説明

エレベータの安全装置

【課題】芯ズレや破損が起こり難く、乗降口を通る検知対象が横方向に沿って平坦なものであっても容易に検知することができる検知装置を備えたエレベータの安全装置を提供することである。
【解決手段】安全装置50は、マルチビームセンサ51と、制御装置60とを備え、マルチビームセンサ51は、最上階より上方の昇降路壁Aに設置され、乗降口Pを縦断する赤外線ビームを投光する投光器52と、最下階より下方の昇降路壁Aに設置され、投光器52から投光された赤外線ビームを受光する受光器53とを有し、投受光器ペアを構築している。また、制御装置60は、安全装置50の制御機能として、かごドア反転手段62と、センサ起動手段63と、センサ停止手段64とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレベータの安全装置に関し、より詳しくは、乗降口を通る利用者を検知するマルチビームセンサと、マルチビームセンサの検知情報に基づいて、乗降口を開閉するドアの動作を制御する制御装置とを備えたエレベータの安全装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エレベータには、乗りかごと乗場との間に形成される乗降口を開閉するドアが設置されている。エレベータのドアは、乗りかごに設置されたかごドアと、乗場に設置された乗場ドアがある。一般的に、かごドアには、利用者や荷物がドアに挟まれることを防止するためのセンサが設置されている。例えば、かごドアの先端、つまり戸当り部の近傍に設置されたセーフティーシューは、利用者等に接触したことを検知するセンサである。また、最近のエレベータには、乗降口の横断する複数の赤外線ビームを用いて乗降口を通過する利用者等を検知するマルチビームドアセンサ(以下、MBセンサと称する)が搭載されている。そして、これらセンサの検知情報に基づき、例えば、閉扉途中のドアを反転させて、利用者等がドアに挟まれることを防止している。
【0003】
MBセンサは、セーフティーシューと同様に、かごドアの先端に設置されている。当該センサは、赤外線ビームを投光する投光器と、投光器から投光された赤外線ビームを受光する受光器とから構成され、例えば、センターオープンドアの場合、片方側のかごドアに投光器を、他方側のかごドアに受光器をそれぞれ配置する。そして、赤外線ビームが途中で遮断されることで乗降口を通る利用者等を検知する。
【0004】
なお、かごドアの先端に設置されたMBセンサでは、かごドアに利用者や荷物、台車等がぶつかって、センサの芯ズレや破損が発生する場合がある。また、従来のMBセンサは、乗降口の横方向に沿って赤外線ビームが投光されているため、乗降口の横方向に沿って平坦なもの(例えば、台車や敷物)を検知できない場合がある。
【0005】
本発明に関連する技術として、特許文献1には、かごドアの敷居の両端にそれぞれ反かごドア側に突出して立設される一対のブラケットと、ブラケットの一方に貼り付けられる長尺体の反射板と、ブラケットの他方に投光器及び受光器を長手方向に複数個配置した光電装置とを備えたエレベータ出入口の安全装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003‐89489号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1に開示された安全装置によれば、光電装置の芯ズレや破損が起こり難くなると想定される。しかしながら、当該安全装置では、乗降口の横方向に沿って赤外線ビームを投光するため、上記のように、乗降口の横方向に沿って平坦な台車等の通過を検知できない場合がある。
【0008】
即ち、本発明の目的は、芯ズレや破損が起こり難く、乗降口を通る検知対象が横方向に沿って平坦なものであっても容易に検知することができる検知装置を備えたエレベータの安全装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るエレベータの安全装置は、乗降口を通過する利用者を検知する検知装置と、検知装置の検知情報に基づいて、乗降口を開閉するドアの動作を制御する制御装置と、を備えたエレベータの安全装置において、検知装置は、昇降路壁の上階側又は下階側のいずれか一方に設置され、乗降口を縦断する赤外線ビームを投光する投光器と、投光器との間に少なくとも1つの乗場を隔てて昇降路壁の上階側又は下階側のいずれか他方に設置され、投光器から投光された赤外線ビームを受光する受光器と、を有し、赤外線ビームが遮断されることで乗降口を通過する利用者を検知することを特徴とする。
【0010】
