説明

エンジンの排気装置

【課題】エンジンの排気装置において、熱変形又は振動等による排気通路周壁部材の接合部の亀裂発生を防ぐことを目的とする。
【解決手段】エンジンの排気口から排気マフラーに至る排気通路を排気通路周壁部材により構成しているエンジンの排気装置である。排気通路周壁部材として、たとえば、第2の排気管24,膨張管25及び分岐排気管26等を一体に含むY字状一体物34を備え、このY字状一体物34の周方向の端部は、溶接により接合してなる接合部35を有している。そして、前記Y字状一体物34の内周面の前記接合部35を含む所定領域に、溶接等の固着手段により補強板50を固着する。上記所定領域は、たとえば排気通路の分岐部である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの排気口から排気マフラーに至る排気通路を排気通路周壁部材により構成しているエンジンの排気装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンの排気通路を構成するための排気通路周壁部材としては、主として、周方向に接合部のないパイプ状の排気管が利用されているが、複数の排気通路が集合する部位、複数の排気通路に分岐する部位又は排気通路が屈曲する部位等では、製造を容易にする観点から、たとえば一対の半割状の排気通路周壁部材同士を溶接により接合する構造、いわゆる「もなか構造」が採用されることが多い。従来技術文献としては、特許文献1及び2等がある。
【特許文献1】実開昭63−130618号公報
【特許文献2】特開平8−210131号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
前記排気通路周壁部材は、エンジン運転中は高温の排気ガスが流通することにより加熱され、一方、エンジン停止中は冷却されるため、熱膨張と熱収縮に起因する熱応力がかかり、接合部を有する排気通路周壁部材では、前記熱応力より、接合部に亀裂が発生し易くなっている。特に、排気通路の集合部、分岐部又は屈曲部では、高温の排気ガスが円滑に流れず、排気通路周壁部材に衝突し、そのため、熱膨張の度合いが大きくなり、大きな熱応力がかかることが多い。
【0004】
また、エンジン運転中、排気装置には全体に振動が生じ、特に、自動二輪車等の乗り物に搭載されたエンジンでは、排気通路全体が大きく振動し、前記排気通路の集合部、分岐部又は屈曲部には、振動による曲げ応力等が集中し易く、この曲げ応力によっても接合部に亀裂が生じる可能性がある。
【0005】
なお、前記特許文献1では、排気マニホールドの分岐部(股部)の外周面に補強板を溶接により固着し、接合部の亀裂を抑制する構造が開示されているが、このように外周面に補強板を固着する構造では、接合部の強度を向上させる効果は期待できるが、高温の排気ガスは接合部を含む排気通路周壁部材の内周面に直接衝突し、排気通路周壁部材の接合部にかかる熱応力を減少させることはできない。
【0006】
本発明の目的は、排気通路周壁部材の接合部にかかる排気ガスによる熱応力及び振動等による曲げ応力を抑制し、接合部の亀裂発生を効果的に防止できるエンジンの排気装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するため、請求項1記載の発明は、エンジンの排気口から排気マフラーに至る排気通路を排気通路周壁部材により構成しているエンジンの排気装置において、
前記排気通路周壁部材の少なくとも一部は、前記排気通路周壁部材の周方向の端部同士を溶接により接合してなる接合部を有しており、前記排気通路周壁部材の内周面の前記接合部を含む所定領域に、固着手段により補強部材が固着されている。
【0008】
上記構成によると、補強部材により、高温の排気ガスが接合部に接触又は衝突するのを防ぎ、それにより接合部における熱応力の発生を抑制し、しかも、接合部を物理的にも補強していることより、排気装置の振動による曲げ応力が接合部に集中することを防ぐことができる。これらにより、接合部における亀裂の発生を抑制することができる。
【0009】
