説明

エレベータの制御装置

【課題】荷重検出器によるかご内荷重検出値にずれが生じていると想定された場合に限ってかご内荷重検出値のずれの調整を行うエレベータの制御装置の提供。
【解決手段】本発明は、かご1の停止時間が所定時間以上となったときに、荷重検出器4のかご内荷重7の検出値が異常と見做される所定値以上かどうか判定し、所定値以上と判定されたときにかご内荷重7の検出値の零点異常を確定する荷重検出値零点異常判定部16と、この荷重検出値零点異常判定部16によって零点異常が確定されたときに、当該エレベータに走行指令を発するトルク診断運転指令部17と、このトルク診断運転指令部17の走行指令による走行時にかご内荷重逆算部14により逆算したかご内荷重7が無荷重と見做される所定値(負荷率1%)以内の場合に、荷重検出器4によって検出されるかご内荷重7の検出値を零点補正する荷重補正値分析部15とを備えた構成にしてある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレベータに備えられる荷重検出器によって検出されるかご内荷重検出値のずれを調整することができるエレベータ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エレベータのかごの乗り心地が悪いと利用客に不快感や不安感を与えることがある。したがって、利用客に対して乗り心地良く運行させることはエレベータの大切な要件である。特に、エレベータの走行時の起動端においては飛び出し走行や反転走行が発生しないように、起動時の加速度を0から所定の加速度まで滑らかに増加させるようにエレベータの制御を行なう必要がある。このエレベータの起動時の制御は、かご内の積載量すなわちかご内荷重を含めたかご全体の重量とカウンタウエート(釣り合い錘)の重量のアンバランスから生じる飛び出し走行や反転走行を防ぐものであり、通常のエレベータは起動時に、かご下に設置される荷重検出器によりかご内荷重を検出し、そのかご内荷重検出値に応じて当該エレベータのモータのトルク補償を行っている。しかし、このかご内荷重を検出する荷重検出器のセット状態も、かご下に設けられる防振ゴムのたわみ等によって変化していくので、経年的な起動時の飛び出しや反転走行を生じる虞がある。
【0003】
このようなことから、特許文献1に、エレベータのかごの走行時のモータトルク値からかご内荷重を逆算し、この逆算した値を荷重検出器で検出したかご内荷重検出値と比較して、その差が所定値以上となった場合に、荷重検出器のかご内荷重検出値のずれの調整を点検員に促したり、あるいは自動で調整するエレベータ制御装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−69557号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述のように、特許文献1に開示される従来技術は、エレベータのかごの走行時のモータトルク値からかご内荷重を逆算し、荷重検出器で検出されたかご内荷重検出値と比較して、その差が所定値以上であるときに、荷重検出器のかご内荷重検出値のずれの調整を行うものであるが、これらの一連の調整を行うトリガーが明確でない。したがって、かご内荷重検出値のずれの調整を行う回数が多くなり、煩雑な調整作業となってしまうことが考えられる。
【0006】
また、この従来技術は、モータトルク値から逆算した値を基準値としてかご内荷重検出値のずれの調整を行うようにしてあることから、かごの走行時の異物の挟まりや、機構的な要因等、なんらかの原因によってモータトルク値が1度でも変動した場合には、荷重検出器のかご内荷重検出値が正しいときでも異常と見做されて、かご内荷重検出値のずれの調整が行われてしまう懸念があった。
【0007】
本発明は、上述した従来技術における実状からなされたもので、その目的は、荷重検出器によるかご内荷重検出値にずれが生じていると想定された場合に限って、かご内荷重検出値のずれの調整を行うようにしたエレベータの制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、本発明に係るエレベータの制御装置は、速度基準値と速度フィードバック値とを入力し、それらの偏差に見合う速度制御指令値を出力する速度制御部と、かご内荷重を検出する荷重検出器と、前記荷重検出器によって検出されるかご内荷重検出値とカウンタウエートの荷重との不平衡荷重に対する適正なモータトルク補償量を記憶する適正荷重補正値記憶部と、前記適正荷重補正値記憶部のデータを参照して、実際のかご内荷重と前記カウンタウエートの荷重との不平衡荷重に見合うモータトルク補償量を見出す荷重補正値演算部と、前記荷重補正値演算部が見出したモータトルク補償量を前記速度制御部の速度指令