当該構成によれば、検知装置が利用者等に触れない昇降路壁に設置されるので、例えば、かごドアに衝撃等が加わっても検知装置の芯ズレや破損は発生しない。また、乗降口を縦断する赤外線ビームを用いることによって、乗降口を通過する検知対象が横方向に沿って平坦なものであっても容易に検知することが可能になる。
【0011】
なお、本発明に係るエレベータの安全装置において、検知装置は、かご上及びかご下のいずれか一方に設置され、乗降口を縦断する赤外線ビームを投光する投光器と、かご上及びかご下のいずれか他方に設置され、投光器から投光された赤外線ビームを受光する受光器と、を有する構成であってもよい。
また、検知装置は、かご上及びかご下のいずれか一方に設置され、乗降口を縦断する赤外線ビームを投光する投光器と、かご上及びかご下のいずれか他方に設置され、投光器から投光された赤外線ビームを受光器の方向に反射する反射体と、反射体から反射された赤外線ビームを受光する受光器とを有する構成であってもよい。
【0012】
また、投光器及び受光器は、乗降口の横方向に対して所定間隔で複数の赤外線ビームが縦断するようにそれぞれ複数個設置され、各投光器から投光された赤外線ビームは予め定められた受光器によって受光されるように投受光器ペアを構築していることが好ましい。
乗降口を縦断する赤外線ビームは、その本数を任意に設定することができ、また、鉛直方向に平行なビームだけでなく、鉛直方向に対して角度をもった縦断ビームであってもよい。なお、通常、乗降口の横方向の長さよりも縦方向の長さの方が長いため、横断赤外線ビームを用いるMBセンサよりも赤外線ビームの本数を大幅に削減することができる。
【0013】
また、制御装置は、ドアが開扉されてからドアの閉扉が開始されるまでの間、例えば、ドアが全開されたときに、検知装置の全ての投受光器ペアを起動する起動手段と、ドアが閉扉されるときに、ドアの閉扉に合わせて閉じられた乗降口部分に対応する投受光器ペアを順次停止させる停止手段と、を含むことが好ましい。
つまり、停止手段は、ドアの閉扉度合いを認識して、ドアの先端が赤外線ビームの照射位置を通過した場合に、当該赤外線ビームに対応する投受光器ペアを停止させる。
【0014】
更に、制御装置は、ドアが閉扉されるときに、かごドア及び乗場ドアの互いに対向する面に各々取り付けられ、かごドアと乗場ドアとを係合して連動させる係合装置の位置を特定する手段を含み、停止手段は、特定された係合装置の位置に基づいて、係合装置が赤外線ビームの光路上を通るまでに対応する投受光器ペアを順次停止させることが好ましい。 つまり、係合装置は、ドアの開閉と共に乗降口を横方向に移動して赤外線ビームの光路上を通るため、赤外線ビームの照射位置をドアの先端が通過してから係合装置が通過するまでの間に、当該赤外線ビームに対応する投受光器ペアを停止させる必要がある。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係るエレベータの安全装置によれば、乗降口を縦断する赤外線ビームを用いることによって、乗降口を通る検知対象が横方向に沿って平坦なもの(例えば、台車や敷物)であっても容易に検知することが可能になる。ゆえに、台車等がドアに挟まれることを高度に防止でき、例えば、従来のMBセンサと同等以上の検知精度を維持しながら、赤外線ビームの本数、つまり投光器及び受光器の数を低減することも可能である。
また、検知装置を昇降路壁等に設置することによって、検知装置の芯ズレや破損を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第1実施形態であるエレベータの安全装置及び当該安全装置を備えるエレベータの全体構成を示す図である。
【図2】図1の乗りかごを乗場側から見た様子を示す図である。
【図3】図1の昇降路壁Aを乗りかご側から見た様子を示す図である。
【図4】図1の乗降口を乗場側から見た様子を示す図である。
【図5】第1実施形態の安全装置による制御手順を示すフローチャートである。
【図6】本発明の第2実施形態であるエレベータの安全装置及び当該安全装置を備えるエレベータの全体構成を示す図である。
【図7】図6の乗りかごを乗場側から見た様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図面を用いて、本発明に係るエレベータの安全装置の実施形態につき、以下詳細に説明する。以下では、本発明に係るエレベータの安全装置は、ロープ式のエレベータ10に適用されるものとして説明するが、本発明の適用はこれに限定されず、機械室レスエレベータや油圧式エレベータにも適用することができる。
【0018】
<第1実施形態>
図1〜図5を参照して、第1実施形態を詳細に説明する。
