説明

エンジン制御装置

【目的】車両用触媒の診断時における排気ガス成分中のNOx量を低減すること。
【構成】燃料噴射量計算手段11からの信号を、出力手段12を通して燃料噴射弁に送り燃料を噴射し、触媒上流の酸素濃度センサ信号から空燃比フィードバック計算手段13を通して、空燃比が常に理論空燃比付近で摂動するエンジンシステムにおいて、触媒の上流と下流に取り付けた酸素濃度センサの出力信号から触媒の劣化を判定する触媒診断手段14を設け、少なくとも排気ガス成分中のNOx量を低減する効果をもたらす点火時期計算手段15及びEGR量計算手段16を設ける。
【効果】車両用触媒の診断時における排気ガス成分中のNOx量を低減できる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、車両用触媒の劣化診断時における排気ガス成分のNOxを低減するエンジン制御装置に関する。
【0002】
【従来の技術】触媒の劣化診断をする方法として、触媒の上流と下流に取り付けた酸素濃度センサを使用する方法がある。これは触媒の上流と下流に取り付けた酸素濃度センサからの信号の類似性を診ることによって触媒の劣化診断をしようとするものである。しかし、単にこの方法では、触媒が劣化しても、触媒下流に取り付けた酸素濃度センサの信号がハイレベル(リッチ:空燃比が濃い状態)付近でしか摂動しないため、類似性が抽出できない。そのため、触媒下流に取り付けた酸素濃度センサの出力信号が触媒上流に取り付けた酸素濃度センサの出力信号と類似性がとれるレベルにシフトする最適な空燃比を燃料噴射量を制御して実現する。こうすることによって、触媒上流の酸素濃度センサ信号と触媒下流の酸素濃度センサ信号の類似性から触媒の劣化診断が可能になる。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】上記従来技術では、触媒診断時、空燃比をリーン側に移動させ、触媒診断を行う。しかし、空燃比をリーン側に移動させると、三元触媒の空燃比特性上、NOxの浄化率が低下する。そこで、本発明はこの触媒診断時のNOxの発生を低減することを課題とした。
【0004】
【課題を解決するための手段】上記触媒診断時のNOxの発生を点火時期及びEGR量を制御することによって低減させ、浄化率が低下してもNOxの排出量を少なくする。
【0005】
【作用】点火時期制御で、NOxの生成を抑制するためには、点火時期を遅らせる必要がある。これは点火時期の遅延に従って、燃焼ガス温度が低下するためである。また、EGR(排気ガス再循環:Exhaust Gas Recirculation)は混合気に空気中のN2に比べて熱容量の大きいCO2ガスを含む排気ガスを適度に混入すると、同じ発熱量の燃焼を行っても、排出ガスを混入しない場合に比べて燃焼温度が下がりNOxの生成を抑制できる。
【0006】上記より、触媒診断時に点火時期制御及びEGR制御を行い、NOxの生成を低減する。
【0007】
【実施例】図1に本発明の構成図を示す。まず、前提となる制御システムについて説明する。燃料噴射量計算手段11はエンジンの負荷(例として吸入空気量Qa)をセンサ17で検出し、この値とセンサ18で検出した回転数Neに基づいて下記の数1に従って基本噴射量F0を求める。
【0008】
【数1】


【0009】空燃比フィードバック計算手段13は触媒の上流に取り付けられた酸素濃度センサの出力を所定のタイミングでサンプリングし、その検出値に応じて補正信号αを発生する。
【0010】上記燃料噴射量計算手段11は基本噴射量F0 に補正信号αを加味し燃料噴射量Fを求める(数2)。そして、これを出力手段12で電圧ディーティ信号に変換して燃料噴射弁に印加する。
【0011】
【数2】


