説明

エンジンの油圧クラッチ用油路構造

【課題】油在クラッチの制御油圧室に制御用油路が接続され、油圧クラッチのキャンセラー室に、回転軸の周囲の被潤滑部に潤滑用オイルを供給可能とした潤滑用油路が接続されるエンジンの油圧クラッチ用油路構造において、被潤滑部に充分な量のオイルを供給可能とする。
【解決手段】潤滑用油路113が、被潤滑部に潤滑用オイルを供給するようにして回転軸71に同軸に設けられる上流側油路113aと、上流側油路113aよりも小径にして上流側油路113aに連なるとともに潤滑用オイルをキャンセラー室97,107に供給するようにして少なくとも一部が回転軸71の軸線と平行に延びる下流側油路113bとから成り、回転軸71の軸線と平行な軸線を有する制御用油路111,112が、回転軸71の軸線に沿う方向で下流側油路113bが設けられる範囲に制御用油路111,112の少なくとも一部が配置されるようにして、回転軸71に設けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クランクシャフトと平行な軸線を有してクランクケースに回転自在に支承される回転軸上に、軸方向移動に応じてクラッチオフ状態およびクラッチオン状態を切換えるクラッチピストンの両面を制御油圧室およびキャンセラー室にそれぞれ臨ませる油圧クラッチが設けられ、前記制御油圧室に制御用油路が接続され、前記回転軸の周囲の被潤滑部に潤滑用オイルを供給可能とした潤滑用油路が前記キャンセラー室に接続されるエンジンの油圧クラッチ用油路構造に関する。
【背景技術】
【0002】
クラッチピストンがその一端を臨ませる制御油圧室に遠心力によって発生した油圧をキャンセルするために、クラッチピストンの他面を臨ませるキャンセラー室に、潤滑用オイルを導入するようにした油圧クラッチが、特許文献1で知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−42761号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、上記特許文献1の図1および図2で示されたものでは、回転軸に設けられる潤滑用油路および制御用油路の干渉を回避するために潤滑用油路の径を制御用油路の径と同程度に設定せざるを得ず、被潤滑部に充分な量の潤滑用オイルを供給するために潤滑用油路を大径化したいという要望がある。
【0005】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、被潤滑部に充分な量のオイルを供給可能としたエンジンの油圧クラッチ用油路構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は、クランクシャフトと平行な軸線を有してクランクケースに回転自在に支承される回転軸上に、軸方向移動に応じてクラッチオフ状態およびクラッチオン状態を切換えるクラッチピストンの両面を制御油圧室およびキャンセラー室にそれぞれ臨ませる油圧クラッチが設けられ、前記制御油圧室に制御用油路が接続され、前記回転軸の周囲の被潤滑部に潤滑用オイルを供給可能とした潤滑用油路が前記キャンセラー室に接続されるエンジンの油圧クラッチ用油路構造において、前記潤滑用油路が、前記回転軸の周囲の被潤滑部に潤滑用オイルを供給するようにして前記回転軸に同軸に設けられる上流側油路と、該上流側油路からの潤滑用オイルを前記キャンセラー室に供給するようにして前記上流側油路に連なるとともに前記大径用油路よりも小径に形成されて少なくとも一部が前記回転軸の軸線と平行に延びる下流側油路とから成り、前記回転軸の軸線と平行な軸線を有する前記制御用油路が、前記回転軸の軸線に沿う方向で前記下流側油路が設けられる範囲に前記制御用油路の少なくとも一部が配置されるようにして、前記回転軸に設けられることを第1の特徴とする。
【0007】
また本発明は、第1の特徴の構成に加えて、前記回転軸の軸線方向に並ぶ複数の油圧クラッチ毎の前記制御油圧室に個別に通じる複数の前記制御油路および前記下流側油路が、前記回転軸の軸線に直交する平面への投影図上で前記上流側油路に一部が重なる位置に配置されて前記回転軸に設けられることを第2の特徴とする。
【0008】
本発明は、第2の特徴の構成に加えて、複数の前記制御用油路および前記下流側油路が、前記回転軸の周方向に等間隔に配置されることを第3の特徴とする。
【0009】
本発明は、第2または第3の特徴の構成に加えて、前記下流側油路および前記制御用油路の直径が同一に設定されることを第4の特徴とする。
【0010】
本発明は、第2〜第4の特徴の構成のいずれかに加えて、前記回転軸の半径方向に沿う前記下流側油路および前記制御用油路の外端が、前記上流側油路の内周よりも外方に配置され、前記回転軸の半径方向に沿う前記下流側油路および前記制御用油路の内端が、前記上流側油路の中心軸線よりも外方に配置されることを第5の特徴とする。
【0011】
本発明は、第1〜第5の特徴の構成のいずれかに加えて、前記制御用油路とともに前記回転軸の軸方向一方から穿孔加工される前記下流側油路が、前記回転軸の軸方向他方から穿孔加工される前記上流側油路に連通されることを第6の特徴とする。
【0012】
本発明は、第1の特徴の構成に加えて、第1の前記油圧クラッチと、第2の前記油圧クラッチとが、前記回転軸の軸線に沿う一方側に第1の油圧クラッチが配置されるようにして前記回転軸上に設けられ、前記潤滑用油路の上流側油路が、第2の油圧クラッチに側面視で重なる位置に内端を配置するようにして前記回転軸の軸方向他端から延出されることを第7の特徴とする。
【0013】
さらに本発明は、第7の特徴の構成に加えて、前記下流側油路の少なくとも一部が、第1および第2の前記油圧クラッチに回転動力を入力するようにして前記回転軸を同軸に囲繞する円筒状の筒軸に、前記回転軸の軸線と平行にして設けられることを第8の特徴とする。
【0014】
なお実施の形態の第1シャフト71が本発明の回転軸に対応し、実施の形態の伝動筒軸85が本発明の筒軸に対応する。
【発明の効果】
【0015】
