説明

エンジンの点火装置

【課題】エンジンの圧縮工程によって生じる噴口から副室内へ流入する混合気の流れを用いて、電極間距離の小さい電極対から大きい電極対へと混合気を安定的に供給できるエンジンの点火装置を提供する。
【解決手段】電極間距離G1・G2の異なる複数の電極対(第一電極対51・61、第二電極対52・62)を備え、エンジンの燃焼室100に前記電極対(第一電極対51・61、第二電極対52・62)を挿入し、電極間距離の小さな電極対(第一電極対51・61)から電極間距離の大きな電極対(第二電極対52・62)へと順に点火エネルギー(電気)を供給する点火装置1であって、前記点火装置1は、前記複数の電極対(第一電極対51・61、第二電極対52・62)を収容する副室101を形成するとともに、前記複数の電極間を結ぶ線L1の延長上に前記燃焼室100と前記副室101とを連通可能とする噴口71が形成される噴射カバー7を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関用の点火装置の技術に関する。詳細には点火装置の点火プラグを覆う噴射カバーの構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ガソリンエンジンなどの内燃機関用の点火装置は、中心電極と接地電極とを有し、中心電極に高電圧が印加されることで、それらの電極間に放電がなされ、混合気が点火される。この構成を基本として、より効率のよい混合気の点火を実現化するための様々な技術が公知となっている。
【0003】
例えば、特許文献1に示す点火プラグは、陰極(接地電極)とそれに対応する電極間距離の異なる第一および第二の陽極(中心電極)を二つ備え、先ず、電極間距離の短い第一の陽極に電圧を印加して陰極へと放電することで混合気を励起(活性化)させる。その後、第二の陽極に電圧を印加するように切替えて陰極へと放電することでイオン化された混合気を利用して安定した火炎核を形成する。
【0004】
また、特許文献2に示す点火プラグは、補助電極と主電極の二つの電極対を備えており、各電極が高圧電極(中心電極)と接地電極とを有する。補助電極間は、主電極間よりも長く形成され、先ず、電極間距離の短い補助電極間に電圧を印加することで混合気からプラズマ雰囲気を生成させる。その後、電極間距離の長い主電極間に電圧を印加することでアーク放電を起こし、プラズマ雰囲気となった混合気によって着火性を確保する。
【0005】
しかしながら、現行の内燃機関の燃焼室は、空気と燃料を混合して点火性のよい混合気とするため、強流動状態としている。そのため、電極間距離の短い電極対でイオン化された混合気を電極間距離の長い電極対に留めておいたり供給したりすることは困難である。
【0006】
イオン化された混合気を電極間距離の長い電極対に供給するために、特許文献3に示すような電極を覆うカバーを配置することが考えられる。
特許文献3に示すカバーは、点火プラグの先端の電極を覆うことで、その電極側の空間を副室として形成する。電極間で放電がなされることで副室の混合気が点火され、カバーに形成された噴口から主室(燃焼室)へとトーチ状の火炎を噴出することで、燃焼室の混合気の点火を促進させることができる。
【0007】
しかし、特許文献3に示すようなカバーの噴口は、副室から燃焼室へのトーチ状の火炎を効率的に点火させるために形成されている。そのため、特許文献1および特許文献2に示す点火プラグの電極を特許文献3のカバーで覆うことで副室を形成した場合、エンジンの圧縮工程によって生じる噴口から副室内への流れは、電極間距離の短い電極対から電極間距離の長い電極対の方へと混合気が流れるように噴口が形成されておらず、イオン化された混合気を効果的に利用し副室内で点火することは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平5−272441号公報
【特許文献2】特開2007−32349号公報
【特許文献3】特開2009−209902号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みて為されたものであり、エンジンの圧縮工程によって生じる噴口から副室内へ流入する混合気の流れを用いて、電極間距離の小さい電極対から大きい電極対へと混合気を安定的に供給できるエンジンの点火装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0011】
