説明

エレメント交換型オイルフィルタ

【課題】 重量の軽減やオイル洩れの抑制等を実現したエレメント交換型オイルフィルタを提供する。
【解決手段】 オイルフィルタ1は、有底円筒状のケーシング2と、センタ雌ねじ3が軸心に形成されたセンタパイプ4と、複数のオイル流入孔5が穿設されたリッド6と、ケーシング2とリッド6との間に介装された耐油ゴム製のOリング7と、ドレンバックバルブ10とを有している。センタパイプ4は、前端から外周側に延設された環状の固定フランジ25と、後端側の内周に形成されたセンタ雌ねじ3と、後端側の外周に形成された固定雄ねじ27とを有している。ナット9は、センタパイプ4の固定雄ねじ27に螺合する雌ねじ41と、駆動工具が係合する6角部42と、6角部42の後方に延設された円筒部43とを有している。ドレンバックバルブ10の内周には、リッド6の筒状部46が嵌入/密着するU字状のリッド保持部49が前方に向けて形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用エンジン等に用いられるスピンオン式のエレメント交換型オイルフィルタに係り、詳しくは重量の軽減やオイル洩れの抑制等を実現する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関(以下、エンジンと記す)には、エンジンオイルを各部に圧送して動弁機構の潤滑やピストンの冷却を行うべく、オイルポンプやオイルフィルタ、ストレーナ、リリーフバルブ等からなる潤滑システムが備えられている。オイルフィルタには種々の形式が存在するが、乗用車等に搭載される中小型エンジン用としてはスピンオン式のものが主流となっている。スピンオン式のオイルフィルタは、濾紙を折り畳んでなるフィルタエレメントを密閉一体型のケーシングに収容したものであり、クランクケースの側面等に突設されたねじボスにねじ込まれて装着される。
【0003】
従来、スピンオン式のオイルフィルタとしては、密閉一体型ケーシングを備えたカートリッジ式が主流であったが、分別廃棄のためのフィルタエレメントとケーシングとの分離が容易に行えないことや、省資源の観点からケーシングの再利用が望ましいこと等から、現在ではフィルタエレメントのみを交換できるエレメント交換型の採用が検討されている。エレメント交換型オイルフィルタでは、フィルタエレメントやリリーフバルブを収容したケーシングと、エンジンのフィルタベースに取り付けるための雌ねじ(センタ雌ねじ)やエンジンオイルの流路が形成されたセットプレートとを分離可能に締結する必要がある。ケーシングとセットプレートとの締結方法としては、取付基台(セットプレート)の端部外周に形成された雄ねじをケーシングの端部内周に形成された雌ねじに螺合させるねじ込み構造(特許文献1参照)や、ケーシングに外嵌したロックリングの係止部とセットプレートの外周に形成された係止部とを係合させるバヨネット構造(特許文献2参照)が公知となっている。
【特許文献1】特開平9−24210号公報
【特許文献2】特開2007−46522号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した特許文献1,2のオイルフィルタでは、セットプレートにセンタ雌ねじが設けられているため、オイルフィルタの脱着時にセットプレートに大きな捻り力が作用する。そのため、センタ雌ねじのねじ径が大きい(すなわち、ねじ山が高い)ことも相俟って、比較的厚肉の金属素材(通常は、鋼板)を用いてセットプレートを製造する必要があり、オイルフィルタの重量が大きくなる問題があった。また、セットプレートの剛性が高い場合、ケーシングやセットプレートの接合部に微少な寸法誤差が存在すると、Oリング等によるシールが完全に行われなくなってオイル洩れが生じる虞があった。更に、オイルフィルタ内にはドレンバックバルブの作用によってエンジンオイルが貯留されているため、オイルフィルタを分解する際に工具等を用いてケーシングに大きな力を加えていると、セットプレートが分離した瞬間にエンジンオイルが周囲に飛散することもあった。
【0005】
