説明

エレベーターの運転制御装置

【課題】昇降路内で作業する保守員を安全に保護しながら保守点検等が行えるエレベーターの運転制御装置を提供する。
【解決手段】昇降路1内の所定の場所での人M2a,M2bの存在を直接的又は間接的に検出する人検出手段SW1,SW2と、人検出手段により人が検出されていない場合には、乗場釦6およびかご内操作盤7の行き先階釦7aの操作による呼びに応答するように巻上電動機5を制御してかご2を運転制御する通常運転を行い、人が検出されている場合には、安全保護のために検出された人がいる場所に関連する所定階にかごを移動させないように所定の上記呼びに対する応答を禁止する制御手段8と、を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はエレベーターの運転制御装置、特に昇降路内作業時の保守員の安全保護に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、保守員がエレベーターかごの屋根の上(以下かご上と略す)で作業を行っている時に、かご内の別の保守員が誤って高速運転回路に切り替えても、高速運転回路を無効とし、かご上の保守員の安全を確保する装置として、かご上にいる人体を検出する検出センサと、かごに警報器を設け、切り替えスイッチを高速運転回路に切り替えた時、人体検出センサが人体を検出すると、高速運転回路を無効とする構成のものがあった(例えば特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開平7−137947号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような、1人の保守員がかご内でかごを運転制御しながら別の保守員がかご上で保守点検作業を行う場合には、かごが最上階付近に達すると、かご上の保守員が昇降路最上部や最上部に設けられている装置等に接触する可能性があるが、この点については従来、何も対策がとられていなかった。また、1人の保守員がかご内でかごを運転制御しながら別の保守員が昇降路最下部(ピット)で保守点検作業を行う場合においても、かごが最下階付近に達すると、昇降路最下部の保守員がかごの下部に接触する可能性があるが、この点についてもやはり何も対策がとられていなかったという問題があった。
【0005】
この発明は、上記の課題を解消するためになされたもので、例えば1人の保守員がかご内でかごを運転制御しながら、別の保守員が、かご上や昇降路最下部等の昇降路内で作業を行う場合において、昇降路内で作業する保守員を安全に保護するようにエレベーターかごを運行させるエレベーターの運転制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明は、昇降路内の所定の場所での人の存在を直接的又は間接的に検出する人検出手段と、上記人検出手段により人が検出されていない場合には、乗場釦およびかご内操作盤の行き先階釦の操作による呼びに応答するように巻上電動機を制御してかごを運転制御する通常運転を行い、人が検出されている場合には、安全保護のために検出された人がいる場所に関連する所定階にかごを移動させないように所定の上記呼びに対する応答を禁止する制御手段と、を備えたことを特徴とするエレベーターの運転制御装置にある。
【発明の効果】
【0007】
この発明では、昇降路内で作業する保守員を安全に保護しながら保守点検等が行える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
実施の形態1.