本発明の第1の特徴によれば、潤滑用油路が、回転軸の周囲の被潤滑部に潤滑用オイルを供給するようにして回転軸に同軸に設けられる上流側油路と、その上流側油路から導かれる潤滑用オイルを前記キャンセラー室に供給するようにして上流側油路に連なるとともに上流側油路よりも小径に形成される下流側油路とから成るので、潤滑用油路のうち少なくとも被潤滑部に潤滑用オイルを供給する部分を大径として被潤滑部に充分な量の潤滑用オイルを供給することができる。しかも上流側油路に連なる下流側油路の少なくとも一部は回転軸の軸線と平行に延び、回転軸の軸線と平行な軸線を有する制御用油路が、回転軸の軸線に沿う方向で下流側油路が設けられる範囲に制御用油路の少なくとも一部が配置されるようにして回転軸に設けられるので、潤滑用油路および制御用油路をコンパクトに配置することができる。
【0016】
また本発明の第2の特徴によれば、回転軸の軸線方向に複数の油圧クラッチが並んで配置されており、それらの油圧クラッチ毎の制御油圧室に個別に通じる複数の制御油路および下流側油路が回転軸に設けられ、回転軸の軸線に直交する平面への投影図上で前記上流側油路に一部が重なる位置に複数の制御油路および下流側油路が配置されるので、潤滑用油路および複数の制御用油路をコンパクトに配置して回転軸に設けることができる。
【0017】
本発明の第3の特徴によれば、複数の制御用油路および下流側油路が回転軸の周方向に等間隔に配置されるので、各制御油路および下流側油路間における回転軸の剛性を確保しつつ各制御油路および下流側油路を回転軸にバランスよく配置することができる。
【0018】
本発明の第4の特徴によれば、下流側油路および制御用油路が同一径であるので、下流側油路および制御用油路の加工がし易くなり、加工性を高めることができる。
【0019】
本発明の第5の特徴によれば、回転軸の半径方向に沿う下流側油路および制御用油路の外端が上流側油路の内周よりも外方にあり、回転軸の半径方向に沿う下流側油路および制御用油路の内端が上流側油路の中心軸線よりも外方にあるので、下流側油路および制御用油路を相互の干渉を回避しつつコンパクトに配置することができる。
【0020】
本発明の第6の特徴によれば、制御用油路および下流側油路が回転軸の軸方向一方から穿孔加工され、上流側油路が回転軸の軸方向他方から穿孔加工されるので、制御用油路および下流側油路が相互に回転軸の両端から穿孔加工される場合に比べると、穿孔加工が容易となる。
【0021】
本発明の第7の特徴によれば、回転軸には、回転軸の軸線に沿う一方側に配置される第1の前記油圧クラッチと、第1の油圧クラッチよりも前記回転軸の軸方向他方側に配置される第2の油圧クラッチとが設けられ、潤滑用油路の上流側油路が第2の油圧クラッチに側面視で重なる位置に内端を配置するようにして回転軸の軸方向他端から延出されるので、上流側油路の内端が第2の油圧クラッチよりも前記軸方向他方側にある場合に比べると、上流側油路をより長く形成して被潤滑部に潤滑用オイルをよりスムーズに供給することができる。
【0022】
本発明の第8の特徴によれば、下流側油路の少なくとも一部が回転軸を同軸に囲繞する円筒状の筒軸に設けられるので、回転軸に設けられる制御用油路をより大径化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】実施例1の自動二輪車の側面図である。
【図2】図1と同一方向から見たパワーユニットの側面図である。
【図3】図2の3−3線断面図である。
【図4】図3の要部拡大図であって図5の4−4線に沿う断面図である。
【図5】図4の5−5線断面図である。
【図6】図5の6−6線断面図である。
【図7】図4の7矢視図である。
【図8】実施例2の図4に対応した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の実施の形態について、添付の図面を参照しながら説明する。
【実施例1】
【0025】
本発明の実施例1について図1〜図7を参照しながら説明すると、先ず図1において、車両である自動二輪車の車体フレームFは、前輪WFを軸支したフロントフォーク11を操向可能に支承するヘッドパイプ12と、該ヘッドパイプ12から後下がりに延びる左右一対のメインフレーム13…と、それらのメインフレーム13…よりも急傾斜で後下がりに延びる左右一対のダウンフレーム14…と、両ダウンフレーム14…の下端から後方に延びるロアフレーム15…と、前記メインフレーム13…の後端から下方に延びて前記両ロアフレーム15…の後端に連接される左右一対のセンターフレーム16…と、前記メインフレーム13…の後端から後上がりに延びる左右一対のシートレール17…と、前記センターフレーム16…の下部および前記シートレール17…の後部間を結ぶリヤフレーム18…とを備え、メインフレーム13、ダウンフレーム14、ロアフレーム15およびセンターフレーム16は、金属製パイプの曲げ加工によって一体に連なって形成される。
【0026】
前記メインフレーム13…、ダウンフレーム14…、ロアフレーム15…およびセンターフレーム16…で囲まれる領域には、多気筒たとえば2気筒であるエンジンEと、該エンジンEのクランクケース19に一部が内蔵される歯車変速機M(図3参照)とを備えるパワーユニットPが車体フレームFで支持されるようにして配置され、該パワーユニットPが発揮する動力で駆動される後輪WRを後端部で軸支するスイングアーム20の前端部が、前記センターフレーム16…の下部に設けられるピボットプレート21…に支軸22を介して上下揺動可能に支承される。また前記エンジンEの上方でメインフレーム13…に燃料タンク24が搭載され、該燃料タンク24の後方に配置される乗車用前部シート25ならびに該乗車用前部シート25のさらに後方に配置される乗車用後部シート26が前記シートレール17…で支持される。
【0027】
図2において、前記エンジンEは、車幅方向に延びる軸線を有するクランクシャフト28を回転自在に支承するクランクケース19と、前傾したシリンダ軸線Cを有してクランクケース19の前部上端に結合されるシリンダブロック29と、該シリンダブロック29の上端に結合されるシリンダヘッド30と、該シリンダヘッド30の上端に結合されるヘッドカバー31と備え、前記クランクケース19の下部にはオイルパン32が結合される。
【0028】
図3を併せて参照して、前記クランクケース19は、上ケース半体33および下ケース半体34が上下に分割可能として分割面35で結合されて成るものであり、シリンダブロック29は上ケース半体33と一体に形成される。
