エレベータの自動診断装置
【課題】エレベータの状況に応じて診断運転を行うべきメニューを適宜変更して、異常箇所を効率的に検出する。
【解決手段】運転制御部21から出力される通常運転時の各機器の動作データを記録部22に記録する。異常検出部23は、この記録部22に記録された各機器の動作データに基づいて異常の可能性を判断すると共に、その異常原因を検証するための少なくとも2つ以上の診断運転メニューをメニューリスト24から選択し、これらの診断運転メニューに対応した診断運転を運転制御部21に実施させる。運転制御部21では、現在のエレベータ11の状況に基づいて優先順位テーブル25に記憶された優先順位を変更し、その変更後の優先順位に従って、各診断運転メニューに対応した診断運転を実施する。
【解決手段】運転制御部21から出力される通常運転時の各機器の動作データを記録部22に記録する。異常検出部23は、この記録部22に記録された各機器の動作データに基づいて異常の可能性を判断すると共に、その異常原因を検証するための少なくとも2つ以上の診断運転メニューをメニューリスト24から選択し、これらの診断運転メニューに対応した診断運転を運転制御部21に実施させる。運転制御部21では、現在のエレベータ11の状況に基づいて優先順位テーブル25に記憶された優先順位を変更し、その変更後の優先順位に従って、各診断運転メニューに対応した診断運転を実施する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレベータの異常箇所を自動診断するためのエレベータの自動診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、エレベータの保守社会では、定期的に保守員を現場に派遣して、各物件のエレベータを保守点検し、異常の有無を調べている。しかし、保守員が各物件を巡回しながら、多数の点検項目を1つ1つ点検していくのでは、非常に時間がかかってしまい、また、保守員の負担も大きい。
【0003】
そこで、近年では、その点検作業を自動化するためのシステムが考えられている。例えば、特許文献1では、夜間の時間帯など、所定のスケジュールに従ってエレベータ(乗りかご)を自動運転して、異常箇所を点検する。また、特許文献2では、休止スイッチが操作されたときに点検運転を行って異常箇所を点検する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−271229号公報
【特許文献2】特開平6−144736号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した特許文献1では、予め決められた時間帯にならないと点検運転が行われず、しかも、点検運転を行う箇所や順番が固定化されている。このため、その時間帯以外で何らかの異常が生じた場合に迅速に対応できず、復旧に遅れが生じるなどの問題がある。
【0006】
また、上記特許文献2のようなスイッチ操作による方法でも同様であり、休止スイッチが操作されたときでないと点検運転が行われないため、それ以外のときの異常発生に対応できないといった問題がある。
【0007】
本発明は上記のような点に鑑みなされたもので、エレベータの状況に応じて診断運転を行うべきメニューを適宜変更して、異常箇所を効率的に検出することのできるエレベータの自動診断装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るエレベータの自動診断装置は、エレベータの運転制御を行う運転制御手段と、この運転制御手段から出力される通常運転時の各機器の動作データを記録する記録手段と、複数の診断運転メニューを記憶したメニューリスト手段と、このメニューリスト手段に記憶された複数の診断運転メニューの優先順位を記憶する優先順位テーブル手段と、上記記録手段に記録された各機器の動作データに基づいて異常の可能性を判断すると共に、その異常原因を検証するための少なくとも2つ以上の診断運転メニューを上記メニューリスト手段から選択し、これらの診断運転メニューに対応した診断運転を上記運転制御手段に実施させる異常検出手段とを備え、上記運転制御手段は、現在のエレベータの状況に基づいて上記優先順位テーブル手段に記憶された優先順位を変更し、その変更後の優先順位に従って、上記異常検出手段によって選択された各診断運転メニューに対応した診断運転を実施することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、エレベータの状況に応じて診断運転を行うべきメニューを適宜変更して、異常箇所を効率的に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は本発明の自動診断装置が適用されるエレベータの全体構成を示す図である。
【図2】図2は本発明の第1の実施形態に係るエレベータ制御装置の自動診断機能の構成を示すブロック図である。
【図3】図3は同実施形態におけるメニューリストの一例を示す図である。
【図4】図4は同実施形態におけるエレベータ制御装置の運転制御部による自動診断の処理動作を示すフローチャートである。
【図5】図5は同実施形態におけるエレベータ制御装置の運転制御部による診断運転メニューの優先順位を変更する場合の処理動作を示すフローチャートである。
【図6】図6は同実施形態における診断運転メニューの変更前後の優先順位の具体例を示す図である。
【図7】図7は本発明の第2の実施形態に係るエレベータ制御装置の自動診断機能の構成を示すブロック図である。
【図8】図8は同実施形態におけるエレベータ制御装置の運転制御部による診断運転メニューの優先順位の変更処理を示すフローチャートである。
【図9】図9は本発明の第3の実施形態に係るエレベータ制御装置の自動診断機能の構成を示すブロック図である。
【図10】図10は同実施形態における機器の設置日(交換日)と寿命年数の一例を示す図である。
【図11】図11は同実施形態におけるエレベータ制御装置の運転制御部による診断運転メニューの優先順位変更処理を示すフローチャートである。
【図12】図12は本発明の第4の実施形態に係るエレベータ制御装置の自動診断機能の構成を示すブロック図である。
【図13】図13は本発明の第5の実施形態に係る監視センタとエレベータとの通信システムの構成を示すブロック図である。
【図14】図14は本発明の第6の実施形態に係るエレベータ制御装置の自動診断機能の構成を示すブロック図である。
【図15】図15は同実施形態における診断運転中の表示例を示す図である。
【図16】図16は同実施形態における診断運転メニューの優先順位変更中の表示例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
【0012】
(第1の実施形態)
図1は本発明の自動診断装置が適用されるエレベータの全体構成を示す図である。今、あるビル10に1台のエレベータ11が設置されているものとする。
【0013】
エレベータ11は、ビル10の機械室10aに設置された巻上機12と、その巻上機12に巻き掛けられたロープ13と、このロープ13を介して互いにつるべ式に昇降動作する乗りかご14とカウンタウェイト15を有する。
【0014】
また、機械室10aには、一般に「制御盤」などと呼ばれているエレベータ制御装置16が設置されている。このエレベータ制御装置16は、CPU、ROM、RAM等を搭載したコンピュータからなり、エレベータ11の運転制御を行うと共に、ここでは自動診断装置としての機能を備える。また、このエレベータ制御装置16は、電話回線網等の通信ネットワーク17を介して監視センタ18に接続されている。
【0015】
監視センタ18は、エレベータ11の動作状態を通信ネットワーク17を介して遠隔監視しており、何らかの異常を検知すると、その現場に保守員を派遣するなどの対処を行う。なお、図1の例では、1台のエレベータ11しか図示されていないが、実際には各地に点在する多数のエレベータが通信ネットワーク17を介して監視センタ18に接続されており、監視センタ18では、これらのエレベータの動作状態を常時監視している。
【0016】
さらに、昇降路11aには、エレベータ11の運転動作に影響する状況を検知するための感知器19が設置されている。エレベータ11の運転動作に影響する状況とは、例えばピット(底部)の浸水や、通常の運転に支障が生じるような所定レベル以上の地震や強風などである。この感知器19によって検知された信号は、エレベータ制御装置16に与えられる。
【0017】
なお、図1の例では、エレベータ11の構成として、機械室10a(マシンルーム)に巻上機12が設置された構成を示したが、本発明は特に構成に限定されるものではなく、例えば昇降路11a内の最上部あるいはピット(底部)に巻上機12が設置されたマシンルームレスタイプの構成であっても良い。
【0018】
図2は本発明の第1の実施形態に係るエレベータ制御装置16の自動診断機能の構成を示すブロック図である。
【0019】
エレベータ制御装置16は、自動診断を実現するための機能として、運転制御部21、記録部22、異常検出部23、メニューリスト24、優先順位テーブル25を備える。
【0020】
運転制御部21は、エレベータ11の運転制御を行うと共にエレベータの診断運転を実施する。また、後述するように診断運転のメニューには予めデフォルトで優先順位が付けられており、運転制御部21は、感知器19から出力される検知信号に基づいて、その優先順位を変更する処理を行う。
【0021】
記録部22は、運転制御部21から出力される通常運転時の各機器の動作データを定期的に更新しながら最新の運転記録として保持する。また、この記録部22は、運転制御部21による自動診断の結果を保持する。さらに、この記録部22には、自動診断のためのメニューリスト24と優先順位テーブル25が設けられている。
