説明

エレベータの電磁ブレーキ点検装置

【課題】エレベータの保守作業時間を短縮できるようにしたエレベータの電磁ブレーキ点検装置を提供する。
【解決手段】ブレーキディスク5を固定プレート6と可動プレート7とによって挟持することで制動力を発生する電磁ブレーキ装置2に、可動プレート7に連動して当該可動プレート7よりも大きく変位する被検出体19を設け、その被検出体19の変位量を距離センサ9によって検出する。そして、制御装置24の異常判定部24bが、距離センサ9の出力に基づき、ブレーキディスク5の異常摩耗の有無を判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエレベータの電磁ブレーキ点検装置に関し、特に、可動プレートと固定プレートとの間に挟持されるブレーキディスクの摩耗状態を診断できるようにしたエレベータの電磁ブレーキ点検装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エレベータの電磁ブレーキとして例えば特許文献1に記載の技術が提案されている。特許文献1に記載の技術は、巻上機の駆動軸とともに回転するブレーキディスクとしての摩擦板を二枚のディスク間に挟持することで制動力を発生する一方、上記両ディスクのうち一方のディスクの反摩擦板側に設けた電磁石の電磁吸引力により、上記一方のディスクを摩擦板から引き離すことで制動力を解放するようになっている。
【0003】
その上で、特許文献1に記載の技術では、電磁ブレーキ装置の開閉動作状態を確認すべく、上記両ディスクおよび摩擦板をそれぞれ導電性材料によって形成している。つまり、制動時には上記両ディスクが摩擦板に当接して導通状態となる一方、制動解除時には上記一方のディスクが摩擦板から離間して上記両ディスクが非導通状態となることから、上記両ディスク間の導通状態を検出することでディスクブレーキ装置の開閉動作状態を確認するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開平5−65974号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、摩擦板の摩耗が進行し、制動時に上記一方のディスクと上記電磁石との間に生じる隙間が過度に大きくなると、制動を解除すべく上記電磁石に通電したときに上記一方のディスクを吸引できず、エレベータを運行できなくなってしまう虞がある。したがって、摩擦板の摩耗状態を頻繁に点検しなければならず、電磁ブレーキ装置の保守作業に多大な時間を要していた。
【0006】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであって、ブレーキディスクの摩耗状態を診断することにより、エレベータの保守作業に要する時間を短縮できるようにしたエレベータの電磁ブレーキ点検装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明は、巻上機の駆動軸とともに回転するブレーキディスクの両側に固定プレートと可動プレートとをそれぞれ対向配置し、それら両プレート間に上記ブレーキディスクを挟持することにより上記駆動軸を制動する一方で、上記可動プレートの反ブレーキディスク側に設けられた電磁駆動手段の電磁吸引力により、上記可動プレートを吸引して制動力を解放する電磁ブレーキ装置を有するエレベータの電磁ブレーキ点検装置において、上記可動プレートの上記ブレーキディスクに対する接近・離間方向の変位量を検出する変位検出手段と、その変位検出手段の出力に基づいて上記ブレーキディスクの摩耗状態を診断する摩耗診断手段と、を備えていることを特徴としている。
【0008】
すなわち、請求項1に記載の発明は、制動時および制動解除時における上記可動プレートの変位量が上記ブレーキディスクの摩耗状態に応じて変化することに基づくものであって、そのブレーキディスクの変位量に基づいて上記摩耗診断手段が上記ブレーキディスクの摩耗状態を診断することになる。
【0009】
ここで、周知のように、制動時および制動解除時における上記可動プレートの変位量は微小であるため、例えば請求項2に記載の発明のように、上記変位検出手段は、上記可動プレートに連動して当該可動プレートよりも大きく変位する被検出体と、その被検出体の変位量を検出する変位センサと、からなることが好ましい。
