説明

エンジンの燃焼室構造及びシリンダヘッド構造

【課題】ペントルーフ形の燃焼室天井部を有する燃焼室におけるタンブル流生成の向上及び充填効率を図りエンジンの燃焼安定性及びエンジン出力を確保できるエンジンの燃焼室構造及びシリンダヘッド構造を提供する。
【解決手段】開状態の各吸気バルブ51A、51Bと吸気ポート開口端42A、42Bとの隙間から燃焼室40に対して斜めに導入された吸気を燃焼室天井部22の頂部23に凹設された気流誘導凹部35A、35Bによって誘導して吸気側傾斜面24側から排気側傾斜面25側に燃焼室天井部22に沿って導入して燃焼室40内に強いタンブル流を生成する。また、吸気ポート開口端42A、42Bから円滑に燃焼室40に新気が導入され、充填効率の向上が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの燃焼室構造及びシリンダヘッド構造に関し、特にペントルーフ形の燃焼室天井部を有する燃焼室構造及びシリンダヘッド構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車などの高回転高出力が要求されるエンジンは、燃焼室天井部を2つの吸気バルブが設けられる吸気側傾斜面及び2つの排気バルブが設けられる排気側傾斜面を備えたペントルーフ形とし、燃焼室天井部の吸気側傾斜面に開口する吸気ポートの開口端から燃焼室内へ導入した吸気によって燃焼室内にタンブル流を生成して安定した燃焼を行わせる方法がある。
【0003】
このタンブル流は、吸気行程においてピストンが上死点位置から下降する際に、開状態の吸気バルブと吸気ポート開口端との隙間から燃焼室に対して吸気を斜めに導入することで生成される。詳細にはピストンの下降によって燃焼室へ吸い込まれる吸気は、燃焼室に対して斜めに各吸気ポート開口端と吸気バルブのバルブヘッドとの隙間から燃焼室に流れ込み、ピストンの更なる下降に伴い導入された吸気は排気側のシリンダボア内周面に沿うように下方へ向かい、その後ピストンの頂面に沿って吸気側へ曲げられ、更に上方に向かって流れて燃焼室全体に亘って縦方向に旋回するタンブル流となる。
【0004】
続いて、圧縮行程に移行してピストンが下死点位置から上昇すると、ピストンの上昇に伴う燃焼室の容積減少によりタンブル流がコンパクトになる。この圧縮行程中期以降においても、ペントルーフ形の燃焼室天井部とピストン頂面との間の空間によりタンブル流が圧縮行程中期以降まで崩壊することなく保持される。そして、インジェクタから燃料が噴射されると、タンブル流の燃焼室天井部に沿う流れによって点火プラグ近傍に運ばれて電極周りに適切な濃度状態の可燃混合気層を形成する。
【0005】
また、ペントルーフ形の燃焼室天井部を有するエンジンの燃焼室において、点火プラグの電極周辺に可燃混合気を滞留させて着火性を向上させる燃焼室が特許文献1によって提案されている。この特許文献1のエンジンについて図5乃至図8を参照して説明する。
【0006】
図5はエンジンの燃焼室構造を模式的に示す断面図、図6はシリンダブロック側から見たシリンダヘッドを模式的に示す平面図、図7は図6のVII部拡大図、図8は図6のVIII−VIII線断面を模式的に示す図である。
【0007】
図5に示すように、シリンダブロック101にピストン105が往復動自在に収容されるシリンダボア102を形成し、シリンダヘッド110に頂部116から下方両側に傾斜して延在する吸気側傾斜面117及び排気側傾斜面118を備えたペントルーフ形の燃焼室天井部115が形成される。これら吸気側傾斜面117及び排気側傾斜面118の下縁からシリンダヘッド110の下端面111に亘って側壁部119が形成される。このシリンダボア102及び燃焼室天井部115を形成する吸気側傾斜面117、排気側傾斜面118、側壁部119、ピストン105の頂面106で囲まれた空間が燃焼室120となる。
【0008】
図6に示すように、燃焼室天井部115の吸気側傾斜面117には頂部116に沿って2つの吸気ポート121の各開口端122が形成され、排気側傾斜面118には2つの排気ポート123の各開口端124が形成される。また、各吸気ポート開口端122は吸気バルブ131によって開閉され、各排気ポート開口端124は排気バルブ132によって開閉される。各吸気バルブ131は、棒状のステム131Aと、ステム131Aの燃焼室120側の端部に設けられたバルブヘッド131Bとによって形成される。各排気バルブ132は、ステム132Aと、ステム132Aの燃焼室120側の端部に設けられたバルブヘッド132Bとによって形成される。