図1に示すように、エレベータの安全装置50(以下、安全装置50とする)は、エレベータ10に設置されて、エレベータ10の一部を構成する。安全装置50は、乗降口Pを通る利用者を検知する検知装置であるマルチビームセンサ51と、マルチビームセンサ51による検知情報に基づいて、乗降口Pを開閉するドアの動作を制御する制御装置60とを備える。なお、制御装置60は、エレベータ10の全体を制御する装置であって、安全装置50としての制御機能を含むものとして説明する。
【0019】
ここで、乗降口Pとは、乗りかご12が乗場13に停止しているときに、乗りかご12と当該乗場13との間に形成される出入り口である。つまり、かごドア開口21と乗場開口25とが一致して、ドアが開扉されたときに、乗りかご12と乗場13との行き来を可能にする出入り口である。なお、本明細書では、かごドア開口21と乗場開口25とが一致している場合であってドアが閉扉されている状態の乗降口を、閉じられた乗降口(閉じられた乗降口部分)と称して説明する。
【0020】
まず初めに、安全装置50が設置されるエレベータ10の構成について説明する。
図1に示すように、エレベータ10は、昇降路11内において、乗りかご12が各階床に設置された乗場13の間を昇降する昇降機構部と、その動作を制御する制御装置60とで構成されている。
【0021】
昇降路11は、建造物内等に鉛直方向に貫通して設けられた乗りかご12の昇降通路である。昇降路11の最下部には、緩衝器14が設置されたピット15が設けられ、昇降路11の上部には、上部機械室16が設けられる。上部機械室16には、乗りかご12を昇降させる巻上げ機17や制御装置60が設置されている。巻上げ機17のシーブには、一端が乗りかご12の上部、他端がカウンターウエイト18に連結された主ロープ19がかけられている。ゆえに、巻上げ機17を駆動させることで主ロープ19が巻上げられ又は送り出されて、乗りかご12が昇降路11内を昇降することになる。
【0022】
乗りかご12は、利用者が乗り込むことのできる室内スペースを有し、巻上げ機17の駆動により昇降路11内を昇降する。乗りかご12内の壁面には、制御装置60と接続され、行き先階釦やドア開閉釦を含むかご内操作盤20が設置されている。また、乗りかご12の乗場13と対向する壁面には、乗降口Pを構成するかご開口21が形成されている。そして、乗りかご12は、当該かご開口21を開閉するかごドア22、かごドア22を開閉操作するかごドア開閉装置23、及びかごドア22に取り付けられた係合バー24等を有する。
【0023】
乗場13は、乗りかご12に乗降するための場所であって、各階床に設けられている。乗場13の壁面には、乗降口Pを構成する乗場開口25が形成されており、乗場開口25の近傍に、制御装置60と接続された乗場操作盤や乗場インジケータが設置されている。また、乗場13の裏側である昇降路11内の壁面には、乗場開口25を開閉する乗場ドア26(本明細書において、「ドア」と言うときには、かごドア22及び乗場ドア26を意味する)、係合バー24と係合する乗場ドア係合部27等が設置されている。
【0024】
ここで、図2及び図3を参照して、乗りかご12及び乗場13の構成を更に詳説する。なお、図2は、乗りかご12を乗場13側から見た様子を示す図であり、図3は、図1の昇降路壁Aを乗りかご12側から見た様子を示す図である(対向する係合バー24の位置を一点鎖線で示す)。
【0025】
図2に示すように、乗りかご12には、乗場13に対向する壁面に、かご開口21が形成され、かご開口21を開閉する2枚のかごドア22が設置されている。
かごドア22には、その上端にハンガーローラ28を含むハンガープレート29が取り付けられている。かごドア22は、このハンガーローラ28によって、かごドアレール30に懸架されている。そして、かごドア22の下方には、ガイド用の溝が形成されたかごドア敷居31が設置されている。また、かごドア22には、かごドア開閉装置23の駆動力を受容するためのかごドアアーム32、上記係合バー24、かごドア22の閉扉を検出するゲートスイッチやリミットスイッチ(図示せず)等が設置されている。
かごドア開閉装置23は、モータ33と、駆動プーリ34と、駆動プーリ34及びかごドアアーム32に固定された駆動アーム35とから構成される。モータ33の駆動力は、駆動プーリ34及び駆動アーム35を介してかごドアアーム32に伝達されることにより、かごドア22が、かごドア開口21を開閉する。なお、かごドア開閉装置23のモータ33の動作は、後述する制御装置60のかごドア開閉手段61により制御される。
係合バー24は、乗場ドア26と対向する面に設けられ、同様に、乗場ドア26のかごドア22と対向する面に設けられた乗場ドア係合部27に係合して、乗場ドア26をかごドア22の開閉に追従して開閉させる。係合バー24は、鉛直方向に長く延びた2本のバー(係合バー24a,24b)から構成されており、係合バー24a,24bの間を乗場ドア係合部27が通るように設けられている。