値に加算し、その加算結果に対応するモータトルク指令値を当該エレベータのモータに出力するトルク発生部と、当該エレベータの据え付け調整時のモータトルク指令値の大きさとかご内荷重との関係を記憶するトルク記憶部と、前記トルク発生部のモータトルク指令値を入力し、前記トルク記憶部に記憶されるデータからそのときのかご内荷重を逆算するかご内荷重逆算部とを備えたエレベータ制御装置において、かごの停止時間がかご内に乗客が存在しなくなったと見做される所定時間以上となったときに、前記荷重検出器によって検出されるかご内荷重検出値が異常と見做される所定値以上かどうか判定し、所定値以上と判定されたときにかご内荷重検出値の零点異常を確定する荷重検出値零点異常判定部と、前記荷重検出値零点異常判定部によって零点異常が確定されたときに、当該エレベータに走行指令を発するトルク診断運転指令部と、前記トルク診断運転指令部の走行指令による走行時に前記かご内荷重逆算部により逆算したかご内荷重が無荷重と見做される所定値以内の場合に、前記荷重検出器によって検出されるかご内荷重検出値を零点補正する荷重補正値分析部とを備えたことを特徴としている。
【0009】
このように構成した本発明は、かごの停止時間が所定時間以上となって、かご内に乗客が存在しなくなったと見做されるときに至って、荷重検出値零点異常判定部により荷重検出器によって検出されるかご内荷重検出値が異常と見做される所定値以上かどうかの判定が開始され、所定値以上と判定されたときにかご内荷重検出値の零点異常が確定される。このように荷重検出値零点異常判定部によって零点異常が確定されたときに、トルク診断運転指令部によって当該エレベータに走行指令が発せられる。このトルク診断運転指令部の走行指令による走行時に、荷重補正値分析部により、かご内荷重逆算部により逆算したかご内荷重が無荷重と見做される所定値以内かどうか判断され、所定値以内と判断された場合に、かご内荷重検出値にずれを生じていると判断され、このかご内荷重検出値の零点補正、すなわちずれの調整が実行される。
【0010】
すなわち、本発明は、かごの停止時間がかご内に乗客が存在しなくなったと見做される所定時間以上となったときに、荷重検出器のかご内荷重検出値のずれの調整の必要の有無が判断され、必要に応じてかごを走行させ、この走行時にかご内荷重が無荷重と見做される所定値以内のときに、かご内荷重検出値のずれの調整が実行されるので、このかご内荷重検出値のずれの調整回数を少なく抑えることができる。また、本発明は、荷重検出値零点異常判定部によるかご内荷重検出値の零点異常の確定は、かごが停止しているときに行われるので、かごの走行に伴う誤差要因による影響を受けずに、かご内荷重検出値のずれの調整を行うことができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、かごの停止時間がかご内に乗客が存在しなくなったと見做される所定時間以上となったときに、荷重検出器によって検出されるかご内荷重検出値が異常と見做される所定値以上かどうか判定し、所定値以上と判定されたときにかご内荷重検出値の零点異常を確定する荷重検出値零点異常判定部と、この荷重検出値零点異常判定部によって零点異常が確定されたときに、当該エレベータに走行指令を発するトルク診断運転指令部と、このトルク診断運転指令部の走行指令による走行時にかご内荷重逆算部により逆算したかご内荷重が無荷重と見做される所定値以内の場合に、荷重検出器によって検出されるかご内荷重検出値を零点補正する荷重補正値分析部とを備えた構成にしてある。この構成に伴って本発明は、荷重検出器によるかご内荷重検出値に異常、すなわちずれが生じていると想定された場合に限って、かご内荷重検出値のずれの調整を行うので、かご内荷重検出値のずれの調整回数を従来よりも少なくすることができる。これにより、従来に比べてかご内荷重検出値のずれの調整作業を簡単にすることができる。また本発明は、かごの走行に伴う誤差要因による影響を受けずに、かご内荷重検出値のずれの調整を行うことができ、従来よりも精度の高いかご内荷重検出値のずれの調整を実現させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明のエレベータ制御装置の一実施形態の構成を示すブロック図である。
【図2】本実施形態で実施される制御処理の要部を示すフローチャートである。
【図3】本実施形態に備えられる荷重検出器の出力特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係るエレベータの制御装置の実施の形態を図に基づいて説明する。
【0014】
図1は本発明のエレベータ制御装置の一実施形態の構成を示すブロック図である。
【0015】