【0022】
メニューリスト24には、図3に示すように、「モータ」、「ブレーキ」、「ロープ」…といった各機器あるいは部位の状態を自動診断するための複数の診断運転メニューが予め登録されている。
【0023】
図中の「メニューA−1」,「メニューA−2」,「メニューA−3」…は、巻上機12のモータの状態を自動診断するための診断運転メニューを示す。また、「メニューB−1」,「メニューB−2」,「メニューB−3」…は、巻上機12に設置された図示せぬ電磁ブレーキの状態を自動診断するための診断運転メニューであり、「メニューC−1」,「メニューC−2」,「メニューC−3」…は、ロープ13の状態を自動診断するための診断運転メニューである。
【0024】
優先順位テーブル25は、このメニューリスト24に登録された各診断運転メニューに設定された優先順位を記憶している。
【0025】
異常検出部23は、記録部22に記録された各機器の動作データ(運転記録)に基づいて異常の可能性を判断し、異常の可能性がある場合にメニューリスト24の中から異常原因を検証するための少なくとも2つ以上の診断運転メニューを選択して、これらの診断運転メニューに対応した診断運転を運転制御部21に実施させる。
【0026】
運転制御部21は、この異常検出部23によって選択された診断運転メニューに対応した診断運転を行い、そのときの各機器の動作データを診断結果として記録部22に記録する。
【0027】
次に、同実施形態の動作について説明する。
図4はエレベータ制御装置16の運転制御部21による自動診断の処理動作を示すフローチャートである。なお、このフローチャートに示される処理は、コンピュータであるエレベータ制御装置16が所定のプログラムを読み込むことにより実行される。他のフローチャートについても同様であり、エレベータ制御装置16が所定のプログラムを読み込むことにより実行される。
【0028】
図4に示すように、まず、通常運転時に運転制御部21がエレベータ11を運転制御しながら(ステップS101)、異常判断に必要な各機器の動作データを記録部22に順次記録していく(ステップS102)。この場合、通常運転時の最新のデータを残すように、古いデータを更新しながら記録することで、一定期間分の連続データを履歴として残す。これにより、記録部22には通常運転時のトレースデータが一定期間分保存されることになる。
【0029】
異常検出部23は、記録部22に記録された動作データに基づいて異常検出を行う(ステップS103)。詳しくは、例えば巻上機12のモータであれば、そのトルク値を動作データとして取得し、予め設定されたトルクの正常値と比較する。その結果、両者の差分が所定値以上の状態が一定期間連続して検出された場合に異常の可能性ありと判断する。
【0030】
異常の可能性ありの場合(ステップS104のYes)、異常検出部23は、運転記録から異常原因である機器を特定すると共に(ステップS105)、その異常原因の検証に適した診断運転メニューをメニューリスト24の中から複数選択して運転制御部21へ伝える(ステップS106)。
【0031】
ここで、自己診断運転メニューは、各機器に対して複数用意されている。今、エレベータ11の乗りかご14が定格速度で走行したが、正常なモータトルクが出力されなかった場合を想定する。
【0032】
運転制御部21は、乗りかご14を定格走行で運転しながら、モータトルクの動作データを記録部22へ逐次記録している。異常検出部23は、記録部22の運転記録から正常なモータトルクが出力されていないことを確認すると、エレベータに異常の可能性があると判断する。更に、異常なモータトルクが出力される原因として、モータの○○部分の異常、ブレーキの△△の異常…、といったように異常原因として考えられる機器(部位)を特定する。
【0033】
異常の可能性がある機器(部位)を特定すると、図3に示すように複数用意されている診断運転メニューの中から適切な診断運転メニューを選択して運転制御部21へ伝える。図3の例では、モータ診断運転の「メニューA−1」とブレーキ診断運転の「メニューB−3」とロープ診断運転の「メニューC−1」が選択されている。
【0034】
「メニューA−1」は、例えば所定速度以下の低速速度で乗りかご14を1階床毎に動かし、そのときのトルク値の変化をチェックするといった内容を有する。「メニューB−3」は、例えば所定速度以下の低速速度で乗りかご14を1階床毎に動かし、そのときのブレーキの掛かり具合をチェックするといった内容を有する。「メニューC−1」は、例えば所定速度以下の低速速度で乗りかご14を1階床毎に動かし、そのときのロープの動きをチェックするといった内容を有する。
【0035】
運転制御部21は、異常検出部23から診断運転メニューを受け取ると、所定のタイミングで当該診断運転メニューに従った診断運転を実施する(ステップS107)。なお、所定のタイミングとは、例えば乗りかご14が一定時間以上停止状態にあり、呼びの登録がないとき(つまり、利用者に影響を与えないとき)である。
【0036】
ここで、図3に示した各機器の診断運転メニューには、例えばロープ診断運転メニュー>ブレーキ診断運転メニュー>モータ診断運転メニューといったように、デフォルトで優先順位が予め決められており、その優先順位の高い診断運転メニューから診断運転が実施される。なお、この優先順位は、記録部22に設けられた優先順位テーブル25に記憶されている。
【0037】
診断運転が実施されると、運転制御部21は、その診断結果を記録部22に記録する(ステップS108)。例えば上記メニューA−1の診断運転であれば、低速で乗りかご14を動かしながら、そのときのモータトルクの変化を診断結果として記録部22に記録することになる。
【0038】
このように、エレベータ側で通常運転時の各機器の動作データを監視しながら異常の可能性を判断し、異常の可能性がある場合にその異常原因を検出するための診断運転メニューを選択して診断運転を行う。これにより、何らかの原因で異常の兆候が現れた場合に、その状態を直ぐに察知して適切に対処することが可能となる。
【0039】
なお、記録部22のデータ記録エリアを通常運転用と診断運転用に分けておき、運転制御部21から出力される通常運転時の各機器の動作データ(通常データ)を第1の記録エリアに記録し、診断運転時の各機器の動作データ(診断データ)を第2の記録エリアに記録すれば、診断動作データを誤って消去せずに診断結果の記録として残しておくことができる。
【0040】
次に、診断運転メニューの優先順位を変更する場合の処理について説明する。
図5はエレベータ制御装置16の運転制御部21による診断運転メニューの優先順位を変更する場合の処理動作を示すフローチャートである。
【0041】
今、例えば昇降路11aのピットに巻上機12のモータが設置されたマシンルームレスタイプのエレベータにおいて、何らかの原因でピットが浸水している状況を想定する。
【0042】
運転制御部21は、上記ステップS107で診断運転を行うに際し、感知器19を通じてエレベータ11の状況を判断する(ステップS201)。これにより、エレベータ11の状況に異変がなければ(ステップS202のNo)、運転制御部21は、優先順位テーブル25に予め設定されているデフォルトの優先順位に従って診断運転を実施する(ステップS203)。
【0043】
一方、感知器19を通じてピットが浸水している状況を検知したら(ステップS202のYes)、運転制御部21は、優先順位テーブル25に予め設定されているデフォルトの優先順位をその状況に合わせて変更し(ステップS204)、その変更後の優先順位に従って診断運転を実施する(ステップS205)。
【0044】
図6は診断運転メニューの変更前後の優先順位の具体例を示す図である。
【0045】
変更前つまりデフォルトの優先順位が下記のようであったとする。
1.ロープ診断運転メニュー
2.ブレーキ診断運転メニュー
3.モータ診断運転メニュー。
【0046】
ここで、ピットが浸水している状況が検知された場合に、運転制御部21は、下記のように優先順位を変更する。
1.モータ診断運転メニュー
2.ブレーキ診断運転メニュー
3.ロープ診断運転メニュー。
【0047】
つまり、昇降路11aのピットに巻上機12のモータが設置されている場合には、浸水により故障の可能性が最も高いモータから診断し、続いて、巻上機12に設置されている図示せぬブレーキ機器を診断するように、診断運転メニューの優先順位を変更する。
【0048】
他の例としては、例えば所定レベル以上の地震を感知器19で検知した場合には、地震による影響でガイドレールが変形していたり、ロープが絡まっている状況が考えられるため、これらの診断を優先して行うように、1.ガイドレール診断、2.ロープ診断…といったように、地震状況に合わせて診断運転メニューの優先順位を変更する。
【0049】
また、例えば所定レベル以上の強風を感知器19にて検知した場合にき、強風による影響でロープや伝送ケーブルが絡まっている状況が考えられるため、これらの診断を優先して行うように、1.ロープ診断、2.伝送ケーブル診断…といったように、強風状況に合わせて診断運転メニューの優先順位を変更する。
【0050】
なお、伝送ケーブルの診断とは、例えば“1”,“0”の信号を送信して、正常に伝送されるか否かをチェックすることで行う。この場合、“1”の信号を送信して、“0”の信号を受信したら、伝送エラーとして検知する。
【0051】
このように、現在のエレベータ11の状況に応じて診断運転メニューの優先順位に適宜変更することで、効率的な診断運転を行うことができる。これにより、機器の異常を早期に検出して迅速に対応することができる。
【0052】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。