また、補強部材を、排気通路周壁部材の内周面に配設しているので、排気装置のコンパクト性を維持できると共に外観も良好に保つことができ、さらに組立時、排気装置の近くに配置される他部品との干渉を考慮する必要もない。
【0010】
請求項2記載の発明は、請求項1記載のエンジンの排気装置において、前記接合部では、一対の半割状の排気通路周壁部材の周方向の端部同士が接合されている。
【0011】
上記構成によると、複雑な形状を有する部位における排気通路周壁部材の製造が容易になる。
【0012】
請求項3記載の発明は、請求項1又は2記載のエンジンの排気装置において、前記接合部では、前記排気通路周壁部材に形成されたフランジ同士が接合されている。
【0013】
上記構成によると、複雑な形状を有する部位における排気通路周壁部材の製造が、一層容易になる。
【0014】
請求項4記載の発明は、請求項1乃至3のいずれかに記載のエンジンの排気装置において、前記補強部材が固着される所定領域は、前記排気通路の屈曲部分又は分岐部分における前記排気通路周壁部材の内周面の領域である。
【0015】
上記構成によると、高温の排気ガスによる熱影響及び排気装置の振動による曲げ作用を受け易い部位の接合部に、補強部材を固着することになるので、排気装置全体として、効率良く接合部の亀裂発生を抑制することができる。
【0016】
請求項5記載の発明は、請求項4記載のエンジンの排気装置において、前記補強部材が固着される所定領域は、前記屈曲部分又は前記分岐部分における前記排気通路周壁部材の内周面のうち、前記排気通路内の排気ガス流に略正対する領域である。
【0017】
上記構成によると、高温の排気ガスの熱影響を最も受け易い部位の接合部に、補強部材を固着することになるので、接合部の亀裂発生を一層効率良く抑制することができる。
【0018】
請求項6記載の発明は、請求項1乃至5のいずれかに記載のエンジンの排気装置において、前記所定領域は、前記排気通路に配置された触媒装置より排気下流側に位置している。
【0019】
触媒装置では、排気ガスと触媒との反応熱により、排気ガスはさらに高温となって下流側へ流れるが、このような触媒装置の下流側の接合部に補強部材を固着していることにより、接合部への熱影響を、効果的に抑制できる。
【0020】
請求項7記載の発明は、請求項1乃至6のいずれかに記載のエンジンの排気装置において、前記固着手段は、前記接合部を境に区画される前記所定領域の一方の区画部分に対しては隅肉溶接であり、他方の区画部分に対してはプラグ溶接である。
【0021】
上記構成によると、排気通路周壁部材の端部同士の接合作業が容易になると共に、たとえば、一つの排気通路周壁部材を、一対の半割部材により、いわゆる「もなか構造」で結合する構造において、両半割部材を接合する前に、補強部材を一方の半割部材の内周面に内方から隅肉溶接により固着しておき、両半割部材を接合後、補強部材を他方の半割部材に外方からプラグ溶接により固着することができ、補強部材の固着作業が容易になる。また、隅肉溶接を利用することにより、排気装置の綺麗な外観を維持することもできる。
【発明の効果】
【0022】
要するに本発明によると、溶接による接合部を含む前記排気通路周壁部材の内周面の所定領域に、補強部材を溶接等の固着手段により固着しているので、排気ガスの熱による前記接合部の熱変形を抑制し、前記接合部での亀裂の発生を防ぐと共に、曲げ作用等に対する接合部の強度も向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
[本発明の第1の実施の形態]
図1〜図13は本発明の第1の実施の形態であって、自動二輪車に搭載したエンジンの排気装置であり、これらの図面に基づいて第1の実施の形態を説明する。
【0024】
(自動二輪車の全体の概略)
