説明

エンジンの排気浄化装置

【課題】ディーゼルエンジンの排気管に配設されて、還元剤噴射ノズルから噴射された液体還元剤又はその前駆体を攪拌する攪拌板に堆積する析出物を除去してエンジン性能を良好に維持する。
【解決手段】アクチュエータ15を駆動して駆動軸15aを伸張すると、レバー14を介して攪拌板13が回動し、駆動軸15aがストッパ16に突き当たると急停止し、そのとき生じる衝撃力により、攪拌板13に堆積された析出物が振り落とされて除去される。次いで、アクチュエータ15の駆動を停止すると、アクチュエータ15に内蔵されたリターンスプリングにより駆動軸15aが高速で引き戻され、初期位置まで戻されて急停止する際に、再度衝撃力が生じ、攪拌板13に堆積された析出物が振り落とされて除去される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、還元剤を用いて排気中の窒素酸化物(NOx)を還元浄化するエンジンの排気浄化装置において、特に、排気中に噴射供給された液体還元剤又はその前駆体を攪拌する攪拌板へ堆積した析出物を除去する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジン排気中のNOxを除去する触媒浄化システムとして、特許文献1に記載された排気浄化装置が提案されている。かかる排気浄化装置は、排気管に配設されたNOx還元触媒の排気上流に、エンジン運転状態に応じた液体還元剤又はその前駆体(以下液体還元剤で代表する)を噴射供給することで、NOx還元触媒において排気中のNOxと還元剤とを触媒還元反応させて、NOxを無害成分に浄化処理する。また、NOx還元触媒上流の排気管内に噴射供給された液体還元剤又はその前駆体を攪拌する攪拌板を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第2009−108726号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この種の排気浄化装置においては、市街地走行等、エンジンの負荷が低いところでの走行では、排気温度が低く、尿素水等の液体還元剤に由来する物質が排気管内に析出することがある。
このように、液体還元剤由来の物質が析出される走行が繰り返されると、析出物が前記攪拌板に堆積して排気通路開口面積が減少して排気流通抵抗の増大によりエンジン出力の低下の惧れがある。
【0005】
本発明は、このような従来の課題に着目してなされたもので、攪拌板に堆積した析出物を除去し、もって良好な運転性を維持できるようにした内燃機関の排気浄化装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このため、本発明に係る内燃機関の排気浄化装置は、
内燃機関の排気管に配設され、還元剤を用いて窒素酸化物を還元浄化する還元触媒と、
前記還元触媒の排気上流に液体還元剤又はその前駆体を噴射供給する還元剤噴射ノズルと、
前記還元剤噴射ノズルと前記還元触媒との間に位置する排気管に配設されて、還元剤噴射ノズルから噴射された液体還元剤又はその前駆体を攪拌する攪拌板と、
前記攪拌板に衝撃力を与えて、前記攪拌板に堆積した析出物を除去する衝撃力付与機構と、
を含んで構成されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、衝撃力付与機構によって攪拌板に衝撃を与えて攪拌板に堆積した析出物を除去して、析出物堆積量の増大を抑制することができ、もって、排気通路開口面積の減少を抑制して良好な運転性能を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施形態を示すエンジン排気系のシステム図である。
【図2】本発明に係る衝撃力付与機構の構成を示す図である。
【図3】攪拌板を示す正面図である。
【図4】上記衝撃力付与機構及びヒータの制御を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
図1は本発明の実施形態を示すエンジン排気系のシステム図である。
ディーゼルエンジン(エンジン本体)1の排気マニホールド2下流側の排気通路(排気管)3には、排気浄化装置を装備させるため、上流側の第1ケーシング4と、下流側の第2ケーシング5と、これらのケーシング4、5間の連通路6とが設けられる。
【0010】
第1ケーシング4内には、前段にディーゼル酸化触媒(DOC;Diesel Oxidation Catalyst )7が収納され、後段にディーゼルパティキュレートフィルタ(以下「DPF」という)8が収納されている。
DPF8は、排気中の粒子状物質であるPM(Particulate Matter)を捕集するフィルタであり、例えば、多孔質セラミックのハニカム構造の担体からなり、上流側と下流側とを連通する通路が多数並設されると共に、隣接する通路同士において上流側と下流側とが交互に封止されたウォールフロータイプのフィルタである。
【0011】
酸化触媒7は、排気中のNOを酸化させてNOを生成し、このNOを酸化剤としてDPF8に供給すると共に、酸化熱を発生させて、下流側のDPF8を昇温させる。これにより、DPF8に捕集されているPMは、酸化触媒7から供給されたNOと反応して酸化し、DPF8の連続再生が行われる。