即ち、請求項1においては、電極間距離の異なる複数の電極対を備え、シリンダとシリンダヘッドとピストンとにより形成されるエンジンの燃焼室に前記電極対を挿入し、電極間距離の小さな電極対から電極間距離の大きな電極対へと順に点火エネルギーを供給する点火装置であって、前記点火装置は、前記複数の電極対を収容する副室を形成するとともに、前記複数の電極間を結ぶ線の延長上に前記燃焼室と前記副室とを連通可能とする噴口が形成される噴射カバーを備えるものである。
【0012】
請求項2においては、電極間距離の異なる複数の電極対を備え、シリンダとシリンダヘッドとピストンとにより形成されるエンジンの燃焼室に前記電極対を挿入し、電極間距離の小さな電極対から電極間距離の大きな電極対へと順に点火エネルギーを供給する点火装置であって、前記点火装置は、前記複数の電極対を収容する副室を形成するとともに、前記燃焼室と前記副室とを連通可能とする噴口が形成される噴射カバーを備え、前記噴射カバーは、前記複数の電極間を結ぶ線と平行な軸心を有する噴口と、当該軸心を噴射カバーの中心点を中心に所定角度回転した平行な位置に少なくとも一つの噴口とが形成されるものである。
【0013】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0014】
請求項1においては、圧縮工程の際に生じる噴口から副室内に流入する混合気の流れを用いることで、電極間距離の短い電極対で活性化された混合気が、電極間距離の長い電極対へと安定的に供給することができ、副室内の混合気の点火性が向上する。
【0015】
請求項2においては、複数の噴口の流れが作用しあって電極間を混合気が流れ、電極間距離の短い電極対でイオン化された混合気が、電極間距離の長い電極対へと安定的に供給され、副室内の混合気の点火性が向上する。また、副室で点火された混合気が、複数の噴口を介して、燃焼室内へと噴出するため、燃焼室全体へ火炎が効率的に伝播される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第一実施形態に係る点火装置の点火プラグがエンジンに配置された状態を示す部分側断面図。
【図2】本発明の第一実施形態および第二実施形態に係る点火装置の構成を模式的に示す図。
【図3】本発明の第一実施形態に係る点火装置の点火プラグの全体的な構成を示す部分側断面図。
【図4】同じく電極対の周辺を示す図。(a)は側面図、(b)は図4の(a)中に示すA方向矢視における底面図。
【図5】同じくエンジンの圧縮工程における混合気の流れおよび点火の状態を示す部分断面図。
【図6】同じくエンジンの燃焼・膨張工程における混合気の流れを示す部分断面図。
【図7】本発明の第二実施形態に係る点火装置の点火プラグがエンジンに配置された状態を示す部分側断面図。
【図8】同じく点火装置の電極対の周辺を示す図。(a)は側面図、(b)は図8の(a)中に示すB方向矢視における底面図。
【図9】同じく点火装置の電極対の周辺の混合気の流れを示す図。(a)は側面図、(b)は図8の(a)中に示すB方向矢視における底面図。
【図10】同じくエンジンの圧縮工程における混合気の流れおよび点火の状態を示す部分断面図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、発明の実施の形態を説明する。
本発明に係る点火装置1は、ガスエンジンやガソリンエンジンの燃焼室内に混合気が吸い込まれて圧縮されたときに混合気を点火させるためのものである。
【0018】
先ず、本実施形態の点火装置1の点火プラグ13が配置される燃焼室100の周辺の構成について図1から図3を用いて説明する。
【0019】
エンジン本体においては、シリンダブロック82上にシリンダヘッド81が配置される。シリンダブロック82には、複数のシリンダ83が上下方向に形成される。各シリンダ83内には、それぞれピストン84が上下に摺動可能に収容される。
このシリンダ83とシリンダヘッド81とピストン84とで囲まれた空間が、燃焼室100とされる。
【0020】
また、シリンダヘッド81には、ピストン84の上面に対向する位置に、点火装置1の点火プラグ13が配置される。さらに、シリンダヘッド81には、点火プラグ13を挟む位置に吸気ポート85および排気ポート86が配置される。吸気ポート85と燃焼室100との間には、吸気バルブ87が設けられ、排気ポート86と燃焼室100との間には、排気バルブ88が設けられる。
【0021】
燃焼室100の吸気および排気は、吸気バルブ87および排気バルブ88を適宜昇降することによって行われる。また、吸気の際は、吸気ポート85の中途部に配置されたインジェクタ(図示省略)が吸気ポート85へと燃料を供給し、この燃料と吸気ポート85内の空気とが燃焼室100内に混合気として供給される。
【0022】
以下において、第一実施形態に係る点火装置について、図2から図4を用いて説明する。
【0023】