【0009】
燃焼室天井部115の頂部116には、頂部116の延在方向に沿って上方へ窪んだ気流ガイド溝部125が形成される。この気流ガイド溝部125は頂部116の長手方向略中央において図5及び図6に示すように電極133aが気流ガイド溝125から燃焼室120へ向けて突出するように点火プラグ133がシリンダヘッド110に対して取り付けられる。
【0010】
気流ガイド溝部125は、その両端部125aから点火プラグ133に向けて徐々に深くなるように形成される。また、この気流ガイド溝125は、図7に示すように溝頂部126によって連続する吸気側溝面127及び排気側溝面128によって形成され、点火プラグ133が配設される箇所において吸気側溝面127が吸気側傾斜面117に対して所定の角度を有して傾斜して吸気側傾斜面117に連続して形成され、排気側溝面128が排気側傾斜面118に対して所定の角度を有して傾斜して排気側傾斜面118に連続して形成される。一方、吸気バルブ131及び排気バルブ132が配設される箇所では、図8で示すように、吸気側傾斜面117が吸気側溝面127に連続する1平面として形成され、排気側溝面128は排気側傾斜面118に対して所定の角度を有して傾斜する面に形成される。また、図6に示すように吸気側傾斜面117の基端部117aには、図示しない燃料を噴射させるインジェクタが挿入されるインジェクタ穴129が形成される。
【0011】
これにより、ピストン105が上昇すると、燃焼室120内に吸気側傾斜面117及び排気側傾斜面118に沿って流れる気流と、気流ガイド溝部125に沿って点火プラグ133側に流れる気流が生成され、燃焼室120内で燃料と空気との混合を促進しながら、点火プラグ133の電極133aの周りに可燃混合気を集中させかつ滞留させることが可能になり、着火性の向上が期待できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2010−185457号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上記ペントルーフ形の燃焼室天井部を有する燃焼室にあっては、吸気行程におけるピストンの下降によって吸気側傾斜面に開口する吸気ポート開口端と開状態の吸気バルブのバルブヘッドとの隙間からの吸気によって燃焼室内にタンブル流が生成されるものの、燃焼室天井部の頂部に近接して吸気ポート開口端が開口することから、ピストンの下降によって吸気ポート開口端と吸気バルブとの隙間から燃焼室内へ吸い込まれて吸気ポート開口端から吸気側傾斜面及び排気側傾斜面に沿って流れる吸気の流れが、その流れ方向と交差して延在する頂部及び頂部に連続する排気側傾斜面によって弱められて燃焼室内のタンブル流生成が弱められる。また、吸気ポート開口端から吸入される吸入空気の円滑な吸入に影響を及ぼし、吸気ポート等における吸気流路の圧力損失が増加して充填効率の低下を招く要因となる。
【0014】
また、吸気ポート開口端に座グリ等の仕上げ加工を施す際に、その機械加工に伴い吸気ポート開口端の周囲に不連続部分が形成され、その不連続部分によっても吸気側傾斜面側から排気側傾斜面側に流れる吸気の流れが弱められて燃焼室内のタンブル流生成が弱められる。
【0015】
一方、特許文献1によると、ペントルーフ形の燃焼室天井部115の頂部116に沿って点火プラグ133側が深くなる気流ガイド溝部125を形成することで、燃焼室120内の可燃混合気を点火プラグ133の電極133aに対して集中させ、かつ滞留して着火性の向上が期待できる。
【0016】
しかし、吸気ポート開口端124と開口状態の吸気バルブ131のバルブヘッド131Bとの隙間から燃焼室120内へ導入されて吸気側傾斜面116に沿って排気側傾斜面117側に流れる吸気が気流ガイド溝部125によって点火プラグ133側に誘導されると共に該部に滞留して、吸気ポート開口端122から吸気側傾斜面側116及び排気側傾斜面117に沿って流れる吸気流が弱められてタンブル流生成が弱められる。また、吸気ポート開口端122から吸入される吸気の流れが気流ガイド溝部125によって弱められ、かつ滞留することで吸気ポート開口端122からの円滑な吸入に影響を及ぼし、吸気ポート121等における吸気流路の圧力損失が増加して充填効率の低下を招く要因となる。
【0017】
