びλ/4位相差素子がこの順で配置されており、該光路変換素子がフィルムの一方の面に光路変換要素を持つエレクトロルミネッセンスディスプレイ用光取り出しフィルムであり、該光路変換要素がコーン形状を配列してなり、該コーン形状のピッチは1μm〜ディスプレイの一画素の50%以下の範囲であり、且つ該コーン形状の底面の半径をR、ピッチをPとした時に以下の式1を満足するエレクトロルミネッセンスディスプレイ用光取り出しフィルムであり、該光取り出しフィルムの光路変換要素が有機発光層側にあることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンスディスプレイ。
【0015】
0.6√2×R≦P≦2.2√2×R・・・・(式1)
【発明の効果】
【0016】
本発明は、ディスプレイ用途での使用を目的とし、面発光素子から出射される光の正面輝度、光利用効率を改善すると共に良好な画質が得られるエレクトロルミネッセンスディスプレイ用光取り出しフィルム、及びそれを用いた有機エレクトロルミネッセンスディスプレイを得ることである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0018】
本発明のエレクトロルミネッセンスディスプレイ用光取り出しフィルム(以下簡単に光取り出しフィルムという)は、基材フィルムの一方の面に光路変換要素を持ち、該光路変換要素がコーン形状を配列してなり、該コーン形状のピッチは1μm〜ディスプレイの一画素の50%以下の範囲であり、該コーン形状の頂角は45°〜65°の範囲であり、且つ該コーン形状の底面の半径をR、ピッチをPとした時に以下の式1を満足することを特徴とする。
【0019】
0.6√2×R≦P≦2.2√2×R・・・・(式1)
本発明の光取り出しフィルムにおいて、光路変換要素はコーン形状を格子状に配列した表面形状を持つフィルムのことをいう。本発明のコーン形状とは円錐形状、楕円錘形状、多角錐形状、さらに底面が円及び楕円及び多角形、上面が楕円、円、多角形である組み合わせ錘形状などを含み、さらに前記形状の底面が錐状形状の頂点部分を底面と平行な平面で切り取った形状のことをいう。コーン形状のモデルの一例として、図1及び図2に円錐形状のモデルを提示する。図1(a)はコーン形状の側面図であり、図1(b)は、コーン形状の上面図であり、図1(c)はコーン形状の斜面図である。図から明らかなように本発明のコーン形状は、円錐形状の頂角部分を、円錐形状の底面と平行な平面で切り落とした形状をしている。ディスプレイ用途の場合、観察者の方向により輝度変化が等価であることが好ましく、その観点からは図1及び図2に示される円錐形状を母体としたコーン形状が好ましい。
【0020】
本発明でいうコーン形状の頂角とは図2におけるθで示される角度のことを意味している。また、本発明におけるコーン底面の半径Rは図2に図示した底面の半径のことを意味する。また、円錐形状の他の近似した形状においては、その形状を円錐に近似した場合の角度のことを意味する。
【0021】
本発明のコーン形状のピッチPとは、前記コーン形状を配列した時に最近接となる隣のコーン形状との間との底面の中心間距離を意味する。配列の方法は、六方細密配列、格子状配列等やそれらに近似した配列を含む。中でも、光取り出し効率の向上の観点からコーン形状の側面の比率が大きい配列が好ましく、特に格子状配列が好ましい。
【0022】
本発明におけるコーン形状のピッチPは、1μm〜ディスプレイの一画素の50%以下の範囲であることを特徴とする。コーン形状やピッチPは使用されるディスプレイの解像度に左右されるが、通常市販されているディスプレイの解像度から、おおよそ1μm〜67μmの範囲である。本発明における画素の大きさとは、正方形状の画素を想定した場合の一辺の大きさのことを表す。尚画素の形状が他形状の場合、1画素の中心を通る直線を引いた場合の最小の長さのことを意味する。照明用の光取り出しフィルムの場合とは異なりディスプレイ用途に使用する場合、ピッチが使用されるディスプレイの画素の大きさの50%よりも大きいと十分な光取り出し効率が得られない場合や解像度の低下を引き起こす場合がある。そのため使用される画素の大きさの50%以下であることが好ましく、さらに好ましくは画素の3分の1以下であることが好ましい。また、コーン形状のピッチが1μmより小さい範囲になると、光の干渉現象などを引き起こし画質の低下をもたらす原因となる点やさらに波長同等もしくは波長よりも小さなピッチになると光取り出しの効果が十分に得られない結果となるためコーン形状は1μm以上が好ましい。
【0023】
本発明のコーン形状の頂角は45〜65°の範囲であることを特徴とする。この範囲にコーン形状の頂角を制御することにより、本発明の光取り出しフィルムを使用しない場合にディスプレイ表面と空気との間で全反射しロスしていた光を選択的に出射する光として光路変換することが可能となる。更にコーン形状の頂角は50〜60°の範囲であることが光路変換を効率よく行う上で、より好ましい。
【0024】
本発明の光取り出しフィルムにおけるコーン形状の高さは、コーン形状の底面と上面との二面間の距離のことを意味し、図2にモデル的に図示されるhで表すことができる。本発明のコーン形状の高さhは適宜取り得るが、ピッチに対して80〜100%の範囲であることが好ましく、85〜95%の範囲であることがより好ましい。コーン形状の高さをこの範囲におさめることにより、光の利用効率を最大限に高めることができる。具体的には、コーン形状の高さが95%を越えた場合コーン形状の上面面積が減少し、基板から本発明のフィルム中に入射する光が減少し光利用効率は低下する。また、コーン形状の高さが85%以下の場合、発光した光が本発明のフィルムに入射するものの光路変換の効果が減少するため、光利用効率は低下する。
【0025】
本発明の光取り出しフィルムはコーン形状の底面の半径をR、ピッチをPとした時、
0.6√2×R≦P≦2.2√2×R・・・・(式1)
の関係を満たすことを特徴とする。これは、本発明のフィルムの光路変換要素がフィルム全面にわたって隙間なく設置されていることが光利用効率の向上の観点から有効であることを意味している。コーンの配列はランダムであってもよいが、格子状配列にした場合の光利用効率を高める観点から、R及びPの関係が√2R=Pの時、コーン形状の第二近接のコーン形状同士の底面が接する関係となり光路変換要素として最大限の効果を発揮することができるため最も好ましい。
【0026】
従って、式1は、記式1aの範囲であることがより好ましい。
【0027】
0.95√2×R≦P≦1.05√2×R・・・・(式1a)
ここでコーン形状のピッチP、頂角、高さh、底面の半径Rの測定は、例えばKEYENCE製 カラー3D顕微鏡VK−9700によりフィルムの表面形状の測定を行い求めることができる。
【0028】
図3に本発明に好ましい光変換要素が配置された模式図を示す。(a)は上面から、(b)は斜方から観察した時の模式図である。
【0029】
既存の技術として、散乱体(含む散乱層)を設置した場合には、光利用効率の向上は望めるものの、一画素から出る光が散乱効果により本来出射するべき位置とは異なる位置から光が出射することになる。即ち、解像度の低下を引き起こす結果となりディスプレイ用途としては課題となる。また、全反射を用いたプリズムを配置したものであっても画素との関係を考慮しなければ光利用効率の向上が望めない場合や見る方向によりコントラストの減少等の課題を解決はできない。
【0030】
本発明の光取り出しフィルムの効果は、画素から出射する光のうちディスプレイ表面で全反射により閉じ込められる光を選択的にコーン形状の側面において全反射させることにより光利用効率の向上と正面輝度の上昇を図る点に特徴がある。さらに、使用されるディスプレイの画素の大きさとの関係において形状を規定することにより画質の低下を防止し、光利用効率及び正面輝度の上昇を達成することができた。
【0031】
本発明の有機エレクトロルミネッセンスディスプレイ(以下、有機ELディスプレイとも表記する)は、発光素子、光路変換素子、λ/4位相差素子、吸収型偏光素子がこの順で配置されていることが好ましい。
【0032】
有機ELディスプレイは、一方が反射性の電極、他方が光透過性の電極を使用して発光層から出た光を光透過性電極側から視認側へと導く構造となっている。画像観察時に外光からの光が素子内部に侵入し反射性電極で反射されると、本来であれば黒表示される部分が反射された外光が出射することによりコントラストの低下を引き起こす場合がある。発光層側からλ/4位相差素子、吸収型偏光層をこの順で配置すると、外光は吸収型偏光層により半分は吸収され、残りは直線偏光となる。さらに素子内部に入射した直線偏光は反射性電極で反射されるが、λ/4位相差素子を2度通過することにより光の位相がλ/2ずれて吸収型偏光層で吸収される結果となり、コントラストの低下を防止することができる。
【0033】
この構成において、既存技術である散乱層を設置した場合には、散乱体による外光の位相の変化を引き起こす場合や外光の光路長が変化することによりコントラストの低下を招くことになる。本発明においては、コーン形状の角度により、外光に対してこのような悪影響を及ぼすことがないため、コントラストの低下を防止することができるため画像表示装置として良好な結果が得られる。
【0034】
本発明の光取り出しフィルムにおける基材フィルムの、後述する式2、式3で表される面内及び厚み方向の位相差(R)、及び(Rt)は−10〜10nmの範囲であることが好ましく、特に0であることが好ましい。面内及び厚み方向の位相差が0であると、上記の吸収型偏光子及びλ/4位相差素子を用いた構成において、λ/4位相差素子の位相変化への影響を小さくしディスプレイ用途でのコントラスト低下を防止することができる。
【0035】
更に、本発明の光取り出しフィルムにおいて、基材フィルムの面内位相差をλ/4、及び厚み方向の位相差を−10〜10nmの範囲、より好ましくは0とすることにより、前記λ/4位相差素子を兼ねる効果も得られるため、別途λ/4位相差素子を準備する必要がなく、部材の削減、薄膜化に極めて有利な構成になる。
【0036】
<基材フィルム>
本発明の光取り出しフィルムに使用される基材フィルムとして特に限定はないが、可視光域に吸収を持たないものが好ましい。特に、可視光領域での透過率が80%以上のものが好ましい。
【0037】
具体的には、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリエーテル、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリスチレン、ポリエステルアミド、ポリカーボネート、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルエステル、ポリ塩化ビニル、ポリメタクリル酸エステル、ノルボルネン系樹脂、セルロースエステル等の各種樹脂材料を使用することができる。中でも、透過率の観点からセロースエステルが好ましい。
【0038】
(セルロースエステル)
セルロースエステルとしては、炭素数2〜22程度のカルボン酸エステル、芳香族カルボン酸のエステルであり、特に炭素数が6以下の低級脂肪酸エステルであることが好ましい。
【0039】
水酸基に結合するアシル基は、直鎖であっても分岐してもよく、また環を形成してもよい。更に別の置換基が置換してもよい。同じ置換度である場合、前記炭素数が多いと複屈折性が低下するため、炭素数としては炭素数2〜6のアシル基の中で選択することが好ましい。前記セルロースエステルとしての炭素数が2〜4であることが好ましく、炭素数が2〜3であることがより好ましい。
【0040】
本発明において好ましく用いられるセルロースエステルとしては、特にセルロースアセテート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートプロピオネートが好ましく用いられる。中でも延伸により位相差が調整し易いセルロースアセテートプロピオネートが特に好ましい。
【0041】
セルロースエステルとしては、下記式(1)及び式(2)を同時に満足する、セルロースエステルの総アシル基置換度が2.1〜2.9のものが好ましい。
【0042】
式(1) 2.1≦X+Y≦2.9
式(2) 0≦Y≦1.5
式中、Xはアセチル基の置換度、Yはプロピオニル基またはブチリル基、もしくはその混合物の置換度である。尚、アセチル基の置換度と他のアシル基の置換度は、ASTM−D817−96に規定の方法により求めることができる。
【0043】
また、目的に叶う光学特性を得るために置換度の異なる樹脂を混合して用いても良い。混合比としては10:90〜90:10(質量比)が好ましい。
【0044】
この中で特にセルロースアセテートプロピオネートが好ましく用いられる。セルロースアセテートプロピオネートでは、1.0≦X≦2.5であり、0.1≦Y≦1.5、2.1≦X+Y≦2.9であることが好ましい。
【0045】
本発明に用いられるセルロースエステルの数平均分子量は、60000〜300000の範囲が、得られるフィルムの機械的強度が強く好ましい。更に70000〜200000のものが好ましく用いられる。
【0046】
更に、セルロースエステルは、重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)比が1.3〜5.5のものが好ましく用いられ、特に好ましくは1.5〜5.0であり、更に好ましくは1.7〜4.0であり、特に好ましくは2.0〜3.5のセルロースエステルが好ましく用いられる。
【0047】
セルロースエステルの重量平均分子量Mw、数平均分子量Mnは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて測定した。
【0048】
測定条件は以下の通りである。
【0049】
溶媒: メチレンクロライド
カラム: Shodex K806、K805、K803G(昭和電工(株)製を3本接続して使用した)
カラム温度:25℃
試料濃度: 0.1質量%
検出器: RI Model 504(GLサイエンス社製)
ポンプ: L6000(日立製作所(株)製)
流量: 1.0ml/min
校正曲線: 標準ポリスチレンSTK standard ポリスチレン(東ソー(株)製)Mw=1000000〜500の13サンプルによる校正曲線を使用した。13サンプルは、ほぼ等間隔に用いる。
【0050】
尚、本測定方法は、本発明における他の重合体の測定方法としても使用することができる。
【0051】
セルロースエステルの原料のセルロースとしては、特に限定はないが、綿花リンター、木材パルプ、ケナフなどを挙げることができる。またそれらから得られたセルロースエステルはそれぞれ任意の割合で混合使用することができる。
【0052】
セルロースエステルは、公知の方法により製造することができる。具体的には特開平10−45804号に記載の方法を参考にして合成することができる。
【0053】
また、セルロースエステルは、セルロースエステル中の微量金属成分によっても影響を受ける。
【0054】
これらは製造工程で使われる水に関係していると考えられるが、不溶性の核となり得るような成分は少ない方が好ましく、鉄、カルシウム、マグネシウム等の金属イオンは、有機の酸性基を含んでいる可能性のあるポリマー分解物等と塩形成することにより不溶物を形成する場合があり、少ないことが好ましい。
【0055】
鉄(Fe)成分については、1ppm以下であることが好ましい。カルシウム(Ca)成分については、カルボン酸や、スルホン酸等の酸性成分と、また多くの配位子と配位化合物即ち、錯体を形成しやすく、多くの不溶なカルシウムに由来するスカム(不溶性の澱、濁り)を形成する。
【0056】
カルシウム(Ca)成分は60ppm以下、好ましくは0〜30ppmである。マグネシウム(Mg)成分については、やはり多過ぎると不溶分を生ずるため、0〜70ppmであることが好ましく、特に0〜20ppmであることが好ましい。
【0057】
鉄(Fe)分の含量、カルシウム(Ca)分含量、マグネシウム(Mg)分含量等の金属成分は、絶乾したセルロースエステルをマイクロダイジェスト湿式分解装置(硫硝酸分解)、アルカリ溶融で前処理を行った後、ICP−AES(誘導結合プラズマ発光分光分析装置)を用いて分析することができる。
【0058】
〈その他の添加剤〉
基材フィルムは、必要に応じて下記に挙げる添加剤を含有することができる。
【0059】
例えば基材フィルムには上記セルロースエステル以外に、(メタ)アクリル系重合体、または、フラノース構造もしくはピラノース構造を1個有する化合物(A)中のOH基のすべてもしくは一部をエステル化したエステル化化合物、或いは、フラノース構造もしくはピラノース構造の少なくとも1種を2個以上、12個以下結合した化合物(B)中のOH基のすべてもしくは一部をエステル化したエステル化化合物を含有することも好ましい。
【0060】
これらは適宜添加することで位相差の調整を容易にする働きを示す。
【0061】
((メタ)アクリル系重合体)
(メタ)アクリル系重合体としては、基材フィルムに含有させた場合、機能として延伸方向に対して負の複屈折性を示すことが好ましく、特に構造が限定されるものではないが、エチレン性不飽和モノマーを重合して得られた重量平均分子量が500以上30000以下である重合体であることが好ましい。
【0062】
本発明に用いられる重量平均分子量が500以上30000以下である(メタ)アクリル系重合体は、芳香環を側鎖に有する(メタ)アクリル系重合体またはシクロヘキシル基を側鎖に有する(メタ)アクリル系重合体であってもよい。
【0063】
該重合体の重量平均分子量が500以上30000以下のもので該重合体の組成を制御することにより、例えばセルロースエステルを含有する場合、該セルロースエステルと該重合体との相溶性を良好にすることができる。
【0064】
芳香環を側鎖に有する(メタ)アクリル系重合体またはシクロヘキシル基を側鎖に有する(メタ)アクリル系重合体について、好ましくは重量平均分子量が500以上10000以下のものであれば、上記に加え、製膜後のフィルムの透明性が優れ、透湿度も極めて低く好ましい。
【0065】
該重合体は、重量平均分子量が500以上30000以下であるから、オリゴマーから低分子量重合体の間にあると考えられるものである。このような重合体を合成するには、通常の重合では分子量のコントロールが難しく、分子量を余り大きくしない方法でできるだけ分子量を揃えることのできる方法を用いることが望ましい。
【0066】
特に、本発明の基材フィルムに用いられる(メタ)アクリル系重合体としては、分子内に芳香環と水酸基を有しないエチレン性不飽和モノマーXaと、分子内に芳香環を有せず、水酸基を有するエチレン性不飽和モノマーXbとXa、Xbを除く共重合可能なエチレン性不飽和モノマーとを共重合して得られた重量平均分子量2000以上30000以下の重合体X、または芳香環を有さないエチレン性不飽和モノマーYaと、Yaと共重合可能なエチレン性不飽和モノマーとを重合して得られた重量平均分子量500以上3000以下の重合体Yであることが好ましい。
【0067】
[重合体X、重合体Y]
及びRtを調整する方法としては、分子内に芳香環と水酸基を有しないエチレン性不飽和モノマーXaと、分子内に芳香環を有せず、水酸基を有するエチレン性不飽和モノマーXbとXa、Xbを除く共重合可能なエチレン性不飽和モノマーとを共重合して得られた重量平均分子量2000以上30000以下の高分子量の重合体X、そして、より好ましくは、芳香環を有さないエチレン性不飽和モノマーYaと、Yaと共重合可能なエチレン性不飽和モノマーとを重合して得られた重量平均分子量500以上3000以下の低分子量の重合体Yを含有することが好ましい。
【0068】
重合体Xは、分子内に芳香環と水酸基を有しないエチレン性不飽和モノマーXaと分子内に芳香環を有せず、水酸基を有するエチレン性不飽和モノマーXbとXa、Xbを除く共重合可能なエチレン性不飽和モノマーとを共重合して得られた重量平均分子量2000以上、30000以下の重合体である。
