説明

エレベーターの扉装置

【課題】後扉と後扉用気密部材との接触抵抗を低減しながら後扉用気密部材による良好な遮煙性を長期に亘って維持すること。
【解決手段】後扉2の上面部と上枠部との隙間を気密的に塞ぐための後扉用気密部材9は、後扉2の上面部2bの全幅に亘って延びると共に先端にいく程後扉2の上面部2bに押し付けられる方向に向かって傾斜した弾性を有する長尺ひれ状の第1弾性体9Aと、扉全閉時に後扉2の戸先側コーナー部2cと対向する第1弾性体9Aの左右方向の一端部9aを該第1弾性体9Aの傾斜方向に向かって弾性力を常時付与する第2弾性体30とを備えたエレベータの扉装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレベーターの扉装置に関し、詳しくは乗場出入口を囲む出入口枠体の上枠部と扉の上部との隙間を塞ぐための気密部材を備えたエレベーターの扉装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エレベーターの乗場出入口を開閉する乗場側に配置される引き違い扉として、左側の前扉と後扉、右側の前扉と後扉の合計4枚の扉を配置する。左側の前扉と後扉とで乗場出入口の左半部を開閉自在とし、右側の前扉と後扉とで乗場出入口の右半部を開閉自在とする。この4枚扉を閉じた状態で左右の後扉の端面同士が当接し、4枚扉を開いた状態で左右の前扉の後ろに左右の後扉がそれぞれ重なるように構成した扉構造が一般的である。
【0003】
また、遮煙機能を有するエレベーターは、扉を囲う4方について、気密部材を用いて隙間を塞ぐことで、遮煙効果を確保している。
【0004】
従来より、乗場出入口を囲む出入口枠体の上枠部と扉の上部との間を気密部材により気密にする遮煙扉構造として、以下の特許文献1、2が知られている。
【0005】
特許文献1は、出入口に設けられた上枠及び縦枠からなる出入口枠と、この出入口枠に隙間を隔てて配置された乗場扉と、上枠に設けた気密部材及びこの気密部材と気密に接触して遮煙する垂直部を有する断面L型遮煙部材とで構成された遮煙装置である。
【0006】
特許文献2は、乗場側の4枚扉の上方側に上枠部を設置し、上枠部の後部中央を後方に突出して中央突出部を形成し、上枠部の後部左右両側にそれぞれ斜め上後方に傾斜した弾性を有するひれ状の前扉用気密部材を設ける。上枠部の中央突出部を形成した後部中央に斜め上後方に傾斜した弾性を有するひれ状の後扉用気密部材を設ける。後扉の戸先側のコーナー部分に前方及び外側方に開口する凹部を有する誘導ガイドを取り付け、後扉を開状態から閉方向に移動する途中で、上記傾斜した後扉用気密部材の左右方向の一端部が凹部に導入されて傾斜方向に起こされるように構成した遮煙構造である。この構造では後扉用気密部材を弾性ひれ状に形成することで扉と後扉用気密部材との接触抵抗を小さくできる。さらに扉の端部に誘導ガイドを取り付けることにより、図7に示すように、後扉2を閉じる際に、弾性変形可能な後扉用気密部材9の先端9cに後扉2の戸先側のコーナー部分が当たって、図7の矢印Pで示すように、該先端9c部分が下向きに反転するのを防止できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−335887号公報
【特許文献2】特開2010−173767号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上記特許文献1に示される従来例にあっては、扉開閉時に乗場扉に取り付けた断面L型遮煙部材の垂直部が、ゴムなど弾力性のある材質からなる厚肉形状の弾性体に摺接するため、乗場扉と弾性体との接触抵抗が大きく、乗場扉のスムーズな開閉動作を確保しにくいという問題がある。
【0009】
一方、上記特許文献2にあっては、後扉の開閉のたびに後扉用気密部材を構成する弾性ひれ片の端部に負担がかかり、その弾力性が弱まって図7の矢印Qで示す方向に変形して、後扉2の上面部2bから離れやすくなり、遮煙性が低下しやすくなるという問題がある。