【0029】
前記シリンダブロック29は、車幅方向に並列して配置される複数たとえば2つのシリンダボア36,36を有するものであり、それらのシリンダボア36…の配列方向すなわち車幅方向に沿って延びる前記クランクシャフト28を回転自在に支承するクランクケース19には、前記クランクシャフト28を挿通、軸支する軸受孔37…を有する第1〜第3支持壁38,39,40が、クランクシャフト28の軸方向一端(図3の左端)から軸方向他端(図3の右端)側に向かって順に並ぶようにして設けられる。しかも前記クランクケース19内において、前記クランクシャフト28の軸線に沿う方向で隣接する前記支持壁間、すなわち第1および第2支持壁38,39間ならびに第2および第3支持壁39,40間には、複数の前記シリンダボア36…に個別に対応したクランク室41,41が形成される。また前記クランクケース19内の後部には、前記各クランク室41…に共通に通じる変速機室42が形成される。
【0030】
前記クランクケース19の左側面には、該クランクケース19との間に発電機室45を形成する左ケースカバー46が結合され、発電機室45内に収容される発電機47のロータ48が、発電機室45内に突入した前記クランクシャフト28の端部に固定され、発電機47のステータ49は、前記ロータ48で囲繞されるようにして左ケースカバー46に固定される。
【0031】
またクランクケース19の上方には、図2で示すように、前記左ケースカバー46の上端部で側方から覆われるようにしてスタータモータ50が固定配置されており、そのスタータモータ50からの動力を伝達する減速ギヤ列51の一部を構成する被動ギヤ52が、一方向クラッチ53を介して前記ロータ48に連結される。
【0032】
前記クランクシャフト28には、前記クランクケース19の第1支持壁38に内方から近接した駆動ギヤ78が固着される。ところでクランクケース19には、図2で示すように、一次バランサである第1および第2バランサ79,80が、第1バランサ79を前記クランクシャフト28の後方斜め上方に配置し、第2バランサ80を前記クランクシャフト28の前方斜め下方に配置するようにして回転自在に支承されており、第1および第2バランサ79,80に設けられる被動ギヤ81,82が前記駆動ギヤ78に噛合する。
【0033】
前記クランクケース19の右側面には、該クランクケース19との間にクラッチ室54を形成する右ケースカバー55が結合される。而して前記変速機室42には、前記クランクシャフト28と平行な軸線を有してクランクケース19で回転自在に支承されるメインシャフト58およびカウンタシャフト59間に選択的に確立可能な複数変速段のギヤ列たとえば第1速〜第6速ギヤ列G1〜G6が設けられて成る歯車変速機Mが収容される。また前記クラッチ室54には、前記クランクシャフト28からの動力を伝達する一次減速装置60と、一次減速装置60および前記メインシャフト58間に介設される第1および第2の油圧クラッチ61,62とが収容される。
【0034】
前記カウンタシャフト59の一端部は、クランクケース19の右側壁にローラベアリング83を介して回転自在に支承され、カウンタシャフト59の他端部は、クランクケース19との間にボールベアリング63および環状のシール部材64を介在させてクランクケース19の後部左側面から突出される。
【0035】
このカウンタシャフト59の他端部から出力される回転動力は、図1で示すように、動力伝達手段65を介して後輪WRに伝達される。而して動力伝達手段65は、前記カウンタシャフト59の軸端に固定される駆動スプロケット66と、前記後輪WRに同軸に設けられる被動スプロケット67とに、無端状のチェーン68が巻掛けられて成る。
【0036】
また前記クラッチ室54内で前記クランクシャフト28の端部にはパルサ69が固着されており、このパルサ69の外周に対向するようにして前記クラッチ室54内に配置される回転速センサ70が右ケースカバー66に固定される。
【0037】
前記メインシャフト58は、第1シャフト71と、第1シャフト71を同軸にかつ相対回転可能に挿通せしめる第2シャフト72とから成り、第1シャフト71およびカウンタシャフト59間に、第1速ギヤ列G1、第3ギヤ列G3および第5速ギヤ列G5が設けられ、第2シャフト72およびカウンタシャフト59間に、第2速ギヤ列G2、第4速ギヤ列G4および第6速ギヤ列G6が設けられる。
【0038】
第1シャフト71は、第2シャフト72よりも小径に形成されており、クランクケース19を回転自在に貫通する第1シャフト71の一端部は、第1クラッチインナ91およびボールベアリング75を介して右ケースカバー55に回転自在に支承され、第1シャフト71の他端部は、クランクケース19の上ケース半体33にボールベアリング73を介して回転自在に支承される。またクランクケース19には、第1シャフト71よりも大径である第2シャフト72の軸方向中間部がボールベアリング76を介して回転自在に支承され、第2シャフト72には、第1シャフト71の中間部が同軸にかつ相対回転自在に挿通され、第1シャフト71および第2シャフト72間には複数のニードルベアリング77,77…が介装される。
【0039】
図4を併せて参照して、第1シャフト71の一端寄り中間部には、第2シャフト72に軸方向で隣接する伝動筒軸85が軸方向位置を一定として相対回転可能に装着されており、第1の油圧クラッチ61は、伝動筒軸85および第1シャフト71間の動力断・接を切換可能として第1シャフト71上に設けられ、第2の油圧クラッチ62は、伝動筒軸85および第2シャフト72間の動力断・接を切換可能として第1シャフト71上に設けられる。
【0040】
前記伝動筒軸85には、クランクシャフト28からの動力が一次減速装置60およびダンパースプリング86を介して伝達される。而して一次減速装置60は、前記クランクシャフト28とともに回転する駆動ギヤ87と、該駆動ギヤ87に噛合するようにして第1および第2シャフト71,72と同軸に配置される被動ギヤ88とから成り、被動ギヤ88が前記ダンパースプリング86を介して伝動筒軸85に連結される。
【0041】
