説明

エレベータの地震管制システム

【課題】地震発生時に各エレベータ装置2に対して速やかに地震対策を実施させる。
【解決手段】各エレベータ装置2は自己の地震感知器10で検知した振動データが規定以上の場合、地震管制運転14を実施する。また、この振動データを無条件でネットワーク1を介して監視センター3へ送信する。監視センターは各エレベータ装置からの振動データを用いて地震予測を行い、各エレベータ装置2に対して、地震に備えた地震管制運転14の指示を出す。そして、地震管制運転の指示を受けたエレベータ装置は、自己が、まだ地震管制運転を開始していない場合に、地震管制運転を実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地震発生時に各エレベータ装置に対して速やかに地震対策を実施させるエレベータの地震管制システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年になって新築される大規模なビルに設置されたエレベータ装置や、中規模な建屋に設置されたエレベータ装置であっても不特定多数の人が利用するエレベータ装置においては、エレベータのかごが上下移動する昇降路の上側に設けられた機械室内に地震の主揺動(S波)を検知するS波地震感知器を設けている。そして、このS波地震感知器が例えば、200Gal以上の振動レベルを検出すると、エレベータを停止する等の対策を講じていた。
【0003】
しかし、地震においては、主揺動(S波)の前に初期微動(P波)が到来するので、エレベータの昇降路のピット内に地震の初期微動(P波)を検知するP波地震感知器を設けて、このP波地震感知器が例えば、100Gal等の所定レベル以上の振動レベルを検出すると、エレベータの運転を、通常運転から地震管制運転に切換える対策を実施するようになってきた。
【0004】
この地震管制運転においては、エレベータのかごが昇降路内で移動中の場合は、かごを最寄階に停車させて、かご内の利用者を最寄階のエレベータホールに待避させる(特許文献1参照)。このように、地震の初期微動(P波)の検出タイミングで地震対策を講じることによって、エレベータの利用者の安全性をより一層向上できる。
【特許文献1】特開2002―46953号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のような従来の技術では、個々のエレベータ装置に設置されているP波地震感知器が検知した振動レベルのみでエレベータに対する地震管制運転を行っているが、地震発生時にエレベータ運転で重要なことは、エレベータのかごを、いかに早く安全に最寄階に停止させて、エレベータの利用者をエレベータホールに安全に降ろすことである。
【0006】
地震波の伝搬速度(数km/s)は電気信号の伝搬速度に比較すれば格段に遅いので、広域大地震が発生した場合、地震震源地に近い地域に設置されているエレベータ装置に組込まれている地震感知器の情報を地震震源地より遠方に設置されているエレベータ装置に伝えることができれば、個々のエレベータ装置に組込まれている地震感知器の検知時刻より早く地震対策を実行できるはずである。
【0007】
また、地震感知器の設置は、現行建築基準法では義務付けられていないため、地震感知器が設置されていないエレベータ装置では、地震管制運転が行えないため地震発生時、機器の破損等により、かご内の利用者の閉じ込め事故を起す可能性があった。
【0008】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、広域範囲内に分散配設されている多数のエレベータ装置をネットワークで接続することにより、発生した地震の広域範囲内における揺れの発生地域と地震規模とを予測でき、各エレベータ装置においては、実際の地震波が到来するまでに、地震発生時の地震管制運転を開始でき、かご内の利用者をいち早く最寄階のエレベータホールへ退避させることができ、利用者に対する安全性をより一層向上できるとともに、エレベータ機器の損傷を大幅に抑制できるエレベータの地震管制システムを提供することを目標とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、ネットワークに対して、地震を検知する地震感知器が組込まれ広域範囲に分散設置された複数のエレベータ装置と、この複数のエレベータ装置を監視する監視センターとを接続したエレベータの地震管制システムに適用される。
【0010】