【0053】
第2の実施形態では、過去のエレベータ状況を考慮した優先順位の変更であり、感知器19によって同じ状況が検知された回数に基づいて診断運転メニューの優先順位を変更することを特徴とする。
【0054】
図7は本発明の第2の実施形態に係るエレベータ制御装置16の自動診断機能の構成を示すブロック図である。
【0055】
上記第1の実施形態(図2)と同様に、エレベータ制御装置16は、自動診断を実現するための機能として、運転制御部21、記録部22、異常検出部23、メニューリスト24、優先順位テーブル25を備える。
【0056】
ここで、第2の実施形態では、記録部22に感知器19によって同じ状況が検知された回数を記録しておくための回数記録部22aが設けられている。運転制御部21は、この回数記録部22aに記録された検知回数が所定回数に達した場合に診断運転メニューの優先順位を変更する。
【0057】
以下に、そのときの処理動作について説明する。
【0058】
図8は第2の実施形態におけるエレベータ制御装置16の運転制御部21による診断運転メニューの優先順位の変更処理を示すフローチャートである。今、例えば昇降路11aのピットに巻上機12のモータが設置されたマシンルームレスタイプのエレベータにおいて、ピットに浸水している状況を想定する。
【0059】
感知器19によってピットが浸水している状況が検知されると(ステップS301)、運転制御部21は、その検知信号を入力する毎に記録部22の回数記録部22aに記録された検知回数を+1ずつ更新する(ステップS302)。そして、この検知回数が所定の回数(例えば5回)に達した場合に(ステップS303のYes)、運転制御部21は、浸水によりモータやブレーキの故障可能性が高くなったとものと判断し、上記第1の実施形態と同様に、これらの診断を優先して行うべく、優先順位テーブル25に記憶された診断運転メニューの優先順位を変更する(ステップS304)。
【0060】
このように、同じ状況が何度も繰り返し検知された場合に、故障の可能性が最も高くなる機器の診断運転を優先するように、診断運転メニューの優先順位を変更することにより、不用意に順位変更することを防いで、最適な優先順位で診断運転を行うことができる。
【0061】
なお、上記実施形態では、ピットが浸水している状況を例にして説明したが、その他に地震や強風などを検知した場合も同様である。この場合、浸水:××回,地震:××回,強風:××回…といったように、検知対象毎に回数をそれぞれ記録しておき、その中で所定回数に達した検知対象に合わせて診断運転メニューの優先順位を変更する。
【0062】
また、検知回数だけでなく、検知時間を条件にして診断運転メニューの優先順位を変更することでも良い。すなわち、例えば浸水の例であれば、感知器19によって昇降路11aのピットが浸水している状況が所定時間以上続けて検知されたときに、診断運転メニューの優先順位を変更する。
【0063】
(第3の実施形態)
次に、本発明の第3の実施形態について説明する。
【0064】
第3の実施形態では、保守管理データに基づいて診断運転メニューの優先順位を変更することを特徴とする。
【0065】
図9は本発明の第3の実施形態に係るエレベータ制御装置16の自動診断機能の構成を示すブロック図である。
【0066】
上記第1の実施形態(図2)と同様に、エレベータ制御装置16は、自動診断を実現するための機能として、運転制御部21、記録部22、異常検出部23、メニューリスト24、優先順位テーブル25を備える。
【0067】
第3の実施形態では、上記構成に加え、さらに保守管理部26が設けられている。保守管理部26は、エレベータ11の各機器の保守管理データを記憶している。上記保守管理データは、エレベータ11の各機器の設置日(交換日)と、寿命年数を含む。
【0068】
このような構成において、診断運転メニューには優先順位が設定されており、優先順位の高い診断運転メニューから順に診断運転が実施される。また、現在のエレベータの状況に応じて優先順位が変更されることは既に述べた通りである。
【0069】
ここではさらに、保守管理部26に記憶されている保守管理データに含まれる各機器の設置日(交換日)と寿命年数から、診断運転メニューの優先順位を変更する方法について説明する。
【0070】
例えば、本日を2008年8月1日とし、機器A・機器Bの設置日(交換日)と寿命年数が図10のようであったとする。
【0071】
機器Aは設置日(交換日)から1年間使用しているが、寿命年数が5年であるので、寿命年数の20%しか使用していない。機器Bは設置日(交換日)から半年しか使用していないが、寿命年数は1年であるので、寿命年数の50%を使用している。このような場合、寿命年数の20%しか使用していない機器Aよりも、寿命年数の50%の期間を使用している機器Bの方が故障している可能性が高い。
【0072】
この考え方を用いて、診断運転メニューの優先順位を変更する方法について説明する。
【0073】
図11は第3の実施形態におけるエレベータ制御装置16の運転制御部21による診断運転メニューの優先順位変更処理を示すフローチャートである。
【0074】
運転制御部21は、保守管理部26から各機器の設置日(交換日)や寿命年数を含む保守管理データを取得し(ステップS401)、上記の例のように寿命年数に対する使用期間の比率が何%であるのか算出する(ステップS402)。
【0075】
ここで、運転制御部21は、上記算出した数値が一定値(例えば80%)を超えている機器に対しては(ステップS403のYes)、寿命年数に近い期間使用しているために他の機器よりも故障している可能性が高いものと判断し、当該機器に関する診断運転メニューの優先度順位を上げるように、優先順位テーブル25に記憶された診断運転メニューの優先順位を変更する(ステップS404)。
【0076】
このように、寿命年数に対する使用期間の比率から故障の可能性が高い機器を優先して診断運転することで、異常箇所をより早く効率的に検出できるようになる。
【0077】
(第4の実施形態)
次に、本発明の第4の実施形態について説明する。
【0078】
第4の実施形態では、外部端末からの指示に従って診断運転メニューの優先順位を変更することを特徴とする。
【0079】
図12は本発明の第4の実施形態に係るエレベータ制御装置16の自動診断機能の構成を示すブロック図である。
【0080】
上記第1の実施形態(図2)と同様に、エレベータ制御装置16は、自動診断を実現するための機能として、運転制御部21、記録部22、異常検出部23、メニューリスト24、優先順位テーブル25を備える。
【0081】
第4の実施形態では、上記構成に加え、さらにメンテナンス専用装置27が設けられている。メンテナンス専用装置27は、保守員がエレベータのメンテナンスで使用する携帯型の端末装置である。このメンテナンス専用装置27には、メンテナンスに必要なアプリケーションが搭載されている。保守員は、このメンテナンス専用装置27をエレベータ制御装置16に接続した状態で、診断運転メニューの優先順位の変更を含むメンテナンスを行う。
【0082】
なお、メンテナンス専用装置27とエレベータ制御装置16との接続方法は、通信ケーブルでも無線通信でも良く、本発明はその接続方法について特に限定されるものではない。
【0083】
このような構成において、診断運転メニューには優先順位が設定されており、優先順位の高い診断運転メニューから順に診断運転が実施される。また、現在のエレベータの状況に応じて優先順位が変更されることは既に述べた通りである。
【0084】
ここではさらに、メンテナンス専用装置19によって優先順位を変更する方法を説明する。
【0085】
運転制御部21は、メンテナンス専用装置19から優先順位変更指令を受信すると、優先順位テーブル25に設定されている診断運転メニューの優先順位を変更するモードに切り替える。このモード中は、メンテナンス専用装置19の操作によって、任意の診断運転メニューの優先順位を変更したり、全ての診断運転メニューに対して優先順位を付け直すことができる。
【0086】
診断運転メニューが追加された場合の優先順位も、メンテナンス専用装置19から設定可能とする。これにより、何らかの理由で現在の診断運転メニューの優先順位を変えたい場合や、より良い診断運転方法が開発されて、メニュー追加する場合に柔軟に対応することができる。
【0087】
また、優先順位を変更前のデフォルト値に戻したい場合は、メンテナンス専用装置19から運転制御部21へ優先順位初期化指令を送信する。これにより、優先順位テーブル25に現在設定されている診断運転メニューの優先順位をデフォルトの優先順位に戻すことができる。
【0088】
このように、外部装置であるメンテナンス専用装置27を用いて診断運転メニューの優先順位を任意に変更でき、その変更された優先順位で診断運転を行うことができる。
【0089】
(第5の実施形態)
次に、本発明の第5の実施形態について説明する。
【0090】
第5の実施形態では、監視センタからの指示に従って診断運転メニューの優先順位を変更することを特徴とする。
【0091】
図13は本発明の第5の実施形態に係る監視センタとエレベータとの通信システムの構成を示すブロック図である。
【0092】
監視センタ18と各地に点在するエレベータ11a,11b,11c…とが通信ネットワーク17を介して接続されている。監視センタ18は、エレベータ11a,11b,11c…の運転状態を遠隔監視している。
【0093】
エレベータ11aは、運転制御部21a、記録部22a、異常検出部23aが設けられている。ここで、監視センタ18と異常検出部23aは遠隔通信可能な構成とする。他のエレベータ11b,11c…についても同様の構成である。
【0094】