従って、かかる点に鑑みなされた本発明の目的は、ペントルーフ形の燃焼室天井部を有する燃焼室におけるタンブル流生成の向上及び充填効率を図りエンジンの燃焼安定性及びエンジン出力の向上が得られるエンジンの燃焼室構造及びシリンダヘッド構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記目的を達成する請求項1に記載の発明によるエンジンの燃焼室構造は、頂部から両側に傾斜して延在する吸気側傾斜面及び排気側傾斜面を備えたペントルーフ形の燃焼室天井部を備え、上記頂部に沿って吸気側傾斜面に吸気バルブにより開閉する2つの吸気ポート開口端及び排気側傾斜面に上記各吸気ポート開口端と対向して排気バルブにより開閉する2つの排気ポート開口端を有し、開状態の吸気バルブと吸気ポート開口端との隙間からの吸気導入によって燃料室内にタンブル流を生成するエンジンの燃焼室構造において、上記燃焼室天井部の頂部に互いに対向する上記各々の吸気ポート開口端側と排気ポート開口端側を連通して吸気側傾斜面側から排気側傾斜面側に気流を誘導する溝状の気流誘導凹部を形成したことを特徴とする。
【0019】
これによると、開状態の各吸気バルブと吸気ポート開口端との隙間から燃焼室に対して斜めに導入された吸気が燃焼室天井部の頂部に凹設された気流誘導凹部に誘導されて燃焼室内に吸気側傾斜面側から排気側傾斜面側に燃焼室天井部に沿って流れる強いタンブル流が生成され、燃焼室内における気流流動の促進が得られ、希薄域でも燃焼安定性及び燃費の向上が得られる。
【0020】
また、吸気ポート開口端から吸入される吸気の流れが気流誘導凹部によって吸気側傾斜面側から排気側傾斜面側に誘導されて燃焼室天井部の頂部近傍に滞留することなく、吸気ポート開口端から円滑に燃焼室に新気が導入されて吸気ポート等の吸気流路の圧力損失が減少して充填効率の向上が得られ、充填効率の向上に伴ってエンジンの出力向上が得られる。
【0021】
請求項2に記載の発明は、請求項1のエンジンの燃焼室構造において、上記各気流誘導凹部は、対向する吸気ポート開口端の外縁及び排気ポート開口端の外縁の燃焼室中心側を結ぶ仮想線と当該吸気ポート開口端の外縁及び排気ポート開口端の外縁の外側を結ぶ仮想線との間に形成されたことを特徴とする。
【0022】
これによると、気流誘導凹部が対向する吸気ポート開口端の外縁及び排気ポート開口端の外縁の燃焼室中心側を結ぶ仮想線と当該吸気ポート開口端の外縁及び排気ポート開口端の外縁の外側を結ぶ仮想線との間に形成することで、吸気ポート開口端からの吸気が効率的に排気側傾斜面側に誘導され、より強いタンブル流が生成できる。また、吸気ポート開口端から円滑に燃焼室に新気が導入され、充填効率の向上が得れてエンジンの出力向上が得られる。
【0023】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2のエンジンの燃焼室構造において、上記各気流誘導凹部の間において上記燃焼室天井部の頂部中央に該頂部に沿って燃焼室側に突出する平坦部を備え、該平坦部に点火プラグ取取付穴を形成したことを特徴とする。
【0024】
これによると、各気流誘導凹部の間に頂部に沿って燃焼室側に突出する平坦部を備え、この平坦部に点火プラグ取付穴を形成することで、各吸気ポート開口端及び排気ポート開口端との間の段差がなくなり円滑な燃焼室天井部が形成されると共に、各気流誘導凹部によって誘導される気流に影響を及ぼすことなくタンブル流生成を維持しながら点火プラグを取り付けることができる。
【0025】
請求項4に記載のシリンダヘッド構造の発明は、頂部から両側に傾斜して延在する吸気側傾斜面及び排気側傾斜面を備えたペントルーフ形の燃焼室天井部を備え、上記頂部に沿って吸気側傾斜面に吸気バルブにより開閉する2つの吸気ポート開口端及び排気側傾斜面に上記各吸気ポート開口端と対向して排気バルブにより開閉する2つの排気ポート開口端を有するシリンダヘッド構造において、上記燃焼室天井部の頂部に互いに対向する各々の吸気ポート開口端側と排気ポート開口端側を連通して吸気側傾斜面側から排気側傾斜面側に気流を誘導する溝状の気流誘導凹部を形成したことを特徴とする。
【0026】
これによると、開状態の各吸気バルブと吸気ポート開口端との隙間から燃焼室に対して斜めに導入された吸気を燃焼室天井部の頂部に凹設された気流誘導凹部によって誘導されて吸気側傾斜面側から排気側傾斜面側に燃焼室天井部に沿って導入されて燃焼室内に吸気側傾斜面側から排気側傾斜面側に燃焼室天井部に沿って流れる強いタンブル流を生成することができる。