そして、上記課題を解消するために、各エレベータ装置に対して、自己の地震感知器で検知した振動データをネットワークを介して監視センターへ送信する振動データ送信手段と、検知した振動データの振動レベルが所定レベル以上の場合自己エレベータに対して地震管制運転を実行する地震管制運転実行手段と、監視センターからネットワークを介して地震管制運転の実行指令を受信したとき自己がまだ地震管制運転を開始していないとき、当該地震管制運転を開始する先行実行手段とを備えている。
【0011】
また、監視センターに対して、複数のエレベータ装置からの振動データを受信すると、これらの振動データに基づいて当該地震の広域範囲における発生地域と地震規模とを予測する地震予測手段と、この地震予測結果に基づき所定レベル以上の振動が生じると予測される各エレベータ装置を判定する判定手段と、この判定された各エレベータ装置へネットワークを介して地震管制運転の実行指令を送信する実行指令送信手段とを備えている。
【0012】
このように構成されたエレベータの地震管制システムにおいては、例えば都道府県単位の広域範囲に分散設置された複数のエレベータ装置内に例えばP波を検知する地震感知器が取付けられている。そして、地震が発生すると、地震感知器から振動データが出力されてネットワークを介して監視センターへ送信される。また、地震感知器から出力された振動データが所定レベル以上のとき即座に、エレベータ装置は地震管制運転を実行開始する。また、監視センターは、複数のエレベータ装置からの振動データに基づいて地震予測を行い、各エレベータ装置へ地震管制運転の実行指令を送信する。地震管制運転の実行指令を受信したエレベータ装置は、近くで地震が発生する場合は地震管制運転が既に実行されているので、監視センターから受信した地震管制運転の実行指令は実行されない。
【0013】
一方、遠くで発性した地震の場合は、地震波が当該エレベータ装置に到達するまえに、監視センターから、地震管制運転の実行指令が届くので、実際の地震波が到来するまでに、地震発生時の地震管制運転を開始でき、かご内の利用者をいち早く最寄階のエレベータホールへ退避させることが可能となる。
【0014】
また、別の発明は、上記のエレベータの地震管制システムにおいて、ネットワークに対して、地震感知器が設けられていないエレベータ装置が接続されていた場合、当該エレベータ装置は、監視センターからネットワークを介して地震管制運転の実行指令を受信したとき、自己エレベータに対して地震管制運転を実行開始する地震管制運転実行手段を備えている。このように、たとえ、地震感知器が設けられていないエレベータ装置がこのシステムに組込まれていた場合であって、地震発生時における利用者の安全性を十分確保できる。
【0015】
また、別の発明は、ネットワークに対して、地震を検知する地震感知器が組込まれ広域範囲に分散設置された複数のエレベータ装置を接続したエレベータの地震管制システムにおいて、
各エレベータ装置は、自己の地震感知器で検知した振動データをネットワークを介して他のエレベータ装置へ送信する振動データ送信手段と、検知した振動データの振動レベルが所定レベル以上の場合自己エレベータに対して地震管制運転を実行する地震管制運転実行手段と、他のエレベータ装置から受信した振動データに基づいて当該地震の広域範囲における発生地域と地震規模とを予測する地震予測手段と、この地震予測結果に基づき自己のエレベータ装置に所定レベル以上の振動が生じると予測すると、自己がまだ地震管制運転を開始していないとき、当該地震管制運転を開始する先行実行手段とを備えている。
【0016】
このようなエレベータの地震管制システムにおいては、各エレベータ装置は、地震感知器で検知した振動データをネットワークを介して互いに持ち合うことにより、各エレベータ装置は他のエレベータ装置で検知した振動データを用いて、自己のエレベータ装置に影響を与えるであろう地震を予測できるので、実際の地震波が到来するまでに、地震発生時の地震管制運転を開始できる。
【0017】
また、別の発明は、上記のエレベータの地震管制システムにおいて、ネットワークに対して、地震感知器が設けられていないエレベータ装置が接続されていた場合、地震感知器が設けられているエレベータ装置は、地震予測手段における地震予測結果に基づき所定レベル以上の振動が生じると予測される地震感知器が設けられていないエレベータ装置を判定する判定手段と、この判定された各エレベータ装置へネットワークを介して地震管制運転の実行指令を送信する実行指令送信手段とを備えている。さらに、地震感知器が設けられていないエレベータ装置は、ネットワークを介して地震管制運転の実行指令を受信したとき、自己エレベータに対して地震管制運転を実行する地震管制運転実行手段を備えている。
【0018】
