説明

エンジンオイルの劣化検出方法および装置

【課題】通常のpHメータを使用しつつエンジンオイルの劣化をリアルタイムで検出できるエンジンオイルの劣化検出方法および装置を提供すること。
【解決手段】燃料に含まれる水分が所定濃度以上であり、かつ、エンジンオイルにおける混入水の量が所定量以上である場合に、pHメータによってエンジンオイルのpHを測定する。このため、通常のpHメータを使用でき、かつ、滴定等の煩雑な操作を必要としないためにエンジンオイルの劣化をリアルタイムで検出できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水分を含む燃料を利用したエンジンで用いられるエンジンオイルの劣化を検出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
JIS K2501には、エンジンオイルの塩基価、酸価等に基づいて、エンジンオイルの劣化を検出する方法が記載されている。この方法は、エンジンオイルの劣化を検出方法として、一般に用いられている。しかしこの方法によると、滴定法によりエンジンオイルの塩基価、酸価等を測定する。このため、検出工程が煩雑であり、専門の設備を必要とする上、測定操作に熟練を要する問題がある。そして、この方法によると、走行中、停車時、駐車時などに、車上で(リアルタイムで)エンジンオイルの劣化を検出できない問題もある。
【0003】
引用文献1には、エンジンオイルにpHメータを浸漬して、エンジンオイルのpHを直接測定するpHセンサについて記載されている。エンジンオイルが劣化するとエンジンオイルから清浄分散剤が消失する。エンジンオイルに含まれる清浄分散剤(劣化防止剤の一種)はアルカリ価を持つため、エンジンオイルが劣化するとエンジンオイルのpHが小さくなる(エンジンオイルが酸性になる)。このため、エンジンオイルのpHを測定することで、エンジンオイルの劣化を簡易的に検出できると考えられる。
【0004】
ところで、通常のpHメータは溶液中のイオン濃度を測定するが、エンジンオイル中には水分が存在しないかまたは僅かに存在するだけであるため、イオン状態での清浄分散剤は存在しないかまたは僅かに存在するだけである。このため、通常のpHメータでは、エンジンオイルのpHを信頼性高く測定することはできない。このため、この方法によってエンジンオイルの劣化を検出するためには、特殊なpHメータを開発する必要があり、エンジンオイルの劣化検出に要するコストが高くなる問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−257263号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、通常のpHメータを使用しつつエンジンオイルの劣化をリアルタイムで検出できるエンジンオイルの劣化検出方法および装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する本発明のエンジンオイルの劣化検出方法は、水分を含む燃料を使用するエンジンに用いられるエンジンオイルの劣化を検出する方法であって、
該燃料が所定濃度以上の水分を含むか否かを判定する燃料種判定ステップと、
該燃料が所定濃度以上の水分を含む場合に、該エンジンオイルが所定量以上の水分を含むか否かを判定する混入水量判定ステップと、
該エンジンオイルが所定量以上の水分を含む場合に、pHメータによって該エンジンオイルのpHを測定するpH測定ステップと、
該エンジンオイルのpHが所定値以下の場合に、該エンジンオイルが劣化したと判定する劣化判定ステップと、
を備えることを特徴とする。
【0008】
本発明のエンジンオイルの劣化検出方法は下記の(1)〜(7)の何れかを備えることが好ましく、(1)〜(7)の複数を備えることがより好ましい。
【0009】
(1)前記燃料種判定ステップにおいて、水分量センサで検知した前記燃料の水分に基づいて、前記燃料が所定濃度以上の水分を含むか否かを判定する。
【0010】
(2)前記混入水量判定ステップにおいて、液量センサによって前記エンジンオイルの液量を検知し、検知した該エンジンオイルの液量を基に、前記エンジンオイルが所定量以上の水分を含むか否かを判定する。
【0011】
