説明

エレベータ巻上機の非常救出装置

【課題】簡単な構造でありながら、手巻ハンドルを、巻上機の電動機に取り付けるようにする。
【解決手段】エレベータの巻上機100は、電動機110とブレーキ120と綱車130により構成されている。電動機110のブラケット113aには軸受孔119が形成されており、回転軸114には大歯車118が固定されている。手巻ハンドル150のハンドル軸151を軸受孔119に挿入すると、手巻ハンドル150の小歯車153が、電動機側の大歯車118に噛合するので、ハンドル部152を人力で回転させて、回転軸114ひいては綱車130を回転させることができる。これにより、エレベータのかごを人力で移動させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレベータ巻上機の非常救出装置に関するものである。
特に本発明は、エレベータが停電等により非常停止した時に、エレベータのかごの中に閉じ込められた乗員を救出するために使用する、手巻ハンドルの取り付け構造に工夫をしたものである。
【背景技術】
【0002】
エレベータの巻上機は、綱車と、この綱車を回転駆動する電動機を有している。綱車には主索が巻き掛けられており、主索の一端には「かご」が、主索の他端にはカウンターウエイトが取り付けられている。電動機により綱車を回転させるとかごが昇降移動する。
【0003】
ところで停電になるとエレベータのかごが階間で停止し、乗員がかご内に閉じ込められてしまうことがある。
自家発電設備が設けられている施設では、自家発電設備により発電した電力により、巻上機の電動機を駆動して、エレベータの運転を再開することにより、かごを最寄り階まで昇降させて閉じ込められていた乗員を救出・解放することができる。
一方、自家発電設備が設けられていない施設では、停電時の非常救出のために、手巻ハンドルにより巻上機の電動機や綱車を回転させることにより、かごを最寄り階まで昇降させて閉じ込められていた乗員を救出・解放するようにしている。
【0004】
ここで、手巻ハンドルにより、巻上機の電動機や綱車を回転させる従来技術を説明する。
図3は、特許文献1(特開2000−351548の図9)に示されている技術である。図3において、10は巻上機、11は電動機、12はブレーキであり、15は手巻ハンドルである。
【0005】
停電が発生したときには、ブレーキ12を開放して、手巻ハンドル15を電動機11の回転軸11aの軸端に連結する。そして、手巻ハンドル15を人力で回転駆動して、回転軸11aを回転させることにより、かごを昇降させている。
【0006】
図4は、特許文献2(国際公開番号WO 2004/000710の図2)に示されている技術である。図4において、20は巻上機、21は電動機、22はブレーキ、23は綱車であり、25は手巻ハンドルである。
【0007】
停電が発生したときには、ブレーキ22を開放して、手巻ハンドル25の突起25aを回転部(綱車23や電動機の回転部に一体的に連結されている部分)の切欠きに挿入する。そして、手巻ハンドル25を人力で回転駆動して、回転部(綱車23や電動機の回転部に一体的に連結されている部分)を回転させることにより、かごを昇降させている。
【0008】
なお、手巻ハンドル25を、所定角度回動させると、突起25aが背板24に干渉する。このため、干渉したらブレーキ22を作動させて手巻ハンドル25を取り外し、その後、手巻ハンドル25を別の回転位置にして突起25aを切欠きに挿入し、ブレーキ22を開放して再び手巻ハンドル25を所定角度だけ回転させるという動作を繰り返す。
【0009】
図5は、特許文献3(特開2000−63063の図1)に示されている技術である。図5において、30は巻上機、31は電動機、32はブレーキ、33は綱車であり、35は手巻ハンドルである。
手巻ハンドル35には小歯車35aが備えらており、綱車33には大歯車33aが備えられている。小歯車35aと大歯車33aとが噛合するように、手巻ハンドル35は、巻上機の基台36に設置されたハンドル保持部材34により、回転自在に保持されている。
【0010】
停電が発生したときには、ブレーキ32を開放して、手巻ハンドル35を人力で回転駆動して、綱車33を回転させることにより、かごを昇降させている。
この例では、歯車33a,35aを使用しているので、人力であっても容易に綱車33を回転させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2000−351548
【特許文献2】国際公開番号WO 2004/000710
【特許文献3】特開2000−63063
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
図3に示す従来技術では、回転軸11aの軸端に、手巻ハンドル15を連結している。この構造だと、大型のエレベータなど必要なトルクが大きい場合は、手動にて回転させることができないこともあり得る。
また、回転軸11aの軸端に手巻ハンドル15を連結しているため、軸端にエンコーダなどを取り付けることができない。
近年では、インバータ制御によりモータ制御をするため、回転軸の軸端にエンコーダを備えることが多く、軸端にエンコーダを取り付けられないのでは、問題になることがある。