図1はこの発明の一実施の形態によるエレベーターの運転制御装置を備えたエレベーターシステムの構成を示す図である。図1は例えばトラクション方式のエレベーターシステムで実施したもので、両端にそれぞれエレベーターかご2と釣合おもり3が結合された主索4が巻上電動機5に掛けられ駆動されることで、かご2と釣合おもり3がつるべ式に動作して昇降路1内を互いに逆方向に昇降するものである。かご2の運転制御は昇降路1の上の機械室MLに設けられた機械室制御盤8により巻上電動機5を制御するようにして行われ、各階の乗場(F1〜F10:10階建ての場合を示す)に設けられた乗場釦6(101、20N等含む)からの乗場呼びおよびかご2内のかご内操作盤7の行き先階釦(301、30N等)の操作によるかご呼びに基づき、各階の乗場(F1〜F10)へかご2をサービスするように巻上電動機5を制御する。各階の乗場の乗場釦6からの信号は信号線(図示省略)により機械室制御盤8へそれぞれ伝送され、かご内操作盤7の行き先階釦からの信号はかご2の下方に撓んで延びるケーブルC1、昇降路1内の側面に固定されたケーブルボックス9、ケーブルC2を介して機械室制御盤8へ伝送される。また無線通信で信号を伝送するタイプのものもある。以上は既存のシステムの構成である。
【0009】
保守点検においては、かご2を走行させた状態で、昇降路1内のかご2や釣合おもり3の状態、またこれらのガイドレール(図示せず)との状態、各種装置やケーブル(C1、C2等含む)等の状態を保守員が目や耳で点検する必要がある。かご2内ではこのような点検はできないため、図1に示すように保守員が例えばM2a、M2bで示すように、かご上(かごの屋根の上)や昇降路最下部にいて、上記のような点検を行う。この際、乗客を運ぶ通常運行時の状態で、どのような状態になっているか、ノイズの発生等はないか等の点検を行う必要があるが、かご上や昇降路最下部からでは通常運行時の速度でかごを走行させることができないために、かご2内に別の保守員M1が乗り込み、かご内操作盤7の行き先階釦7aを操作して通常運行時の速度でかごを走行させる。そこでかご上や昇降路最下部にいる保守員の安全保護を確保する必要がある。
【0010】
かご上や昇降路最下部には上記のような保守点検作業のために通常、かご上灯L1、ピット灯L2(照明設備)が設けられている。昇降路1内は通常、外部からの光が入ることはなく、真っ暗であり、上記のような保守点検作業を行うにはこのようなかご上灯L1、ピット灯L2を点灯させる必要がある。
【0011】
そこでこの実施の形態では、例えばかご上灯L1のかご上照明スイッチSW1がオン状態にある時には、かご上に保守員M2aがいるとして、最上階F10の乗場釦6(20N)による最上階Down呼びおよびかご内操作盤7の行き先階釦30Nによる最上階かご呼び(これらを最上階呼びとする)に対する応答を禁止し、また、昇降路最下部のピット灯L2のピット照明スイッチSW2がオン状態にある時には、昇降路最下部に保守員M2bがいるとして、最下階F1の乗場釦6(101)による最下階Up呼びおよびかご内操作盤7の行き先階釦301による最下階かご呼び(これらを最下階呼びとする)に対する応答を禁止し、双方の照明設備のスイッチがオン状態にある時には、最上階呼びと最下階呼びの双方に対する応答を禁止する。
【0012】
上記の実現手段の一例として、エレベーターシステムにおけるリレーを含む電気回路を図2に示すように変更する。図2の(a)の最上階呼びに対して応答する部分には、かご上照明スイッチSW1にかご上灯L1とかご上照明スイッチSW1オン時に励磁されるリレーコイルCTの並列回路を直列接続した回路、最上階F10の最上階Down呼びの乗場釦20NとリレーコイルCTのB接点CT1と最上階Down呼びリレーコイル20Naとからなる直列回路、並びにかご内操作盤7の最上階行き先階釦30NとリレーコイルCTのB接点CT2と最上階かご呼びリレーコイル30Naからなる直列回路、か設けられている。また、図2の(b)の最下階呼びに対して応答する部分には、ピット照明スイッチSW2にピット灯L2とピット照明スイッチSW2オン時に励磁されるリレーコイルPTの並列回路を直列接続した回路、最下階F1の最下階Up呼びの乗場釦101とリレーコイルPTのB接点PT1と最下階Up呼びリレーコイル101aとからなる直列回路、並びにかご内操作盤7の最下階行き先階釦301とリレーコイルPTのB接点PT2と最下階かご呼びリレーコイル301aからなる直列回路、か設けられている。なお、かご上灯L1のスイッチSW1のオン/オフはケーブルC1、ケーブルボックス9、ケーブルC2を介して、またピット灯L2のスイッチSW2のオン/オフは信号線LN1、ケーブルボックス9、ケーブルC2を介してそれぞれ機械室制御盤8に接続されている。