(3)前記混入水量判定ステップにおいて、水分量センサによって前記エンジンオイルに含まれる水分を検知し、検知した該水分に基づいて前記エンジンオイルが所定量以上の水分を含むか否かを判定する。
【0012】
(4)前記燃料のガソリン濃度が0%の場合に、該燃料が所定濃度以上の水分を含むと判定する。
【0013】
(5)前記エンジンオイルのpHが4以下の場合に前記エンジンオイルが劣化したと判定する。
【0014】
(6)前記燃料種判定ステップは、前記エンジンの始動後毎におこなう。
【0015】
(7)前記pH測定ステップは、前記エンジンの停止後におこなう。
【0016】
上記課題を解決する本発明のエンジンオイルの劣化検出装置は、上述した本発明のエンジンオイルの劣化検出方法の何れかを用い、水分を含む燃料を使用するエンジンに用いられるエンジンオイルの劣化を検出する装置であって、
該燃料が所定濃度以上の水分を含むか否かを判定する燃料種判定手段と、
該燃料が所定濃度以上の水分を含む場合に、該エンジンオイルが所定量以上の水分を含むか否かを判定する混入水量判定手段と、
該エンジンオイルが所定量以上の水分を含む場合に、該エンジンオイルのpHを検知するpHメータと、
該pHメータで測定した該エンジンオイルのpHが所定値以下の場合に、該エンジンオイルが劣化したと判定する劣化判定手段と、
を備えることを特徴とする。
【0017】
本発明のエンジンオイルの劣化検出装置は、さらに、前記エンジンオイルが劣化した場合に、前記エンジンオイルが劣化したことを乗員に報知する報知手段を備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
上述したように、エンジンオイルは水分を含まない。このため、通常のpHメータをエンジンオイルに直接浸漬しても、エンジンオイルのpHを信頼性高く測定することはできない。燃料に水分が含まれている場合には、車両の走行時に気化した水がエンジンオイルに混入する可能性がある。しかし、ガソリンに含まれる水分はごく少量であるため、ガソリンを燃料として用いる場合には、エンジンオイルに混入する水分もまたごく少量である。したがってこの場合にも、通常のpHメータをエンジンオイルに直接浸漬しても、エンジンオイルのpHを信頼性高く測定することはできない。
【0019】
本発明の発明者らは、鋭意研究の結果、アルコール燃料等の水分を含む燃料を用いる場合には、通常のpHメータによってエンジンオイルのpHを測定できる場合があることを見出した。これは以下の理由による。
【0020】
アルコール燃料(例えばE100燃料、含水エタノール)に含まれる水分は、ガソリンに含まれる水分に比べて遙かに多い。このため、アルコール燃料を用いる場合にはエンジンオイルに比較的多くの水が混入する。エンジンオイルに混入した水(以下、混入水と略する)が所定量以上である場合には、エンジンオイルのpH(詳しくは混入水のpH、以下、単にエンジンオイルのpHと呼ぶ)をpHメータによって測定できる。そしてこの場合には、エンジンオイルに含まれる清浄分散剤が混入水に溶解してイオン状態で存在する。このため、エンジンオイルのpHを測定することで、エンジンオイルの劣化を信頼性高く検出できる。
【0021】
すなわち、本発明のエンジンオイルの劣化検出方法は、燃料に含まれる水分が所定濃度以上であり、かつ、エンジンオイルにおける混入水の量が所定量以上である場合に、通常のpHメータによるpH測定が可能である、と判定して、pHメータによってエンジンオイルのpHを測定する。そして、pHメータにより測定したpHが所定値以下である場合に、エンジンオイルが劣化した、と判定する。
【0022】
したがって、本発明のエンジンオイルの劣化検出方法は、通常のpHメータを使用でき、かつ、滴定等の煩雑な操作を必要としないためにエンジンオイルの劣化をリアルタイムで検出できる。
【0023】
本発明のエンジンオイルの劣化検出装置は、上述した本発明のエンジンオイルの劣化検出方法によってエンジンオイルの劣化を検出する装置である。このため、本発明のエンジンオイルの劣化検出装置は、本発明のエンジンオイルの劣化検出方法と同様に、通常のpHメータを使用でき、かつ、滴定等の煩雑な操作を必要としないためにエンジンオイルの劣化をリアルタイムで検出できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】実施例1の検出装置を模式的に表すブロック図である。
