説明

エンジンの吸気装置

【課題】シュノーケル型エアクリーナ構造の吸気装置を備えた作業機において、吸気装置の防塵性及び防水性を高める。
【解決手段】作業機に設けられたエンジンの吸気装置60は、エアクリーナケースと、エアクリーナケースから離れた位置に配置された空気導入部71と、空気導入部から導入された外気をエアクリーナケースの中へ導く空気導入管81とを備える。作業機の操作ハンドル18は、作業機を手動によって調節するための操作レバーと、操作レバーの基部周りを上から覆うレバー用カバー40と、レバー用カバーの下部に配置された下側カバー90とを備える。空気導入部は、少なくとも導入口72が、レバー用カバーと下側カバーとによって囲まれた空間部Spに配置されることにより、外気を空間部を介して導入口から取り入れる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行可能な作業機に設けられたエンジンの吸気装置に関する。
【背景技術】
【0002】
走行可能な作業機によって作業をする場合においては、作業中に粉塵を発することがある。このような作業環境においては、作業機に設けられたエンジンの吸気装置について、十分な防塵対策を施したいという要望がある。例えば、芝刈機においては、芝刈り作業時に発生する小さな刈り芝や地面からの粉塵が、エンジン用エアクリーナエレメントの目詰まりに影響を及ぼす。早期に目詰まりが発生すると、エレメントの交換頻度が多くなる。このため、エレメントの目詰まり対策を施すことが好ましい。
【0003】
目詰まり対策としては、エアクリーナに外気を導入するための空気導入口を、地面から大きく離れた位置、つまり操作ハンドルの付近に設け、空気導入口からエアクリーナまでホースによって接続する、いわゆる「シュノーケル型エアクリーナ構造」を採用した技術が知られている(例えば、特許文献1−2参照。)。
【特許文献1】実開昭62−59754号公報
【特許文献3】特開平7−247927号公報
【0004】
特許文献1で知られている走行可能な作業機は、エンジンと、エンジンのための吸気装置と、操作ハンドルとを備えた草刈機である。吸気装置は、エンジンに取り付けられたエアクリーナと、操作ハンドルに取り付けられた空気導入部(シュノーケル)と、空気導入部から導入された外気をエアクリーナへ導くホースとからなる。
【0005】
特許文献2で知られている走行可能な作業機は、エンジンと、エンジンのための吸気装置と、操作ハンドルとを備えた芝刈機である。吸気装置は、エンジンに取り付けられたエアクリーナと、操作ハンドルに取り付けられた空気導入部と、空気導入部から導入された外気をエアクリーナへ導く外気導入管とからなる。
【0006】
ところで、シュノーケル型エアクリーナ構造の吸気装置を備えた作業機は、一般に屋外で使用することが多い。また、作業機を水洗いすることもある。このため、吸気装置には雨降り時に作業した場合や、作業機を水洗いした場合における防水対策も必要となる。エアクリーナエレメントの性能を確保するには、水が空気導入部からエアクリーナに浸入しないような配慮が求められるので、更なる改良の余地がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、走行可能な作業機に搭載された、シュノーケル型エアクリーナ構造のエンジン用吸気装置において、吸気装置の防塵性及び防水性を高めることができる技術を、提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に係る発明では、作業者が操舵するための操作ハンドルを有し走行可能な作業機に設けられた、エンジンの吸気装置であって、
前記エンジンのためのエアクリーナエレメントを収納したエアクリーナケースと、
このエアクリーナケースから離れた位置に配置された空気導入部と、
この空気導入部から導入された外気を前記エアクリーナケースの中へ導く空気導入管とを備え、
前記操作ハンドルは、前記作業機と前記エンジンの少なくとも一方を手動によって調節するための操作レバーと、この操作レバーの基部周りを上から覆うレバー用カバーと、このレバー用カバーの下部に配置された下側カバーとを備え、
前記空気導入部は、少なくとも導入口が、前記レバー用カバーと前記下側カバーとによって囲まれた空間部に配置されることにより、外気を前記空間部を介して前記導入口から取り入れるように構成されていることを特徴とする。
【0009】
請求項2に係る発明では、前記下側カバーは、前記導入口が位置する部位から離れた部分に、メッシュ状の開口部を有することにより、外気を前記開口部から前記空間部を通して前記導入口へ取り入れる構成であることを特徴とする。
【0010】