【0069】
好ましくは、Xaは分子内に芳香環と水酸基を有しないアクリルまたはメタクリルモノマー、Xbは分子内に芳香環を有せず水酸基を有するアクリルまたはメタクリルモノマーである。
【0070】
重合体Xは、下記一般式(X)で表される。
【0071】
一般式(X)
−[Xa]m−[Xb]n−[Xc]p−
上記一般式(X)において、Xaは分子内に芳香環と水酸基とを有しないエチレン性不飽和モノマーを表し、Xbは分子内に芳香環を有せず、水酸基を有するエチレン性不飽和モノマーを表し、XcはXa、Xbを除く共重合可能なエチレン性不飽和モノマーを表す。m、n及びpは、各々モル組成比を表す。但し、m≠0、m+n+p=100である。
【0072】
更に、重合体Xとして好ましくは、下記一般式(X−1)で表される重合体である。
【0073】
一般式(X−1)
−[CH−C(−R1)(−COR2)]m−[CH−C(−R3)(−COR4−OH)−]n−[Xc]p−
上記一般式(X−1)において、R1、R3は、それぞれ水素原子またはメチル基を表す。R2は炭素数1〜12のアルキル基またはシクロアルキル基を表す。R4は−CH−、−C−または−C−を表す。Xcは、[CH−C(−R1)(−COR2)]または[CH−C(−R3)(−COR4−OH)−]に重合可能なモノマー単位を表す。m、n及びpは、モル組成比を表す。但しm≠0、m+n+p=100である。
【0074】
本発明に用いられる重合体Xを構成するモノマー単位としてのモノマーを下記に挙げるが、これに限定されない。
【0075】
Xにおいて、水酸基とは、水酸基のみならずエチレンオキシド連鎖を有する基をいう。
【0076】
分子内に芳香環と水酸基を有しないエチレン性不飽和モノマーXaは、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル(i−、n−)、アクリル酸ブチル(n−、i−、s−、t−)、アクリル酸ペンチル(n−、i−、s−)、アクリル酸ヘキシル(n−、i−)、アクリル酸ヘプチル(n−、i−)、アクリル酸オクチル(n−、i−)、アクリル酸ノニル(n−、i−)、アクリル酸ミリスチル(n−、i−)、アクリル酸(2−エチルヘキシル)、アクリル酸(ε−カプロラクトン)、等、または上記アクリル酸エステルをメタクリル酸エステルに変えたものを挙げることができる。中でも、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル(i−、n−)であることが好ましい。
【0077】
分子内に芳香環を有せず、水酸基を有するエチレン性不飽和モノマーXbは、水酸基を有するモノマー単位として、アクリル酸またはメタクリル酸エステルが好ましく、例えば、アクリル酸(2−ヒドロキシエチル)、アクリル酸(2−ヒドロキシプロピル)、アクリル酸(3−ヒドロキシプロピル)、アクリル酸(4−ヒドロキシブチル)、アクリル酸(2−ヒドロキシブチル)、またはこれらアクリル酸をメタクリル酸に置き換えたものを挙げることができ、好ましくは、アクリル酸(2−ヒドロキシエチル)及びメタクリル酸(2−ヒドロキシエチル)、アクリル酸(2−ヒドロキシプロピル)、アクリル酸(3−ヒドロキシプロピル)である。
【0078】
Xcとしては、Xa、Xb以外のモノマーで、且つ共重合可能なエチレン性不飽和モノマーであれば、特に制限はないが、芳香環を有していないものが好ましい。
【0079】
Xa及びXbのモル組成比m:nは99:1〜65:35の範囲が好ましく、更に好ましくは95:5〜75:25の範囲である。Xcのpは0〜10である。Xcは複数のモノマー単位であってもよい。
【0080】
Xaのモル組成比が多いと、セルロースエステルとの相溶性が良化するがフィルム厚み方向のリターデーション値Rtが大きくなる。Xbのモル組成比が多いと上記相溶性が悪くなるが、Rtを低減させる効果が高い。
【0081】
また、Xbのモル組成比が上記範囲を超えると製膜時にヘイズが出る傾向があり、これらの最適化を図りXa、Xbのモル組成比を決めることが好ましい。
【0082】
高分子量の重合体Xの分子量は、重量平均分子量が5000以上30000以下であることがより好ましく、更に好ましくは8000以上25000以下である。
【0083】
重量平均分子量を5000以上とすることにより、基材フィルムの高温高湿下における寸法変化が少ない、基材フィルムとしてカールが少ない等の利点が得られ好ましい。
【0084】
重量平均分子量が30000以下とした場合は、セルロースエステルとの相溶性がより向上し、高温高湿下においてのブリードアウト、更に製膜直後でのヘイズの発生が抑制される。
【0085】
重合体Xの重量平均分子量は、公知の分子量調節方法で調整することができる。そのような分子量調節方法としては、例えば、四塩化炭素、ラウリルメルカプタン、チオグリコール酸オクチル等の連鎖移動剤を添加する方法等が挙げられる。
【0086】
また、重合温度は、通常、室温から130℃、好ましくは50℃から100℃で行われるが、この温度または重合反応時間を調整することで可能である。
【0087】
重量平均分子量の測定方法は、下記の方法により求めることができる。
【0088】
(平均分子量測定方法)
重量平均分子量Mw、数平均分子量Mnは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて測定した。
【0089】
測定条件は以下の通りである。
【0090】
溶媒: メチレンクロライド
カラム: Shodex K806、K805、K803G(昭和電工(株)製を3本接続して使用した)
カラム温度:25℃
試料濃度: 0.1質量%
検出器: RI Model 504(GLサイエンス社製)
ポンプ: L6000(日立製作所(株)製)
流量: 1.0ml/min
校正曲線: 標準ポリスチレンSTK standard ポリスチレン(東ソー(株)製)Mw=1000000〜500の13サンプルによる校正曲線を使用した。13サンプルは、ほぼ等間隔に用いる。
【0091】
低分子量の重合体Yは、芳香環を有さないエチレン性不飽和モノマーYaを重合して得られた重量平均分子量500以上3000以下の重合体である。重量平均分子量500以上であれば重合体の残存モノマーが減少し好ましい。
【0092】
また、3000以下とすることは、リターデーション値Rt低下性能を維持するために好ましい。Yaは、好ましくは芳香環を有さないアクリルまたはメタクリルモノマーである。
【0093】
重合体Yは、下記一般式(Y)で表される。
【0094】
一般式(Y)
−[Ya]k−[Yb]q−
上記一般式(Y)において、Yaは芳香環を有しないエチレン性不飽和モノマーを表し、YbはYaと共重合可能なエチレン性不飽和モノマーを表す。k及びqは、各々モル組成比を表す。但し、k≠0、k+q=100である。
【0095】
重合体Yにおいて、更に好ましくは下記一般式(Y−1)で表される重合体である。
【0096】
一般式(Y−1)
−[CH−C(−R5)(−COR6)]k−[Yb]q−
上記一般式(Y−1)において、R5は、それぞれ水素原子またはメチル基を表す。R6は炭素数1〜12のアルキル基またはシクロアルキル基を表す。Ybは、[CH−C(−R5)(−COR6)]と共重合可能なモノマー単位を表す。k及びqは、それぞれモル組成比を表す。但しk≠0、k+q=100である。
【0097】
Ybは、Yaである[CH−C(−R5)(−COR6)]と共重合可能なエチレン性不飽和モノマーであれば特に制限はない。Ybは複数であってもよい。k+q=100、qは好ましくは1〜30である。
【0098】
芳香環を有さないエチレン性不飽和モノマーを重合して得られる重合体Yを構成するエチレン性不飽和モノマーYaは、アクリル酸エステルとして、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル(i−、n−)、アクリル酸ブチル(n−、i−、s−、t−)、アクリル酸ペンチル(n−、i−、s−)、アクリル酸ヘキシル(n−、i−)、アクリル酸ヘプチル(n−、i−)、アクリル酸オクチル(n−、i−)、アクリル酸ノニル(n−、i−)、アクリル酸ミリスチル(n−、i−)、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸(2−エチルヘキシル)、アクリル酸(ε−カプロラクトン)、アクリル酸(2−ヒドロキシエチル)、アクリル酸(2−ヒドロキシプロピル)、アクリル酸(3−ヒドロキシプロピル)、アクリル酸(4−ヒドロキシブチル)、アクリル酸(2−ヒドロキシブチル)、メタクリル酸エステルとして、上記アクリル酸エステルをメタクリル酸エステルに変えたもの;不飽和酸として、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸、クロトン酸、イタコン酸等を挙げることができる。
【0099】
Ybは、Yaと共重合可能なエチレン性不飽和モノマーであれば特に制限はないが、ビニルエステルとして、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、吉草酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプロン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ミリスチン酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、シクロヘキサンカルボン酸ビニル、オクチル酸ビニル、メタクリル酸ビニル、クロトン酸ビニル、ソルビン酸ビニル、桂皮酸ビニル等が好ましい。Ybは複数であってもよい。
【0100】
重合体X、Yを合成するには、通常の重合では分子量のコントロールが難しく、分子量を余り大きくしない方法で、且つ出来るだけ分子量を揃えることのできる方法を用いることが望ましい。
【0101】
かかる重合方法としては、クメンペルオキシドやt−ブチルヒドロペルオキシドのような過酸化物重合開始剤を使用する方法、重合開始剤を通常の重合より多量に使用する方法、重合開始剤の他にメルカプト化合物や四塩化炭素等の連鎖移動剤を使用する方法、重合開始剤の他にベンゾキノンやジニトロベンゼンのような重合停止剤を使用する方法、更に特開2000−128911号または同2000−344823号公報にあるような一つのチオール基と2級の水酸基とを有する化合物、或いは、該化合物と有機金属化合物を併用した重合触媒を用いて塊状重合する方法等を挙げることができ、何れも本発明において好ましく用いられる。
【0102】
特に、重合体Yは、分子中にチオール基と2級の水酸基とを有する化合物を連鎖移動剤として使用する重合方法が好ましい。この場合、重合体Yの末端には、重合触媒及び連鎖移動剤に起因する水酸基、チオエーテルを有することとなる。この末端残基により、Yとセルロースエステルとの相溶性を調整することができる。
【0103】
重合体X及びYの水酸基価は、30〜150[mgKOH/g]であることが好ましい。
【0104】
(水酸基価の測定方法)
水酸基価の測定は、JIS K 0070(1992)に準ずる。この水酸基価は、試料1gをアセチル化させたとき、水酸基と結合した酢酸を中和するのに必要とする水酸化カリウムのmg数と定義される。
【0105】
具体的には試料Xg(約1g)をフラスコに精秤し、これにアセチル化試薬(無水酢酸20mlにピリジンを加えて400mlにしたもの)20mlを正確に加える。フラスコの口に空気冷却管を装着し、95〜100℃のグリセリン浴にて加熱する。1時間30分後、冷却し、空気冷却管から精製水1mlを加え、無水酢酸を酢酸に分解する。
【0106】
次に電位差滴定装置を用いて0.5mol/L水酸化カリウムエタノール溶液で滴定を行い、得られた滴定曲線の変曲点を終点とする。
【0107】
更に空試験として、試料を入れないで滴定し、滴定曲線の変曲点を求める。水酸基価は、次の式によって算出する。
【0108】
水酸基価={(B−C)×f×28.05/X}+D
式中、Bは空試験に用いた0.5mol/Lの水酸化カリウムエタノール溶液の量(ml)、Cは滴定に用いた0.5mol/Lの水酸化カリウムエタノール溶液の量(ml)、fは0.5mol/L水酸化カリウムエタノール溶液のファクター、Dは酸価、また、28.05は水酸化カリウムの1mol量56.11の1/2を表す。
【0109】
上述の重合体X、重合体Yは何れもセルロースエステルとの相溶性に優れ、蒸発や揮発もなく生産性に優れ、基材フィルムとしての保留性がよく、透湿度が小さく、寸法安定性に優れている。
【0110】
重合体Xと重合体Yの基材フィルム中での含有量は、下記式(i)、式(ii)を満足する範囲であることが好ましい。重合体Xの含有量をXg(質量%=(重合体Xの質量/セルロースエステルの質量)×100)、重合体Yの含有量をYg(質量%)とすると、
式(i) 5≦Xg+Yg≦35(質量%)
式(ii) 0.05≦Yg/(Xg+Yg)≦0.4
式(i)の(Xg+Yg)の好ましい範囲は、10〜35質量%である。重合体Xと重合体Yは、セルロースエステル全質量に対し、総量として5質量%以上であれば、位相差値(Rt)の調整に十分な作用をする。
【0111】
(ピラノース構造またはフラノース構造の少なくとも1種を1個以上12個以下有しその構造のOH基のすべてもしくは一部をエステル化したエステル化合物)
本発明の基材フィルムは、ピラノース構造またはフラノース構造の少なくとも1種を1個以上12個以下有しその構造のOH基のすべてもしくは一部をエステル化したエステル化合物を含むことが好ましい。上記エステル化合物を総称して、糖エステル化合物とも称す。
【0112】
エステル化合物の例としては、例えば以下のようなものを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0113】
グルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトース、キシロース、或いはアラビノース、ラクトース、スクロース、ニストース、1F−フラクトシルニストース、スタキオース、マルチトール、ラクチトール、ラクチュロース、セロビオース、マルトース、セロトリオース、マルトトリオース、ラフィノース或いはケストース挙げられる。
【0114】
このほか、ゲンチオビオース、ゲンチオトリオース、ゲンチオテトラオース、キシロトリオース、ガラクトシルスクロースなども挙げられる。
【0115】
これらの化合物の中で、特にピラノース構造とフラノース構造を両方有する化合物が好ましい。
【0116】
例としてはスクロース、ケストース、ニストース、1F−フラクトシルニストース、スタキオースなどが好ましく、更に好ましくは、スクロースである。
【0117】
(可塑剤)
本発明の基材フィルムは、本発明の効果を得る上で必要に応じて可塑剤を含有することができる。
【0118】
可塑剤は特に限定されないが、好ましくは、多価カルボン酸エステル系可塑剤、グリコレート系可塑剤、フタル酸エステル系可塑剤、脂肪酸エステル系可塑剤及び多価アルコールエステル系可塑剤、ポリエステル系可塑剤、アクリル系可塑剤等から選択される。
【0119】
そのうち、可塑剤を2種以上用いる場合は、少なくとも1種は多価アルコールエステル系可塑剤であることが好ましい。
【0120】
多価アルコールエステル系可塑剤は2価以上の脂肪族多価アルコールとモノカルボン酸のエステルよりなる可塑剤であり、分子内に芳香環またはシクロアルキル環を有することが好ましい。好ましくは2〜20価の脂肪族多価アルコールエステルである。
【0121】
本発明に好ましく用いられる多価アルコールは次の一般式(a)で表される。
【0122】
一般式(a) R1−(OH)n
但し、R1はn価の有機基、nは2以上の正の整数、OH基はアルコール性、及び/またはフェノール性水酸基を表す。
【0123】
好ましい多価アルコールの例としては、例えば以下のようなものを挙げることができるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0124】
アドニトール、アラビトール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ジブチレングリコール、1,2,4−ブタントリオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ヘキサントリオール、ガラクチトール、マンニトール、3−メチルペンタン−1,3,5−トリオール、ピナコール、ソルビトール、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、キシリトール等を挙げることができる。
【0125】
特に、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ソルビトール、トリメチロールプロパン、キシリトールが好ましい。
【0126】
多価アルコールエステルに用いられるモノカルボン酸としては、特に制限はなく、公知の脂肪族モノカルボン酸、脂環族モノカルボン酸、芳香族モノカルボン酸等を用いることができる。脂環族モノカルボン酸、芳香族モノカルボン酸を用いると透湿性、保留性を向上させる点で好ましい。
【0127】
好ましいモノカルボン酸の例としては以下のようなものを挙げることができるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0128】
脂肪族モノカルボン酸としては、炭素数1〜32の直鎖または側鎖を有する脂肪酸を好ましく用いることができる。炭素数は1〜20であることが更に好ましく、1〜10であることが特に好ましい。酢酸を含有させるとセルロースエステルとの相溶性が増すため好ましく、酢酸と他のモノカルボン酸を混合して用いることも好ましい。
【0129】
好ましい脂肪族モノカルボン酸としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、2−エチル−ヘキサン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ヘプタデシル酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、ヘプタコサン酸、モンタン酸、メリシン酸、ラクセル酸等の飽和脂肪酸、ウンデシレン酸、オレイン酸、ソルビン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸等の不飽和脂肪酸等を挙げることができる。
【0130】
好ましい脂環族モノカルボン酸の例としては、シクロペンタンカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸、シクロオクタンカルボン酸、またはそれらの誘導体を挙げることができる。
【0131】
好ましい芳香族モノカルボン酸の例としては、安息香酸、トルイル酸等の安息香酸のベンゼン環にアルキル基、メトキシ基或いはエトキシ基などのアルコキシ基を1〜3個を導入したもの、ビフェニルカルボン酸、ナフタリンカルボン酸、テトラリンカルボン酸等のベンゼン環を2個以上有する芳香族モノカルボン酸、またはそれらの誘導体を挙げることができる。特に安息香酸が好ましい。
【0132】
多価アルコールエステルの分子量は特に制限はないが、300〜1500であることが好ましく、350〜750であることが更に好ましい。分子量が大きい方が揮発し難くなるため好ましく、透湿性、セルロースエステルとの相溶性の点では小さい方が好ましい。
【0133】
多価アルコールエステルに用いられるカルボン酸は1種類でもよいし、2種以上の混合であってもよい。また、多価アルコール中のOH基は、全てエステル化してもよいし、一部をOH基のままで残してもよい。
【0134】
以下に、多価アルコールエステル系可塑剤の具体的化合物を例示する。
【0135】
【化1】