図1は本発明に係る排気装置を備えた自動二輪車の右側面図(ライダーから見た右側の側面図)であり、この図1において、車体フレームは、左右一対のメインフレーム2と、該メインフレーム2の後下端部に形成された左右一対のスイングアームブラケット3と、該スイングアームブラケット3から後上方に延びるリヤフレーム4等と、から構成されており、車体フレーム上には燃料タンク7及びシート8等が設けられ、メインフレーム2の下側空間に複数気筒エンジン10が搭載されている。メインフレーム2の前端に形成されたヘッドパイプ11にはフロントフォーク12が支持され、該フロントフォーク12の上端部にはハンドル13が設けられ、フロントフォーク12の下端部には前車輪14が支持されている。スイングアームブラケット3のピボット部3aには、スイングアーム16の前端部が回動自在に支持され、スイングアーム16の後端部に後車輪17が支持されている。
【0025】
前記複数気筒エンジン10は、たとえば4つの気筒を車幅方向に配置した並列4気筒4サイクルエンジンであり、シリンダヘッド18の前端面には、各気筒用の排気口18aが開口し、各排気口18aに4本の気筒別排気管20がそれぞれ接続されている。
【0026】
(排気装置の全体構成)
前記排気装置の排気通路は、複数の排気通路周壁部材により構成されており、該排気通路周壁部材として、排気上流側から順に、前記4本の気筒別排気管20と、エンジン10の下側に配置されると共に2股状に構成された上下一対の第1の排気集合管23と、該第1の排気集合管23の後端に接続された第2の排気集合管24と、該第2の排気集合管24の後端に形成された膨張管25と、該膨張管25の後端部に形成された左右一対の分岐排気管26と、各分岐排気管26から後車輪17の左右側方へ延びる左右一対の後部排気管27と、後車輪17の左右側方に配置された左右一対の排気マフラー21と、を備えている。前記4本の気筒別排気管20の各排気通路は、第1の排気集合管23において上下2本の排気通路に集合され、第2の排気集合管24において2本から1本の排気通路に集合され、膨張管25の後半部において左右の分岐排気管26に分岐され、そして左右の後部排気管27を介して左右の排気マフラー21に至っている。各排気通路周壁部材について、以下、詳しく説明する。
【0027】
(気筒別排気管)
図2は排気装置の平面拡大図、図3は排気装置の左側面図である。図2において、前記4本の気筒別排気管20を相互に区別するために、左側から順に、第1の気筒別排気管20−1、第2の気筒別排気管20−2、第3の気筒別排気管20−3及び第4の気筒別排気管20−4と称する。各気筒別排気管20−1、20−2、20−3、20−4は、ステンレス鋼製のパイプ部材から構成されており、エンジン10の前側を下方に延び、エンジン10の前下端部近傍において左右幅の中央部に寄せ集められると共に、図3に示すように後方へ湾曲し、上下の第1の排気集合管23、23の前端入口部に接続されている。
【0028】
(第1の排気集合管)
図4は、第1の排気集合管23の前端部の断面拡大図(図3のIV-IV断面拡大図)、図5は第1の排気集合管23の後端部の断面拡大図(図3のV-V断面拡大図)である。図4において、上下の第1の排気集合管23の前端部は、左右幅の中央部が括れたピーナツ形状に形成されており、上側の第1の排気集合管23には、第1の気筒別排気管20−1の下端部と第4の気筒別排気管20−4の下端部とが接続され、下側の第1の排気集合管23には、第2の気筒別排気管20−2の下端部と第3の気筒別排気管20−3の下端部とが接続されている。
【0029】
図5において、上下の第1の排気集合管23の後端部は、それぞれ半割円筒状に形成されると共に、全体が断面略円形となるように結合され、上下方向の中央に形成された略水平な隔壁33により、上側排気通路31と下側排気通路32とに仕切られている。上側排気通路31は前記図4の第1、第4気筒別排気管20−1、20−4に連通する排気通路であり、図5の下側排気通路32は前記図4の第2、第3気筒別排気管20−2、20−3に連通する排気通路である。
【0030】
(第2の排気集合管24、膨張管25及び分岐管26)