【0010】
この場合、具体的には請求項3に記載の発明のように、上記電磁駆動手段から電磁ブレーキ装置の径方向外側に向けて延びる可撓性部材の先端部に上記被検出体が装着されてる一方、上記可動プレートには、上記可撓性部材の長手方向中間部に対向する押圧操作手段が設けられていて、上記可動プレートの動作に伴って上記押圧操作手段が上記可撓性部材の長手方向中間部を押圧操作することにより、その可撓性部材の撓み変形をもって上記被検出体が上記可動プレートの動作方向へ当該可動プレートよりも大きく変位するようになっているとよい。
【0011】
他方、より具体的には請求項4に記載の発明のように、上記摩耗診断手段は、上記可動プレートの変位量が予め定めた正常判定上限値よりも大きいか否かを上記変位検出手段の出力に基づいて判定し、上記可動プレートの変位量が上記正常判定上限値よりも大きい場合に、警報信号を出力するようになっているとよい。
【0012】
その上で、望ましくは請求項5に記載の発明のように、上記摩耗診断手段は、上記可動プレートの変位量が上記正常判定上限値よりも大きく且つその正常判定上限値よりも大きく設定した運行停止設定値以下である場合に、その旨を示す第1警報信号を上記警報信号として出力するとともに、エレベータの運行を継続させる一方、上記可動プレートの変位量が上記運行停止設定値よりも大きい場合に、その旨を示す第2警報信号を上記警報信号として出力するとともに、エレベータの運行を停止させるようになっていると、電磁ブレーキ装置の保守作業をより効率的に行えるようになる。
【0013】
つまり、請求項5に記載の発明では、ブレーキディスクの異常摩耗がエレベータの運行を安全に継続可能な程度に軽度なものである場合には、エレベータの運行を停止することなく第1異常検出信号を例えば監視センターへ出力し、例えば次回のエレベータ点検時などエレベータ利用者の都合のよいときに電磁ブレーキ装置の保守作業を行うことになる一方、ブレーキディスクの異常摩耗がエレベータの運行を安全に継続できない程度に重度なものである場合には、エレベータの運行を停止して第2異常検出信号を例えば監視センターに出力することで、その監視センターで保守作業員の派遣を手配して早急に電磁ブレーキ装置の保守作業を行い、エレベータを復旧することになる。
【0014】
ここで、当然のことながら、上記巻上機の駆動軸を回転させる際には、ブレーキディスクから上記両プレートを離間させて制動力を解放することになるが、万が一上記両プレートがブレーキディスクに当接したまま上記巻上機の駆動軸が回転してしまうと、上記ブレーキディスクの摩耗が早期に進行してしまう。
【0015】
そこで、ブレーキディスクの摩耗が異常に進行している場合にこれを早期に検出すべく、上記摩耗診断手段は、請求項6に記載の発明の発明のように、時間の経過に伴う上記可動プレートの変位増加量が予め定めた許容変位増加量よりも大きい場合に警報信号を出力するようになっていることが望ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、上記摩耗診断手段が上記変位検出手段の出力に基づいてブレーキディスクの摩耗状態を診断するようになっているから、保守作業員がブレーキディスクの摩耗状態を頻繁に点検する必要がなくなり、エレベータの保守作業に要する時間を短縮できるようになる。
【0017】
その上で、請求項2,3に記載の発明によれば、上記可動プレートの変位量を上記被検出体によって機械的に拡大し、この被検出体の変位量を変位センサによって検出するようになっているから、上記可動プレートの変位量をより精度よく検出してブレーキディスクの摩耗状態をより確実に診断できるようになる。
【0018】
また、特に請求項5に記載の発明によれば、ブレーキディスクの異常摩耗が緊急性を有しない程度に軽度なものである場合には、エレベータの運行を停止することなく上記第1異常検出信号を例えば監視センターに出力し、エレベータ利用者の都合のよいときに電磁ブレーキの保守作業を行うことで、エレベータ利用者の不満を少なくすることができる一方、ブレーキディスクの異常摩耗が比較的重度のものである場合には、即座にエレベータの運行を停止して安全を確保することができる。
【0019】
