説明

エレベータの主ロープ異常判定装置及びこれを用いたエレベータの制御装置

【課題】地震により生じた主ロープの引っ掛かりや切断をより正確に検出するエレベータの主ロープ異常判定装置を提供する。
【解決手段】エレベータの主ロープの引っ掛かり及び切断による異常を判定する装置であって、かご4又は釣合錘を吊り下げるためにかご又は釣合錘に取り付けられた複数本の主ロープ3全てにそれぞれに設けられ主ロープに掛かる負荷荷重を検出する秤61と、かご内負荷量の変化に従った主ロープの正常時の秤より出力される秤値の変化を理想秤値として記憶した記憶部12と、判定時に、前記記憶部に記憶された理想秤値のうちのかご内負荷量に相当する理想秤値に基づいて設定した規定域に全ての秤からの実測秤値が含まれない時に主ロープの異常を判定する秤値判定部13と、を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、エレベータの主ロープ異常判定装置及びこれを用いて地震時管制運転が可能か否かを判定するエレベータの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地震によるエレベータの閉じ込め等が問題となっており、今後、閉じ込めを防ぐために、地震後の最寄階までの管制運転を行う地震時管制運転が必要になってくる。地震時管制運転で問題になるのが、地震により主ロープが昇降路内の機器に引っ掛かったり、さらには主ロープが切断されてしまった場合があり、このような状態では安全上、走行させないようにする必要がある。
【0003】
ところで従来、エレベータのかご上に取り付けられる秤装置は、全ての主ロープの張力を合わせてかご内の負荷を検出するものであった(例えば特許文献1、2,3参照)。
【0004】
【特許文献1】特開平3−98974号公報
【特許文献2】特公平8−5605号公報
【特許文献3】特開平7−101646号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
秤装置で主ロープの引っ掛かり等を検出しようとすると、例えば5本の主ロープのうち1本が引っ掛かり、その1本の張力が通常に比べて100kgf(約980N)増えた場合、秤装置では、かごから見て100/5=20kgfの負荷が通常と比べて増えたように検出される。このように秤装置では主ロープの本数が増える程、1本当たりの負荷量の減少を精度良く検出することが難しくなる。
【0006】
また、主ロープの1本が切断されその主ロープにかかる負荷が0になった場合、その主ロープに掛かっていた負荷は他の主ロープに掛かることになるが、秤装置では全体の負荷を検出しているので、出力される負荷量としては主ロープの切断前後で変わることはなく、秤装置で主ロープの切断を検出することは不可能であった。
【0007】
そこでこの発明は、地震により生じた主ロープの引っ掛かりや切断をより正確に検出し、これらが検出されなければ、最寄階までかごを運転する管制運転を行うようにした、エレベータの主ロープ異常判定装置及びこれを用いたエレベータの制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的に鑑み、この発明は、エレベータの主ロープの引っ掛かり及び切断による異常を判定する装置であって、かご又は釣合錘を吊り下げるためにかご又は釣合錘に取り付けられた複数本の主ロープ全てにそれぞれに設けられ主ロープに掛かる負荷荷重を検出する秤と、かご内負荷量の変化に従った主ロープの正常時の秤より出力される秤値の変化を理想秤値として記憶した記憶部と、判定時に、前記記憶部に記憶された理想秤値のうちのかご内負荷量に相当する理想秤値に基づいて設定した規定域に全ての秤からの実測秤値が含まれない時に主ロープの異常を判定する秤値判定部と、を備えたことを特徴とするエレベータの主ロープ異常判定装置にある。
【0009】
また、前記エレベータの主ロープ異常判定装置と、地震発生時に地震終了までかごを停止状態に待機させ、その後、前記主ロープ異常判定装置により主ロープの異常が判定されない時にかごを最寄階まで低速で移動させてドアを開ける地震時管制運転を行う主制御部と、を備えたことを特徴とするエレベータの制御装置にある。
【発明の効果】
【0010】
この発明では、地震により生じた主ロープの引っ掛かりや切断をより正確に検出し、これらが検出されなければ、地震後に最寄階までかごを運転する管制運転を行うようにしたので、より安全な地震時管制運転を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