【0010】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、後扉と後扉用気密部材との接触抵抗を低減しながら後扉用気密部材による良好な遮煙性を長期に亘って維持できるようにしたエレベーターの扉装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記の課題を解決するために、本発明は、エレベーターの乗場から昇降路に通じる乗場出入口を、左右方向に開閉する前扉と後扉とを有する引き違い扉で開閉すると共に、前記乗場出入口を囲む出入口枠体の上枠部の片側に前記前扉の上面部と前記上枠部との隙間を気密的に塞ぐための前扉用気密部材を取り付け、該上枠部の中央側に後方に向かって突出する中央突出部を設け、該中央突出部に前記後扉の上面部と前記上枠部との隙間を気密的に塞ぐための後扉用気密部材を取り付け、扉全開時に前記後扉が前記後扉用気密部材の左右方向の一端部から離反して前記前扉の後ろに重なる位置まで移動し、扉全閉時に前記後扉が前記後扉用気密部材の左右方向の一端部から他端部側に移動することで前記上枠部と前記各扉の上面部との間を前記前扉用気密部材と前記後扉用気密部材とで遮煙構造とするエレベーターの扉装置であって、前記後扉用気密部材は、前記後扉の上面部の全幅に亘って延びると共に先端にいく程前記後扉の上面部に押し付けられる方向に向かって傾斜した弾性を有する長尺ひれ状の第1弾性体と、扉全閉時に前記後扉の戸先側コーナー部と対向する前記第1弾性体の左右方向の一端部側を該第1弾性体の傾斜方向に向かって弾性力を常時付与する第2弾性体とを備えていることを特徴としている。 また、前記上枠部は、前記第1弾性体の根元部を固定して前記第1弾性体を前記傾斜方向に向かって保持する固定部と、該固定部の背後から立設された壁部とを備え、前記第2弾性体は前記第1弾性体の一端部の裏面と前記壁部との間に配設されるのが好ましい。
【0012】
また、前記第2弾性体は第1弾性体とは別体の弾性ブロック材で構成されているのが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係るエレベーターの扉装置は、後扉と後扉用気密部材との接触抵抗を低減しながら後扉用気密部材による良好な遮煙性を長期に亘って維持できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態の後扉用気密部材を説明する斜視図である。
【図2】同上の後扉用気密部材を備えたエレベーターの扉装置全体の分解斜視図である。
【図3】同上のエレベーターの乗場出入口の上枠部に同上の後扉用気密部材と前扉用気密部材とを取り付けた状態を説明する斜視図である。
【図4】同上の後扉用気密部材の取り付け状態を説明する側面図である。
【図5】(a)は同上のエレベーターの乗場側の4枚扉を全開位置から閉方向に移動する途中の状態を示す平面図であり、(b)は(a)のA―A線から見た側面断面図である。
【図6】(a)は同上の4枚扉を戸じた状態の平面図であり、(b)は(a)のB―B線から見た側面断面図である。
【図7】同上の後扉用気密部材の先端側が傾斜方向と反対側に反転或いは変形して遮煙性が損なわれる状態となった場合を説明する参考図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0016】
本実施形態のエレベーターの乗場出入口4を開閉する扉装置は、図2に示すように、上吊り式の4枚扉1からなる。以下において、昇降路(エレベーターかご)側をY、乗場側をXと定義し、左右2枚扉のうち昇降路側Yに位置する後方の扉を後扉2、乗場側Xに位置する前方の扉を前扉3、扉開閉方向を左右方向Mと定義する。
【0017】
各扉1の上端部1aは、乗場天井面側に設置した扉開閉機構20により開閉駆動される。扉全閉時には左右の後扉2の戸先面同士が端面用気密部材60を介して当接し、扉全開時には左右の前扉3の後ろに左右の後扉2がそれぞれ重なるように構成してある。なお、扉開閉機構20は、4枚扉1を閉じるときは、右側の後扉2と前扉3とを移動量比2:1で閉じると同時に、左側の後扉2と前扉3とを移動量比2:1で閉じるようにしている。この扉開閉機構20については本出願人が既に開示した特開2010−173767号公報において公知であり、詳細な説明は省略する。なお図2中の16は床面に設置される敷居(シル)、15は左右の縦枠、90は扉開閉機構20の幕板部である。
