説明

エレクトロルミネッセンス表示装置

エレクトロルミネッセンス(EL)材料のバックライト(16)の前に装着される、表示情報を規定するマスク(13)を備えたエレクトロルミネッセンス表示装置。マスク(13)は、硬化性ポリマーマトリックス(15)に封入された液晶ベシクル(14)の層を含み、ポリマーマトリックス(15)のポリマー鎖は、放射線に暴露されることにより架橋されている。ポリマーマトリックスは、UV硬化性ポリウレタンであることが好ましい。本発明は、このような表示装置の製造方法にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレクトロルミネッセンス表示装置に関し、より詳しくは、エレクトロルミネッセンス/液晶ハイブリッド表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エレクトロルミネッセンス材料というものが存在する。エレクトロルミネッセンス材料とは、その材料に電界が発生すると、発光して光る材料である。最初に知られたエレクトロルミネッセンス材料は、硫化亜鉛などの無機粒子状物質であったが、最近発見されたエレクトロルミネッセンス材料には、有機発光ダイオード(OLED)として知られる数多くの小分子有機発光体や、発光ポリマー(LEP)として知られる幾つかのプラスチック(合成有機ポリマー物質)がある。無機粒子は、ドープされ封入された形態で今でも使用されており、特に、バインダと混合され、比較的厚い層として基板表面に塗布される場合に用いられている。LEPは、バインダマトリックス中の粒子状材料として、または、より好ましくは単独で比較的薄い連続膜としてのいずれでも用いることができる。
【0003】
このエレクトロルミネッセンス効果は、表示装置の構築に用いられてきた。表示装置の中には、エレクトロルミネッセンス(EL)材料(この場合、一般的に蛍光体と呼ばれる)を備え、表示装置が表示する様々な文字を規定するマスクを通して見ることができるバックライトを形成するタイプや、EL材料の個々の小領域が選択的に活性化するように成形された電極と共に表示装置を配置するタイプがある。これら表示装置の用途は多く、例えば、単純なデジタル時間および日付表示装置(腕時計や置き時計に用いられる)、携帯電話表示装置、家電機器(食器洗浄機や洗濯機など)の制御パネル、ハンディタイプのリモコン(テレビ、ビデオまたはDVDプレーヤー、デジボックス、ステレオまたはミュージックセンター、もしくは類似の娯楽装置用)などがある。
【0004】
国際特許出願番号WO2005/0121878号には、液晶(LC)マスクを有するエレクトロルミネッセンス表示装置が記載されており、前記マスクは、個々の領域において、「オン」/透明(これによりバックライトはマスクを通して点灯する)と、「オフ」/不透明(これによりバックライトの光はマスクにより遮断される)とに切り替え可能となっている。このLCマスクとELバックライトは一体化形成されており、両構成要素(LCマスクとELバックライト)は1つの基板上で支持され、ELバックライトは、液晶材料層上に直接/後ろに装着されるエレクトロルミネッセンス材料層として形成される。
【0005】
LC材料は、通常の「液体」という用語において、この名称が暗示する形態である移動的というより、むしろ物理的に安定した形態であることが重要であると理解される。
【0006】
本発明者は、ポリマーマトリックス(バインダ)に分散された、液晶のドロップレット、典型的には、ネマチックまたはコレステリック性のドロップレットで構成されるポリマー分散液晶(PDLC)膜が、そのようなハイブリッド表示装置のLCマスクに適していることが分かった。
【0007】
PDLCに二色性染料を含めることにより、無通電状態は、強い吸収性と散乱性を呈し、一方、通電状態は、透明性と低い吸収性とを兼ね備える。このようなタイプのPDLCは、NCAP(封入されたネマチック曲線状整列相)として知られており、本発明者は、NCAPタイプのPDLCが、表示装置のLC材料として用いるのに特に適していることを見出した。特に、NCAPのPDLCは、染料のバインダへの移動を最小限にするため、所期のコントラストを劣化させることはない。
【0008】