この発明では、かご側及び釣合錘側の少なくとも一方の主ロープの端に、各主ロープに対してそれぞれに1つの荷重計測用の秤を取り付け、個々の主ロープに掛かる負荷量を個別に検出し、地震により生じた主ロープの昇降路内機器への引っ掛かりや主ロープの切断を正確に検出する。さらに、昇降路内の基準昇降位置における通常時の無負荷から最大負荷までの各かご内負荷量での秤からの出力を理想秤値として各秤について予め記憶しておく。そして運転制御時の秤装置からの実測秤値に対し、かごの昇降位置に従って変化する主ロープのアンバランス重量の補正を上記昇降路内の基準昇降位置を基準として行った補正済実測秤値を、上記理想秤値と比較して主ロープの引っ掛かりや切断を判定することで、誤検出を防止する。そして主ロープの引っ掛かりや切断がない場合には、地震によりエレベータが停止した後でも、最寄階まで走行し、利用者の閉じ込めを防止する。以下この発明を実施の形態に従って説明する。
【0012】
図1はこの発明の一実施の形態によるエレベータの主ロープ異常判定装置を含むエレベータの制御装置の構成を示す図である。図1において、モータ1によって駆動される巻上機2には主ロープ3(実際には後述のように複数本)が巻掛けられている。主ロープ3の一方の端にはエレベータのかご4、他方の端には釣合錘5が取り付けられている。かご4の上部には、かご側において主ロープ3に掛かる負荷を検出するかご側の秤装置6が設けられ、釣合錘5の上部にも、釣合錘側において主ロープ3に掛かる負荷を検出する釣合錘側の秤装置7が設けられている。電力変換機8はモータ1に接続され、モータ1を駆動するための電力を供給する。
【0013】
また主としてコンピュータで構成される制御盤10において、主制御部11は、乗場やかごでの呼び登録、かごの速度センサやかご位置検出器(共に図示省略)等のエレベータ運転制御用の種々の検出器からの信号に従って、エレベータのかご4の運転の全体的な制御を行う。記憶部12には、主制御部11での各種制御に必要な情報、データが記憶されている。そしてこの発明ではさらに、かご内負荷量をNL(無負荷)からFL(最大負荷)まで変化させた時の秤装置の各秤(図2の61参照)より出力される秤値の変化を記憶部12に理想秤値として予め記憶させている。秤値判定部13は、かご側又は釣合錘側の秤装置6,7から出力される実測秤値に、後述する主ロープ3のアンバランス重量の補正(図3参照)を行って補正済実測秤値を求める。そして補正済実測秤値を記憶部12に記憶させておいたその時のかご内負荷量に対する上記理想秤値と比較して、主ロープ3の引っ掛かりや切断等の状態を判定する。
【0014】
図1では、制御盤10へのエレベータ運転制御用の検出器等からの信号として、この発明に特に係わる地震検出器(図示省略)からの地震検出信号EDと、かご位置検出器(図示省略)からのかご位置信号CPを例示した。
【0015】
図2は図1のかご4側の秤装置6の部分をより詳細に示した図で、図1と同一もしくは相当部分は同一符号で示す。利用者が搭乗するかごブロック40を含むエレベータの昇降体であるかご4は、上部に一対の上梁4aを有し、複数本の主ロープ3(図2では3本示されている)により吊下げ支持されている。各主ロープ3には、圧縮弾性体としての圧縮コイルバネ62、主ロープ3の端に取り付けられ圧縮コイルバネ62を支持する支持板63、上梁4aと支持板63の間に取り付けられ、圧縮コイルバネ62の伸び縮みの大きさに従った信号を出力する秤61が設けられている。A/D変換部9は、各秤61からのアナログ信号をデジタル信号に変換して制御盤10に送る。
【0016】
釣合錘5側の秤装置7の場合も、各主ロープ3に対して図2に示す秤61、圧縮コイルバネ62、支持板63からなる構成と同等の構成を設けて、秤61の出力をA/D変換部9に入力する。
【0017】
記憶部12には、主制御部11での各種制御に必要な情報、データと共に、かご内負荷量をNL(無負荷)からFL(最大負荷)まで変化させた時の、主ロープ3正常時の秤装置6,7の各秤61より出力される秤値の変化を理想秤値として予め数式やテーブルとして記憶させておく。これは例えば秤値判定部13による書き込み動作により行う。秤値判定部13は地震でかごが停止した後に、かご側又は釣合錘側の各秤から出力される実測秤値に、後述する主ロープ3のアンバランス重量の補正(図3参照)を行って補正済実測秤値を求める。そして補正済実測秤値を記憶部12に記憶させておいたその時のかご内負荷量に対する理想秤値と比較して、主ロープ3の引っ掛かりや切断等の状態を判定する。
【0018】