【0136】
【化2】

【0137】
【化3】

【0138】
【化4】

【0139】
グリコレート系可塑剤は特に限定されないが、アルキルフタリルアルキルグリコレート類が好ましく用いることができる。
【0140】
アルキルフタリルアルキルグリコレート類としては、例えばメチルフタリルメチルグリコレート、エチルフタリルエチルグリコレート、プロピルフタリルプロピルグリコレート、ブチルフタリルブチルグリコレート、オクチルフタリルオクチルグリコレート、メチルフタリルエチルグリコレート、エチルフタリルメチルグリコレート、エチルフタリルプロピルグリコレート、メチルフタリルブチルグリコレート、エチルフタリルブチルグリコレート、ブチルフタリルメチルグリコレート、ブチルフタリルエチルグリコレート、プロピルフタリルブチルグリコレート、ブチルフタリルプロピルグリコレート、メチルフタリルオクチルグリコレート、エチルフタリルオクチルグリコレート、オクチルフタリルメチルグリコレート、オクチルフタリルエチルグリコレート等が挙げられる。
【0141】
フタル酸エステル系可塑剤としては、ジエチルフタレート、ジメトキシエチルフタレート、ジメチルフタレート、ジオクチルフタレート、ジブチルフタレート、ジ−2−エチルヘキシルフタレート、ジオクチルフタレート、ジシクロヘキシルフタレート、ジシクロヘキシルテレフタレート等が挙げられる。
【0142】
クエン酸エステル系可塑剤としては、クエン酸アセチルトリメチル、クエン酸アセチルトリエチル、クエン酸アセチルトリブチル等が挙げられる。
【0143】
脂肪酸エステル系可塑剤として、オレイン酸ブチル、リシノール酸メチルアセチル、セバシン酸ジブチル等が挙げられる。
【0144】
リン酸エステル系可塑剤としては、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート、ジフェニルビフェニルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリブチルホスフェート等が挙げられる。
【0145】
多価カルボン酸エステル化合物としては、2価以上、好ましくは2価〜20価の多価カルボン酸とアルコールのエステルよりなる。また、脂肪族多価カルボン酸は2〜20価であることが好ましく、芳香族多価カルボン酸、脂環式多価カルボン酸の場合は3価〜20価であることが好ましい。
【0146】
多価カルボン酸は次の一般式(b)で表される。
【0147】
一般式(b) R2(COOH)m(OH)n
(但し、R2は(m+n)価の有機基、mは2以上の正の整数、nは0以上の整数、COOH基はカルボキシル基、OH基はアルコール性またはフェノール性水酸基を表す)
好ましい多価カルボン酸の例としては、例えば以下のようなものを挙げることができるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0148】
トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸のような3価以上の芳香族多価カルボン酸またはその誘導体、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、シュウ酸、フマル酸、マレイン酸、テトラヒドロフタル酸のような脂肪族多価カルボン酸、酒石酸、タルトロン酸、リンゴ酸、クエン酸のようなオキシ多価カルボン酸などを好ましく用いることができる。特にオキシ多価カルボン酸を用いることが、保留性向上などの点で好ましい。
【0149】
多価カルボン酸エステル化合物に用いられるアルコールとしては特に制限はなく公知のアルコール、フェノール類を用いることができる。
【0150】
例えば炭素数1〜32の直鎖または側鎖を持った脂肪族飽和アルコールまたは脂肪族不飽和アルコールを好ましく用いることができる。炭素数1〜20であることが更に好ましく、炭素数1〜10であることが特に好ましい。
【0151】
また、シクロペンタノール、シクロヘキサノールなどの脂環式アルコールまたはその誘導体、ベンジルアルコール、シンナミルアルコールなどの芳香族アルコールまたはその誘導体なども好ましく用いることができる。
【0152】
多価カルボン酸としてオキシ多価カルボン酸を用いる場合は、オキシ多価カルボン酸のアルコール性またはフェノール性の水酸基をモノカルボン酸を用いてエステル化しても良い。好ましいモノカルボン酸の例としては以下のようなものを挙げることができるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0153】
脂肪族モノカルボン酸としては炭素数1〜32の直鎖または側鎖を持った脂肪酸を好ましく用いることができる。炭素数1〜20であることが更に好ましく、炭素数1〜10であることが特に好ましい。
【0154】
好ましい脂肪族モノカルボン酸としては酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、2−エチル−ヘキサンカルボン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ヘプタデシル酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、ヘプタコサン酸、モンタン酸、メリシン酸、ラクセル酸などの飽和脂肪酸、ウンデシレン酸、オレイン酸、ソルビン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸などの不飽和脂肪酸などを挙げることができる。
【0155】
好ましい脂環族モノカルボン酸の例としては、シクロペンタンカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸、シクロオクタンカルボン酸、またはそれらの誘導体を挙げることができる。
【0156】
好ましい芳香族モノカルボン酸の例としては、安息香酸、トルイル酸などの安息香酸のベンゼン環にアルキル基を導入したもの、ビフェニルカルボン酸、ナフタリンカルボン酸、テトラリンカルボン酸などのベンゼン環を2個以上もつ芳香族モノカルボン酸、またはそれらの誘導体を挙げることができる。特に酢酸、プロピオン酸、安息香酸であることが好ましい。
【0157】
多価カルボン酸エステル化合物の分子量は特に制限はないが、分子量300〜1000の範囲であることが好ましく、350〜750の範囲であることが更に好ましい。保留性向上の点では大きい方が好ましく、透湿性、セルロースエステルとの相溶性の点では小さい方が好ましい。
【0158】
本発明に用いることのできる多価カルボン酸エステルに用いられるアルコール類は一種類でも良いし、二種以上の混合であっても良い。
【0159】
本発明に用いることのできる多価カルボン酸エステル化合物の酸価は1mgKOH/g以下であることが好ましく、0.2mgKOH/g以下であることが更に好ましい。酸価を上記範囲にすることによって、リターデーションの環境変動も抑制されるため好ましい。
【0160】
尚、酸価とは、試料1g中に含まれる酸(試料中に存在するカルボキシル基)を中和するために必要な水酸化カリウムのミリグラム数をいう。酸価はJIS K0070に準拠して測定したものである。
【0161】
特に好ましい多価カルボン酸エステル化合物の例を以下に示すが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0162】
例えば、トリエチルシトレート、トリブチルシトレート、アセチルトリエチルシトレート(ATEC)、アセチルトリブチルシトレート(ATBC)、ベンゾイルトリブチルシトレート、アセチルトリフェニルシトレート、アセチルトリベンジルシトレート、酒石酸ジブチル、酒石酸ジアセチルジブチル、トリメリット酸トリブチル、ピロメリット酸テトラブチル等が挙げられる。
【0163】
ポリエステル系可塑剤は特に限定されないが、分子内に芳香環またはシクロアルキル環を有するポリエステル系可塑剤を用いることができる。ポリエステル系可塑剤としては、特に限定されないが、例えば、下記一般式(c)で表せる芳香族末端エステル系可塑剤を用いることができる。
【0164】
一般式(c) B−(G−A)n−G−B
(式中、Bはベンゼンモノカルボン酸残基、Gは炭素数2〜12のアルキレングリコール残基または炭素数6〜12のアリールグリコール残基または炭素数が4〜12のオキシアルキレングリコール残基、Aは炭素数4〜12のアルキレンジカルボン酸残基または炭素数6〜12のアリールジカルボン酸残基を表し、またnは1以上の整数を表す。)
一般式(c)中、Bで示されるベンゼンモノカルボン酸残基とGで示されるアルキレングリコール残基またはオキシアルキレングリコール残基またはアリールグリコール残基、Aで示されるアルキレンジカルボン酸残基またはアリールジカルボン酸残基とから構成されるものであり、通常のポリエステル系可塑剤と同様の反応により得られる。
【0165】
本発明で使用されるポリエステル系可塑剤のベンゼンモノカルボン酸成分としては、例えば、安息香酸、パラターシャリブチル安息香酸、オルソトルイル酸、メタトルイル酸、パラトルイル酸、ジメチル安息香酸、エチル安息香酸、ノルマルプロピル安息香酸、アミノ安息香酸、アセトキシ安息香酸等があり、これらはそれぞれ1種または2種以上の混合物として使用することができる。
【0166】
本発明に用いることのできるポリエステル系可塑剤の炭素数2〜12のアルキレングリコール成分としては、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,2−プロパンジオール、2−メチル1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール(ネオペンチルグリコール)、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール(3,3−ジメチロールペンタン)、2−n−ブチル−2−エチル−1,3プロパンジオール(3,3−ジメチロールヘプタン)、3−メチル−1,5−ペンタンジオール1,6−ヘキサンジオール、2,2,4−トリメチル1,3−ペンタンジオール、2−エチル1,3−ヘキサンジオール、2−メチル1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,12−オクタデカンジオール等があり、これらのグリコールは、1種または2種以上の混合物として使用される。
【0167】
特に炭素数2〜12のアルキレングリコールがセルロースエステルとの相溶性に優れているため、特に好ましい。
【0168】
また、上記芳香族末端エステルの炭素数4〜12のオキシアルキレングリコール成分としては、例えば、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール等があり、これらのグリコールは、1種または2種以上の混合物として使用できる。
【0169】
芳香族末端エステルの炭素数4〜12のアルキレンジカルボン酸成分としては、例えば、コハク酸、マレイン酸、フマール酸、グルタール酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸等があり、これらは、それぞれ1種または2種以上の混合物として使用される。炭素数6〜12のアリーレンジカルボン酸成分としては、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、1,5ナフタレンジカルボン酸、1,4ナフタレンジカルボン酸等がある。
【0170】
本発明で使用されるポリエステル系可塑剤は、数平均分子量が、好ましくは300〜1500、より好ましくは400〜1000の範囲が好適である。また、その酸価は、0.5mgKOH/g以下、水酸基価は25mgKOH/g以下、より好ましくは酸価0.3mgKOH/g以下、水酸基価は15mgKOH/g以下のものである。
【0171】
以下に、本発明に用いることのできる芳香族末端エステル系可塑剤の具体的化合物を示すが、本発明はこれに限定されない。
【0172】
【化5】