第1の油圧クラッチ61は、一次減速装置60よりも第1シャフト71の軸方向一方側に配置されており、前記伝動筒軸85を同軸に囲繞する円筒状の第1ボス部90aならびに第1ボス部90aを同軸に囲繞する円筒状の第1外側筒部90bを有して同心の二重有底円筒状に形成されるとともに前記伝動筒軸85に相対回転不能に結合される第1クラッチアウタ90と、第1外側筒部90bで同軸に囲繞される円筒状の第1内側筒部91aを有して第1シャフト71に相対回転不能に結合されるとともに右ケースカバー55との間にボールベアリング75が介装される第1クラッチインナ91と、第1クラッチアウタ90の第1外側筒部90bに相対回転不能に係合される複数枚の第1駆動摩擦板92…と、第1クラッチインナ91の第1内側筒部91aに相対回転不能に係合されるとともに第1駆動摩擦板92…と交互に配置される複数枚の第1被動摩擦板93…と、相互に重なって配置される第1駆動摩擦板92…および第1被動摩擦板93…に対向して第1クラッチアウタ90に固定的に支持される第1受圧板94と、第1駆動摩擦板92…および第1被動摩擦板93…を第1受圧板94との間に挟むとともに第1制御油圧室96を第1クラッチアウタ90との間に形成する第1クラッチピストン95と、第1制御油圧室96の容積を減少させる側に第1クラッチピストン95を付勢する第1ばね98とを備える。
【0042】
第1クラッチピストン95の内周部は第1クラッチアウタ90における第1ボス部90aの外周に液密に摺接され、第1クラッチピストン95の外周は第1クラッチアウタ90の第1外側筒部90bに液密に摺接される。而して第1制御油圧室96の油圧増大に応じて第1クラッチピストン95は、第1駆動摩擦板92…および第2被動摩擦板…を第1受圧板94との間に挟圧するように作動し、それにより第1の油圧クラッチ61が、クランクシャフト28から一次減速装置60、ダンパースプリング86および伝動筒軸85を介して第1クラッチアウタ90に伝達される回転動力を第1シャフト71に伝達するクラッチオン状態となる。
【0043】
また第1制御油圧室96とは反対側で第1クラッチピストン95との間に第1キャンセラー室97を形成する第1壁部材99の内周部が、第1クラッチアウタ90の第1ボス部90aに支持されており、この第1壁部材99の外周部に第1クラッチピストン95が液密に摺接される。しかも第1ばね98は、第1キャンセラー室97に収容されて第1クラッチピストン95および第1壁部材99間に介設される。而して第1キャンセラー室97には潤滑用オイルが導入されるものであり、減圧状態での第1制御油圧室96のオイルに回転に伴う遠心力が作用して第1クラッチピストン95を押圧する力が生じても、第1キャンセラー室97のオイルにも同様に遠心力が作用するので、第1クラッチピストン95が、第1駆動摩擦板92…および第1被動摩擦板93…を第1受圧板94との間に挟む側に不所望に移動してしまう状態が生じることが回避される。
【0044】
第2の油圧クラッチ62は、一次減速装置60を第1の油圧クラッチ61との間に挟むようにして第1の油圧クラッチ61よりも第1シャフト71の軸方向他方側に配置されるものであり、前記伝動筒軸85を同軸に囲繞する円筒状の第2ボス部100aならびに第2ボス部100aを同軸に囲繞する円筒状の第2外側筒部100bを有して同心の二重有底円筒状に形成されて前記伝動筒軸85に相対回転不能に結合される第2クラッチアウタ100と、第2外側筒部100bで同軸に囲繞される円筒状の第2内側筒部101aを有して第2シャフト72に相対回転不能に結合される第2クラッチインナ101と、第2クラッチアウタ100の第2外側筒部100bに相対回転不能に係合される複数枚の第2駆動摩擦板102…と、第2クラッチインナ101の第2内側筒部101aに相対回転不能に係合されるとともに第2駆動摩擦板102…と交互に配置される複数枚の第2被動摩擦板103…と、相互に重なって配置される第2駆動摩擦板102…および第2被動摩擦板103…に対向して第2クラッチアウタ100に固定的に支持される第2受圧板104と、第2駆動摩擦板102…および第2被動摩擦板103…を第2受圧板104との間に挟むとともに第2制御油圧室106を第2クラッチアウタ100との間に形成する第2クラッチピストン105と、第2制御油圧室106の容積を減少させる側に第2クラッチインナ101を付勢する第2ばね108とを備える。
【0045】
第2クラッチピストン105の内周部は第2クラッチアウタ100における第2ボス部100aの外周に液密に摺接され、第2クラッチピストン105の外周は第2クラッチアウタ100の第2外側筒部100bに液密に摺接される。而して第2制御油圧室106の油圧増大に応じて第2クラッチピストン105は、第2駆動摩擦板102…および第2被動摩擦板103…を第2受圧板104との間に挟圧するように作動し、それにより第2の油圧クラッチ62が、クランクシャフト28から一次減速装置60、ダンパースプリング86および伝動筒軸85を介して第2クラッチアウタ100に伝達される回転動力を第2シャフト72に伝達するクラッチオン状態となる。
【0046】
また第2制御油圧室106とは反対側で第2クラッチピストン105との間に第2キャンセラー室107を形成する第2壁部材109の内周部が、第2クラッチアウタ100の第2ボス部100aに支持されており、この第2壁部材109の外周部に第2クラッチピストン105が液密に摺接される。しかも第2ばね108は、第2キャンセラー室107に収容されて第2クラッチピストン105および第2壁部材109間に介設される。而して第2キャンセラー室107には潤滑用オイルが導入されるものであり、減圧状態での第2制御油圧室106のオイルに回転に伴う遠心力が作用して第2クラッチピストン105を押圧する力が生じても、第2キャンセラー室107のオイルにも同様に遠心力が作用するので、第2クラッチピストン105が、第2駆動摩擦板102…および第2被動摩擦板103…を第2受圧板104との間に挟む側に不所望に移動してしまう状態が生じることが回避される。
【0047】
而して第1の油圧クラッチ61が動力伝達状態にあって第1シャフト71にクランクシャフト28から動力が伝達されているときには、第1、第3および第5速ギヤ列G1,G3,G5のうち択一的に確立したギヤ列を介して第1シャフト71からカウンタシャフト59に動力を伝達することが可能であり、第2の油圧クラッチ62が動力伝達状態にあって第2シャフト72にクランクシャフト28から動力が伝達されているときには、第2、第4および第6速ギヤ列G2,G4,G6のうち択一的に確立したギヤ列を介して第2シャフト72からカウンタシャフト59に動力を伝達することが可能である。