【0013】
図4に示す従来技術では、軸端に手巻ハンドルを取り付けていないため、エンコーダを取り付けることができるが、構造上連続回転させることができないという問題がある。
【0014】
図5に示す従来技術では、歯車33a,35aを使用して手動にて回転させることを可能にしている。
しかし歯車33a,35aを使用した場合には、手巻ハンドル35を保持する必要があるため、エレベータ巻上機30の基台36にハンドルを保持するハンドル保持部材34を設けている。
この構造だと巻上機30の基台36が必要になるため、綱車を2個の軸受で挟んで保持する両持ち構造では問題ないが、綱車を軸受の外に配置する片持ち構造では採用できない。
【0015】
綱車を軸受の外に配置する片持ち構造を採用する場合は、巻上機に、ハンドルを保持するハンドル保持部材を取り付けることになる。
【0016】
しかし、図6に示す巻上機50ように、電動機51により回転する綱車53が、片持ち構造であり、しかも、軸方向に沿い長い場合や、ブレーキ52のブレーキディスク52aの径が大きい場合などには、干渉を避けるため手巻ハンドル55を保持するハンドル保持部材54や、手巻ハンドル55を大きくする必要があり、操作性、コストの面で不利になるという問題がある。
なお、図6の構造では、綱車53に備えた歯車53aと、手巻ハンドル55に備えた歯車55aとが噛合するようになっている。
【0017】
本発明は、上記従来技術に鑑み、手巻ハンドルを簡単な構造で電動機に取り付けることができると共に、手巻ハンドルを回す力が小さくても非常救出することができ、しかも、巻上機の電動機にエンコーダなどの機器を取り付けることができる、エレベータ巻上機の非常救出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記課題を解決する本発明の構成は、
綱車と、この綱車を回転駆動する電動機を有する巻上機と、
前記電動機の一方のブラケットに貫通して形成された軸受孔と、
前記電動機の回転軸のうち、前記電動機の外部ケーシング内で且つ前記軸受孔が形成されたブラケット側の位置に固定された大歯車と、
手巻ハンドルとで構成されており、
前記手巻ハンドルは、
前記軸受孔に緊密に挿入することができるハンドル軸と、
前記ハンドル軸の基端側に固定されたハンドル部と、
前記ハンドル軸の先端側に備えられており、前記ハンドル軸が前記軸受孔に挿入されると前記大歯車に噛合する小歯車とで構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明では、手巻ハンドルを電動機の回転軸の軸端に配置しないので、回転軸の軸端にエンコーダなどの機器を取り付けることができる。
また、手巻ハンドルの小歯車と、電動機の回転軸の大歯車を噛合して回転力を伝達するようにしているので、手巻ハンドルを回転するのに大きな力を必要としないことから、安全に作業できる。
更に、電動機のブラケットに形成した軸受孔により、手巻ハンドルのハンドル軸を保持するため、部品点数の削減ができる。
また、手巻ハンドルを保持する軸受孔と大歯車を近くに配置できるため、手巻ハンドルの小型化を可能とし、作業性の向上及びコストの低減を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施例に係る、エレベータ巻上機の非常救出装置を示す構成図。
【図2】本発明の実施例に係る、エレベータ巻上機の非常救出装置を示す構成図。
【図3】従来技術に係る、エレベータ巻上機の非常救出装置を示す構成図。
【図4】従来技術に係る、エレベータ巻上機の非常救出装置を示す構成図。
【図5】従来技術に係る、エレベータ巻上機の非常救出装置を示す構成図。
【図6】従来技術に係る、エレベータ巻上機の非常救出装置を示す構成図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について、実施例に基づき詳細に説明する。
【実施例】
【0022】
図1及び図2は、本発明の実施例にかかる、エレベータ巻上機の非常救出装置を示す。両図に示すエレベータの巻上機100は、電動機110とブレーキ120と綱車130を主要部材として構成されている。また、手巻ハンドル150等により、非常救出装置が構成されている。
なお、図1は手巻ハンドル150を巻上機100に取り付けた状態を示しており、図2は手巻ハンドル150を巻上機100から取り外した状態を示している。
【0023】
電動機110の外部ケーシング111は、円筒状のフレーム112と、フレーム112の一端面側を塞ぐブラケット113aと、フレーム112の他端面側を塞ぐブラケット113bにより構成されている。
回転軸114は、ブラケット113aに固定された軸受115aと、ブラケット113bに固定された軸受115bにより回転自在に支持されている。
回転子116は回転軸114に固定されており、固定子117はフレーム112の内周面に備えられている。
【0024】
回転軸114のうち、外部ケーシング111内で且つブラケット113a側の位置には、歯車(大歯車)118が固定されており、回転軸114の軸心と歯車118の回転中心が一致している。
更に、ブラケット113aには、軸心から外れた位置(回転軸114から外れた位置)に、軸受孔119が貫通・形成されている。