さらに請求項6に記載の発明によれば、ブレーキディスクの異常な摩耗の進行を早期に検出してエレベータの安全性をより高めることができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施の形態として電磁ブレーキ装置を示す軸方向断面図。
【図2】図1の要部を示す拡大図。
【図3】図1における異常判定部の処理内容を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1,2は本発明の好適な実施の形態を示す図であって、そのうち図1はいわゆるトラクション方式のエレベータの巻上機における電磁ブレーキ装置を示す軸方向断面図、図2は図1の要部拡大図である。なお、図1,2では、電磁ブレーキ装置の制動解除状態を示している。
【0022】
図1に示すように、巻上機のうち図示外の電動モータによって回転駆動される駆動軸1の先端には、当該駆動軸1の回転を制動するための電磁ブレーキ装置2が装着されている。電磁ブレーキ装置2は、キー3をもって駆動軸1の先端に相対回転不能に結合されたアダプタスリーブ4と、そのアダプタスリーブ4の外周に軸方向で相対変位可能にセレーション結合され、表裏両面に環状のライニング5a,5aがそれぞれ設けられたブレーキディスク5と、そのブレーキディスク5を挟んで両側にそれぞれ設けられた固定プレート6および可動プレート7と、可動プレート7の反ブレーキディスク5側に設けられた電磁駆動手段たる電磁石ユニット8と、可動プレート7の変位を検出する変位センサとして設けられた非接触式の距離センサ9と、を備えている。そして、周知のように、固定プレート6は、図示外の巻上機のフレームに固定されている一方、可動プレート7は、図示外の巻上機のフレームに対する相対回転を規制されつつ、ブレーキディスク5と電磁石ユニット8との間で軸方向に変位可能になっている。
【0023】
電磁石ユニット8は、駆動軸1と同心に配置された環状のコア10と、そのコア10内に設けられた環状のコイルユニット11と、可動プレート7をブレーキディスク5側へ向けて付勢するブレーキスプリング12と、を備えている。
【0024】
コイルユニット11は、コア10の可動プレート7側端面のうち径方向中間部に凹設された環状のコイルユニット収容部10aに収容されている一方、ブレーキスプリング12は、コア10の可動プレート7側端面のうちコイルユニット収容部10aよりも外周側に穿設されたスプリング収容孔10b内に圧縮変形した状態で収容されている。また、ブレーキスプリング12は、その一端が可動プレート7に着座している一方、その他端はスプリングリテーナー13を介してコア10にねじ込まれた調整ねじ14の先端に着座している。つまり、この調整ねじ14によってブレーキスプリング12の圧縮変形量を変化させることにより、可動プレート7をブレーキディスク5側へ付勢する付勢力を調整可能になっている。なお、図1では単一のブレーキスプリング12のみを図示しているが、ブレーキスプリング12はコア10の周方向で複数設けられている。
【0025】
そして、図1に示す制動解除時には、エレベータの運行を司る制御装置24の運行制御部24aが電磁石ユニット8を励磁することにより、その電磁石ユニット8の電磁吸引力をもって、可動プレート7をブレーキスプリング12の付勢力に抗して電磁石ユニット8側へ引き寄せてブレーキディスク5から離間させることになる。一方、制動時には、制御装置24の運行制御部24aが電磁石ユニット8を消磁することにより、ブレーキスプリング12の付勢力をもってブレーキディスク5を可動プレート7と固定プレート6との間に挟持することになる。
【0026】
ここで、当然のことながら、ブレーキディスク5のライニング5aが異常摩耗すると、制動時に可動プレート7とコア10との間に生じる隙間が正常時よりも大きくなることから、制動時および制動解除時における可動プレート7の変位量が正常時よりも増加することになる。そこで、本実施の形態では、このような可動プレート7の変位量の変化を距離センサ9によって検出することにより、ブレーキディスク5の摩耗状態を診断するようにしている。
【0027】
距離センサ9は、図1のほか図2に示すように、レーザー光によって可動プレート7の変位を検出する光学式のものであって、コア10の上端部に設けられたケーシング15と、そのケーシング15内で後述する被検出体19に対向配置されたセンサヘッド16と、ケーシング15内に設けられた距離演算回路17と、を有している。なお、図2では距離演算回路17を便宜上省略して描いている。