【0048】
図5および図6を併せて参照して、第1の油圧クラッチ61の第1制御油圧室96には第1シャフト71に設けられる第1の制御用油路111が接続され、第2の油圧クラッチ62の第2制御油圧室106には第1シャフト71に設けられる第2の制御用油路112が接続され、第1シャフト71の周囲の被潤滑部に潤滑用オイルを供給可能とした潤滑用油路113が、第1および第2の油圧クラッチ61,62がそれぞれ備える第1および第2キャンセラー室97,107に接続される。
【0049】
潤滑用油路113には、第1シャフト71の他端側から潤滑用オイルが供給されるものであり、第1シャフト71の周囲の被潤滑部に潤滑用オイルを供給するようにして第1シャフト71に同軸に設けられる上流側油路113aと、該上流側油路113aからの潤滑用オイルを第1および第2キャンセラー室97,107に供給するようにして上流側油路113aに連なるとともに上流側油路113aよりも小径に形成されて少なくとも一部が第1シャフト71の軸線と平行に延びる下流側油路113bとから成るものであり、この実施例1では、第1および第2の制御用油路111,112の直径と同一の直径を有する下流側油路113bが、第1シャフト71の軸線と平行に延びつつ前記上流側油路113aに連なるようにして第1シャフト71に設けられる。
【0050】
上流側油路113aは、第1シャフト71の他端側に外端を開口するようにして第1シャフト71の軸方向他方から穿孔加工されるものであり、第1シャフト71の軸線に沿う方向に並ぶ第1および第2の油圧クラッチ61,62のうち第2の油圧クラッチ62に側面視で重なる位置に、上流側油路113aの内端が配置される。一方、下流側油路113bは、上流側油路113aの内端に通じるようにして第1シャフト71の軸方向一方から穿孔加工され、下流側油路113bの外端はプラグ114で閉じられる。
【0051】
而して第1シャフト71の軸方向に間隔をあけた複数箇所には、第1シャフト71の周辺の被潤滑部、たとえばこの実施の形態では、歯車変速機Mの複数箇所ならびに第1および第2シャフト71,72間に潤滑用オイルを供給する油孔115,115…が、潤滑用油路113の上流側油路113aに内端を通じさせるようにして設けられる。また第1の油圧クラッチ61の第1キャンセラー室97側に潤滑用オイルを導くための第1キャンセラー室用油孔116と、第2の油圧クラッチ62の第2キャンセラー室107側に潤滑用オイルを導くための第2キャンセラー室用油孔117とが、潤滑用油路113の下流側油路113bに内端を通じさせるようにして第1シャフト71に設けられる。第1キャンセラー室用油孔116は、伝動筒軸85および第1クラッチアウタ90の第1ボス部90aに設けられた連通孔118を介して第1キャンセラー室97に連通し、第2キャンセラー室用油孔117は、伝動筒軸85および第2クラッチアウタ100の第2ボス部100aに設けられた連通孔119を介して第2キャンセラー室107に連通する。
【0052】
第1および第2の制御用油路111,112は、第1シャフト71の軸線に沿う方向で前記下流側油路113bが設けられる範囲に、それらの制御用油路111,112の少なくとも一部が配置されるようにして第1シャフト71に設けられるものである。而して第1の制御用油路111は、第1シャフト71の軸方向一端側から穿孔加工されるとともに外端が第1シャフト71に圧入されるプラグ120で閉じられて成り、第2の制御用油路112は、外端を開放するようにして第1シャフト71の軸方向一端側から穿孔加工される。
【0053】
しかも第1の制御用油路111、第2の制御用油路112および潤滑用油路113の下流側油路113bは、図5で明示するように、第1シャフト71の軸線に直交する平面への投影図上で上流側油路113aに一部が重なる位置に配置されて第1シャフトに設けられ、第1シャフト71の周方向に等間隔に配置される。
【0054】
また第1シャフト71の半径方向に沿う前記下流側油路113b、第1の制御用油路111および第2の制御用油路112の外端P1,P2,P3が、前記上流側油路113aの内周よりも外方に配置され、第1シャフト71の半径方向に沿う前記下流側油路113b、第1の制御用油路111および第2の制御用油路112の内端P4,P5,P6が、前記上流側油路113aの中心軸線Cよりも外方に配置される。
【0055】
また第1シャフト71には、第1の油圧クラッチ61の第1制御油圧室96側に制御用オイルを導くための第1制御油圧室用油孔121が第1の制御用油路111に内端を通じさせるようにして設けられるとともに、第2の油圧クラッチ62の第2制御油圧室106側に制御用オイルを導くための第2制御油圧室用油孔122が第2の制御用油路112に内端を通じさせるようにして設けられる。第1制御油圧室用油孔121は、伝動筒軸85および第1クラッチアウタ90の第1ボス部90aに設けられた連通孔123を介して第1制御油圧室96に連通し、第2制御用油圧室用油孔122は、伝動筒軸85および第2クラッチアウタ100の第2ボス部100aに設けられた連通孔124を介して第2制御油圧室106に連通する。
【0056】
図7を併せて参照して、第1および第2の制御油路111,112には、右ケースカバー55側から制御用オイルが導かれるものであり、右ケースカバー55には、第1の制御用油路111に通じる第1の供給油路125と、第2の制御用油路112に通じる第2の供給油路126とが設けられる。
【0057】
ところで、クランクケース19の下ケース半体34には、図2で示すように、第2バランサ80に相対回転不能に連結されるオイル供給源としてのオイルポンプ127が取付けられる。一方、前記右ケースカバー55の下部には、第1の供給油路125および前記オイルポンプ127間に介設される第1油圧制御弁128と、第2の供給油路126および前記オイルポンプ127間に介設される第2油圧制御弁129とがユニット化されて成る油圧制御ユニット130が取付けられる。
【0058】
また第1の供給油路125内の油圧を検出する第1油圧センサ131ならびに第2の供給油路126内の油圧を検出する第2油圧センサ132が右ケースカバー55に取付けられる。