請求項3に係る発明では、前記導入口は下方を向いており、前記空気導入部は、前記導入口から上方に凸となるように湾曲した湾曲部を有していることを特徴とする。
【0011】
請求項4に係る発明では、前記空気導入部及び前記下側カバーは、前記レバー用カバーに対して同一の結合部材によって取り付けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に係る発明では、作業者が操舵するための操作ハンドルに、操作レバーと、この操作レバーの基部周りを上から覆うレバー用カバーと、このレバー用カバーの下部に配置された下側カバーを備えている。このため、上下のカバー、つまりレバー用カバーと下側カバーとによって囲まれた空間部が構成される。この空間部に、シュノーケル型エアクリーナ構造の吸気装置における空気導入部の、少なくとも導入口を収めた。
【0013】
このように、レバー用カバーと下側カバーとによって囲まれた空間部に、導入口を収めたので、外気を、空間部を介して導入口から取り入れ、さらに空気導入管を介してエアクリーナケースの中へ導くことができる。レバー用カバー及び下側カバーによって導入口が囲まれているので、雨降り時に作業機によって作業した場合や、作業機を水洗いした場合において、水が導入口へ浸入することを防止できる。このような防水対策が施されているので、エアクリーナエレメントの性能を十分に確保することができる。また、エアクリーナエレメントを通過した空気に水を含まないので、キャブレタ及びエンジンへ水が浸入する心配もない。
【0014】
また、操作ハンドルが上下に折り畳み可能な構成の場合であっても、操作ハンドルを折り畳んだときに、導入口の上を下側カバーによって覆うことができる。このため、雨水が導入口へ浸入することを、下側カバーによって防止できる。
【0015】
さらには、レバー用カバー及び下側カバーによって導入口が囲まれているので、作業中に発生した粉塵は、導入口へ侵入し難い。しかも、エアクリーナケースに外気を導入するための導入口を、操作ハンドルにおける操作レバーの位置に配置することによって、地面から大きく離れた位置に導入口を配置することができる。このため、作業中に発生した粉塵による、エアクリーナエレメントの目詰まりを防止することができる。
【0016】
さらには、レバー用カバーは、空間部を構成するための「上側のカバー」を兼ねている。このため、空間部を構成するための上側のカバーを、別個に設ける必要はない。その分、作業機の製造コストを抑制することができる。
【0017】
請求項2に係る発明では、下側カバーにおいて、導入口が位置する部位から離れた部分に、メッシュ状の開口部を有している。導入口から離れた位置に開口部があるので、開口部から取り入れられた外気が、空間部を介して空気導入部内へ流れる経路、つまり空気流路は概ね迷路状(ラビリンス)になる。水が外部から開口部へ浸入した場合であっても、浸入した水は迷路状の経路を通過しないと、導入口まで流れない。このため、水が導入口へ浸入することを、より一層防止することができる。しかも、開口部がメッシュ状なので、外部から開口部へ虫や小石などの異物が侵入することを防止できる。
【0018】
請求項3に係る発明では、導入口が下向きに開口しているので、雨降り時や作業機を水洗いしたときに、水が導入口へ浸入し難い。さらに、請求項3に係る発明では、空気導入部には、導入口から上方に凸となるように湾曲した湾曲部を有している。このため、上方に凸となる湾曲部の内面は、導入口からの上り傾斜面となる。仮に、水が導入口へ浸入した場合であっても、水は湾曲部の内部の上り傾斜面に遮られて、導入口から外部へ排出される。
【0019】
請求項4に係る発明では、空気導入部及び下側カバーを、レバー用カバーに対して同一の結合部材によって取り付けるので、結合部材の個数を削減することができるとともに、取付け作業性を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明を実施するための最良の形態を添付図に基づいて以下に説明する。以下、本発明に係る作業機の一例として歩行型芝刈機を挙げて説明する。
なお、「前」、「後」、「左」、「右」、「上」、「下」は芝刈機を操縦する作業者から見た方向に従い、Frは前側、Rrは後側、Leは左側、Riは右側、Upは上側、Dwは下側、CLは車幅方向中心線(車幅方向中心)を示す。
【0021】
図1は本発明に係る歩行型芝刈機の斜視図である。歩行型芝刈機10(作業機10)は、下面を開放したカッタデッキ11と、カッタデッキ11の前後に備えた車輪(左右の前輪12及び左右の後輪13)と、カッタデッキ11の上部に備えたエンジン14と、カッタデッキ11の内部に備えたカッタブレード15と、カッタデッキ11の後部の刈芝排出口11aに備えた刈り芝収納容器16と、カッタデッキ11の後部に備えた変速装置17と、カッタデッキ11の後上部に備えた操作ハンドル18とからなる。このような歩行型芝刈機10は、作業者が操舵するための操作ハンドル18を有し、走行可能な作業機であると、言うことができる。