第2ケーシング5内には、前段にアンモニアを還元剤としてNOxを還元する機能を有するSCR触媒9が収納され、後段にSCR触媒9から流出したアンモニアを酸化してNとする酸化触媒としての機能を有するアンモニア酸化触媒10が収納されている。尚、「SCR」は、Selective Catalytic Reduction の略語である。
【0012】
そして、第2ケーシング5上流の連通路6には、SCR触媒9へ向けて、還元剤(アンモニア)の前駆体としての尿素水溶液(以下「尿素水」という)を加圧空気と共に噴射する尿素水噴射ノズル11が設けられている。尚、尿素水は、図示しない尿素水タンクから噴射量制御用の制御モジュール12を介してノズル11へ供給され、制御モジュール12は電子制御ユニット(ECU)50により制御される。
【0013】
尿素水噴射ノズル11から噴射された尿素水は、排気の熱により加水分解してアンモニアとなる。SCR触媒9は、このようにして生成されたアンモニアを吸着し、吸着したアンモニアを還元剤として、NOxとアンモニア(NH)とを選択的に還元反応させ、NOxを無害な水(HO)と窒素(N)へ浄化する。ここにおいて、SCR触媒9と尿素水噴射ノズル11とでNOx還元装置を構成している。
【0014】
また、連通路6の尿素水噴射ノズル11とSCR触媒9との間の部分には、還元剤としてのアンモニアを含んだ排気を攪拌する攪拌板13が配設される。攪拌板13は、例えば、後述するように複数の開口を排気が通過する方向をそれぞれ変化させるガイド壁を持たせた形状に形成されている。
かかる攪拌板13により、アンモニアを含んだ排気は攪拌されて略均一に拡散されるため、SCR触媒9に供給されるアンモニア濃度のむらを抑制し、SCR触媒9によるNOx浄化効率を向上させることができる。
【0015】
ここで、既述したように、特に、低負荷走行運転時等で排気温度が低下すると、尿素水が攪拌板13の表面に液状で付着しやすく、付着した尿素水の水分が蒸発することにより、還元剤由来の物質などが析出し、攪拌板13表面に堆積する。かかる現象の繰り返しにより、攪拌板13表面の析出物堆積量が増大すると、排気通路面積が減少して排気流通抵抗の増大によりエンジン出力の低下の惧れがある。
【0016】
そこで、本実施形態では、攪拌板に衝撃を与えて攪拌板に堆積した析出物を振り落として除去する衝撃力付与機構21を、以下のように配設する。
図2は、衝撃力付与機構21の構成を示す。
攪拌板13は、図3に示すように円筒状リング部材13Aと、その内側に排気流通方向に対して交互に傾斜方向を変えて列設された複数のガイドプレート13Bとを有して形成される。さらに、円筒状リング部材13Aの直径方向に回転軸13aを設け、該回転軸13aの両端部を、連通路6壁を貫通させて、攪拌板13を回転軸13a周り回動自由に支持する。
【0017】
回転軸13aの連通路6壁外側に突出する一方の端部にレバー14の一端部を連結すると共に、該レバー14の他端部にエアシリンダ等のアクチュエータ15の駆動軸15a端部を連結し、駆動軸15aの伸縮により、レバー14の揺動を介して回転軸13a回りに攪拌板13を回動させるように構成する。
また、駆動軸15aの伸張時に、駆動軸15aを連結したレバー14の端部が突き当たる位置にストッパ16を配設する。
【0018】
かかる構成を備えた衝撃力付与機構の作用を説明する。
アクチュエータ15を駆動して駆動軸15aを伸張すると、レバー14を介して攪拌板13が回動し、駆動軸15aがストッパ16に突き当たると急停止し、そのとき生じる衝撃力により、攪拌板13に堆積された析出物が振り落とされて除去される。
次いで、アクチュエータ15の駆動を停止(エアシリンダの場合は、圧縮空気を放出)すると、アクチュエータ15に内蔵されたリターンスプリングにより駆動軸15aが高速で引き戻され、初期位置まで戻されて急停止する際に、再度衝撃力が生じ、攪拌板13に堆積された析出物が振り落とされて除去される。
【0019】
かかる駆動・駆動停止操作は、1回でもよいが、数回繰り返せば、より多くの析出物を除去することができる。
上記衝撃力付与機構21を攪拌板13に所定量以上の析出物が堆積したときに駆動するように制御するため、図1に示すように、析出物堆積量を推定するための排気温度及び排気温度を検出するための排気温度センサ17及び排気圧力センサ18を、尿素水噴射ノズル11近傍の連通路6壁に配設する。
【0020】
また、衝撃力付与機構21によって除去され連通路6壁に落下した尿素などの析出物を加熱してガス化しアンモニアに転化させるヒータ19を攪拌板13下流直下の連通路6底壁に配設する。
次に、電子制御ユニット(ECU)50による衝撃力付与機構21及びヒータ19の制御を、図4のフローチャートに基づいて説明する。
【0021】
このフローは、所定時間周期で実行される。
ステップS1では、排気温度tが、所定温度t0未満であるかを判定する。所定温度t0は、例えば、液体還元剤由来の析出物の融点とし、したがって、所定温度t0未満では、液体還元剤由来の物質が析出する。
ステップS1で所定温度t0未満と判定されたときは、ステップS2へ進んで積算カウンタの値Cをインクリメントする(C←C+1)。
【0022】