【0059】
前記右ケースカバー55の内面には、第1シャフト71の一端に対向する閉塞端壁135aを有して第1シャフト71の一端部を挿入せしめる凹部135が第1および第2供給油路125,126を内周に開口させるようにして設けられる。しかも前記凹部135内での第1シャフト71の周方向位置を一定に定めるために、第1シャフト71の一端に突設される位置決め突起136が前記凹部135の周方向1箇所に設けられた位置決め凹部137に係合される。
【0060】
第1および第2の制御用油路112のうちの1つである特定の制御用油路(この実施の形態では第2の制御用油路112)を除く他の制御用油路である第1の制油油路111に内端を通じさせて第1シャフト71の半径方向に延びる少なくとも1つ(この実施の形態では1つ)の径方向連通孔138が第1シャフト71の一端部に設けられ、前記径方向連通孔138が第1および第2の給油路125,126のうち対応の供給油路である第1の供給油路125に前記凹部135内で連通される。
【0061】
ところで、第1シャフト71の一端部の外周および前記凹部135の内周間には、第1および第2の供給油路125,126に個別に通じて相互に独立した第1および第2の油路形成用凹部139,140を外周に有する円筒状の筒部材141が介装され、この筒部材141は、第1シャフト71の軸線に直交する平面への投影図上で、第1および第2の油圧クラッチ61,62がそれぞれ備える第1および第2クラッチピストン95,105の内周よりも内方に配置される。すなわち筒部材141の外周の第1および第2の油圧クラッチ61,62側への仮想延長線を図4および図6において鎖線L,Lで示すと、その鎖線L,Lは第1および第2クラッチピストン95,105の内周よりも内方を通ることになる。
【0062】
また第2の制御用油路112に連通する油室142が、前記凹部135の前記閉塞端壁135aと第1シャフト71の一端および前記筒部材141の一端との間に形成され、第1および第2の油路形成用凹部139,140の1つである第2の油路形成用凹部140を前記油室142に通じさせるようにして前記筒部材141の軸方向に延びる軸方向油孔143と、残余の前記油路形成用凹部135である第1の油路形成用凹部135を前記径方向連通孔138に通じさせるようにして前記筒部材141の半径方向に延びる径方向油孔144とが前記筒部材141に設けられる。しかも軸方向油孔143は、前記筒部材141の周方向に長い長孔状に形成される。
【0063】
また筒部材141の外周には、第1および第2の油路形成用凹部139,140と、第1および第2の供給油路125,126の連通部を両側からシールするようにして前記凹部135の内周に弾発的に接触する一対の環状のシール部材145,146が装着される。
【0064】
次にこの実施例1の作用について説明すると、メインシャフト58の一部を構成してクランクケース19に回転自在に支承される第1シャフト71上には、第1および第2の油圧クラッチ61,62が設けられており、第1の油圧クラッチ61の第1制御油圧室96に制御用オイルを供給する第1の制御用油路111と、第2の油圧クラッチ62の第2制御用油圧室106に制御用オイルを供給する第2の制御用油路112と、第1および第2の油圧クラッチ61,62がそれぞれ備える第1および第2キャンセラー室97,107ならびに第1シャフト71の周囲の被潤滑部に潤滑用オイルを供給する潤滑用油路113とが第1シャフト71に設けられるのであるが、潤滑用油路113は、第1シャフト71の周囲の被潤滑部に潤滑用オイルを供給するようにして第1シャフト71に同軸に設けられる上流側油路113aと、該上流側油路113aから導かれる潤滑用オイルを第1および第2キャンセラー室97,107に供給するようにして前記上流側油路113aに連なるとともに前記上流側油路113aよりも小径に形成される下流側油路113bとから成るので、潤滑用油路113のうち少なくとも被潤滑部に潤滑用オイルを供給する部分を大径として被潤滑部に充分な量の潤滑用オイルを供給することができる。
【0065】
また上流側油路113aに連なる下流側油路113bは第1シャフト71の軸線と平行に延び、下流側油路113bと平行な軸線を有する第1および第2の制御用油路111,112の少なくとも一部が、第1シャフト71の軸線に沿う方向で前記下流側油路113bが設けられる範囲に配置されるので、潤滑用油路113と、第1および第2の制御用油路111,112とをコンパクトに配置することができる。
【0066】
また第1シャフト71の軸線方向に並ぶ第1および第2の油圧クラッチ61,62毎の第1および第2制御油圧室96,106に個別に通じる第1および第2の制御油路111,112および前記下流側油路113bが、第1シャフト71の軸線に直交する平面への投影図上で前記上流側油路113aに一部が重なる位置に配置されて第1シャフト71に設けられるので、潤滑用油路113と、第1および第2の制御用油路111,112とをコンパクトに配置して第1シャフト71に設けることができる。
【0067】
しかも第1および第2の制御用油路111,112と、前記下流側油路113bとが、第1シャフト71の周方向に等間隔に配置されるので、各制御油路111,112および下流側油路113b間における第1シャフト71の剛性を確保しつつ各制御油路111,112および下流側油路113bを第1シャフト71にバランスよく配置することができる。また第1の制御用油路111、第2の制御用油路112および前記下流側油路113bの直径が同一に設定されるので、第1の制御用油路111、第2の制御用油路112および前記下流側油路113bの加工がし易くなり、加工性を高めることができる。
【0068】
また第1シャフト71の半径方向に沿う前記下流側油路113b、第1の制御用油路111および第2の制御用油路112の外端P1,P2,P3が、上流側油路113aの内周よりも外方に配置され、第1シャフト71の半径方向に沿う前記下流側油路113b、第1の制御用油路111および第2の制御用油路112の内端P4,P5,P6が、前記上流側油路113aの中心軸線Cよりも外方に配置されるので、前記下流側油路113b、第1の制御用油路111および第2の制御用油路112を相互の干渉を回避しつつコンパクトに配置することができる。