【0022】
上述のように、カッタデッキ11は前輪12、後輪13、エンジン14等の主要部材を設けているので、歩行型芝刈機10の機体(フレーム)を兼ねる。左右の後輪13は駆動輪である。エンジン14は、図示せぬ作業用クラッチを介してカッタブレード15に駆動するとともに、変速装置17を介して後輪13を駆動する駆動源である。変速装置17は、後輪13の回転速度を零(停止)から高速回転域まで無段階に変速するものである。このように変速装置17は、エンジン14から後輪13へ伝達する出力の遮断・結合を行う(つまり、遮断することで後輪13を停止させ、結合することで後輪13を回転させる)という、いわゆるクラッチ機能を有している。刈り芝収納容器16は、カッタブレード15によって刈った芝草(以下、「刈芝」という。)を収納するバッグである。
【0023】
操作ハンドル18は、カッタデッキ11の後上部に有したハンドル支持部21に対して、前後にスイング可能に取り付けられている。歩行型芝刈機10の使用状態においては、図1に実線で示すように、操作ハンドル18はハンドル支持部21から後上方へ延びた使用位置に位置する。ノブ22を緩めた後に、操作ハンドル18を前に倒すことによって、図1に想像線で示すように、操作ハンドル18は前方へ折り畳まれた概ね水平な格納位置に位置する。
【0024】
このような操作ハンドル18は、カッタデッキ11からハンドル支持部21を介して後上方に延びる左右のハンドルバー23,23と、左右のハンドルバー23,23の上端間を繋ぐ水平なグリップ部24とからなる、正面視で略逆U字状の操作部材である。
【0025】
左右のハンドルバー23,23は、上端に、前後スイング可能な作業用クラッチレバー26及び走行用クラッチレバー27を備えている。作業用クラッチレバー26及び走行用クラッチレバー27は、手で前方へスイング操作してグリップ部24と共に握ることができ、操作する手を離したときに自動的に元の位置へ復帰する、自動復帰式操作部材である。作業用クラッチレバー26は、作業用クラッチ(図示せず)をオン、オフ操作する操作部材である。作業用クラッチがオンの場合に、エンジン14の動力がカッタブレード15に伝達される。走行用クラッチレバー27は、クラッチ機能を有している変速装置17をオン、オフ操作する操作部材である。
【0026】
操作ハンドル18は、左ハンドルバー23に操作レバー33を備えている。この操作レバー33は、変速装置17を手動によって調節するための操作部材である。このため、操作レバー33は、一方の手でグリップ部24を握っている作業者が、他方の手で握ることが可能な範囲に配置される。操作レバー33は、操作ハンドル18の後端近傍に、且つ、操作ハンドル18の内側(車幅方向中心CL寄り)に配置されている。以下、操作レバー33周りについて説明する。
【0027】
図2は図1に示す操作レバー周りの斜視図である。図3は図2に示す操作レバー周りの平面図である。図4は図2に示す操作レバー周りを下から見た図である。図5は図4に示す操作レバー周りの分解図であり、操作レバー周りを下から見ている。
【0028】
図2〜図5に示すように、左ハンドルバー23はブラケット31を有しており、このブラケット31にステー32が接合されている。このステー32は、操作レバー33の基部33aを前後にスイング可能に支持している。さらに、操作レバー33の基部33a周りは、レバー用カバー40によって上から覆われている。
【0029】
レバー用カバー40は、平面視で概ね矩形状であって、下方が開放されている。より詳しく述べると、レバー用カバー40は、天板41と、この天板41の縁に沿った形状の側板(つまり、前板42と後板43と左板44と右板45)とからなる、樹脂の一体成形品である。天板41はレバー貫通孔46を有している。操作レバー33は、基部33aから上方へ延びてレバー貫通孔46を貫通し、外部に露出している。
【0030】
前板42は、カッタデッキ11(図1参照)に対向する縦板からなり、後板43はグリップ部24(図1参照)に対向する縦板からなり、左板44は左ハンドルバー23に隣接する縦板からなり、右板45は左板44とは反対側の縦板からなる。
【0031】
図4及び図5に示すように、レバー用カバー40は、ブラケット31及びステー32を介して、左ハンドルバー23(つまり、操作ハンドル18)に取り外し可能に取り付けられている。具体的には、ステー32は、前後2個のフランジ32a,32bを有している。一方、レバー用カバー40の天板41は、内面に膨出した5つのボス41a〜41eを有している。