【0027】
また、吸気ポート開口端から吸入される吸気の流れが気流誘導凹部によって吸気側傾斜面側から排気側傾斜面側に誘導されて燃焼室天井部の頂部近傍に滞留することなく、吸気ポート開口端から円滑に燃焼室に新気が導入されて吸気ポート等の吸気流路の圧力損失が減少して充填効率の向上が得られる。
【0028】
請求項5に記載の発明は、請求項4のシリンダヘッド構造において、上記各気流誘導凹部は、対向する吸気ポート開口端の外縁及び排気ポート開口端の外縁の燃焼室中心側を結ぶ仮想線と当該吸気ポート開口端の外縁及び排気ポート開口端の外縁の外側を結ぶ仮想線との間に形成されたことを特徴とする。
【0029】
これによると、気流誘導凹部が対向する吸気ポート開口端の外縁及び排気ポート開口端の外縁の燃焼室中心側を結ぶ仮想線と当該吸気ポート開口端の外縁及び排気ポート開口端の外縁の外側を結ぶ仮想線との間に形成することで、吸気ポート開口端からの吸気が効率的に排気側傾斜面側に誘導され、より強いタンブル流が生成できる。また、吸気ポート開口端から円滑に燃焼室に新気が導入され、充填効率の向上が得られる。
【0030】
請求項6に記載の発明は、請求項4または5のシリンダヘッド構造において、上記各気流誘導凹部の間において上記燃焼室天井部の頂部中央に該頂部に沿って燃焼室側に突出する平坦部を備え、該平坦部に点火プラグ取取付穴を形成したことを特徴とする。
【0031】
これによると、各気流誘導凹部の間に頂部に沿って燃焼室側に突出する平坦部を備え、この平坦部に点火プラグ取付穴を形成することで、各吸気ポート開口端及び排気ポート開口端との間の段差がなくなり円滑な燃焼室天井部が形成されると共に、各気流誘導凹部によって誘導される気流に影響を及ぼすことなくタンブル流生成を維持しながら点火プラグを取り付けることができる。
【0032】
請求項7に記載の発明は、請求項4〜6のいずれか1項のシリンダヘッド構造において、上記各気流誘導凹部は、吸気ポート開口端側から排気ポート開口端側に連続して延在する底面と、該底面の各側縁に連続して該底面から離反するに従って互いに離間する平面乃至湾曲面状で吸気ポート開口端側から排気ポート開口端側に連続する内側面及び外側面を有する溝状であることを特徴とする。
【0033】
これによると、気流誘導凹部が吸気ポート開口端側から排気ポート開口端側に連続して延在する底面及び底面の各側縁に連続して該底面から離反するに従って互いに離間する平面乃至湾曲面状で吸気ポート開口端側から排気ポート開口端側に連続する内側面及び外側面を有する溝状に形成することで、吸気ポート開口端からの吸気が効率的に排気側傾斜面側に誘導され、より強いタンブル流が生成できる。また、吸気ポート開口端から円滑に燃焼室に新気が導入され、充填効率の向上が得られ、エンジンの出力向上が得られる。
【発明の効果】
【0034】
本発明によると、開状態の各吸気バルブと吸気ポート開口端との隙間から燃焼室に対して斜めに導入された吸気が燃焼室天井部の頂部に凹設された気流誘導凹部に誘導されて燃焼室内に吸気側傾斜面側から排気側傾斜面側に燃焼室天井部に沿って流れる強いタンブル流が生成される。
【0035】
また、吸気ポート開口端から吸入される吸気の流れが気流誘導凹部によって吸気側傾斜面側から排気側傾斜面側に誘導されて燃焼室天井部の頂部近傍に滞留することなく、吸気ポート開口端から円滑に燃焼室に新気が導入されて吸気流路の圧力損失が減少して充填効率の向上が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】実施の形態に係るエンジンのシリンダブロック側から見たシリンダヘッドを模式的に示す平面図である。
【図2】図1のII−II線断面を模式的に示す断面図である。
【図3】図1のIII−III線断面を模式的に示す断面図である。
【図4】図1のIV−IV線断面を模式的に示す断面図である。
【図5】従来のエンジンの燃焼室構造を模試的に示す断面図である。
【図6】シリンダブロック側から見たシリンダヘッドを模式的に示す平面図である。
【図7】図6のVII部を模試的に示す拡大図である。
【図8】図6のVIII−VIII線断面を模試的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明に係るエンジンの燃焼室及びシリンダヘッド構造の一実施の形態について、図1〜図4を参照して説明する。図1はエンジンのシリンダブロック側から見たシリンダヘッドを模式的に示す平面図、図2は図1のII−II線断面を模式的に示す断面図、図3は図1のIII−III線断面を模式的に示す断面図、図4は図1のIV−IV線断面を模式的に示す断面図である。