【0013】
動作について説明すると、図2の(a)の部分に関しては、かご上で保守員M2aが作業を行うためにかご上照明スイッチSW1がオンされると、かご上灯L1が点灯すると共にリレーコイルCTが励磁される。これにより、最上階F10の最上階Down呼びの乗場釦20Nおよびかご内操作盤7の最上階行き先階釦30Nのいずれか押されても、リレーコイルCTのB接点CT1、CT2は開いているため、最上階Down呼びリレーコイル20Naおよび最上階かご呼びリレーコイル30Na(これらが励磁されて最上階呼びに応答)は励磁されず、最上階呼び応答を禁止する。
【0014】
また、図2の(b)の部分に関しては、昇降路最下部のピットで保守員M2bが作業を行うためにピット照明スイッチSW2がオンされると、ピット灯L2が点灯すると共にリレーコイルPTが励磁される。これにより、最下階F1の最下階Up呼びの乗場釦101およびかご内操作盤7の最下階行き先階釦301のいずれか押されても、リレーコイルPTのB接点PT1、PT2は開いているため、最下階Up呼びリレーコイル101aおよび最下階かご呼びリレーコイル301a(これらが励磁されて最下階呼びに応答)は励磁されず、最下階呼び応答を禁止する。
【0015】
これにより、保守員がかご上で作業をしている場合には最上階呼びの応答を禁止するのでかご2は最上階へ行くことはなく、昇降路最上部や最上部に設けられている装置等への接触を防止できる。また保守員がピットで作業をしている場合には最下階呼びの応答を禁止するのでかご2は最下階へ行くことはなく、かごの下部への接触を防止できる。なお、図2の(a)、(b)のいずれか一方の部分だけを設けてもよく、その場合には、最上階呼び応答および最下階呼び応答のいずれかを禁止するものとなる。
【0016】
実施の形態2.
なお、上記実施の形態ではリレー回路で実施するものについて説明したが、例えば機械室制御盤8がコンピューターで構成されたプログラム制御のものである場合には、プログラム制御により実施するようにしてもよい。図3にその場合の概略的構成をブロック図で示す。機械室制御盤8内のコンピューターで構成されたプログラム制御によるエレベーター制御部8aには、かご上照明スイッチSW1、ピット照明スイッチSW2からなるスイッチ群SW1、SW2からのスイッチのオン/オフ状態の信号、各階の乗場釦6からなる乗場釦群6からの乗場呼び信号、およびかご内操作盤7からのかご呼び信号が入力され、エレベーター制御部8aはこれらの呼びに応答するように所定のロジックに従って巻上電動機5を駆動制御し、かご2を運転制御する。
【0017】
図4にはエレベーター制御部8aの、スイッチ群SW1、SW2からのスイッチのオン/オフ状態の信号があった場合の部分的な動作フローチャートを示す。動作について簡単に説明すると、かご上照明スイッチSW1もピット照明スイッチSW2もオンされていなければ(ステップS1、S2)、呼びに対する応答禁止のない通常運転を行い(ステップS3)、かご上照明スイッチSW1がオフでピット照明スイッチSW2がオンであれば(ステップS1、S2)、最下階呼びに対する応答を禁止する運転を行う(ステップS4)。かご上照明スイッチSW1がオンでピット照明スイッチSW2がオフであれば(ステップS1、S5)、最上階呼びに対する応答を禁止する運転を行い(ステップS6)、かご上照明スイッチSW1もピット照明スイッチSW2もオンされていれば(ステップS1、S5)、最上階呼びおよび最下階呼び双方に対する応答を禁止する運転を行う(ステップS7)。このようにしても同様の効果を奏する。
【0018】