これらの膜は、乳化法または数多くの相分離技術の1つを用いることにより構築することができる。乳化法は、機械的せん断を用いて、染色された液晶(有機油)を水溶性ポリマーを含む水性媒体、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)に分散してポリマーマトリックスを形成する。
【0009】
表示装置の形成は、数多くの方法により達成することができる。WO2005/0121878号は、適切なペーストを用いて、表示装置の各層の形状、大きさおよび位置を規定するマスクに通して、(通常基板上にスパッタリングされるITO前面電極を除く)種々の層をそれぞれ所定の位置にスクリーン印刷した後、乾燥し、適宜、凝固または硬化して、次の1つまたは複数の層を付与する方法を開示している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明者は、PVAは、非常に安定した乳濁液を提供する優れたバインダであるが、周囲環境から水分を吸収しやすく、その結果、水分依存リーク電流を介してPDLCの電気光学性能を劣化させるため、PVAをバインダとしたNCAPのPDLC材料を用いることは適当ではないことを見出した。従って、LC層においてPVAをバインダとして用いて製造された表示装置の環境安定性は悪く、その結果、表示装置の斑点などの欠陥が発生する可能性がある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1の態様によると、エレクトロルミネッセンス(EL)材料のバックライトの前に装着される、表示情報を規定するマスクを備えたエレクトロルミネッセンス表示装置であって、前記マスクは、放射線硬化性ポリマーマトリックスに封入された液晶ベシクルの層を含み、前記ポリマーマトリックスのポリマー鎖は、放射線に暴露されることにより架橋(硬化)されているエレクトロルミネッセンス表示装置が提供される。
【0012】
放射線に暴露してポリマーマトリックスを硬化することにより、エレクトロルミネッセンス表示装置の環境安定性が高まり、表示装置の電気光学的挙動が向上することが分かっている。放射線に暴露することにより(単にそれにより支援されるのではなく)、ポリマー鎖を架橋した結果、環境安定性が高くなると考えられる。ポリマー鎖の架橋は化学的に達成することもできるが、そのような化学的架橋では、環境安定性において、放射線誘導架橋と同様の増加が得られないことが分かっている。
【0013】
本明細書において用いられる「前面」という用語は、表示装置が見られる側を意味するものとする。
【0014】
放射線硬化性ポリマーマトリックスは、水性の、モノマーを含まない放射線硬化性ウレタンオリゴマー分散体;アクリル機能性ポリウレタン分散体およびアクリルウレタン乳濁液のうちのいずれか一つであり得る。最も好ましい実施形態では、ポリマーマトリックスは、UV硬化性ポリマーマトリックスであり、例えば、DSMネオレジン社(DSM Neoresin)から、ネオレズ(NeoRez)(登録商標)R440、R440、R445、R401およびR501などの商品名で販売されているUV硬化性脂肪族ポリウレタン樹脂が挙げられる。しかし、マトリックスは、他の膜形成UV硬化性ポリマー、例えば、UV硬化性ポリウレタン分散体(当該技術分野においてUV−PUDとして知られている)、アクリル分散体、シリコーンおよびそれらの混合体を含むと考えられる。マトリックス樹脂は、非常に少量の共溶媒を含む、好ましくは共溶媒を全く含まない水溶液または乳濁液から形成することができる。
【0015】
ポリマーマトリックスは実質的にPVAを含まないことが好ましい。ここで、「実質的にPVAを含まない」という表現は、ポリマーマトリックスが、PVAを5%未満、好ましくは1%未満を含む、最も好ましくは全く含まないことを意味する。
【0016】
複数の異なる構成材料を用いてベシクルの殻を形成することができる。殻に用いることのできる一対の構成材料としては、一例として、多官能性イソシアネート(例えば、デスモジュール(Desmodur)N3200‐バイエル社(Bayer)製)と、エチレンジアミンなどのジアミンが挙げられる。その反応は、DABCOなどの第三級アミンまたは当業者に公知の他の触媒により触媒作用を受けてもよい。
【0017】
本発明の第2の態様によると、放射線硬化性ポリマーマトリックスに封入された液晶ベシクルの層で基板を被覆し、前記ポリマーマトリックスを放射線に暴露して前記ポリマーマトリックスのポリマー鎖を架橋させることにより、表示情報を規定するマスクを形成する工程;および前記マスクの後ろにエレクトロルミネッセンス層を形成する工程を含む、表示装置製造方法が提供される。