【0032】
第1ボス41aはレバー貫通孔46の後端に隣接して配置されている。第2ボス41bはレバー貫通孔46の前端に隣接して配置されている。第3ボス41cは第1ボス41aの右隣り(車幅中心CL寄り)配置されている。第4ボス41dは右板45の内面に隣接して配置されている。第5ボス41eは第1ボス41aの右隣り(車幅中心寄り)配置されている。
【0033】
第1ボス41aは、ステー32の第1フランジ32aに第1のビス51によって取り付けられている。第2ボス41bは、ステー32の第2フランジ32bに第2のビス52によって取り付けられている。
【0034】
図4に示すように、操作レバー33の基部33aには、ワイヤケーブル34の一端部34aが連結されている。このワイヤケーブル34は、左ハンドルバー23に沿ってカッタデッキ11(図1参照)まで延び、変速装置17(図1参照)の操作アームに連結されている。操作レバー33を前後にスイング操作することによって、ワイヤケーブル34を介して変速装置17の変速度合いを調節することができる。
【0035】
ところで、図1及び図3に示すように、歩行型芝刈機10は、エンジン14の吸気装置60を備えている。この吸気装置60は、エアクリーナケース61と空気導入部71と空気導入管81とからなる。エアクリーナケース61は、エンジン14における左の側部に取り付けられ且つエンジン吸気口に接続されており、エンジン14に供給される燃焼用空気(外気)を濾過するエアクリーナエレメント62を収納したものである。空気導入部71は、エアクリーナケース61から離れた位置、つまり操作ハンドル18に配置されている。
【0036】
空気導入管81は、空気導入部71から導入された外気をエアクリーナケース61の中へ導くものであり、可撓性を有している。空気導入部71が可撓性を有した部材、例えばホースからなるので、操作ハンドル18が前後にスイング動作をした場合に、そのスイング動作を妨げることはない。
【0037】
以上の説明から明らかなように、吸気装置60は、エアクリーナケース61に外気を導入するための空気導入部71を、地面から大きく離れた位置、つまり操作ハンドル18に設け、空気導入部71からエアクリーナケース61まで空気導入管81によって接続する、いわゆる「シュノーケル型エアクリーナ構造」を採用したものである。
【0038】
以下、吸気装置60について詳細に説明する。図6は図2の6−6線断面図である。図7は図6に示す空気導入部を車幅中央側から見た斜視図である。
図3〜図5に示すように、レバー用カバー40は、操作レバー33の基部33aを覆う部分から車幅方向の内側へ膨出し、この膨出した部分に空気導入部71が配置されている。このように、レバー用カバー40は、車幅方向の内側へ膨出した分だけ、幅広に(車幅方向の寸法が大きく)設定されている。
【0039】
図6及び図7に示すように、空気導入部71は、パイプ状(好ましくは、丸パイプ状)に形成されており、一端を導入口72とし、他端を導出口73とし、他端側の外周面に接続部74を有し、両端間に湾曲部75を有している。なお、空気導入部71は、概ね上下二分割品からなり、一体的に組み合わされて用いられる。
【0040】
このような空気導入部71は、操作ハンドル18における左ハンドルバー23に概ね沿って延びている。このため、導入口72は下方(より具体的には、後下方)を向き、後板43に対向している。一方、導出口73はエアクリーナケース61(図1参照)へ向かって前下方に開口している。接続部74も、エアクリーナケース61へ向かうように位置する。接続部74には空気導入管81の一端が圧入によって接続されている。この空気導入管81は、図2に示すように、レバー用カバー40の前板42に有している切り欠き部42aを通り、左ハンドルバー23に概ね沿って前下方へ延び、図1に示すエアクリーナケース61の空気入口61aに接続されている。
【0041】
図6及び図7に示すように、湾曲部75は、空気導入部71において、導入口72から導出口73にかけて、全体が上方に凸となるように緩やかに湾曲した部分のことである。つまり、湾曲部75は、導入口72から上方に凸となるように湾曲している。湾曲部75の湾曲半径については、空気導入部71を通過する空気の圧力損失が小さくなるように設定されることが好ましい。
【0042】
図5に示すように、空気導入部71は、レバー用カバー40に取り外し可能に取り付けられている。具体的には、空気導入部71は、左右の側部に3個のフランジ71a〜71cを有している。これらのフランジ71a〜71cは、平面視で千鳥状に配列されている。空気導入部71の導入口72に近い第1フランジ71aは、第3のビス53によって第3ボス41cに取り付けられる。その次の第2フランジ71bは、第4のビス54によって第4ボス41dに取り付けられる。その次の第3フランジ71cは、第5のビス55によって第5ボス41eに取り付けられる。