本発明は、このような背景に鑑みなされたもので、重量の軽減やオイル洩れの抑制等を実現したエレメント交換型オイルフィルタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るエレメント交換型オイルフィルタの第1の側面では、オイルフィルタエレメントを収容する有底円筒状のケーシング(2)と、前記ケーシングの底部に基端が固着されるとともに、当該ケーシングの軸心に沿って延在するセンタパイプ(4)と、前記センタパイプに外嵌することによって前記オイルフィルタエレメント(8)を固定するエレメント固定部材(9)と、前記エレメント固定部材または前記センタパイプの外周面と前記ケーシングの内壁との間に装着されるとともに、オイル流入孔(5)が穿設された円環状のリッド(6)と、弾性素材からなり、内周側に筒状部(49)を有し、前記ケーシングの内部空間側から前記リッドに装着されて前記オイル流入孔を閉鎖するドレンバックバルブ(10)と、前記ケーシングの開口端側の内周に配置され、当該ケーシングの内部空間を外部に対して密封する環状シール(7)とを有するエレメント交換型オイルフィルタにおいて、前記筒状部は、前記エレメント固定部材または前記センタパイプと前記リッドとの間に介装され、当該エレメント固定部材または当該センタパイプの外周と当該リッドの内周とに対して弾接する。
【0007】
また、第2の側面では、前記環状シールは、前記ケーシングと前記リッドとの間に保持され、当該ケーシングの開口端側の内周と当該リッドの外周とに対して弾接する。
【0008】
また、第3の側面では、前記ケーシングは、前記リッドを軸方向で係止する環状の係止凸部(22)を開口端側の内周に有する。
【0009】
また、第4の側面では、前記リッドが、当該リッドの軸方向で前記係止凸部と前記環状シールとによって挟持される。
【0010】
また、第5の側面では、前記エレメント固定部材が、前記センタパイプの外周面に設けられた固定雄ねじ(27)に螺合するナット(9)である。
【0011】
また、第6の側面では、前記リッドは、前記ナットが前記固定雄ねじに締結された後に装着される。
【発明の効果】
【0012】
本発明の第1の側面によれば、リッドは、ケーシングに螺合するねじ山や結合用突起等が不要となり、剛性を高めるための肉厚および重量の増大が抑制される。また、ドレンバックバルブは、ケーシング内にエンジンオイルを保持するだけでなく、センタパイプとリッドとの間の密閉や結合を行うため、構成部品点数が削減される。また、第2の側面によれば、環状シールは、ケーシングの外部に対する密閉を行うだけでなく、ケーシングとリッドとを弾性係合させる機能を有する。また、第3の側面によれば、係止凸部によってリッドが一定の位置で係止され、ケーシングへのリッドの押し込み過ぎ等が防止される。また、第4の側面によれば、リッドが、より安定してケーシングにリッドを結合できるとともに、オイル洩れ経路が複雑となるためにオイル洩れが効果的に抑制できる。また、第5の側面によれば、オイルフィルタエレメントを装着した状態での洗浄作業と、オイルフィルタエレメントの交換作業とを適宜選択できる。また、第6の側面によれば、リッドを予め取り外しておくことで、オイルフィルタの分解時におけるエンジンオイルの飛散が抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施形態に係るオイルフィルタの斜視図である。
【図2】実施形態に係るオイルフィルタの分解斜視図である。
【図3】実施形態に係るオイルフィルタの縦断面図である。
【図4】実施形態におけるフィルタエレメント交換作業の手順を示す図である。
【図5】実施形態におけるフィルタエレメント交換作業の手順を示す図である。
【図6】実施形態における通常作動時のエンジンオイルの流れを示す図である。
【図7】実施形態における目詰まり時のエンジンオイルの流れを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明を自動車エンジン用のオイルフィルタに適用した一実施形態を詳細に説明する。なお、各部材の説明にあたっては、図1中の左上(ケーシングの底側)を前とし、位置や方向をこれらに沿って表記する。
【0015】
≪実施形態の構成≫
図1に示すように、本実施形態のオイルフィルタ1は、締結工具に係合する多角形状(図示例では、14角)に外周が成形された有底円筒状のケーシング2と、センタ雌ねじ3が後端側の内周に形成されたセンタパイプ4と、複数(図示例では、12)のオイル流入孔5が穿設されたリッド6と、ケーシング2とリッド6との間に介装された耐油ゴム製のOリング7とを有している。
【0016】
また、図2,図3に示すように、オイルフィルタ1は、襞折りされた濾紙等を素材とするフィルタエレメント8と、フィルタエレメント8を固定するナット9と、エンジン停止時におけるエンジンオイルの流出を抑制する耐油ゴム製のドレンバックバルブ10と、フィルタエレメント8の目詰まり時に作動するリリーフバルブ11と、リリーフバルブ11を前方に付勢するリリーフバルブスプリング12と、リリーフバルブスプリング12をセンタパイプ4内で係止するC形止め輪13とをその内部に有している。なお、本実施形態のフィルタエレメント8は、襞に捻り(軸方向視で約60°)を与えることにより、外径に対する表面積を従来品に較べて大きくしている。