【0018】
本発明の方法は、環境安定性を高めた表示装置を形成するため有利である。
【0019】
放射線を用いてポリマーマトリックスを硬化した結果、環境安定性が高くなると考えられる。
【0020】
好ましい構成では、液晶ベシクルは、水性媒体に可溶な材料と液晶に可溶な材料との2つの構成材料を含む水性媒体において形成され、液晶と水性媒体との界面でこれら構成成分が反応することにより、各液晶ベシクルの殻が形成される。構成成分の反応の結果、水性媒体において、液晶ベシクルの乳濁液が得られる。これら構成材料は、多官能性イソシアネート(例えば、デスモジュールN3200‐バイエル社製)と、ポリ官能性アミンまたはアルコール、特にエチレンジアミンなどのジアミンであることが好ましい。その反応は、DABCOなどの第三級アミンにより触媒作用を受けてもよい。
【0021】
前記方法は、PVA溶液との反応中に水性媒体を安定化させることを含むことが好ましい。しかし、上述したように、LC層においてPVAが存在すると、PVAが周囲環境から水分を吸収することにより欠陥が発生することがある。このため、好ましい構成では、反応段階後、その反応により生成された乳濁液からPVA溶液を除去する。乳濁液からのPVA溶液の除去は、遠心分離機を用いて乳濁液とPVA溶液に分離して行い得る。一旦PVA溶液と乳濁液とに分離されると、PVA溶液の大半は、乳濁液の上面から簡単にすくい取ることができる。その乳濁液を、濃度を下げたPVA溶液で、最後に水で繰り返し洗浄することにより、確実にPVA溶液のほとんど全てを除去することができる。
【0022】
ポリマーマトリックスは、本発明の第1の態様で挙げた、任意の適切な放射線硬化性ポリマーを含んでいてもよい。ポリマーマトリックスはUV硬化性ポリウレタンを含むことが好ましい。
【0023】
本発明の第3の態様によると、エレクトロルミネッセンス(EL)材料のバックライトの前に装着される、表示情報を規定するマスクを備えたエレクトロルミネッセンス表示装置であって、前記マスクは、ポリウレタンマトリックス中に分散された液晶材料の層を含む、エレクトロルミネッセンス表示装置が提供される。
【0024】
本発明の第4の態様によると、ポリウレタンマトリックス中に分散された液晶材料の層で基板を被覆することにより、表示情報を規定するマスクを形成する工程;および前記マスクの後ろにエレクトロルミネッセンス層を形成する工程を含む、表示装置製造方法が提供される。ポリウレタンマトリックスは、他のポリマーマトリックスに比べて、環境安定性の良い表示装置を提供することが分かっている。
【0025】
本発明のそれぞれの態様の特徴を、本発明の他の態様の特徴と組み合わせてもよいことは理解されるであろう。
【0026】
本発明のすべての態様において、概念的に、LC材料は、このような材料の主な種類、すなわち、ネマチック、コレステリック、カイラルネマチックなどのいずれか1つであり得、一般的に、光を透過する電界「オン」状態と、「オン」状態ほど光を透過しない基本となる電界「オフ」状態との、偏光子を含まない高コントラスト電気光学シャッタ動作を可能にする液晶系材料が必要となる。液晶は染料を含有することが好ましい。1つの構成では、液晶は、最大6重量%までの染料、好ましくは、二色性染料を含む。好ましい構成では、液晶中の染料の量は3〜5重量%である。LC材料に電界が印加されないと、染料は液晶分子に付着して光を遮る働きをするが、電界が印加されると、染料の分子は整列し光の透過を可能にする。
【0027】
このような材料を用いて、エレクトロルミネッセンス表示装置の前に液晶シャッタを組み合わせることにより、活性化された場合に発光するだけでなく反射率も変化するハイブリッド表示装置が得られる。このようなタイプのハイブリッド表示装置は、真暗闇から(典型的には最も明るい環境光条件であると考えられる)十分な太陽光まで非常に広範な照明条件において、良好な視認性を実現することができる。
【0028】
ネマチック材料には、他にも重大な利点がある。すなわち、無電界時に光を吸収し、電界存在時に光を透過する液晶材料を選択することにより、液晶材料を駆動するのに用いられるのと同じ電界をエレクトロルミネッセンス材料を駆動するのに用いることが可能となる。無電界時では、液晶材料は入射する環境光を吸収するが、エレクトロルミネッセンス材料は光を発生しないため、表示素子は暗く見える。電界が印加されると、液晶は、入射する環境光(その後、その後ろにあるエレクトロルミネッセンス層に反射する)と、エレクトロルミネッセンス層が発生した光の両方を透過するため、表示装置は明るく見える。