【0028】
センサヘッド16は、コア10のうちケーシング15内に突出するブラケット部10cに支持されていて、可動プレート7に連動して変位する被検出体19へレーザー光を照射するとともに、その被検出体19からの反射光を受光し、被検出体19との間の被検出体間距離dに応じた出力を距離演算回路17へ送出するようになっている。そして、距離演算回路17が、センサヘッド16の出力に応じてブレーキディスク5の変位量に相当する被検出体間距離dを算出し、制御装置24へ出力することになる。すなわち、被検出体19と距離センサ9により、可動プレート7のブレーキディスク5に対する接近・離間方向の変位を検出する変位検出手段29が構成されている。
【0029】
一方、コア10の上部には可撓性部材としての板ばね18が設けられている。板ばね18は、コア10のうち可動プレート7側の端面に形成された凹部10dと当該凹部10dにボルト20をもって締結されたプレート21との間に挟持され、その凹部10から上方(電磁ブレーキ装置2の径方向外側)に向けて延出している。そして、当該板ばね18のうちケーシング15内に臨む先端部に被検出体19が設けられている。また、板ばね18の長手方向中間部は、当該板ばね18とコア10のブラケット部10cとの間に介装されたコイルスプリング22によって可動プレート7側に向かって付勢されている。
【0030】
他方、可動プレート7のうち電磁石ユニット8側端面の上端部には、板ばね18の長手方向中間部を押圧操作するための押圧操作手段たる押圧部材23が設けられている。そして、この押圧部材23のうち電磁石ユニット8側へ突出する突出部23aが、コイルスプリング22と対向する位置で板ばね18に当接している。すなわち、可動プレート7が変位したときに、当該可動プレート7とともに変位する押圧部材23の突出部23aが板ばね18の長手方向中間部を押圧操作することにより、被検出体19が、可動プレート7に連動して当該可動プレート7よりも大きく且つ当該可動プレート7と同方向へ変位することになる。換言すると、板ばね18の撓み変形をもって可動プレート7の変位を機械的に拡大するようになっている。
【0031】
また、制御装置24は、エレベータの巻上機のうち図示外の電動モータおよび電磁石ユニット8を駆動制御する運行制御部24aと、距離センサ9の出力に基づいてブレーキディスク5の異常摩耗の有無、すなわち摩耗状態を診断し、その診断結果の情報を通信装置25および通信回線26を介して遠隔地の監視センター27へ送信する摩耗診断手段としての異常判定部24bと、被検出体間距離dの履歴を記憶する記憶部24cと、を備えている。なお、本実施の形態では、ブレーキディスク5の異常摩耗の有無を制御装置24の異常判定部24bによって診断するようになっているが、ブレーキディスク5の摩耗診断手段を制御装置24とは別に設けてもよいことは言うまでもない。また、運行制御部24aが図示外の電動モータを駆動する際には、距離センサ9の出力に基づいて電磁ブレーキ装置2が制動解除状態にあることを確認した上で行うことになる。
【0032】
図3は、異常判定部24bの処理内容を示すフローチャートである。なお、図3に示す処理は、予め定められた点検開始時刻に毎日行われるものであって、この点検開始時刻はエレベータの使用目的や設置場所等を考慮して当該エレベータの使用頻度が著しく低い時間帯に設定されている。
【0033】
図3に示すように、異常判定部24cは、まず運行停止指令信号を運行制御部24aに出力し、図示外の電動モータの駆動を停止するとともに電磁石ユニット8を消磁して駆動軸1を制動する(ステップS1)。そして、この状態における被検出体間距離dを被検出体間距離の現在値diとして距離センサ9から読み込み(ステップS2)、その被検出体間距離の現在値diを記憶部24cに書き込む(ステップS3)。
【0034】
次いで、異常判定部24bは、被検出体間距離の現在値diが予め定められた正常判定上限値dmax以下であるか否かを判定する(ステップS4)。
【0035】
そして、ステップS4における判定の結果が「YES」である場合には、異常判定部24bは、予め記憶部24cに書き込まれている被検出体間距離の前回値diー1を読み込み、その前回値diー1を被検出体間距離の現在値diから減じた被検出間距離の増加量Δdが予め定めた許容増加量Δdmax以下であるか否かを判定する(ステップS5)。