【0026】
図3に示すように、乗場13の壁面(昇降路11内の壁面)には、乗場開口25が形成されており、乗場開口25を開閉する2枚の乗場ドア26が設置されている。
乗場ドア26は、かごドア22と同様に、その上端にハンガーローラ36を含むハンガープレート37が取り付けられており、ハンガーローラ36によって、乗場ドアレール38に懸架されている。そして、乗場ドア26の下方には、ガイド用の溝が形成された乗場ドア敷居39が設けられている。
また、乗場13には、乗場ドア26をロックするロック装置40が設置されている。ロック装置40は、例えば、乗場13の壁面に固定された係止部41と、乗場ドア26の一方に取り付けられた係止片42とで構成され、係止片42には、係合バー24によって乗場ドアレール38に沿って押される乗場ドア係合部27が設置されている。なお、乗場ドア係合部27は、第1係合部27aと、第2係合部27bとを含む。ドアの全閉状態では、係合バー24と乗場ドア係合部27とが接触しないので、係止片42が下りてロック装置40がロック状態となり、ドアの開扉時には、係合バー24aにより第1係合部27aが右側に押されることで、ロック装置40のロックが外れる仕組みとなっている。
また、乗場ドア26の上方には、左右に設けられた滑車43、2つの滑車43に巻き掛けられ、ハンガープレート37に接続された連動ベルト44を含む連動機構が設けられている。当該連動機構によって、乗場ドア係合部27を有する一方の乗場ドア26に加えられた開閉駆動力を他方の乗場ドア26に伝達して、2枚の乗場ドア26を互いに反対方向にスライドさせて、乗場開口25を開閉する。
【0027】
上記のように、かごドア22と乗場ドア26とを係合して連動させる係合装置は、係合バー24と乗場ドア係合部27とで構成される。そして、当該係合装置は、ドアの開閉と共に、乗りかご12と乗場13との間(つまり乗降口P)を移動する。即ち、係合機構は、マルチビームセンサ51の赤外線ビーム光路を横切って移動する。
また、乗場ドア係合部27は、全ての乗場13に設置されており、その設置位置はいずれの乗場13においても同じである。即ち、各乗場ドア係合部27は、鉛直方向に沿って並んでいる。
【0028】
以下、図1に加えて適宜図2〜4を参照し、上記構成のエレベータ10に設置される安全装置50の構成・設置形態等を説明する。なお、図4は、乗降口Pを乗場13側から見た様子を示す図である。
【0029】
図1に示すように、安全装置50を構成するマルチビームセンサ51は、赤外線ビームを投光する投光器52と、投光器52から投光される赤外線ビームを受光する受光器53とで構成されている。鎖線矢印で光路を示す赤外線ビームは、昇降路11に沿って投光器52から受光器53に向かい、乗りかご12と乗場13との間に形成される乗降口Pを縦断する。なお、投光器52及び受光器53としては、機種等が特に限定されるものではなく、例えば、従来のMBセンサに用いられる装置など、公知の装置を使用することができる。特に、投光器52には、指向性に優れた赤外線ビームを出射可能な装置を用いることが好ましい。
【0030】
投光器52は、投光器用ブラケット54を介して、最上階の乗場13よりも上方に位置する昇降路11の壁面に設置されている。投光器用ブラケット54は、乗場ドア26が設置される壁面と同じの壁面である昇降路壁Aに固定されている。そして、投光器用ブラケット54は、投光器52から投光される赤外線ビームが、乗りかご12と乗場13との間に形成される乗降口Pを縦断するように、投光器52を乗降口Pの鉛直上方に配置する。
【0031】
受光器53は、受光器用ブラケット55を介して、最下階の乗場13よりも下方に位置する昇降路11の壁面、つまりピット15内に設置されている。即ち、投光器52と受光器53との間には、全ての乗場13が存在する。受光器用ブラケット55は、投光器用ブラケット54と同様に昇降路壁Aに固定されている。そして、受光器用ブラケット55は、受光器53が投光器52から投光されて乗降口Pを縦断した赤外線ビームを受光可能なように、受光器53を投光器52及び乗降口Pの鉛直下方に配置する。
【0032】
図1に例示する形態では、投光器52を最上階より上方の昇降路壁Aに、受光器53をピット15内の昇降路壁Aにそれぞれ設置しているため、投光器52と受光器53との間には全ての乗場13が存在し、乗降口Pの開閉状態に関らず、赤外線ビームの光路と平行に複数の乗場ドア係合部27が直線状に並んで存在する。ゆえに、赤外線ビームが乗場ドア係合部27に当たらないように、乗場ドア係合部27の列を避けて投光器52を設置する必要がある。なお、投光器52と受光器53との設置位置が反対、つまり投光器52が鉛直下方に、受光器53が鉛直上方にそれぞれ設置されてもよい。