図3には、かご4の昇降路内の位置(昇降位置)と各位置でのかご4に掛かる主ロープ3のアンバランス重量の関係(主ロープアンバランス重量−昇降位置特性)を示す。かご4に掛かる主ロープ3のアンバランス重量は、図3に示すように、昇降位置の高い位置から低い位置に向かって昇降位置の変化にほぼ比例して増加する関係にある。主ロープのアンバランス重量の影響を受けることなく主ロープの引っ掛かりや切断を正確に検出するには、秤装置の各秤からの実測秤値に主ロープのアンバランス重量を加減算して、昇降路内の所定の基準昇降位置での秤値に換算する必要がある。
【0019】
そこでこの実施の形態では、図3に示すように昇降路内の昇降方向の中心位置を所定の基準昇降位置RPとした。すなわち、かご4が基準昇降位置RPより低い位置にあれば図3のグラフに従った量のアンバランス重量を実測秤値から減算し、高い位置にあれば加算する。これを基準昇降位置RPを基準に補正した補正済実測秤値とする。従って上記主ロープアンバランス重量−昇降位置特性も数式やテーブルとして記憶部12に記憶させておく。また記憶部12に記憶させておく理想秤値は、上記基準昇降位置RPでの秤値を記憶させておく必要がある。なお、理想秤値及び主ロープアンバランス重量−昇降位置特性は、例えば地震時管制運転用記憶部(図示せず)を別途設け、これに格納するようにしてもよい。
【0020】
図4には、制御盤10で行われる地震時管制運転の動作フローチャートを示し、以下これに従って動作を説明する。なお図4のフローチャートは、かご4が停止してドアが開き、利用者の乗り降りがあり、その後ドアが閉じる度にリセットされて行われる。
【0021】
まず秤値判定部13は、走行開始時のかご内負荷量を、例えば秤装置6(又は7)の秤61の秤値から得て一次記憶する(ステップS1)。その後、主制御部11はエレベータのかご4を走行させる(ステップS2)。そして主制御部11は、例えば地震検出器からの地震検出信号EDにより地震発生を検出すると(ステップS3)、地震検出信号EDに従って地震終了までエレベータのかご4を停止状態で待機させる(ステップS4)。
【0022】
秤値判定部13(ステップS1、S5〜S9)は、地震停止後、各主ロープ3の揺れが収まる所定時間経過(地震終了)した後(ステップS5)、秤装置6又は7の各秤61からの秤値をA/D変換部9を介して実測秤値として入力する(ステップS6)。そして入力した実測秤値に、記憶部12に記憶されているこのエレベータでの主ロープアンバランス重量−昇降位置特性と、かご位置検出器からのかご位置信号CPに従って、現在のかご位置より主ロープのアンバランス重量の補正をかけた補正済実測秤値を得る(ステップS7)。
【0023】
また別途、地震発生後、記憶部12に予め記憶した理想秤値に基づき、各秤61について、ステップS1で記憶したかご内負荷量での理想秤値を算出し、算出した理想秤値に基づいてそれぞれに、主ロープ3に引っ掛かりや切断が生じている可能性があるか否かの判定基準となる規定域を設定する(ステップS8)。規定域は、理想秤値を中心値とした所定の領域であればよく、例えば理想秤値±αkgf又は理想秤値±(理想秤値×β%)として設定する。
【0024】
そしてステップS7で得られた補正済実測秤値がいずれもステップS8でそれぞれに設定された規定域内であれば、主ロープに引っ掛かりや切断が生じていないと判定し、主制御部11に主ロープ正常を示す信号を送り、規定域を外れていれば、主ロープに引っ掛かりや切断が生じていると判定し、主制御部11に主ロープ異常を示す信号を送る(ステップS9)。
【0025】
主制御部11は、主ロープ正常を示す信号を受けた場合には、かご4を最寄階まで低速で走行させてドアを開けて利用者をかご4より降車させる管制運転を行う(ステップ10)。また主ロープ異常を示す信号を受けた場合には、主ロープ3に引っ掛かりや切断の可能性があるので、かご4を走行させず、かご内にアナウンス又は表示等で状況説明を行い、保守員が到着するまで停止状態を継続する(ステップ11)。
【0026】
図5には、ある1本の主ロープ3に異常があった場合の補正済実測秤値の時間的変化を示す。(a)は主ロープの引っ掛かり発生時、(b)は主ロープの切断発生時を示す。走行時に地震が発生すると、ある一定の待機時間後にそれぞれ、秤から出力される実測秤値の補正済実測秤値を規定域(理想秤値に基づく)と比較することで、主ロープ3の引っ掛かりや切断を判定することができる。
【0027】
この発明により、地震発生時における主ロープに引っ掛かりや切断の可能性をより正確に判定できるため、主ロープが正常であれば地震時管制運転を行って利用者を最寄階で降車させることができ、閉じ込めを減らすことができる。
【0028】
なお、上記実施の形態では、理想秤値として、各秤について、主ロープが正常な時にかご内負荷量をNL(無負荷)からFL(最大負荷)まで変化させた時の、かごが所定の基準昇降位置にある時の秤から出力される秤値の変化を記憶させているが、かご内負荷量の変化に伴う秤から出力される秤値の変化を代表値として1系統のみ理想秤値として記憶し、各秤の共通の理想秤値としても、相当の正確さで主ロープの異常を判定することができる。