【0012】このような制御法により、触媒の上流では常に空燃比が理論空燃比付近で摂動している。
【0013】本実施例は上記制御システムにおいて、触媒前後に取り付けた酸素濃度センサ信号の類似度から触媒診断を行う方法を対象にしている。では、この触媒診断手段14を図2を用いて簡単に説明する。
【0014】この触媒診断手段14は触媒前後に取り付けた酸素濃度センサ信号の相関をとり、その類似性から劣化判定を行う。一般に触媒が劣化してくると前酸素濃度センサの信号と後酸素濃度センサの信号が類似してくる。しかし、図2に示した様に触媒が劣化しても触媒下流の酸素濃度センサの信号はリッチ付近でしか摂動せず、このような状態で相関をとっても類似性が高くならない。そこで、空燃比を故意にリーンに移動(以下リーンシフトと呼ぶ)させ、触媒下流の酸素濃度センサの信号を理論空燃比付近で摂動させる。こうして相関をとることによって、触媒劣化時の触媒上流の酸素濃度センサの信号と下流の酸素濃度センサの信号の類似性を高くとることができる。以上が本触媒診断方法であるが、ここである問題が出てくる。
【0015】それは空燃比を故意にリーンシフトするために、図3に示した三元触媒の空燃比特性上、NOxの浄化率が低下することである。そこで、本特許では上記触媒診断時のNOxの発生をおさえるために、点火時期制御及びEGR制御を行う。以下、この点火時期制御及びEGR制御方法について説明する。
【0016】まず点火時期制御であるが、点火時期とNOxの発生との関係を示すと図4になる。これは点火時期を遅らせるに従って、直線的に燃焼ガス温度が低下するためであり、点火時期を遅らせることによって、NOxの排出量をおさえることができる。ただし、点火時期を遅らせると燃料消費量が極端に悪くなるため、実際の触媒診断時にはリーンシフト量に比例した程度に点火時期を遅らせる。
【0017】次にEGR制御について説明する。これは混合気に空気中のN2 に比べて熱容量の大きいCO2 ガスを含む排気ガスを適度に混入すると、同じ発熱量の燃焼を行っても、排出ガスを混入しない場合に比べて燃焼温度が下がりNOxの生成を抑制できる。そのため、EGRをNOx低減方法として活用できる。よって、これを触媒診断時のリーンシフト量に比例してEGR量を制御することによって、NOxの生成を抑制する。
【0018】以上の処理を図5のフローチャートに示す。まず、診断条件が成立したかをステップ51で調べ、成立していれば、触媒下流の酸素濃度センサ信号が触媒上流の酸素濃度センサ信号と相関がとれるレベルになるまで、リーンシフトを行う。フローチャート中では、ステップ53をステップ52及びステップ55が満たされるまで行うことになる。その間、点火時期制御(ステップ54)も行われる。そして、ステップ56で触媒診断を行う。但し、相関がとれるレベルを0.3V〜0.7V としたことと、点火時期をリーンシフトの増分に比例させて補正したことは、この限りではない。なお、テーブル等を用いて、点火時期を補正することも可能である。
【0019】また、図6にEGR制御によってNOx量を低減する処理のフローチャートを示す。基本的には図5R>5と同じであるが、ステップ54の点火時期制御の替わりにステップ64のEGR制御が入る。なお、ここではリーンシフトの増分に比例させて補正したが、この限りではない。なお、テーブル等を用いて、EGR量を補正することも可能である。
【0020】図5と図6は個々に点火時期制御とEGR制御を行いNOx量を低減するが、これらを同時に行い、NOx量を低減することも可能である。
【0021】以上、述べたように触媒上流と下流に取り付けた酸素濃度センサの出力信号の類似性から、その触媒の劣化状態を診断する触媒診断方法において、触媒診断時に操作するリーンシフト量に比例して、点火時期及びEGR量を制御することにより、触媒診断時のNOx生成量を低減する。
【0022】なお、これまで述べたことは触媒下流の酸素濃度センサの出力信号がリッチ付近でしか摂動しない場合であり、逆にリーン付近でしか摂動しない場合は、空燃比をリッチシフトすることになる。この時には、排気ガス成分中のHCとCOの浄化率が図3から減少することになるので、HC量を減少させるためには図4より点火時期を遅らせることになる。またCOについては、COの排出特性が空燃比によって一義的に決まってくる。
【0023】以上より、触媒下流の酸素濃度センサの出力信号がリーン付近でしか摂動しない場合は、リッチシフトさせると共に点火時期補正をかけて、触媒診断時のHC量を低減する。
【0024】
【発明の効果】以上より、車両用触媒を走行中に診断する際に、排気ガス成分中のNOx量を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の制御システムの概要図である。
【図2】リーンシフトの効果を示す図である。
【図3】三元触媒の空燃比特性図である。
【図4】点火時期によるNO排出特性とHC排出特性を示す図である。
【図5】点火時期補正時の触媒診断フローチャートである。
【図6】EGR量補正時の触媒診断フローチャートである。
【符号の説明】
11…燃料噴射量計算手段、12…出力手段、13…空燃比フィードバック計算手段、14…触媒診断手段、15…点火時期計算手段、16…EGR量計算手段、17…吸入空気量検出センサ、18…回転数検出センサ、21…触媒上流酸素濃度センサ、22…触媒下流酸素濃度センサ、23…触媒上流酸素濃度センサの出力信号、24…触媒下流酸素濃度センサの出力信号(リーンシフトなし)、25…触媒下流酸素濃度センサの出力信号(リーンシフトあり)、26…触媒、51,61…触媒診断条件の判定、52,62…触媒下流の酸素濃度センサの出力信号が0.7V より大きいかどうかの判定、53,63…空燃比シフト(リーン側へのシフト)、54…点火時期制御、55,65…触媒下流の酸素濃度センサの出力信号が0.3V より小さいかどうかの判定、56,66…触媒診断、64…EGR制御。