このような構成において、エレベータ11aに着目して、診断運転時の処理動作について説明する。
【0095】
診断運転の結果、異常と判断された場合は、運転制御部21aは異常原因と診断運転中のデータを記録部22aに記録する。この後、異常検出部23aは異常があったことを外部に知らせるために、記録部22aに記録した異常原因と診断運転中のデータを遠隔通信によって監視センタ18へ送信する。これにより、監視センタ18側で直ぐに状況を把握して、迅速かつ適切な対応を採ることができる。
【0096】
なお、診断運転の結果、異常が認められなくても、診断運転を実施したことを異常検出部23aから監視センタ18に伝える。さらに、現在設定されている診断運転の優先順位を監視センタ18へ伝える。
【0097】
また、診断運転を実施したが、故障やエラーが発生して途中で終了した場合も、その旨の報告と失敗した診断運転メニュー、異常時の記録などを異常検出部23aから監視センタ18へ伝える。
【0098】
ここで、監視センタ18からの指示により、診断運転メニューの優先順位を変更することも可能である。
【0099】
すなわち、運転制御部21aは、異常検出部23を介して監視センタ18から優先順位変更指令を受信すると、診断運転メニューの優先順位を変更するモードに切り替える。このモード中は、監視センタ18からの指示によって、任意の診断運転メニューの優先順位を変更したり、全ての診断運転メニューに対して優先順位を付け直すことができる。
【0100】
診断運転メニューが追加された際の優先順位も、監視センタ18からの指示によって設定可能とする。これにより、何らかの理由で現在の診断運転メニューの優先順位を変えたい場合や、より良い診断運転方法が開発されて、メニュー追加する場合に柔軟に対応することができる。
【0101】
また、優先順位を変更前のデフォルト値に戻したい場合は、監視センタ18から異常検出部23を経由して運転制御部21へ優先順位初期化指令を送信する。これにより、現在設定されている診断運転メニューの優先順位をデフォルトの優先順位に戻すことができる。他のエレベータ11b,11c…についても同様である。
【0102】
このように、監視センタ18に対して異常原因や診断結果、さらに現在の優先順位などを伝えることにより、監視センタ18側ではエレベータ11a,11b,11c…の診断運転の状況を容易に把握することができる。また、監視センタ18からの指示により、診断運転メニューの優先順位を任意に変更することもできる。
【0103】
(第6の実施形態)
次に、本発明の第6の実施形態について説明する。
【0104】
第6の実施形態では、診断運転を実施しているときに、その旨を通知することを特徴とする。
【0105】
図14は本発明の第6の実施形態に係るエレベータ制御装置16の自動診断機能の構成を示すブロック図である。
【0106】
上記第1の実施形態(図2)と同様に、エレベータ制御装置16は、自動診断を実現するための機能として、運転制御部21、記録部22、異常検出部23、メニューリスト24、優先順位テーブル25を備える。
【0107】
第6の実施形態では、上記構成に加え、さらに利用者への通知手段として、かご内に設置されたディスプレイ31とアナウンス装置32、各階のエレベータホール(乗場)に設置されたディスプレイ33とアナウンス装置34を備える。
【0108】
このような構成において、運転制御部21は、異常検出部23から診断運転メニューを受け取ると診断運転を実施する。このとき、乗りかご14が動作するため、利用者が誤って乗車したり、故障であると勘違いすることがある。そこで、診断運転中は運転制御部21がかご内のディスプレイ31とアナウンス装置32、さらに、エレベータホールのディスプレイ33とアナウンス装置34に対し、例えば「しばらくお待ちください」、「診断運転中です」といった通知データを送信する。
【0109】
アナウンス装置32、34は、この通知データを音声信号に変えて出力する。また、ディスプレイ31,33は、この通知データに対応した文字列を診断運転が終了するまで表示し続ける。これにより、診断運転中に利用者が誤って乗車することを防止できる。
【0110】
また、診断運転中は、運転制御部21は、その診断運転のメニュー名をかご内のディスプレイ31とエレベータホールのディスプレイ33に表示させる。図15にその表示例を示す。これにより、利用者に具体的などのような診断運転を行っているのかを理解してもうことができる。
【0111】
さらに、診断運転メニューの優先順位変更が発生している場合も、運転制御部21は、「優先順位変更中」といったような文字列をかご内のディスプレイ31とエレベータホールのディスプレイ33に表示させる。図16にその表示例を示す。この場合、利用者にとっては診断運転の優先順位の変更有無は特に気にする情報ではない。しかし、診断運転中に保守員が立ち入った場合に、優先順位を変更する要因がある事を知ることができ、利用者に対して注意を促すことができる。
【0112】
このように、診断運転中だけでなく、診断運転メニューの優先順位を変更している場合も含めて、そのときの状況を表示あるいは音声にて通知することで、利用者には誤乗車を防止でき、保守員には現状を知らしめて対処させることができる。
【0113】
以上のように、本発明によれば、エレベータの各機器の動作状態から診断すべき箇所を特定し、それに合った診断運転メニューを自己判断で決定して実施することができる。その際、現在のエレベータの状況に応じて、診断運転メニューの優先順位を適宜変更して実施することで、異常の可能性の高い箇所や機器を優先して診断できる。これにより、異常発生を早期に発見して適切に対処することができるようになる。
【0114】
なお、本発明は上記各実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記各実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の形態を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を省略してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0115】
10…ビル、11…エレベータ、11a…昇降路、12…巻上機、13…ロープ、14…乗りかご、15…カウンタウェイト、16…エレベータ制御装置、17…通信ネットワーク、18…監視センタ、19…感知器、21…運転制御部、22…記録部、23…異常検出部、24…メニューリスト、25…優先順位テーブル、26…保守管理部、27…メンテナンス専用装置、31…かご内のディスプレイ、32…かご内のアナウンス装置、33…エレベータホールのディスプレイ、34…エレベータホールのアナウンス装置。
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレベータの異常箇所を自動診断するためのエレベータの自動診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、エレベータの保守社会では、定期的に保守員を現場に派遣して、各物件のエレベータを保守点検し、異常の有無を調べている。しかし、保守員が各物件を巡回しながら、多数の点検項目を1つ1つ点検していくのでは、非常に時間がかかってしまい、また、保守員の負担も大きい。
【0003】
そこで、近年では、その点検作業を自動化するためのシステムが考えられている。例えば、特許文献1では、夜間の時間帯など、所定のスケジュールに従ってエレベータ(乗りかご)を自動運転して、異常箇所を点検する。また、特許文献2では、休止スイッチが操作されたときに点検運転を行って異常箇所を点検する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−271229号公報
【特許文献2】特開平6−144736号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した特許文献1では、予め決められた時間帯にならないと点検運転が行われず、しかも、点検運転を行う箇所や順番が固定化されている。このため、その時間帯以外で何らかの異常が生じた場合に迅速に対応できず、復旧に遅れが生じるなどの問題がある。
【0006】
また、上記特許文献2のようなスイッチ操作による方法でも同様であり、休止スイッチが操作されたときでないと点検運転が行われないため、それ以外のときの異常発生に対応できないといった問題がある。
【0007】
本発明は上記のような点に鑑みなされたもので、エレベータの状況に応じて診断運転を行うべきメニューを適宜変更して、異常箇所を効率的に検出することのできるエレベータの自動診断装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るエレベータの自動診断装置は、エレベータの運転制御を行う運転制御手段と、この運転制御手段から出力される通常運転時の各機器の動作データを記録する記録手段と、複数の診断運転メニューを記憶したメニューリスト手段と、このメニューリスト手段に記憶された複数の診断運転メニューの優先順位を記憶する優先順位テーブル手段と、上記記録手段に記録された各機器の動作データに基づいて異常の可能性を判断すると共に、その異常原因を検証するための少なくとも2つ以上の診断運転メニューを上記メニューリスト手段から選択し、これらの診断運転メニューに対応した診断運転を上記運転制御手段に実施させる異常検出手段とを備え、上記運転制御手段は、現在のエレベータの状況に基づいて上記優先順位テーブル手段に記憶された優先順位を変更し、その変更後の優先順位に従って、上記異常検出手段によって選択された各診断運転メニューに対応した診断運転を実施することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、エレベータの状況に応じて診断運転を行うべきメニューを適宜変更して、異常箇所を効率的に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は本発明の自動診断装置が適用されるエレベータの全体構成を示す図である。