【図2】実施例1の検出方法を模式的に表すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明のエンジンオイルの劣化検出方法を単に本発明の検出方法と略し、本発明のエンジンオイルの劣化検出装置を単に本発明の検出装置と略する。
【0026】
本発明の検出方法における燃料種判定ステップにおいて、燃料が所定濃度以上の水分を含むか否かを判定する方法としては、燃料の水分(濃度)を検知する水分量センサを用いる方法や、給油時等に燃料の種類を手動で入力する燃料種入力手段を用いる方法が挙げられる。本発明の検出装置における燃料種判定手段の一部または全体としても、同様に、水分量センサや燃料種入力手段を用いることができる。
【0027】
水分量センサとしては、既知の水分量センサ(例えば、光学式のセンサ、静電容量式のセンサ、或いはその他のセンサ)を用いればよい。これらの水分量センサは、燃料タンクの内部や、燃料の輸送経路に配置すればよい。
【0028】
また、燃料種入力手段には、例えばユーザーや給油所の販売員などが燃料の種類を入力できる入力部を設けるのがよい。この場合には、燃料種入力手段に入力した燃料の種類に基づいて、燃料が所定濃度の以上の水分を含むか否かを判定できる。何れの場合にも、燃料種判定ステップでは、燃料が所定濃度以上の水分を含むか否かを判定できればよい。なお、後述するpH測定ステップにおいて通常のpHメータによってエンジンオイルのpHを精度高く測定するためには、燃料としてエタノール燃料(エタノール100%、E100燃料)を用いるのが好ましい。この場合、燃料に含まれる水分量は7質量%程度であり、エンジンオイルに混入する水の量が十分に多くなる。なお、燃料がエタノール燃料であるか否かは、燃料にガソリンが含まれるか否かで判定することもできる。参考までに、エタノール燃料の一種であるE100燃料は、含水エタノールからなる。E100燃料以外のエタノール燃料は、無水エタノールとガソリンとの混合物である。
【0029】
燃料種判定ステップは、エンジンの始動開始後、エンジンの動作中、エンジンの停止直後等、どのようなタイミングでおこなっても良い。また、何れの場合にも、エンジンの始動→停止を一つのサイクルとし、1サイクル毎に燃料種判定ステップをおこなうのが好ましい。この場合には、給油後など、燃料タンクに予め入っていた燃料の種類と新たに加えた燃料の種類とが異なる場合にも、燃料種判定の信頼性を高め得るためである。
【0030】
本発明の検出方法における混入水量判定ステップは、上述した燃料種判定ステップにおいて燃料が所定濃度以上の水分を含む、と判定された場合におこなう。本発明の検出方法における混入水量判定ステップにおいて、エンジンオイルが所定量以上の水分を含む(換言すると、エンジンオイルに所定量以上の水が混入している)か否かを判定する方法としては、エンジンオイルに含まれる水の量(液量、絶対量)を検知する方法と、エンジンオイル中の水濃度を検知する方法とが挙げられる。また、混入水量は直接的に検知しても良いし間接的に検知しても良い。例えば、エンジンオイルの液量を液量センサによって検知することで混入水の量(液量)を間接的に検知しても良い。または、エンジンオイルに含まれる水分(濃度)を水分量センサによって直接検知しても良い。本発明の検出装置における混入水量判定手段の一部または全体としても同様に、液量センサや、水分量センサを用いることができる。
【0031】
液量センサは、車両のオイルパン内部に配置するのが好ましい。液量センサで検知するエンジンオイルの液量は、オイルパンにおけるエンジンオイルの液位であっても良いが、オイル交換直後のオイルパンにおけるエンジンオイルの液位を基準値とし、基準値からの増加液位を検知するのが好ましい。また、車両の走行距離や走行時間を基に、車両の走行によるオイルの減少値を算出し、算出した減少値をもとに増加液位を補正するのがより好ましい。水分量センサは、エンジンオイルの循環経路に配置すればよい。水分量センサとしては、エンジンオイル中の水を気化させて水分量を測定するものや、エンジンオイルに超音波をあて、反射波に基づいてエンジンオイル中の水分(濃度)量を測定するもの等、種々のセンサを使用できる。何れの場合にも、混入水量判定ステップでは、混入水が所定量以上であるか否かを判定できれば良い。なお、ここでいう水分の所定量とは、混入水のpHをpHメータで測定するのに必要な水分の量であれば良く、例えば、オイルパンに取り付けられているpHメータの位置等に応じて適宜設定できる。