【0029】
LCマスクとELバックライトは一体として構成されてもよい。これにより、LCマスクは、ELバックライトに接着、または表示装置の層間に挟まれることにより、バックライトに固定されることになる。
【0030】
バックライトは、前面から背面に向かって、以下を含む:
通常ガラスもしくはポリエチレンテレフタレート(PET)またはポリエチレンナフタレート(PEN)などのプラスチックからなり、基板として知られる電気絶縁性透明前面層;
例えばインジウムスズ酸化物(ITO)などの材料からなり、バックライトの一方の電極(前面電極)を形成する第1の導電性膜;
エレクトロルミネッセンス(EL)蛍光体材料(通常、バインダマトリックス内の粒子状蛍光体);
50前後の比較的高い誘電率(比誘電率)を有する材料(通常、セラミック)の電気絶縁層(この層は、本発明のように、顕著な光反射性を有することが最も望ましい用途もあれば、低い反射率を有することが好ましい用途もある);および
前記電気絶縁層の裏面に配置された、バックライトの第2の電極(背面電極)を形成する第2電極導電性膜を形成する導電性膜。
【0031】
LCマスクは、使用時に電極がEL材料層およびLCマスクの両方にわたって電界を発生するように、EL材料層と前面電極との間に配置されることが好ましい。しかし、あるいは、LCマスクとEL材料層は、別個の電極によって活性化されてもよい。
【0032】
LCマスクは、EL材料層上に直接/後ろに装着される層として形成することができるが、LCマスクとELバックライトとの間にポリマー中間層を設けてもよい。
【0033】
本発明の表示装置では、大抵、1つの(前面)電極が基板の裏面全体にわたって配置され、液晶層とエレクトロルミネッセンス層の両層の「オン」または「オフ」に切り替えるよう選択され得る領域を規定するパターン(背面)が、反射性電気絶縁層の裏面にわたって配置されることが最も便宜である。しかし、別の方法として、前面電極をパターン形成して、1つの「全面」背面電極を有してもよい。さらに、両電極をパターン形成してもよく、これは、表示装置が、明るくする領域と暗くする領域を選択することにより様々な形状および大きさの画像が表示できるように、多数の非常に小さな領域を任意に点灯できるマトリックス装置となる場合に必要となる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】図1は、本発明の第1の実施形態に係る表示装置の断面図を示す。
【図2】図2は、本発明の第2の実施形態に係る表示装置の断面図を示す。
【図3】図3は、第1または第2の実施形態に係る表示装置の平面図を示す。
【図4】図4は、異なるポリマーを含むPDLC材料の湿度性能を説明する表である。
【図5】図5は、異なるポリマーを含むPDLC材料の温度性能を説明する表である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明の一実施形態について、一例として、以下に列記の添付図面を参照して説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態に係る表示装置の断面図を示す。
図2は、本発明の第2の実施形態に係る表示装置の断面図を示す。
図3は、第1または第2の実施形態に係る表示装置の平面図を示す。
図4は、異なるポリマーを含むPDLC材料の湿度性能を説明する表である。
図5は、異なるポリマーを含むPDLC材料の温度性能を説明する表である。
【0036】
添付図面の図1に示す本発明の表示装置の第1の実施形態は、前面から背面に向かって、以下を備える:
比較的厚い電気絶縁性透明前面保護層(11;基板);
基板11の裏面にわたって配置された、表示装置の前面電極を形成する非常に薄い透明導電性膜(12);
前面電極12の裏面を被覆する、支持ポリマーマトリックス(15)内に分散させて物理的に安定化させたLC材料(14)の比較的薄い層(13);
液晶層(13)の裏面上に直接形成され、液晶層(13)の裏面を被覆する、支持マトリックス(18)内に分散されたエレクトロルミネッセンス/蛍光体材料(17)の比較的薄い層(16);