図6は第2の排気集合管24、膨張管25及び分岐排気管26の平面図、図7は第2の排気集合管24、膨張管25及び分岐排気管26を後左方から見た斜視図、図8は図6のVIII-VIII断面図、図9は図6のIX-IX断面図、図10は図6のX-X断面図である。図6において、第2の排気集合管24と、膨張管25と、分岐排気管26とは、平面視で概ねY字状の一体物34として形成されており、このY字状一体物34は、図7に示すように平面視略Y字状の上側半割部材34aと、該上側半割部材34aに下側から合致する平面視Y字状の下側半割部材34bとを、溶接による接合部35で接合してなり、上記両半割部材34a、34bは、ステンレス鋼板でできているが、その他、鋼板製やチタン合金製等にすることもできる。
【0031】
図7において、前記接合部35は、図7の右側分岐排気管26の右端部に明確に示すように、上側半割部材34aの周方向の端縁に形成された外向きのフランジ35aと、該フランジ35aに対応するように下側半割部材34bの周方向の端縁に形成された外向きのフランジ35bとを、溶接W0により結合したものである。該溶接W0は一部のみを図7に示しているが、Y字状一体物34全体に関しては、Y字状一体物34の左側を接合する接合部35と、Y字状一体物34の右側を接合する接合部35と、Y字状一体物34の後部を接合する接合部35と、を有している。
【0032】
図6において、Y字状一体物34の前記左側の接合部35は、第2の排気集合管24の前左端から、第2の集合管24の左側端、膨張管25の左側端及び左側分岐排気管26の前側端を通って左側分岐排気管26の左前端に至っている。Y字状一体物34の前記右側の接合部35は、第2の排気集合管24の前右端から、第2の集合管24の右側端、膨張管25の右側端及び右側分岐排気管26の前側端を通って右側分岐排気管26の右後端に至っている。そして、Y字状一体物34の後部の接合部35は、左側分岐排気管26の左後端から、左側分岐排気管26の後側端、膨張管25の後端部25a及び右側分岐排気管26の後側端を通り、右側分岐排気管26の左後端に至っている。
【0033】
図8において、第2の排気集合管24は筒状に形成されており、第2の排気集合管24の前端部は略水平な仕切り壁37により上側排気通路38と下側排気通路39とに仕切られ、上側排気通路38には、センサー取付ボス部40が設けられ、該センサー取付ボス部40には酸素センサー(排気ガスセンサー又は空燃比センサー)43が取り付けられる。また、上記仕切り壁37には、上下の排気通路38,39を連通する連通孔37aが形成されている。
【0034】
図9において、第2の排気集合管24の後端部の排気通路内には、円筒形のハニカム型触媒41が収納されている。
【0035】
図10において、膨張管25は、前述のように、第2の排気集合管24の後端に第2の排気集合管24と一体に形成されており、その形状は、前半が切除された略半球状に形成されている。膨張管25の前端の直径は第2の排気集合管24の後端の直径よりも大きくなっており、したがって、排気流通断面積は、第2の排気集合管24の後端から膨張管25の前端に移る時点で一時的に拡大し、膨張管25内には、膨張管25の半球状内面に沿って徐々に縮小している。
【0036】
このように、膨張管25の形状を、前半を切り落とした略半球状としていることにより、膨張管25の前後方向の寸法をコンパクトにしている。
【0037】
図6において、該実施の形態では、左側の分岐排気管26は膨張管25の後端部から左側へ延びて左向きの開口し、一方、右側の分岐排気管26は、右後方へ湾曲状に延びて、後ろ向きの開口している。
【0038】
(膨張管25及び分岐排気管26の補強構造)
図11は図6のXI-XI断面図、図12は図10の後端部の拡大図、図13はY字状一体物34の組立途中の断面図である。前記図7において、膨張管25の後端部25aの内周面から、左右の分岐排気管26の内周面に亘り、前記接合部35を含む所定領域に、補強部材として、ステンレス鋼製の補強板50が溶接W1、W2により固着されている。
【0039】
前記補強板50は、膨張管25及び分岐排気管26の内周面形状に合致した三次元形状に形成されており、図12に示すように、上側半割部材34aの膨張管25に相当する部分には、補強板50の上端が隅肉溶接W1により固着されている。一方、下側半割部材34bの膨張管25に相当する部分には、下側半割部材34bに形成した長孔52を利用したプラグ溶接W2により、固着されている。