【0069】
しかも第1および第2の制御用油路111,112とともに第1シャフト71の軸方向一方から穿孔加工される前記下流側油路113bが、第1シャフト71の軸方向他方から穿孔加工される前記上流側油路113aに連通されるので、第1の制御用油路111、第2の制御用油路112および下流側油路113bが相互に第1シャフト71の両端から穿孔加工される場合に比べると、穿孔加工が容易となる。
【0070】
また潤滑用油路113の上流側油路113aが、第1シャフト71に並んで設けられる第1および第2の油圧クラッチ61,62のうち第1シャフト71の軸線に沿う一方側に配置される第1の油圧クラッチ61よりも第1シャフト71の軸方向他方側に配置される第2の油圧クラッチ62に、側面視で重なる位置に内端を配置するようにして第1シャフト71の軸方向他端から延出されるので、上流側油路113aの内端が第2の油圧クラッチ62よりも前記軸方向他方側にある場合に比べると、上流側油路113aをより長く形成して被潤滑部に潤滑用オイルをよりスムーズに供給することができる。
【0071】
ところで第1および第2の制御用油路111,112は、第1および第2の油圧クラッチ61,62がそれぞれ備える第1および第2制御油圧室96,106に個別に連通するものであり、第1および第2の油圧クラッチ61,62から成るツインクラッチを備えるエンジンEにあっても、第1シャフト71の軸線方向でエンジンEをコンパクト化することができる。
【0072】
また第1および第2の制御油路111,112には、オイルポンプ127からのオイルを導くようにして右ケースカバー55に設けられた第1および第2の供給油路125,126から制御用オイルが供給されるものであり、前記右ケースカバー55の内面には、第1シャフト71の一端に対向する閉塞端壁135aを有して第1シャフト71の一端部を挿入せしめる凹部135が第1および第2の供給油路125,126を内周に開口させるようにして設けられ、第1および第2の制御用油路112のうちの1つである第2の制御用油路112を除く他の制御用油路である第1の制御用油路111に内端を通じさせて第1シャフト71の半径方向に延びる1つの径方向連通孔138が第1シャフト71の一端部に設けられ、前記径方向連通孔138が第1の供給油路125に前記凹部135内で連通される。
【0073】
したがって第1および第2の制御用油路111,112を形成するための複数のパイプが第1シャフト71および右ケースカバー55間に配設される場合に比べて、第1シャフト71の軸線方向でエンジンEをコンパクト化することができる。
【0074】
また第1シャフト71の一端部の外周および前記凹部135の内周間には、第1および第2の供給油路125,126に個別に通じて相互に独立した第1および第2の油路形成用凹部139,140を外周に有する円筒状の筒部材141が介装され、第2の制御用油路112に連通する油室142が、前記凹部135の前記閉塞端壁135aと第1シャフト71の一端および前記筒部材141の一端との間に形成され、第1および第2の油路形成用凹部139,140の1つである第2の油路形成用凹部140を前記油室142に通じさせるようにして前記筒部材141の軸方向に延びる軸方向油孔143と、残余の前記油路形成用凹部である第1の油路形成用凹部139を前記径方向連通孔138に通じさせるようにして前記筒部材141の半径方向に延びる径方向油孔144とが前記筒部材141に設けられるので、右ケースカバー55に設けられる第1および第2の供給油路125,126と、第1シャフト71に設けられる第1および第2の制御用油路111,112とを連通させる構造をコンパクトに構成することができる。
【0075】
また前記筒部材141は、第1シャフト71の軸線に直交する平面への投影図上で、第1および第2の油圧クラッチ61,62がそれぞれ備える第1および第2クラッチピストン95,105の内周よりも内方に配置されるので、筒部材141が配置されることによって右ケースカバー55が大型化するのを回避することができる。
【0076】
また筒部材141に設けられる軸方向油孔143が筒部材141の周方向に長い長孔状に形成されるので、軸方向油孔143が真円である場合に比べると、筒部材141の大径化を回避しつつ軸方向油孔143の横断面積を増大し、筒部材141の外周に設けられる第1および第2油路形成用凹部139,140の1つでる第2油路形成用凹部140から油室142へのオイルの流れをよりスムーズとすることができる。
【0077】
また筒部材141の外周に装着される一対の環状のシール部材145,146によって、第1および第2の油路形成用凹部139,140と、第1および第2の供給油路125,126の連通部を両側からシールして、第1および第2の供給油路125,126から筒部材141を介して第1および第2の制御用油路111,112側に流通するオイルの漏れを防止することができる。
【0078】
さらに第1の制御用油路111の軸方向一端を閉じるようにして、凹部135内で第1シャフト71の一端部にプラグ120が圧入されるので、第1の制御用油路111および前記油室142間を簡単に遮断することができる。
【実施例2】
【0079】
本発明の実施例2について図8を参照しながら説明するが、実施例1に対応する部分には同一の参照符号を付して図示するのみとし、詳細な説明は省略する。
【0080】
第1シャフト71には、第1の油圧クラッチ61の第1制御油圧室96に接続される第1の制御用油路111と、第2の油圧クラッチ62の第2制御油圧室106に接続される第2の制御用油路112とが設けられ、第1シャフト71の周囲の被潤滑部に潤滑用オイルを供給可能な潤滑用油路148が、第1および第2の油圧クラッチ61,62がそれぞれ備える第1および第2キャンセラー室97,107に接続される。
【0081】
潤滑用油路148は、第1シャフト71の周囲の被潤滑部に潤滑用オイルを供給するようにして第1シャフト71に同軸に設けられる上流側油路148aと、該上流側油路148aよりも小径に形成されて少なくとも一部が第1シャフト71の軸線と平行に延びつつ前記上流側油路113aに連なるとともに潤滑用オイルを第1および第2キャンセラー室97,107に供給する下流側油路148bとから成り、下流側油路148bの少なくとも一部が第1シャフト71を同軸に囲繞する円筒状の伝動筒軸85に、第1シャフト71の軸線と平行にして設けられる。