【図2】図2は本発明の第1の実施形態に係るエレベータ制御装置の自動診断機能の構成を示すブロック図である。
【図3】図3は同実施形態におけるメニューリストの一例を示す図である。
【図4】図4は同実施形態におけるエレベータ制御装置の運転制御部による自動診断の処理動作を示すフローチャートである。
【図5】図5は同実施形態におけるエレベータ制御装置の運転制御部による診断運転メニューの優先順位を変更する場合の処理動作を示すフローチャートである。
【図6】図6は同実施形態における診断運転メニューの変更前後の優先順位の具体例を示す図である。
【図7】図7は本発明の第2の実施形態に係るエレベータ制御装置の自動診断機能の構成を示すブロック図である。
【図8】図8は同実施形態におけるエレベータ制御装置の運転制御部による診断運転メニューの優先順位の変更処理を示すフローチャートである。
【図9】図9は本発明の第3の実施形態に係るエレベータ制御装置の自動診断機能の構成を示すブロック図である。
【図10】図10は同実施形態における機器の設置日(交換日)と寿命年数の一例を示す図である。
【図11】図11は同実施形態におけるエレベータ制御装置の運転制御部による診断運転メニューの優先順位変更処理を示すフローチャートである。
【図12】図12は本発明の第4の実施形態に係るエレベータ制御装置の自動診断機能の構成を示すブロック図である。
【図13】図13は本発明の第5の実施形態に係る監視センタとエレベータとの通信システムの構成を示すブロック図である。
【図14】図14は本発明の第6の実施形態に係るエレベータ制御装置の自動診断機能の構成を示すブロック図である。
【図15】図15は同実施形態における診断運転中の表示例を示す図である。
【図16】図16は同実施形態における診断運転メニューの優先順位変更中の表示例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
【0012】
(第1の実施形態)
図1は本発明の自動診断装置が適用されるエレベータの全体構成を示す図である。今、あるビル10に1台のエレベータ11が設置されているものとする。
【0013】
エレベータ11は、ビル10の機械室10aに設置された巻上機12と、その巻上機12に巻き掛けられたロープ13と、このロープ13を介して互いにつるべ式に昇降動作する乗りかご14とカウンタウェイト15を有する。
【0014】
また、機械室10aには、一般に「制御盤」などと呼ばれているエレベータ制御装置16が設置されている。このエレベータ制御装置16は、CPU、ROM、RAM等を搭載したコンピュータからなり、エレベータ11の運転制御を行うと共に、ここでは自動診断装置としての機能を備える。また、このエレベータ制御装置16は、電話回線網等の通信ネットワーク17を介して監視センタ18に接続されている。
【0015】
監視センタ18は、エレベータ11の動作状態を通信ネットワーク17を介して遠隔監視しており、何らかの異常を検知すると、その現場に保守員を派遣するなどの対処を行う。なお、図1の例では、1台のエレベータ11しか図示されていないが、実際には各地に点在する多数のエレベータが通信ネットワーク17を介して監視センタ18に接続されており、監視センタ18では、これらのエレベータの動作状態を常時監視している。
【0016】
さらに、昇降路11aには、エレベータ11の運転動作に影響する状況を検知するための感知器19が設置されている。エレベータ11の運転動作に影響する状況とは、例えばピット(底部)の浸水や、通常の運転に支障が生じるような所定レベル以上の地震や強風などである。この感知器19によって検知された信号は、エレベータ制御装置16に与えられる。
【0017】
なお、図1の例では、エレベータ11の構成として、機械室10a(マシンルーム)に巻上機12が設置された構成を示したが、本発明は特に構成に限定されるものではなく、例えば昇降路11a内の最上部あるいはピット(底部)に巻上機12が設置されたマシンルームレスタイプの構成であっても良い。
【0018】
図2は本発明の第1の実施形態に係るエレベータ制御装置16の自動診断機能の構成を示すブロック図である。
【0019】
エレベータ制御装置16は、自動診断を実現するための機能として、運転制御部21、記録部22、異常検出部23、メニューリスト24、優先順位テーブル25を備える。
【0020】
運転制御部21は、エレベータ11の運転制御を行うと共にエレベータの診断運転を実施する。また、後述するように診断運転のメニューには予めデフォルトで優先順位が付けられており、運転制御部21は、感知器19から出力される検知信号に基づいて、その優先順位を変更する処理を行う。
【0021】
記録部22は、運転制御部21から出力される通常運転時の各機器の動作データを定期的に更新しながら最新の運転記録として保持する。また、この記録部22は、運転制御部21による自動診断の結果を保持する。さらに、この記録部22には、自動診断のためのメニューリスト24と優先順位テーブル25が設けられている。
【0022】
メニューリスト24には、図3に示すように、「モータ」、「ブレーキ」、「ロープ」…といった各機器あるいは部位の状態を自動診断するための複数の診断運転メニューが予め登録されている。
【0023】
図中の「メニューA−1」,「メニューA−2」,「メニューA−3」…は、巻上機12のモータの状態を自動診断するための診断運転メニューを示す。また、「メニューB−1」,「メニューB−2」,「メニューB−3」…は、巻上機12に設置された図示せぬ電磁ブレーキの状態を自動診断するための診断運転メニューであり、「メニューC−1」,「メニューC−2」,「メニューC−3」…は、ロープ13の状態を自動診断するための診断運転メニューである。
【0024】
優先順位テーブル25は、このメニューリスト24に登録された各診断運転メニューに設定された優先順位を記憶している。
【0025】
異常検出部23は、記録部22に記録された各機器の動作データ(運転記録)に基づいて異常の可能性を判断し、異常の可能性がある場合にメニューリスト24の中から異常原因を検証するための少なくとも2つ以上の診断運転メニューを選択して、これらの診断運転メニューに対応した診断運転を運転制御部21に実施させる。
【0026】
運転制御部21は、この異常検出部23によって選択された診断運転メニューに対応した診断運転を行い、そのときの各機器の動作データを診断結果として記録部22に記録する。
【0027】
次に、同実施形態の動作について説明する。
図4はエレベータ制御装置16の運転制御部21による自動診断の処理動作を示すフローチャートである。なお、このフローチャートに示される処理は、コンピュータであるエレベータ制御装置16が所定のプログラムを読み込むことにより実行される。他のフローチャートについても同様であり、エレベータ制御装置16が所定のプログラムを読み込むことにより実行される。
【0028】
図4に示すように、まず、通常運転時に運転制御部21がエレベータ11を運転制御しながら(ステップS101)、異常判断に必要な各機器の動作データを記録部22に順次記録していく(ステップS102)。この場合、通常運転時の最新のデータを残すように、古いデータを更新しながら記録することで、一定期間分の連続データを履歴として残す。これにより、記録部22には通常運転時のトレースデータが一定期間分保存されることになる。
【0029】
異常検出部23は、記録部22に記録された動作データに基づいて異常検出を行う(ステップS103)。詳しくは、例えば巻上機12のモータであれば、そのトルク値を動作データとして取得し、予め設定されたトルクの正常値と比較する。その結果、両者の差分が所定値以上の状態が一定期間連続して検出された場合に異常の可能性ありと判断する。
【0030】
異常の可能性ありの場合(ステップS104のYes)、異常検出部23は、運転記録から異常原因である機器を特定すると共に(ステップS105)、その異常原因の検証に適した診断運転メニューをメニューリスト24の中から複数選択して運転制御部21へ伝える(ステップS106)。
【0031】
ここで、自己診断運転メニューは、各機器に対して複数用意されている。今、エレベータ11の乗りかご14が定格速度で走行したが、正常なモータトルクが出力されなかった場合を想定する。
【0032】
運転制御部21は、乗りかご14を定格走行で運転しながら、モータトルクの動作データを記録部22へ逐次記録している。異常検出部23は、記録部22の運転記録から正常なモータトルクが出力されていないことを確認すると、エレベータに異常の可能性があると判断する。更に、異常なモータトルクが出力される原因として、モータの○○部分の異常、ブレーキの△△の異常…、といったように異常原因として考えられる機器(部位)を特定する。
【0033】
異常の可能性がある機器(部位)を特定すると、図3に示すように複数用意されている診断運転メニューの中から適切な診断運転メニューを選択して運転制御部21へ伝える。図3の例では、モータ診断運転の「メニューA−1」とブレーキ診断運転の「メニューB−3」とロープ診断運転の「メニューC−1」が選択されている。
【0034】