【0017】
ケーシング2は、薄鋼板を素材とするプレス成形品(円筒絞り加工品)であり、図3に示すように、前端の内側に形成されたバイパス油路21と、開口端側の内周に形成された環状の係止凸部22と、開口端側の外周に形成された折り返し部23とを有している。
【0018】
センタパイプ4は、鋼管を素材とするプレス成形品(あるいは、冷間鍛造成型品)であり、図3に示すように、前述したセンタ雌ねじ3の他、前端から外周側に延設された環状の固定フランジ25と、後端側の外周に形成された固定雄ねじ27と、軸方向の略中央で管壁を貫通する複数(本実施形態では、4つ)のオイル流通孔28と、軸方向の前端側で管壁を貫通する複数(本実施形態では、6つ)のバイパス孔29と、前端から内周側に突設されてリリーフバルブ11を係止する係止フランジ30と、オイル流通孔28の前方にC形止め輪13が嵌合する環状の係止溝31とを有している。固定フランジ25は、その前面がケーシング2の前端内壁にプロジェクション溶接されるとともに、後面にフィルタエレメント8の前端が当接する。
【0019】
図2に示すように、ナット9は、センタパイプ4の固定雄ねじ27に螺合する雌ねじ41と、駆動工具(ソケットやレンチ)が係合する6角部42と、6角部42の後方に延設された円筒部43とを有している。
【0020】
図3に示すように、リッド6は、外周側に形成された断面L字状のシール保持部45と、内周端から前方に延設された筒状部46とを有している。
【0021】
図3に示すように、ドレンバックバルブ10の内周には、リッド6の筒状部46が嵌入/密着するU字状のリッド保持部49が前方に向けて形成されている。
【0022】
≪実施形態の作用≫
<フィルタエレメント交換作業>
自動車(エンジン)が所定の距離または期間運転されると、潤滑システムにおけるエンジンオイルの濾過機能を維持すべく、整備作業者によってオイルフィルタ1が新品(あるいは、リビルト品)に交換される。本実施形態の場合、使用済みのオイルフィルタ1は、自動車メーカや自動車ディーラにより回収され、リサイクル工場や整備工場の交換作業者によってフィルタエレメント8が交換される。
【0023】
交換作業者は、フィルタエレメント8を交換するにあたり、図4に示すように、貯留されているエンジンオイルが手に掛かることを防止すべく、後部を上に向けた状態(あるいは、水平に保持した状態)で、Oリング7およびドレンバックバルブ10と伴にリッド6を上方に取り外す。しかる後、交換作業者は、ケーシング2の後部を下に向け、エンジンオイルを廃油缶等に廃棄する。
【0024】
次に、交換作業者は、6角部42にソケットレンチのソケット(あるいは、めがねレンチ等)を係合させ、緩め方向に回転させることによってナット9を取り外し、図5に示すように、フィルタエレメント8を落下させる。次に、交換作業者は、リッド6からOリング7とドレンバックバルブ10とを取り外し、これらをフィルタエレメント8と伴に廃棄する。しかる後、交換作業者は、ケーシング2やリッド6、リリーフバルブ11等を洗浄する一方、リッド6に新しいOリング7とドレンバックバルブ10とを組み付ける。この際、ドレンバックバルブ10は、そのリッド保持部49にリッド6の筒状部46が嵌入するため、固定手段を別途設けることなくリッド6と一体化される。
【0025】
次に、交換作業者は、ケーシング2に新しいフィルタエレメント8を組み付けてナット9で固定した後、リッド6をケーシングの開口端とナット9の円筒部43との間に押し込む。この際、リッド6は、ケーシング2の係止凸部22に係止されることにより、所期位置より深く押し込まれることが防止される。また、リッド6は、ケーシングの開口端やナット9の円筒部43にOリング7とドレンバックバルブ10とを介して弾性係合するため、不用意にケーシング2から分離することがない。また、ケーシング2とリッド6との間がOリング7によって密封され、リッド6とセンタパイプ4との間がドレンバックバルブ10によって密封されるため、Oリング7を除けばシール専用の部材が不要となる。
【0026】
<通常作動時>
エンジンが運転を開始すると、エンジンオイルは、オイルポンプによってフィルタ座52に圧送され、図6に示すように、ドレンバックバルブ10を押し開けて(弾性変形させて)ケーシング2内に流入する。ケーシング2に流入したエンジンオイルは、フィルタエレメント8を通過してオイル流通孔28からセンタパイプ4内に流入した後、センタパイプ4の後端からエンジンの潤滑通路に環流する。
【0027】
<目詰まり時>