【0036】
ここで、当然のことながら、制御装置24の運行制御部24aは、図示外の電動モータによって駆動軸1を回転駆動する際には、電磁ブレーキ装置2を制動解除状態にすることになるが、万が一、電磁ブレーキ装置2が制動状態または不完全制動解除状態のときに駆動軸1を回転駆動してしまうと、ブレーキディスク5の摩耗が早期に進行してしまうことになる。そこで、ステップS5では、時間の経過に伴う被検出体間距離の増加量Δdと許容増加量Δdmaxとを比較することにより、両ライニング5の摩耗が異常に進行していないかを判定するようにしている。
【0037】
さらに、ステップS5における判定の結果が「YES」である場合には、異常判定部24bは、電磁ブレーキ装置2が正常である旨を通信装置25および通信回線26を介して監視センター27に出力するとともに(ステップS6)、運行制御部24aに運行再開指令信号を出力してエレベータの運行を再開し(ステップS7)、処理を終了する。
【0038】
一方、ステップS4またはステップS5における判定の結果が「NO」である場合には、異常判定部24bは、被検出体間距離の現在値diが正常判定上限値dmaxよりも大きい値に予め設定した運行停止設定値dstop以下であるか否かをさらに判定する(ステップS8)。
【0039】
そして、ステップS8における判定の結果が「YES」である場合には、異常判定部24bは、電磁ブレーキ装置2の点検が必要である旨の情報を第1異常検出信号として通信装置25および通信回線26を介して監視センター27に送出した上で(ステップS9)、運行制御部24aに運行再開指令信号を出力してエレベータの運行を再開し(ステップS10)、処理を終了する。
【0040】
つまり、この場合には、ブレーキディスク5の摩耗状態が正常範囲を外れてはいるものの、エレベータの運行を安全に継続できないような緊急性を有する異常ではないため、例えば次回の保守点検時などエレベータ利用者の都合がよいときに保守作業員が電磁ブレーキ装置2の点検を行い、必要な措置を講ずることになる。なお、保守作業員による電磁ブレーキ装置2の点検作業に役立てるべく、保守作業員が携行している保守用携帯端末装置28が制御装置24の記憶部24cに接続可能になっていて(図1参照)、記憶部24cが記憶している被検出体間距離dの履歴情報を保守用携帯端末装置28を通じて確認できるようになっている。
【0041】
一方、ステップS8における判定の結果が「NO」である場合には、異常判定部24bは、電磁ブレーキ装置2の異常によりエレベータの運行を停止する旨の情報を第2異常検出信号として通信装置25および通信回線26を介して監視センター27に出力し(ステップS11)、エレベータの運行を再開せずに処理を終了することになる。
【0042】
すなわち、この場合には、被検出体間距離の現在値diが著しく大きく、エレベータの運行を安全に継続することができないため、エレベータの運行を停止してその旨の情報を監視センター27に出力することにより、監視センター27にて早急に保守作業員の派遣を手配することになる。そして、派遣された保守作業員は、例えば電磁ブレーキ装置2の調整や部品交換等の必要な措置を施した上でエレベータを復旧することになる。
【0043】
したがって、本実施の形態によれば、距離センサ9の出力に基づき、ブレーキディスク5の異常摩耗の有無を判定することができるようになるから、保守作業員がブレーキディスク5の摩耗状態を頻繁に点検する必要がなくなり、エレベータの保守作業に要する時間を短縮できるようになる。
【0044】
その上、可動プレート18の微小な変位を板ばね18によって機械的に拡大することで、ブレーキディスク5の摩耗状態を高精度に診断できるようになるメリットもある。
【0045】
また、ブレーキディスク5の異常摩耗が緊急性を有しない比較的軽度なものである場合には、エレベータの運行を停止することなくエレベータ利用者の都合のよいときに電磁ブレーキ装置2の保守作業を行うことで、エレベータ利用者の不満を少なくすることができる一方、ブレーキディスク5の異常摩耗が比較的重度のものである場合には、エレベータの運行を停止して電磁ブレーキ装置2の改善措置を早急に行うことで、安全を確保することができる。