【0040】
図7において、補強板50の上端の隅肉溶接W1は、補強板50の左右幅の全幅に亘って、あるいは部分的に施されおり、一方、補強板50の下半部のプラグ溶接W2は、左右の分岐排気管26に分離した状態でそれぞれ筋状に施されている。なお、本実施の形態において、補強板50の左右側端には溶接を施していない。
【0041】
補強板50の厚み(肉厚)は、膨張管25の厚み(肉厚)と略同じで、たとえば1mm〜2mm程度であり、補強板50の上下方向の幅は、たとえば20mm〜40mm程度であり、好ましくは、30mm程度に設定される。
【0042】
(Y字状一体物34及び補強板50の組立)
図13において、Y字状一体物34を組み立てる場合には、上下の半割部材34a、34bを結合する前に、補強板50の上端を、隅肉溶接W1により、内方から上側半割部材34aの後端部の内周面に固着しておく。この時、補強板50の下半部は上側半割部材34aの下端フランジ35aよりも下方に突出している。
【0043】
次に、両半割部材34a、34bを上下に重ね合わせ、フランジ35a,35b同士を溶接W0(図12参照)により結合し、続いて、下側半割部材34bの長孔52を利用して、外方からのプラグ溶接W2(図12参照)により、補強板50の下半部を下側半割部材34b(膨張管25)の内周面に固着する。
【0044】
なお、図2において、第2の排気集合管24内に配置される触媒41は、たとえば上記Y字状一体物34を組立時、または組立後、第2の排気集合管24内に挿入し、第2の排気集合管24の後端部に形成された長孔55を利用して、外部からプラグ溶接により第2の排気集合管24に固着される。
【0045】
(排気ガスの流れ)
図2のエンジン10の各排気口18a(図3)から気筒別排気管20−1、20−2、20−3、20−4内の各排気通路に排出される排気ガスは、図4及び図5に示すように、第1の排気集合管23により、上下2つの排気通路31、32にそれぞれ集合される。すなわち、図5において、第1、第4気筒からの排気ガスは上側の排気通路31に集合され、第2、第3気筒からの排気ガスは下側排気通路32に集合され、それぞれ図8に示す第2の排気集合管24内の上側排気通路38と下側排気通路39へ流入する。
【0046】
第2の排気集合管24内においては、上記図8の上下の排気通路38、39から、図9に示すハニカム型触媒41を内蔵する通路を通過し、該触媒41を通過した後、図10に示す略半球状の膨張管25内に流入し、集合する。
【0047】
膨張管25内に流入した排気ガスは、一時的に膨張し、そのうち、排気通路の径方向の外方部を流れる排気ガスは、円弧状の内周面に沿って後方に流れ、補強板50の表面に沿って左右の各分岐排気管26に分流するが、排気通路の中心部付近を通過する排気ガスは、略真正面から補強板50に直接衝突し、左右に分岐する。
【0048】
上記膨張管25内の排気ガスの流れにおいて、図6の膨張管25の後端部25aの内周面及び該後端部25a近傍の分岐排気管26の内周面は、第2の排気集合管24内及び膨張管25の略軸芯部分を流れる排気ガスの流れに略正対する領域となっているが、該領域に補強板50を配置していることにより、排気ガスが上記領域に直接接触又は衝突するのを阻止し、高温の排気ガスによる上記領域の熱変形を抑制しているので、上記領域内の接合部35において熱変形による亀裂が生じるのを防止できるのである。特に、膨張管25は略半球状に形成されており、上記膨張管25の後端部25aの内周面も部分球面状になっているので、仮に補強板50が配置されていないとすれば、排気ガスが強く衝突する状況となるが、本実施の形態のように、補強板50により上記領域を排気ガスから遮蔽しているので、熱変形による接合部35の亀裂を効率的に防止できるのである。
【0049】
また、運転中、排気装置全体は振動し、特に、後部排気管27が振動することにより、膨張管25と分岐排気管26との境目近傍に曲げ応力が集中するが、上記補強板50により、膨張管25と分岐排気管26との境目近傍を物理的に補強しているので、応力集中により接合部35に亀裂が発生することも防止できる。
【0050】