点火装置1は、主として蓄電池10から供給される低電圧を高電圧へと変換するイグニッションコイルを有する電圧変換部11と、当該高電圧を適切なタイミングで点火プラグ13に印加するディストリビュータを有する配電部12と、この高電圧が印加されることにより放電する点火部(以下、点火プラグ13とする)とによって構成される。
【0024】
図3に示すように、点火プラグ13は、その先端に設けられる後述する複数の電極対(第一電極対51・61および第二電極対52・62)を燃焼室100内に突出するように挿入してエンジンに配置される。
【0025】
点火プラグ13は、主としてハウジング2、碍子3、ターミナル部4、電極対(中心電極部5、および接地電極部6)によって構成される。
【0026】
ハウジング2は、点火プラグ13全体をシリンダヘッド81に固定しエンジンに設置するための部材である。ハウジング2は、略円筒状とし、その上部はナット部が形成され、その下部の外周にはネジ部21が形成される。当該ネジ部21をエンジンのシリンダヘッド81に螺設することで、点火プラグ13の先端部が燃焼室100内に配置されるようにエンジンに固定される。
【0027】
碍子3は、その内部の中心電極部5とその外周のハウジング2との間を絶縁する部材である。
碍子3は、陶磁器等の絶縁部材で、その上部が略円柱状となるように形成され、その下部が上部よりも半径が小さな略円柱状となるように形成される。さらにその下部からは、略円柱状で上下方向の長さの異なる二本の円柱部31・32が形成される。当該円柱部31・32は水平方向に所定の間隔を空けて下方に突出するように形成される。円柱部31は、円柱部32よりも下方に長く延設される。
碍子3は、円柱部31・32の軸心方向にそれぞれ挿入孔33・34が形成される。挿入孔33・34は、後述する二本のターミナル41・42および中心電極51・52が挿入可能となるように、碍子3の上下方向を貫通するよう形成される。
【0028】
ターミナル部4は、二本のターミナル(第一ターミナル41および第二ターミナル42)によって構成される。
第一ターミナル41および第二ターミナル42は、配電部12(図2参照)からの電流を後述する二本の中心電極(第一中心電極51および第二中心電極52)へと伝達するための部材である。第一ターミナル41および第二ターミナル42は、略円柱状の部材であって、碍子3の挿入孔33・34の上部から中途部まで挿入され、その上端部が碍子3の上部よりも突出するように配置される。第一ターミナル41および第二ターミナル42の上端は、配電部12とそれぞれ別途の導線14・14等を介して、電気的に接続される。ターミナル41・42の下端には、レジスターシール43・44の上端が当接される。当該レジスターシール43・44は放電時に点火ノイズを軽減するための部材であって、挿入孔33・34内にそれぞれ挿入される。
【0029】
図3および図4に示すように、中心電極部5は、ターミナル(第一ターミナル41または第二ターミナル42)からの高電圧が印加されたときに、その先端部と接地電極部6との間で放電をする部材である。中心電極部5は、第一中心電極51および当該第一中心電極51よりも上下方向の長さが短い第二中心電極52によって構成される。
【0030】
第一中心電極51および第二中心電極52は、碍子3の挿入孔33・34にそれぞれ内挿され、それらの上端は、レジスターシール43・44の下端と接触するように配置される。第一中心電極51の下端部は、碍子3の円柱部31の下端から突出するように配置される。また、第二中心電極52の下端部は、円柱部32の下端から突出するように配置される。
【0031】
接地電極部6は、中心電極部5からの放電を受けるためのものである。接地電極部6は、第一接地電極61および第二接地電極62によって構成される。第一接地電極61および第二接地電極62は、第一中心電極51および第二中心電極52とともに第一電極対51・61および第二電極対52・62をなす。
【0032】
第一接地電極61および第二接地電極62は、略板状の部材を適宜曲折することによって形成される。第一接地電極61および第二接地電極62は、ハウジング2の下端面の一部から下方に延設される垂直部1a・2aと、当該垂直部の下端から水平に伸びる水平部1b・2bとを有し、側面視においてその全体が略L字状に形成される。また、第一接地電極61および第二接地電極62は、その垂直部1a・2aの上端とハウジング2の下端へと水平方向に所定の間隔を空けて溶接等によって固設される。なお、垂直部1a・2aは後述する仮想線L1と交差しない位置に配設され、気流または火炎の流れが乱れないように配置される。
【0033】