【0018】
乗場出入口4の上端部には、前記扉開閉機構20とは別に、4枚扉1の上部全体を覆う横長板状の上枠部6が配設されている。
【0019】
上枠部6は乗場出入口4の幅方向に沿って横長状に延びており、その後部中央には後部両側6aよりも後方(昇降路側Y)に突出した中央突出部7が形成されている。本例では、図5(a)に示すように、上枠部6の中央突出部7の幅寸法L1は、後扉2の2枚分の幅寸法と略等しく設定される。上枠部6の左右両側の幅寸法L2は、それぞれ、前扉3の1枚分の幅寸法と略等しく設定される。
【0020】
上枠部6の後部両側6aには、図5(b)に示すように、斜め上後方Wに向かって傾斜した弾性を有する前扉用気密部材8を設けてあり、上枠部6の中央突出部7には、斜め上後方Wに傾斜した弾性を有する後扉用気密部材9を設けてある。4枚扉1を閉じた状態(図6の状態)では、左右の前扉3の上面部3bの左右方向Mの全長にわたって左右の前扉用気密部材8が各々弾接する。さらに左右の後扉2の上面部2bの左右方向Mの全長にわたって後扉用気密部材9が弾接する。4枚扉1を開いた状態(図5の状態)では、左右の前扉3の上面部3bの左右方向Mの端部にそれぞれ左右の前扉用気密部材8の端部が弾接する。さらに左右の後扉2の上面部2bがそれぞれ後扉用気密部材9から左右方向Mに離れて非接触となる。
【0021】
後扉用気密部材9と前扉用気密部材8は、いずれも、例えばゴムや樹脂等の弾性材料から成る。
【0022】
本例においては、後扉用気密部材9(前扉用気密部材8も同様)は、図1に示すように、第1弾性体9Aと第2弾性体30とで構成されている。第1弾性体9Aは、先端にいく程後扉2の上面部2b(図5(b))に押し付けられる方向(本例では昇降路側Y)に向かって傾斜した弾性を有する長尺のひれ片状に形成される。本例の第1弾性体9Aは、図4に示すように、根元部9bが上枠部6の立ち上げ部80にネジ70で固着されるアングル材55(壁部)の内隅部に沿って凹設した凹溝状の固定部55aに嵌入される。第1弾性体9Aは固定部55aの前後両側に設けた回転規制用の凸部55b,55cによって、後扉用気密部材9の先端9c側が斜め上後方Wに向かう傾斜姿勢で保持される。なお第1弾性体9Aの外表面には、滑り性に優れた樹脂がコーティングされているのが望ましい。コーティング材料としては例えば、ウレタン樹脂、シリコン樹脂等が挙げられる。
【0023】
第2弾性体30は、図1に示すように、第1弾性体9Aの一端部9a側の先端9c部分の裏側に設けられている。この第2弾性体30は、第1弾性体9Aの先端9c部分に対してその傾斜方向Wに向かって弾性力を常時付与するものであり、本例では側面から見て逆三角形状をしたスポンジ製の弾性ブロック材30Aで構成されている。この弾性ブロック材30Aは、第1弾性体9Aの一端部9aの裏面とアングル材55(壁部)との空間スペースに挿入されて、接着剤等で固着一体化されている。
【0024】
上記弾性ブロック材30Aは、図3に示す6箇所、つまり、後扉用気密部材9の両端2箇所E1、E2と、右側の前扉用気密部材8の両端2箇所E3、E4と、左側の前扉用気密部材8の両端2箇所E5、E6に、それぞれ設けられる。
【0025】
しかして、後扉2を閉じる際に後扉2の戸先側コーナー部2c(図5参照)が該一端部9aの先端9cに当たり、先端9cが後扉2の上面部2bに沿って弾性変形することで、後扉2の上面部2bの全幅に亘って第1弾性体9Aが気密に弾接して遮煙構造となる。このとき、後扉2と弾接する第1弾性体9Aを長尺の弾性ひれ状に形成しているので、後扉2と後扉用気密部材9との接触抵抗を低減でき、後扉2のスムーズな開閉動作ができる。そのうえ、第2弾性体30によって第1弾性体9Aの一端部9aの先端9c側が補強されているので、後扉2の戸先側コーナー部2cが該一端部9aの先端9cに当たったときに、該一端部9aが図7の矢印Pで示す方向に反転するおそれがない。しかも、扉開閉を繰り返しても第1弾性体9Aの先端9cの弾力性が低下し難くなり、図7の矢印Qで示す方向に変形することがない。結果、後扉用気密部材9の遮煙性を長期に亘って良好に維持できるようになる。
【0026】