【0032】
混入水量判定ステップにおいて混入水の量を検知するタイミングは、エンジンの始動開始後、エンジンの動作中、エンジンの停止後等、どのようなタイミングであっても良いが、液量センサを用いる場合にはエンジンの停止後に混入水の量を検知するのが好ましい。エンジンオイルは、エンジンの動作中にはエンジン内を循環しているためである。また、水分量センサを用いる場合には、エンジンの始動開始後、または、エンジンの動作中に混入水の量を検知するのが好ましい。エンジン停止後にはエンジンオイルと混入水とが分離するが、エンジンの始動開始後、または、エンジンの動作中には混入水がエンジンオイル中に均一または略均一に分散するためである。
【0033】
本発明の検出方法におけるpH測定ステップは、上述した混入水量判定ステップにおいて混入水量が所定量以上である(エンジンオイルが所定量以上の水分を含む)、と判定された場合におこなう。
【0034】
pHメータとしては、通常のpHメータ、すなわち、水素イオン活量に対する指示電極と、参照電極と、を持ち2つの電極間の起電力を測定するものを利用できる。指示電極としては、ガラス電極を用いても良いし、例えばISFET(Ion Sensitive Field Effect Transistor)電極等のガラス電極以外の電極を用いても良い。
【0035】
pHメータはオイルパン内部に配置するのが好ましく、pH測定ステップはエンジンの停止後におこなうのが好ましい。エンジンオイルおよび混入水はエンジンの停止後にオイルパンに溜まり、エンジンオイルと混入水とに分離する。したがって、pHメータをオイルパン内部に配置し、pH測定ステップをエンジンの停止後におこなう場合には、分離した混入水のpHをpHメータで容易に測定できる。
【0036】
なお、pH測定ステップで測定したpHは、混入水量、給油前のエンジンオイルのpH、給油量、給油時からの経過時間、給油後の走行距離等に応じて補正しても良い。混入水量が多くなればなる程、混入水中の清浄分散剤濃度が小さくなるため、pH測定ステップで測定したpHは高くなるからである。
【0037】
本発明の検出方法における劣化判定ステップは、上述したpH測定ステップで測定したpH(実測値)と予め定めたpHの所定値(閾値)とを比較し、pHの実測値がpHの閾値以下である場合に、エンジンオイルが劣化したと判定する。劣化判定ステップは、劣化判定手段によりおこなう。劣化判定手段としては、ECU(Engine Control Unit)等の総合演算手段を用いても良いし、独自の演算手段を用いても良い。なお、上述した燃料用の水分量センサ、エンジンオイル用の水分量センサ、燃料種入力手段、液量センサをECUに接続しても良い。すなわち、燃料種判定手段および混入水量判定手段の一部としてECUを用いても良い。または、上述した各種のセンサおよび燃料種入力手段にそれぞれ独自の演算手段を接続しても良い。すなわち、燃料種判定手段および混入水量判定手段の一部としてそれぞれ独自の演算手段を設けても良い。何れの場合にも、劣化判定ステップでは、pHの実測値がpHの閾値以下であるか否かを判定できればよい。なお、ここでいうpHの所定値(pHの閾値)とは、エンジンオイル交換直後におけるpHの実測値よりも小さい値(酸性)であればよいが、エンジンオイルの耐久性、エンジンオイルの劣化によるエンジンの耐久性、エンジンオイル交換によるコスト等を考慮すると、4付近であるのがより好ましい。例えば、pHメータで測定したエンジンオイルのpHが5以下である場合にエンジンオイルが劣化したと判定するのが好ましく、pHが4以下である場合にエンジンオイルが劣化したと判定するのがより好ましい。エンジンオイルは、pH5以下の場合には使用可能ではあるが交換した方が良い程度に劣化し、pH4以下の場合にはなるべく早く交換した方が良い程度に劣化している。
【0038】
本発明の検出方法後に、エンジンオイルの劣化を乗員に報知するのが好ましい。すなわち、本発明の検出装置は、劣化判定ステップでエンジンオイルが劣化したと判定した場合に、エンジンオイルが劣化したことを乗員に報知する報知手段を備えるのが好ましい。報知手段としては、光によって報知するもの(警告ランプ)や、音によって報知するもの(警告音)等、種々のものを用いることができる。