そして、ステップS3で、積算カウンタの値Cが所定値C0以上に達したか、つまり、液体還元剤由来の物質が析出している時間の積算値が所定時間以上に達して、攪拌板13への析出物の堆積量が所定値以上になったかを判定する。
また、積算カウンタの値Cが所定値C0に達する前は、ステップS4へ進み、攪拌板13上流の排気圧力Pが所定値P0以上であるかを判定する。排気圧力Pが所定値P0以上のときは、攪拌板13への析出物の堆積量が増大して攪拌板13の通路面積が減少し、その結果、排気抵抗の増大によって排気圧力Pが所定値P0以上に増大したと推定される。
【0023】
そこで、ステップS3で積算カウンタの値Cが所定値C0に達したと判定されたとき、または、ステップS排気圧力Pが所定値P0以上に増大したと判定されたとき、ステップS5へ進み、攪拌板13に堆積した析出物を除去するため、前記衝撃力付与機構21を駆動する。すなわち、上述したようにアクチュエータ15をON,OFFする。あるいは、このON,OFF操作を数回繰り返す。
【0024】
これにより、アクチュエータ15のON時に駆動軸15が伸張し、レバー14がストッパ16に突き当たって停止した時に付与される衝撃、次いで、OFFして駆動軸15aが引き込まれて停止した時に付与される衝撃により、攪拌板13に堆積した析出物が振るい落とされて除去される。
ステップS6では、上記のようにして攪拌板13から連通路6壁上に振り落とされた析出物を加熱する。これにより、固形の析出物がガス化され、アンモニアガスとしてSCR触媒9に供給される。
【0025】
このようにすれば、攪拌板13に析出物が所定量以上堆積する毎に攪拌板13に衝撃力が付与されて析出物を除去することができ、排気通路面積の減少による排気抵抗の増大、ひいてはエンジン出力の低減、燃費悪化を抑制して良好なエンジン性能を維持することができる。
なお、本制御では、排気温度(が所定値以下の積算時間)と、排気圧力との双方に基づいて、析出物堆積量を推定したが、簡易的にはいずれか一方のみに基づいて析出物堆積量を推定し、衝撃力付与機構を作動させる構成としてもよい。
【0026】
また、攪拌板の形状は、上記実施形態の形状に限らず、攪拌機能を有する任意の形状であってよい。
また、衝撃力付与機構は、上記実施形態に限られるものではなく、例えば、攪拌板にバイブレータを連結し、加振することによって析出物を振り落とす構成であってもよい。
【符号の説明】
【0027】
1 ディーゼルエンジン
3 排気通路
6 連通路
9 SCR触媒
10 アンモニア酸化触媒
11 尿素水噴射ノズル
12 制御モジュール
13 攪拌板
13a 回転軸
14 レバー
15 アクチュエータ
15a 駆動軸
16 ストッパ
17 排気温度センサ
18 排気圧力センサ
19 ヒータ
21 衝撃付与機構
50 電子制御ユニット(ECU)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気管に配設され、還元剤を用いて窒素酸化物を還元浄化する還元触媒と、
前記還元触媒の排気上流に液体還元剤又はその前駆体を噴射供給する還元剤噴射ノズルと、
前記還元剤噴射ノズルと前記還元触媒との間に位置する排気管に配設されて、還元剤噴射ノズルから噴射された液体還元剤又はその前駆体を攪拌する攪拌板と、
前記攪拌板に衝撃力を与えて、前記攪拌板に堆積した析出物を除去する衝撃力付与機構と、
を含んで構成されたことを特徴とする内燃機関の排気浄化装置。
【請求項2】
前記衝撃力付与機構は、排気管に回動自由に支持された前記攪拌板を所定角度回動し、急停止させたときに生じる衝撃力を与える機構である請求項1に記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項3】
前記衝撃力付与機構は、前記攪拌板を加振して衝撃力を与える機構である請求項1に記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項4】
前記攪拌板に堆積した析出物の堆積量を推定し、前記攪拌板への析出物の堆積量が所定量以上に達したと推定されたときに、前記衝撃力付与機構を駆動して前記攪拌板に衝撃力を付与するように制御する制御手段を含んで構成される請求項1〜請求項3のいずれか1つに記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項5】
前記制御手段は、排気温度及び排気圧力の少なくとも一方に基づいて前記攪拌板に堆積した析出物の堆積量を推定する請求項4に記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項6】
前記攪拌板から排気管内に除去された析出物を、加熱して分解する加熱手段を含んで構成される請求項1〜請求項5のいずれか1つに記載の内燃機関の排気浄化装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2012−117489(P2012−117489A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−269999(P2010−269999)
【出願日】平成22年12月3日(2010.12.3)
【出願人】(000003908)UDトラックス株式会社 (1,028)
【Fターム(参考)】