蛍光体層(16)の裏面にわたって配置された、比較的高い誘電率を有する材料からなる比較的薄い光反射性電気絶縁層(19)(当該図では、この層は、蛍光体層(16)のシームレスな延長として示されている);および
反射性電気絶縁層(19)の裏面にわたって配置された、表示装置の背面電極を形成する導電性膜(20)。
【0037】
前面および背面電極は共に、「オン」または「オフ」に切り替え選択できる液晶層とエレクトロルミネッセンス層の両層の離散領域を規定する。
【0038】
また、バック電極層は、保護膜(図示せず)で被覆されてもよい。
【0039】
「比較的厚い」という表現は、30〜300ミクロンの範囲の厚さという意味に理解されるものとする。さらに、「比較的薄い」という表現は、50ミクロン以下の厚さという意味に理解されるものとする。好ましい実施形態では、前記比較的厚い層は100ミクロン前後であり、前記比較的薄い層は25ミクロン以下である。
【0040】
電気絶縁層の誘電率は、50前後であり得る。
【0041】
別の実施形態では、添付図面の図2に示すように、EL材料およびLC材料は、互いに接して形成されるのではなく、絶縁中間層(10)によって分離される。他のすべての点においては、全実施形態は同じであり、共通の参照符号が用いられる。
【0042】
図3は、表示装置に表示され得る情報のタイプの一例である。
【0043】
表示装置のPDLC材料は、最初に液晶ドロップレットが水性媒体中に分散される乳化法により形成される。液晶ドロップレットは、高い機械的せん断を用いて、例えば、直径4cmのインペラを3000rpmで8〜10分間回転させることにより、分散される。これにより、ミクロンサイズの液晶ドロップレットが得られ、基準を満たした性能の表示装置を作製できることが分かる。
【0044】
液晶ドロップレットは、多官能性イソシアネートなどの液晶に可溶な構成成分を含み、乳濁液の形成後、水溶性のポリ官能性アルコールまたはアミン、例えばエチレンジアミンをバルク水相に加える。これら構成成分の反応を促進するのに、第三級アミン、例えば、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)または、ジラウリン酸ジブチルスズなどの錫化合物などの触媒を用いてもよい。これら2つの構成成分はその後、液晶ドロップレットと水性媒体との界面で反応して、液晶ドロップレットの周囲に殻を形成することにより、水性媒体において液晶ベシクルの乳濁液を形成する。
【0045】
水性媒体は、液晶ベシクルの殻を形成する2つの構成成分の反応段階中、乳濁液を安定化する(液晶ドロップレットの大きさを維持し、液晶と水性媒体の分離を防止する)のに用いるPVA溶液を含む。この反応段階は適宜選択され、典型的には、4〜9時間の間であり得る。重合終了時に、少量のアンモニア水溶液、典型的には10%濃度を加えて未反応のイソシアネート部分を急冷する。
【0046】
一旦ベシクル形成段階が終了すると、遠心分離機を用いて乳濁液からPVA溶液を分離し、乳濁液上の分離されたPVA溶液をすくい取ることによりPVAを除去する。次に、その乳濁液を濃度を下げたPVA溶液で洗浄し、次いで水で洗浄して、乳濁液に残った微量のPVA溶液を除去する。乳濁液を、最初に水ではなく濃度を下げたPVA溶液で洗浄することにより、PVAが溶液から分離して、分離したベシクルを汚染する可能性のある分離乳濁液への衝撃を防ぐことができる。
【0047】
PVA除去された乳濁液は、その後、UV硬化性ポリウレタンバインダに混合され、液晶ベシクルが封入されるマトリックスを形成する。この時、UV硬化反応を促進するのに必要な光開始剤を、追加の塗布助剤または界面活性剤やその他必要な添加剤と共に添加する。その後、この混合物を基板に塗布し乾燥することによりPDLC層を形成することができる。
【0048】
表示装置は、スクリーン印刷などの方法を用いて、表示装置の層を連続的に被着することにより形成される。典型的には、最初に、前面電極を形成する導電性基板上にPDLC乳濁液を塗布し乾燥することによりPDLC層を形成する。その後、PDLC層をUV光に曝露してポリウレタンマトリックスを硬化する。そして、硬化したPDLC層にELバックライトを形成する層を被着する。
【0049】