【0025】
ブレーキ120は、ブレーキ本体121とブレーキディスク122により構成されている。ブレーキディスク122は、綱車130と共に一体的に形成されている。
【0026】
綱車130は、電動機110の回転軸114のうちブラケット113b側の軸端に固定されており、回転軸114と共に回転する。綱車130の外周面には、主索を巻き掛けるため、巻き掛け溝131が形成されている。
【0027】
手巻ハンドル150は、円柱状のハンドル軸151と、ハンドル軸151の基端側(図1、図2では左側)に固定されたハンドル部152と、ハンドル軸151の先端側(図1、図2では右側)に備えられた歯車(小歯車)153により構成されている。
【0028】
手巻ハンドル150のハンドル軸151の外径は、軸受孔119に緊密に挿入することができる寸法となっており、小歯車153の外径は、軸受孔119の内径よりも小さくなっている。
【0029】
このため、手巻ハンドル150のハンドル軸151を、軸受孔119に緊密に挿入することができる。ハンドル軸151が軸受孔119に緊密に挿入されて、ハンドル軸151の先端側の歯車153が電動機110の内部に位置したときには、軸受孔119がハンドル軸151を回転自在に支持する軸受機能を果たす。しかも、手巻ハンドル150の小歯車153が、電動機110の回転軸114に固定された大歯車118に噛合する。
【0030】
つまり、小歯車153と大歯車118が噛合するため、手巻ハンドル150を保持する構造(ハンドル支持構造)が必要となるが、本例では、「手巻ハンドル150のハンドル軸151が軸受孔119に緊密に挿入されて、軸受孔119がハンドル軸151を回転自在に支持する軸受機能を果たすというハンドル支持構造」により、手巻ハンドル150を支持するようにしている。
【0031】
停電等が発生していない通常時には、図2に示すように、手巻ハンドル150を巻上機100から取り外しておく。このとき、軸受孔119には蓋(図示省略)をして、電動機110の内部に、ゴミが浸入したり人体等が巻き込まれたりすると事態を防止する。
【0032】
停電や機器の故障などにより、エレベータのかごが階間で停止し、乗員がかご内に閉じ込められた場合には、かごを最寄り階まで動かすため、ブレーキ120を開放する。
もし、かごとカウンターウエイトのバランスの不平衡が大きければ、かごは重たい方へ自然に下がるので、最寄り階まで動かすことができる。
【0033】
しかし、かごとカウンターウエイトのバランスが取れていた場合は、手動でかごを動かす必要がある。
このときには、ブラケット113aの軸受孔119に取り付けていた蓋を取り外し、手巻ハンドル150のハンドル軸151を軸受孔119に挿入して、手巻ハンドル150の小歯車153を、電動機110の回転軸114に固定された大歯車118に噛合する。
このとき、軸受孔119がハンドル軸151を回転自在に支持する軸受機能を果たすため、歯車153,118の噛合状態を確保した状態でハンドル部152を回転させることができ、この回転力は、ハンドル軸151,小歯車153,大歯車118,回転軸114を介して綱車113に伝達されて綱車113が回転する。この結果、かごを移動させて最寄階まで動かすことができ、乗員の救出ができる。
【0034】
この場合、歯車153は歯車118に比べて小さいため、手巻ハンドル150を回転させる力(人力)が小さくても、容易に綱車130を回転させて、かごの移動ができる。
また、軸受孔119がハンドル軸151を回転自在に支持する軸受機能を果たすため、手巻ハンドル150を支持する構造が全体的に簡単になる。
さらに、回転軸114の軸端に手巻ハンドル150を連結するわけではないので、回転軸114の軸端にエンコーダなどを取り付けることができる。
【符号の説明】
【0035】
100 巻上機
110 電動機
111 外部ケーシング
112 フレーム
113a,113b ブラケット
114 回転軸
115a,115b 軸受
116 回転子
117 固定子
118 歯車(大歯車)
119 軸受孔
120 ブレーキ
121 ブレーキ本体
122 ブレーキディスク
130 綱車
131 巻き掛け溝
150 手巻ハンドル
151 ハンドル軸
152 ハンドル部
153 歯車(小歯車)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
綱車と、この綱車を回転駆動する電動機を有する巻上機と、
前記電動機の一方のブラケットに貫通して形成された軸受孔と、
前記電動機の回転軸のうち、前記電動機の外部ケーシング内で且つ前記軸受孔が形成されたブラケット側の位置に固定された大歯車と、
手巻ハンドルとで構成されており、
前記手巻ハンドルは、
前記軸受孔に緊密に挿入することができるハンドル軸と、
前記ハンドル軸の基端側に固定されたハンドル部と、
前記ハンドル軸の先端側に備えられており、前記ハンドル軸が前記軸受孔に挿入されると前記大歯車に噛合する小歯車とで構成されていることを特徴とするエレベータ巻上機の非常救出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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