したがって、この場合においても、たとえ、地震感知器が設けられていないエレベータ装置がこの地震管制システムに組込まれていた場合であって、地震発生時における利用者の安全性を十分確保できる。
【0019】
また、別の発明は、ネットワークに対して、地震発生情報を配信する地震情報配信装置と、広域範囲に分散設置された複数のエレベータ装置とを接続したエレベータの地震管制システムにおいて、各エレベータ装置は、地震情報配信装置からネットワークを介して受信した地震発生情報の振動データに基づいて当該地震の広域範囲における発生地域と地震規模とを予測する地震予測手段と、この地震予測結果に基づき自己のエレベータ装置に所定レベル以上の振動が生じると予測すると、地震管制運転を実行開始する地震管制運転実行手段とを備えている。
【0020】
このような構成においては、各エレベータ装置は、自己の地震感知器に代えてネットワークに接続された地震情報配信装置から受信した地震発生情報の振動データに基づいて地震予測を行っているので、上述した作用効果を奏することが可能である。
【0021】
また、別の発明は、上述した各発明における地震予測手段で予測された地震の発生地域と地震規模とを前記ネットワーク上に公開するようにしている。
【発明の効果】
【0022】
本発明においては、発生した地震の広域範囲内における発生地域と地震規模とを予測しているので、各エレベータ装置においては、実際の地震波が到来するまでに、地震発生時の地震管制運転を開始でき、かご内の利用者をいち早く最寄階のエレベータホールへ退避させることができ、利用者に対する安全性をより一層向上できるとともに、エレベータ機器の損傷を大幅に抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の各実施形態を図面を用いて説明する。
【0024】
(第1実施形態)
図1は本発明の第1実施形態に係わるエレベータの地震管制システムの概略構成を示す模式図である。
【0025】
例えば、インターネット等のネットワーク1に対して、例えば都道府県単位の広域範囲に分散して配設されている複数のエレベータ装置2と、この複数のエレベータ装置2を監視する1台の監視センター3が接続されている。
【0026】
ビル等の建屋に設置された各エレベータ装置2内には、建屋の最下階から最上階までを貫通する昇降路4内にエレベータのかご5が主ロープ6の一端に接続され、主ロープ6の他端に釣合錘7が接続されている。そして、この昇降路4の上側の機械室に設置された巻上機8で、主ロープ6を巻き上げることによりかご5を任意の階へ移動させることが可能である。昇降路4のピット9には、地震の初期微動であるP波を検知するP波地震感知器10が設置されており、このP波地震感知器10で検知された振動データはエレベータの全体動作を制御する主制御部11へ入力される。さらに、機械室内には、地震の本揺れを示すS波を検知するS波地震感知器12が設置されており、このS波地震感知器12で検知された振動データも主制御部11へ入力される。
【0027】
機械室内に設けられた図示しない、コンピュータで形成された制御盤内には、前記主制御部11の他に、正常運転時に、各階のエレベータホールに設けられた乗場呼び登録装置や、かご5内に設けられたかご呼び登録装置から入力された乗場呼び、かご呼びの指定する階へかご5を移動させる通常運転部13が設けられている。さらに、地震管制運転部14が設けられている。地震管制運転部14は主制御部11から実行指令が入力すると、エレベータのかご5が移動中の場合は、かご5を最寄階に停車させて、かご5内の利用者を最寄階のエレベータホールに待避させる。そして、ドアを閉じて、保守員による点検待ち状態となる。
【0028】
主制御部11は、地震を含む異常状態が発生していない状態においては、通常運転部13を動作させている。そして、P波地震感知器10から振動データが入力すると、この振動データを振動データ送信部15へ送出する。振動データ送信部15は入力した振動データに、自己の位置及び振動データの検出時刻を付加した状態で伝送フレームに組込んで、通信部16、ネットワーク1を介して、監視センター3のデータサーバ17へ書込む。
【0029】
主制御部11は、振動データを監視センター3へ送信すると同時に、当該振動データの振動レベルを調べる。そして、振動レベルがこのP波に対して例えば150Galの規定値以上の場合は、通常運転部13を停止して、地震管制運転部14を起動する。
【0030】