紫外線への曝露によりポリマーマトリックスが架橋されたPDLC層を有する表示装置は、環境安定性が向上することが分かっている。優れた環境安定性は、湿度/温度試験により実証されており、その結果は図4と図5に示す通りである。これらの試験を数多くの可能性のあるバインダに対して行った。
【0050】
湿度試験は、ITOポリエステルに被着したバインダ材料(架橋剤または光開始剤を含む)からなる薄層(およそ10ミクロン)に対して行った。そして、そのバインダ上に標準的なELテストランプパターンを印刷した。テストランプパターンは電極に導電性銀インクを用いた。その後、ランプを動作させてエージングを行い、ランプの劣化時間を記録した。顕著なコントラストの低下または層に斑点がある場合に劣化が起こったとみなした。
【0051】
図4の結果からわかるように、ポリウレタンバインダが、劣化時間が6時間以上と、湿度試験において最も高い性能を示した。
【0052】
温度試験は、顕微鏡スライドガラスに被着したPDLC材料(架橋剤または光開始剤を含む)からなる薄層に対して行った。乾燥硬化した膜の上に液晶を一滴のせ、一定時間放置した。その後、流水を用いてポリマー表面から液晶を洗い落とし、ポリマーを目視により観察して、膜における染料/液晶の拡散具合を判定した。
【0053】
図5からわかるように、R440(UV硬化されたポリウレタン)は、24時間室温にさらした後も着色は見られず、68時間後にわずかな着色が見られただけであり、(カイナー・アクアテック(Kynar Aquatec)と同様に)優れた温度性能を示している。
【0054】
以上、湿度/温度試験から、UV硬化されたポリウレタンバインダが優れた環境安定性を有することがわかる。
【実施例】
【0055】
(実施例1)
2%の黒染料S428(三井化学(Mitsui Chemicals))を含有するネマチック液晶BL006(メルク化学(Merck Chemicals))の原液を、1gmのS428を49gmのBL006に加え、得た混合物をおよそ60℃で1時間攪拌することにより調製した。この混合物を60℃でさらに18時間オーブン内に置いた後、室温まで冷却し、0.2ミクロンのフィルタに通した。デスモジュールN3200(バイエル社)(1.8gm)を染色した液晶(36gm)の一部に加え、得た混合物を、均一な溶液になるまで(およそ10分)60℃で攪拌した。その後、この溶液を、再循環水浴を用いて50℃の温度に維持されている攪拌された(350rpm、直径4cmのインペラ)10%のポリビニルアルコール(セルヴォル(Celvol)205、セラニーズ・ケミカル社(Celanese Chemicals))(120gm)に加えた。加えた後、インペラ速度を3000rpmに上げて8分間維持し、8分経ったところで750rpmに下げた。温度を50℃に維持してさらに8時間攪拌を続けた。この間、10%のDABCO(シグマ・アルドリッチ社(Sigma Aldrich))(2.88gm)と10%のエチレンジアミン(シグマ・アルドリッチ社)(2.44gm)との混合物をおよそ30分間隔で7回加えた。10%のアンモニア水溶液(2.84gm)を3分間にわたって滴下し、攪拌速度を500rpmに下げ、乳濁液を室温になるまで一晩冷ました。
【0056】
得られた乳濁液を軽圧下で20ミクロンのフィルタに通し、その後、3600rpmで遠心分離して液晶ベシクルを分離した。上澄み液を除去し、ウェットケーキを、2%のポリビニルアルコール(2回)と、1%のポリビニルアルコールと、水(3回)とで連続的に洗浄した。このように生成されたウェットケーキの重量および固形分割合はそれぞれ、30.65gmおよび73.6%であった。
【0057】
このウェットフィルタケーキから、以下の方法でポリウレタンマトリックス乳濁液を調製した。ネオラッド(Neorad)R440(DSMネオレジン社)をウェットフィルタケーキ試料に混合し、55%の不揮発性物質と(不揮発性物質含有量に対して)60%の液晶(S428を含む)とを含有する乳濁液を得た。
【0058】