【特許請求の範囲】
【請求項1】内燃機関の排気浄化手段が性能劣化を起こしているかどうかを判定する手段及び、最適な空燃比制御手段と、該空燃比制御手段に対応して、空燃比制御以外の内燃機関の制御要素を制御する手段とを有することを特徴とするエンジン制御装置。
【請求項2】排気浄化手段としての触媒の性能劣化を検出する手段として、触媒の上流および下流に設置した排気状態検出手段の出力を使用し、かつ空燃比制御手段として、触媒上流に設置された排気状態検出手段により検出された排気状態を、所定の状態となるように空燃比を制御し、かつ該空燃比制御に対応して、点火時期制御を行うことを特徴とする請求項1記載のエンジン制御装置。
【請求項3】排気浄化手段としての触媒の性能劣化を検出する手段として、触媒の上流および下流に設置した排気状態検出手段の出力を使用し、かつ空燃比制御手段として、触媒上流に設置された排気状態検出手段により検出された排気状態を、所定の状態となるように空燃比を制御し、かつ該空燃比制御に対応して、EGR制御を行うことを特徴とする請求項1記載のエンジン制御装置。
【請求項4】排気浄化手段としての触媒の性能劣化を検出する手段において、性能劣化を検出する際に、排気ガス成分のNOxが増大することを、点火時期制御によって抑制することを特徴とする請求項2記載のエンジン制御装置。
【請求項5】排気浄化手段としての触媒の性能劣化を検出する手段において、性能劣化を検出する際に、排気ガス成分のNOxが増大することを、EGR制御によって抑制することを特徴とする請求項3記載のエンジン制御装置。
【請求項6】排気浄化手段としての触媒の性能劣化を検出する手段において、性能劣化を検出する際に、排気ガス成分のNOxが増大することを、点火時期制御及びEGR制御によって抑制することを特徴とする請求項4又は請求項5記載のエンジン制御装置。

【図2】
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【図3】
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【図1】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開平7−77145
【公開日】平成7年(1995)3月20日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平5−173958
【出願日】平成5年(1993)7月14日
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)