また、第2弾性体30は、第1弾性体9Aとこれを固定する上枠部6との間に保持されるので、第2弾性体30を第1弾性体9Aと上枠部6とを利用して納まり良く、且つ容易に収納保持できるようになる。
【0027】
そのうえ第2弾性体30を第1弾性体9Aとは別体のスポンジ製の弾性ブロック材30Aで構成しているので、既存の弾性ひれ状の第1弾性体9Aを設計変更する必要がなく、既存の第1弾性体9Aをそのまま利用できる。しかもスポンジ製の弾性ブロック材30Aは比較的低コストであるので、費用をかけずに後扉用気密部材9の遮煙性を高めることができる。
【0028】
なお、前扉用気密部材8の2箇所E3、E6(図3)は常に前扉3と当接していて、後扉用気密部材9の2箇所E1、E2のように後扉2が接触離反するものではないが、この前扉用気密部材8の4箇所E3〜E6にも第2弾性体30(図5(b)、図6(b)参照)を設けることで、特に前扉用気密部材8の図7の矢印Qで示す方向への変形を防ぐことができ、前扉用気密部材8の遮煙性を高める点で有効である。
【0029】
前記実施形態では第2弾性体30を第1弾性体9Aとは別体の弾性ブロック材30Aで構成して接着する場合を説明したが、同じゴム等の弾性材料を用いて第2弾性体30と第1弾性体9Aとを一体形成してもよい。この場合、部品数が減少して省施工化を図ることができる。
【符号の説明】
【0030】
1 扉
2 後扉
2b 上面部
2c 戸先側コーナー部
3 前扉
4 乗場出入口
6 上枠部
7 中央突出部
8 前扉用気密部材
9 後扉用気密部材
9A 第1弾性体
9a 一端部
9b 根元部
30 第2弾性体
30A 弾性ブロック材
55 壁部(アングル材)
55a 固定部
55b 壁部
M 左右方向
W 傾斜方向
X 乗場側
Y 昇降路側

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エレベーターの乗場から昇降路に通じる乗場出入口を、左右方向に開閉する前扉と後扉とを有する引き違い扉で開閉すると共に、前記乗場出入口を囲む出入口枠体の上枠部の片側に前記前扉の上面部と前記上枠部との隙間を気密的に塞ぐための前扉用気密部材を取り付け、該上枠部の中央側に後方に向かって突出する中央突出部を設け、該中央突出部に前記後扉の上面部と前記上枠部との隙間を気密的に塞ぐための後扉用気密部材を取り付け、扉全開時に前記後扉が前記後扉用気密部材の左右方向の一端部から離反して前記前扉の後ろに重なる位置まで移動し、扉全閉時に前記後扉が前記後扉用気密部材の左右方向の一端部から他端部側に移動することで前記上枠部と前記各扉の上面部との間を前記前扉用気密部材と前記後扉用気密部材とで遮煙構造とするエレベーターの扉装置であって、前記後扉用気密部材は、前記後扉の上面部の全幅に亘って延びると共に先端にいく程前記後扉の上面部に押し付けられる方向に向かって傾斜した弾性を有する長尺ひれ状の第1弾性体と、扉全閉時に前記後扉の戸先側コーナー部と対向する前記第1弾性体の左右方向の一端部側を該第1弾性体の傾斜方向に向かって弾性力を常時付与する第2弾性体とを備えていることを特徴とするエレベーターの扉装置。
【請求項2】
前記上枠部は、前記第1弾性体の根元部を固定して前記第1弾性体を前記傾斜方向に向かって保持する固定部と、該固定部の背後から立設された壁部とを備え、前記第2弾性体は前記第1弾性体の一端部の裏面と前記壁部との間に配設されることを特徴とする請求項1記載のエレベーターの扉装置。
【請求項3】
前記第2弾性体は第1弾性体とは別体の弾性ブロック材で構成されていることを特徴とする請求項1又は2記載のエレベーターの扉装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−144321(P2012−144321A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−3192(P2011−3192)
【出願日】平成23年1月11日(2011.1.11)
【出願人】(505356468)パナソニック ホームエレベーター株式会社 (23)
【出願人】(397003219)司ゴム電材株式会社 (10)
【Fターム(参考)】