【0043】
ところで、図4〜図6に示すように、操作ハンドル18は、レバー用カバー40の下部に配置された下側カバー90を備えている。この下側カバー90は、レバー用カバー40内において、空気導入部71を下から覆うように形成されている。以下、空気導入部71とレバー用カバー40と下側カバー90の関係について、詳しく説明する。
【0044】
図8は、図4に示す空気導入部及び下側カバーの構成図であり、図4に合わせて示している。図8(a)は空気導入部71と下側カバー90の関係を斜視図によって示している。図8(b)は図8(a)のb−b線断面構造を示している。
【0045】
図6に示すように、下側カバー90は平面視で概ね矩形状であって、上方が開放されている。より詳しく述べると、図5、図6及び図8に示すように、下側カバー90は、底板91と、この底板91の縁に沿った形状の側板(つまり、前板92と後板93と左板94と右板95)とからなる、樹脂の一体成形品である。
【0046】
前板92は、レバー用カバー40の前板42に対向する縦板からなり、切り欠き部92aを有している。後板93はレバー用カバー40の後板43に対向する縦板からなる。左板94及び右板95は縦板からなる。
【0047】
底板91を下向きにした下側カバー90を、レバー用カバー40内に下方から挿入して、レバー用カバー40の天板41に重ねて取付けることにより、レバー用カバー40と下側カバー90とによって囲まれた空間部Sp(図6参照)が構成される。より具体的には、空間部Spは、レバー用カバー40における天板41と、下側カバー90における底板91、前板92、後板93、左板94及び右板95とによって囲まれた空間である。
【0048】
レバー用カバー40は、空間部Spを構成するための「上側のカバー」を兼ねている。このため、空間部Spを構成するための上側のカバーを、別個に設ける必要はない。その分、歩行型芝刈機10の製造コストを抑制することができる。
【0049】
このような空間部Spに、空気導入部71の少なくとも導入口72が配置されることにより、外気を空間部Spを介して導入口72から取り入れるように構成することができる。この実施例においては、空気導入部71における導入口72及び湾曲部75が空間部Spに配置されている。さらに、空気導入部71の接続部74は、下側カバー90の切り欠き部92aから前方へ延びている。
【0050】
図6に示すように、導入口72は下側カバー90の後板93に対向している。導入口72から後板93までの隙間f1のことを「第1流路f1」と言う。導入口72から後板93までの離間寸法X1は比較的小さく設定されており、例えば導入口72の直径よりも小さい。但し、離間寸法X1については、導入口72に入る空気が通過するときの圧力損失が過大とならず、しかも、外部から水が浸入し難い大きさに設定されることが好ましい。
【0051】
さらに、図6及び図8に示すように、下側カバー90の底板91は、平坦に形成されるとともに、内外貫通したメッシュ状(網目状)の開口部96を有している。例えば、メッシュ状の開口部96は、底板91に開けられた多数の小孔96aからなる。このような底板91は、一定の範囲に網目状に配列された多数の小孔96aを有した多孔板であると、言うことができる。
【0052】
なお、開口部96は、小径の小孔96aが多数配列されることによって、全体で網目状(格子状、千鳥状を含む)の開口とされた構成であればよい。また、それぞれの小孔96aの形状、配列及び大きさは、空気が通過するときの圧力損失が過大とならず、しかも、外部から塵埃や虫などの異物と水が浸入し難い大きさに設定されることが好ましい。
【0053】
図6において、開口部96は、空気導入部71の導入口72が位置する部位Piから前方へ離れた部分に、配列されている。導入口72が位置する部位Piから、この部位Piに最も近い小孔96aまでの、離間寸法はX2である。下側カバー90にメッシュ状の開口部96を有しているので、外気を開口部96から空間部Spを通して導入口72へ取り入れることができる。
【0054】
メッシュ状の開口部96と、空気導入部71の外面と下側カバー90の側壁との間に有している第2流路f2と、上記第1流路f1と、導入口72と、空気導入部71の内部とからなる、空気流路fTは、概ね迷路状(ラビリンス)に形成される。
【0055】