さらに、主制御部11は、監視センター3内のPC(パーソナル・コンピュータ)からなる地震解析質装置19からネットワーク1、通信部16を介して、管制運転指示受信部18が地震管制運転の指示を受信すると、現在時点で、地震管制運転部14が稼働中であるか否かを調べ、稼働中でなければ、地震管制運転部14を起動する。稼働中の場合は、自己のエレベータ装置2のP波地震感知器10で規定値以上の振動が発生して、既に地震管制運転部14が稼働中、又は運転終了して、エレベータが停止中であるので何もしない。
【0031】
なお、S波地震感知器12が例えば、200Gal以上の振動レベルを検出すると、エレベータのかご5をその場で停止して、かご5内に設けられたインターホンで監視センター3と連絡する。
【0032】
次に、監視センター3の構造及び動作を説明する。この監視センター3内には、前述したように、ネットワーク1に独立して接続されているデータサーバ17と地震解析装置19が組込まれている。データサーバ17は、広域範囲に分散して配設されている各エレベータ装置2から受信したP波の振動データを自己内に記憶保持するとともに、直ちに地震解析装置19内の地震予測部20へ送出する。
【0033】
地震解析装置19内の地震予測部20は、入力した複数の振動データから、該当地震の震源地、及び地震規模を算出する。具体的には、振動データは震源地に近いエレベータ装置2のP波感知器10から順番に検出されるので、2番目以降の各エレベータ装置2の設置地点における先頭地点との各検出時間差を解析して、地震の震源地、及び地震規模を求める。この発生地震の震源地及び地震規模の算出は、この発生地震の地震波が広域範囲の一部を伝搬期間内に行う必要があるので、最初の数個の振動データで算出する。次に、算出した発生地震の震源地及び地震規模から、広域範囲における地震の発性地域と地震規模とを予測する。
【0034】
そして、判定部21は、この地震予測結果に基づき前述した150Galの規定レベル以上の振動が生じると予測される位置の各エレベータ装置2を判定する。管制運転指示部22は、この判定された各エレベータ装置2へ、通信部23、ネットワーク1を介して地震管制運転の実行指令を送信する。
【0035】
図2は、各エレベータ装置2の主制御部11の全体動作を示す流れ図である。自己のエレベータ装置2内のP波地震感知器10が地震のP波を検知して、主制御部11へ、P波の振動データが入力すると(ステップS1)、この振動データをネットワーク1を介して監視センター3へ送信する(S2)。そして、当該振動データの振動レベルが前述した規定レベル以上の場合(S3)、通常運転部13を停止して、地震管制運転部14を起動する(S4)。地震管制運転部14においてかご5が最寄り階に停止して、かご5内の利用客が該当階のエレベータホールへ退避すると、ドアを閉じて、エレベータを停止して(S5)、保守員による点検待ち状態に移行する。
【0036】
また、S6にて、監視センター3から地震管制運転の実行指令が入力されると、現在時点で、地震管制運転部14が稼働中であるか否かを調べ、稼働中でなければ(S7)、地震管制運転部14を起動する(S8)。そして、地震管制運転が終了すると、ドアを閉じて、エレベータを停止して(S9)、保守員による点検待ち状態に移行する。
【0037】
そして、稼働中の場合は(S7)、自己のエレベータ装置2のP波地震感知器10で規定値以上の振動が発生して、既に地震管制運転部14が稼働中、又は運転終了して、エレベータが停止中であるので何もしない。
【0038】
図3は、監視センター3の全体動作を示す流れ図である。エレベータ装置2から振動データをデータサーバ17で受信すると(ステップQ1)、メモリに記憶に記憶し(Q2)、例えば振動データが3個以上になると、該当地震の震源地及び地震規模を算出して、広域範囲における地震の発性地域と地震規模とを予測する(Q4)。この地震予測結果に基づき150Galの規定レベル以上の振動が生じると予測される位置の各エレベータ装置2を判定する(Q5)。そして、この判定した各エレベータ装置2へ地震管制運転の実行指令を送信する(Q6)。
【0039】
このように構成された第1実施形態のエレベータの地震管制システムにおいては、広域範囲に分散配置された各エレベータ装置2には、P波地震感知器10が取付けられている。そして、地震が発生すると、P波地震感知器10から振動データが出力されるので、振動データが所定レベル以上のとき即座に、エレベータ装置2は地震管制運転を実行開始する。同時に、検出された振動データはネットワーク1を介して監視センター3へ送信される。そして、規定レベル以上の振動が生じると予測される位置の各エレベータ装置2へ地震管制運転の実行指令を送出する。
【0040】