なお、上記各実施の形態では、昇降路内の所定の場所での人の存在を直接的又は間接的に検出する人検出手段として、保守員の存在を間接的に検出する図1に示したかご上灯L1およびピット灯L2のそれぞれのオン/オフするスイッチSW1、SW2を利用したが、例えば赤外線センサ等からなる人検出センサ(図示省略)をこれらと同じ場所に設けて、直接的に保守員の存在を検出するようにしてもよい。また、これらの人検出手段の設置位置およびその個数は上記実施の形態に限定されるものではなく、昇降路内の所望の数の位置にそれぞれに設け、どの位置で保守員を検出した時にどの呼びに対する応答を禁止して保守員の安全保護を確保するのかを予め定めておけばよい。
【0019】
またトラクション方式のエレベーターシステムに限らず、油圧式等のその他方式のエレベーターシステムにも適用可能であり、同様の効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】この発明の一実施の形態によるエレベーターの運転制御装置を備えたエレベーターシステムの構成を示す図である。
【図2】この発明のエレベーターの運転制御装置をリレーを含む電気回路で実現する場合の電気回路の特徴部分を示す図である。
【図3】この発明のエレベーターの運転制御装置をコンピューターで構成されたプログラム制御による機械室制御盤で実現する場合の概略的構成を示すブロック図である。
【図4】図3のエレベーター制御部の部分的な動作フローチャートである。
【符号の説明】
【0021】
1 昇降路、2 エレベーターかご、3 釣合おもり、4 主索、5 巻上電動機、6 乗場釦、7 かご内操作盤、7a 行き先階釦、8 機械室制御盤、8a エレベーター制御部、9 ケーブルボックス、F1〜F10 乗場、ML 機械室、C1,C2 ケーブル、L1 かご上灯、L2 ピット灯、SW1 かご上照明スイッチ、SW2 ピット照明スイッチ、LN1 信号線、CT,PT リレーコイル、CT1,CT2,PT1,PT2 B接点、20N 最上階Down呼びの乗場釦、20Na 最上階Down呼びリレーコイル、30N 最上階行き先階釦、30Na 最上階かご呼びリレーコイル、101 最下階Up呼びの乗場釦、101a 最下階Up呼びリレーコイル、301 最下階行き先階釦、301a 最下階かご呼びリレーコイル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
昇降路内の所定の場所での人の存在を直接的又は間接的に検出する人検出手段と、
上記人検出手段により人が検出されていない場合には、乗場釦およびかご内操作盤の行き先階釦の操作による呼びに応答するように巻上電動機を制御してかごを運転制御する通常運転を行い、人が検出されている場合には、安全保護のために検出された人がいる場所に関連する所定階にかごを移動させないように所定の上記呼びに対する応答を禁止する制御手段と、
を備えたことを特徴とするエレベーターの運転制御装置。
【請求項2】
上記人検出手段がかごの屋根の上又はピットの少なくとも一方での人の存在を検出し、上記制御手段が、上記かごの屋根の上に人がいる時にかごを最上階まで運転する必要のある最上階呼びへの応答を禁止し、上記ピットに人がいる時にかごを最下階まで運転する必要のある最下階呼びへの応答を禁止し、上記かごの屋根の上およびピットにそれぞれ人がいる時に上記最上階呼びおよび最下階呼びへの応答を禁止することを特徴とする請求項1に記載のエレベーターの運転制御装置。
【請求項3】
上記人検出手段が、保守員が使用する上記昇降路内の照らす所定の場所に設けられた照明設備のスイッチのオン/オフから保守員の存在を間接的に検出するものであることを特徴とする請求項1又は2に記載のエレベーターの運転制御装置。
【請求項4】
上記人検出手段が、保守員を直接的に検出する所定の場所に設けられた人を検出する人検出センサからなることを特徴とする請求項1又は2に記載のエレベーターの運転制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−44844(P2006−44844A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−225818(P2004−225818)
【出願日】平成16年8月2日(2004.8.2)
【出願人】(000236056)三菱電機ビルテクノサービス株式会社 (1,792)
【Fターム(参考)】