【0038】
図1及び図2に示すように、エンジンはシリンダブロック10とシリンダヘッド20を備える。シリンダブロック10に図示しないピストンが往復動自在に収容されるシリンダボア11を形成し、シリンダヘッド20に頂部23から下方両側に向けて傾斜して延在する吸気側傾斜面24及び排気側傾斜面25を備えたペントルーフ形の燃焼室天井部22が形成される。また、これら吸気側傾斜面24及び排気側傾斜面25の下縁からシリンダブロック10にガスケット等を介在して当接するシリンダヘッド20の下端面21に亘って燃焼室40の内周部となる側壁部26が形成される。このシリンダボア11及び燃焼室天井部22を形成する吸気側傾斜面24、排気側傾斜面25、側壁部26及びピストンの頂面で囲まれた空間が燃焼室40となる。
【0039】
シリンダヘッド20には、図1及び図2、図3に示すように燃焼室40に吸入新気を導入する一対の吸気ポート41A、41B及び燃焼排気ガスを排出する1対の排気ポート45A、45Bが形成される。燃焼室天井部22の吸気側傾斜面24に頂部23に沿って各吸気ポート41A、41Bの各開口端42A、42Bが形成され、吸気側傾斜面24の基端部24aに図示しない燃料を噴射させるインジェクタの先端部が挿入されるインジェクタ穴39が形成される。
【0040】
吸気側傾斜面24に形成される2つの吸気ポート開口端42A、42Bにそれぞれ環状のバルブシート43A、43Bが設けられる。また、排気側傾斜面25に頂部23に沿って各吸気ポート開口端42A、42Bに対向して吸入ポート開口端42A、42Bより小径の排気ポート45A、45Bの開口端46A、46Bが形成され、排気側傾斜面25に形成される2つの排気ポート開口端46A、46Bにそれぞれバルブシート47A、47Bが設けられる。
【0041】
図2に示すように、バルブシート43Aが設けられた吸気ポート開口端42Aは、吸気ポート41Aに装着されたバルブガイド44Aに支持された吸気バルブ51Aによって開閉される。吸気バルブ51Aはバルブガイド44Aによってリフト方向に昇降自在に挿着された棒状のステム52A及びステム52Aの燃焼室40側の端部に設けられたバルブヘッド53Aによって形成され、閉状態にあってはバルブヘッド53Aのバルブフェースがバルブシート43Aに着座して吸気ポート開口端42Aが閉鎖され、開状態にあってはバルブヘッド53Aがバルブシート43Aから離反してバルブシート43Aとバルブヘッド53Aとの間に隙間が形成される。
【0042】
排気ポート開口端46Aは、排気ポート45Aに装着されたバルブガイド48Aに支持された排気バルブ55Aによって開閉される。排気バルブ55Aはバルブガイド48Aによってリフト方向に昇降自在に挿着された棒状のステム56A及びステム56Aの燃焼室40側の端部に設けられたバルブヘッド57Aよって形成され、閉状態にあってはバルブヘッド57Aのバルブフェースがバルブシート47Aに着座して排気ポート開口端46Aを閉鎖し、開状態にあってはバルブヘッド57Aがバルブシート47Aから離反してバルブシート47Aとバルブヘッド57Aとの間に隙間が形成される。
【0043】
また、図3に示すように、バルブシート43Bが設けられた吸気ポート開口端42Bは、吸気ポート41Bに装着されたバルブガイド44Bに支持されたステム51A及びバルブヘッド51Bを備えた吸気バルブ51Bによって開閉され、閉状態にあってはバルブヘッド53Bのバルブフェースがバルブシート43Bに着座して吸気ポート開口端42A、42Bを閉鎖し、開状態にあってはバルブヘッド53Bがバルブシート43Bから離反してバルブシート43Bとバルブヘッド53Bとの間に隙間が形成される。
【0044】
排気ポート開口端46Bは、排気ポート45Aに装着されたバルブガイド48Bに支持されたステム56B及びバルブヘッド57Bを備えた排気バルブ55Bによって開閉され、閉状態にあってはバルブヘッド57Bのバルブフェースがバルブシート47Bに着座して排気ポート開口端46Bを閉鎖し、開状態にあってはバルブヘッド57Bがバルブシート47Bから離反してバルブシート47Bとバルブヘッド57Bとの間に隙間が形成される。これら吸気バルブ51A、51B及び排気バルブ55A、55Bは図示しない吸気カム及び排気カム、或いはバルブリフト機構等の動弁機構によって開閉動作する。これら動弁機構は既に公知の技術であり説明を省略する。