したがって、各エレベータ装置2においては、近くで地震が発生した場合は、自己のP波地震感知器10から出力された振動データに基づいて地震管制運転が実施される。一方、遠くで発生した地震に対しては、この地震の地震波が到達する前に監視センター3からの指令にて、地震管制運転が実施される。この地震管制運転の開始時刻は、実際に地震が想定される場合は、1秒でも早いことが重要であるので、かご5内の利用者をいち早く最寄階のエレベータホールへ退避させることができ、利用者に対する安全性をより一層向上できるとともに、エレベータ機器2の損傷を大幅に抑制できる。
【0041】
(第2実施形態)
図4は本発明の第2実施形態に係わるエレベータの地震管制システムの概略構成を示す模式図である。図1に示す本発明の第1実施形態のエレベータの地震管制システムと同一部分には、同一符号を付して重複する部分の詳細説明を省略する。
【0042】
この第2実施形態に係わるエレベータの地震管制システムにおいては、図1の第1実施形態のエレベータの地震管制システムにおいて、ネットワーク1に対して、P波地震感知器10及びS波地震感知器12が設置されていないエレベータ装置2aが、前述したP波地震感知器10及びS波地震感知器12が設置されているエレベータ装置2に混じって接続されている。
【0043】
その他のエレベータ装置2及び監視センター3の構成及び動作は、図1のエレベータ装置2及び監視センター3とほぼ同じである。なお監視センター3は各地震感知器10,12が設けられていないエレベータ装置2aに対しても、他のエレベータ装置2と同様に、振動の条件を満たすと地震管制運転の実行指示を送出する。
【0044】
の第2実施形態におけるエレベータ装置2aの主制御部11aには、地震発生時において、振動データは入力しないので、このエレベータ装置2aは監視センター3へ振動データを送信することはない。しかし、管制運転指示受信部18で、監視センター3からの地震管制運転の実行指令を受信すると、主制御部11aは自己の地震管制運転部14を起動する。
【0045】
このように、この第2実施形態の地震管制システムにおいては、たとえ、地震感知器10、12が設けられていないエレベータ装置2aがこのシステムに組込まれていた場合であって、地震発生時における利用者の安全性を十分確保できる。
【0046】
(第3実施形態)
図5は本発明の第3実施形態に係わるエレベータの地震管制システムの概略構成を示す模式図である。図1に示す本発明の第1実施形態のエレベータの地震管制システムと同一部分には、同一符号を付して重複する部分の詳細説明を省略する。
【0047】
この第3実施形態のエレベータの地震管制システムにおいては、ネットワーク1に、監視センター3は接続されておらず、地震予測機能を有した複数のエレベータ装置2bが接続されている。
【0048】
このエレベータ装置2b内には、前述した通常運転部13、地震管制運転部14、P波地震感知器10、S波地震感知器12、主制御部11b、振動データ送信部15a、通信部16の他に、振動データ受信部24、地震予測部25、判定部26が組込まれている。
【0049】
次に各部の構成及び動作を順番に説明していく。主制御部11bは、P波地震感知器10から振動データが入力すると、この振動データを振動データ送信部15aへ送出する。振動データ送信部15aは入力した振動データに、自己の位置及び振動データの検出時刻を付加した状態で伝送フレームに組込んで、通信部16、ネットワーク1を介して、このネットワーク1に接続された自己以外の全てのエレベータ装置2bへ送信する。
【0050】
振動データ受信部24は、他のエレベータ装置2bから送出した振動データをネットワーク1及び通信部16を介して受信し、地震予測部25へ送出する。地震予測部25は、図1の第1実施形態の監視センター3の地震予測部20と同様に、同一地震に対して例えば震源に近い位置の3台のエレベータ装置2bから振動データが入力した状態で、該当地震の震源地及び地震規模を算出(予測)する。そして、判断部26がこの地震の地震波が当該エレベータ装置2bの設置位置に到達した時点における振動レベルが、150Galの規定レベル以上である判断すると、地震管制運転の指示を主制御部11bへ送出する。主制御部11bは、まだ、地震管制運転14が実行開始されていない場合は、地震管制運転14を実行する。
【0051】
図6は各エレベータ装置2bの全体動作を示す流れ図である。自己のエレベータ装置2b内のP波地震感知器10が地震のP波を検知して、主制御部11bへ、P波の振動データが入力すると(ステップR1)、この振動データをネットワーク1を介して他のエレベータ装置2bへ送信する(R2)。そして、当該振動データの振動レベルが規定レベル以上の場合(R3)、通常運転部13を停止して、地震管制運転部14を起動する(R4)。地震管制運転部14においてかご5が最寄り階に停止して、かご5内の利用客が該当階のエレベータホールへ退避すると、ドアを閉じて、エレベータを停止して(R5)、保守員による点検待ち状態に移行する。