「メニューA−1」は、例えば所定速度以下の低速速度で乗りかご14を1階床毎に動かし、そのときのトルク値の変化をチェックするといった内容を有する。「メニューB−3」は、例えば所定速度以下の低速速度で乗りかご14を1階床毎に動かし、そのときのブレーキの掛かり具合をチェックするといった内容を有する。「メニューC−1」は、例えば所定速度以下の低速速度で乗りかご14を1階床毎に動かし、そのときのロープの動きをチェックするといった内容を有する。
【0035】
運転制御部21は、異常検出部23から診断運転メニューを受け取ると、所定のタイミングで当該診断運転メニューに従った診断運転を実施する(ステップS107)。なお、所定のタイミングとは、例えば乗りかご14が一定時間以上停止状態にあり、呼びの登録がないとき(つまり、利用者に影響を与えないとき)である。
【0036】
ここで、図3に示した各機器の診断運転メニューには、例えばロープ診断運転メニュー>ブレーキ診断運転メニュー>モータ診断運転メニューといったように、デフォルトで優先順位が予め決められており、その優先順位の高い診断運転メニューから診断運転が実施される。なお、この優先順位は、記録部22に設けられた優先順位テーブル25に記憶されている。
【0037】
診断運転が実施されると、運転制御部21は、その診断結果を記録部22に記録する(ステップS108)。例えば上記メニューA−1の診断運転であれば、低速で乗りかご14を動かしながら、そのときのモータトルクの変化を診断結果として記録部22に記録することになる。
【0038】
このように、エレベータ側で通常運転時の各機器の動作データを監視しながら異常の可能性を判断し、異常の可能性がある場合にその異常原因を検出するための診断運転メニューを選択して診断運転を行う。これにより、何らかの原因で異常の兆候が現れた場合に、その状態を直ぐに察知して適切に対処することが可能となる。
【0039】
なお、記録部22のデータ記録エリアを通常運転用と診断運転用に分けておき、運転制御部21から出力される通常運転時の各機器の動作データ(通常データ)を第1の記録エリアに記録し、診断運転時の各機器の動作データ(診断データ)を第2の記録エリアに記録すれば、診断動作データを誤って消去せずに診断結果の記録として残しておくことができる。
【0040】
次に、診断運転メニューの優先順位を変更する場合の処理について説明する。
図5はエレベータ制御装置16の運転制御部21による診断運転メニューの優先順位を変更する場合の処理動作を示すフローチャートである。
【0041】
今、例えば昇降路11aのピットに巻上機12のモータが設置されたマシンルームレスタイプのエレベータにおいて、何らかの原因でピットが浸水している状況を想定する。
【0042】
運転制御部21は、上記ステップS107で診断運転を行うに際し、感知器19を通じてエレベータ11の状況を判断する(ステップS201)。これにより、エレベータ11の状況に異変がなければ(ステップS202のNo)、運転制御部21は、優先順位テーブル25に予め設定されているデフォルトの優先順位に従って診断運転を実施する(ステップS203)。
【0043】
一方、感知器19を通じてピットが浸水している状況を検知したら(ステップS202のYes)、運転制御部21は、優先順位テーブル25に予め設定されているデフォルトの優先順位をその状況に合わせて変更し(ステップS204)、その変更後の優先順位に従って診断運転を実施する(ステップS205)。
【0044】
図6は診断運転メニューの変更前後の優先順位の具体例を示す図である。
【0045】
変更前つまりデフォルトの優先順位が下記のようであったとする。
1.ロープ診断運転メニュー
2.ブレーキ診断運転メニュー
3.モータ診断運転メニュー。
【0046】
ここで、ピットが浸水している状況が検知された場合に、運転制御部21は、下記のように優先順位を変更する。
1.モータ診断運転メニュー
2.ブレーキ診断運転メニュー
3.ロープ診断運転メニュー。
【0047】
つまり、昇降路11aのピットに巻上機12のモータが設置されている場合には、浸水により故障の可能性が最も高いモータから診断し、続いて、巻上機12に設置されている図示せぬブレーキ機器を診断するように、診断運転メニューの優先順位を変更する。
【0048】
他の例としては、例えば所定レベル以上の地震を感知器19で検知した場合には、地震による影響でガイドレールが変形していたり、ロープが絡まっている状況が考えられるため、これらの診断を優先して行うように、1.ガイドレール診断、2.ロープ診断…といったように、地震状況に合わせて診断運転メニューの優先順位を変更する。
【0049】
また、例えば所定レベル以上の強風を感知器19にて検知した場合にき、強風による影響でロープや伝送ケーブルが絡まっている状況が考えられるため、これらの診断を優先して行うように、1.ロープ診断、2.伝送ケーブル診断…といったように、強風状況に合わせて診断運転メニューの優先順位を変更する。
【0050】
なお、伝送ケーブルの診断とは、例えば“1”,“0”の信号を送信して、正常に伝送されるか否かをチェックすることで行う。この場合、“1”の信号を送信して、“0”の信号を受信したら、伝送エラーとして検知する。
【0051】
このように、現在のエレベータ11の状況に応じて診断運転メニューの優先順位に適宜変更することで、効率的な診断運転を行うことができる。これにより、機器の異常を早期に検出して迅速に対応することができる。
【0052】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。
【0053】
第2の実施形態では、過去のエレベータ状況を考慮した優先順位の変更であり、感知器19によって同じ状況が検知された回数に基づいて診断運転メニューの優先順位を変更することを特徴とする。
【0054】
図7は本発明の第2の実施形態に係るエレベータ制御装置16の自動診断機能の構成を示すブロック図である。
【0055】
上記第1の実施形態(図2)と同様に、エレベータ制御装置16は、自動診断を実現するための機能として、運転制御部21、記録部22、異常検出部23、メニューリスト24、優先順位テーブル25を備える。
【0056】
ここで、第2の実施形態では、記録部22に感知器19によって同じ状況が検知された回数を記録しておくための回数記録部22aが設けられている。運転制御部21は、この回数記録部22aに記録された検知回数が所定回数に達した場合に診断運転メニューの優先順位を変更する。
【0057】
以下に、そのときの処理動作について説明する。
【0058】
図8は第2の実施形態におけるエレベータ制御装置16の運転制御部21による診断運転メニューの優先順位の変更処理を示すフローチャートである。今、例えば昇降路11aのピットに巻上機12のモータが設置されたマシンルームレスタイプのエレベータにおいて、ピットに浸水している状況を想定する。
【0059】
感知器19によってピットが浸水している状況が検知されると(ステップS301)、運転制御部21は、その検知信号を入力する毎に記録部22の回数記録部22aに記録された検知回数を+1ずつ更新する(ステップS302)。そして、この検知回数が所定の回数(例えば5回)に達した場合に(ステップS303のYes)、運転制御部21は、浸水によりモータやブレーキの故障可能性が高くなったとものと判断し、上記第1の実施形態と同様に、これらの診断を優先して行うべく、優先順位テーブル25に記憶された診断運転メニューの優先順位を変更する(ステップS304)。
【0060】
このように、同じ状況が何度も繰り返し検知された場合に、故障の可能性が最も高くなる機器の診断運転を優先するように、診断運転メニューの優先順位を変更することにより、不用意に順位変更することを防いで、最適な優先順位で診断運転を行うことができる。
【0061】
なお、上記実施形態では、ピットが浸水している状況を例にして説明したが、その他に地震や強風などを検知した場合も同様である。この場合、浸水:××回,地震:××回,強風:××回…といったように、検知対象毎に回数をそれぞれ記録しておき、その中で所定回数に達した検知対象に合わせて診断運転メニューの優先順位を変更する。
【0062】
また、検知回数だけでなく、検知時間を条件にして診断運転メニューの優先順位を変更することでも良い。すなわち、例えば浸水の例であれば、感知器19によって昇降路11aのピットが浸水している状況が所定時間以上続けて検知されたときに、診断運転メニューの優先順位を変更する。
【0063】
(第3の実施形態)
次に、本発明の第3の実施形態について説明する。
【0064】
第3の実施形態では、保守管理データに基づいて診断運転メニューの優先順位を変更することを特徴とする。
【0065】
図9は本発明の第3の実施形態に係るエレベータ制御装置16の自動診断機能の構成を示すブロック図である。
【0066】
上記第1の実施形態(図2)と同様に、エレベータ制御装置16は、自動診断を実現するための機能として、運転制御部21、記録部22、異常検出部23、メニューリスト24、優先順位テーブル25を備える。
【0067】
第3の実施形態では、上記構成に加え、さらに保守管理部26が設けられている。保守管理部26は、エレベータ11の各機器の保守管理データを記憶している。上記保守管理データは、エレベータ11の各機器の設置日(交換日)と、寿命年数を含む。
【0068】
このような構成において、診断運転メニューには優先順位が設定されており、優先順位の高い診断運転メニューから順に診断運転が実施される。また、現在のエレベータの状況に応じて優先順位が変更されることは既に述べた通りである。
【0069】
ここではさらに、保守管理部26に記憶されている保守管理データに含まれる各機器の設置日(交換日)と寿命年数から、診断運転メニューの優先順位を変更する方法について説明する。
【0070】
例えば、本日を2008年8月1日とし、機器A・機器Bの設置日(交換日)と寿命年数が図10のようであったとする。