第一接地電極61の水平部1bの上面は、所定の電極間距離(以下、第一電極間距離G1とする)を空けて、第一中心電極51の下端面と対向するように配置される。また、第二接地電極62の水平部2bの上面は、所定の電極間距離(以下、第二電極間距離G2とする)を空けて第二中心電極52の下端面と対向するように配置される。第一電極間距離G1は、第二電極間距離G2よりも短くなるように第一接地電極61および第二接地電極62は形成される。
【0034】
噴射カバー7は、強流動状態である燃焼室100から電極対(第一電極対51・61および第二電極対52・62)を隔離するためのものである。
噴射カバー7は、有底の円筒状に形成され、その上部は、ハウジング2の下端部の外側面に外嵌されることで、点火プラグ13に取り付けられる。
噴射カバー7によって、燃焼室100内に突出した(挿入された)点火プラグ13の第一電極対51・61および第二電極対52・62は覆われ、当該両電極対51・61・52・62側に副室101が形成される。
【0035】
噴射カバー7には、第一電極間距離(第一ギャップ)G1と第二電極間距離(第二ギャップ)G2のそれぞれの略中心を結ぶ仮想線L1の下方延長上であって、第一電極対51・61に近い側に、噴口71が形成される。当該噴口71は、前記仮想線L1を中心軸として噴射カバー7に略円筒状の開口部を形成したものである。混合気は、当該噴口71を介して、燃焼室100と副室101とを連通可能とされる。
【0036】
第一実施形態における第一電極対51・61と第二電極対52・62の位置関係では、図4に示す噴口71の角度および位置となっている。しかしながら、電極間の配置によっては、噴口が噴射カバーの底面に形成されることもある。
【0037】
次に、前記の構成での「副室101への混合気の流れ」および「放電に伴う混合気の点火」について、図1から図6を用いて説明する。ただし、図中の白抜き矢印は混合気の流れを示し、太矢印(塗りつぶし矢印)は火炎の流れを示し、点の集合は混合気が活性化した状態を示す。説明を容易とするため図4は噴射カバー7を仮想として図示し、図5は噴射カバー7の側面の一部を切り欠いた状態で示している。
【0038】
ピストン84が上方へと移動するエンジンの圧縮工程において、燃焼室100内の混合気は、ピストン84の押し込み作用によって、噴射カバー7の噴口71を介して、副室101内へと供給される。この副室101内に導入される混合気は、燃焼室100が強流動状態であったとしても、噴射カバー7によって遮られ、前述した噴口71の軸心方向の角度および位置によって、第一電極対51・61から第二電極対52・62へ流れる(図5の上部参照)。
【0039】
図2に示す点火装置1において、配電部12による電圧は、図3に示す第一ターミナル41からレジスターシール43を介して、第一中心電極51に印加される。第一中心電極51に電圧が印加されることによって、図5の上部に示すように、第一中心電極51から第一接地電極61の水平部1bへと放電がなされる。
この第一電極対51・61間での放電によって、電気エネルギーが熱エネルギーに変化され、その熱によって混合気の活性化(イオン化、ラジカル化)が行われる(図5の中央参照)。
【0040】
第一電極対51・61間での放電から所定の時間経過後に、図2に示す配電部12による電圧が、図3に示す第二ターミナル42からレジスターシール44を介して、第二中心電極52に印加される。第二中心電極52に電圧が印加されることによって、図5の下部に示すように、第二中心電極52から第二接地電極62へと放電がなされる。
【0041】
このとき、第二電極対52・62間には、第一電極対51・61間の活性化された混合気が、副室101内の混合気の流れによって誘導される。したがって、第二電極対52・62間において、活性化された混合気に放電がなされ、第一電極対51・61間よりも距離の長い第二電極対52・62間で火炎核の形成が可能となる。
この第二電極対52・62での火炎核が、混合気の流れとともに、副室101内の混合気全体を点火させることとなる。
【0042】
その後、副室101内の火炎は、噴口71を介して、トーチ状の火炎となって燃焼室100へと噴出し、図6に示すように、燃焼室100の混合気へと爆発的に伝播される。この燃焼行程においてその爆発力は、ピストン84を下方へと移動させる膨張行程への原動力となる。
【0043】
なお、本実施形態において、点火プラグ13に電極対を二箇所設けているが、電極間距離の小さいものから大きいものへと順に放電できれば、点火プラグに電極対を三箇所以上設置してもよい。
【0044】
以上の如く、第一実施形態の点火装置1は、
電極間距離G1・G2の異なる複数の電極対(第一電極対51・61、第二電極対52・62)を備え、