【0052】
また、R6にて、他のエレベータ装置2bから振動データが入力されると、地震の震源地及び地震規模を算出(予測)する(R7)。当該地震の当該エレベータ装置2b位置における振動レベルが(R8)、150Galの規定レベル以上の振動が生じると判断すると(R9)、地震管制運転の指示を主制御部11bへ送出する。主制御部11bは、まだ、地震管制運転14が実行開始されていない場合は、地震管制運転14を実行する。現在時点で、地震管制運転部14が稼働中であるか否かを調べ、稼働中でなければ(R10)、地震管制運転部14を起動する((R11)。そして、ドアを閉じて、エレベータを停止して((R12)、保守員による点検待ち状態に移行する。
【0053】
そして、稼働中の場合は(S7)、自己のエレベータ装置2bのP波地震感知器10で規定値以上の振動が発生して、既に地震管制運転部14が稼働中、又は運転終了して、エレベータが停止中であるので何もしない。
【0054】
このように構成された第3実施形態のエレベータの地震管制システムにおいても、各エレベータ装置2bの一部は、遠くで発生した地震に対しては、この地震の地震波が到達する前に監視センター3からの指令にて、地震管制運転が実施される。この地震管制運転の開始時刻は実際に地震が想定される。
【0055】
さらに、発生した地震の震源値及び地震規模は各エレベータ装置2b自体に地震予測機能が組込まれているので、別途、監視センターを設置する必要ない。
【0056】
(第4施形態)
図7は本発明の第4施形態に係わるエレベータの地震管制システムの概略構成を示す模式図である。図5に示す本発明の第3実施形態のエレベータの地震管制システムと同一部分には、同一符号を付して重複する部分の詳細説明を省略する。
【0057】
この第4実施形態の地震管制システムにおいては、ネットワーク1に対して、図4に示す第2実施形態システムにおける各地震感知器10、12が組込まれていないエレベータ装置2aと、図5の第3実施形態システムにおける地震予測機能が組込まれたエレベータ装置2bに対して他のエレベータ装置へ管制運転の実行を指示する管制運転指示部27が設けられているエレベータ装置2cとが接続されている。
【0058】
この各エレベータ装置2cの図5に示すエレベータ装置2bとの相違する部分について説明する。地震予測部25aは、震源に近い位置の3台のエレベータ装置2cから振動データが入力した状態で、該当地震の震源地及び地震規模を算出する。次に、算出した発生地震の震源地及び地震規模から、広域範囲における地震の発性地域と地震規模とを予測する。
【0059】
そして、判定部26aは、この地震予測結果に基づき前述した150Galの規定レベル以上の振動が生じると予測される位置の各エレベータ装置2a、2cを判定する。そして、管制運転指示部27は、この判定された各エレベータ装置2a、2cへ通信部16、ネットワーク1を介して地震管制運転の実行指令を送信する。なお、自己のエレベータ装置2cが規定レベル以上の振動が生じると予測される位置のエレベータ装置2cの場合は、管制運転指示部27は、自己のエレベータ装置2cの主制御部11cへ地震管制運転の実行指令を送信する。
【0060】
各地震感知器10、12が組込まれていないエレベータ装置2aにおいては、各エレベータ装置2cからの管制運転指示を管制管制運転指示受信部18で受信すると、主制御部11aは、一つの地震に対して最初に受信した管制運転指示に応じて地震管制運転14を実行する。
【0061】
図8は、各エレベータ装置2cの全体動作を示す流れ図である。自己のエレベータ装置2c内のP波地震感知器10が地震のP波を検知して、主制御部11cへ、P波の振動データが入力すると(ステップP1)、この振動データをネットワーク1を介して他のエレベータ装置2cへ送信する(P2)。そして、当該振動データの振動レベルが規定レベル以上の場合(P3)、通常運転部13を停止して、地震管制運転部14を起動する(P4)。地震管制運転部14においてかご5が最寄り階に停止して、かご5内の利用客が該当階のエレベータホールへ退避すると、ドアを閉じて、エレベータを停止して(P5)、保守員による点検待ち状態に移行する。
【0062】