図4及び図5に示すように、下側カバー90は、レバー用カバー40に取り外し可能に取り付けられている。具体的には、下側カバー90は、左右の側部に2個のフランジ97,98を有している。これらのフランジ97,98は、平面視で互い違いに配列されている。空気導入部71の導入口72に近い第1フランジ97は、空気導入部71の第1フランジ71aと共に、第3のビス53によって第3ボス41cに取り付けられる。その次の第2フランジ98は、空気導入部71の第2フランジ71bと共に、第4のビス54によって第4ボス41dに取り付けられる。このように、空気導入部71及び下側カバー90は、レバー用カバー40に対して第3、第4のビス53,54(同一の結合部材53,54)によって取り付けられている。
【0056】
次に、操作ハンドル18に対するレバー用カバー40、空気導入部71及び下側カバー90の組付け手順について図1、図4、図5及び図9に基づいて説明する。図9は図4に示す操作レバー周りにおいて下側カバーを外した状態を示す図である。
【0057】
組付け手順は、先ず、図1において想像線で示すように、操作ハンドル18を前方へ倒して水平な格納位置にセットする。このように、操作ハンドル18を前方へ倒して格納位置にセットした方が、以下に説明する組付け作業の作業性が良いからである。格納位置まで倒された左ハンドルバー23を図5に示す。次に、図5に示すように、倒された状態における左ハンドルバー23のステー32に、操作レバー33の基部33aを前後にスイング可能に取付けるとともに、操作レバー33の基部33aにワイヤケーブル34の一端部34aを連結する。
【0058】
次に、操作レバー33の基部33aに対して、レバー用カバー40を下から持ち上げて覆う。次に、ステー32の第1フランジ32aに第1ボス41aを下から当て、第1のビス51によって取付ける。また、ステー32の第2フランジ32bに第2ボス41bを下から当て、第2のビス52によって取付ける。次に、空気導入管81を接続した状態の空気導入部71を、レバー用カバー40内に上から入れ込む。
【0059】
次に、レバー用カバー40における第5ボス41eの上に、空気導入部71の第3フランジ71cを載せて、第5のビス55によって取付ける。この状態を図9に示す。但し、図9においては、理解を容易にするために、ワイヤケーブル34を省略している。図9に示すように、レバー用カバー40内において、空気導入部71は操作レバー33に隣接した位置に取り付けられる。
【0060】
次に、図5に示すように、下側カバー90を上から空気導入部71に被せる。この状態において、第3ボス41cの上には、空気導入部71の第1フランジ71aと、下側カバー90の第1フランジ97が、この順に重ねられる。第3ボス41cに各フランジ71a,97を第3のビス53によって取付ける。
【0061】
また、この状態において、第4ボス41dの上には、空気導入部71の第2フランジ71bと、下側カバー90の第2フランジ98が、この順に重ねられる。第4ボス41dに各フランジ71b,98を第4のビス54によって取付ける。これで、組付け作業を終了する。この状態を図4に示す。
【0062】
このように、空気導入部71及び下側カバー90は、レバー用カバー40に対して第3、第4のビス53,54(同一の結合部材53,54)によって、共に取り付けられている。いわゆる、共締めされている。このため、結合部材53,54の個数を削減することができるとともに、取付け作業性を高めることができる。
【0063】
次に、上記構成の吸気装置60の作用を説明する。
今、図1に示すように、歩行型芝刈機10は使用状態にある。操作ハンドル18は、実線で示す使用位置にある。このときの空気導入部71は、図6に示す姿勢を維持している。エンジン14(図1参照)を運転すると、エンジン14の吸気負圧によって、外気Arは下側カバー90の下方から、矢印のようにメッシュ状の開口部96に吸引される。開口部96がメッシュ状なので、外部から開口部96へ刈り芝、虫、小石などの異物が侵入することを防止できる。
【0064】
開口部96から導入された外気Arは、空気導入部71の外面と下側カバー90の側壁との間に有している第2流路f2を通って、後上方へ導かれる。導かれた外気Arは、下側カバー90の後板93に導かれて、第1流路f1に入りつつ反転(Uターン)して、導入口72に入る。導入口72に入った外気Arは空気導入部71を通る。
【0065】
このように、外気Arは、メッシュ状の開口部96と第1流路f1と第2流路f2と導入口72と空気導入部71の内部とからなる、迷路状の空気流路fTを通過する。その後、外気Arは、空気導入管81を介して図1に示すエアクリーナケース61に入る。そして、エアクリーナエレメント62によって濾過された外気Arは、吸気経路を介してエンジン14に供給される。
【0066】