フィルタエレメント8の交換がなされない状態でエンジンが長期間運転されると、エンジンオイル中のカーボンやスラッジ等の異物(コンタミナント)によってフィルタエレメント8が目詰まりを起こす。この目詰まりが進行するとケーシング2内の圧力が次第に上昇し、図7に示すように、リリーフバルブ11がリリーフバルブスプリング12の付勢力に打ち勝って後退する(すなわち、リリーフバルブ11が開放する)。すると、ケーシング2内のエンジンオイルは、バイパス油路21とバイパス孔29とオイル流通孔28とを介してセンタパイプ4内に流入した後、センタパイプ4の後端からエンジンの潤滑通路に環流する。
【0028】
以上で具体的実施形態の説明を終えるが、本発明の態様はこれら実施形態に限られるものではない。例えば、上記実施形態では、フィルタエレメントをナットで固定した後にリッドを装着する(押し込む)ようにしたが、リッドをフィルタエレメントとともにナットで固定するようにしてもよい。また、上記実施形態では、リッドの内周側をナットの円筒部に固定するようにしたが、センタパイプの後端に円筒部を形成し、この円筒部にリッドの内周側を固定するようにしてもよい。また、上記実施形態ではドレンバックバルブの保持部にリッドの筒状部が嵌入することでリッドとドレンバックバルブとが一体化されるようにしたが、これらを個別に組み付ける形態を採ってもよい。その他、ケーシングや、リッド、センタパイプの具体的形状や素材、成形方法等についても、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜設定可能である。
【符号の説明】
【0029】
1 オイルフィルタ
2 ケーシング
4 センタパイプ
5 オイル流入孔
6 リッド
7 Oリング(環状シール)
8 フィルタエレメント
9 ナット
10 ドレンバックバルブ
22 係止凸部
49 リッド保持部(筒状部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オイルフィルタエレメントを収容する有底円筒状のケーシングと、
前記ケーシングの底部に基端が固着されるとともに、当該ケーシングの軸心に沿って延在するセンタパイプと、
前記センタパイプに外嵌することによって前記オイルフィルタエレメントを固定するエレメント固定部材と、
前記エレメント固定部材または前記センタパイプの外周面と前記ケーシングの内壁との間に装着されるとともに、オイル流入孔が穿設された円環状のリッドと、
弾性素材からなり、内周側に筒状部を有し、前記ケーシングの内部空間側から前記リッドに装着されて前記オイル流入孔を閉鎖するドレンバックバルブと、
前記ケーシングの開口端側の内周に配置され、当該ケーシングの内部空間を外部に対して密封する環状シールとを有するエレメント交換型オイルフィルタにおいて、
前記筒状部は、前記エレメント固定部材または前記センタパイプと前記リッドとの間に介装され、当該エレメント固定部材または当該センタパイプの外周と当該リッドの内周とに対して弾接することを特徴とするエレメント交換型オイルフィルタ。
【請求項2】
前記環状シールは、前記ケーシングと前記リッドとの間に保持され、当該ケーシングの開口端側の内周と当該リッドの外周とに対して弾接することを特徴とする、請求項1に記載されたエレメント交換型オイルフィルタ。
【請求項3】
前記ケーシングは、前記リッドを軸方向で係止する環状の係止凸部を開口端側の内周に有することを特徴とする、請求項1または請求項2に記載されたエレメント交換型オイルフィルタ。
【請求項4】
前記リッドが、当該リッドの軸方向で前記係止凸部と前記環状シールとによって挟持されることを特徴とする、請求項3に記載されたエレメント交換型オイルフィルタ。
【請求項5】
前記エレメント固定部材が、前記センタパイプの外周面に設けられた固定雄ねじに螺合するナットであることを特徴とする、請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載されたエレメント交換型オイルフィルタ。
【請求項6】
前記リッドは、前記ナットが前記固定雄ねじに締結された後に装着されることを特徴とする、請求項5に記載されたエレメント交換型オイルフィルタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−2365(P2013−2365A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−134523(P2011−134523)
【出願日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】