【0033】
図3に示すように、投光器52は、乗降口Pの横方向に対して所定間隔で複数の赤外線ビーム(その光路を鎖線矢印で示す)が縦断するように複数個設置されている。そして、各投光器52から投光された赤外線ビームは予め定められた受光器53によって受光されるように、受光器53も複数個設置されている。なお、赤外線ビームの間隔(所定間隔)は、投光器52及び受光器53の設置間隔等を調整することで任意に設定できる。図1に例示する形態では、投光器52と同数の受光器53が設置されており1対1の投受光器ペアを構築している。各投受光器ペアでは、投光器52と受光器53とが鉛直方向に沿って配置され、各投光器52から投光される赤外線ビームは、鉛直方向に沿って平行に進む。また、投光器52は、乗場ドア係合部27に対応する位置、つまり乗場ドア係合部27(第1係合部27a及び第2係合部27b)の鉛直上方を避けて設置される。
なお、図3では、ドアの全閉状態を示しているので、後述するセンサ停止手段64の機能によって投受光器ペアが停止され、赤外線ビームが照射されていないことが好ましい。
【0034】
図4に示すように、マルチビームセンサ51において、投光器52から投光される赤外線ビーム(その光路を鎖線矢印で示す)は乗降口Pを縦断する。鉛直上方から乗降口Pに照射される赤外線ビームは、乗降口Pに利用者等がいない場合には、乗りかご12と乗場13との間、つまりかごドア22と乗場ドア26との間を鉛直方向に通り、かごドア敷居31と乗場ドア敷居39との間から鉛直下方に通り抜ける。一方、乗降口Pに利用者等が存在する場合(図4の場合)には、利用者によって赤外線ビームが遮断され、一部の投光器52から投光された赤外線ビームが対応する受光器53にとどかない。
このように、マルチビームセンサ51では、投光器52から投光された赤外線ビームが乗降口Pで遮断されること、つまり受光器53に受光されないことによって、乗降口を通る利用者等を検知することができる。なお、通常の設定では、複数の赤外線ビームのうち1本でも遮断されると、検知信号を制御装置60に対して出力する。そして、マルチビームセンサ51の起動時において、赤外線ビームが遮断されている間は、検知信号の出力を継続することができる。
【0035】
制御装置60は、安全装置50を含む、エレベータ10の各構成要素を統一的に制御する装置である。例えば、制御装置60は、かご内操作盤20のドア開閉釦の操作等に基づき、かごドア開閉装置23に指令を与えてかごドア22の開閉動作を制御するかごドア開閉手段61を含む。更に、制御装置60は、安全装置50の制御手段として、かごドア反転手段62と、センサ起動手段63、及びセンサ停止手段64を含む。
なお、制御装置60は、CPUと、上記各手段の機能を実行する際に使用される制御パラメータ等の入力に用いられる入力部と、制御パラメータや制御プログラム等を記憶する記録部と、入出力ポートなどを備えるコンピュータである。各機能は、ソフトウェア、例えば、対応する制御プログラムを実行することで実現できる。
【0036】
かごドア開閉手段61は、かごドア開閉装置23に対して開扉指令及び閉扉指令を出力し、かごドア22を開閉させる機能を有する。例えば、かごドア開閉手段61は、乗りかご12が乗場13に停止している状態でかご内操作盤20のドア開閉釦の操作信号を取得したときに、かごドア開閉装置23に対して開扉指令又は閉扉指令を出力する。また、乗りかご12が乗場13に到着したとき、乗場13に到着してかごドア22を開扉してから予め設定した時間が経過したとき、及び乗りかご12が乗場13に停止している状態で乗場操作盤の操作信号を取得したとき等においても、開扉指令又は閉扉指令を出力する。そして、乗開扉指令又は閉扉指令を取得したかごドア開閉装置23によってかごドア22が開閉される。かごドア22は、係合バー24及び乗場ドア係合部27によって乗場ドア26を連動させるので、かごドア開口21及び乗場開口25は同時に開閉される(つまり、乗降口Pが開閉される)。
【0037】
かごドア反転手段62は、赤外線ビームが遮断されたとき、つまりマルチビームセンサ51から検知信号を取得したときに、閉扉中のかごドア22を反転させる、又はかごドア22が開扉状態であれば、それを継続する機能を有する。例えば、かごドア反転手段62は、マルチビームセンサ51から検知信号を取得している間、かごドア開閉手段61に対して閉扉を中止又は禁止させる指令を出力することで、かごドア22の反転等を実行する。或いは、かごドア22が閉扉中である場合には、かごドア開閉装置23に対して開扉指令を出力することでかごドア22を反転させてもよい。