【0173】
【化6】

【0174】
(紫外線吸収剤)
基材フィルムは、紫外線吸収剤を含有することもできる。紫外線吸収剤は400nm以下の紫外線を吸収することで、耐久性を向上させることを目的としており、特に波長370nmでの透過率が10%以下であることが好ましく、より好ましくは5%以下、更に好ましくは2%以下である。
【0175】
本発明に用いられる紫外線吸収剤は特に限定されないが、例えばオキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン系化合物、シアノアクリレート系化合物、トリアジン系化合物、ニッケル錯塩系化合物、無機粉体等が挙げられる。
【0176】
(微粒子)
基材フィルムは、フィルム同士のブロッキング等を防止する為に、微粒子を含有することが好ましい。
【0177】
微粒子としては、無機化合物の例として、二酸化珪素、二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウム、炭酸カルシウム、タルク、クレイ、焼成カオリン、焼成ケイ酸カルシウム、水和ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム及びリン酸カルシウムを挙げることができる。
【0178】
微粒子は珪素を含むものが濁度が低くなる点で好ましく、特に二酸化珪素が好ましい。
【0179】
微粒子の一次粒子の平均粒径は5〜400nmが好ましく、更に好ましいのは10〜300nmである。これらは主に粒径0.05〜0.3μmの2次凝集体として含有されていてもよく、平均粒径100〜400nmの粒子であれば凝集せずに一次粒子として含まれていることも好ましい。
【0180】
基材フィルムのこれらの微粒子の含有量は0.01〜1質量%であることが好ましく、特に0.05〜0.5質量%が好ましい。
【0181】
二酸化珪素の微粒子は、例えば、アエロジルR972、R972V、R974、R812、200、200V、300、R202、OX50、TT600(以上日本アエロジル(株)製)の商品名で市販されており、使用することができる。
【0182】
酸化ジルコニウムの微粒子は、例えば、アエロジルR976及びR811(以上日本アエロジル(株)製)の商品名で市販されており、使用することができる。
【0183】
ポリマーの例として、シリコーン樹脂、フッ素樹脂及びアクリル樹脂を挙げることができる。シリコーン樹脂が好ましく、特に三次元の網状構造を有するものが好ましく、例えば、トスパール103、同105、同108、同120、同145、同3120及び同240(以上東芝シリコーン(株)製)の商品名で市販されており、使用することができる。
【0184】
これらの中でもでアエロジル200V、アエロジルR972Vが基材フィルムの濁度を低く保ちながら、摩擦係数を下げる効果が大きいため特に好ましく用いられる。本発明で用いられる基材フィルムにおいては、少なくとも一方の面の動摩擦係数が0.2〜1.0であることが好ましい。
【0185】
各種添加剤は製膜前のセルロースエステル含有溶液であるドープにバッチ添加してもよいし、添加剤溶解液を別途用意してインライン添加してもよい。特に微粒子は濾過材への負荷を減らすために、一部または全量をインライン添加することが好ましい。
【0186】
添加剤溶解液をインライン添加する場合は、ドープとの混合性をよくするため、少量のセルロースエステルを溶解するのが好ましい。好ましいセルロースエステルの量は、溶剤100質量部に対して1〜10質量部で、より好ましくは、3〜5質量部である。
【0187】
本発明においてインライン添加、混合を行うためには、例えば、スタチックミキサー(東レエンジニアリング製)、SWJ(東レ静止型管内混合器 Hi−Mixer)等のインラインミキサー等が好ましく用いられる。
【0188】
〈基材フィルムの製造方法〉
基材フィルムは、溶液流延法もしくは溶融流延で製造されたセルロースエステルフィルムであることが好ましい。
【0189】
基材フィルムの製造は、セルロースエステル及び添加剤を溶剤に溶解させてドープを調製する工程、ドープを無限に移行する無端の金属支持体上に流延する工程、流延したドープをウェブとして乾燥する工程、金属支持体から剥離する工程、延伸または幅保持する工程、更に乾燥する工程、仕上がったフィルムを巻き取る工程により行われる。
【0190】
ドープを調製する工程について述べる。ドープ中のセルロースエステルの濃度は、濃い方が金属支持体に流延した後の乾燥負荷が低減できて好ましいが、セルロースエステルの濃度が濃過ぎると濾過時の負荷が増えて、濾過精度が悪くなる。
【0191】
これらを両立する濃度としては、10〜35質量%が好ましく、更に好ましくは、15〜25質量%である。
【0192】
ドープで用いられる溶剤は、単独で用いても2種以上を併用してもよいが、セルロースエステルの良溶剤と貧溶剤を混合して使用することが生産効率の点で好ましく、良溶剤が多い方がセルロースエステルの溶解性の点で好ましい。
【0193】
良溶剤と貧溶剤の混合比率の好ましい範囲は、良溶剤が70〜98質量%であり、貧溶剤が2〜30質量%である。良溶剤、貧溶剤とは、使用するセルロースエステルを単独で溶解するものを良溶剤、単独で膨潤するかまたは溶解しないものを貧溶剤と定義している。
【0194】
そのため、セルロースエステルの平均酢化度(アセチル基置換度)によっては、良溶剤、貧溶剤が変わり、例えばアセトンを溶剤として用いる時には、セルロースエステルの酢酸エステル(アセチル基置換度2.4)、セルロースアセテートプロピオネートでは良溶剤になり、セルロースの酢酸エステル(アセチル基置換度2.8)では貧溶剤となる。
【0195】
本発明に用いられる良溶剤は特に限定されないが、メチレンクロライド等の有機ハロゲン化合物やジオキソラン類、アセトン、酢酸メチル、アセト酢酸メチル等が挙げられる。特に好ましくはメチレンクロライドまたは酢酸メチルが挙げられる。
【0196】
また、貧溶剤は特に限定されないが、例えば、メタノール、エタノール、n−ブタノール、シクロヘキサン、シクロヘキサノン等が好ましく用いられる。また、ドープ中には水が0.01〜2質量%含有していることが好ましい。また、セルロースエステルの溶解に用いられる溶媒は、フィルム製膜工程で乾燥によりフィルムから除去された溶媒を回収し、これを再利用して用いられる。
【0197】
上記記載のドープを調製する時の、セルロースエステルの溶解方法としては、一般的な方法を用いることができる。加熱と加圧を組み合わせると常圧における沸点以上に加熱できる。
【0198】
溶剤の常圧での沸点以上でかつ加圧下で溶剤が沸騰しない範囲の温度で加熱しながら攪拌溶解すると、ゲルやママコと呼ばれる塊状未溶解物の発生を防止するため好ましい。また、セルロースエステルを貧溶剤と混合して湿潤或いは膨潤させた後、更に良溶剤を添加して溶解する方法も好ましく用いられる。
【0199】
加圧は窒素ガス等の不活性気体を圧入する方法や、加熱によって溶剤の蒸気圧を上昇させる方法によって行ってもよい。加熱は外部から行うことが好ましく、例えばジャケットタイプのものは温度コントロールが容易で好ましい。
【0200】
溶剤を添加しての加熱温度は、高い方がセルロースエステルの溶解性の観点から好ましいが、加熱温度が高過ぎると必要とされる圧力が大きくなり生産性が悪くなる。好ましい加熱温度は45〜120℃であり、60〜110℃がより好ましく、70℃〜105℃が更に好ましい。また、圧力は設定温度で溶剤が沸騰しないように調整される。
【0201】
若しくは冷却溶解法も好ましく用いられ、これによって酢酸メチルなどの溶媒にセルロースエステルを溶解させることができる。
【0202】
次に、このセルロースエステル溶液を濾紙等の適当な濾過材を用いて濾過する。濾過材としては、不溶物等を除去するために絶対濾過精度が小さい方が好ましいが、絶対濾過精度が小さ過ぎると濾過材の目詰まりが発生し易いという問題がある。
【0203】
このため絶対濾過精度0.008mm以下の濾材が好ましく、0.001〜0.008mmの濾材がより好ましく、0.003〜0.006mmの濾材が更に好ましい。
【0204】
濾材の材質は特に制限はなく、通常の濾材を使用することができるが、ポリプロピレン、テフロン(登録商標)等のプラスチック製の濾材や、ステンレススティール等の金属製の濾材が繊維の脱落等がなく好ましい。
【0205】
濾過により、原料のセルロースエステルに含まれていた不純物、特に輝点異物を除去、低減することが好ましい。
【0206】
輝点異物とは、2枚の偏光板をクロスニコル状態にして配置し、その間にセルロースエステルフィルムを置き、一方の偏光板の側から光を当てて、他方の偏光板の側から観察した時に反対側からの光が漏れて見える点(異物)のことであり、径が0.01mm以上である輝点数が200個/cm以下であることが好ましい。
【0207】
より好ましくは100個/cm以下であり、更に好ましくは50個/cm以下であり、更に好ましくは0〜10個/cm以下である。また、0.01mm以下の輝点も少ない方が好ましい。
【0208】
ドープの濾過は通常の方法で行うことができるが、溶剤の常圧での沸点以上で、且つ加圧下で溶剤が沸騰しない範囲の温度で加熱しながら濾過する方法が、濾過前後の濾圧の差(差圧という)の上昇が小さく、好ましい。
【0209】
好ましい温度は45〜120℃であり、45〜70℃がより好ましく、45〜55℃であることが更に好ましい。
【0210】
濾圧は小さい方が好ましい。濾圧は1.6MPa以下であることが好ましく、1.2MPa以下であることがより好ましく、1.0MPa以下であることが更に好ましい。
【0211】
ここで、ドープの流延について説明する。
【0212】
流延(キャスト)工程における金属支持体は、表面を鏡面仕上げしたものが好ましく、金属支持体としては、ステンレススティールベルト若しくは鋳物で表面をメッキ仕上げしたドラムが好ましく用いられる。
【0213】
キャストの幅は1〜4mとすることができる。流延工程の金属支持体の表面温度は−50℃〜溶剤の沸点未満の温度で、温度が高い方がウェブの乾燥速度が速くできるので好ましいが、余り高過ぎるとウェブが発泡したり、平面性が劣化する場合がある。好ましい支持体温度は0〜40℃であり、5〜30℃が更に好ましい。
【0214】
或いは、冷却することによってウェブをゲル化させて残留溶媒を多く含んだ状態でドラムから剥離することも好ましい方法である。
【0215】
金属支持体の温度を制御する方法は特に制限されないが、温風または冷風を吹きかける方法や、温水を金属支持体の裏側に接触させる方法がある。
【0216】
温水を用いる方が熱の伝達が効率的に行われるため、金属支持体の温度が一定になるまでの時間が短く好ましい。温風を用いる場合は目的の温度よりも高い温度の風を使う場合がある。
【0217】
セルロースエステルフィルムが良好な平面性を示すためには、金属支持体からウェブを剥離する際の残留溶媒量は10〜150質量%が好ましく、更に好ましくは20〜40質量%または60〜130質量%であり、特に好ましくは、20〜30質量%または70〜120質量%である。
【0218】
本発明においては、残留溶媒量は下記式で定義される。
【0219】
残留溶媒量(質量%)={(M−N)/N}×100
尚、Mはウェブまたはフィルムを製造中または製造後の任意の時点で採取した試料の質量で、NはMを115℃で1時間の加熱後の質量である。
【0220】
また、セルロースエステルフィルムの乾燥工程においては、ウェブを金属支持体より剥離し、更に乾燥し、残留溶媒量を1質量%以下にすることが好ましく、更に好ましくは0.1質量%以下であり、特に好ましくは0〜0.01質量%以下である。
【0221】
フィルム乾燥工程では一般にロール乾燥方式(上下に配置した多数のロールをウェブを交互に通し乾燥させる方式)やテンター方式でウェブを搬送させながら乾燥する方式が採られる。
【0222】
基材フィルムを作製するためには、金属支持体より剥離した直後のウェブの残留溶剤量の多いところで搬送方向(=長尺方向)に延伸し、更にウェブの両端をクリップ等で把持する前記テンター方式で幅方向に延伸を行い位相差を調整することが好ましい。
【0223】
本発明の実施態様の一つとして、基材フィルムの下記式2で表される面内位相差(R)及び下記式3で表される厚み方向の位相差(Rt)が共に−10〜10nmであることが好ましい。
【0224】
また別の実施態様として基材フィルムの面内位相差(R)がλ/4、厚み方向の位相差(Rt)が−10〜10nmの範囲であることが好ましい。
【0225】
(式2) R=(Nx−Ny)×d
(式3) Rt=〔(Nx+Ny)/2−Nz〕×d
(上記、式2及び式3においてNxはフィルム面内における最大方向の屈折率、Nyはフィルム面内における最小の屈折率、Nzはフィルム厚み方向における屈折率を表す。dはフィルムの厚み(nm)である。)
リターデーション値(R)と(Rt)は、自動複屈折率計を用いて測定することができる。例えば、自動複屈折率計KOBRA−21ADH(王子計測機器株式会社製)を用いて、温度23℃、湿度55%RHの環境下で、波長590nmで求めることができる。
【0226】
(R)及び(Rt)を各々−10〜10nmの範囲に調整するには、前述のアクリル樹脂や糖エステル化合物を含有させ、適宜延伸することで達成できる。
【0227】
同様に(R)をλ/4、及び(Rt)を−10〜10nmの範囲に調整するには、前述のアクリル樹脂や糖エステル化合物を含有させ、適宜延伸することで達成でき、その場合斜め延伸することで遅相軸を長手方向に対し45°方向にすることも好ましい。
【0228】
本発明でいうλ/4位相差素子とは、ディスプレイ用途で使用される波長を基準にその1/4±10%の波長の範囲を有する位相差素子を意味する。
【0229】
位相差は延伸により調整されるものであるが、フィルム搬送ロールの周速差を利用して搬送方向に行うか、若しくは搬送方向と直交方向(幅手方向)にウェブの両端をクリップ等で把持するテンター方式で行うことが好ましく、更に左右把持手段によってウェブの把持長(把持開始から把持終了までの距離)を左右で独立に制御できるテンターを用いることも好ましい。
【0230】
延伸倍率は、搬送方向もしくは幅手方向に対して、1.01〜3倍の範囲で行うことが好ましく、更に1.5〜3倍の範囲であることがより好ましい。2軸方向に延伸する場合、高倍率で延伸する側が、1.01〜3倍の範囲であり、好ましくは1.5〜3倍の範囲であり、もう一方の方向の延伸倍率は0.8〜1.5倍の範囲、好ましくは0.9〜1.2倍の範囲に延伸することができる。本発明において特に好ましい態様は、搬送方向、及び幅手方向に二軸延伸を行うことである。
【0231】
また、特前述のように、特開2007−30466号公報記載のフィルム伸縮装置を用いて斜め45°方向に延伸することも、長尺の吸収型偏光子とロール トゥ ロールで貼合できるため、生産性向上の観点で好ましい。
【0232】
延伸する際は、セルロースエステルフィルムのガラス転移温度をTgとすると(Tg−30)〜(Tg+100)℃、より好ましくは(Tg−20)〜(Tg+80)℃の範囲内で加熱して延伸することが好ましい。特に(Tg−20)〜(Tg+20)℃の温度範囲内で延伸し次いで熱固定することが好ましい。また延伸工程の後、緩和処理を行うことも好ましい。
【0233】
基材フィルムの厚みは20〜500μmの範囲であることが好ましく、30〜300μmの範囲であることがより好ましく、部材の薄膜化の観点、及び基材フィルムの物性保持の観点から40〜200μmの範囲であることが特に好ましい。
【0234】
基材フィルムの幅は1.4〜4mの範囲であることが好ましく、近年の大型ディスプレイを考えると1.6〜3mの範囲であることがより好ましい。
【0235】
<光路変換要素>
本発明の光学シートの光路変換要素は、平面状の基材フィルムに目的とする形状と対をなす金型を用いて型押しする手法や、紫外線硬化樹脂を塗布した後金型を押し付けながら紫外線硬化を行い表面形状を作製する手法や、基材フィルムを加熱した金型に押し付けて形状付与を行うなど公知の手法を用いることができる。
【0236】
中でも生産性、安定性を考慮すると、紫外線硬化樹脂を塗布した後金型を押し付けながら紫外線硬化を行い前記コーン形状を作製する手法が好ましい。
【0237】
金型は金属ロールを化学腐食によって形成することができるが、腐食液の処理や深さのばらつきを生じ易い点から、機械もしくはレーザー彫刻により所望の形状のパターンを設けることが望ましい。金型の表面は、耐摩耗性、耐腐食性の点から酸化クローム、タングステンカーバイドなどの無機酸化物を熔射形成したものが好ましい。
【0238】
紫外線硬化性樹脂としては、例えば、紫外線硬化型ウレタンアクリレート系樹脂、紫外線硬化型ポリエステルアクリレート系樹脂、紫外線硬化型エポキシアクリレート系樹脂、紫外線硬化型ポリオールアクリレート系樹脂、または紫外線硬化型エポキシ樹脂等が好ましく用いられる。
【0239】
紫外線硬化型アクリルウレタン系樹脂は、一般にポリエステルポリオールにイソシアネートモノマー、またはプレポリマーを反応させて得られた生成物に更に2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート(以下アクリレートにはメタクリレートを包含するものとしてアクリレートのみを表示する)、2−ヒドロキシプロピルアクリレート等の水酸基を有するアクリレート系のモノマーを反応させることによって容易に得ることができる。例えば、特開昭59−151110号に記載のものを用いることができる。
【0240】
例えば、ユニディック17−806(大日本インキ(株)製)100部とコロネートL(日本ポリウレタン(株)製)1部との混合物等が好ましく用いられる。
【0241】