シリンダ83とシリンダヘッド81とピストン84とにより形成されるエンジンの燃焼室100に前記電極対(第一電極対51・61、第二電極対52・62)を挿入し、
電極間距離の小さな電極対(第一電極対51・61)から電極間距離の大きな電極対(第二電極対52・62)へと順に点火エネルギー(電気)を供給する点火装置1であって、
前記点火装置1は、
前記複数の電極対(第一電極対51・61、第二電極対52・62)を収容する副室101を形成するとともに、
前記複数の電極間を結ぶ線(仮想線L1)の延長上に前記燃焼室100と前記副室101とを連通可能とする噴口71が形成される噴射カバー7を備えるものである。
【0045】
このように構成することにより、圧縮工程の際に生じる噴口71から副室101内に流入する混合気の流れを用いることで、電極間距離の短い電極対(第一電極対51・61)で活性化された混合気が、電極間距離の長い電極対(第二電極対52・62)へと安定的に供給することができ、副室101内の混合気の点火性が向上する。
【0046】
次に、第一実施形態の電極(中心電極部5と接地電極部6)の配置位置が異なる第二実施形態の点火装置201の点火プラグ213について電極(中心電極251・252、接地電極253・254)周辺を中心に図2および図7から図10を用いて説明する。ただし、第一実施形態と同じ構造および形状であるものは、同じ符号を付す。
【0047】
図7に示すように、点火プラグ213は、その先端に設けられる後述する複数の電極対(第一電極対251・261および第二電極対252・262)を燃焼室100内に突出するように挿入してエンジンに配置される。
【0048】
第二実施例の中心電極部は、第一中心電極251および当該第一中心電極251よりも上下方向の長さが短い第二中心電極252によって構成される。
【0049】
第二実施形態の中心電極の位置は、図8の(b)に示すように底面視において円形の碍子203の略同一半径上にあって、第一中心電極251および第二中心電極252と碍子203の中心点C1とがなす角度は本実施形態では略90度となるように配置される。なお、この角度は限定するものではなく、略15度以上180度未満の間の角度で可能である。したがって、レジスターシールおよびターミナル241・242(図2参照)は、碍子203の底面視における半円側に第一中心電極251および第二中心電極252が所定間隔を空けて配置される。
【0050】
第一中心電極251および第二中心電極252は、図8に示すように、碍子203の挿入孔233・234にそれぞれ内挿され、それらの上端は、レジスターシールの下端と接触するようにそれぞれ配置される。第一中心電極251の下端部は、碍子203の円柱部231の下端から突出するように配置される。また、第二中心電極252の下端部は、円柱部232の下端から突出するように配置される。
【0051】
接地電極部は、第一接地電極261および第二接地電極262によって構成される。第一接地電極261および第二接地電極262は、第一中心電極251および第二中心電極252とともに第一電極対251・261および第二電極対252・262をなす。
【0052】
第一接地電極261および第二接地電極262は、略板状の部材を適宜曲折することによって形成される。第一接地電極261および第二接地電極262は、ハウジング2の下端面の一部から下方に延設される垂直部61a・62aと、当該垂直部61a・62aの下端から水平に伸びる水平部61b・62bとを有し、側面視においてその全体が略L字状に形成される。また、第一接地電極261の垂直部61aは、第二接地電極262の垂直部62aと略対向するように配置され、さらに、第一接地電極261および第二接地電極262の上端は、ハウジング2の下端周面へと溶接等によって固設される(図8の(b)参照)。
【0053】
第一接地電極261の水平部61bの上面は、所定の電極間距離(以下、第一電極間距離G21とする)を空けて、第一中心電極251の下端面と対向するように配置される。また、第二接地電極262の水平部62bの上面は、所定の電極間距離(以下、第二電極間距離G22とする)を空けて第二中心電極252の下端面と対向するように配置される。
第一電極間距離G21は、第二電極間距離G22よりも短くなるように第一接地電極261および第二接地電極262は形成される。
【0054】
図7および図9に示すように、噴射カバー207は、有底の円筒状に形成され、その上部は、ハウジング2の下端部の外側面に外嵌されることで、点火プラグ213に取り付けられる。
噴射カバー207によって、燃焼室100内に突出した(挿入された)点火プラグ213の第一電極対251・261および第二電極対252・262は覆われ、当該両電極対251・261・252・262側に副室211が形成される。