【実施例】
【0039】
以下、本発明の検出方法および検出装置を具体的に説明する。
【0040】
(実施例1)
実施例1の検出装置を模式的に表すブロック図を図1に示す。実施例1の検出方法を模式的に表すフローチャートを図2に示す。
【0041】
図1に示すように、実施例1の検査装置は、水分量センサと、液量センサと、pHメータと、ECUと、警告ランプと、を持つ。水分量センサは本発明の検査装置における燃料種判定手段に相当し、液量センサは本発明の検査装置における混入水量判定手段に相当し、ECUは本発明の検査装置における劣化判定手段に相当し、警告ランプは本発明の検査装置における報知手段に相当する。実施例1における燃料はエタノール燃料(E100燃料)である。
【0042】
水分量センサは、燃料タンクの内部に配置され、燃料タンク内部に収容されている燃料の水分量(濃度)を検知する。液量センサはオイルパンの内部に配置され、オイルパン内部におけるエンジンオイルの液位を検知する。pHメータは、オイルパン内部のやや上側の位置に配置され、オイルパン内部におけるエンジンオイルのpHを測定する。警告ランプは車室内に配置されている。水分量センサ、液量センサ、pHメータおよび警告ランプは、ECUに電気的に接続されている。ECUは、イグニッションキースイッチに電気的に接続されている。
【0043】
実施例1の検出方法は、実施例1の検出装置を用いてエンジンオイルの劣化を検出する方法である。実施例1の検出方法は、燃料種判定ステップ(S1)と、混入水量判定ステップ(S2)と、pH測定ステップ(S3)と、劣化判定ステップ(S4)とを備える。実施例1の検出方法を以下に説明する。
【0044】
図2に示すように、先ず、イグニッションキースイッチをオン状態にすると、ECU、水分量センサ、液量センサおよびpHメータが起動する。水分量センサ、液量センサおよびpHメータは、それぞれ、水分量検知信号、液量検知信号、pH検知信号をECUに伝送開始する。
【0045】
次いで、エンジンを始動させると、ECUにエンジン始動信号が伝送され、ECUは燃料種判定ステップ(S1)を開始する。すなわち、ECUは水分量センサから伝送された水分量検知信号に基づいて、燃料の水分量(濃度)を演算する。そして演算した水分量に基づき、燃料が所定濃度以上(実施例1では約7質量%)の水分を含むか否かを判定する。
【0046】
燃料種判定ステップで燃料が所定濃度以上の水分を含むと判定されなかった場合(N)には、ECUはエンジンオイルの劣化判定を終了する。燃料種判定ステップ(S1)で燃料が所定濃度以上の水分を含むと判定された場合(Y)には、ECUは混入水判定ステップ(S2)を開始する。
【0047】
混入水判定ステップ(S2)において、ECUは液量センサから伝送された液量検知信号に基づいて、混入水の量が所定量以上であるか否かを判定する。詳しくは、実施例1においてはエンジンオイルの液位が所定の液位以上である場合に、混入水の量が所定量以上であると判定する。混入水の量が所定量以上でない場合(N)には、ECUはエンジンオイルの劣化判定を終了する。混入水の量が所定量以上である場合(Y)には、ECUはエンジン停止後にpH測定ステップ(S3)を開始する。
【0048】
エンジン停止後には、エンジンオイルおよび混入水の大部分がオイルパンに溜まる。そして、オイルパンに溜まったエンジンオイルと混入水とが分離する。混入水はエンジンオイルよりも比重が小さいために、オイルパンの上部に移動する。このため、このときpHメータは混入水のpHを測定する。
【0049】
pH測定ステップ(S3)において、ECUはpHメータから伝送されたpH検知信号に基づいて、エンジンオイルのpHを演算する。演算後、ECUは劣化判定ステップ(S4)を開始する。ECUは劣化判定ステップ(S4)において、pH測定ステップ(S3)で演算したpHと予め定めたpHの所定値(実施例1ではpH4)とを比較する。そして、pH測定ステップ(S3)で測定したエンジンオイルのpHが所定値を超える場合(N)には、エンジンオイルが劣化していないと判定し、エンジンオイルの劣化判定を終了する。エンジンオイルのpHが所定値以下の場合(Y)には、ECUはエンジンオイルが劣化したと判定し、次回エンジン始動時に警告ランプを点灯する。