紫外線硬化型ポリエステルアクリレート系樹脂としては、一般にポリエステルポリオールに2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシアクリレート系のモノマーを反応させると容易に形成されるものを挙げることができ、特開昭59−151112号に記載のものを用いることができる。
【0242】
紫外線硬化型エポキシアクリレート系樹脂の具体例としては、エポキシアクリレートをオリゴマーとし、これに反応性希釈剤、光反応開始剤を添加し、反応させて生成するものを挙げることができ、特開平1−105738号に記載のものを用いることができる。
【0243】
紫外線硬化型ポリオールアクリレート系樹脂の具体例としては、トリメチロールプロパントリアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、アルキル変性ジペンタエリスリトールペンタアクリレート等を挙げることができる。
【0244】
これら紫外線硬化性樹脂の光反応開始剤としては、具体的には、ベンゾイン及びその誘導体、アセトフェノン、ベンゾフェノン、ヒドロキシベンゾフェノン、ミヒラーズケトン、α−アミロキシムエステル、チオキサントン等及びこれらの誘導体を挙げることができる。光増感剤と共に使用してもよい。上記光反応開始剤も光増感剤として使用できる。また、エポキシアクリレート系の光反応開始剤の使用の際、n−ブチルアミン、トリエチルアミン、トリ−n−ブチルホスフィン等の増感剤を用いることができる。紫外線硬化樹脂組成物に用いられる光反応開始剤また光増感剤は該組成物100質量部に対して0.1〜15質量部であり、好ましくは1〜10質量部である。
【0245】
樹脂モノマーとしては、例えば、不飽和二重結合が一つのモノマーとして、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、ベンジルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、酢酸ビニル、スチレン等の一般的なモノマーを挙げることができる。また不飽和二重結合を二つ以上持つモノマーとして、エチレングリコールジアクリレート、プロピレングリコールジアクリレート、ジビニルベンゼン、1,4−シクロヘキサンジアクリレート、1,4−シクロヘキシルジメチルアジアクリレート、前出のトリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリルエステル等を挙げることができる。
【0246】
本発明において使用し得る紫外線硬化樹脂の市販品としては、アデカオプトマーKR・BYシリーズ:KR−400、KR−410、KR−550、KR−566、KR−567、BY−320B(旭電化(株)製);コーエイハードA−101−KK、A−101−WS、C−302、C−401−N、C−501、M−101、M−102、T−102、D−102、NS−101、FT−102Q8、MAG−1−P20、AG−106、M−101−C(広栄化学(株)製);セイカビームPHC2210(S)、PHC X−9(K−3)、PHC2213、DP−10、DP−20、DP−30、P1000、P1100、P1200、P1300、P1400、P1500、P1600、SCR900(大日精化工業(株)製);KRM7033、KRM7039、KRM7130、KRM7131、UVECRYL29201、UVECRYL29202(ダイセル・ユーシービー(株)製);RC−5015、RC−5016、RC−5020、RC−5031、RC−5100、RC−5102、RC−5120、RC−5122、RC−5152、RC−5171、RC−5180、RC−5181(大日本インキ化学工業(株)製);オーレックスNo.340クリヤ(中国塗料(株)製);サンラッドH−601、RC−750、RC−700、RC−600、RC−500、RC−611、RC−612(三洋化成工業(株)製);SP−1509、SP−1507(昭和高分子(株)製);RCC−15C(グレース・ジャパン(株)製)、アロニックスM−6100、M−8030、M−8060(東亞合成(株)製)等を適宜選択して利用できる。
【0247】
また、具体的化合物例としては、トリメチロールプロパントリアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、アルキル変性ジペンタエリスリトールペンタアクリレート等を挙げることができる。
【0248】
紫外線硬化樹脂層の塗布方法は、グラビアコーター、ディップコーター、リバースコーター、ワイヤーバーコーター、ダイコーター、インクジェット法等公知の方法で塗設することができる。塗布後、加熱乾燥し、紫外線ランプによりUV硬化処理を行う。塗布量は、コーン形状を形成する金型によるが、ウェット膜厚として1〜20μmが適当で、好ましくは、1〜10μmである。
【0249】
紫外線ランプの例としては、低圧水銀灯、中圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、カーボンアーク灯、メタルハライドランプ、キセノンランプ等を用いることができる。これらの光源は空冷もしくは水冷方式のものが好ましく用いられる。照射条件はそれぞれのランプによって異なるが、紫外線の照射量は好ましくは、50mJ/cm〜1J/cmであり、特に好ましくは50〜500mJ/cmである。また照射部には窒素パージにより酸素濃度を0.01%〜5%に低減することが好ましい。
【0250】
<有機エレクトロルミネッセンスディスプレイ>
本発明の有機エレクトロルミネッセンスディスプレイの模式図を図4に示す。
【0251】
図4(a)で示される有機ELディスプレイは、一対の電極とその間に有機発光層を備えた発光素子(有機EL素子)、光路変換素子、λ/4位相差素子、吸収型偏光子及び保護層からなり、一対の電極のうち少なくとも一方が光透過性電極であり、前記有機発光層から見て該光透過性電極のある方向に前記光路変換素子及びλ/4位相差素子がこの順で配置されている。
【0252】
該光路変換素子が基材フィルムの一方の面に光路変換要素を持つエレクトロルミネッセンスディスプレイ用光取り出しフィルムであり、該光路変換要素が請求項1に記載のコーン形状を配列してなることが特徴である。
【0253】
上記光路変換素子の基材フィルムがλ/4位相差機能を有するフィルムである場合、上記λ/4位相差素子を省略することが可能であり、図4(b)で示すようにより薄膜化が達成できる。
【0254】
また吸収型偏光子は、一定方向の偏波面の光だけを通す素子であり、現在知られている代表的な偏光子は、ポリビニルアルコール系偏光フィルムで、これはポリビニルアルコール系フィルムにヨウ素を染色させたものと二色性染料を染色させたものがある。
【0255】
偏光子は、ポリビニルアルコール水溶液を製膜し、これを一軸延伸させて染色するか、染色した後一軸延伸してから、好ましくはホウ素化合物で耐久性処理を行ったものが用いられている。
【0256】
偏光子に貼合される保護フィルムは市販のTACフィルムなどが適宜用いられる。
【0257】
尚、吸収型偏光子の吸収軸とλ/4位相差素子の遅相軸とは略45°の傾きをもって貼合され楕円偏光板を形成することが本発明の効果を得る上で好ましい。
【0258】
(有機EL素子)
より詳細な有機EL素子の構成の好ましい具体例を以下に示すが、これらに限定されない。
【0259】
(1)λ/4位相差素子/光路変換素子/陽極/発光層/電子輸送層/陰極
(2)λ/4位相差素子/光路変換素子/陰極/電子輸送層/発光層/陽極
(3)λ/4位相差素子/光路変換素子/陽極/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/陰極
(4)λ/4位相差素子/光路変換素子/陽極/正孔輸送層/発光層/正孔阻止層/電子輸送層/陰極
(5)λ/4位相差素子/光路変換素子/陽極/正孔輸送層/発光層/正孔阻止層/電子輸送層/陰極バッファー層/陰極
(6)λ/4位相差素子/光路変換素子/陽極/陽極バッファー層/正孔輸送層/発光層/正孔阻止層/電子輸送層/陰極バッファー層/陰極
(7)λ/4位相差機能を有する光路変換素子/陽極/正孔輸送層/発光層/正孔阻止層/電子輸送層/陰極
(8)λ/4位相差機能を有する光路変換素子/陽極/発光層/電子輸送層/陰極
(9)λ/4位相差機能を有する光路変換素子/陰極/電子輸送層/発光層/陽極
(10)λ/4位相差機能を有する光路変換素子/陽極/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/陰極
(11)λ/4位相差機能を有する光路変換素子/陽極/正孔輸送層/発光層/正孔阻止層/電子輸送層/陰極
(12)λ/4位相差機能を有する光路変換素子/陽極/正孔輸送層/発光層/正孔阻止層/電子輸送層/陰極バッファー層/陰極
(13)λ/4位相差機能を有する光路変換素子/陽極/陽極バッファー層/正孔輸送層/発光層/正孔阻止層/電子輸送層/陰極バッファー層/陰極
(14)λ/4位相差機能を有する光路変換素子/陽極/正孔輸送層/発光層/正孔阻止層/電子輸送層/陰極
(陽極)
有機EL素子における陽極としては、仕事関数の大きい(4eV以上)金属、合金、電気伝導性化合物及びこれらの混合物を電極物質とするものが好ましく用いられる。このような電極物質の具体例としてはAu等の金属、CuI、インジウムチンオキシド(ITO)、SnO、ZnO等の導電性透明材料が挙げられる。また、IDIXO(In−ZnO)等非晶質で透明導電膜を作製可能な材料を用いてもよい。陽極はこれらの電極物質を蒸着やスパッタリング等の方法により、薄膜を形成させ、フォトリソグラフィー法で所望の形状のパターンを形成してもよく、或いはパターン精度を余り必要としない場合は(100μm以上程度)、上記電極物質の蒸着やスパッタリング時に所望の形状のマスクを介してパターンを形成してもよい。この陽極より発光を取り出す場合には、透過率を10%より大きくすることが望ましく、また陽極としてのシート抵抗は数百Ω/□以下が好ましい。さらに膜厚は材料にもよるが、通常10〜1000nm、好ましくは10〜200nmの範囲で選ばれる。
【0260】
(陰極)
一方、陰極としては、仕事関数の小さい(4eV以下)金属(電子注入性金属と称する)、合金、電気伝導性化合物及びこれらの混合物を電極物質とするものが用いられる。このような電極物質の具体例としては、ナトリウム、ナトリウム−カリウム合金、マグネシウム、リチウム、マグネシウム/銅混合物、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム(Al)混合物、インジウム、リチウム/アルミニウム混合物、希土類金属等が挙げられる。これらの中で、電子注入性及び酸化等に対する耐久性の点から、電子注入性金属とこれより仕事関数の値が大きく安定な金属である第二金属との混合物、例えば、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム(Al)混合物、リチウム/アルミニウム混合物、アルミニウム等が好適である。陰極はこれらの電極物質を蒸着やスパッタリング等の方法により薄膜を形成させることにより、作製することができる。また、陰極としてのシート抵抗は数百Ω/□以下が好ましく、膜厚は通常10nm〜5μm、好ましくは50〜200nmの範囲で選ばれる。尚、発光した光を透過させるため、有機EL素子の陽極または陰極のいずれか一方が、透明または半透明であれば発光輝度が向上し好都合である。
【0261】
また、陰極に上記金属を1〜20nmの膜厚で作製した後に、陽極の説明で挙げた導電性透明材料をその上に作製することで、透明または半透明の陰極を作製することができ、これを応用することで陽極と陰極の両方が透過性を有する素子を作製することができる。
【0262】
次に、有機EL素子の構成層として用いられる、注入層、阻止層、電子輸送層等について説明する。
【0263】
(注入層:電子注入層、正孔注入層)
注入層は必要に応じて設け、電子注入層と正孔注入層があり、上記の如く陽極と発光層または正孔輸送層の間、及び陰極と発光層または電子輸送層との間に存在させてもよい。
【0264】
注入層とは、駆動電圧低下や発光輝度向上のために電極と有機層間に設けられる層のことで、「有機EL素子とその工業化最前線(1998年11月30日エヌ・ティー・エス社発行)」の第2編第2章「電極材料」(123〜166頁)に詳細に記載されており、正孔注入層(陽極バッファー層)と電子注入層(陰極バッファー層)とがある。
【0265】
陽極バッファー層(正孔注入層)は、特開平9−45479号公報、同9−260062号公報、同8−288069号公報等にもその詳細が記載されており、具体例として、銅フタロシアニンに代表されるフタロシアニンバッファー層、酸化バナジウムに代表される酸化物バッファー層、アモルファスカーボンバッファー層、ポリアニリン(エメラルディン)やポリチオフェン等の導電性高分子を用いた高分子バッファー層等が挙げられる。
【0266】
陰極バッファー層(電子注入層)は、特開平6−325871号公報、同9−17574号公報、同10−74586号公報等にもその詳細が記載されており、具体的にはストロンチウムやアルミニウム等に代表される金属バッファー層、フッ化リチウムに代表されるアルカリ金属化合物バッファー層、フッ化マグネシウムに代表されるアルカリ土類金属化合物バッファー層、酸化アルミニウムに代表される酸化物バッファー層等が挙げられる。上記バッファー層(注入層)はごく薄い膜であることが望ましく、素材にもよるがその膜厚は0.1nm〜5μmの範囲が好ましい。
【0267】
(阻止層:正孔阻止層、電子阻止層)
阻止層は、上記の如く、有機化合物薄膜の基本構成層の他に必要に応じて設けられるものである。例えば、特開平11−204258号公報、同11−204359号公報、及び「有機EL素子とその工業化最前線(1998年11月30日エヌ・ティー・エス社発行)」の237頁等に記載されている正孔阻止(ホールブロック)層がある。
【0268】
正孔阻止層とは広い意味では電子輸送層の機能を有し、電子を輸送する機能を有しつつ正孔を輸送する能力が著しく小さい正孔阻止材料からなり、電子を輸送しつつ正孔を阻止することで電子と正孔の再結合確率を向上させることができる。また、後述する電子輸送層の構成を必要に応じて、正孔阻止層として用いることができる。
【0269】
一方、電子阻止層とは広い意味では正孔輸送層の機能を有し、正孔を輸送する機能を有しつつ電子を輸送する能力が著しく小さい材料からなり、正孔を輸送しつつ電子を阻止することで電子と正孔の再結合確率を向上させることができる。また、後述する正孔輸送層の構成を必要に応じて電子阻止層として用いることができる。
【0270】
(発光層)
発光層は、電極または電子輸送層、正孔輸送層から注入されてくる電子及び正孔が再結合して発光する層であり、発光する部分は発光層の層内であっても発光層と隣接層との界面であってもよい。
【0271】
有機EL素子の発光層には、以下に示すホスト化合物とドーパント化合物が含有されることが好ましい。これにより、より一層発光効率を高くすることができる。
【0272】
発光ドーパントは、大きく分けて、蛍光を発光する蛍光性ドーパントとリン光を発光するリン光性ドーパントの2種類がある。
【0273】
前者(蛍光性ドーパント)の代表例としては、クマリン系色素、ピラン系色素、シアニン系色素、クロコニウム系色素、スクアリウム系色素、オキソベンツアントラセン系色素、フルオレセイン系色素、ローダミン系色素、ピリリウム系色素、ペリレン系色素、スチルベン系色素、ポリチオフェン系色素、または希土類錯体系蛍光体等が挙げられる。
【0274】
後者(リン光性ドーパント)の代表例としては、好ましくは元素の周期表で8属、9属、10属の金属を含有する錯体系化合物であり、さらに好ましくは、イリジウム化合物、オスミウム化合物であり、中でも最も好ましいのはイリジウム化合物である。具体的には以下の特許公報に記載されている化合物である。
【0275】
国際公開第00/70655号パンフレット、特開2002−280178号公報、同2001−181616号公報、同2002−280179号公報、同2001−181617号公報、同2002−280180号公報、同2001−247859号公報、同2002−299060号公報、同2001−313178号公報、同2002−302671号公報、同2001−345183号公報、同2002−324679号公報、国際公開第02/15645号パンフレット、特開2002−332291号公報、同2002−50484号公報、同2002−332292号公報、同2002−83684号公報、特表2002−540572号公報、特開2002−117978号公報、同2002−338588号公報、同2002−170684号公報、同2002−352960号公報、国際公開第01/93642号パンフレット、特開2002−50483号公報、同2002−100476号公報、同2002−173674号公報、同2002−359082号公報、同2002−175884号公報、同2002−363552号公報、同2002−184582号公報、同2003−7469号公報、特表2002−525808号公報、特開2003−7471号公報、特表2002−525833号公報、特開2003−31366号公報、同2002−226495号公報、同2002−234894号公報、同2002−235076号公報、同2002−241751号公報、同2001−319779号公報、同2001−319780号公報、同2002−62824号公報、同2002−100474号公報、同2002−203679号公報、同2002−343572号公報、同2002−203678号公報等。
【0276】
その具体例の一部を下記に示す。
【0277】
【化7】