【0055】
噴射カバー207には、第一電極間距離G21と第二電極間距離G22のそれぞれの略中心を結ぶ仮想線L2と略平行な軸心A1を有し、第一電極対251・261に近い側に、噴口271が形成される。当該噴口271は、前記仮想線L2を中心軸として噴射カバー207に略円筒状の開口部を形成したものである。
【0056】
図8の(b)に示すように、当該軸心A1を噴射カバー207の中心点C1を中心に90度、180度および270度回転した位置にそれぞれ噴口272・273・274が形成される。また、図8の(a)に示すように、噴口272・274は開口位置を他の噴口271・273よりも下方に軸心を平行にずらして(移動して)開口される。
したがって、混合気は、噴口271・272・273・274を介して、燃焼室100と副室211とを連通可能とされる。
【0057】
第二実施形態における第一電極対251・261と第二電極対252・262の位置関係では、図8に示す噴口271・272・273・274の軸心A1・A2・A3・A4の角度および位置となっている。しかしながら、電極間の位置関係によっては、噴口が噴射カバーの底面に形成されることもある。
【0058】
次に、前記の構成での「副室211への混合気の流れ」および「放電に伴う混合気の点火」について、図6から図10を用いて説明する。ただし、図中の白抜き矢印は混合気の流れを示し、点の集合は混合気が活性化した状態を示し、太い矢印は火炎の流れを示す。説明を容易とするため、図8および図9は噴射カバー207を仮想として図示し、図10は噴射カバー7の側面の一部を切り欠いた状態で示している。
【0059】
図7および図8に示すピストン84が上方へと移動するエンジンの圧縮工程において、燃焼室100内の混合気は、ピストン84の押し込み作用によって、噴射カバー207の噴口271・272・273・274を介して、副室211内へと供給(導入)される。
混合気は各噴口271・272・273・274を介してのみ副室211内へと供給されるため、燃焼室100が強流動状態であったとしても、副室211内での影響は少ない。
【0060】
詳細には、副室211内での噴口271からの上向きの気流は、噴口272からの上向きの気流によってさらに上方へと押される。続いて、その上向きの気流は、噴口273付近の点火プラグ213の下端に当接することで、下方に向きが変えられるとともに噴口273からの下方の気流が加えられる。そして、その気流は、噴口274の近傍付近において噴射カバー207の内壁へと当接するとともに、当該噴口274からさらに上向きの気流が加えられる。
したがって、図9に示すような副室211内を循環する混合気の流れ(気流)が形成される。その流れの一部が第一電極対251・261から第二電極対252・262への流れとなる。
【0061】
点火装置201において、配電部12による電圧は、第一ターミナル241からレジスターシール243を介して、第一中心電極251に印加される(図2参照)。第一中心電極251に電圧が印加されることによって、図10の上部に示すように、第一中心電極251から第一接地電極261の水平部61bへと放電がなされる。
この第一電極対251・261間での放電によって、電気エネルギーが熱エネルギーに変化され、その熱によって混合気の活性化(イオン化、ラジカル化)が行われる(図10の中央参照)。
【0062】
第一電極対251・261間での放電から所定の時間経過後に、配電部12による電圧が、第二ターミナル242からレジスターシールを介して、第二中心電極252に印加される(図2参照)。第二中心電極52に電圧が印加されることによって、図10の下部に示すように、第二中心電極252から第二接地電極262へと放電がなされる。
【0063】
このとき、第二電極対252・262間には、第一電極対251・261間の活性化された混合気が、副室211内の混合気の流れによって誘導される。したがって、第二電極対252・262間において、活性化された混合気に放電がなされ、第一電極対251・261間よりも距離の長い第二電極対252・262間で火炎核の形成が可能となる。
この第二電極対252・262での火炎核が、混合気の流れとともに、副室211内の混合気全体を点火させることとなる。
【0064】
その後、副室211内の火炎は、噴口271・272・273・274を介して、四方に分散したトーチ状の火炎となって燃焼室100へと噴出し、燃焼室100の混合気へと爆発的に伝播される。この燃焼行程においてその爆発力は、ピストン84を下方へと移動させる膨張行程への原動力となる。
【0065】