また、導入口72が空間部Spに収められているので、作業中に発生した粉塵は、導入口72へ侵入し難い。また、雨降り時において、雨水Wtは、レバー用カバー40及び下側カバー90によって遮られるので、空間部Spに収められている導入口72に浸入することはない。
【0067】
一方、作業を終了した後には、図1に示すエンジン14は停止しており、図1に想像線で示すように、操作ハンドル18は前方へ折り畳まれた概ね水平な格納位置にある。このときの空気導入部71は、図10に示す姿勢を維持している。図10は図6に示す操作ハンドルを前方へ倒した状態の作用図である。
【0068】
図10に示すように、操作ハンドル18が上下反転した姿勢にあるので、レバー用カバー40、下側カバー90及び空気導入部71も上下反転した姿勢になる。下側カバー90の開口部96は上を向いている。このため、雨降り時の雨水Wtは開口部96から浸入し得る。しかし、開口部96は、下側カバー90において、導入口72が位置する部位から離れた部分に配置されている。雨水Wtが外部から開口部96へ浸入した場合であっても、浸入した雨水Wtは迷路状の空気流路fTを通過しないと、導入口72まで流れない。しかも、空気導入部71が上下反転した姿勢にあるので、導入口72は上向きになる。このため、空間部Spへ浸入した雨水Wtは、導入口72へ入ることなく、切り欠き部42aから外部へ排出されてしまう。従って、雨水Wtが導入口72へ浸入することを、より一層防止することができる。
【0069】
以上の説明をまとめると、次のとおりである。
図6に示すように、レバー用カバー40と下側カバー90とによって囲まれた空間部Spに、導入口72を収めたので、外気Arを、空間部Spを介して導入口72から取り入れ、さらに空気導入管81を介してエアクリーナケース61の中へ導くことができる。レバー用カバー40及び下側カバー90によって導入口72が囲まれているので、雨降り時に作業機によって作業した場合や、歩行型芝刈機10(作業機10)を水洗いした場合において、水Wtが導入口72へ浸入することを防止できる。このような防水対策が施されているので、エアクリーナエレメント62の性能を十分に確保することができる。また、エアクリーナエレメント62を通過した空気に水を含まないので、キャブレタ及びエンジン14へ水Wtが浸入する心配もない。
【0070】
さらには、レバー用カバー40及び下側カバー90によって導入口72が囲まれているので、作業中に発生した粉塵は、導入口72へ侵入し難い。しかも、エアクリーナケース61に外気Arを導入するための導入口72を、操作ハンドル18における操作レバー33の位置に配置することによって、地面から大きく離れた位置に導入口72を配置することができる。このため、作業中に発生した粉塵による、エアクリーナエレメント62の目詰まりを防止することができる。
【0071】
さらには、図6に示すように、導入口72が下向きに開口しているので、雨降り時や歩行型芝刈機10を水洗いしたときに、水が導入口72へ浸入し難い。さらに、空気導入部71は、導入口72から上方に凸となるように湾曲した湾曲部75を有している。このため、上方に凸となる湾曲部75の内面は、導入口72からの上り傾斜面となる。仮に、水が導入口72へ浸入した場合であっても、水は湾曲部75の内部の上り傾斜面に遮られて、導入口72から外部へ排出される。
【0072】
また、上述のように、操作レバー33の位置に対して、空気導入部71は車幅方向中心CL寄りの位置にオフセットされている。このため、操作レバー33に連結されたワイヤケーブル34に対して、空気導入部71に接続された空気導入管81は、車幅方向中心CL側へ寄せることができる。特に、操作ハンドル18が前後にスイングするスイング支点の付近においては、ワイヤケーブル34に対して空気導入管81を車幅方向中心CL側へ寄せることが好ましい。操作ハンドル18を前に倒した場合に、操作ハンドル18が前後にスイングするスイング支点の近傍において、ワイヤケーブル34及び空気導入管81は曲げられる。ワイヤケーブル34の可撓性と、空気導入管81の可撓性は異なる。可撓性が異なる場合であっても、互いに車幅方向へオフセットすることにより、干渉し合うことはない。
【0073】
なお、本発明では、作業機10は、作業者が操舵するための操作ハンドル18を有し走行可能なものであればよく、歩行型芝刈機の他に、例えば、農作業機、土木用作業機、運搬車に適用することができる。
また、作業機10を歩行型芝刈機とした場合に、変速装置17を有無については任意である。
【0074】