【0278】
【化8】

【0279】
【化9】

【0280】
【化10】

【0281】
【化11】

【0282】
【化12】

【0283】
発光ドーパントは複数種の化合物を混合して用いてもよい。
【0284】
(発光ホスト)
発光ホスト(単にホストともいう)とは、2種以上の化合物で構成される発光層中にて混合比(質量)の最も多い化合物のことを意味し、それ以外の化合物については「ドーパント化合物(単に、ドーパントともいう)」という。例えば、発光層を化合物A、化合物Bという2種で構成し、その混合比がA:B=10:90であれば化合物Aがドーパント化合物であり、化合物Bがホスト化合物である。さらに、発光層を化合物A、化合物B、化合物Cの3種から構成し、その混合比がA:B:C=5:10:85であれば、化合物A、化合物Bがドーパント化合物であり、化合物Cがホスト化合物である。
【0285】
発光ホストとしては、構造的には特に制限はないが、代表的にはカルバゾール誘導体、トリアリールアミン誘導体、芳香族ボラン誘導体、含窒素複素環化合物、チオフェン誘導体、フラン誘導体、オリゴアリーレン化合物等の基本骨格を有するもの、または、カルボリン誘導体やジアザカルバゾール誘導体(ここで、ジアザカルバゾール誘導体とは、カルボリン誘導体のカルボリン環を構成する炭化水素環の少なくとも一つの炭素原子が窒素原子で置換されているものを表す。)等が挙げられる。
【0286】
中でもカルボリン誘導体、ジアザカルバゾール誘導体等が好ましく用いられる。
【0287】
以下に、カルボリン誘導体、ジアザカルバゾール誘導体等の具体例を挙げるが、本発明はこれらに限定されない。
【0288】
【化13】