また、P6にて、他のエレベータ装置2cから振動データが入力されると、地震の震源地及び地震規模を算出する。そして、次に、算出した発生地震の震源地及び地震規模から、広域範囲における地震の発性地域と地震規模とを予測する(P7)。この地震予測結果に基づき規定レベル以上の振動が生じると予測される位置の各エレベータ装置2a、2cを判定して(P8)、この判定された各エレベータ装置2a、2cへ地震管制運転の実行指令を送信する(P9)。自己のエレベータ装置2cが規定レベル以上の振動が生じると予測される場合(P10、P11)は、現在既に管制運転実行中でなければ(P12)、管制運転を実行する(P13)、そして、管制運転終了後にドアを閉じて、エレベータを停止して(P14)、保守員による点検待ち状態に移行する。
【0063】
そして、稼働中の場合は(P12)、自己のエレベータ装置2cのP波地震感知器10で規定値以上の振動が発生して、既に地震管制運転部14が稼働中、又は運転終了して、エレベータが停止中であるので何もしない。
【0064】
このように構成された第4実施形態のエレベータの地震管制システムにおいては、ネットワーク1に接続された各エレベータ装置2cは、地震予測機能とこの地震予測機能を用いて他のエレベータ装置2c、2aへ管制運転の実行を指示する管制運転指示機能とが設けられている。
【0065】
したがって、たとえ地震感知器10、12が設けられていないエレベータ装置2aがこのシステムに組込まれていた場合であって、地震発生時における利用者の安全性を十分確保できる。
【0066】
(第5施形態)
図9は本発明の第5施形態に係わるエレベータの地震管制システムの概略構成を示す模式図である。図5に示す第3実施形態のエレベータの地震管制システムと同一部分には、同一符号を付して重複する部分には、同一符号を付して詳細説明を省略する。
【0067】
この第5実施形態システムにおいては、インターネットからなるネットワーク1に対して、地震感知器10、12が設けられていない複数のエレベータ装置2dと、地震情報配信装置28、一般ユーザ端末29が接続されている。
【0068】
地震情報配信装置28は、インターネット上に常時地震情報を出力しており、各エレベータ装置2dの通信部16は、地震情報配信装置28に対して、オンライン接続状態である。そして、地震情報配信装置28から、地震の震動データを振動データ受信部24が受信すると、地震予測部25bは、受信した振動データから、該当地震の震源地及び地震規模を算出する。次に、算出した発生地震の震源地及び地震規模から、広域範囲における地震の発性地域と地震規模とを予測する。
【0069】
そして、判定部26bは、この地震予測結果に基づき、自己のエレベータ装置2dが規定レベル以上の振動が生じると予測される場合は、自己のエレベータ装置2dの主制御部11dへ地震管制運転の実行指令を送信する。
【0070】
また、地震予測出力部30は、地震予測部25bで作成した該当地震の震源地及び地震規模、広域範囲における地震の発性地域と地震規模とを、自己のWebサイト31上に出力する。したがって、一般ユーザを含む不特定多数の人が、エレベータ装置2dのWebサイト31で、地震波が到着するまえに当該地震の揺れ発性地域と地震規模とを把握できる。
【0071】
このように構成された第5実施形態のエレベータの地震管制システムにおいても、前述した各実施形態とほぼ同様の作用効果を奏することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明の第1実施形態に係わるエレベータの地震管制システムの概略構成を示す模式図
【図2】同実施形態のエレベータの地震管制システムに組込まれたエレベータ装置の動作を示す流れ図
【図3】同実施形態のエレベータの地震管制システムに組込まれた監視センターの動作を示す流れ図
【図4】本発明の第2実施形態に係わるエレベータの地震管制システムの概略構成を示す模式図
【図5】本発明の第3実施形態に係わるエレベータの地震管制システムの概略構成を示す模式図
【図6】同実施形態のエレベータの地震管制システムに組込まれたエレベータ装置の動作を示す流れ図
【図7】本発明の第4実施形態に係わるエレベータの地震管制システムの概略構成を示す模式図
【図8】同実施形態のエレベータの地震管制システムに組込まれたエレベータ装置の動作を示す流れ図
【図9】本発明の第5実施形態に係わるエレベータの地震管制システムの概略構成を示す模式図
【符号の説明】
【0073】