【0045】
図1及び図3に図1のIII−III線断面図を示すように、燃焼室40のほぼ中央部となる燃焼室天井部22の頂部23の中央部に、電極58aがシリンダヘッド20の略中央において燃焼室40へ向けて突出するように点火プラグ58をシリンダヘッド20に対して取り付ける点火プラグ取付穴部32が頂部23から燃焼室40側へ突出して形成され、点火プラグ取付部32から頂部23の延在方向沿って互いに離反する方向に延在部分33A、33Bが延在する翼状の平坦部31が形成される。この頂部23から燃焼室40側に突出する翼状の平坦部31によって、各吸気ポート開口端42A、42B及び排気ポート開口端46A、46Bとの間の段差がなくなり吸気側傾斜面23から排気側傾斜面24に滑らかに連続する円滑な燃焼室天井部22が形成される。
【0046】
この平坦部31の延在部部分33Aに連続して吸気ポート開口端42Aと排気ポート開口部46Aとの間に吸気ポート開口端42A側と排気ポート開口端46A側とを連通する上方に窪んだ略同一断面形状で滑らかに連続する溝状の気流誘導凹部35Aが形成され、延在部33Bに連続して吸気ポート開口端42Bと排気ポート開口部46Bとの間に吸気ポート開口端42B側と排気ポート開口端46B側とを連通する上方に窪んだ溝状の気流誘導凹部35Bが形成される。
【0047】
この気流誘導凹部35Aは図1、図2及び図4に示すように、内方端35Aa及び外方端35Abが吸気ポート開口端42Aの外縁及び排気ポート開口端46Aの外縁の燃焼室中心側、吸気ポート開口端42Aの外縁及び排気ポート開口端46Aの外縁の点火プラグ58側を結ぶ仮想線La1と外側を結ぶ仮想線La2との間に形成され、吸気ポート開口端42Aから排気ポート開口端46A側に連続するシリンダヘッド下端面21と略平行な底面36Aと、底面36Aの中心側縁36Aaに外方端が連続して内方端35Aaが平坦部31の延在部分33Aの外方端に連続する平面乃至湾曲面状で吸気ポート開口端42A側から排気ポート開口端46A側に連続する内側面37Aと、底面36Aの外側縁36Abに内方端が連続して外方端35Abが頂部23或いは側壁部26に連続する平面乃至湾曲面状で排気ポート開口端46A側に連続する外側面38Aとによって形成される。
【0048】
即ち、この気流誘導凹部35Aは、点火プラグ58が取り付けられる平坦部31の延在部分33Aに連続して仮想線La1とLa2との間において頂部23の吸気ポート開口端42A側から排気ポート開口端46A側に連続して延在する平坦な底面36Aと、この底面36Aの内側縁36Abに連続して底面36Aから燃焼室40側に移行するに従って互いに離間する内側面37A及び外側面38Aによって燃焼室40側が幅の広い溝状に形成される。また、この気流誘導凹部35Aは例えば数ミリの比較的浅い面取り状に形成できる。
【0049】
同様に、気流誘導凹部35Bは図1、図2及び図4に示すように、内方端35Ba及び外方端35Bbが吸気ポート開口端42Bの外縁及び排気ポート開口端46Bの外縁の燃焼室中心側、即ち点火プラグ58側を結ぶ仮想線Lb1と外側を結ぶ仮想線Lb2との間に形成され、吸気ポート開口端42Bから排気ポート開口端46B側に連続するシリンダヘッド下端面21と略平行な底面36Bと、底面36Bの中心側縁36Baに外方端が連続して内方端35Baが平坦部31の延在部分33Bの外方端に連続する平面乃至湾曲面状で吸気ポート開口端42B側から排気ポート開口端46B側に連続する内側面37Bと、底面36Bの外側縁36Bbに内方端が連続して外方端36Bbが頂部23或いは側壁部26に連続する平面乃至湾曲面状で吸気ポート開口端42B側から排気ポート開口端46B側に連続する外側面38Bとによって形成される。即ち、この気流流動凹部35Bは、平坦部31の延在部分33Bに連続して仮想線Lb1とLb2との間において頂部23の吸気ポート開口端42B側から排気ポート開口端46B側に連続して延在する平坦な底面36Bと、この底面36Bの内側縁36Bbに連続して底面36Bから燃焼室40側に移行するに従って互いに離間する内側面37B及び外側面38Bによって燃焼室40側が幅の広い溝状に形成される。また、この気流誘導凹部35Bは例えば数ミリの比較的浅い面取り状に形成できる。
【0050】
次に、このように構成された燃焼室及びシリンダヘッドの作用について説明する。
【0051】