【0289】
【化14】

【0290】
また、本発明に用いられる発光ホストは低分子化合物でも、繰り返し単位をもつ高分子化合物でもよく、ビニル基やエポキシ基のような重合性基を有する低分子化合物(蒸着重合性発光ホスト)でもいい。
【0291】
発光ホストとしては、正孔輸送能、電子輸送能を有しつつ、且つ、発光の長波長化を防ぎ、高Tg(ガラス転移温度)である化合物が好ましい。
【0292】
発光ホストの具体例としては、以下の文献に記載されている化合物が好適である。例えば、特開2001−257076号公報、同2002−308855号公報、同2001−313179号公報、同2002−319491号公報、同2001−357977号公報、同2002−334786号公報、同2002−8860号公報、同2002−334787号公報、同2002−15871号公報、同2002−334788号公報、同2002−43056号公報、同2002−334789号公報、同2002−75645号公報、同2002−338579号公報、同2002−105445号公報、同2002−343568号公報、同2002−141173号公報、同2002−352957号公報、同2002−203683号公報、同2002−363227号公報、同2002−231453号公報、同2003−3165号公報、同2002−234888号公報、同2003−27048号公報、同2002−255934号公報、同2002−260861号公報、同2002−280183号公報、同2002−299060号公報、同2002−302516号公報、同2002−305083号公報、同2002−305084号公報、同2002−308837号公報等。
【0293】
さらに公知のホスト化合物を複数種併用して用いてもよい。また、ドーパント化合物を複数種用いることで、異なる発光を混ぜることが可能となり、これにより任意の発光色を得ることができる。リン光性化合物の種類、ドープ量を調整することで白色発光が可能であり、照明、バックライトへの応用もできる。
【0294】
有機EL素子の発光する色は、「新編色彩科学ハンドブック」(日本色彩学会編、東京大学出版会、1985)の108頁の図4.16において、分光放射輝度計CS−1000(コニカミノルタセンシング社製)で測定した結果をCIE色度座標に当てはめたときの色で決定される。
【0295】
発光層は上記化合物を、例えば、真空蒸着法、スピンコート法、キャスト法、LB法、インクジェット法等の公知の薄膜化法により成膜して形成することができる。発光層としての膜厚は特に制限はないが、通常は5nm〜5μm、好ましくは5〜200nmの範囲で選ばれる。この発光層はこれらのリン光性化合物やホスト化合物が1種または2種以上からなる一層構造であってもよいし、或いは同一組成または異種組成の複数層からなる積層構造であってもよい。
【0296】
(正孔輸送層)
正孔輸送層とは正孔を輸送する機能を有する正孔輸送材料からなり、広い意味で正孔注入層、電子阻止層も正孔輸送層に含まれる。正孔輸送層は単層または複数層設けることができる。
【0297】
正孔輸送材料としては、正孔の注入または輸送、電子の障壁性のいずれかを有するものであり、有機物、無機物のいずれであってもよい。例えば、トリアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、ポリアリールアルカン誘導体、ピラゾリン誘導体及びピラゾロン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、アリールアミン誘導体、アミノ置換カルコン誘導体、オキサゾール誘導体、スチリルアントラセン誘導体、フルオレノン誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体、シラザン誘導体、アニリン系共重合体、また導電性高分子オリゴマー、特にチオフェンオリゴマー等が挙げられる。
【0298】
正孔輸送材料としては上記のものを使用することができるが、ポルフィリン化合物、芳香族第3級アミン化合物及びスチリルアミン化合物、特に芳香族第3級アミン化合物を用いることが好ましい。
【0299】
芳香族第3級アミン化合物及びスチリルアミン化合物の代表例としては、N,N,N’,N’−テトラフェニル−4,4’−ジアミノフェニル;N,N’−ジフェニル−N,N’−ビス(3−メチルフェニル)−〔1,1’−ビフェニル〕−4,4’−ジアミン(TPD);2,2−ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)プロパン;1,1−ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)シクロヘキサン;N,N,N’,N’−テトラ−p−トリル−4,4’−ジアミノビフェニル;1,1−ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)−4−フェニルシクロヘキサン;ビス(4−ジメチルアミノ−2−メチルフェニル)フェニルメタン;ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)フェニルメタン;N,N’−ジフェニル−N,N’−ジ(4−メトキシフェニル)−4,4’−ジアミノビフェニル;N,N,N’,N’−テトラフェニル−4,4’−ジアミノジフェニルエーテル;4,4’−ビス(ジフェニルアミノ)クオードリフェニル;N,N,N−トリ(p−トリル)アミン;4−(ジ−p−トリルアミノ)−4’−〔4−(ジ−p−トリルアミノ)スチリル〕スチルベン;4−N,N−ジフェニルアミノ−(2−ジフェニルビニル)ベンゼン;3−メトキシ−4’−N,N−ジフェニルアミノスチルベンゼン;N−フェニルカルバゾール、さらには米国特許第5,061,569号明細書に記載されている2個の縮合芳香族環を分子内に有するもの、例えば、4,4’−ビス〔N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ〕ビフェニル(NPD)、特開平4−308688号公報に記載されているトリフェニルアミンユニットが3つスターバースト型に連結された4,4’,4”−トリス〔N−(3−メチルフェニル)−N−フェニルアミノ〕トリフェニルアミン(MTDATA)等が挙げられる。
【0300】
さらにこれらの材料を高分子鎖に導入した、またはこれらの材料を高分子の主鎖とした高分子材料を用いることもできる。また、p型−Si、p型−SiC等の無機化合物も正孔注入材料、正孔輸送材料として使用することができる。
【0301】
正孔輸送層は上記正孔輸送材料を、例えば、真空蒸着法、スピンコート法、キャスト法、インクジェット法を含む印刷法、LB法等の公知の方法により、薄膜化することにより形成することができる。正孔輸送層の膜厚については特に制限はないが、通常は5nm〜5μm程度、好ましくは5〜200nmである。この正孔輸送層は上記材料の1種または2種以上からなる一層構造であってもよい。
【0302】
また、不純物をドープしたp性の高い正孔輸送層を用いることもできる。その例としては、特開平4−297076号、特開2000−196140号、特開2001−102175号、J.Appl.Phys.,95,5773(2004)等に記載されたものが挙げられる。
【0303】
(電子輸送層)
電子輸送層とは電子を輸送する機能を有する材料からなり、広い意味で電子注入層、正孔阻止層も電子輸送層に含まれる。電子輸送層は単層または複数層設けることができる。
【0304】
従来、単層の電子輸送層、及び複数層とする場合は発光層に対して陰極側に隣接する電子輸送層に用いられる電子輸送材料(正孔阻止材料を兼ねる)としては、陰極より注入された電子を発光層に伝達する機能を有していればよく、その材料としては従来公知の化合物の中から任意のものを選択して用いることができ、例えば、ニトロ置換フルオレン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、チオピランジオキシド誘導体、カルボジイミド、フレオレニリデンメタン誘導体、アントラキノジメタン及びアントロン誘導体、オキサジアゾール誘導体等が挙げられる。さらに、上記オキサジアゾール誘導体において、オキサジアゾール環の酸素原子を硫黄原子に置換したチアジアゾール誘導体、電子吸引基として知られているキノキサリン環を有するキノキサリン誘導体も、電子輸送材料として用いることができる。さらにこれらの材料を高分子鎖に導入した、またはこれらの材料を高分子の主鎖とした高分子材料を用いることもできる。
【0305】
また、8−キノリノール誘導体の金属錯体、例えば、トリス(8−キノリノール)アルミニウム(Alq)、トリス(5,7−ジクロロ−8−キノリノール)アルミニウム、トリス(5,7−ジブロモ−8−キノリノール)アルミニウム、トリス(2−メチル−8−キノリノール)アルミニウム、トリス(5−メチル−8−キノリノール)アルミニウム、ビス(8−キノリノール)亜鉛(Znq)等、及びこれらの金属錯体の中心金属がIn、Mg、Cu、Ca、Sn、GaまたはPbに置き替わった金属錯体も、電子輸送材料として用いることができる。その他、メタルフリーもしくはメタルフタロシアニン、またはそれらの末端がアルキル基やスルホン酸基等で置換されているものも、電子輸送材料として好ましく用いることができる。また、発光層の材料として例示したジスチリルピラジン誘導体も、電子輸送材料として用いることができるし、正孔注入層、正孔輸送層と同様に、n型−Si、n型−SiC等の無機半導体も電子輸送材料として用いることができる。
【0306】
電子輸送層は上記電子輸送材料を、例えば、真空蒸着法、スピンコート法、キャスト法、インクジェット法を含む印刷法、LB法等の公知の方法により、薄膜化することにより形成することができる。電子輸送層の膜厚については特に制限はないが、通常は5nm〜5μm程度、好ましくは5〜200nmである。電子輸送層は上記材料の1種または2種以上からなる一層構造であってもよい。
【0307】
また、不純物をドープしたn性の高い電子輸送層を用いることもできる。その例としては、特開平4−297076号、特開2000−196140号、特開2001−102175号、J.Appl.Phys.,95,5773(2004)等に記載されたものが挙げられる。
【0308】
(有機EL素子の作製方法)
有機EL素子の作製方法の一例として、λ/4位相差素子/光路変換素子/陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極からなる有機EL素子の作製法について説明する。
【0309】
まずλ/4位相差素子である基材フィルム上に、前記したように光路変換素子を設け、その上に所望の電極物質、例えば、陽極用物質からなる薄膜を1μm以下、好ましくは10〜200nmの膜厚になるように、蒸着やスパッタリング等の方法により形成させ、陽極を作製する。次に、この上に有機EL素子材料である正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層、正孔阻止層の有機化合物薄膜を形成させる。
【0310】
この有機化合物薄膜の薄膜化の方法としては、前記の如く蒸着法、ウェットプロセス(スピンコート法、キャスト法、インクジェット法、印刷法)等があるが、均質な膜が得られやすく、且つピンホールが生成しにくい等の点から、真空蒸着法、スピンコート法、インクジェット法、印刷法が特に好ましい。さらに層毎に異なる成膜法を適用してもよい。
【0311】
成膜に蒸着法を採用する場合、その蒸着条件は使用する化合物の種類等により異なるが、一般にボート加熱温度50〜450℃、真空度10−6〜10−2Pa、蒸着速度0.01〜50nm/秒、基板温度−50〜300℃、膜厚0.1nm〜5μm、好ましくは5〜200nmの範囲で適宜選ぶことが望ましい。
【0312】
これらの層を形成後、その上に陰極用物質からなる薄膜を、1μm以下好ましくは50〜200nmの範囲の膜厚になるように、例えば、蒸着やスパッタリング等の方法により形成させ、陰極を設けることにより所望の有機EL素子が得られる。この有機EL素子の作製は、一回の真空引きで一貫して正孔注入層から陰極まで作製するのが好ましいが、途中で取り出して異なる成膜法を施しても構わない。その際、作業を乾燥不活性ガス雰囲気下で行う等の配慮が必要となる。
【0313】
また作製順序を逆にして、λ/4位相差素子/光路変換素子/陰極、電子注入層、電子輸送層、発光層、正孔輸送層、正孔注入層、陽極の順に作製することも可能である。このようにして得られた多色の表示装置に、直流電圧を印加する場合には、陽極を+、陰極を−の極性として電圧2〜40V程度を印加すると、発光が観測できる。また交流電圧を印加してもよい。尚、印加する交流の波形は任意でよい。
【0314】
上記有機EL素子を用いた表示装置は、表示デバイス、ディスプレイ、各種発光光源として用いることができる。表示デバイス、ディスプレイにおいて、青、赤、緑発光の3種の有機EL素子を用いることにより、フルカラーの表示が可能となる。
【0315】
表示デバイス、ディスプレイとしてはテレビ、パソコン、モバイル機器、AV機器、文字放送表示、自動車内の情報表示等が挙げられる。特に静止画像や動画像を再生する表示装置として使用してもよく、動画再生用の表示装置として使用する場合の駆動方式は単純マトリックス(パッシブマトリックス)方式でもアクティブマトリックス方式でもどちらでもよい。
【0316】
または、異なる発光色を有する有機EL素子を3種以上使用することにより、フルカラー表示装置を作製することが可能である。または、一色の発光色、例えば、白色発光をカラーフィルターを用いてBGRにし、フルカラー化することも可能である。さらに有機ELの発光色を色変換フィルターを用いて他色に変換しフルカラー化することも可能であるが、その場合、有機EL発光のλmaxは480nm以下であることが好ましい。
【実施例】
【0317】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0318】
<評価方法>
(正面輝度測定)
有機EL素子の発光部分は正方形状であり、一辺が135μmとした。一辺10μmの正方形状の穴を空けた光吸収性フィルムを準備した。有機EL素子の視認側のガラス基板の上に穴の空いた光吸収性フィルムを配置し、スライドさせながらコニカミノルタセンシング(株)製 分光放射輝度計CS1000を用いて、正面からの輝度を測定した。得られた輝度について、光取り出しフィルムなしの輝度の最大値部分を基準輝度として100%とし、相対輝度として評価を行った。
【0319】
(位相差測定)
位相差測定器KOBRA−21ADH(王子計測株式会社製)を用いて、基材フィルムの面内方向の位相差(R)及び厚み方向の位相差(Rt)の測定を行い下記式より求めた。尚位相差測定の際、計算で使用される平均屈折率はアッベ屈折率計により求めた値を用いた。
【0320】
(式2) R=(Nx−Ny)×d
(式3) Rt=〔(Nx+Ny)/2−Nz〕×d
(上記、式2及び式3において、Nxはフィルム面内における最大方向の屈折率、Nyはフィルム面内における最小の屈折率、Nzはフィルム厚み方向における屈折率を表す。dはフィルムの厚み(nm)である。)
実施例1
最初に基材フィルムであるセルロースエステルフィルム1を以下の手順に従って製造した。
【0321】
(微粒子分散液処方)
(二酸化珪素分散液)
アエロジル972V(日本アエロジル(株)製) 10質量部
(一次粒子の平均径16nm、見掛け比重90g/リットル)
エタノール 90質量部
以上をディゾルバーで30分間撹拌混合した後、マントンゴーリンで分散を行った。二酸化珪素分散液に88質量部のメチレンクロライドを撹拌しながら投入し、ディゾルバーで30分間撹拌混合し、二酸化珪素分散希釈液を作製した。
【0322】
(インライン添加液の作製)
チヌビン928(チバ・ジャパン(株)製) 15質量部
メチレンクロライド 100質量部
以上を密閉容器に投入し、加熱し、撹拌しながら、完全に溶解し、微粒子分散希釈液濾過器(アドバンテック東洋(株):ポリプロピレンワインドカートリッジフィルターTCW−PPS−1N)で濾過した。
【0323】
これに二酸化珪素分散希釈液を36質量部、撹拌しながら加えて、更に30分間撹拌した後、下記セルローストリアセテート6質量部を撹拌しながら加えて、更に60分間撹拌した後、インライン添加液送液濾過器(日本精線(株)製のファインメットNF)でインライン添加液を濾過した。公称濾過精度は20μmの濾材を使用した。
【0324】
(ドープ組成物)
セルロースエステル1(リンター綿から合成されたセルローストリアセテート、酢化度:61.5%、Mw=290000) 100質量部
添加剤a1(アクリル共重合体:下記アクリルポリマー1) 5質量部
添加剤a2(糖エステル化合物:ベンジルサッカロース) 5質量部
メチレンクロライド 430質量部
エタノール 40質量部
以上を密閉容器に投入し、加熱し、撹拌しながら、完全に溶解し、安積濾紙(株)製の安積濾紙No.24を使用して濾過し、ドープ液を調製した。
【0325】
次に、インライン添加液送液濾過器(日本精線(株)製のファインメットNF)でインライン添加液を濾過した。公称濾過精度は20μmの濾材を使用した。濾過したドープを100質量部に対し、濾過したインライン添加液を2.5質量部加えて、インラインミキサー(東レ静止型管内混合機 Hi−Mixer、SWJ)で十分混合し、次いで、ベルト流延装置を用い、温度35℃、2m幅でステンレスバンド支持体に均一に流延した。ステンレスバンド支持体で、残留溶剤量が100質量%になるまで溶剤を蒸発させ、ステンレスバンド支持体上から剥離した。剥離したセルロースエステルフィルムのウェブを35℃で搬送させ、スリットし、その後、テンターでTD方向(フィルムの搬送方向と直交する方向)に1.25倍に延伸し、170℃の乾燥温度で乾燥させた。このときテンターで延伸を始めたときの残留溶剤量は20%であった。その後、120℃の乾燥装置内を多数のロールで搬送させながら15分間乾燥させた後、スリットし、フィルム両端に幅15mm、高さ10μmのナーリング加工を施し、巻芯に巻き取り、セルロースエステルフィルム1を得た。フィルムの残留溶剤量は0.1%未満であり、膜厚は80μm、幅2m、巻長さは6000mであった。
【0326】
尚、ステンレスバンド支持体の回転速度とテンターの運転速度から算出されるMD方向の延伸倍率は1.05倍であった。
【0327】
〈アクリルポリマー1の合成〉
攪拌機、2個の滴下ロート、ガス導入管及び温度計の付いたガラスフラスコに、MMA(メタクリル酸メチル)、HEA(β−ヒドロキシエチルアクリレート)をモル比85:15のモノマー混合液40g、連鎖移動剤のメルカプトプロピオン酸3.0g及びトルエン30gを仕込み、90℃に昇温した。その後、一方の滴下ロートから、MMA(メタクリル酸メチル)、HEA(β−ヒドロキシエチルアクリレート)をモル比85:15のモノマー混合液60gを3時間かけて滴下すると共に、同時にもう一方のロートからトルエン14gに溶解したアゾビスイソブチロニトリル0.6gを3時間かけて滴下した。その後更に、トルエン56gに溶解したアゾビスイソブチロニトリル0.6gを2時間かけて滴下した後、更に2時間反応を継続させ、アクリルポリマー1を得た。重量平均分子量は8000であった。
【0328】
(分子量測定)
重量平均分子量の測定は、高速液体クロマトグラフィーを用いて測定した。
【0329】
測定条件は以下の通りである。
【0330】
溶媒: メチレンクロライド
カラム: Shodex K806,K805,K803G(昭和電工(株)製を3本接続して使用した)
カラム温度:25℃
試料濃度: 0.1質量%
検出器: RI Model 504(GLサイエンス社製)
ポンプ: L6000(日立製作所(株)製)
流量: 1.0ml/min
校正曲線: 標準ポリスチレンSTK standard ポリスチレン(東ソー(株)製)Mw=1000000〜500迄の13サンプルによる校正曲線を使用した。13サンプルは、ほぼ等間隔に用いる。
【0331】
<光取り出し用フィルムの作製>
基材フィルムとして、上記作製したセルロースエステルフィルム1を使用した。基材フィルムを形成するレンズ形状と対をなす金型を用い200℃、加重3000kgw、30秒加圧の条件で両面から押し付けることにより基材フィルムの第一面にマイクロレンズ(光路変換要素)を形成した。尚基材フィルムの面内位相差(R)は2nm、厚み方向位相差(Rt)は5nmであった。
【0332】
(OLED発光素子の作製)
ガラス基板上にCrBを100nmの膜厚で成膜し、次いでパターニングを実施し、乾燥処理(150℃)及びUV処理(室温及び150℃)を施すことによりCrBからなる反射電極を形成した。尚、CrBの成膜は、DCスパッタリング法に従って、室温下、スパッタリングガスとしてArを使用し、300Wのスパッタパワーを印加することにより実施した。
【0333】
上記の反射電極が形成されたガラス基板を蒸着装置に移動し、反射電極上に有機EL層、バッファー層、陰極を1×10−5Paの真空状態のまま形成を行った。
【0334】
次に正孔注入層、正孔輸送層、有機発光層、電子輸送層、電子注入層、バッファー層を形成した。各層の成膜する際に抵抗加熱によりるつぼからの蒸着とし、蒸着レートは0.2〜0.4nm/sとした。
【0335】
有機EL層の素材及び膜厚を以下に示す。
【0336】
正孔注入層:銅フタロシアニン 20nm
正孔輸送層:t−ブチルパーオキシベンゾエート(TBPB) 20nm
有機発光層:4,4’−ビス(2,2’−ジフェニルビニル)ビフェニル(DPVBi) 40nm
電子輸送層:アルミキノレート(Alq) 20nm
バッファー層:LiF 5nm MgAg層 5nm
バッファー層上に陰極としてIZOを成膜した。IZOターゲットとしては、In−10%ZnOをArガススパッタにより、0.3Paの圧力下、100Wのスパッタパワーで実施した。陰極は75nmとし真空を保ったまま成膜を行った。
【0337】
得られた有機EL素子をグローブボックス(酸素濃度及び水分濃度数ppm以下)に移動させ、紫外線硬化型接着剤を用いて封止部材を貼り合わせた。
【0338】
尚素子の形成に当たってはマスク法を用いて、素子の発光部分を一辺150μmの正方形状とした。
【0339】
上記の方法で得られた評価用有機EL素子をアクリル系粘着剤(日東電工(株)製CS9621)を用いて上記作製した光取り出しフィルムと接着した。このとき、光路変換要素が発光層側に面するようにした。さらに、上記粘着剤を用いて、ガラス基板と光取り出しフィルムの接着を行った。
【0340】
表1記載のように上記光路変換要素の形状を変化させて得られた正面輝度の測定結果を図5のグラフに示す。表1では光路変換層の頂角を55°、ピッチP:コーン底面半径コーンピッチ=1:0.71、ピッチP:高さh=1:0.90に固定した状態で相似的に画素に対する形状変化を行った結果が示されている。従って全水準ともに式1の範囲を満足している。
【0341】
表1、図5のグラフから明らかな様にコーンピッチは画素の50%以下でその画素から発する光の正面輝度が上昇することがわかる。さらに一画素から出る光は光取り出しフィルムなしの場合に比較して広がることはなく画像滲みの問題は起こらないことが確認できた。
【0342】
尚図5において、X軸は素子の変位を表し、0は素子の中心を表す。また、図5のグラフにおいてy軸は光取り出しフィルムなしの構成での正面輝度の最大値を100%とした時の相対的な輝度を表している。
【0343】
【表1】