【0050】
実施例1の検出方法および検出装置によると、燃料に所定濃度以上の水分が含まれ、かつ、エンジンオイルにおける混入水の量が所定量以上である場合に、pHメータによってエンジンオイルのpHを測定することで、通常のpHメータを使用でき、かつ、エンジンオイルの劣化をリアルタイムで検出できる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明のエンジンオイルの劣化検出方法は、水分を含む燃料を用いる車両におけるエンジンオイルの劣化を検出する方法として利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水分を含む燃料を使用するエンジンに用いられるエンジンオイルの劣化を検出する方法であって、
該燃料が所定濃度以上の水分を含むか否かを判定する燃料種判定ステップと、
該燃料が所定濃度以上の水分を含む場合に、該エンジンオイルが所定量以上の水分を含むか否かを判定する混入水量判定ステップと、
該エンジンオイルが所定量以上の水分を含む場合に、pHメータによって該エンジンオイルのpHを測定するpH測定ステップと、
該エンジンオイルのpHが所定値以下の場合に、該エンジンオイルが劣化したと判定する劣化判定ステップと、
を備えることを特徴とするエンジンオイルの劣化検出方法。
【請求項2】
前記燃料種判定ステップにおいて、水分量センサで検知した前記燃料の水分に基づいて、前記燃料が所定濃度以上の水分を含むか否かを判定する請求項1に記載のエンジンオイルの劣化検出方法。
【請求項3】
前記混入水量判定ステップにおいて、液量センサによって前記エンジンオイルの液量を検知し、検知した該エンジンオイルの液量を基に、前記エンジンオイルが所定量以上の水分を含むか否かを判定する請求項1または請求項2に記載のエンジンオイルの劣化検出方法。
【請求項4】
前記混入水量判定ステップにおいて、水分量センサによって前記エンジンオイルに含まれる水分を検知し、検知した該水分に基づいて前記エンジンオイルが所定量以上の水分を含むか否かを判定する請求項1または請求項2に記載のエンジンオイルの劣化検出方法。
【請求項5】
前記燃料のガソリン濃度が0%の場合に、該燃料が所定濃度以上の水分を含むと判定する請求項1〜請求項4の何れか一つに記載のエンジンオイルの劣化検出方法。
【請求項6】
前記エンジンオイルのpHが4以下の場合に前記エンジンオイルが劣化したと判定する請求項1〜請求項5の何れか一つに記載のエンジンオイルの劣化検出方法。
【請求項7】
前記燃料種判定ステップは、前記エンジンの始動後毎におこなう請求項1〜請求項6の何れか一つに記載のエンジンオイルの劣化検出方法。
【請求項8】
前記pH測定ステップは、前記エンジンの停止後におこなう請求項1〜請求項7の何れか一つに記載のエンジンオイルの劣化検出方法。
【請求項9】
請求項1〜請求項8の何れか一つに記載のエンジンオイルの劣化検出方法を用い、水分を含む燃料を使用するエンジンに用いられるエンジンオイルの劣化を検出する装置であって、
該燃料が所定濃度以上の水分を含むか否かを判定する燃料種判定手段と、
該燃料が所定濃度以上の水分を含む場合に、該エンジンオイルが所定量以上の水分を含むか否かを判定する混入水量判定手段と、
該エンジンオイルが所定量以上の水分を含む場合に、該エンジンオイルのpHを検知するpHメータと、
該pHメータで測定した該エンジンオイルのpHが所定値以下の場合に、該エンジンオイルが劣化したと判定する劣化判定手段と、
を備えることを特徴とするエンジンオイルの劣化検出装置。
【請求項10】
さらに、前記エンジンオイルが劣化した場合に、前記エンジンオイルが劣化したことを乗員に報知する報知手段を備える請求項9に記載のエンジンオイルの劣化検出装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−7505(P2011−7505A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−148533(P2009−148533)
【出願日】平成21年6月23日(2009.6.23)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】