さらに本実施の形態では、補強板50として、膨張管25(Y字状一体物34)と同じステンレス鋼板を用い、かつ、膨張管25の厚みと同程度の厚みを有する補強板50を固着しているので、補強板50と膨張管25との熱膨張の相違による歪み等が生じることもない。
【0051】
[第2の実施の形態]
図14は本発明の第2の実施の形態である。この図14において、膨張管25が一体に形成されるY字状一体物34の接合部35は、いんろう形式による接合構造となっている。すなわち、接合部35は、上側半割部材34aの周端部に外側嵌合部55aを形成し、該外側嵌合部55aを、下側半割部材34bの周方向の端部55bの外側面に嵌合し、溶接W3により接合した構造となっている。そして前記接合部35を含む膨張管25の内周面の所定領域に、補強板50を溶接W1、W2により固着している。上記接合部35以外の構造は前記第1の実施の形態と同じであり、同じ部分及び部品には同じ符号(番号)を付している。
[第3の実施の形態]
図15は本発明の第3の実施の形態である。この図15において、膨張管25が一体に形成されるY字状一体物34の接合部35は、突き合わせによる接合構造となっている。すなわち、上側半割部材34aの周端部と下側半割部材34bの周端部とを突き合わせ、溶接W4により接合してあり、該接合部35を含む膨張管25の内周面の所定領域に、補強板50を溶接W1、W2により固着している。上記接合部35以外の構造は前記第1の実施の形態と同じであり、同じ部分及び部品には同じ符号(番号)を付している。
[第4の実施の形態]
図16は本発明の第4の実施の形態である。前記第1〜第3の実施の形態では、排気通路を構成する排気通路周壁部材として、上下一対の半割部材を接合部により接合した構造を採用しているが、該第4の実施の形態では、図16に示すように、板材を円筒状に巻き、一つの板材よりなる排気通路周壁部材60の周方向の端部にフランジ60a、60bを形成し、両フランジ60a、60bを溶接W5により接合した構造となっている。そして、上記接合部35を含む排気通路周壁部材60の内周面の所定領域に、補強板50を溶接W1、W2により固着している。該第4の実施形態の構造は、たとえば、排気通路の屈曲部分等に適している。
【0052】
[その他の実施の形態]
(1)前記実施の形態では、補強部材として板状部材よりなる補強板50を用いているが、ブロック状部材、棒状部材等、各種形状の補強部材を用いることもできる。
【0053】
(2)前記各実施の形態では、補強板50等の補強部材の固着手段として、隅肉溶接とプラグ溶接とを組み合わせているが、補強板を膨張管25の内周面に仮止めしておいて、プラグ溶接のみで補強板50の上下両端部を溶接する構造とすることもでき、また、スポット溶接を利用して補強板50を固着することも可能である。さらに、補強板50の固着手段として、溶接の他に、ろう付け又はかしめによる固着手段を利用することも可能である。
【0054】
(3)補強板50等の補強部材を配置する領域としては、前記第1〜第3に実施の形態のように、排気通路の分岐部や、第4の実施の形態のような排気通路の屈曲部の他に、図2の第1の排気集合管23等の接合部を含む領域も含まれる。
【0055】
(4)本発明は、以上の実施の形態の構造には限定されず、発明の趣旨を逸脱しない範囲において、追加、変更又は削除可能である。
【産業上の利用分野】
【0056】
本発明は、自動二輪車に搭載されるエンジンの排気装置には限定されず、不整地用四輪走行車、自動車、水上滑走艇等、各種乗り物に搭載されるエンジン又はその他の産業用のエンジンの排気装置にも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の第1の実施の形態によるエンジンの排気装置を備えた自動二輪車の右側面図である。
【図2】図1の排気装置の平面拡大図である。
【図3】図2の排気装置の左側面図である。
【図4】図3のIV-IV断面拡大図である。
【図5】図3のV-V断面拡大図である。
【図6】図2の排気装置の第2の排気集合管、膨張管及び分岐排気管よりなるY字状一体物の平面図である。
【図7】図6と同じY字状一体物の斜視図である。