【0344】
実施例2
実施例1と同様の手法で、コーン形状を変えることで表2に示すようにコーン頂角の角度変化をした光路変換要素を作製し、同様な評価を行った。結果を図6のグラフに示す。尚、コーン形状のピッチは27.8μmの格子状配列であり、コーン形状の下半径は19.7μm一定、上半径を2.1〜11.8μmまで変化させ、コーン形状の頂角を35〜70°の範囲で変化させた。従って全水準ともに式1の範囲を満足している。
【0345】
図6のグラフから明らかなようにコーン頂角は45〜65°の範囲で輝度の上昇を確認できた。さらに一画素から出る光は光取り出しフィルムなしの場合に比較して広がることはなく画像滲みの問題は起こらないことが確認できた。
【0346】
【表2】

【0347】
実施例3
実施例1と同様の手法で、表3に示すように光取り出しフィルムのピッチPと半径Rの関係を変化させた光路変換要素を作製し評価を行った。結果を図7〜9のグラフに示す。
【0348】
図7〜9のグラフから明らかなように、式1を満足する本発明の水準2〜19において輝度の上昇及び画素滲みが起こらないことが確認できた。
【0349】
【表3】

【0350】
実施例4
実施例1で作製したコーン形状対画素比21%水準の表示素子上に、λ/4位相差フィルム及び偏光板(日東電工株式会社製偏光板NPF)を粘着剤により貼合した。尚、この時偏光板の吸収軸とλ/4位相差フィルムの遅相軸は45°の角度をなすようにした。上記の構成で光取り出しフィルムのない構成でのコントラストを目視により評価した。結果、本発明の光取り出しフィルムを装着した水準では正面輝度の向上が見られ、さらに黒表示時の光の反射に及ぼす影響は確認できなかった。尚、本実施例で使用した光取り出しフィルムの面内位相差(R)は2nm、厚み方向位相差(Rt)は5nmであった。
【0351】
比較例5
実施例4の構成において、本発明の光取り出しフィルムとλ/4位相差フィルムの間に、コニカミノルタオプト社製位相差フィルム(KC8UCR)を挿入した。尚、位相差フィルムKC8UCRは面内位相差(R)は45nm、厚み方向位相差(Rt)は125nmであった。比較として上記構成から光取り出しフィルム及び位相差フィルムを取り外した構成でのコントラストを目視により評価した。結果、光取り出しフィルムのある水準においては、明表示時の正面輝度の上昇は確認できたものの、黒表示時の黒のしまりが悪くなった。この結果から、光取り出しフィルムの位相差が小さい構成において黒表示のしまりが得られることが明らかとなった。
【0352】
実施例6
基材フィルムとしてλ/4位相差機能を有するセルロースエステルフィルム2を下記手順に従って作製した。
【0353】
(微粒子分散液処方)
(二酸化珪素分散液)
アエロジル972V(日本アエロジル(株)製) 10質量部
(一次粒子の平均径16nm、見掛け比重90g/リットル)
エタノール 90質量部
以上をディゾルバーで30分間撹拌混合した後、マントンゴーリンで分散を行った。二酸化珪素分散液に88質量部のメチレンクロライドを撹拌しながら投入し、ディゾルバーで30分間撹拌混合し、二酸化珪素分散希釈液を作製した。
【0354】
(インライン添加液の作製)
チヌビン928(チバ・ジャパン(株)製) 15質量部
メチレンクロライド 100質量部
以上を密閉容器に投入し、加熱し、撹拌しながら、完全に溶解し、微粒子分散希釈液濾過器(アドバンテック東洋(株):ポリプロピレンワインドカートリッジフィルターTCW−PPS−1N)で濾過した。
【0355】
これに二酸化珪素分散希釈液を36質量部、撹拌しながら加えて、更に30分間撹拌した後、下記セルローストリアセテート6質量部を撹拌しながら加えて、更に60分間撹拌した後、インライン添加液送液濾過器(日本精線(株)製のファインメットNF)でインライン添加液を濾過した。公称濾過精度は20μmの濾材を使用した。
【0356】
(ドープ組成物)
セルロースエステル2(セルロースアセテートプロピオネート、アセチル基置換度1.9、プロピオニル基置換度0.7、Mw=280000) 100質量部
添加剤a1(アクリル共重合体:前記アクリルポリマー1) 5質量部
添加剤a2(糖エステル化合物:ベンジルサッカロース) 5質量部
メチレンクロライド 430質量部
エタノール 40質量部
以上を密閉容器に投入し、加熱し、撹拌しながら、完全に溶解し、安積濾紙(株)製の安積濾紙No.24を使用して濾過し、ドープ液を調製した。
【0357】
次に、インライン添加液送液濾過器(日本精線(株)製のファインメットNF)でインライン添加液を濾過した。公称濾過精度は20μmの濾材を使用した。濾過したドープを100質量部に対し、濾過したインライン添加液を2.5質量部加えて、インラインミキサー(東レ静止型管内混合機 Hi−Mixer、SWJ)で十分混合し、次いで、ベルト流延装置を用い、温度35℃、2m幅でステンレスバンド支持体に均一に流延した。ステンレスバンド支持体で、残留溶剤量が100質量%になるまで溶剤を蒸発させ、ステンレスバンド支持体上から剥離した。剥離したセルロースエステルフィルムのウェブを35℃で搬送させ、スリットし、その後、テンターでTD方向(フィルムの搬送方向と直交する方向)に160℃で1.3倍に延伸し、150℃の乾燥温度で乾燥させた。このときテンターで延伸を始めたときの残留溶剤量は15%であった。その後、120℃の乾燥装置内を多数のロールで搬送させながら15分間乾燥させた後、スリットし、フィルム両端に幅15mm、高さ10μmのナーリング加工を施し、巻芯に巻き取り、セルロースエステルフィルム2を得た。フィルムの残留溶剤量は0.1%未満であり、膜厚は80μm、幅2m、巻長さは6000mであった。
【0358】
尚、ステンレスバンド支持体の回転速度とテンターの運転速度から算出されるMD方向の延伸倍率は1.0倍であった。
【0359】
セルロースエステルフィルム2のR及びRtはそれぞれ138nm(λ/4)及び5nmであった。
【0360】
偏光板(日東電工株式会社製偏光板NPF)を純水に漬けて12時間放置し、偏光板に貼合されていた保護フィルムの一方を剥離した。
【0361】
上記セルロースエステルフィルム2上に実施例1で作製したコーン形状対画素比21%のコーン形状(光路変換要素)を実施例1と同様の手法で作製した。偏光子とこの光路変換要素付きのセルロースエステルフィルム2をPVA10%溶液を接着剤として貼合した。この時、コーン形状の形成された表面と反対側が偏光子面になるように、また、偏光子の吸収軸と位相差フィルムの遅相軸は45度の角度をなすように接着を行った。
【0362】
実施例4と同様の構成で本発明の光取り出しフィルムを評価したところ、正面輝度の上昇とコントラストの良好な結果が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0363】
【図1】本発明に係るコーン形状のモデルを示す図である。
【図2】本発明に係るコーン形状のモデルを示す図である。
【図3】本発明に係るコーン形状のモデルを示す図である。
【図4】本発明に係る有機エレクトロルミネッセンスディスプレイの模式図である。
【図5】実施例1の結果を示すグラフである。
【図6】実施例2の結果を示すグラフである。
【図7】実施例3の結果を示すグラフである。
【図8】実施例3の結果を示すグラフである。
【図9】実施例3の結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材フィルムの一方の面に光路変換要素を持つエレクトロルミネッセンスディスプレイ用光取り出しフィルムにおいて、前記光路変換要素がコーン形状を配列してなり、該コーン形状のピッチは1μm〜ディスプレイの一画素の50%以下の範囲であり、且つ該コーン形状の底面の半径をR、ピッチをPとした時に以下の式1を満足することを特徴とするエレクトロルミネッセンスディスプレイ用光取り出しフィルム。
0.6√2×R≦P≦2.2√2×R・・・・(式1)
【請求項2】
前記基材フィルムの下記式2で表される面内位相差(R)及び下記式3で表される厚み方向の位相差(Rt)が−10〜10nmであることを特徴とする請求項1に記載のエレクトロルミネッセンスディスプレイ用光取り出しフィルム。
(式2) R=(Nx−Ny)×d
(式3) Rt=〔(Nx+Ny)/2−Nz〕×d
(上記、式2及び式3において、Nxはフィルム面内における最大方向の屈折率、Nyはフィルム面内における最小の屈折率、Nzはフィルム厚み方向における屈折率を表す。dはフィルムの厚み(nm)である。)
【請求項3】
前記基材フィルムの下記式2で表される面内位相差(R)がλ/4であり、下記式3で表される厚み方向の位相差(Rt)が−10〜10nmであることを特徴とする請求項1に記載のエレクトロルミネッセンスディスプレイ用光取り出しフィルム。
(式2) R=(Nx−Ny)×d
(式3) Rt=〔(Nx+Ny)/2−Nz〕×d
(上記、式2及び式3において、Nxはフィルム面内における最大方向の屈折率、Nyはフィルム面内における最小の屈折率、Nzはフィルム厚み方向における屈折率を表す。dはフィルムの厚み(nm)である。)
【請求項4】
少なくとも一対の電極とその間に有機発光層を備えた発光素子、光路変換素子、λ/4位相差素子、吸収型偏光素子からなる有機エレクトロルミネッセンス画像表示装置において、一対の電極のうち少なくとも一方が光透過性電極であり、前記有機発光層から見て該光透過性電極のある方向に前記光路変換素子及びλ/4位相差素子がこの順で配置されており、該光路変換素子がフィルムの一方の面に光路変換要素を持つエレクトロルミネッセンスディスプレイ用光取り出しフィルムであり、該光路変換要素がコーン形状を配列してなり、該コーン形状のピッチは1μm〜ディスプレイの一画素の50%以下の範囲であり、且つ該コーン形状の底面の半径をR、ピッチをPとした時に以下の式1を満足するエレクトロルミネッセンスディスプレイ用光取り出しフィルムであり、該光取り出しフィルムの光路変換要素が有機発光層側にあることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンスディスプレイ。
0.6√2×R≦P≦2.2√2×R・・・・(式1)

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−283349(P2009−283349A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−135444(P2008−135444)
【出願日】平成20年5月23日(2008.5.23)
【出願人】(303000408)コニカミノルタオプト株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】