【0082】
また第1および第2の制御用油路111,112は、第1シャフト71の軸線に沿う方向で前記下流側油路148bが設けられる範囲に制御用油路111,112の少なくとも一部が配置されるようにして、第1シャフト71に設けられる。
【0083】
この実施例2によれば、下流側油路148bの少なくとも一部が第1シャフト71を同軸に囲繞する円筒状の伝動筒軸85に設けられるので、第1シャフト71に設けられる第1および第2の制御用油路111,112をより大径化することができる。
【0084】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明を逸脱することなく種々の設計変更を行うことが可能である。
【符号の説明】
【0085】
19・・・クランクケース
28・・・クランクシャフト
61・・・第1の油圧クラッチ
62・・・第2の油圧クラッチ
71・・・回転軸である第1シャフト
85・・・筒軸である伝動筒軸
95,105・・・クラッチピストン
96,106・・・制御油圧室
97,107・・・キャンセラー室
111,112・・・制御用油路
113,148・・・潤滑用油路
113a,148a・・・上流側油路
113b,148b・・・下流側油路
E・・・エンジン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クランクシャフト(28)と平行な軸線を有してクランクケース(19)に回転自在に支承される回転軸(71)上に、軸方向移動に応じてクラッチオフ状態およびクラッチオン状態を切換えるクラッチピストン(95,105)の両面を制御油圧室(96,106)およびキャンセラー室(97,107)にそれぞれ臨ませる油圧クラッチ(61,62)が設けられ、前記制御油圧室(96,106)に制御用油路(111,112)が接続され、前記回転軸(71)の周囲の被潤滑部に潤滑用オイルを供給可能とした潤滑用油路(113,148)が前記キャンセラー室(97,107)に接続されるエンジンの油圧クラッチ用油路構造において、前記潤滑用油路(113,148)が、前記回転軸(71)の周囲の被潤滑部に潤滑用オイルを供給するようにして前記回転軸(71)に同軸に設けられる上流側油路(113a,148a)と、該上流側油路(113a,148a)からの潤滑用オイルを前記キャンセラー室(97,107)に供給するようにして前記上流側油路(113a,148a)に連なるとともに前記上流側油路(113a,148a)よりも小径に形成されて少なくとも一部が前記回転軸(71)の軸線と平行に延びる下流側油路(113b,148b)とから成り、前記回転軸(71)の軸線と平行な軸線を有する前記制御用油路(111,112)が、前記回転軸(71)の軸線に沿う方向で前記下流側油路(113b,148b)が設けられる範囲に前記制御用油路(111,112)の少なくとも一部が配置されるようにして、前記回転軸(71)に設けられることを特徴とするエンジンの油圧クラッチ用油路構造。
【請求項2】
前記回転軸(71)の軸線方向に並ぶ複数の油圧クラッチ(61,62)毎の前記制御油圧室(96,106)に個別に通じる複数の前記制御油路(111,112)および前記下流側油路(113b)が、前記回転軸(71)の軸線に直交する平面への投影図上で前記上流側油路(113a)に一部が重なる位置に配置されて前記回転軸(71)に設けられることを特徴とする請求項1記載のエンジンの油圧クラッチ用油路構造。
【請求項3】
複数の前記制御用油路(111,112)および前記下流側油路(113b)が、前記回転軸(71)の周方向に等間隔に配置されることを特徴とする請求項2記載のエンジンの油圧クラッチ用油路構造。
【請求項4】
前記下流側油路(113b)および前記制御用油路(111,112)の直径が同一に設定されることを特徴とする請求項2または3記載のエンジンの油圧クラッチ用油路構造。
【請求項5】
前記回転軸(71)の半径方向に沿う前記下流側油路(113b)および前記制御用油路(111,112)の外端が、前記上流側油路(113a)の内周よりも外方に配置され、前記回転軸(71)の半径方向に沿う前記下流側油路(113b)および前記制御用油路(111,112)の内端が、前記上流側油路(113a)の中心軸線よりも外方に配置されることを特徴とする請求項2〜4のいずれかに記載のエンジンの油圧クラッチ用油路構造。
【請求項6】
前記制御用油路(111,112)とともに前記回転軸(71)の軸方向一方から穿孔加工される前記下流側油路(113b)が、前記回転軸(71)の軸方向他方から穿孔加工される前記上流側油路(113a)に連通されることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のエンジンの油圧クラッチ用油路構造。
【請求項7】
第1の前記油圧クラッチ(61)と、第2の前記油圧クラッチ(62)とが、前記回転軸(71)の軸線に沿う一方側に第1の油圧クラッチ(61)が配置されるようにして前記回転軸(71)上に設けられ、前記潤滑用油路(113,148)の上流側油路(113a,148a)が、第2の油圧クラッチ(62)に側面視で重なる位置に内端を配置するようにして前記回転軸(71)の軸方向他端から延出されることを特徴とする請求項1記載のエンジンの油圧クラッチ用油路構造。
【請求項8】
前記下流側油路(148b)の少なくとも一部が、第1および第2の前記油圧クラッチ(61,62)に回転動力を入力するようにして前記回転軸(71)を同軸に囲繞する円筒状の筒軸(85)に、前記回転軸(71)の軸線と平行にして設けられることを特徴とする請求項7記載のエンジンの油圧クラッチ用油路構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−202773(P2011−202773A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−72638(P2010−72638)
【出願日】平成22年3月26日(2010.3.26)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】