【0038】
センサ起動手段63は、かごドア22が開扉されてからかごドア22の閉扉が開始されるまでの間に、マルチビームセンサ51の全ての投受光器ペアを起動させる機能を有する。例えば、センサ起動手段63は、かごドア開閉手段61から開扉指令を取得することでかごドア22の開扉を認識する。そして、開扉指令を取得してから所定時間経過後(例えば、かごドア22が全開するまでにかかる時間の経過後)に、マルチビームセンサ51に対して、センサを起動させる起動指令を出力することで、全ての投受光器ペアの起動を実行する。
【0039】
センサ停止手段64は、かごドア22が閉扉されるときに、かごドア22の閉扉に合わせて、閉じられた乗降口部分に対応する投受光器ペアを順次停止させる機能を有する。例えば、センサ停止手段64は、かごドア開閉手段61から閉扉指令を取得することでかごドア22の閉扉開始を認識する。そして、かごドア22の閉扉のタイミングに合わせて、マルチビームセンサ51に対して、閉じられた乗降口部分に対応する投受光器ペアを停止させる停止指令を順次出力する。つまり、かごドア22の先端が赤外線ビームの照射位置を通過した場合に、当該赤外線ビームに対応する投受光器ペアを停止させる。例えば、各投受光器ペアに予めアドレスを設定しておき、停止指令に当該アドレスを付して出力する方法が例示できる。
【0040】
また、センサ停止手段64は、係合装置(例えば、係合バー24)の位置を特定する機能を有する。そして、センサ停止手段64は、特定された係合バー24の位置に基づいて、赤外線ビームの照射位置をかごドア22の先端が通過してから係合バー24が通過するまでに対応する投受光器ペアを順次停止させる。なお、係合バー24の位置は、かごドア22の閉扉開始のタイミングを取得し、かごドア22における係合バー24の設置位置やかごドア22の閉扉速度(モータ33の回転速度等)に基づいて特定することができる。 かごドア22の閉扉速度や開扉指令が出力されてからドアが全開するまでの時間、閉扉指令が出力されてからドアが全閉されるまでの時間等は、制御パラメータとして予め記憶(登録)しておくことが可能で、例えば、記憶部等に記憶される。また、ゲートスイッチやリミットスイッチの検知信号を取得し、かごドア22の閉扉レベルを特定してもよい。
【0041】
ここで、図5のフローチャートを参照して、エレベータ10に設置された安全装置50の動作を例示する。
【0042】
まず初めに、かごドア22が開扉されたか否かを判定する(S10)。そして、かごドア22(ドア)の開扉が確認されたときには、マルチビームセンサ51の全ての投光器52及び受光器53、つまり全ての投受光器ペアを起動する(S11)。なお、S10及びS11の手順は、センサ起動手段63の機能によって実行される。
センサ起動手段63は、上記のように、かごドア開閉手段61から開扉指令を取得することでかごドア22の開扉を認識し、マルチビームセンサ51に対して起動指令を出力することで上記手順を実行する。
【0043】
次に、マルチビームセンサ51が起動されると、投光器52から投光された赤外線ビームが遮断されたか否かを判定する(S12)。この手順は、かごドア反転手段62の機能によって実行することもできるが、本実施形態では、マルチビームセンサ51において実行される。つまり、マルチビームセンサ51は、赤外線ビームが遮断されたときに、検知信号をかごドア反転手段62に対して出力する。
そして、赤外線ビームが遮断されたとき、即ちマルチビームセンサ51から検知信号を取得したときには、かごドア22の開扉状態を継続する(S13)。この手順は、かごドア反転手段62の機能によって実行される。かごドア反転手段62は、例えば、かごドア開閉手段61に対して閉扉指令出力禁止の指令を出力することで、かごドア22の開扉状態を継続する。
【0044】
次に、かごドア22の閉扉が開始されたか否かを判定する(S14)。そして、かごドア22の閉扉開始が確認されたときには、かごドア22の閉扉に合わせて閉じられた乗降口部分Pzに対応する投受光器ペアを順次停止させる(S15)。なお、S14及びS15の手順は、センサ停止手段64の機能によって実行される。
センサ停止手段64は、上記のように、かごドア開閉手段61から閉扉指令を取得することでかごドア22の閉扉開始を認識し、マルチビームセンサ51に対して乗降口部分Pzに対応する投受光器ペアのアドレスを付した停止指令を順次出力することで上記手順を実行する。
【0045】
なお、かごドア22の閉扉過程においても、開放された乗降口部分Pxに対応する投受光器ペアは起動されているので、S12と同様に、投光器52から投光された赤外線ビームが乗降口部分Pxで遮断されたか否かを判定して(S16)、赤外線ビームが遮断されたときには、かごドア22を反転させる(S17)。かごドア反転手段62は、例えば、かごドア開閉装置23に対して開扉指令を出力することで、かごドア22を反転させることができる。