【0071】
機器Aは設置日(交換日)から1年間使用しているが、寿命年数が5年であるので、寿命年数の20%しか使用していない。機器Bは設置日(交換日)から半年しか使用していないが、寿命年数は1年であるので、寿命年数の50%を使用している。このような場合、寿命年数の20%しか使用していない機器Aよりも、寿命年数の50%の期間を使用している機器Bの方が故障している可能性が高い。
【0072】
この考え方を用いて、診断運転メニューの優先順位を変更する方法について説明する。
【0073】
図11は第3の実施形態におけるエレベータ制御装置16の運転制御部21による診断運転メニューの優先順位変更処理を示すフローチャートである。
【0074】
運転制御部21は、保守管理部26から各機器の設置日(交換日)や寿命年数を含む保守管理データを取得し(ステップS401)、上記の例のように寿命年数に対する使用期間の比率が何%であるのか算出する(ステップS402)。
【0075】
ここで、運転制御部21は、上記算出した数値が一定値(例えば80%)を超えている機器に対しては(ステップS403のYes)、寿命年数に近い期間使用しているために他の機器よりも故障している可能性が高いものと判断し、当該機器に関する診断運転メニューの優先度順位を上げるように、優先順位テーブル25に記憶された診断運転メニューの優先順位を変更する(ステップS404)。
【0076】
このように、寿命年数に対する使用期間の比率から故障の可能性が高い機器を優先して診断運転することで、異常箇所をより早く効率的に検出できるようになる。
【0077】
(第4の実施形態)
次に、本発明の第4の実施形態について説明する。
【0078】
第4の実施形態では、外部端末からの指示に従って診断運転メニューの優先順位を変更することを特徴とする。
【0079】
図12は本発明の第4の実施形態に係るエレベータ制御装置16の自動診断機能の構成を示すブロック図である。
【0080】
上記第1の実施形態(図2)と同様に、エレベータ制御装置16は、自動診断を実現するための機能として、運転制御部21、記録部22、異常検出部23、メニューリスト24、優先順位テーブル25を備える。
【0081】
第4の実施形態では、上記構成に加え、さらにメンテナンス専用装置27が設けられている。メンテナンス専用装置27は、保守員がエレベータのメンテナンスで使用する携帯型の端末装置である。このメンテナンス専用装置27には、メンテナンスに必要なアプリケーションが搭載されている。保守員は、このメンテナンス専用装置27をエレベータ制御装置16に接続した状態で、診断運転メニューの優先順位の変更を含むメンテナンスを行う。
【0082】
なお、メンテナンス専用装置27とエレベータ制御装置16との接続方法は、通信ケーブルでも無線通信でも良く、本発明はその接続方法について特に限定されるものではない。
【0083】
このような構成において、診断運転メニューには優先順位が設定されており、優先順位の高い診断運転メニューから順に診断運転が実施される。また、現在のエレベータの状況に応じて優先順位が変更されることは既に述べた通りである。
【0084】
ここではさらに、メンテナンス専用装置19によって優先順位を変更する方法を説明する。
【0085】
運転制御部21は、メンテナンス専用装置19から優先順位変更指令を受信すると、優先順位テーブル25に設定されている診断運転メニューの優先順位を変更するモードに切り替える。このモード中は、メンテナンス専用装置19の操作によって、任意の診断運転メニューの優先順位を変更したり、全ての診断運転メニューに対して優先順位を付け直すことができる。
【0086】
診断運転メニューが追加された場合の優先順位も、メンテナンス専用装置19から設定可能とする。これにより、何らかの理由で現在の診断運転メニューの優先順位を変えたい場合や、より良い診断運転方法が開発されて、メニュー追加する場合に柔軟に対応することができる。
【0087】
また、優先順位を変更前のデフォルト値に戻したい場合は、メンテナンス専用装置19から運転制御部21へ優先順位初期化指令を送信する。これにより、優先順位テーブル25に現在設定されている診断運転メニューの優先順位をデフォルトの優先順位に戻すことができる。
【0088】
このように、外部装置であるメンテナンス専用装置27を用いて診断運転メニューの優先順位を任意に変更でき、その変更された優先順位で診断運転を行うことができる。
【0089】
(第5の実施形態)
次に、本発明の第5の実施形態について説明する。
【0090】
第5の実施形態では、監視センタからの指示に従って診断運転メニューの優先順位を変更することを特徴とする。
【0091】
図13は本発明の第5の実施形態に係る監視センタとエレベータとの通信システムの構成を示すブロック図である。
【0092】
監視センタ18と各地に点在するエレベータ11a,11b,11c…とが通信ネットワーク17を介して接続されている。監視センタ18は、エレベータ11a,11b,11c…の運転状態を遠隔監視している。
【0093】
エレベータ11aは、運転制御部21a、記録部22a、異常検出部23aが設けられている。ここで、監視センタ18と異常検出部23aは遠隔通信可能な構成とする。他のエレベータ11b,11c…についても同様の構成である。
【0094】
このような構成において、エレベータ11aに着目して、診断運転時の処理動作について説明する。
【0095】
診断運転の結果、異常と判断された場合は、運転制御部21aは異常原因と診断運転中のデータを記録部22aに記録する。この後、異常検出部23aは異常があったことを外部に知らせるために、記録部22aに記録した異常原因と診断運転中のデータを遠隔通信によって監視センタ18へ送信する。これにより、監視センタ18側で直ぐに状況を把握して、迅速かつ適切な対応を採ることができる。
【0096】
なお、診断運転の結果、異常が認められなくても、診断運転を実施したことを異常検出部23aから監視センタ18に伝える。さらに、現在設定されている診断運転の優先順位を監視センタ18へ伝える。
【0097】
また、診断運転を実施したが、故障やエラーが発生して途中で終了した場合も、その旨の報告と失敗した診断運転メニュー、異常時の記録などを異常検出部23aから監視センタ18へ伝える。
【0098】
ここで、監視センタ18からの指示により、診断運転メニューの優先順位を変更することも可能である。
【0099】
すなわち、運転制御部21aは、異常検出部23を介して監視センタ18から優先順位変更指令を受信すると、診断運転メニューの優先順位を変更するモードに切り替える。このモード中は、監視センタ18からの指示によって、任意の診断運転メニューの優先順位を変更したり、全ての診断運転メニューに対して優先順位を付け直すことができる。
【0100】
診断運転メニューが追加された際の優先順位も、監視センタ18からの指示によって設定可能とする。これにより、何らかの理由で現在の診断運転メニューの優先順位を変えたい場合や、より良い診断運転方法が開発されて、メニュー追加する場合に柔軟に対応することができる。
【0101】
また、優先順位を変更前のデフォルト値に戻したい場合は、監視センタ18から異常検出部23を経由して運転制御部21へ優先順位初期化指令を送信する。これにより、現在設定されている診断運転メニューの優先順位をデフォルトの優先順位に戻すことができる。他のエレベータ11b,11c…についても同様である。
【0102】
このように、監視センタ18に対して異常原因や診断結果、さらに現在の優先順位などを伝えることにより、監視センタ18側ではエレベータ11a,11b,11c…の診断運転の状況を容易に把握することができる。また、監視センタ18からの指示により、診断運転メニューの優先順位を任意に変更することもできる。
【0103】
(第6の実施形態)
次に、本発明の第6の実施形態について説明する。
【0104】
第6の実施形態では、診断運転を実施しているときに、その旨を通知することを特徴とする。
【0105】
図14は本発明の第6の実施形態に係るエレベータ制御装置16の自動診断機能の構成を示すブロック図である。
【0106】
上記第1の実施形態(図2)と同様に、エレベータ制御装置16は、自動診断を実現するための機能として、運転制御部21、記録部22、異常検出部23、メニューリスト24、優先順位テーブル25を備える。
【0107】
第6の実施形態では、上記構成に加え、さらに利用者への通知手段として、かご内に設置されたディスプレイ31とアナウンス装置32、各階のエレベータホール(乗場)に設置されたディスプレイ33とアナウンス装置34を備える。
【0108】
このような構成において、運転制御部21は、異常検出部23から診断運転メニューを受け取ると診断運転を実施する。このとき、乗りかご14が動作するため、利用者が誤って乗車したり、故障であると勘違いすることがある。そこで、診断運転中は運転制御部21がかご内のディスプレイ31とアナウンス装置32、さらに、エレベータホールのディスプレイ33とアナウンス装置34に対し、例えば「しばらくお待ちください」、「診断運転中です」といった通知データを送信する。
【0109】
アナウンス装置32、34は、この通知データを音声信号に変えて出力する。また、ディスプレイ31,33は、この通知データに対応した文字列を診断運転が終了するまで表示し続ける。これにより、診断運転中に利用者が誤って乗車することを防止できる。
【0110】
また、診断運転中は、運転制御部21は、その診断運転のメニュー名をかご内のディスプレイ31とエレベータホールのディスプレイ33に表示させる。図15にその表示例を示す。これにより、利用者に具体的などのような診断運転を行っているのかを理解してもうことができる。