【0029】
また、実測秤値に対して図3に示す主ロープアンバランス重量−昇降位置特性による補正を行わなくても、相当の正確さで主ロープの異常を判定することができる。この場合には、理想秤値は所定の基準昇降位置での秤値である必要はなく、任意の昇降位置での秤値が使用可能となる。
【0030】
さらに、秤値判定部13、理想秤値及び主ロープアンバランス重量−昇降位置特性を格納した記憶部12、各主ロープ3にそれぞれに設けられた秤61、A/D変換部9及び外部からの信号からなる、主ロープの引っ掛かりや切断を判定する構成により、エレベータの主ロープ異常判定装置として単独で使用することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】この発明の一実施の形態によるエレベータの主ロープ異常判定装置を含むエレベータの制御装置の構成を示す図である。
【図2】図1のかご側の秤装置の部分をより詳細に示した図である。
【図3】この発明におけるかごの昇降位置と各位置でのかごに掛かる主ロープのアンバランス重量の関係(主ロープアンバランス重量−昇降位置特性)を示す図である。
【図4】この発明における制御盤で行われる地震時管制運転の動作フローチャートである。
【図5】この発明におけるある1本の主ロープに異常があった場合の補正済実測秤値の時間的変化を示す図である。
【符号の説明】
【0032】
1 モータ、2 巻上機、3 主ロープ、4 かご、4a 上梁、5 釣合錘、6,7 秤装置、8 電力変換機、9 A/D変換部、10 制御盤、11 主制御部、12 記憶部、13 秤値判定部、61 秤、62 圧縮コイルバネ、63 支持板、CP かご位置信号、ED 地震検出信号。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エレベータの主ロープの引っ掛かり及び切断による異常を判定する装置であって、
かご又は釣合錘を吊り下げるためにかご又は釣合錘に取り付けられた複数本の主ロープ全てにそれぞれに設けられ主ロープに掛かる負荷荷重を検出する秤と、
かご内負荷量の変化に従った主ロープの正常時の秤より出力される秤値の変化を理想秤値として記憶した記憶部と、
判定時に、前記記憶部に記憶された理想秤値のうちのかご内負荷量に相当する理想秤値に基づいて設定した規定域に全ての秤からの実測秤値が含まれない時に主ロープの異常を判定する秤値判定部と、
を備えたことを特徴とするエレベータの主ロープ異常判定装置。
【請求項2】
前記記憶部に各秤毎に別々の理想秤値が記憶され、前記秤値判定部で各秤毎にそれぞれの理想秤値に基づいて規定域を設定して判定を行うことを特徴とする請求項1に記載のエレベータの主ロープ異常判定装置。
【請求項3】
前記記憶部に記憶された理想秤値が、かごが昇降路内の所定の基準昇降位置にある時の理想秤値であると共に、前記記憶部がさらに、秤からの実測秤値に対しかごの昇降位置に従って変化する主ロープのアンバランス重量の補正を前記昇降路内の所定の基準昇降位置を基準として行うための判定対象のエレベータの主ロープアンバランス重量−昇降位置特性をさらに記憶し、
前記秤値判定部が、前記記憶部に記憶されている主ロープアンバランス重量−昇降位置特性とかご位置信号に従って、かご位置に従った主ロープのアンバランス重量の補正をかけた補正済実測秤値を求め、前記所定基準昇降位置における理想秤値に基づいて設定した規定域と補正済実測秤値を比較して主ロープの異常を判定することを特徴とする請求項1又は2に記載のエレベータの主ロープ異常判定装置。
【請求項4】
前記請求項1から3までのいずれか1項記載のエレベータの主ロープ異常判定装置と、
地震発生時に地震終了までかごを停止状態に待機させ、その後、前記主ロープ異常判定装置により主ロープの異常が判定されない時にかごを最寄階まで低速で移動させてドアを開ける地震時管制運転を行う主制御部と、
を備えたことを特徴とするエレベータの制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−67496(P2009−67496A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−235223(P2007−235223)
【出願日】平成19年9月11日(2007.9.11)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【出願人】(000236056)三菱電機ビルテクノサービス株式会社 (1,792)
【Fターム(参考)】