ネオラッドR440と、FC4430(スリーエム社(3M Company))とダロキュア(Darocur)1173(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社(Ciba Speciality Chemicals))との混合物を、ネオラッドR440とFC4430とを混合し、次に、攪拌中のダロキュア1173に加えることにより調製した。ネオラッドR440、FC4430およびダロキュア1173の量は、この混合物を、上で調製したネオラッド/ウェットケーキ乳濁液の一部に混ぜた場合に、50%の全固形分(不揮発性物質)と、(ネオラッドR440の合計に対し)1%のダロキュア1173と、(乳濁液の合計に対し)1%のFC4430とを含有する組成物が最終的に得られるように計算される。得られたPDLC乳濁液を20ミクロンのフィルタに通し、15分間超音波浴で脱気し、次いでITO‐PET(シェルダール社(Sheldahl)に塗布し、乾燥し(90℃でおよそ10分)、UV硬化して、厚さがおよそ15ミクロンの乾燥膜を得た。その後、この膜の裏に、スクリーン印刷法を用いて、蛍光体(デュポン(DuPont)8153)と、2つの誘電体層(デュポン7153)と、絶縁体(デュポン5018)と、炭素(コーツ(Coates)XZ302 MV)を連続的に被着することにより、ELランプ構成を印刷した。
【0059】
このように作製された3つの試験用ランプの電気光学性能の特徴を、60℃/相対湿度95%で72時間のエージングの前後で調べた。
【0060】
(実施例2)
実施例1の方法の後、BL006の代わりにBL093(メルク化学)を用いて、PDLC被膜を成膜した。最終的に得たPDLCは、60重量%のBL093((BL093に対して)3重量%のS428を含む)を含有していた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エレクトロルミネッセンス(EL)材料のバックライトの前に装着される、表示情報を規定するマスクを備えたエレクトロルミネッセンス表示装置であって、前記マスクは、放射線硬化性ポリマーマトリックスに封入された液晶ベシクルの層を含み、前記ポリマーマトリックスのポリマー鎖は、放射線に暴露されることにより架橋されているエレクトロルミネッセンス表示装置。
【請求項2】
前記ポリマーマトリックスは、水性の、モノマーを含まない放射線硬化性ウレタンオリゴマー分散体;アクリル機能性ポリウレタン分散体およびアクリルウレタン乳濁液のうちのいずれか1つである、先行する請求項のいずれかに記載のエレクトロルミネッセンス表示装置。
【請求項3】
前記ポリマーマトリックスは、放射線硬化性ポリウレタンを含む、請求項2に記載のエレクトロルミネッセンス表示装置。
【請求項4】
前記ポリマーマトリックスは、UV硬化性脂肪族ポリウレタンを含む、請求項3に記載のエレクトロルミネッセンス表示装置。
【請求項5】
前記ポリマーマトリックスは、UV硬化性ポリマーマトリックスである、先行する請求項のいずれかに記載のエレクトロルミネッセンス表示装置。
【請求項6】
前記ポリマーマトリックスは、PVAを実質的に含まない、先行する請求項のいずれかに記載のエレクトロルミネッセンス表示装置。
【請求項7】
各液ベシクルの殻を形成するのに用いられる構成材料は、多官能性イソシアネートおよびポリ官能性アミンまたはアルコールを含む、先行する請求項のいずれかに記載のエレクトロルミネッセンス表示装置。
【請求項8】
前記殻を形成するのに用いられる構成材料は、ジアミンまたはジオールを含む、請求項7に記載のエレクトロルミネッセンス表示装置。
【請求項9】
前記PDLC材料の液晶は、ネマチック材料である、先行する請求項のいずれかに記載のエレクトロルミネッセンス表示装置。
【請求項10】
前記液晶は染料を含有する、先行する請求項のいずれかに記載のエレクトロルミネッセンス表示装置。
【請求項11】
前記液晶は、前記染料を最大6重量%まで含む、請求項10に記載のエレクトロルミネッセンス表示装置。
【請求項12】
前記マスクおよび前記ELバックライトは、一体として構成される、先行する請求項のいずれかに記載のエレクトロルミネッセンス表示装置。
【請求項13】
先行する請求項のいずれかに記載のエレクトロルミネッセンス表示装置であって、
前記バックライトは、前面から背面に向かって、
基板として知られる電気絶縁性透明前面層;
前記バックライトの一方の電極(前面電極)を形成する第1の導電性膜;
エレクトロルミネッセンス(EL)蛍光体材料;
比較的高い誘電率(比誘電率)を有する材料からなる電気絶縁層;および
前記電気絶縁層の裏面に配置された、前記バックライトの第2の電極(背面電極)を形成する導電性膜を含む、エレクトロルミネッセンス表示装置。
【請求項14】
使用時に前記電極が前記EL材料層およびマスクの両方にわたって電界を発生するように、前記マスクは前記EL材料層と前面電極との間に配置されている、請求項13に記載のエレクトロルミネッセンス表示装置。