なお、かごドア22が反転したときには、再度S10の手順に戻ることになる。
【0046】
以上のように、安全装置50は、乗降口Pを通過する利用者を検知するマルチビームセンサ51と、制御装置60とを備え、マルチビームセンサ51は、最上階より上方の昇降路壁Aに設置され、乗降口Pを縦断する赤外線ビームを投光する投光器52と、最下階より下方の昇降路壁Aに設置され、投光器52から投光された赤外線ビームを受光する受光器53とを有する。なお、投光器52及び受光器53は、乗降口の横方向に対して所定間隔で複数の赤外線ビームが縦断するように投受光器ペアを構築している。また、制御装置60は、安全装置50の制御機能として、かごドア反転手段62と、センサ起動手段63と、センサ停止手段64とを含む。
【0047】
したがって、投光器52及び受光器53が昇降路壁Aに設置されているので、かごドア22に衝撃等が加わっても投受光器ペアの芯ズレや破損が発生しない。
また、乗降口Pを縦断する赤外線ビームを用いることによって、乗降口Pを通過する検知対象が横方向に沿って平坦な台車等であっても容易に検知できる。
また、乗降口Pの横方向の長さよりも縦方向の長さの方が長いため、同等以上の検知精度を備えながら、従来のMBセンサよりも赤外線ビームの本数、即ち投光器52及び受光器53の設置台数を大幅に削減して、コスト低減やメンテナンス性向上を実現できる。
更に、センサ起動手段63及びセンサ停止手段64の機能によって、係合装置による赤外線ビームの遮断を防止することができる。即ち、マルチビームセンサ51の誤作動を防止することができる。
【0048】
<第2実施形態>
図6及び図7を参照して、第2実施形態を詳細に説明する。
なお、第2実施形態において、第1実施形態と同一の構成要素については、同一の符号を付して重複する説明を省略する。
【0049】
図6に示すように、安全装置80は、マルチビームセンサ81と、制御装置60とを備える。安全装置80のマルチビームセンサ81は、昇降路壁Aではなく、投光器82が乗りかご12の上部に、受光器83が乗りかご12の下部にそれぞれ設置されている。つまり、安全装置80は、マルチビームセンサ81の設置形態が、安全装置50の場合と異なっている。
【0050】
具体的に、投光器82は、乗りかご12の天井の上(かご上とする)に投光器用ブラケット84を介して設置されている。投光器用ブラケット84は、投光器82から投光される赤外線ビームが、乗りかご12と乗場13との間に形成される乗降口Pを縦断するように、投光器82を乗降口Pの鉛直上方に配置する。つまり、投光器用ブラケット84は、投光器82と乗場13とが接触しない範囲で、投光器82をかごドア22の位置よりも乗場13側に突出させて、投光器82から乗降口Pを縦断する赤外線ビームの投光を可能にする。
【0051】
受光器83は、乗りかご12のかごドア敷居31の下(かご下とする)に受光器用ブラケット85を介して設置されている。そして、受光器用ブラケット85は、受光器83が投光器82から投光されて乗降口Pを縦断した赤外線ビームを受光可能なように、受光器83を投光器82及び乗降口Pの鉛直下方に配置する。つまり、受光器用ブラケット85は、受光器83と乗場13とが接触しない範囲で、受光器83をかごドア敷居31等の受光障害物の位置よりも乗場13側に突出させて、投光器82から投光される赤外線ビームの受光を可能にする。
【0052】
図7に示すように、マルチビームセンサ81は、マルチビームセンサ51と同様に、複数の投光器82及び受光器83のペアから構成され、乗降口Pの横方向に対して複数の赤外線ビーム(その光路を鎖線矢印で示す)を縦断させる。各投受光器ペアでは、投光器82と受光器83とが鉛直方向に沿って配置され、各投光器82から投光される赤外線ビームは、鉛直方向に沿って平行に進む。
【0053】
但し、上記のように、投光器82及び受光器83は、かごドア22等の位置よりも乗場13側に突出しているので、各乗場13において乗りかご12側に突出した乗場ドア係合部27との接触を防止するため、乗場ドア係合部27に対応する位置、つまり係合バー24aと、係合バー24bとの間に対応する位置を避けて設置されている。
なお、図7では、ドアの全閉状態を示しているので、後述するセンサ停止手段64の機能によって投受光器ペアが停止され、赤外線ビームが照射されていないことが好ましい。
【0054】