なお、本実施形態において、点火プラグ13に電極対を二箇所設けているが、電極間距離の小さいものから大きいものへと順に放電できれば、点火プラグに電極対を三箇所以上設置してもよい。加えて、噴口は、その配置位置が三箇所以上であってもよい。
【0066】
以上の如く、第二実施形態の点火装置201は、
電極間距離G21・G22の異なる複数の電極対(第一電極対51・61、第二電極対52・62)を備え、
シリンダ83とシリンダヘッド81とピストン84とにより形成されるエンジンの燃焼室100に前記電極対(第一電極対51・61、第二電極対52・62)を挿入し、
電極間距離の小さな電極対(第一電極対51・61)から電極間距離の大きな電極対(第二電極対52・62)へと順に点火エネルギーを供給する点火装置201であって、
前記点火装置201は、
前記複数の電極対(第一電極対251・261、第二電極対252・262)を収容する副室211を形成するとともに、
前記燃焼室100と前記副室211とを連通可能とする噴口271・272・273・274が形成される噴射カバー207を備え、
前記噴射カバー207は、
前記複数の電極(第一電極対251・261、第二電極対252・262)間を結ぶ線(仮想線L2)と平行な軸心を噴口271と、
当該軸心A1を噴射カバー207の中心点を中心に所定角度回転した位置に少なくとも一つの噴口272・273・274とが形成されるものである。
【0067】
このように構成することにより、複数の噴口271・272・273・274の流れが作用しあって電極(第一電極対251・261、第二電極対252・262)間を混合気が流れ、電極間距離の短い電極対(第一電極対251・261)でイオン化された混合気が、電極間距離の長い電極対(第二電極対252・262)へと安定的に供給され、副室211内の混合気の点火性が向上する。また、副室211で点火された混合気が、複数の噴口271・272・273・274を介して、燃焼室100内へと噴出するため、燃焼室100全体へ火炎が効率的に伝播される。
【符号の説明】
【0068】
1 点火装置
7 噴射カバー
51 第一中心電極(第一電極対の一部)
52 第二中心電極(第二電極対の一部)
61 第一接地電極(第一電極対の一部)
62 第二接地電極(第二電極対の一部)
71 噴口
81 シリンダヘッド
83 シリンダ
84 ピストン
100 燃焼室
101 副室
201 点火装置
207 噴射カバー
211 副室
251 第一中心電極(第一電極対の一部)
252 第二中心電極(第二電極対の一部)
261 第一接地電極(第一電極対の一部)
262 第二接地電極(第二電極対の一部)
271 噴口
272 噴口
273 噴口
274 噴口
A1 軸心
A2 軸心
A3 軸心
A4 軸心
G1 第一電極間距離
G2 第二電極間距離
G21 第一電極間距離
G22 第二電極間距離
L1 線(仮想線)
L2 線(仮想線)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極間距離の異なる複数の電極対を備え、
シリンダとシリンダヘッドとピストンとにより形成されるエンジンの燃焼室に前記電極対を挿入し、
電極間距離の小さな電極対から電極間距離の大きな電極対へと順に点火エネルギーを供給する点火装置であって、
前記点火装置は、
前記複数の電極対を収容する副室を形成するとともに、
前記複数の電極間を結ぶ線の延長上に前記燃焼室と前記副室とを連通可能とする噴口が形成される噴射カバーを備えることを特徴とするエンジンの点火装置。
【請求項2】
電極間距離の異なる複数の電極対を備え、
シリンダとシリンダヘッドとピストンとにより形成されるエンジンの燃焼室に前記電極対を挿入し、
電極間距離の小さな電極対から電極間距離の大きな電極対へと順に点火エネルギーを供給する点火装置であって、
前記点火装置は、
前記複数の電極対を収容する副室を形成するとともに、
前記燃焼室と前記副室とを連通可能とする噴口が形成される噴射カバーを備え、
前記噴射カバーは、
前記複数の電極間を結ぶ線と平行な軸心を有する噴口と、
当該軸心を噴射カバーの中心点を中心に所定角度回転した平行な位置に少なくとも一つの噴口とが形成されることを特徴とするエンジンの点火装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−122515(P2011−122515A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−280733(P2009−280733)
【出願日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【出願人】(304021277)国立大学法人 名古屋工業大学 (784)
【Fターム(参考)】