【請求項15】
前記マスクは前記EL材料層の上に直接装着される、請求項14に記載のエレクトロルミネッセンス表示装置。
【請求項16】
絶縁性ポリマーを含む中間層を、前記マスクとELバックライトとの間に備えた、請求項15に記載のエレクトロルミネッセンス表示装置。
【請求項17】
実質的に、上記で添付図面を参照して説明したようなエレクトロルミネッセンス表示装置。
【請求項18】
放射線硬化性ポリマーマトリックスに封入された液晶ベシクルの層で基板を被覆し、前記ポリマーマトリックスを放射線に暴露して前記ポリマーマトリックスのポリマー鎖を架橋させることにより、エレクトロルミネッセンス表示装置の前に、表示情報を規定するマスクを形成する工程;および
前記マスクの後ろにエレクトロルミネッセンス層を形成する工程を含む、表示装置製造方法。
【請求項19】
前記ポリマーマトリックスは、水性の、モノマーを含まない放射線硬化性ウレタンオリゴマー分散体;アクリル機能性ポリウレタン分散体およびアクリルウレタン乳濁液のうちのいずれか1つである、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記ポリマーマトリックスは、放射線硬化性ポリウレタンを含む、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
前記液晶ベシクルを、水性媒体に溶解するものと前記液晶に溶解するものとの2つの構成材料を含む水性媒体において形成することを含み、前記液晶と前記水性媒体との界面における前記構成成分の反応により各液晶ベシクルの殻を形成する、請求項18〜20のいずれかに記載の方法。
【請求項22】
前記構成材料は、多官能性イソシアネートおよびポリ官能性アミンまたはアルコールである、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記構成成分間の反応は、第三級アミンにより触媒作用を受ける、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
PVA溶液との反応中に前記水性媒体を安定化させることを含む、請求項21〜23のいずれかに記載の方法。
【請求項25】
反応段階後、前記反応により形成された乳濁液から前記PVA溶液を除去する、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記PVA溶液は、遠心分離機を用いて前記乳濁液と前記PVA溶液に分離して除去される、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記PVA溶液は、前記乳濁液を、濃度を下げたPVA溶液で、さらに水で繰り返し洗浄することによりさらに除去される、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
実質的に、添付図面を参照して本明細書中で説明したような表示装置製造方法。
【請求項29】
エレクトロルミネッセンス(EL)材料のバックライトの前に装着される、表示情報を規定するマスクを備えたエレクトロルミネッセンス表示装置であって、前記マスクは、ポリウレタンマトリックス中に分散された液晶材料の層を含む、エレクトロルミネッセンス表示装置。
【請求項30】
ポリウレタンマトリックス中に分散された液晶材料の層で基板を被覆することにより、エレクトロルミネッセンス表示装置の前に、表示情報を規定するマスクを形成する工程;および
前記マスクの後ろにエレクトロルミネッセンス層を形成する工程を含む、表示装置製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2010−514094(P2010−514094A)
【公表日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−540867(P2009−540867)
【出願日】平成19年12月14日(2007.12.14)
【国際出願番号】PCT/GB2007/004805
【国際公開番号】WO2008/075001
【国際公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【出願人】(503183640)ペリコン リミテッド (16)
【Fターム(参考)】