このように構成されたエンジンにおいて、吸気行程において図示しないピストンが上死点位置から下降するに伴って、図2及び図3に示す開状態の吸気バルブ51Aのバルブヘッド53Aと吸気ポート開口端42Aのバルブシート43Aとの隙間から燃焼室40に対して斜めに導入された吸気は、図1及び図2に矢印F1で示すように燃焼室天井部22の頂部23に凹設された底面36A、内側面37A、外側面38Aによって吸気ポート開口端42A側と排気ポート開口端46A側を連通する溝状に形成された気流誘導凹部35Aに誘導されて吸気側傾斜面24側から排気側傾斜面25側に燃焼室天井部22に沿って導入される。同様に開状態の吸気バルブ51Bのバルブヘッド53Bと吸気ポート開口端42Bのバルブシート43Bとの隙間から燃焼室40に対して斜めに導入された吸気は、図1及び図3に矢印F2で示すように燃焼室天井部22の頂部23に凹設された底面36B、内側面37B、外側面38Bによって吸気ポート開口端42B側と排気ポート開口端46B側を連通する溝状に形成された気流誘導凹部35Bに誘導されて吸気側傾斜面24側から排気側傾斜面25側に燃焼室天井部22に沿って導入される。
【0052】
これにより開口する吸気バルブ51Aと吸気ポート開口端42Aのバルブシート43Aとの隙間から、及び吸気バルブ51Bと吸気ポート開口端43Bのバルブシート43Bとの隙間から吸入された吸気は、その流れ方向と交差する方向に延在する頂部23や頂部23に連続する排気側傾斜面25によって弱められることなく、吸気側傾斜面24側から排気側傾斜面25側に燃焼室天井部22に沿って誘導される。
【0053】
ピストンの更なる下降に伴い、導入された吸気が排気側のシリンダボア11の内周面に沿うように下方に向かい、その後ピストンの頂面に沿って吸気側へ曲げられ、更に吸気側のシリンダボア11の内周面に沿って上方の吸気側傾斜面24に向かって流れ、燃焼室40全体に亘って縦方向に旋回するタンブル流が生成される。
【0054】
ここで、特に各気流誘導凹部35Aを仮想線La1とLa2との間において底面36Aの内側縁36Abに連続して底面36Aから燃焼室40側に移行するに従って互いに離間する内側面37A及び外側面38Aによって燃焼室40側が幅の広い溝状に形成することで、吸気ポート開口端42Aからの吸気を燃焼室天井部22に沿って効率的に排気側傾斜面25側に誘導されると共に、気流誘導凹部35Bを仮想線Lb1とLb2との間において底面36Bの内側縁36Bbに連続して底面36Bから燃焼室40側に移行するに従って互いに離間する内側面37B及び外側面38Bによって燃焼室40側が幅の広い溝状に形成することで吸気ポート開口端42Bからの吸気が燃焼室天井部22に沿って効率的に排気側傾斜面25側に誘導され、これらの気流により強いタンブル流が生成できる。
【0055】
続いて、圧縮行程に移行してピストンが下死点位置から上昇すると、ピストンの上昇に伴う燃焼室40の容積減少によりタンブル流がコンパクトになる。この圧縮行程中期以降においても、ペントルーフ形の燃焼室天井部22とピストン頂面との間の空間及び吸気側傾斜面24側から排気側傾斜面25側に吸気を誘導する気流誘導凹部35A、35Bによってタンブル流が圧縮行程中期以降まで崩壊することなく、保持される。そして、インジェクタから燃料が噴射されると、タンブル流の燃焼室天井部22に沿う流れによって点火プラグ58の近傍に運ばれて電極58a周りに適切な濃度状態の可燃混合気層を形成する。
【0056】
このように、燃焼室40内で吸気ポート開口端42A、42Bから排気ポート開口端46A、46Bの方向に向けて吸気側傾斜面24側から排気側傾斜面25側に燃焼室天井部22に沿って流れる強いタンブル流が生成され、燃焼室40内における気流流動の促進が得られ、希薄域でも燃焼安定性及び燃費の向上が得られる。
【0057】
また、吸気ポート開口端42A、42Bから吸入される吸気の流れが気流誘導凹部35A、35Bによって吸気側傾斜面24側から排気側傾斜面25側に誘導されて燃焼室天井部の頂部近傍に滞留することなく、吸気ポート開口端42A、42Bから円滑に燃焼室に新気が導入され、吸気ポート41A、41B等の吸気流路の圧力損出が減少して充填効率の向上が得られ、エンジンの出力向上が得られる。
【0058】
更に、気流誘導凹部35Aと気流誘導凹部35Bの間において頂部23に沿って燃焼室40側に突出形成された平端部31に点火プラグ取付穴部32を備えることで、各吸気ポート開口端42A、42B及び排気ポート開口端46A、46Bとの間の段差がなくなり、円滑な燃焼室天井部22が形成されると共に、各気流誘導凹部35A、35Bによって誘導される気流流れに影響することなく、強いタンブル流生成を維持しながら点火プラグ58を装着することができる。