【図8】図6のVIII-VIII断面拡大図である。
【図9】図6のIX-IX断面拡大図である。
【図10】図6のX-X断面拡大図である。
【図11】図6のXI-XI断面図である。
【図12】図10の矢印XII部分の拡大図である。
【図13】Y字状一体物の組立途中の状態を示す縦断面図である。
【図14】本発明の第2の実施の形態による排気装置の図12と同じ部分の拡大図である。
【図15】本発明の第3の実施の形態による排気装置の図12と同じ部分の拡大図である。
【図16】本発明の第4の実施の形態による排気装置の補強板配置部分の拡大縦断面図である。
【符号の説明】
【0058】
10 エンジン
18a 排気口
20 気筒別排気管(排気通路周壁部材の一例)
23 第1の排気集合管(排気通路周壁部材の一例)
24 第2の排気集合管(排気通路周壁部材の一例)
25 膨張管(排気通路周壁部材の一例)
26 分岐排気管(排気通路周壁部材の一例)
34 Y字状一体物(排気通路周壁部材の一例)
34a 上側半割部材
34b 下側半割部材
35 接合部
35a、35b フランジ
60 排気通路周壁部材の一例
60a、60b フランジ
W1,W2、W3、W4、W5 溶接

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの排気口から排気マフラーに至る排気通路を排気通路周壁部材により構成しているエンジンの排気装置において、
前記排気通路周壁部材の少なくとも一部は、前記排気通路周壁部材の周方向の端部同士を溶接により接合してなる接合部を有しており、
前記排気通路周壁部材の内周面の前記接合部を含む所定領域に、固着手段により補強部材が固着されていることを特徴とするエンジンの排気装置。
【請求項2】
請求項1記載のエンジンの排気装置において、
前記接合部では、一対の半割状の排気通路周壁部材の周方向の端部同士が接合されていることを特徴とするエンジンの排気装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載のエンジンの排気装置において、
前記接合部では、前記排気通路周壁部材に形成されたフランジ同士が接合されていることを特徴とするエンジンの排気装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載のエンジンの排気装置において、
前記補強板が固着される所定領域は、前記排気通路の屈曲部分又は分岐部分における前記排気通路周壁部材の内周面の領域であることを特徴とするエンジンの排気装置。
【請求項5】
請求項4記載のエンジンの排気装置において、
前記補強部材が固着される所定領域は、前記屈曲部分又は前記分岐部分における前記排気通路周壁部材の内周面のうち、前記排気通路内の排気ガス流に略正対する領域であることを特徴とするエンジンの排気装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載のエンジンの排気装置において、
前記補強部材が固着される所定領域は、前記排気通路に配置された触媒装置より排気下流側に位置していることを特徴とするエンジンの排気装置。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかに記載のエンジンの排気装置において、
前記固着手段は溶接であって、
前記接合部を境に区画される前記所定領域の一方の区画部分に対しては隅肉溶接であり、他方の区画部分に対してはプラグ溶接であることを特徴とするエンジンの排気装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2008−261229(P2008−261229A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−102605(P2007−102605)
【出願日】平成19年4月10日(2007.4.10)
【出願人】(000000974)川崎重工業株式会社 (1,710)
【出願人】(000175766)三恵技研工業株式会社 (50)
【Fターム(参考)】