【0111】
さらに、診断運転メニューの優先順位変更が発生している場合も、運転制御部21は、「優先順位変更中」といったような文字列をかご内のディスプレイ31とエレベータホールのディスプレイ33に表示させる。図16にその表示例を示す。この場合、利用者にとっては診断運転の優先順位の変更有無は特に気にする情報ではない。しかし、診断運転中に保守員が立ち入った場合に、優先順位を変更する要因がある事を知ることができ、利用者に対して注意を促すことができる。
【0112】
このように、診断運転中だけでなく、診断運転メニューの優先順位を変更している場合も含めて、そのときの状況を表示あるいは音声にて通知することで、利用者には誤乗車を防止でき、保守員には現状を知らしめて対処させることができる。
【0113】
以上のように、本発明によれば、エレベータの各機器の動作状態から診断すべき箇所を特定し、それに合った診断運転メニューを自己判断で決定して実施することができる。その際、現在のエレベータの状況に応じて、診断運転メニューの優先順位を適宜変更して実施することで、異常の可能性の高い箇所や機器を優先して診断できる。これにより、異常発生を早期に発見して適切に対処することができるようになる。
【0114】
なお、本発明は上記各実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記各実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の形態を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を省略してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0115】
10…ビル、11…エレベータ、11a…昇降路、12…巻上機、13…ロープ、14…乗りかご、15…カウンタウェイト、16…エレベータ制御装置、17…通信ネットワーク、18…監視センタ、19…感知器、21…運転制御部、22…記録部、23…異常検出部、24…メニューリスト、25…優先順位テーブル、26…保守管理部、27…メンテナンス専用装置、31…かご内のディスプレイ、32…かご内のアナウンス装置、33…エレベータホールのディスプレイ、34…エレベータホールのアナウンス装置。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エレベータの運転制御を行う運転制御手段と、
この運転制御手段から出力される通常運転時の各機器の動作データを記録する記録手段と、
複数の診断運転メニューを記憶したメニューリスト手段と、
このメニューリスト手段に記憶された複数の診断運転メニューの優先順位を記憶する優先順位テーブル手段と、
上記記録手段に記録された各機器の動作データに基づいて異常の可能性を判断すると共に、その異常原因を検証するための少なくとも2つ以上の診断運転メニューを上記メニューリスト手段から選択し、これらの診断運転メニューに対応した診断運転を上記運転制御手段に実施させる異常検出手段とを備え、
上記運転制御手段は、
現在のエレベータの状況に基づいて上記優先順位テーブル手段に記憶された優先順位を変更し、その変更後の優先順位に従って、上記異常検出手段によって選択された各診断運転メニューに対応した診断運転を実施することを特徴とするエレベータの自動診断装置。
【請求項2】
エレベータの運転動作に影響する状況を検知するための感知器を備え、
上記運転制御手段は、
上記感知器によって検知された状況に基づいて上記優先順位テーブル手段に記憶された優先順位を変更することを特徴とする請求項1記載のエレベータの自動診断装置。
【請求項3】
上記エレベータの運転動作に影響する状況は、少なくともエレベータの昇降路内のピットが浸水している状況、所定レベル以上の地震が発生している状況、所定レベル以上の強風が発生している状況のいずれかを含むことを特徴とする請求項2記載のエレベータの自動診断装置。
【請求項4】
上記運転制御手段は、
上記感知器によって同じ状況が検知された回数あるいは時間に基づいて上記優先順位テーブル手段に記憶された優先順位を変更することを特徴とする請求項2または3記載のエレベータの自動診断装置。
【請求項5】
予めエレベータの各機器の設置日あるいは交換日と寿命年数を含む保守管理データを記憶した保守管理手段を備え、
上記運転制御手段は、
上記保守管理手段に記憶された保守管理データに基づいて、各機器の寿命年数に対する使用期間の比率を算出し、その比率の高い機器に関する診断運転メニューの優先順位を上げるように、上記優先順位テーブル手段に記憶された優先順位を変更することを特徴とする請求項1記載のエレベータの自動診断装置。
【請求項6】
エレベータのメンテナンスで使用する端末装置を備え、
上記運転制御手段は、
上記端末装置からの指示に従って上記優先順位テーブル手段に記憶された優先順位を変更することを特徴とする請求項1記載のエレベータの自動診断装置。
【請求項7】
上記異常検出手段は、各エレベータの運転状態を遠隔監視している監視センタと通信可能な構成を有し、
上記運転制御手段は、上記異常検出手段を介して上記監視センタからの指示を受信し、その指示に従って上記優先順位テーブル手段に記憶された優先順位を変更することを特徴とする請求項1記載のエレベータの自動診断装置。
【請求項8】
乗りかご内に設置された第1の通知手段と
各階の乗場に設置された第2の通知手段とを備え、
上記運転制御手段は、
診断運転を実施するとき、あるいは、優先順位を変更するときに、上記第1および第2の通信手段を通じて通知することを特徴とする請求項1記載のエレベータの自動診断装置。
【請求項1】
エレベータの運転制御を行う運転制御手段と、
この運転制御手段から出力される通常運転時の各機器の動作データを記録する記録手段と、
複数の診断運転メニューを記憶したメニューリスト手段と、
このメニューリスト手段に記憶された複数の診断運転メニューの優先順位を記憶する優先順位テーブル手段と、
上記記録手段に記録された各機器の動作データに基づいて異常の可能性を判断すると共に、その異常原因を検証するための少なくとも2つ以上の診断運転メニューを上記メニューリスト手段から選択し、これらの診断運転メニューに対応した診断運転を上記運転制御手段に実施させる異常検出手段とを備え、
上記運転制御手段は、
現在のエレベータの状況に基づいて上記優先順位テーブル手段に記憶された優先順位を変更し、その変更後の優先順位に従って、上記異常検出手段によって選択された各診断運転メニューに対応した診断運転を実施することを特徴とするエレベータの自動診断装置。
【請求項2】
エレベータの運転動作に影響する状況を検知するための感知器を備え、
上記運転制御手段は、
上記感知器によって検知された状況に基づいて上記優先順位テーブル手段に記憶された優先順位を変更することを特徴とする請求項1記載のエレベータの自動診断装置。
【請求項3】
上記エレベータの運転動作に影響する状況は、少なくともエレベータの昇降路内のピットが浸水している状況、所定レベル以上の地震が発生している状況、所定レベル以上の強風が発生している状況のいずれかを含むことを特徴とする請求項2記載のエレベータの自動診断装置。
【請求項4】
上記運転制御手段は、
上記感知器によって同じ状況が検知された回数あるいは時間に基づいて上記優先順位テーブル手段に記憶された優先順位を変更することを特徴とする請求項2または3記載のエレベータの自動診断装置。
【請求項5】
予めエレベータの各機器の設置日あるいは交換日と寿命年数を含む保守管理データを記憶した保守管理手段を備え、
上記運転制御手段は、
上記保守管理手段に記憶された保守管理データに基づいて、各機器の寿命年数に対する使用期間の比率を算出し、その比率の高い機器に関する診断運転メニューの優先順位を上げるように、上記優先順位テーブル手段に記憶された優先順位を変更することを特徴とする請求項1記載のエレベータの自動診断装置。
【請求項6】
エレベータのメンテナンスで使用する端末装置を備え、
上記運転制御手段は、
上記端末装置からの指示に従って上記優先順位テーブル手段に記憶された優先順位を変更することを特徴とする請求項1記載のエレベータの自動診断装置。
【請求項7】
上記異常検出手段は、各エレベータの運転状態を遠隔監視している監視センタと通信可能な構成を有し、
上記運転制御手段は、上記異常検出手段を介して上記監視センタからの指示を受信し、その指示に従って上記優先順位テーブル手段に記憶された優先順位を変更することを特徴とする請求項1記載のエレベータの自動診断装置。
【請求項8】
乗りかご内に設置された第1の通知手段と
各階の乗場に設置された第2の通知手段とを備え、
上記運転制御手段は、
診断運転を実施するとき、あるいは、優先順位を変更するときに、上記第1および第2の通信手段を通じて通知することを特徴とする請求項1記載のエレベータの自動診断装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2011−195284(P2011−195284A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−64357(P2010−64357)
【出願日】平成22年3月19日(2010.3.19)
【出願人】(390025265)東芝エレベータ株式会社 (2,543)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月19日(2010.3.19)
【出願人】(390025265)東芝エレベータ株式会社 (2,543)
【Fターム(参考)】
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