【0046】
さらに、時間の経過に伴う被検出体間距離の増加量Δdに基づき、ブレーキディスク5の摩耗が異常に進行していないかを判定することにより、電磁ブレーキ装置2の異常をより早期に検出可能になるから、エレベータの安全性をさらに高めることができるメリットがある。
【符号の説明】
【0047】
1…駆動軸
2…電磁ブレーキ装置
5…ブレーキディスク
6…固定プレート
7…可動プレート
8…電磁石ユニット(電磁駆動手段)
9…距離センサ(変位センサ)
18…板ばね(可撓性部材)
19…被検出体
23…押圧部材(押圧操作手段)
24b…異常判定部(摩耗診断手段)
29…変位検出手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
巻上機の駆動軸とともに回転するブレーキディスクの両側に固定プレートと可動プレートとをそれぞれ対向配置し、それら両プレート間に上記ブレーキディスクを挟持することにより上記駆動軸を制動する一方で、上記可動プレートの反ブレーキディスク側に設けられた電磁駆動手段の電磁吸引力により、上記可動プレートを吸引して制動力を解放する電磁ブレーキ装置を有するエレベータの電磁ブレーキ点検装置において、
上記可動プレートの上記ブレーキディスクに対する接近・離間方向の変位量を検出する変位検出手段と、
その変位検出手段の出力に基づいて上記ブレーキディスクの摩耗状態を診断する摩耗診断手段と、
を備えていることを特徴とするエレベータの電磁ブレーキ点検装置。
【請求項2】
上記変位検出手段は、上記可動プレートに連動して当該可動プレートよりも大きく変位する被検出体と、その被検出体の変位量を検出する変位センサと、からなることを特徴とする請求項1に記載のエレベータの電磁ブレーキ点検装置。
【請求項3】
上記電磁駆動手段から電磁ブレーキ装置の径方向外側に向けて延びる可撓性部材の先端部に上記被検出体が装着されてる一方、上記可動プレートには、上記可撓性部材の長手方向中間部に対向する押圧操作手段が設けられていて、
上記可動プレートの動作に伴って上記押圧操作手段が上記可撓性部材の長手方向中間部を押圧操作することにより、その可撓性部材の撓み変形をもって上記被検出体が上記可動プレートの動作方向へ当該可動プレートよりも大きく変位するようになっていることを特徴とする請求項2に記載のエレベータの電磁ブレーキ点検装置。
【請求項4】
上記摩耗診断手段は、上記可動プレートの変位量が予め定めた正常判定上限値よりも大きいか否かを上記変位検出手段の出力に基づいて判定し、上記可動プレートの変位量が上記正常判定上限値よりも大きい場合に、警報信号を出力するようになっていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のエレベータの電磁ブレーキ点検装置。
【請求項5】
上記摩耗診断手段は、上記可動プレートの変位量が上記正常判定上限値よりも大きく且つその正常判定上限値よりも大きく設定した運行停止設定値以下である場合に、その旨を示す第1警報信号を上記警報信号として出力するとともに、エレベータの運行を継続させる一方、
上記可動プレートの変位量が上記運行停止設定値よりも大きい場合に、その旨を示す第2警報信号を上記警報信号として出力するとともに、エレベータの運行を停止させるようになっていることを特徴とする請求項4に記載の電磁ブレーキ点検装置。
【請求項6】
上記摩耗診断手段は、時間の経過に伴う上記可動プレートの変位増加量が予め定めた許容変位増加量よりも大きい場合に警報信号を出力するようになっていることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の電磁ブレーキ点検装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2011−148578(P2011−148578A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−10550(P2010−10550)
【出願日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【出願人】(000228246)日本オーチス・エレベータ株式会社 (61)
【Fターム(参考)】