また、操作レバー33は、作業機10とエンジン14の少なくとも一方を手動によって調節するものであればよい。例えば、操作レバー33は、エンジン14のスロットル弁の開度を調節する構成であってもよい。また、操作レバー33を複数個設けて、一方のレバーによって変速装置17の変速度合いを調節(作業機10を調節)し、他方のレバーによってスロットル弁の開度を調節(エンジン14を調節)する構成であってもよい。
【0075】
ここで、「操作レバー33によって作業機10を調節する」とは、各種の作業機における作業部(例えば、芝刈機のカッタブレードの回転速度)や走行部(例えば、車輪やクローラの走行速度)を調節することである。また、「操作レバー33によってエンジン14を調節する」とは、例えば、エンジン14の出力や回転速度を調節することである。
【0076】
また、各ビス51〜55は結合部材の一種である。これらの結合部材は、ビスに限定されるものではなく、例えばボルト等のネジ結合部材、リベット、クリップであってもよい。
【0077】
また、操作ハンドル18に対する操作レバー33、レバー用カバー40、空気導入部71及び下側カバー90の組付け作業は、操作ハンドル18を図1の実線で示す「使用位置」のままで、行ってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明の吸気装置60は、歩行型芝刈機に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】本発明に係る歩行型芝刈機の斜視図である。
【図2】図1に示す操作レバー周りの斜視図である。
【図3】図2に示す操作レバー周りの平面図である。
【図4】図2に示す操作レバー周りを下から見た図である。
【図5】図4に示す操作レバー周りの分解図である。
【図6】図2の6−6線断面図である。
【図7】図6に示す空気導入部を車幅中央側から見た斜視図である。
【図8】図4に示す空気導入部及び下側カバーの構成図である。
【図9】図4に示す操作レバー周りにおいて下側カバーを外した状態を示す図である。
【図10】図6に示す操作ハンドルを前方へ倒した状態の作用図である。
【符号の説明】
【0080】
10…作業機(歩行型芝刈機)、12,13…車輪(前輪及び後輪)、14…エンジン、18…操作ハンドル、33…操作レバー、33a…操作レバーの基部、40…レバー用カバー、53,54…結合部材(ビス)、60…吸気装置、61…エアクリーナケース、62…エアクリーナエレメント、71…空気導入部、72…導入口、75…湾曲部、81…空気導入管、90…下側カバー、96…開口部、96a…小孔、Ar…外気(空気)、Sp…空間部、Wt…雨水。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業者が操舵するための操作ハンドルを有し走行可能な作業機に設けられた、エンジンの吸気装置であって、
前記エンジンのためのエアクリーナエレメントを収納したエアクリーナケースと、
このエアクリーナケースから離れた位置に配置された空気導入部と、
この空気導入部から導入された外気を前記エアクリーナケースの中へ導く空気導入管とを備え、
前記操作ハンドルは、前記作業機と前記エンジンの少なくとも一方を手動によって調節するための操作レバーと、この操作レバーの基部周りを上から覆うレバー用カバーと、このレバー用カバーの下部に配置された下側カバーとを備え、
前記空気導入部は、少なくとも導入口が、前記レバー用カバーと前記下側カバーとによって囲まれた空間部に配置されることにより、外気を前記空間部を介して前記導入口から取り入れるように構成されている、
ことを特徴としたエンジンの吸気装置。
【請求項2】
前記下側カバーは、前記導入口が位置する部位から離れた部分に、メッシュ状の開口部を有することにより、外気を前記開口部から前記空間部を通して前記導入口へ取り入れる構成である、ことを特徴とした請求項1記載のエンジンの吸気装置。
【請求項3】
前記導入口は下方を向いており、前記空気導入部は、前記導入口から上方に凸となるように湾曲した湾曲部を有している、ことを特徴とした請求項1又は請求項2記載のエンジンの吸気装置。
【請求項4】
前記空気導入部及び前記下側カバーは、前記レバー用カバーに対して同一の結合部材によって取り付けられている、ことを特徴とした請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載のエンジンの吸気装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−293524(P2009−293524A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−148192(P2008−148192)
【出願日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】