1…ネットワーク、2,2a,2b,2c,2d…エレベータ装置、3…監視センター、4…昇降路、5…かご、10…P波地震感知器、11,11a,11b,11c,11d…主制御部、12…S波地震感知器、13…通常運転部、14…地震管制運転部、15…振動データ送信部、16,23…通信部、17…データサーバ、18…管制運転指示受信部、19…地震解析装置、20,25,25a…地震予測部、21,26,26a…判定部、22,27…管制運転指示部,28…地震情報配信装置、29…一般ユーザ端末、30…地震予測出力部、31…Webサイト部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ネットワークに対して、地震を検知する地震感知器が組込まれ広域範囲に分散設置された複数のエレベータ装置と、この複数のエレベータ装置を監視する監視センターとを接続したエレベータの地震管制システムにおいて、
前記各エレベータ装置は、自己の地震感知器で検知した振動データを前記ネットワークを介して前記監視センターへ送信する振動データ送信手段と、前記検知した振動データの振動レベルが所定レベル以上の場合自己エレベータに対して地震管制運転を実行する地震管制運転実行手段と、前記監視センターから前記ネットワークを介して地震管制運転の実行指令を受信したとき自己がまだ地震管制運転を開始していないとき、当該地震管制運転を開始する先行実行手段とを備え、
前記監視センターは、複数のエレベータ装置からの振動データを受信すると、これらの振動データに基づいて当該地震の前記広域範囲における発生地域と地震規模とを予測する地震予測手段と、この地震予測結果に基づき所定レベル以上の振動が生じると予測される各エレベータ装置を判定する判定手段と、この判定された各エレベータ装置へ前記ネットワークを介して地震管制運転の実行指令を送信する実行指令送信手段とを備えた
ことを特徴とするエレベータの地震管制システム。
【請求項2】
前記ネットワークに対して、前記地震感知器が設けられていないエレベータ装置が接続されていた場合、当該エレベータ装置は、前記監視センターから前記ネットワークを介して地震管制運転の実行指令を受信したとき、自己エレベータに対して地震管制運転を実行する地震管制運転実行手段を備えたことを特徴とする請求項1記載のエレベータの地震管制システム。
【請求項3】
ネットワークに対して、地震を検知する地震感知器が組込まれ広域範囲に分散設置された複数のエレベータ装置を接続したエレベータの地震管制システムにおいて、
前記各エレベータ装置は、
自己の地震感知器で検知した振動データを前記ネットワークを介して他のエレベータ装置へ送信する振動データ送信手段と、
前記検知した振動データの振動レベルが所定レベル以上の場合自己エレベータに対して地震管制運転を実行する地震管制運転実行手段と、
他のエレベータ装置から受信した振動データに基づいて当該地震の前記広域範囲における発生地域と地震規模とを予測する地震予測手段と、
この地震予測結果に基づき自己のエレベータ装置に所定レベル以上の振動が生じると予測すると、自己がまだ地震管制運転を開始していないとき、当該地震管制運転を開始する先行実行手段とを備えた
ことを特徴とするエレベータの地震管制システム。
【請求項4】
前記ネットワークに対して、前記地震感知器が設けられていないエレベータ装置が接続されていた場合、
前記地震感知器が設けられているエレベータ装置は、前記地震予測手段における地震予測結果に基づき所定レベル以上の振動が生じると予測される前記地震感知器が設けられていないエレベータ装置を判定する判定手段と、この判定された各エレベータ装置へ前記ネットワークを介して地震管制運転の実行指令を送信する実行指令送信手段とを備え
前記地震感知器が設けられていないエレベータ装置は、前記ネットワークを介して地震管制運転の実行指令を受信したとき、自己エレベータに対して地震管制運転を実行する地震管制運転実行手段を備えた
ことを特徴とする請求項3記載のエレベータの地震管制システム。
【請求項5】
ネットワークに対して、地震発生情報を配信する地震情報配信装置と、広域範囲に分散設置された複数のエレベータ装置とを接続したエレベータの地震管制システムにおいて、
前記各エレベータ装置は、
前記地震情報配信装置から前記ネットワークを介して受信した地震発生情報の振動データに基づいて当該地震の前記広域範囲における発生地域と地震規模とを予測する地震予測手段と、
この地震予測結果に基づき自己のエレベータ装置に所定レベル以上の振動が生じると予測すると、地震管制運転を実行する地震管制運転実行手段と
を備えたことを特徴とするエレベータの地震管制システム。
【請求項6】
前記地震予測手段で予測された地震の発生地域と地震規模とを前記ネットワーク上に公開することを特徴とする請求項1から5のいずれか1項記載のエレベータの地震管制システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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