【符号の説明】
【0059】
10 シリンダブロック
11 シリンダボア
20 シリンダヘッド
21 下端面
22 燃焼室天井部
23 頂部
24 吸気側傾斜面
25 排気側傾斜面
31 平坦部
32 点火プラグ取付穴部
33A、33B 延在部分
35A、35B 気流誘導凹部
35Aa、35Ba 内方端
35Ab、35Bb 外方端
36A、36B 底面
37A、37B 内側面
38A、38B 外側面
40 燃焼室
41A、41B 吸気ポート
42A、42B 吸気ポート開口端
43A、43B バルブシート
45A、45B 排気ポート
46A、46B 排気ポート開口端
47A、47B バルブシート
51A、51B 吸気バルブ
53A、53B バルブヘッド
55A、55B 排気バルブ
57A、57B バルブヘッド
58 点火プラグ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
頂部から両側に傾斜して延在する吸気側傾斜面及び排気側傾斜面を備えたペントルーフ形の燃焼室天井部を備え、上記頂部に沿って吸気側傾斜面に吸気バルブにより開閉する2つの吸気ポート開口端及び排気側傾斜面に上記各吸気ポート開口端と対向して排気バルブにより開閉する2つの排気ポート開口端を有し、開状態の吸気バルブと吸気ポート開口端との隙間からの吸気導入によって燃料室内にタンブル流を生成するエンジンの燃焼室構造において、
上記燃焼室天井部の頂部に互いに対向する上記各々の吸気ポート開口端側と排気ポート開口端側を連通して吸気側傾斜面側から排気側傾斜面側に気流を誘導する溝状の気流誘導凹部を形成したことを特徴とするエンジンの燃焼室構造。
【請求項2】
上記各気流誘導凹部は、対向する吸気ポート開口端の外縁及び排気ポート開口端の外縁の燃焼室中心側を結ぶ仮想線と当該吸気ポート開口端の外縁及び排気ポート開口端の外縁の外側を結ぶ仮想線との間に形成されたことを特徴とする請求項1のエンジンの燃焼室構造。
【請求項3】
上記各気流誘導凹部の間において上記燃焼室天井部の頂部中央に該頂部に沿って燃焼室側に突出する平坦部を備え、該平坦部に点火プラグ取取付穴を形成したことを特徴とする請求項1または2に記載のエンジンの燃焼室構造。
【請求項4】
頂部から両側に傾斜して延在する吸気側傾斜面及び排気側傾斜面を備えたペントルーフ形の燃焼室天井部を備え、上記頂部に沿って吸気側傾斜面に吸気バルブにより開閉する2つの吸気ポート開口端及び排気側傾斜面に上記各吸気ポート開口端と対向して排気バルブにより開閉する2つの排気ポート開口端を有するシリンダヘッド構造において、
上記燃焼室天井部の頂部に互いに対向する各々の吸気ポート開口端側と排気ポート開口端側を連通して吸気側傾斜面側から排気側傾斜面側に気流を誘導する溝状の気流誘導凹部を形成したことを特徴とするシリンダヘッド構造。
【請求項5】
上記各気流誘導凹部は、対向する吸気ポート開口端の外縁及び排気ポート開口端の外縁の燃焼室中心側を結ぶ仮想線と当該吸気ポート開口端の外縁及び排気ポート開口端の外縁の外側を結ぶ仮想線との間に形成されたことを特徴とする請求項4に記載のシリンダヘッド構造。
【請求項6】
上記各気流誘導凹部の間において上記燃焼室天井部の頂部中央に該頂部に沿って燃焼室側に突出する平坦部を備え、該平坦部に点火プラグ取取付穴を形成したことを特徴とする請求項4または5に記載のシリンダヘッド構造。
【請求項7】
上記各気流誘導凹部は、吸気ポート開口端側から排気ポート開口端側に連続して延在する底面と、
該底面の各側縁に連続して該底面から離反するに従って互いに離間する平面乃至湾曲面状で吸気ポート開口端側から排気ポート開口端側に連続する内側面及び外側面を有する溝状であることを特徴とする請求項4〜6のいずれか1項に記載のシリンダヘッド構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−127218(P2012−127218A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−277607(P2010−277607)
【出願日】平成22年12月14日(2010.12.14)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】