この図1において、1はエレベータのかご、2はかご1に一端が接続され、かご1を走行させるワイヤロープ、3はワイヤロープ2の他端に接続される釣り合い錘、すなわちカウンタウエートである。
【0016】
また、同図1に示すように、本実施形態に係るエレベータ制御装置は、速度基準発生部8と、この速度基準発生部8から出力される速度基準値と、モータ6の回転数検出器9から出力される速度フィードバック値とを入力し、それらの偏差に見合う速度制御指令値を出力する速度制御部10と、かご内荷重7を検出する荷重検出器4とを備えている。
【0017】
また本実施形態は、荷重検出器4によって検出されるかご内荷重7の検出値とカウンタウエート3の荷重との不平衡荷重に対する適正なモータトルク補償量を記憶する適正荷重補正値記憶部11と、適正荷重補正値記憶部11のデータを参照して、実際のかご内荷重7とカウンタウエート3の荷重との不平衡荷重に見合うモータトルク補償量を見出す荷重補正値演算部12と、荷重補正値演算部12が見出したモータトルク補償量を速度制御部10の速度指令値に加算し、その加算結果に対応するモータトルク指令値を当該エレベータのモータ6に出力するトルク発生部5とを備えている。
【0018】
また本実施形態は、当該エレベータの据え付け調整時のモータトルク指令値の大きさとかご内荷重との関係を記憶するトルク記憶部13と、トルク発生部5のモータトルク指令値を入力し、トルク記憶部13に記憶されるデータからそのときのかご内荷重7を逆算するかご内荷重逆算部14とを備えている。
【0019】
さらに本実施形態は、かご1の停止時間が、かご1内に乗客が存在しなくなったと見做される所定時間(例えば3分)以上となったときに、荷重検出器4によって検出されるかご内荷重7の検出値が異常と見做される所定値(例えば負荷率5%)以上かどうか判定し、所定値以上と判定されたときにかご内荷重7の検出値の零点異常の確定、すなわちかご内荷重7の検出値のずれの調整の可能性が高いことを確定する荷重検出値零点異常判定部16と、この荷重検出値零点異常判定部16によって零点異常が確定されたときに、当該エレベータに走行指令を発するトルク診断運転指令部17と、このトルク診断運転指令部17の走行指令による走行時にかご内荷重逆算部14により逆算したかご内荷重7が無荷重と見做される所定値(例えば負荷率1%)以内の場合に、荷重検出器4によって検出されるかご内荷重7の検出値を零点補正するために、例えば荷重補正値演算部12の荷重補正値を再調整する荷重補正値分析部15とを備えている。
【0020】
なお、モータトルク指令値からかご内荷重7を逆算する方式は、既に公知であるため、ここでは説明を省略する。
【0021】
以下、本実施形態の制御処理の要部について、図2に基づいて説明する。
【0022】
この図2のステップS1において、エレベータのかご1が目的階に停止した後に所定時間(前述の3分)が経過した場合は、かご1内には乗客が存在しないと見做され、ステップ2に進む。
【0023】
ステップS2では、このときの荷重検出器4によるかご内荷重7が所定値(前述の負荷率5%)以上であるかどうか荷重検出値零点異常判定部16で判定され、所定値以上と判定されたときに、かご内荷重7の検出値の零点に異常を生じていることが確定される。なお、かご1が目的階に停止しているときの荷重検出器4で検出されるかご内荷重7の検出値は、理想的な正常状態では例えば負荷率0%となるが、ここでは負荷率5%未満までは正常状態と見做すものとする。
【0024】
そして、荷重検出値零点異常判定部16にて零点異常が確定したとき、トルク診断運転指令部17にて、モータトルク指令値からかご内荷重7を逆算させるために、エレベータに走行指令が発せられ、ステップS3でエレベータのかご1を走行させることが行われ、ステップS4に進む。
【0025】
ステップS4では、かご内荷重逆算部14において、モータトルク指令値からかご内荷重7が逆算され、荷重補正値分析部15において、逆算されたかご内荷重7が所定値(負荷率1%)以内であるかどうか判定される。この判定で所定値以内と判定されたときには、荷重検出器4のかご内荷重7の検出値にずれが生じていることになり、ステップS5に進む。
【0026】
ステップS5では、荷重補正値演算部12にて、かご内荷重7の検出値の零点補正が実施される。なお、このときの零点補正は、モータトルク補正値から逆算したかご内荷重7を補正してもよいが、例えばここでは単純にかご内荷重7を負荷率0%とする補正を行うものとする。
【0027】
以上のように、本実施形態は、図3の荷重検出器4の出力特性に示すように、エレベータの据え付け時のかご内荷重7の検出値101Aが、防振ゴムのたわみ等により変化し、経年変化後のかご内7の検出値101Bとなり、正確な荷重検出ができなくなってしまった場合でも、前述のようにして行うかご内荷重7の検出値の零点補正により、据え付け時のかご内荷重7の検出値101Aに調整することができ、正確なかご内荷重7を検出することが可能となる。