なお、上記実施形態は、本発明の目的を損なわない範囲で設計変更することができる。 例えば、投光器52及び受光器53は、乗場13ごとに設置されてもよい。つまり、受光器53は、投光器52との間に1つの乗場13を隔てて設置されてもよい。当該構成によれば、センサ停止手段64の機能によって、乗場ドア係合部27の列上に投光器52を設置することができ、赤外線ビームの密度を更に高めることができる。
【0055】
また、上記では、投光器及び受光器を上下に対向配置するものとして説明したが、反射体を用いることで、投光器及び受光器を同じ側に配置してもよい(例えば、交互に配置)。具体的には、かご上及びかご下の片方側に設置され、乗降口を縦断する赤外線ビームを投光する投光器と、かご上及びかご下の他方側に設置され、投光器から投光された赤外線ビームを受光器の方向に反射する反射体と、反射体から反射された赤外線ビームを受光する受光器とを有する検知装置とすることができる。
【符号の説明】
【0056】
10 エレベータ、11 昇降路、12 乗りかご、13 乗場、14 緩衝器、15 ピット、16 上部機械室、17 巻上げ機、18 カウンターウエイト、19 主ロープ、20 かご内操作盤、21 かご開口、22 かごドア、23 かごドア開閉装置、24 係合バー、25 乗場開口、26 乗場ドア、27 乗場ドア係合部、27a 第1係合部、27b 第2係合部、28,36 ハンガーローラ、29,37 ハンガープレート、30 かごドアレール、31 かごドア敷居、32 かごドアアーム、33 モータ、34 駆動プーリ、35 駆動アーム、38 乗場ドアレール、39 乗場ドア敷居、40 ロック装置、41 係止部、42 係止片、43 滑車、44 連動ベルト、50,80 エレベータの安全装置(安全装置)、51,81 マルチビームセンサ、52,82 投光器、53,83 受光器、54,84 投光器用ブラケット、55,85 受光器用ブラケット、60 制御装置、61 かごドア開閉手段、62 かごドア反転手段、63 センサ起動手段、64 センサ停止手段、P 乗降口。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗降口を通過する利用者を検知する検知装置と、
検知装置の検知情報に基づいて、乗降口を開閉するドアの動作を制御する制御装置と、
を備えたエレベータの安全装置において、
検知装置は、
昇降路壁の上階側又は下階側のいずれか一方に設置され、乗降口を縦断する赤外線ビームを投光する投光器と、
投光器との間に少なくとも1つの乗場を隔てて昇降路壁の上階側又は下階側のいずれか他方に設置され、投光器から投光された赤外線ビームを受光する受光器と、
を有し、赤外線ビームが遮断されることで乗降口を通過する利用者を検知することを特徴とするエレベータの安全装置。
【請求項2】
乗降口を通過する利用者を検知する検知装置と、
検知装置の検知情報に基づいて、乗降口を開閉するドアの動作を制御する制御装置と、
を備えたエレベータの安全装置において、
検知装置は、
かご上及びかご下のいずれか一方に設置され、乗降口を縦断する赤外線ビームを投光する投光器と、
かご上及びかご下のいずれか他方に設置され、投光器から投光された赤外線ビームを受光する受光器と、
を有し、赤外線ビームが遮断されることで乗降口を通過する利用者を検知することを特徴とするエレベータの安全装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の安全装置において、
投光器及び受光器は、
乗降口の横方向に対して所定間隔で複数の赤外線ビームが縦断するようにそれぞれ複数個設置され、各投光器から投光された赤外線ビームは予め定められた受光器によって受光されるように投受光器ペアを構築していることを特徴とするエレベータの安全装置。
【請求項4】
請求項3に記載の安全装置において、
制御装置は、
ドアが開扉されてからドアの閉扉が開始されるまでの間に、検知装置の全ての投受光器ペアを起動する起動手段と、
ドアが閉扉されるときに、ドアの閉扉に合わせて閉じられた乗降口部分に対応する投受光器ペアを順次停止させる停止手段と、
を含むことを特徴とするエレベータの安全装置。
【請求項5】
請求項4に記載の安全装置において、
制御装置は、
ドアが閉扉されるときに、かごドア及び乗場ドアの互いに対向する面に各々取り付けられ、かごドアと乗場ドアとを係合して連動させる係合装置の位置を特定する手段を含み、
停止手段は、特定された係合装置の位置に基づいて、係合装置が赤外線ビームの光路上を通るまでに対応する投受光器ペアを順次停止させることを特徴とするエレベータの安全装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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