【0028】
なお、前述したステップS4において、モータトルク指令値から逆算したかご内荷重7の検出値が、所定値(前述の負荷率1%)を超えている場合には、かご1内に置き忘れた荷物等の残留物が存在していることになり、かご内荷重7の検出値の零点補正は実施されない。
【0029】
このように構成した本実施形態によれば、かご1の停止時間が所定時間以上となって、荷重検出値零点異常判定部16により荷重検出器4によって検出されるかご内荷重7の検出値が異常と見做される所定値以上かどうかの判定が開始され、所定値以上と判定されたときにかご内荷重7の検出値の零点異常が確定される。このように荷重検出値零点異常判定部16によって零点異常が確定されたときに、トルク診断運転指令部17によって当該エレベータに走行指令が発せられる。このトルク診断運転指令部17の走行指令による走行時に、荷重補正値分析部15により、かご内荷重逆算部14により逆算したかご内荷重7が無荷重と見做される所定値以内かどうか判断され、所定値以内と判断された場合にかご内荷重7の検出値にずれを生じていると判断され、このかご内荷重7の検出値の零点補正が実行される。
【0030】
すなわち、本実施形態は、かご1の停止時間がかご1内に乗客が存在しなくなったと見做される所定時間以上となったときに、荷重検出器4のかご内荷重7の検出値のずれの調整の必要の有無が判断され、必要に応じてかご1を走行させ、この走行時にかご内荷重7が無荷重と見做される所定値以内のときに、かご内荷重7の検出値のずれの調整が実行されるので、このかご内荷重7の検出値のずれの調整回数を少なく抑えることができる。これにより本実施形態は、かご内荷重7の検出値のずれの調整作業が簡単になる。また、本実施形態は、荷重検出値零点異常判定部16によるかご内荷重7の検出値の零点異常の確定は、かごが停止しているときに行われるので、かご1の走行に伴う誤差要因による影響を受けずに、かご内荷重7の検出値のずれの調整を行うことができる。これにより本実施形態は、精度の高いかご内荷重7の検出値のずれの調整を実現させることができる。
【符号の説明】
【0031】
1 かご
2 ワイヤロープ
3 釣り合い錘
4 荷重検出器
5 トルク発生部
6 モータ
7 かご内荷重
8 速度基準発生部
9 回転数検出器
10 速度制御部
11 適正荷重補正値記憶部
12 荷重補正値演算部
13 トルク記憶部
14 かご内荷重逆算部
15 荷重補正値分析部
16 荷重検出値零点異常判定部
17 トルク診断運転指令部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
速度基準値と速度フィードバック値とを入力し、それらの偏差に見合う速度制御指令値を出力する速度制御部と、かご内荷重を検出する荷重検出器と、前記荷重検出器によって検出されるかご内荷重検出値とカウンタウエートの荷重との不平衡荷重に対する適正なモータトルク補償量を記憶する適正荷重補正値記憶部と、前記適正荷重補正値記憶部のデータを参照して、実際のかご内荷重と前記カウンタウエートの荷重との不平衡荷重に見合うモータトルク補償量を見出す荷重補正値演算部と、前記荷重補正値演算部が見出したモータトルク補償量を前記速度制御部の速度指令値に加算し、その加算結果に対応するモータトルク指令値を当該エレベータのモータに出力するトルク発生部と、当該エレベータの据え付け調整時のモータトルク指令値の大きさとかご内荷重との関係を記憶するトルク記憶部と、前記トルク発生部のモータトルク指令値を入力し、前記トルク記憶部に記憶されるデータからそのときのかご内荷重を逆算するかご内荷重逆算部とを備えたエレベータ制御装置において、
かごの停止時間がかご内に乗客が存在しなくなったと見做される所定時間以上となったときに、前記荷重検出器によって検出されるかご内荷重検出値が異常と見做される所定値以上かどうか判定し、所定値以上と判定されたときにかご内荷重検出値の零点異常を確定する荷重検出値零点異常判定部と、前記荷重検出値零点異常判定部によって零点異常が確定されたときに、当該エレベータに走行指令を発するトルク診断運転指令部と、前記トルク診断運転指令部の走行指令による走行時に前記かご内荷重逆算部により逆算したかご内荷重が無荷重と見做される所定値以内の場合に、前記荷重検出器によって検出されるかご内荷重検出値を零点補正する荷重補正値分析部とを備えたことを特徴とするエレベータの制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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